プラチナ・ガーネット

『悪魔の子!!』
『この村から出て行け!!』

(やめ……ろ……)

過去の言葉達がフラッシュバックする。
ボク達の故郷に移住してきた人間達。
ボク達がダークウィザードだと知った途端急に態度を変えた人間達。

"悪魔の子"

誰かの――いや、複数のささやき。それらはすべてボクに向けられた言葉だった。
辺りは一面の『闇』。この場所から逃れようと走り続けても光は見えてこない。
(嫌だ……こんな所いたくない……誰か、誰か!!)


『辛かったんだな……お前のほうが』
「!」

ふと、一人の男性の声が響き渡った。
その瞬間ボクを捕らえていた闇は遠ざかっていく。ボクを罵倒する人間達の声もいつしか聞こえなくなっていた。
……この優しい声の主を、ボクは知っている。
闇に囚われていたボクを救ってくれた真紅の瞳の軍人。彼の名は――。


「……くん……チナくん……プラチナくん!!」
「わっ!?」

少女の声に驚いて目を開けるとそこはいつもの部屋。……どうやら夢だったみたいだ。
そして、気がつけば橙色のストレートロングヘアーの見慣れた女の子がボクの顔を覗き込んでいた。

「ねぇねぇっ、ずいぶんうなされてたみたいだけど大丈夫!?」
「……カチュアちゃんか」
「あっご、ごめん!男の子の部屋に勝手に入ってきて……!!で、でもプラチナくんのうめき声がしたから……ご、ごめんねっ!!」
「ふふ、大丈夫だよ。ちょっと悪い夢見ちゃってたみたい」

顔を真っ赤にさせながら慌ててぺこぺこと頭を下げてるのは幼馴染のカチュア・ルナリーフ。この島、ルナトーンの村長の娘。
村を追い出され困っていたボク達ダークウィザードを快く迎えてくれた心優しい女の子だ。

「あっ、朝ごはんできてるから着替えたら降りてきてね!」
「うん」

にこっと笑うとカチュアちゃんは慌しく階段を下りていった。


ルナトーンでの生活にもだいぶ慣れてきた。
最初はボク達を受け入れてくれるかすごく不安だったけれど……どうやらここは魔術師の島らしく、ボク達ダークウィザードのように強大な魔力を持ち忌み嫌われた魔術師達が隠れ住んでいたんだと言う。
いわば魔術師達の島。
島の人たちはよそ者だったボク達家族を暖かく迎えてくれて、優しく接してくれた。

"悪魔の子"
そう呼ばれ、人間達から怯えていた過去のボク。
だけどそれはもう昔の話。
これからはこのルナトーン島で、前だけを向いて生きていける。

……だけど平和な日々はそう長くは続かなかった。
それは、とある嵐の日の事だった――。

「プラチナくん!大変だよぉっ!!」
幼馴染の悲痛な叫び声。

慌てて駆けつけるとカチュアちゃんはパニックになったようにしゃっくりを上げて泣いていた。
こんなに取り乱す彼女をボクははじめて見る。

「落ち着いて……何があったの?」
「水色の、ローブを着た人たちが!私のお母さんとプラチナくんのお父さんとお母さんを連れて行ってっ……!!」
「え……!?」
「助けようと思ったの!でも間に合わなかった……。ううっ、ぐすっ。ごめん、なさい……」

ボクの父さんと母さんが……何者かに攫われた??
でも、なぜ……。

『お前らの両親だけじゃなくて、島の人間も何人か連れていかれちまったみてぇだ!!』

「クロちゃん!」
「クロ!無事だったんだね!!」
『へへーん、あんな奴等にやられるオレサマじゃねーっての!』

ニッと歯を見せるとボクの相棒の黒猫、クロは笑った。

『そんな事より!あいつら、どうやら強いマナを持った人間を狙ってるみてぇだ』
「それで召還士のお母さんと、ダークウィザードであるプラチナくんのお父さんとお母さんを……」
「クロ、そのローブの連中は今どこに?」
『追いかけようとしたんだが、転移魔法でどっかにテレポートしやがった。ルナトーン以外にいるのは確かだぜ……』
「そんな……」

へなへなと力なくその場に座り込むとカチュアちゃんは静かに泣き出した。
クロの話を聞いて、彼女の悲しげな涙を見て――ボクの中ではある意志が固まりだしていた。

「カチュアちゃん、大丈夫だよ」
「……プラチナくん?」

ボクはそっと屈み彼女の涙拭うと、できるだけ優しく微笑んだ。


『ボクが、ボクとキミの両親を……ルナトーンの人たちを探すから』


彼らはダークウィザードであるボクを助けてくれた。だから今度はボクが彼らを助ける番だ。
それがきっとボクに与えられた使命。

(……そうだよね?『お兄さん』)

遠い日……ボクに大事なことを教えてくれた紅い瞳の軍人を思い出して、ボクはクスリと微笑んだ。

心地よい波の音、晴れ渡る蒼色の空。
時々吹き寄せる風がたまらなく気持ちいい。
旅立ちにはもって来いの日だな、とボクはぼんやり思った。

そんなこんなでカチュアちゃんや島の人たちに別れを告げたボクとクロは小さな安めの客船に乗って移動していた。
水色のローブの集団がどこにいるかは分からないが、とりあえず大きな大陸へ行けば手がかりが見つかるだろうという楽観的な考えに従って、だ。

風になびいてクロの首の鈴がチリンチリンと涼しげな音を奏でた。

『にしても、よかったのか?カチュアと別れてよぉ。カチュアも付いてきたそうにしてたし連れてきてもよかったんじゃねーの??』
「いいんだよ、彼女にはまだお父さんがいる。……それに村長の娘であるカチュアちゃんを危険な目に遭わせたくないんだ」
『でもよ、あのままルナトーンに残っててもあぶねーんじゃねーのか?またあいつ等が来たら……』
「それは大丈夫。カチュアちゃんのお父さんが特別な結界を張るそうだから、よそ者は入れなくなるはずだよ」
『そっか……じゃしばらくは安心だな』

ボクは水色のローブを着た連中の事を思い出していた。
ボクの両親やカチュアちゃんの母……ルナトーンの魔導士を攫っていった謎の連中。

「ねぇクロ、あいつ等の目的はなんだと思う?」
『あいつ等が何者なのかは知らねぇが……魔導士のマナを利用して『何か』を企んでるってカンジだな』
「……そう」

湧き上がる怒りを必死に堪える。
人を道具のように扱おうとしているあの連中がたまらなく憎い。……早いところ、連中達の手がかりがつかめるといいんだけど……。

『おっ、見ろよプラチナ!町が見えてきたぜ!!』

そんな話をしている間に港町マルーンが見えてくる。
色んなことが一気に起こりすぎて混乱してるけど……まずはマルーンについてから考えよう。

こうして、ボクの旅が始まったのだった。

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最終更新:2011年08月05日 05:58