シリウス・フィーナ

「難病に苦しんでおられる、隣国の姫で絶世の美女とまで呼ばれてる。ジャック兄さんとは婚約する筈だったんだけど――その容態では、后には向かないと医者に……」
マリックは、私たちにそう教えてくれた。
「そっか……そのために……」
ジャックと一緒にいた少年は、少し寂しそうに答えた。まるで、そんなことを聞かされてもいなかったかのように。
「……お前こそ、折角美人なカトリーヌ王女を娶るんだから、大事にしてやれよ。……怖いかもしれねぇけど。あれでも大切な、マリアンヌの妹だ」
ジャックはマリックにそう伝える。マリックを見つめるその目は真剣そのものだった。
マリックは何も答えない。
地面ばかりを見つめている。
……と、その時。上空からバラバラバラ……と大きな音がした。上を見上げると、どうやらヘリコプターのようだ。
「……やーーっと見つけたわよ!マリック!このわたくしから逃げようなんて、良い度胸ね?」
女性の人の声が大きく上空から聞こえた。その女性は遠目で見ても高級感のある目立つようなドレスで身をまとっている。
「げえっ……カトリーヌ!」
マリックは、ひどく驚いて彼女の名前を呼んだ。カトリーヌ……ということは、カトリーヌ王女……?
「そう!わたくしの名前はカトリーヌ・シャルル・マルラン!マルラン公国第5代目王女よ!」
叫ぶ事にもはや疲れたのか、メガホンで私たちにそう告げる。
「「そ、そしてまた長……」」
私とルーラはマリックの時と同じような反応をする。
カトリーヌ王女は、メガホンを使うのも煩わしいようでヘリコプターのはしごから降りてくる。
しかし、そんな長くてボリュームのあるドレスでちゃんと降りれるのか不安になった。
そして、案の定
「あっ!」
……カトリーヌ王女は、はしごから足を踏み外した。
「危ないっ!」
私たちが動くよりも先にマリックの身体が動いた。
マリックがカトリーヌ王女の身体を受け止める。
カトリーヌ王女は、マリックの勇士により一命をとりとめた。
「……一度はわたくしから逃げたのに……どういうおつもりなの?」
カトリーヌ王女は、マリックに抱きしめられて少し顔を赤らめながらそう言った。
「……逃げたのは、君のせいじゃないよカトリーヌ……僕の弱さのせいさ」
マリックは、カトリーヌ王女の前では今までの様子とは違う表情を見せた。
「謝るよ……そして、君たちにもごめん。僕はどこか、カトリーヌにはないルーラちゃんの純粋さに甘えていたようだ。
 騙すようなことをして、本当にごめん」
マリックは弱々しく、そう謝る。
少しルーラを弄んだっていう事実は納得できないけど……こうやって、カトリーヌ王女と仲直りできたならそれ以上は何も言わないことにした。
「私はまだ、恋愛なんてわからないけど……カトリーヌ王女は、純粋だよ」
今まで黙ってマリックとカトリーヌ王女の様子を傍観していたルーラがそう言った。
「だって、こんなに遠くの国の街にまでたった一人で来るんだもん。よっぽど、あなたに会いたかったんだよ。それを純粋なんかじゃないって言うのは失礼だよ……?」
ルーラは、いつもバカなことをやっているいつものルーラとは違う……真剣に、そして自分の言葉でマリックと向き合い、考えた言葉を言った。
マリックは、ルーラから受け取った言葉の意味を少しだけ考えて
「……そうだよね。カトリーヌは……何だかんだいって、僕の大事なお姫様……」
マリックはそう自分に言い聞かせるように私たちにそう告げた。
「……ルーラちゃん。僕のものにはならなくたってもいい……でも友達なら、なってもいいかな?まだ間に合うかな……?」
「おまえ……!女の子にあんなことしといてまだっ」
青緑の長髪の少年がマリックの発言に食いつき、今にもまた飛びかかりそうだ。
そんな少年を、私は止めた。
「こら。……ここはあんたの出る幕じゃないわよ。……これは、ルーラの決めることなの」
私がそう少年を静止すると、少しだけ不機嫌そうな顔をしてから引き下がった。
「……もっちろん!……ねえ、結婚式には呼んでよね!」
ルーラは、いつも私に見せるような満面の笑みでマリックのその発言を受け止めた。
「……ありがとう、感謝するよ。君たちのことは忘れないよ、絶対!……この痛みも」
マリックは、私たちとルーラに笑顔を返すようにそう言った。
 そして、カトリーヌ王女がマリックの発言に続くように
「……わたくしのマリックが、ご迷惑おかけしました。是非結婚式典には来てくださいね。
 招待状は……そうね、今日会った事実を証明するためにも皆様で写真でも撮りましょうか」
と言った。
そして私たちは、海とヘリコプターを背景に、最後列にジャックと青緑髪の少年。
カトリーヌ王女と、マリックが最前列真ん中に。私とルーラは最前列の王女たちの隣。
その位置で写真に収められた。
写真を撮ったあと、王女とマリックの二人はアルフレド王国、マルラン公国へとそれぞれ帰っていった。

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最終更新:2011年08月02日 02:05