397 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:10:19 ID:N08g9tZO
「やっぱ無茶だったか」
 すっかり暗くなった空を見上げ、俺は溜息をついた。


 覡駿光。俺の名前だ。
 ちなみに、苗字の方は〔かんなぎ〕って読むんだが、男の‘みこ’ってどうかと思わないか?

 そんなアホらしい事を考えている俺ももう大学生だ。
 ずっと同じ場所に留まっているのがイヤで、大学は上京する事をメインに考え、勉強していたと言っても過言じゃない。現に夏休みに入ってからアフリカに一人旅に来てるくらいだしな。
 こっちに着いてからは、有名都市に行ってみたり、ピラミッドなんぞに行ってみたり、ずっと北の方にいた。
 んで、南の方にも行ってみるかと恣意した結果がコレだ。

 確か昼頃に森に入ったと思ったから、6,7時間程度か?流石にもう疲れたぞ……。
 どっかで野宿でもと思い、それに適した場所を探し歩いていると、暗闇の中に開けた場所が見えた。
 気持ち早めに歩を進めると、そこには湖が広がっている。そして、水面に月が浮かんで……いや、何か他のものまで浮かんでいるような……?
 それ…いや、そいつは空色の髪の少女だった。おまけに何故か裸だ。
 うーん、暗くてよく見えない……って、何目をこらしてるんだ、俺は……。
 俺がしばらく見惚れていると、その少女は目的を果たしたのか、満足気に微笑みながら水面から上がり、森の奥に消えていった。

 気付かれてないよな?いや、本当に綺麗な肌だった…って何考えt(ry
 というか、一体何だったんだ?
 あれこれと黙考してみる。が、判るはずもなく、ただただ少女の裸体を想像するだけで、話にならない。。
 俺は気を取り直して、湖で手を洗い、夕飯の準備を始めた。




「―――――(みーつけた♪)」
398 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:13:20 ID:N08g9tZO
「―――――」
ん?もう朝か?
「―――――!」
 もうちょい寝かせろよ……。
「―――――!!」
いてっ。何かがおでこに当たった。
「もう何だよ……」
俺は渋々、重い瞼を上げた。視界が黒から白に変わっていく……。
俺の眼前にいたのは、昨日の空色の髪の少女だった。身にはクリーム色の布をまとっている。
「うわっ」
当然ながら驚いた俺は、即座に後退りしようとした。しかし、木を背に寝ていたのを忘れていた為、頭を軽くぶつけてしまった。
そんな俺を少女がまじまじと見つめてくる。俺も見返してみた。
14,5歳ぐらいだろうか。何処か幼さが残っている。そして、その白瓷の顔には、何かの民族なのだろうか、赤や緑のフェースペイントが描かれていた。
体型の方はやや高めの身長と相俟ってスレンダーで、胸も中学生にしては……(ゴホゴホ
俺はそんな事を考えていて、少女の顔が眼前に迫っている事に気が付かなかった。
 互いの吐息を感じる距離。おまけに、彼女の柔らかい双丘が当たっている。
少女が頬をより一層赤く染め、瞼を閉じる。そして、俺も目を閉じ……

パチン!

「痛っ」
デコピンされた。
少女は、腰まで伸びた髪を振るわせて、腹を抱えて笑っている。
騙された。もしかしてさっきの寝起きのもか?おい、m9(^д^)ってするなよ。
くーきゅるきゅるきゅる……
ん?
少女の顔がみるみるうちに赤くなっている。腹の音だな。m9(^д^)し返してやったよ。
「ちょっと待ってろ、何か食うものを…」
野暮な事に、通じるはずもない日本語で話してしまった。
次はちゃんと現地の言葉でおはようと言ってみたが通じてないみたいで、少女は首を傾げるばかりだ。
どうしようかな、などと考えていると、少女が自分を指差しながら、
「tete」
「テテ?それがお前の名前か?」
また通じない日本語で話してしまった。それでも少女は頻りに自分を指差しながら、
「tete」
やっぱりテテが名前みたいだな。俺も自分を指差し、
「かんなぎとしみつ」
「kannagi…toshimitsu……?」
「そ、かんなぎとしみつ」
「kannagitoshimitsu…toshimitsu……toshi!」
「トシ?」
「toshi~」
まぁ、それでいいか。昔そういうあだ名で呼ばれていたこともあったし。
「tete」
「toshi~」
「tete~」
「toshi~♪」
 しばらくそのまま呼び合っていた。何か和んだ。

399 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:16:13 ID:N08g9tZO
俺はリュックの中から、密かに持ってきたプリッツを取り出し、箱を開け、テテに一本手渡した。
 テテは、それを見て数瞬訝しむ素振りをしたが、結局は口に入れ、嚥下した。
「どうだ?」
もう日本語がどうだのどうでもいいや。取り敢えず聞いてみた。
「―――――♪」
美味しそうに返答(?)し、俺に向かって手を差し出した。
もっとくれって言ってるみたいだな。
俺はそれに従い、テテにプリッツを手渡した。
テテはさっきより幾分か早い動作でそれを飲み下す。

そんな動作が何回か続き、残り数本となったところで、テテがプリッツを咥えながらその先端を指差している。
何だ?まさか俺に逆側から喰えと?
頷いてやがる。って、何お前は人の心を読んでんだ。たまたま頷いただけか?
これじゃあポッキーゲームならぬプリッツゲームじゃないか。けしからん。実にけしからん。
俺は迷わずプリッツの先を口に銜み、目を閉じた。

パチン!

 ああ、何で俺は一回で学ばなかったんだろうな。再びデコピンされてしまったよ。あははは……。
けど、さっきより若干威力が小さかったのは気のせいではないよな?

結局プリッツは全部なくなってしまった。最後にテテが俺に一本くれたのが少し嬉しかった。
俺にプリッツを食べさせ満足気な顔をしたテテは、突然俺の手を取り、湖の向こう側を指差す。指差す方向には…森しかない。
「森しかないじゃないか」
テテが、何か懇願するように上目遣いで俺を見つめてくる。俺はその視線に庇護欲を抱かずにいられなかった。
「俺と行きたい場所があるのか?」
 テテがコクンと頷く。こりゃ完全に心読まれてるな。

荷物やその他雑用を片付け、俺はテテの手を取る。
「連れていってくれ」
テテは俺を確かめるように一度正視し、そして、その足を踏み出した。
400 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:19:02 ID:N08g9tZO
歩き出してから1時間、俺たちは洞窟らしきものの前に立っていた。中から色々と異様な雰囲気がするのは気のせいだろうか。
テテがこっちを向き、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。少しばかり目が潤んでいる気がする。
「大丈夫」
そう言って、テテに先導するよう促すと、テテは決心したかのように俺の手を強く握り、洞窟の中へ足を踏み入れた。

 中に入ってから数分経っただろうか、
ゴゴゴゴゴ……
何か音がする。
 しかし、テテは全く意に介さず、そのまま進んでいく。一体何の音だ?
ゴゴゴゴゴゴ……
段々音が大きくなっている気がするのだが。テテの肩を叩いても無頓着で相変わらずだ。何かが起こるんじゃないか?
……ドォン!
思わず後ろを振り替える。
 そこには、巨大な大岩が俺たちに向かって転がってきていた。距離にして約20メーターぐらい。
ちょ、流石にヤバいんじゃないですか、テテさん…って何で笑ってるんですか?後ろから大岩が転がって来ているんですよ?
「―――――♪」
クラ○シュバンディクーのゆき○まゴロゴロみたい…って、向こうは残機あるけど、こっちはこの身一つなんだから笑ってる場合じゃないですって!
「a...」
ほら、コケた…って、ヤバッ!
俺の方をちらちら見ながら走っていたテテは、何もないところで足を滑らせてしまった。
彼女を助ける為に俺も止まる。が、どうすればいい?周りに危険を回避する場所なんかな…あった。
俺はテテを両手で抱き上げ、地を蹴る。
文字通りの間一髪だった。大岩の方はそのまま転がっていき、しばらくして、
ドーン!
と、何かにぶつかったような音がした。
「大丈夫か」
テテの顔を覗き込む。彼女は俺に顔向けならないのか、真っ赤になった目を背けた。
「ま、気にするな」
そう言ってテテの頭を撫でる。そうしてやると、テテは満面の笑みを見せた。可愛いなぁ、もう。
しかし、この後はどうするんだ?やっぱりこのまま洞窟の奥へと進むんだろうか。
 今みたいな事があった以上、この後も色々な危険が訪れるかもしれない。勿論、今以上のだってないとはいえないわけで…。
しかし、俺の考えとは逆に、テテは立ち上がり、俺を連れていこうとする。怪我とかはないのか?
「―――――♪」
読んでいる。絶対にこいつは俺の心を読んでいる。
 でもいいか、怪我がないなら。
401 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:22:38 ID:N08g9tZO
結局、俺たちは掠り傷もなかった。不幸中の幸いって奴だ。
 岩が転がっていった方の様子を見に行ってみたのだが、岩が壁にめり込んでいた。もし押し潰されたら重傷どころじゃないな…。
そしてテテは今、何もなかったかのように俺の手を引いているのだが……。
いつまでこの状況が続くのだろうか?
 というか、彼女は何を目指してこんな薄暗い洞窟の中を進んでいるのか。その求めるものに価値はあるのだろうか。大体、何故俺を連れて…
そんな俺の思考は、テテが脇腹をつついた事によって遮断された。
「何?」
少しばかりテテに疑心が生じていたのだが、それが吹っ飛んだ。
なんと、俺たちの数歩前には地面がなかった。試しに覗き込んでみるが、漆黒の闇が広がっているだけ。
思わずテテを見る。流石にこれは恐いようで、膝が笑っている。当然だ。俺もそうなっているからな。
ドドドドドド…
今度は何の音だ?
 後ろを振り返ってみても、今まで来た道が続いているだけだった。ただ、また岩とかではなさそうだな。

 しかし、俺はすぐにその行動を後悔する。
 確かに後ろを確認するのも大事だった。背中は人間にとって盲点だからな。でも、それで別の盲点が生まれてしまっては意味がない。
 何が言いたいのかって?


テテが、俺を漆黒の闇が支配する穴の中へと、突き落としたのだ。
402 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:25:48 ID:N08g9tZO
凄まじい落下感。身体が闇に飲み込まれていく。俺の人生短かったな…
ザッバーン!
え?水??
どうやら俺は水の中に落ちたみたいだ。身体の節々が叩きつけられ、痛む。いくらなんでも骨は折れていないと思うが…。
水面に浮かび上がった俺は、岸に向かって泳ぎ、陸に上がった。
ドドドドドド……
さっきの音がより大きくなって聞こえる。
 辺りを見回すと、大きな滝があり、森の中のほどではないが、広い湖があった。
洞窟の中にこんな場所があるとは。おまけに何かクリスタルみたいに光っている石もある。綺麗な空色だ。そう、空色…。そういやテテは?
ザバーン!
湖の中に何か…テテが落ちてきた。彼女はしばらくして水面から顔を出し、こちらに向かって泳いできた。
 突き落とされていて当然の反応かもしれないが、思わず後退ってしまう。
陸に上がったテテは俺の方に歩いてくる。そして、肩を掴み、背伸びし、目を閉じ、キスした。
へ?何で??
しかも水を口移しで飲ませてくる。俺は思わずそれを飲み込んでしまった。
『ふう、やっと話せるね』
「……へ?日本語??」
『あ、やっぱり驚いてる?じゃあ、一から話そうか』
403 名前: enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6 [sage] 投稿日: 2007/11/08(木) 00:30:53 ID:N08g9tZO
テテの話によると、この湖の水はあの滝の更に上流から流れて来たもので、とても神聖な水だという。巫女であるテテがそれに力を上乗せして、言葉を通じるようにさせたらしい。
「それじゃあ、ここまでの道中で俺の心を読んだっぽかったのは何なんだ?」
『ああ、あれ?あれは、確かに力も使ったんだけど、いろんな距離が近くなったから、自然と頭の中に入ってくるようなものなんだよ』
「いろんなって…」
『本当に距離が近くなって良かったね。二回もはめられてるんだもん。あれは面白かったよ~』
「ちょwおまww」
『あ、あといきなり突き落としちゃってごめんね。こうやってコミュニケーション出来ないとどうしようもなかったから』
 何で一緒に飛び込まなかったんだ?
『だってすごい恐かったんだもん。許して♪』
「あのなぁ…。まあそれは置いといて、何でこんな場所に連れてきたんだ?」
『実は私たちの民族のしきたりで、15歳になった巫女は満月の夜に男性と結ばれなきゃいけないってのがあって…』
ちょっと待って、テテさん。今貴女結ばれるとか言いませんでした?
『その為には相手が必要でしょ?それで、昨日湖で月光浴して力を溜めていて君を見つけたから、今朝小手調べしてみたわけ』
 ああ、アレは調査だったのか。道理で都合がいいと思ったよ。
『そしたら見事にはまってくれたし……まぁ私的にもカッコよかったからよかったんだけど…』
「ん?何か言ったか?」
『ううん。それで、しきたりには試練が必要って事で、さっきの岩もそうだったみたいだけど、この洞窟の中にはいろんな罠があるらしいよ。詳しくは知らないけど』
「じゃあ、何ですか。この先も危険があるっていう事?」
『そういうことになるね~。そういえば、長がラストは凄く強いから気を付けろって言ってたよ?』
長さん……。強いって事は生き物とか何かとでも言うんですか…?
「じゃあ、罠を乗り越えたらどうするのさ?」
『そりゃあ、洞窟なだけに偕老同穴じゃない?』
は、ははは、笑えんな、それ。

429 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:21:36 ID:R0yBDR1d
 あのシュールな告白を聞いた後、俺たちは湖を起って、洞窟の奥へと進んでいった。
 さっきからずっと並んで灯されている松明をぼんやりと眺めながら、俺は思ったことを口にしようと、テテに問い掛けた。
「……なあ、テテ」
『ん、なあに?』
「あのさ、見知らぬ俺と一緒になる事に抵抗はないわけ?それも未来永劫」
 俺の言葉を聞いたテテは、少し考える素振りをしてから、
『しょうがないよ。それがしきたりだし。それに、トシは優しいし、さっきも助けてくれたじゃん』
「そ、そうか?」
『そうだよっ。早く先に進もっ!』
 テテがこっちを向いてにっこりと頬笑む。俺の手をしっかりと握りながら。

 しばらくすると、松明の明かりではなく、明らかに蛍光灯のそれが、先から見えてくる。俺はテテと顔を見合わせ、先を急いだ。すると、
「ヤッホー!遅いから待ちくたびれちゃったよぉ」
「誰だ?」
 突然の声に、俺は身構える。前方に得体の知れない奴がいる。
「そんな警戒するなよぉ。オレの名前はケリー。ここの番人をやってるようなもんだ」
『番人?』
「そうだよかわい娘ちゃーん」
 ケリーと名乗ったソイツは、驚くべき速さでテテの前まで来て……胸を揉みやがった!!
『キャッ!』
 咄嗟にテテが腕で胸を覆う。その端整な顔は、朱に染まっていた。
「何しやがる!」
 …羨ましい。
「かっかしないかっかしない。別に減るもんじゃないし」
『減る!アンタに揉まれたら確実に減る!!』
 あれ?テテさん、言葉遣いが……
「あら、嫌われちゃったみたい?」
 ケリーはお道化た顔をしてみせ、
「話を元に戻すか。君たちにはそこのエレベーターから下りて、下の迷路に挑戦してもらう。制限時間は30分。この時計が一周するまでに、再びエレベーターに乗り込めばOKだ。遅れたら……そうだねぇ。その娘にたっぷりお仕置きしちゃおうか!」
『ヒッ!』
 最後の一文を聞き、テテが自分の体を抱き締めるようにする。テテの目線は睨むようにしてケリーを見つめていた。テテにお仕置き……いいかm
『トシ、顔がにやついてる』
 何時の間にこっちを見ていたのか、思いっきり軽蔑の眼差しを向けられた。
「な、なぁっ。再びってのは何なんだ?」
 誤魔化すように、言葉を吐き出す。テテの視線が物凄く恐ろしい。
「あぁ。この迷路は四隅にチェックポイントがあって、そこに四分の一ずつ地図がある。それを持ってきて、真ん中のエレベーターに乗らなきゃダメだ」
 なるほど。
「時間としてはギリギリか?」
 聞いとかないと、後が怖いからな。色んな意味で。
「ちょっとは走らないとダメだが、キツいタイムではないはずさ」
 なら大丈夫か。
 テテが、ほーっと安堵の溜め息を洩らす。
「じゃあ、早速始めてもらうよ。エレベーターに乗って」
 ケリーが、エレベーター横のボタンを押す。すると、ぷしゅーっと扉が開いた。俺たちが乗り込むと、
「エレベーターのドアが下で開いた瞬間にこの時計が動きだす。それでは精々頑張ってね~」
 扉が閉まる瞬間、ケリーがテテに向かってウインクした。何だかなあ。
『トシ、わざと遅れたら許さないからね!?』
 顔が怖い。流石に般若までとはいかないが。
 俺はゆっくりと下がっていくエレベーターの中で、生涯女の子を怒らせてはいけないと、心に強く誓った。
430 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:25:14 ID:R0yBDR1d
 エレベーターの扉が開く。テテが一目散に駆け出す。俺もそれに続いた。
 ここは壁と足元にほんのり明るいライトがあって、壁は高く、ベルリンの壁くらいあった。写真でしか見た事ないけど。
 テテが立ち止まった。道が二手に分かれている。左と右だ。
『どっちにする?』
「どちらかはテテが決めていいよ。ただ、何か目印でも置いておこう」
 俺はリュックの中からさっきのプリッツを取り出し、箱を広げ、角をちぎる。そして、切れ端を分岐の真ん中に置いた。
「これでいっかな。さあ、どっちにする?」
『左っ』
 テテは威勢よく、声を張り上げた。

 何回か行き詰まったが、プリッツによる地味な作業により、一つ目の隅に辿り着いた。
 地面に地図が置かれている。俺がそれを拾いあげるや否や、
「残り25分~。いいペースだよー。オレにとっては残念だけどねぇ」
 何処かから放送が入り、洞窟内に響く。明らかにケリーの声だ。
『アイツ……』
 テテが自然と呟いた。もうテリーに対するテテのイメージは最低だな。
 逆に俺はイメージを崩さないようにしとかないと。例え生きて還れてもその後が波乱では意味がない。
「まあまあテテ。時間は放っておいても過ぎてくし、先に進むぞ」
『うん…』
 俺が歩きながらそう諭すと、テテは大人しくなった。なんかこの先心配だな……。
 とりあえずここの隣の隅(エレベーターを下りた方向から見ると南西か?)を目指さないと。地図に載っている境目まではヒントがあるのだから。俺が地図とにらめっこしていると、
『キャッ』
 突然、テテが俺にもたれかかり、肩に掴まってきた。
『なんか滑っちゃって…』
 テテの足元をよく見ると、何故かバナナの皮がある。まさかこれでコけたのか?
 テテにその事を伝えると、
『ま、またアイツ?』
「そんなに忌み嫌わんでも…。トラップとかかもしれんぞ」
 それもかなり人を馬鹿にした、な。
『じゃあ、他にもあるのかな?』
「可能性はあるな。例えば…ヘビとか」
『や、やめてよー。怖い』
「ハハ、ゴメンゴメン」
『もー…』
 テテがぷくーと頬を膨らます。可愛い。その頬を指でつつきたいくらい。
「さあ、先を急ぐか。この地図によると、このまま真っ直ぐ行って突き当たりを左に曲がって……」
431 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:26:39 ID:R0yBDR1d
 俺たちが二つ目の地図を獲得し、三つ目も取った時だった。
「はいはーい、ちょっと言うのを忘れていた事がありまーす。じつはー、天井にが開始と同時に下がってきてー、オレの時計がゼロになると同時に地面につくようになってまーす。だから、それまでにエレベーターに乗れるように頑張ってねー。あ、ちなみにあと13分でーす」
「なっ!?」
『えっ!?』
 俺とテテは、思わず上を仰ぎ見る。しかし、頼りない明かりではよく分からなかった。あの野郎……。
「テテっ!走るぞ!」
『うん!』

 ようやく四つ目の地図を見つけ、俺はソレを拾い上げた。
 やっと終わりか。なんか疲れた。
 しかしテテを見やると、女の子の割に疲れている様子はあまりない。しかも、さっきからちゃんと俺についてきていた。不思議に思った俺は、軽く息を整えながら質問してみた。
「テテは何か鍛えてるのか?」
 それを聞き、テテは一瞬きょとんとして、ぷっと笑いながら、
『何?いきなりどーしたの?』
「いや、走ったのに疲れてなさそーじゃん」
『鍛えるというより鍛えられた、かな。ほら、私、巫女だし』
「そっか。そういやそうだったな」
 女の子が鍛えてるってのも変だよな。
『そういやってなによー』
「ハハハハハ」
「はーい、あと7ふーん」
「やべっ。急ごう。天上が頭に近くなったら走れなくなるぞ」
 俺が走りだすと、
『うんっ』
 後ろから威勢のいい返事が返ってきた。

『さーて、どうしちゃおっかなー』
 今はエレベーターの中。そう、俺たちは無事だった。実のところ、最後の方の俺は、屈んで歩いてたくらい危なかったのだが。
「何の話だ?」
『アイツに決まってるじゃん。ケリー。逆にお仕置きしてあげちゃうんだから』
 そう言って、テテはうっすらとほくそ笑んだ。こ、こえー。一体何をするつもりなんだ……?女王様とかか?ダメだ、全く想像がつかん。
 俺が、やはり女は恐い生きものである事を再確認していると、エレベーターが止まり扉が開いた。
 俺が先に下りると、地面に紙が落ちている。それを拾い上げ読んでみると、
「なになに、『迷路から脱出できておめでとう。地図を手に入れたのは分かってるからお先に失礼♪』」
『逃げられた……』
 あのー、さっきからなんか性格変わってませんか、テテさん。
 ま、いっか。死ななかったし、テテもお仕置きされずにすんだし、万事OK…かな?
432 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:28:02 ID:R0yBDR1d
 あの後、俺は悔しがるテテを後ろに先に進んだ。しばらくすると、小ぢんまりした部屋らしき空間に到着した。
 本当に部屋みたいで、さっきまで岩壁だったのが、一転して煉瓦造りになっている。
 前方は扉のようなもので塞がれているが、その扉に何かあった。
 近づいてみると、何やら文字みたいなのが印された木版と、まるで時計のような---いや、どう見ても時計としか考えられない---が0時に設定されていた。針は動いていない。
「テテ、これ読めるか?」
木版を指差し聞いてみると、
『読めるよ。私たち民族の文字みたい。えーと、「正しい時刻に設定せよ。然れば道は開かれん。但し、もし間違えれば汝等に禍が降り懸るであろう」って書いてある……。正しい時刻?』
「ちょっ、それだけ?」
『うん、それだけみたい……』
マジかよ。禍って…しかも正確な時刻?。
 1分刻みで720分の1、5分だと144分の1、10分で(ry
『トシ!こっちに変なのが…』
テテの言葉に振り向くと、さっき入ってきた入り口の隣に、テーブルらしきものに置かれた水晶と、また木版があった。
「今度は何て書いてある?」
『「ヒントが欲しければ此の水晶に手を重ねよ。併し、更に危険度が増す事を此処に記しておく」って書いてあるわ』
更に…?ラストの強い罠とやらとどちらが危険なのだろう。
大体、水晶に手を重ねるだけで危険って…。しかも、それでヒントが出るって?んな馬鹿な。
『どうする?』
テテが俺に聞いてくる。俺がいくら考えても思案に尽きるだけになるだろう。
「テテはどうする?」
『トシについてく』
速答してくれた。何ていうか感慨無量だ。
「じゃあ、行くか?」
 そう聞いたはいいものの、不安がないはずがなく、顔に出てしまったのか、
『大丈夫?』
 と言われてしまう。
 何女の子に心配させてるんだ俺は。テテは俺について行くと言ってくれたじゃないか。俺が弱気になってどうするんだ。
 大体がここでずっと悩んでいたって何も変わらないしな。だったら、少しでも可能性がある方を選ばなきゃな。
「よし、行くか!」
『うん!』
俺たちは覚悟を決め、水晶に手を重ねた。
433 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:31:06 ID:R0yBDR1d
『トシ…』
アレ…?俺ら一体どうしたんだっけ……?
『トシ!』
揺り起こされた。
周りを見回すが、薄暗い。森みたいだ。さっきのか?
…いや、違うな。
 雨が降っている。それに土砂降りだ。洞窟に入った時は快晴だったのに、だ。
「テテ、ここは何処だ?」
『分からないの。私もトシもこの木の下で眠っていたみたい…』
「そうか……」
混乱する頭を整理して、状況を確認する。
確か俺たちは扉を開くヒントが欲しくて、水晶に手を重ねた。そして、気が付いたらここにいた。
そうだ、何かしらヒントがあるんじゃないのか?
「やいやいっ!」
そんな俺の思考を感じ取ってくれたのかくれなかったのかは知らないが、小柄な狐が現れた。

「なになに?お母さんを捜して来て欲しいって?」
「そうだいっ」
何で俺は狐と話しているこの状況に違和感を感じていないのだろうか。色々とありすぎたからか?
「母ちゃんは、昨日谷の向こうに用事があるって行ったきり、戻って来ないんだ」
 子ギツネが心配そうに言う。
「谷とは?」
「ここから西に行ったところ」
正直、こんな森の中では西も分からん。太陽も出てないしな。
「向こうだよっ」
そう言って、狐は西とみられる方向を顎で差した。
「もし逃げたら、このお姉ちゃん殺しちゃうぞ」
「はw?」
子ギツネのいきなりの暴言に、思わず吹き出してしまった。だって子ギツネなんかに人が殺せるか?
「バカにしたなっ!」
腹を立てたのか、子ギツネはすっくと立ち、指を立て…その先から青い火を出した。
「なっ…」
 当然ながら俺は驚いた。だってライターどころかマッチも何もないんだぜ?
「へっへーん。どうだ、驚いたか!」
434 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:32:18 ID:R0yBDR1d
「あ、ああ」
素直にそう返事する。
「じゃあ、早く捜してこい!」
 んな無茶な。
「ちょっと待て。ホントに手がかりは谷の向こうに行った事しかないのか?」
「あ、そういえばコレ」
そう言って、子ギツネは何処からともなく湯葉を取り出した。
「母ちゃんが大好きだから、見せれば分かると思うよ」
「ホントに俺一人だけで行くのか?」
「当然じゃん。お姉ちゃんは人質だもん」
子ギツネがテテを見遣る。テテの方はというと…脅えている様子もない。何故だ?
『トシ、こっちに来て』
不思議に思ってテテの方を見ていた俺を、彼女が手招き呼び寄せる。
「おい、逃げるのか」
『大丈夫。話すだけだから』
テテがそう言って、にっこりと微笑んだ。
「そ、それならいいけど…」
おいおい、赤くなってるぞ。
『トシ、早く』
「あ、ああ」
テテの言葉に、俺は子ギツネのそばから離れ、彼女の方へ向かった。

『ここは仮想世界よ』
「は!?」
俺と対面したテテの第一声がこれだ。誰だって俺のように返すだろう。
『つまり、ここは夢の世界みたいというかなんというか……。とにかく現実世界じゃないの』
「どうして分かる?」
『子ギツネが指から火を出したのを見たでしょ?ていうか、それ以前に喋ってたじゃない』
「テテの力じゃないのか?」
『ないわよ。大体アレは特別な条件が揃ったからで……』
テテがごにょごにょと口籠もった。何を今更赤くなってるんだか。こっちまで恥ずかしくなってくる。
「それでここから抜け出すにはどうしたらいいんだ?」
 正直、恥ずかしさを紛らわす為だけに聞いてみる。
『取り敢えず、キツネ君のお母さんを探すしかないんじゃない?それに、ヒントが欲しくて水晶に手を重ねたから、ここにそれがあると思う』
確かに。それは言えてる。
今は子ギツネのお願いを聞いてやるしかないか。他に宛てがあるわけではないしな。
「じゃあ、今から捜しに行くから湯葉を頂戴」
俺は子ギツネに振り向き言う。
「う、うん」
子ギツネから湯葉を受け取り、リュックの中から取り出したビニール袋に入れる。
『トシ、気を付けて』
「ああ」
折畳み傘を取り出し、差しながらテテに返答する。
「必ず見つけてこいよ!」
「分かってる」
生意気な子ギツネに即答し、俺はテテたちのもとを離れ、子ギツネの母親を捜しに雨の中を歩きだした。
435 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:33:43 ID:R0yBDR1d
子ギツネの母親を捜し始めてから20分ほど経ったのだが、未だに雨が降り続いている。
傘を差しているにもかかわらず、とっくにズボンは濡れてしまっていて、足とくっついて気持ち悪いったらありゃしない。
こんな雨だからかは知らないが、さっきの子ギツネ以来、全く動物を見ていない。森の中は動物の宝庫って感じがするのだが、俺の勝手な思い込みだったか?
「間違ってないよ」
気が付いたら同じ…元い、気が付いたら女の子の顔が前にあった……のだが、こんな所に人間がいるはずがないので、華麗にかわしてそのまま道を突き進む。
「ちょ、ちょっとちょっとー。無視しないでよー!」
だって何か身長が二歳児ぐらいだし浮いてるしきっと気のせいだ木の精…
「そうそう、私は木の精…ってちがーう!私は森の精!!」
ナイス、見事なノリツッコミ…ってマジで森の精?
「そう、森の精。森全体を司る精霊!」
「ふーん。で、名前は?」
「あ、ゴメン。忘れてた。シルフィよ」
そう言ってその場で一回転する。何の意味があるんだか。
「別にいいじゃん!」
ちょっと待て。何かまた心の中を読み取られてないか?
「読んでるよ」
「素直に答えるのかよ!」
「だって事実だもん」
そう言って、そいつはニカッと笑った。その性格に、着ている巫女服が似合っているとは思えない。
「じゃあ、変える?」
突然、シルフィの着ている服がメイド服に切り替わる。
「どんな魔法だよ、そりゃ!」
「アレ?気に入らなかった?この服は貴方が一番好きな服のハズだけど?」
「ほっとけ」
勝手に俺の属性を暴露するな。それに俺は別に巫女でもかまw(ry
「じゃあ、戻す?」
「もうええわ!」
そう言ったのにわざわざ巫女服に戻したシルフィは、
「貴方はキツネを探しているんだよね?」
「ああ」
流石に、何故?、とかはもう聞かない。
「そのキツネの居場所、私が知ってるよ」
「本当か!」
驚愕の事実に、思わず体が前に出てしまう。
「でも、タダでは教えてあげないわ」
「金でも取るのか?」
「まさか?この世界で金なんてものは無意味よ。物品ではなくこっちの願いも聞いてもらう事になるわ」
「何だ?森の精さんでも叶わないその願いって奴は」
ていうか、叶わない願いなんてあるのか?魔法みたいなのが使えるくせに。
「この森の全体を調整する『翡翠』って宝玉を取り返してほしいの」
誰から?って、ここに人間はいないか。仮想世界だし。
「この先にあるほら穴に住む熊からよ。アイツのせいでこの森はずっと雨続きだわ」
「何で一人で行かないんだ?」
「とある理由があるからよ」
 そうかそうか。相手は熊だし恐いか。
「ちがうわよ!!」
「はいはい。で、その翡翠って奴を取り戻したら、キツネの居場所を教えてくれるんだな?」
「ええ、約束は守るわ。どちらにしろ貴方に拒否権はないわね。キツネを見つけないと元の世界に戻れないから」
やっぱりそうなのか。という事は、それまでにヒントがあるっぽいな。
「そのヒントも知っているわ」
「何!?」
「でも教えてあげない。翡翠を取り戻し、キツネを子ギツネに会わせてあげれば自然と分かるはずだから」
「自然と?」
「そう。自然と、ね…」
そう言って、シルフィは灰色の空を見上げた。
436 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:37:00 ID:R0yBDR1d
「んで、ホントに森の中は動物の宝庫なわけだな?」
俺は今、シルフィの後についていってるところだ。
 ほら穴までは結構あるらしく、シルフィと歩き始めてから更に20分ほど経っていた。ちなみに、相変わらずの空模様である。
「そうよ。特にこの世界には人間なんてものはいなかったから、貴方が思ってる以上のたくさんの生物がいたわ。この雨ですっかり引っ込んじゃってるけどね。」
 なるほどねぇ。
「この雨はどのくらい続いているんだ?」
「ざっと一週間ってところかしら。だから、不思議に思ったキツネが私の所に来たんでしょうね」
「何で分かってて会ってやらないんだ?」
「キツネが熊に敵う?」
「いや、適わないな…」
「でしょ」
 それもそうだが…大体何でその翡翠って奴が奪われたのだろうか。管理とかしっかりしているのか?
「翡翠は私が持っているわけじゃなくて、ちゃんと祭る場所があって、そこから盗られちゃったのよ」
「へぇ。じゃあ、取り返したら俺はそこに行くのか?」
「その必要はないわ。取り返したら私は貴方をキツネの所に連れていって、後は自分でやるから」
なんだ。その祭る場所を見てみたかったのに。
「見ても得はしないわ」
「そんなもんかね」
「そんなもんよ」
何か釈然としなかったが、そのまま進んでいった。

 そこからはしばらく、互いに無言が続いていた。
 本当にしつこい雨で、このまま濡れた格好でいると風邪をひきそうだ。やっぱり翡翠を取り戻さないと止まないのだろうな。この雨は。
シルフィの方を見てみるが、コイツは全く濡れている様子がない。これも魔法か何かだろうか。自分ばっかズルいな…。
「濡れないようにして欲しい?」
シルフィが振り返り聞いてくる。そりゃ当然だろ。寒いったらありゃしない。
「貴方には必要ないわ」
「な!?」
 流石にそれはヒドいんじゃないだろうか。よくもそんな事が平然と言えるな。
「そうじゃないの。ここから出れば濡れていた状態は元に戻り、服は乾く。要は精神力を鍛えるようなもの。風邪とかはひかないから大丈夫よ。」
「本当かよ」
「嘘は言わないわ」
マジかよ……。これはかなり精神的にダメージを受けるのだが。やってられん。
「あ!」
「何だ?」
「やっと渓谷よ」
「うわ……」
向こう岸遠っ!!300mくらいは優にありそうだ。谷底を覗いてみるが、目算で測れそうもないほど深い。 しかも谷底を流れる川の流れはかなり激流で、もし落ちたらひとたまりもないだろう。
「ほら穴とキツネはこの渓谷の向こう。じゃあ、行きましょ」
「ちょっと待て!!」
「どうしたの?」
どうしたもこうしたもないだろ。どうやって向こう岸に行くんだよ?
「あー、ゴメン。そういえば貴方は飛んでなかったっけ」
お前にとってはそれが常識だろうがな。
「ちょっと待ってて」
そう言ってシルフィは、空を見上げ、天に祈るように、小さい両手を重ね合わせた。その姿は神に祈るシスターみたいで、思わず見とれてしまう。
そんな状態が数秒だか数十秒だか続いた後、突然突風が吹いた。シルフィの長い栗色の髪が揺れ…
「ふう、大きいから時間がかかっちゃった。これで向こうに行けるわね」
「なっ!?」
 俺は驚愕した。さっきまで何もなかったはずの空間に大きな橋が掛かっていたからだ。
「ちょっ、シルフィ…これは……」
「へへん、驚いた?」
驚いたとかそういうレベルじゃないだろ、これは……。
「立派な橋でしょ?」
「あ、あぁ。そうだな……」
見直したよ、シルフィ……。
437 名前: enchart×ancient ◆yKZvp5gS1A [sage] 投稿日: 2007/11/14(水) 02:39:29 ID:R0yBDR1d
シルフィ建造の立派な橋を渡った俺たち(シルフィは飛んでいたが)は降りしきる雨の中、未だに歩いていた。
「なあ、まだなのか?シルフィ」
 生意気な子ギツネの元を離れてから、もう2時間ぐらい経ってるんじゃないか?
「まあまあ、そんなに慌てないで」
「ずっと濡れているってのもかなりしんどいんだぜ」
「ゴメンゴメン。ホントにあとちょっとだから……ほら、見えてきた」
シルフィが前方を指差す。俺とテテが入った洞窟よりは一回り小さい入り口。その中は雨のせいか、よく見えない。
「あの中に熊がいるわ。さあ、行ってきて」
「お前は行かないのか?」
「私は…いいの」
「いいじゃん、飛んでるんだし」
それにいざとなったら魔法使えばいいしな。
「それもそうね……」
気付いてなかったのかよ…。
「じゃあ行くか」
「先に行って」
「わかったわかった」
ホントに恐がりな精霊さんだな。まあ、俺も恐怖がないといったら嘘になるが。

ほら穴の中に入ったのだが、周りが暗くていまいち状況が把握できない。さっき、外から見て暗かったのは雨のせいではなかったようだ。
「なあ、シルフィ」
「ヒッ…」
変な声を出し、シルフィが抱きついてくる。
「どうしたんだ?」
「も、もう!いきなり話し掛けないでよ!!怖いんだから……」
そんなに怖がるなよ。それに大声出したら熊に気付かれるぞ。
「あ……」
シルフィはそれを聞いて沈黙する。
「それよりさ、この暗さをどうにかしてくれないか?そうすれば怖くもなくなるだろ?」
「うん……」
 数瞬して一気に視界が開けた。明るさが外と同じくらいになった。それに伴って周りの状況も段々分かってくる。
まるでさっきの洞窟を模したかのような内部で、全てが岩壁だった。
 奥に進むと、左に通路が曲がっているのが分かる。
「熊はこの奥か?」
 曲がり角のところで一旦止まり、シルフィに聞いてみる。
「た、多分ね」
おいおい、多分かよ。居場所は分かってるんじゃないのか?つーか、怖がりすぎだろ。周りを明るくしたってのに。
「いいじゃない!別に!」
「さっきも言ったけど大声出すなよ。熊に気付かれるぞ?」
「あ…」
俺の言葉を聞いて、シルフィが完全に押し黙る。そんなに強張るなよ…。
そんな弱気な精霊さんを後ろに、俺は取り敢えず岩壁に手をついて、奥を覗いてみた。


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最終更新:2008年07月20日 19:08