その日部屋に来たのは、あの男だけじゃなかった。
鎧の代わりにローブを纏った、若い男だ。
その後ろには、小柄なリザードンが立っている。
……一体何をする気なんだ? まさか、そのリザードンで、私を……
「何期待してんだよ。何だ、また犯されたいのか? そっちのほうがいいならそう」
「そんなわけないだろうがッ!」
そう吼えると、男はカラカラと笑った。
「残念ながら、コイツからは何もしねえよ。……まあいっか。どうせ後で解るし。じゃ、始めてくれ」
ローブの男が、前に出た。
懐から何かを取り出し、尾の炎で火をつけた。どうやら、香らしい。
「酷い事はしないよ。私は彼みたいに、暴力的な手段を好む性質じゃないからね」
……いまいち信用できないが……武器らしい武器も持っていないし、筋力もそんなになさそうだ。
少なくとも、格闘では負けることはないだろう。
それにしても、妙な香りだ。リーン様がつけていた香りに少し似ているが、それでも根本的なところで何かが違う気がする。
「リザードン、ちょっと尻尾の火を借りるよ。……さあ、この火を見て。じいっと」
見ろと言われても、熱くて目を開けていられない。
でも、おかしい。目が閉じない。炎から、目を離せない。
「ゆっくり、深呼吸して。そう……いい子だ。偉い子だね。主の躾がいいのかな?」
主……アーロン様……?
息を吸い込むと、香りがすうっと、身体の中にしみこんできた。
頭の中が、熱と匂いで、ぼうっとしてくる。何だか、意識が……

「そう、息を吸って、吐いて……目が疲れてきたね。じゃあ、閉じようか」
今度は、目を閉じることが出来た。……少し、楽になった。
「ほら、楽になった。もっと楽になろうか……全身の力を抜いて、そう……」
力を抜く……楽になる……言葉どおり、今までの疲れが、すうっと抜けていく。
「ほら、楽になって……だんだん、眠くなってくる。10数えると、完全に意識は眠りに落ちる。
でも、私の声は聞こえたままだよ。さあ、10、9、8……」
……眠い……眠ってる、場合じゃ……ないのに……

後から思えば、この時私は完全に、あの男の術にかかってしまっていたのだ。
それを知覚できないほど、深く、心の奥底まで。

(さあ……何が見える?)

気づくと目の前は、オルドラン城だった。……帰って、きたのか?
思わず、辺りを見回す。静かだ。敵の気配はない。

(君がいた城だね。……どこか気になるところは?)

……ある。アーロン様の部屋だ。何故か、そう思った。
アーロン様は、そこにいる、と。

(さあ、ドアを開けて。そこに君の、望んでいる人がいる)

「ッ……アーロン……様……!」
いた。本当に……いた。アーロン様だ。
私は思わず、その身体に抱きついていた。
暖かい。鼓動を感じる。……生きている。アーロン様だ。本当に、アーロン様は、生きて……
……しまった。飛びついてしまった。
「も、申し訳ございません、アーロン様。嬉しくて、つい……」
アーロン様は静かに首を振って……私の頭を撫でてくださった。
ああ……アーロン様だ。本当に、アーロン様が……いる。

(そう……それが君の、望んでいる人なんだね。じゃあ……こういうのは、どうかな?)


いつのまにか、夜になっていた。
部屋の中を照らすのは、大きなランプの明かりだけだ。
その明かりの中、アーロン様は……一糸纏わぬ姿だった。
白い肌に、無駄のない筋肉。そして……性器。何故か、胸が高鳴った。
――欲しい。思わず、唾を飲み込む。
欲しい。アーロン様が、欲しい。アーロン様のアレが欲しい。
身体の奥から熱が生まれる。どくどくと心の臓が脈打つ。
――舐めてみたい。味わいたい。奉仕したい。突き上げてもらいたい。交尾、したい。
私は欲情していた。アーロン様の姿に。どうしようもないほどに、欲情してしまっていた。
私自身も、触れられてもいないのに飛び出し、先走りで濡れている。

(さあ、言うんだ。……君の望みを)

「アーロン様、私を……私を犯してください」


そうだ。それが――私の望みだ。
「欲情するはしたない私を、どうか犯してください。アーロン様のものが、欲しいんです。
もう、駄目、なんです。身体が、熱くて……どうか、どうか――」
アーロン様は微笑んで……そっと、私にマントをかけた。
二人で、一つのマントに入る。
静かに、アーロン様の口が動いた。……そうすれば、犯してもらえるんですか……?
ああ、犯してもらえなくても、そんな事をしただけで、もう……!

「……どうか、この卑しい雌狗のケツマンコに、貴方のチンポをぶち込んでください。貴方のマンコ狗になります。
貴方が望むなら、誰とでもヤります。淫乱な肉奴隷になります。
ですから、どうか……」

「私を、犯してください」

アーロン様はただ微笑んで……チンポを指差した。
「今から……貴方のチンポにご奉仕いたします」
跪いて、チンポを口にくわえる。熱い。舌が熱でとろけそうだ。
大きいので全部くわえられないのが悔しい。そのかわり根本に舌を這わせ、吸い付く。
今度はてっぺんからくわえ、先を舌で突く。溢れて来た先走りが嬉しくて、舐め取って飲み込む。……美味しい。
奉仕するにつれ、ますます大きく、固くなっていく。感じて……いる。
じゅぽじゅぽと音を立てて吸い付きながら、私は肛門に指を入れた。
そして、慣らすようにゆっくり広げる。突っ込んで掻き回すと、そこがかあっと熱くなる。
自分のチンポも震えて、ぽたぽた先走りを垂らしているのが解った。
イきそうになったが、イってはいけない。ご主人様がイくまで、イってはいけない。それが命令だからだ。

やがて口の中でチンポがどくんと脈打ち、そして。
「――ッ!」
熱湯のような精液が、流れこんできた。
喉が焼けるが、頭が焼けるか。考える間に、全て飲み干すことにした。
濃い味と臭いは、それだけで私を酔わす媚薬だった。

私はゆっくり、その身体に跨がった。……やっと、貰える。
「それでは……見て、下さい……卑しいマンコ狗がよがる様を……!」
しゃがみ込んだ瞬間、頭の中でなにかが弾けた。はしたないチンポは、それだけでイッてしまったらしい。
でも、もう、止められない。
「お、奥に、当たってます! ああっ、ケ、ケツマンコが、ケツマンコイッちゃいますッ!!」
腕を掴まれ、突き上げられる。鉤爪みたいな痛みすら愛おしい。
もっと淫らになるんだ、なって喜んでもらうんだ。
「熱いッ、チンポが、チンポが熱いんですッ! ケツマンコ犯されてイッちゃうんですーッ!!」

(いい子だね、とっても素直で、イイ子だ。だから……目を覚まさせてあげる)

(次君がイくと、君は目を覚ます……快感は、そのままにね)

「やッ、い、イきますッ! またイッちゃいますッ! ああああッ!」


気がつくと、そこは牢獄だった。……え?
そんな、嘘だ、私は、オルドラン城で、ご主人様と――
――違う。ご主人様じゃ、ない? これは……

「……リザードン……?」

「やっぱマンコ狗だ、てめえ。会って間もない、ろくに話しもしてねえリザードンとマンコするか? 普通」
「しかも、完全に彼から誘ってたよね。犯して下さい、って」
男達が嘲笑う。……そんな、そんな……
「嘘だッ!」
「いや、嘘じゃねえよ。なあ?」
「はい。痴女みたいに誘ってましたよ。先走り垂らしながら」
「だって、私は、オルドラン城で!」
「何、師匠とヤッてたって? ……やっぱマンコ狗じゃねえか」
「弁論不能ですよ。誰とでもヤりたがるんですね。……淫乱」
わ、私は……わたしは……
「まあいいか……動いてやれよ、リザードン。ヤりたくてヤりたくてたまんねえマンコ狗の為になあ!」

貫かれた。痛みが熱から快感へ変わる。リザードンは私の腕を掴んで、腰を振り始めた。
だ、駄目だ。またイッたら、私は、私は――
瞬間、直腸で熱が弾けた。
「イッ……ッ!!」
頭の中が、真っ白になるほどの絶頂が、来た。

その後の事は、よく覚えていない。
ただ、壊れそうになるほど程まぐわったことや、その快感は、生々しく覚えている。
……あれは、催眠術の幻だ。幻に私は、アーロン様を見た。
だが、アーロン様との交わりを望んだのは……催眠術の幻、だったのだろうか。

……駄目だ……何も、もう……考え、られな……



「はーい、よい子で淫売なワンちゃんこんにちはー」
……また、あの男が来た。今日は縄を手に持っている。
一体何を、と思った瞬間、両手を後ろで縛られた。
「……ッ!? やめろ、何す」
「別に? ただちょっとやさしーく気持ちよくしてやろうと思って」
男の手が、無造作に私の股間に伸びる。
「馬鹿ッそこは」
「別に今更チンポくらいどーでもいいだろ? それにてめえがマンコ狗だってことは知ってるし」
ごつごつした指が、下半身をすっとなぞった。
それだけで甘い疼きが生まれ、腰が自然に跳ねる。
「ははっ、ほうら……やっぱり」
男はひときわ意地悪に笑うと、更に強く、そこを擦り始めた。
「ぁ……あッ、あ……」
性器に血が集まる。自然と体外に出たことを、自覚してしまう。
「勃ってきたな。こんだけの刺激で勃起するとか……本当に淫乱だな。てめえは」
男は露出した性器を握ると、ゆっくりと扱き始めた。
くちゅくちゅと濡れた音がする。それが何の音なのか、考えたくもなかった。
「もう我慢汁垂らしてんのか?」
「……違う」
「嘘つくな……よ!」
「ッ!?」
爪を立てられた瞬間、またあの電撃みたいな快感が走った。
駄目、だ、目の前が、白く……

「ほい、終わり」

…………え? 今、何て? ……おわり?

「おう、終わりだ。じゃーな」
待、せめて縄を……! そういう前に、戸は閉められた。
後には、縛られた私だけが残った。
……身体の奥が、もやもやする。ちりちりする。
せき止められた欲が、溢れ出しそうだった。
僅かな風も、性器を撫で回す手のようだった。
だが、それだけで…………そこに至れない。
自慰……なんて、行儀の悪いことだ。だが今は、自慰でもいいから楽になりたかった。
だが、手が使えない。縄を解こうにも、複雑な縛り方のせいで解けない。
……触りたい。扱きたい。抜きたい。――イきたい。

「……どうした? 続きをしてもらいたいのか? そんな目しやがって」

!? ……見られて、いた!?

「続きしてもらいたいんだったら、俺はいつでもするけど?
ていうか、されたいんだろ? 気持ちいいことしてもらうしか脳にねえマンコ狗だからな、てめえは」
「まあ、何言ってもてめえの身体はすんげえ正直だからな。
強がらなくてもいいんだぜ? 求めるままに堕ちちまえよ……」
また戸が開き、男が甲冑を鳴らしながら入ってきた。
「や、だ……」
「ヤダ? イイ、じゃねえのかよ。もっと触ってください、イかせてください! ……だろ?」
男はそういいながら、また私の性器を摩った。
それだけでもう、びりびりと身体中が痺れる。イきそうになる。
ああ、イかせてくれるのか。早くイかせてくれ。イかせてください――
……ッ! また、手が、止まった……!
「ぁ……あぁ……」
「イきたいんだろ? ……じゃあ、口に出して言ってみろよ。ええ?」
言えば……言えば、イかせてくれるのか?
だが、それは、自分が……自分が、そういう存在だと、認めることになる。
違う、私は、私は、そんなのじゃ、
「なんならもっかい寸止め行ってみるか?」
「だ、駄目だッ!」
……駄目? 駄目……駄目、だ。それは、駄目、なんだ。
イきたいのに、イけなくて、苦しくて、もう――

「……か、せて……」
「あん?」
「イ、かせて……くれ……」
「頼み方ってもんがあるだろ? 頼み方はさんざ教えたよなあ?
さあ、もっと大声で言ってみろよ。外に響くくらいでかい声で。さあッ!!」

「イ、イかせてください! イくことしか考えてないこのマンコ狗をイかせてくださいッ!!」
「……本当にイきたいか?」 
私は頷く。
「じゃあ、さっきと同じ言葉、あと10回言えよ……そうしたら、考えてやる」
10回……さっきの言葉を10回!?
それで、イけるのか。それでイけるなら……!
「イかせてください! イくことしか考えてないこのマンコ狗をイかせてくださいッ!!
イかせてください! イくことしか考えてないこのマンコ狗をイかせてくださいッ!!
イかせて――」

そうして、私は10回繰り返した。
男は一層嬉しそうに口元を歪め、縄を解いた。
「解った。さあ、思う様自分でチンポ弄って善がって狂えよ。この卑しいマンコ狗め」
マンコ狗……ああ、そうだ。私にはその名が相応しい。そこまで堕ちてしまった。
気がついたときにはもう、私の両手はチンポを握っていた。
動かすたびにずちゅずちゅと音を立て、先走りを噴出す。
「どんな調子だ?」
「あ、熱い、ですッ、チンポ、熱くて……もッ、もう……!」
手が、止まらない。気持ちいい。熱い。熱くて、溢れ出る……ッ!
「イ、きます! イきますーッ!!」

びゅくびゅくと精液が溢れ出す。黒い手先を白く染めていく。
その色を見送って……私は、倒れた。




「お前にいい知らせがあるぜ、狗。
最近は言うこと聞くようになってきたし、糞は便所でしていいことにする」
一瞬、耳を疑った。
今更……そんなことを言うなんて。何か、裏があるとしか思えない。
だがそんな目で見ると、男は鼻を鳴らして、
「じゃあ今まで通り、ここで桶に臭い糞垂れ流せよ。別にいいんだぜ?」
……その羞恥や苦痛から、開放されるなら……
「……何処なんだ、そこは」
「隣。目隠ししねえけど余計なところ見たら……わかってんだろうな?」
大体は、解る。ここは大人しくしておいたほうがよさそうだ。

久しぶりに、目隠し無しで外に出る。
気づかれない程度に辺りを見回したが、ここが突き当たり一歩手前の部屋ということしか解らなかった。
辺りは薄暗く、湿っぽい。黴も生えているように見える。
前に外に連れ出されたときは、ここを通ったのか。
「おら、早くしろよ」
男に小突かれ、突き当りの部屋……便所に入る。
やはりそこも薄暗く、じっとりとした空気が気持ち悪い。
足元もところどころに、澱んだ緑色の水溜りが出来ている。
ちゃんと掃除をしているのだろうか。こういう所だからこそ綺麗にしなければならないと思うんだが。
「ココ使ってねえからな。てめえ専用の便所だ。遠慮なく糞やションベンや垂れ流せ。
ああ、使いたいときは見張り呼べよ」
清潔でないとはいえ、きちんとした場所で排泄できるのはありがたかった。

最も、そんなうまい話があるわけがないことに、私も早く気づくべきだったのだが……


その夜。不意に催し、私は目が覚めた。
便所に行きたいということを見張りに伝え、隣に向かう。
用を済ませ個室から出ると……私は一瞬目を疑った。
あの男を含め、4人の男達が、そこに仁王立ちしていたからだ。
一体なんだ、と思った瞬間。
「はーいワンちゃーん、ちゃんと出来まちたかぁー?」
男は行き成り私の肩を掴むと、一番奥の個室に押し込んだ。
中には奇妙な形の便器があった。
それは一見、唯の立小便用の陶器の便器だったが、何故か何かを固定するような帯や鍵がついている。
一体何故、と思った瞬間。
「……解ってんだろ? どういうことか」
突然、どんっ、と肩を押される。
頭をぶつけて悶絶している間に、私の身体は便器に固定されてしまった。
…………って、これは、一体!?
「言っただろ? てめえ専用の便所だって。……特別製だよ。
そうさなあ……てめえが、専用の便器になるんだ」
私が、専用の……便器に……?
突然男の一人が、下半身を露出させた。
目をそむけようとしたが、出来ない。完全に固定されてしまっている。
こんな状況で、人間の性器を見ることに……ッ!?
「おら、口開けろよ」
いつもの男が、無理やり私の口を開けさせた。
「……ッ!?」
そこに……私の口内に、生暖かい、何かが……零れてきた。
考えたくもないことだが、それは……目の前に立っている男の……
「ほらほら、しっかり飲めよー?」
鼻や口を無理やり押さえられ、私はめまいを感じながら……飲み込んでしまった。
「おー、飲んだ飲んだ。心配すんな、飲尿って身体にいいってどっかで聞いたことあるし」
……じゃあ、お前が飲め。
次の瞬間、男が私の顎を掴んだ。骨がギシギシと嫌な音を立てる。……痛い。
「何反抗的な目してんだコラ。お前が飲めみたいな顔してんじゃねえよ。
……ほら、ションベンした後は綺麗にするんだよ!」
こじ開けられた口の中に、男の性器が入ってくる。
綺麗に……口で……口でしろというのか!?
「……何? 今更抵抗するわけ? 自分からリザードンのチンポ咥えて善がってたくせに。
イくまで扱いて精液直飲みしたくせに何マトモぶってんだよ。ああ? 聞いてんのかマンコ狗!」
……そうだ、私は……たとえ夢を見ていたとしても、奉仕したのだ。自らの意思で……
口の中に、精液の臭いと味が染みてきた。それを、美味しそうだと感じてしまう自分に気づく。
私は、もう……壊れてしまったのだろうか? 言葉一つで瓦解するほどに……

意識と身体が、本能と理性が剥離する。そうしたほうが、楽だというように。

男の性器を舐める。尿だけでなく、精液の味や臭いがしてきた。
臭い。臭くて、苦くて、しょっぱくて……でもそれが、狗の私には、何よりも美味だった。
それに奉仕をすれば、もっと待遇がよくなる気がする。
……いや、それだけではない。喜んでくれる。喜んでくれれば、こちらも嬉しい。
だから私は熱心に舌を動かした。てっぺんから根元まで咥えて、ゆっくりと吸い上げる。
喉の奥に精液が流れてきたが、それも飲み込む。吐き出さないように、全て。
「素直になったじゃねえか……よし、他の奴も頼むぜ」
ああ……まだ、こんなにいるのか。今日は、たんぱく質に困りそうにないな……
そんなことを考えながら、私は二杯目の尿を飲み干した。

そんな私を、「私」はどこか遠いところから見ているような思いだった。
「私」は……何だ。アーロン様の弟子? それとも、あの男がいうような、卑しい奴隷?
解らない。「私」には、解らない。
一体いつここから出られる? いや、そもそも出ることを望んでいる?
ここで暮らしたい? ここで公爵様の奴隷として閨の相手をしたい?
そうすれば、もっと気持ちいいかもしれない。もっと気持ちいい事が出来るかもしれない。
何も考えず肉欲に浸る日々はどうだ。
だがアーロン様はどうする? 放っておくのか? 見捨てるのか?
それに、リーン様は……どうなってしまわれたのだ。私が動かなければ、誰が動く?
解らない。解らない解らない解らない解らない解らない――




「……で、どうなんだ。その後は」
公爵は足を組み、ワインを傾けながら部下に問いかけた。
「なかなか面白そうだったし、はやく遊びたいんだが」
「はい。今なお調教中です。躾係からの報告によると、大分此方に傾いてはきていますが、まだ調教が足りない、と」
「ふむ」
侍女にワインのお代わりを頼み、公爵は立ち上がった。
「じゃあ、この音は」
「はい。今朝から鞭打ちによる調教を始めた、と聞いております」
鞭を振るう音、肉を打つ音は、公爵のいる大広間まで響いていた。
「性的快感に目覚めるまですると言っていました」
「なるほど。……しかし鞭打ちか。本当にそれで感じたら面白いな。後で私も混じるか」
しかし部下は首を振った。
「その前に仕事してください、公爵様。ここのところ遊びが過ぎてます」
「ははは、適わないな全く」
その後も彼らは、穏やかな、しかし内容は物騒な話を続けていた。
侵略がどうとか、捕虜がどうとか。
最もその話はこの場においてあまり関係ないので、割愛。

「狗の事は解った。……アイツはどうしてるんだ?」
「アイツ、と申しますと……ああ、あの男ですか」
手元の資料をめくりながら、部下は告げる。
「あの男にも拷問、および調教を施しましたが、効果は殆どありません。精神力はかなりのもののようです」
「……そうか」
最後のワインを飲み干すと、公爵は再び立ち上がり、窓へと向かった。
「いかがいたしましょう、公爵様。いっそ……」
部下の問いに、静かに答える。
「まだ生かしておけ。……狗を落とすのに使える」
「どのように利用するおつもりで?」
「…………」
にいっ、と口元を歪める公爵。
ぞくりと背筋を冷たいものが走る。その目には、酷くゆがんだ欲望を宿していた。

静かになった大広間には、狗の甘い鳴き声だけが、遠く響き渡っていた。

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最終更新:2011年06月25日 17:10