フォルテ・カンパネラ

 城の中のカルネの部屋には、予想通りカルネが居た。
物音に反応して、ムリをして歩こうとしている。
「お前……もう歩けるのか?」
オレはカルネの身を案じたが、カルネは冷や汗とも取れる油汗を顔いっぱいに浮かべながらこちらへ向かおうとする。
「い、いいって!お前まだ病み上がりなんだからやめとけ!」
オレは慌ててカルネの身を受け止めようとする。が、カルネのほうがバランスを崩し、ベッドに倒れる。
磁石で引き寄せられるようにオレはカルネに覆い被さるように倒れ込んだ。
そう、押し倒しているともとれる体制だった。
こう見ると、男の顔をしている割にも整った彫りの深い顔が視界に入る。
なるほど、王子と言われるのもわかる気がする。何だか不思議ととても綺麗にも思える。
さらりとしたブロンドのストレートロングの髪が、白いシーツの上に広がった。
オレは生唾をゴクリと飲む。しかし、扉の開く音と共に次のけたたましい大声で我に返らされた……
「きゃ、きゃーっ!!わ、私のカルネ様がー!!」
「いやーん!フォルテ様、私だけって言ったじゃないですかぁっ!嘘だったんですか?!」
次々とメイドがオレたちの姿を見て黄色い声を上げる。
……そうだ、この体制はいささかまずい。

 オレははっと我に返り、カルネに覆い被さっていた身をはがした。
そして、メイドたちに弁解をすると「でもカルネ様とフォルテ様なら……私たち、許せちゃうかも」なんて戯言を言っていた。
オレは、いつでも女の子にしか興味ねぇよ……と言うと頬をふくらませてメイド達は業務に戻った。
……オレ、なんか変なこと言ったか?
そんなことを思いながらぶつぶついい扉を閉めてカルネの枕元へ寄る。
「なぁ、あのいつもの果物屋の人覚えてるか?お前のためにこの赤い果実をくれたんだ」
気を取り直して本来の目的を達成しようとする。
「……ああ、すまないな」
カルネはその赤い果実の固い皮と果実を歯でかみしめながら申し訳なさそうにつぶやく。
同じように甘い香りのする熟した実をかじると、酸味のあとに甘さが口いっぱいに広がった。
しかしこれだけ買おうと値段にすると、卒倒しそうな程の額だ。
オレには到底食べきれないし、買えない。
「……そう言えば、水色のローブは北の方角へ向かったらしい」
オレはカルネにメイリスから聞いてきた旨を伝えると、ばつの悪そうな顔をした。
「……まさか……」
その方角に行かれてはまずいといったふうにも取れた。
「その、方角は……今までオレが進んできた道でもある……」
カルネはいつもの顔とは違う、青ざめた顔でそう言った。
「どういうことなんだよ?」
オレは全く状況がつかめずにいた。それでもカルネは独り言のように呟いていく。
「水色のローブは、もしかしたらレーガに行ったのかもしれない……」
カルネの進んできた道――それは、レーガ王国を指していた。
「おい、レーガに何があるって言うんだ?!」
カルネの肩を揺らすと、今まで果実を食べていたせいか少しむせる。
「レーガには、……水色のローブについて良く知る男がいる。
 最近は嗅ぎ回るように調べていたせいか、目を付けられている可能性がある。
 襲われるつい先刻まで私は水色のローブについての話を聞かされていたのだからな。
 ところで……ルーヴィを覚えているか」
「ルーヴィに何か関係あるのか?!」
水色のローブのくだりについてはピンと来なかったが、ルーヴィという良く知った少女の名前がはっきりと耳に残った。

「……まあ、落ち着きたまえ。
 ルーヴィという少女が、水色のローブに利用されていたという可能性がある
 ……今となっては、行方不明の彼女だからどうともいえないが……」
カルネは、オレに冷静を保たせようと肩を叩くが、どうしてもそういう気分にはなれない。
そして、一つ引っかかることができた。
ダークマジシャンは、将来ダークウィザードになる身だった……という事実。
もしかしたら、ダークウィザードのプラチナも危ないかもしれないということ。
焦りからか、一筋の汗が額から流れ落ちた。
そんなのって……ないぜ。
絶望さえも感じながら、俺はそう思った。
「……その気持ちは私もよくわかる。だが、落ち着いて聞いてくれたまえ」
カルネは、続けて口を開く。
「ルーヴィは……無事だ。レーガ王国に隠れ住んでいる報告を受けている。
 ……しかし、やっかいなのはここからだ。
 レーガに向かわれたとなると……危ない」
カルネはまたどうしようもなく不機嫌そうにオレに言う。
「……そうか」
オレは同調するしかなかった。
焦りも感じながら、冷静を保つことなどできなかった。
「その、直前まで話していた男の名前は?」
オレはしびれを切らして、カルネに聞き出す。
「……その、レーガ王国の宮廷魔術師――スピカ・フィーナと言ったかな。
 紺色に近い蒼の髪が特徴的な男だ。少し変な奴だが、頼りにはなるぞ」
カルネはそう告げて、また汚い字でメモを綴りだした。
「あーっもういいって、オレがやるから」
オレは汚い字で書かれたメモを取り上げると、カルネは少しだけ哀しそうな顔をした。
「しかし、追いかけるなら気を付けろ」
オレに念を押すようにそう告げる。
「やつらは一筋縄じゃいかない。半端無く強いからな……」
カルネは自分が与えられた傷をさすりながら言う。
「……ああ。最強のお前をここまで傷つけちまう奴らだからな……オレは、ちょっくらガンディーノで情報収集してから出る」
「……気を付けたまえよ」
自分で書いたメモを、ポケットに入れながらカルネの部屋を後にした。
とてつもない胸騒ぎを、抱えて。

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最終更新:2011年08月10日 05:54