魔道戦屍 リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 第十六話 「再会」


 部隊長である八神はやてとライトニング隊長・副隊長の二名が行方不明となり、部隊の後見人にして隊長陣へのリミッター解除権限を持つ教会騎士カリムといった要人まで失って機動六課は部隊としての機能を半ば失った。
 だがミッド、ひいては管理局全体への危険分子であるレジアス・ゲイズを野放しに出来ぬ以上は、投入可能な戦力を無駄に眠らせる訳にもいかないのが現状。
 現場への部隊指揮は部隊長補佐であり部隊の性格を良く知るグリフィス・ロウランに一任できたが、実戦経験の豊富な高官がいない事はかなり致命的である。
 そこで駆り出されたのが、なのは達の戦闘力とその戦略的性格を熟知しているクロノ・ハラオウンだった。
 こうして機動六課はクラウディアの一戦力として行動を共にする事となる。
 二人ばかりのオマケを付けて。


「あぁ~、暇だ」


 男は目の前のテーブルに盛大に足を乗っけてそう呟いた。
 ここはクラウディア艦内の食堂、甚だしく行儀の悪い彼の素行に周りのクルーは眉をひそめる。
 だが注意しようという人間は一人としていなかった。
 男はあまりに異形だったから。
 ぼさぼさの白髪に顔には両目を覆う形の奇妙な眼帯を付けた異様な風貌、身に付けたコートはあちこちがツギハギだらけでぼろぼろだった。
 そして極めつけはコートのみならず、縫合の痕が残るツギハギだらけの身体、正に異形と呼んで差し支えない風体である。
 彼の名は屍十二、先の地上本部襲撃事件においてギンガを救った死人兵士を名乗る男。


「そう言うなよジュージ、花がある分お前との二人旅よりかはマシだろ?」

「お生憎だなRB、俺にゃあその花は“見え”ねえ」

「そうだったな、そりゃあ残念だ」


 ツギハギの男と軽い口調で話すのもまた、彼に劣らぬ異形の男だった。
 真っ赤なライダースーツの上下を身に纏い、顔には陽気そうな笑みを宿し、金髪を妙にツンツンしたリーゼントヘアにしている。
 そしてなにより肩に掛けたエレキギターが特徴的な、自称“幽霊”の男、ロケットビリー・レッドキャデラック、通称RB。
 二人の奇妙な男、片や死人、片や幽霊、あまりにも常識破りな存在。
 こんな者達に声をかける者などクラウディアの中にはそうそういない。
 まあごく一部を除いてだが……


「あっ! 十二さん、そんなお行儀の悪い事しちゃ駄目ですよ!」


 テーブルの上に足を乗せてくつろいでいた十二にそんな声をかけたのは、桃色の髪を揺らし幼い竜を従えた小さな女の子。
 二人の奇妙な男と古い付き合いを持つ召喚師、キャロ・ル・ルシエである。
 キャロは腰に手を当てて、まるで親が子供を叱るように十二の素行を注意した。
 本人はやさぐれた身内に対して真剣に接しているのだが、それは彼女の幼い外見と相まって随分と可愛らしいものだった。
 傍から見れば微笑ましい以外の何物でもない。
 十二は少女の言葉に仕方なさそうに足を下ろす。


「ったく、しばらく見ねえうちに生意気になりやがって」

「むう~、生意気なんかじゃないです。十二さんのお行儀が悪いのがいけないんですからね?」

「ハハ、キャロには形無しだなジュージ?」

「うっせえ」


 ツンケンした答えを返す十二だが、その言葉には真に相手を嫌うようなものは少しも込められてはいない。
 口の悪い十二に彼をからかうビリーそしてキャロ、六課の前に配属されていた自然保護隊よりもさらに前、懐かしい面子の懐かしいやり取りだった。
 三人はまるであの頃に戻ったような錯覚すら感じる。
 だがかつての日々と違うところもある、それは二人と別れた年月で少女が培った人間関係だった。
 キャロの所属する機動六課の同僚は正にその一例であろう。


「あ、キャロ、それと確か……」


 声をかけたのは短く切りそろえられた美しい青い髪を揺らした少女、機動六課スターズ分隊に所属する彼女の同僚、スバル・ナカジマ。
 スバルの両隣には、同じく六課フォワードに所属する二人の少年と少女ティアナとエリオも立っていた。
 恐らく一人で食堂に向かったキャロを探しにでも来たのだろうか、フォワードの三人は連れ立って十二達の前に姿を現した。
 最初に声をかけたスバルだったが、十二やビリーの名前がすぐに思い出せなかったのか僅かに口ごもる。
 その間を煩わしく思ったのか、十二は機嫌悪そうに口を開いた。


「十二だ、屍十二」

「あ、えっと……すいません屍さん……」


 十二の険を込めた言葉に、スバルは飼い主に叱られた子犬のようにシュンと頭を垂れる。
 そんな彼女に、十二の隣りにいた女好きの幽霊はすかさず声をかけた。


「おっと、気にしないでくれよお嬢さん、こいつの機嫌の悪さは今に始まった事じゃぁないんだ」

「うっせえぞRB」

「ほらな? ああ、俺の事は気軽にビリーって呼んでくれ、可愛らしいレディ」

「いえそんな……可愛いだなんて」


 ビリーのあからさまな位の褒め言葉に、素直な少女は恥ずかしそうにでも嬉しそうに頬をほんのりと赤く染めた。
 軽いお世辞で顔を染めるあまりに初心なスバルの反応にやや呆れたような顔をしつつ、隣にいたティアナが口を開いた。


「スバル、用件忘れて無い?」

「え? ああ、そうだったね」


 彼女の言葉を受け、スバルはポンと手を叩いて本来の目的を思い出した。
 そしてもう一度屍に向き直ると、眼帯で覆われた彼の顔を見つめながら口を開いた。


「えっと……今後の作戦についてミーティングがあるので、屍さん達も呼びに来たんです」

「そうか、そんじゃ行くとするかRB」

「ああ、麗しいレディの誘いとあらばどこへでもな♪」


 そうして向かった先はクラウディア内部に設けられたミーティングルーム、たっぷりと広さを確保されたそこには既に何十人ものクルーが待機していた。
 無論その中にはなのはやヴィータといった六課メンバーの顔も見受けられる。
 十二とビリーが足を踏み入れれば、自然と集まっていたクルーから好奇の視線が投げかけられるが二人は特に気にも留めない。この程度は慣れたものだ。
 ちょうどそんな時だった、提督服を着た黒髪の青年が現れたのは。
 彼の姿を認めるや集まったクルーは起立して敬礼する。


「急な召集すまないが早速本題に入らせてもらう」


 クラウディア艦長、クロノ・ハラオウンは挨拶もそこそこに即座に話を切り出した。
 ミーティングルームに設けられた巨大モニターが光を灯し、ある映像が現れる。
 それは破壊し尽くされたどこかの地下施設、そしてある違法な科学者の哀れな末路だった。


「この映像は昨日未明、本局捜査官の手により発見されたスカリエッティの基地だ」


 彼の言葉にクルーの間にどよめきが起こる。
 ジェイル・スカリエッティ、様々な違法研究により指名手配されている科学者、そして今回の地上本部襲撃事件に深く関わっているとされる人物だ。
 その男の施設が発見された。これは事件の大きな進展である、クルーの間に衝撃が走るのも止むを得ない。
 クロノは動揺の走るクルーを尻目にそのまま説明を続けた。


「施設は発見された時点で大規模な襲撃を受けており、内部からはスカリエッティ及び戦闘機人一人の遺体が発見された。
痕跡から彼らが地上本部を襲撃した者達、レジアス・ゲイズの一味が有する戦力と交戦した事が見て取れる。
我々の今後の調査活動は、レジアス・ゲイズそして残りの戦闘機人への追跡となった」




 地下施設脱出時にエバーグリーンの銃撃で傷を負ったセインとセッテだが、腹部に銃弾を受けたセインの経過は順調そのものだった。
 戦闘機人は生命維持及びその保護の為に、頭部と胴体の設計はそれなりに頑強さを追及している。
 さらに幸運にも、ナンバーズが脱出した先の施設には人工臓器パーツの交換ユニットが存在していた為、彼女の回復は実に早かった。
 具体的に言えば、姉妹とバカ話をする程度には、だ。


「ちょ、それマジ?」

「マジもマジ、大マジっすよ。そりゃあもう、見事な“はいア~ン♪”だったっす」

「良いなぁ、グレイヴにご飯食べさせてもらうなんて……」


 施設の一角に宛がわれた部屋で、セインと彼女の看病に付き添っていたウェンディは姉妹の話で盛り上がっていた。
 話題は七番のセッテがグレイヴにされていた看病の事である。


「あたしだって怪我したんだからグレイヴに看病して欲しいなぁ~」

「いや、もう全然元気じゃないっすか。セイン」

「ええ~? 全然元気ないよ? 全然重症だよ?」

「いやいや、バリバリ元気じゃないっすか。さっきだって一人で保存食山盛り食ってたじゃないっすか。
ついでに傷口とか余裕で塞がってるじゃないっすか」

「ああ、そこはほら、薄幸ヒロインって感じで一つ」

「セインがヒロインならあたしは大宇宙アイドルっす」

「ああ、んじゃウェンディが大宇宙ヒロインならあたしは超時空姫君~」

「む、ならあたしは」


 なんかもう、放っておいたら永遠に続きそうなバカ話を延々と繰り返すセインとウェンディだが、その愉快な会話は唐突に中断させられた。
 甲高い、窓ガラスの割れた音が響き渡る。
 キラキラと中空を砕け散った硝子の破片が舞踏の如く軌跡を描き、そしてその中心には大きな黒き影あった。
 背に十字を刻まれたスーツ、片目部分を黒塗りにされた眼鏡、見慣れた顔立ち。
 胸に銀髪の少女を抱いた死人兵士がウェンディとセインの元へ派手な入室を行った。
 当然の事だが、唐突かつ破天荒な彼の登場に二人が大いに驚く事となったのは言うまでもない。


「うひゃああぁっ!! グレイヴ!?」

「なになにっ!? 噂を聞きつけてあたしにダイナミックな看病をっ!?」


 素っ頓狂な声を上げてびっくりするのんきな二人。
 そして二人の緯線は彼の腕に抱かれた銀髪の少女に移る。


「ちょ! なんでチンク姉抱っこされてんの!?」

「こりゃあ新手のプレイっすか? いや、意味はよく分からないんっすけど」

「バカなこと言ってる場合か! 敵襲だっ!!」


 銀髪隻眼の少女、五番の姉チンクは相変わらずバカな事を言っている妹に裂帛の気合を込めて怒鳴った。
 彼女の美しい金色の瞳が外を向けば、そこには彼女とグレイヴを追って来た不可視の猟犬の気配。
 死人兵士の脚力で以って行われた跳躍でも撒けなかった狗の群れは確実に彼らを捕捉していた。
 永い、本当に永い時の中戦闘に身を浸したグレイヴは直感的に感じた。
 ピリピリと、肌を震わせるように空気が泡立つ。
 可動年数の少ないウェンディとセインも、闘争の色が平穏を塗り潰していくのが分かる。
 だが二人の顔に浮かんだのは不安でも焦燥でもなく、不敵な笑みだった。


「あちゃあ、もう敵さん到着っすか?」

「まあ、いつか来るとは思ってたけどねぇ。案外早かったね」


 敵の気配が、激闘の予感がすぐ近くまで迫っているというのに二人はまたのんきに笑い合っていた。
 戦闘を前に少女が朗らかに不敵に笑う、異質で異常。
 だがそれは彼女らにとって普通な事だろう。
 彼女達はナンバーズは戦闘機人だ、闘争を前に高揚こそすれ怯えなどない。
 それになにより、こちらには頼りになる兄貴分がいるのだから。


「よし、じゃあいっちょ遊んでやるっすよグレイヴ」

「頼りにしてるからね~♪」


 にい、と悪戯っぽく二人はグレイヴに笑顔を見せた。
 それは彼に全幅の信頼を寄せている証の、親愛を込めた温かい表情。
 張り詰めていた空気が、僅かに穏やかさを帯びた。
 妹達の様子に、小さな姉は溜息混じりに苦言を呟く。


「おいお前たち。敵がどれだけの規模か分からんのだぞ? 気を抜いていると……」

「何言ってるんっすかチンク姉、こっちにゃ頼もしい姉ちゃんと兄ちゃんがいるじゃないっすか」

「そうそう、絶対負けないよ」


 姉の言葉を遮って、二人はそんな事を言った。
 真っ直ぐに純粋に、少しに疑いもなく言い切った。
 本当にこの子達は、なんて笑顔で自分を見るのだろうか。
 チンクは妹二人が自身に向ける屈託のない顔に、苦笑を浮かべる。


「やれやれ、随分と姉を信頼してくれるじゃないか……よし! 早く他の皆にも連絡しろ! 今すぐこの施設を離脱するっ!」


 そうだ、自分は今この場にいる姉妹の長女なのだ。
 この命に代えても妹達を守り導かねばならない、弱気になるなど言語道断である。
 どんな敵が相手だろうと関係ない、あるのは必勝の二文字のみ。
 小さな姉は自分の傍に寄り添うように立っていた死人兵士へと視線を向ける。
 きっと自分と彼は同じ目をしていたのだろう。
 互いに強い決意を、同じ想いを抱いているとすぐに分かった。


「行くぞグレイヴ。この子達を……守り抜こう」

「……」


 黙って頷き、死人は言葉ではなくその力強い瞳で答えた。




 ヴェロッサ・アコースの希少技能(レアスキル)無限の猟犬がスカリエッティの戦闘機人達の隠れ家を発見してより30分足らず。
 クラウディア武装局員と機動六課の面々が包囲するには十分すぎる時間だった。
 デバイスを構えた数十人の武装局員が、機動六課のエースとストライカー達が、突入の機会を待って虎視眈々と狙いを付けている。
 空気に緊張感が満ち、闘争が始まる前兆なのかピリピリと肌を刺す。
 武装局員の一人が額に冷や汗を流しながらゴクリと音を立てて唾を飲めば、その音がやたらと耳に響いて余計に緊張を煽った。
 静寂。
 時折風に揺られて木の葉がざわめく以外、場をただ静寂だけが支配する。
 だがしかし、嵐の前の静けさとは良く言ったものだ。
 静寂に彩られた空間が騒乱に変化するのは一瞬だった。
 まず最初に生じた変化は魔力結合阻害フィールド、AMFの略称で知られる魔道師殺しの空間が広がる。
 そして次に起こったのは爆裂の散華、美しい炎と破壊の芸術だった。


「いい~やっほう~!! オラオラ~、ウェンディ様のお通りっすよぉ~♪」


 正面玄関を爆破して、ガジェットを引き連れた少女が固有武装ライディングボードを駆って躍り出る。
 炎の海の上を駆け抜ける様は、さながら熟練のサーファーのよう。
 その顔に浮かんだ屈託のない笑顔も相まって、ここが戦いの場だという事を忘れてしまいそうにすらなる。
 だがそれも一瞬、次なる刹那には少女、ナンバーズ11番ウェンディの放った砲火を以って戦闘のゴングが鳴った。
 ウェンディは自身の武装ライディングボードを巧みに操り、高速・俊敏にして不規則かつ捕捉困難な軌道を描き飛行しながら先端部砲門から強烈な砲撃を慣行する。


「よ~し、このまま全員ぶっちめてやるっすよ~!」

『おい、ウェンディ。任務を忘れてないだろうな?』

「分かってるっすよ~、陽動っすよね」


 ウェンディは自身を狙って射出された幾つもの魔力弾、直射型・誘導型を織り交ぜたそれを高速で回避しながら、姉からの通信に答えた。
 飛び交う魔力弾の嵐が頬の真横を飛んでは髪を僅かに掬い、ライディングボードを掠めて焦げ痕を作る。
 だが少女は少しも臆する事無く、朗らかな笑顔で姉と交信した。


「こっちにゃ強くておっかない兄ちゃんもいるっすからね~、まあしばらく派手に暴れてるっすよ」


 弾雨を掻い潜りながらちらりと視線を向けた先に彼はいた。
 背中に十字架の模様を刻まれた黒色のスーツを身に纏い、手に凄まじく巨大な二丁銃を握り締め、二の腕から鎖で繋いだ鋼鉄の棺桶を背負った男。
 かつて死神とあだ名された死人兵士、最強の死者、ビヨンド・ザ・グレイヴ。
 作戦はそう難しくない。
 ウェンディとグレイヴ、そして残存するガジェットを用いて正面から打って出て陽動を行い。
 負傷者を含めた残りの面子は後方から撤退するというものだ。
 ナンバーズ側最大の戦力であるグレイヴと共に戦うウェンディには不安も恐怖もない。
 少女のその顔には不敵な笑みが浮かび、敵はその逆に顔を青ざめる。
 グレイヴの死したるその身に気配などないのだろうが、その姿を認めた武装局員は一様に驚愕と恐怖を顔に浮かべた。
 既に管理局側に知られた彼の戦闘力が脳裏に浮かびに怖気が走る。
 そして死人の手にした破壊の火力が、その咆哮を上げるのにそう時間はかからなかった。


「クソッ! あの化物か……ここは一旦引いて」


 武装隊員が言い切る前に死人は行動。
 グレイヴは背負った棺桶を脇に構え、ミサイルランチャー、“Death Blow”を発射する。
 武器を満載した棺桶、デスホーラーの砲門から発射されたミサイルが推進剤の噴射で空気中に白い軌跡を残して加速。
 目標となった武装局員に向かって襲い掛かる。
 それは命中すれば大いに効果的な破壊をもたらしたのだろう、雷光により遮られなければの話だが。
 ミサイルの弾頭が命中するより速く、蒼き稲妻がギターのストリングが弾かれる音色と共に輝きそれに命中した。
 閃光の後、耳をつんざく爆音が鳴り響きミサイルが炸裂して巨大な炎の花を飾る。
 自身の攻撃を防がれ、死人がその隻眼を見開いた刹那、二つの影が宙を躍った。
 ツギハギだらけの白コート翻した者と、青い電撃を纏ったギターを持つ赤いライダースーツ者。
 二人の男がグレイヴ目掛けて駆けた。
 瞬間的に敵を知覚した死人は、両手に握った巨大質量、鋼鉄の身体を持つ二匹の番犬を敵に向ける。
 だがケルベロスの銃口から口径15mmの鋼の牙が吐き出されるより速く、敵の得物が銃身と接触した。
 一方は血塗られたように赤い刀身を持つ刃、もう一方は青い電撃を纏ったエレキギター。
 その二つが眼にも止まらぬ高速で翻り、ケルベロスと中空で重なる。
 耳が、その奥の鼓膜までが引き裂かれるような凄まじい金属音。
 地獄の番犬が敵の侵攻を食い止め、激しい火花を散らして凄絶な芸術とも呼べる狂想曲を奏でる。
 そんな中、敵対者の男、白いボロコートを纏った男の声が静かに響いた。


「この銃の質量……そして一切の気配のないこの身体……てめぇ、ちゃんと生きていやがったか」


 懐かしいような、そんな言葉を男は吐いた。
 そして見えぬ両目を眼帯で塞いだ顔を上げ、口元に不敵である種自虐的な笑みを浮かべる。


「いや、我ながらバカな事言ったな、もともと俺たちゃ……死人だ」


 ツギハギだらけのコートに同じくツギハギだらけの顔に眼帯を装着した顔。
 屍十二。
 忘れるはずもない、彼はかつてグレイヴが共に戦った仲間の一人だった。
 そしてもう一人の男もまた同じく。


「久しぶりだな、グレイヴの旦那」


 赤いライダースーツに派手なリーゼントヘアの金髪、凄まじい攻撃力を持つエレキギター、そしてなにより生を持たぬ証として透けている両足。
 ロケットビリー・レッドキャデラック。
 十二とビリー、己が隻眼に映るその姿に死人は一瞬敵意を忘れるほどの懐かしさを感じた。
 彼らと共に戦った日々、忘れようとて忘れられるものではない。
 戦友との再会。
 本来ならば笑顔で迎えられ筈のもの。
 だが哀しき運命の悪戯に惑わされた三人のそれは、武器を手にした戦場でのものだった。


 続く。

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最終更新:2009年07月28日 09:35