プラチナ・ガーネット

船から降り立ったボクはクロを頭に乗せたまま、マルーンの中心街へと移動していた。
旅行客が日々行き交うこの町は当然人も多い。
だからココでなら、ボクの両親達を攫った水色のローブの連中の噂も聞けるかと思ってたんだけど――。

「も、もうだめ……」
『はぁぁっ!?お、おい座んな、まだ聞き込み始めてから一時間も経ってねーじゃねぇかよ!このもやし野郎ー!!』

……まったくクロはうるさいなぁ。
貧血でクラクラする頭を押さえ、ボクはクロの言う事も無視し噴水のそばに座り込んだ。
(だいたい、クロってばボクの頭に乗りっぱなしでで自分で歩いてないじゃないか。えらそうだよなぁ……)等と心の中で悪態をつきながら。

そんなこんなでボク達は一時間近くマルーンで情報収集をしていたのだが、未だ収穫はゼロ。
それどころか町の人たちは『そんな連中見た事がない』と口をそろえて言うのだ。
体力のないボクは中心街の人ゴミにのぼせてしまい……今に至る。

「うーん。この町にはあいつ等が襲来してない、って事なのかな」
『でもこんなバカでかい町だぜ!?一人くらいあいつ等の情報知ってるヤツがいてもおかしくねーんだけどな』
「いたけど――奴らによって殺されてしまった……とかは?」
『ありえねぇ。……とは言えねーよなぁ』

はぁ。とクロと二人、お互い溜息を吐いた。
あいつ等について名前やら、正体やら、目的やら……何か一つでも手がかりがつかめればいいんだけど、今現在分かっているのは「水色のローブを纏った、魔術師を狙う集団」と言うことだけだ。

(父さんや母さん……カチュアちゃんのお母さん達がどこに連れていかれてしまったのかさえもわからないし――)


「うわぁあああぁあっ!」

手がかりがなく再び溜息をつこうとした所で――突然、少年の悲鳴が耳に響く。
驚いて声が上がった方に視線を向けるとボクと同い年くらいの水色の髪をした男の子が人相の悪いヤクザ集団に囲まれていた。
そして気を失ってしまったのか、動かなくなってしまった男の子をヤクザ集団の頭領と思わしき人物が抱きかかえ、何処かへと歩きだす……。

(やばい……もしかして人攫い?)

そう考えてからボクはハッ、と気付く。
今の男の子からは微かにマナを感じた。と言うことは(職業は分からないが)彼は魔術に関係している。

(まさか、あの男たちが水色のローブの集団!?……って、水色のローブは纏っていないようだけど)

でも、あいつ等がいつもローブを纏っているとは限らないし。
それともアレか?ローブの連中に雇われて魔術師攫いを繰り返しているゴロツキとか…!!

「クロっ!!」
『あ?ンだよ』
「今、男の子を連れて行ったヤツらがいたんだけど見てた!?」
『……はっ!?』

ボクの言葉にそれまでだらけていたクロが飛び起きる。
クロは完全にぼーっとしていたようで男たちの存在には気付いていなかったらしい。まったく使えない使い魔だ。

『っておい!今何気に失礼なコト考えてただろーっ!?』
「細かい事はあとだよ!クロ、男の子を助けにいくよ!」
『お、おうっ!』

クロを肩に乗せるとボクはヤクザ集団が向かった方向へと慌てて駆け出す。
どうか、どうか無事で――!!

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」

ない体力を振り絞り男たちを追うと、日の当たらない路地裏へとたどり着いた。
男たちはどうやら路地裏の薄汚れた家へと入っていったらしい。
(ここが彼らのアジトってことなのかな)
不用意に入り込んではいけないと思い、ボクはそっと聞き耳を立てる。


「ぼ、僕の…………ー!!!!!」
「あははは…………!!!」
「うわ………ああ…………ど、どうしよう……い………」

うまく聞き取れないが、男の子とヤクザ集団の会話が断片的に聞こえた。
怯え続ける男の子とその傍らで笑う不気味な男、と言うおっそろしい図がボクの脳内に浮かび上がる。
(うん……間違いない、さっきの男の子が襲われているんだ!!)
その時、アジトに裏口の扉がある事に気付いた。
きっと体力のないボクが正面から突っ込んでも返り討ちに遭うのがオチだ。ならば裏口から!!
そう決意したボクは奴らにバレないように、足音を立てないように周り込むと、そっと裏口の扉を開け侵入する……。

「!!…………か?!」
「ふふん、オレは…………なんだぜ?……………!」

幸い男たちはボク達の存在に気付いていないようだった。

――今だ。
クロとアイコンタクトを取ると魔法を詠唱する。


「……ん?なんだお前、どこから入っ……」
唱え終わった瞬間、黒い男(ヤクザの統領?)と目があったがその頃には詠唱は完了していた。
ボクは目を吊り上げると男に向かってビシィッと人差し指を向ける。

「その子を離せ!≪シャイニング・エクスプロージョン≫――!!!」

「!?ぶ、ブレス!伏せろぉおお!」
「えっ!?わ、わわわっ!!」


ドコォオオオオオオオオン


激しい音と共に爆発が起きる。(魔力を調整したから犠牲は最小限に抑えたよ!)
……木製の小屋、みごとに炎上。
しかしこれは男の子を助ける為に必要な犠牲だったのだ。仕方が無い。

「キミ、大丈夫だった!?」

満面の笑顔を男の子に向ける。……見た感じ、どこも襲われた形跡はない。よかった、間に合って!
ボクは男の子を救えた事に喜んでいたのだが、それも束の間……。

「だ、大丈夫なわけあるか!何考えてるんだ、ジャックは僕の恩人なんだぞ!?」

……?
男の子の態度に不思議に思っていると、彼は黒いアジトの統領を抱き起こす。……なんか様子が、おかしいような。
恐る恐るボクは口を開く。

「あの、その人って、魔術師のマナを狙って人攫いを繰り返してる集団の頭領、だよね?」
「は、はぁ!?ちょっと待て、ジャックは」
「オレはただのトレジャーハンターっ!んで、気絶したブレスを運んできたやさしーいお兄さんだ!!」

金や宝石ならともかくマナなんて全然興味ねぇよ!!と続けると、ジャックと呼ばれた男は機嫌悪そうにボクを睨む。
ブレスと呼ばれた男の子も溜息を吐くと、呆れたように頭をぽりぽりかいている。
えーと……これは、もしかして。

「ボク、勘違いしちゃってた……?」
「「思いっきりな!!」」

イライラしたように二人がハモる。
クロなんかは巻き込まれたくなさそうに「にゃあ」など適当に鳴き声を上げ、完全に動物になりきっている。いつもは饒舌なくせにこんな時だけずるい!

「ご、ごめんなさい……」

行き過ぎてしまった勘違いに、ボクはただひたすら謝るしかなかった。

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最終更新:2011年08月05日 05:59