「赤ちゃんができました!」

そう言って玄関で光太郎を迎えたキャロの腹は、服の上からでも分かるほど膨れていた。
夢かと思い、自分の顔面を殴打してみた。痛かった。
だらだらと血が垂れたが、気にするほど心に余裕はなかった。


「あの、コウタロウさん?」

玄関に立ち尽くしたまま物言わぬ光太郎に、キャロは一抹の不安を覚えた。
四月一日―――エイプリルフール。一年に一度、嘘が許される日。
ちょっとした悪戯心で、服の中にフリードを詰めてみたキャロだったが。

「……どいつだ?」
「え?」
「どこのどいつだー! うちのキャロを傷物にしたのはー!」

拳を握り固め、光太郎は絶叫した。まるで火山の噴火だ。
どうやら、ついた嘘が悪過ぎたらしい。苦笑して流してくれるものと思っていのに……どうやらそれでは済みそうになかった。

「コウタロウさん嘘です! 今日はエイプリルフールですよ!? ほら!」
「キュフ~…」
「うおおおおおおおっ!」

服の中からフリードが顔を出しても、暴走した光太郎の目には入らない。
怒りに満ちた瞳は、今にも火を吹かんばかりだった。
しばらくじたばたと手足を動かしていた光太郎だったが、瞬転。がしりとキャロの肩を強く掴む。

「きゃっ! コ、コウタロウさん!?」
「安心するんだキャロ! この俺がその外道に責任を取らしてやるから! 殺してでも!」

胸元のフリードが見えない訳ではないだろうに、しかし光太郎は真剣そのものだった。このままでは、街角ごとに殺人を犯しかねない。
こんな時、どうすればいいか。考えた末に、キャロは非常手段を取ることにした。

「フリード、ご飯」
「キュウ!」
「ここか!? ここいだだだだだだっ!」

キャロの指令で、フリードがクッションをひっくり返していた光太郎の頭に噛みついた。生半可な麻酔では止まらない彼の、一番の鎮静剤だった。
……前後の記憶が飛ぶという欠点はあるものの。

「私……まだお赤飯食べてないんですからね」

倒れた光太郎の頭に包帯を巻きながら、キャロは頬を赤らめたのだった。

終わり。

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最終更新:2008年11月14日 19:21