「こいつは一体何なんだ?」

時空管理局第14支局、ロストロギア暫定隔離区域。
クラウディアによって回収された所属不明機。
それに付随していた3つの自立兵装を前に、支局長は解析班主任へと問い掛けた。

直径約6m、オレンジの光を放つ球体。
制御機構らしき4本のロッドを取り付けられたそれは、隔離結界に囲まれた状態で床から3m前後の位置に浮かんでいた。
しかし、重力制御魔法など使用されてはいない。
それは自ら、何らかの力場を発生させて浮遊しつつ、ゆっくりと回転しているのだ。

更にその側には、同じくオレンジに発光する直径2mほどの球体が2つ。
球面の半分を機械部品に覆われたそれらは寸分の狂いも無く同じ速度で回転しており、其々の球体表面は常に同じ角度を保っていた。
6mの球体の周囲を周回するその様は、惑星と衛星の関係を思わせる。

それらの様子を空間ウィンドウ越しに見詰めながら、主任は口を開いた。

「取り付けられた機械部品の文字を名称とするなら、大きい方は「フォース」、小さい方は「ビット」となります。どうもこいつは、あの機体の補助兵装らしいです」
「そんな事は解っている。私が知りたいのは、これがどんな仕組みで成り立っているのかという事だ」

支局長の言葉に、主任は眉間の皺を深くする。
支局長の言葉が不快だったのではない。
多くのロストロギアを目にしてきた自分が、経験から答えを導き出せない事態にいらついているのだ。

「こいつが高エネルギー収束体である事は解りました。しかしエネルギーの塊でありながら、機械部品が物理的に引っ付いている原理が解らないんです」
「魔力は用いられていないんだな?」
「一応、計測機器に反応はあるんですがね。ところが、どれだけトンでもない値が検出されようが、周囲の魔導士は欠片も魔力を感じないときた。おまけに、武装隊から引っ張ってきたインテリジェントデバイスまで、魔力は検出できないと言い出す始末です」
「つまり?」
「機器は誤作動を起こしていた。こいつが持っているエネルギーは、魔力に似ちゃいるが全く別のものって事です」

絶句する支局長。
それを横目に、主任はウィンドウ越しに短く指示を下した。
するとフォース、ビットを映し出すウィンドウに、幾つかの数値が表示された。

「結界内の魔力密度を上昇させます。計測数値を御覧になって下さい」

その言葉に、支局長は値を増してゆく計測数値を見る。
魔力指数、1万、10万、15万、50万と、徐々に数値が増大してゆく。
しかし数値が80万を指した時点で、魔力密度の上昇は唐突に止まった。
結界内を見るも、フォースとビットに変化は無い。
支局長は、納得した様に頷く。

「成程、あれが耐え得るのは80万相当の攻撃までか」

魔力を用いない防御兵装としては妥当なところか。
そう思考する支局長の耳に、主任の指摘が飛び込んだ。

「出力を御覧になって下さい」

その指摘に従い出力計へと目を遣った支局長は、そのまま凍り付いた。
主任は無感動に、数値を読み上げる。

「出力、250万に到達。280・・・320・・・390・・・470・・・500万を突破」
「馬鹿な!?」

やがて、出力計の数値は増大を止めた。
設計限界、安全性を確保した上での最大出力だった。

「630万・・・対象に変化ありません。結界内魔力密度、80万に固定されています」
「吸収・・・? 魔力を吸収している」
「吸収というより、こいつは一定値以上の魔力を「喰って」いるんです。計測方法が無い為、喰われた魔力がどういった形で取り込まれているかは解りませんが」

信じられない現象だった。
今までにも魔力を喰らうロストロギアが無い訳ではなかったが、魔力を有しない存在がそれを為すなどという事例は聞いた事が無い。
何かの間違いではないのか?

沈黙する支局長を余所に、主任は更に指示を出す。
すると魔力密度は通常値に戻り、結界が消えると同時に隔壁の一部が開いた。
そこから、満身創痍の「獣」が姿を現す。
所属不明機、名称R-9A。
ロストロギア運搬用のカーゴに載せられたそれが近付くや否や、フォースと2つのビットは弾かれた様にその機体へと突進した。
支局長の身に、緊張が走る。
しかしフォースは機体へと衝突する事無く、その手前で停止・回転すると、4本のロッドを機首に向ける様にして停止した。
ビットも同様に、機体を中心として対角線上に位置する様に静止、暫くして周回運動を始める。
思わず息を吐く支局長。

「心臓に悪い」
「済みません。しかし、この状態で面白いデータが取れましてね」
「何だ?」
「あのフォースとかいう兵器、単体だと魔力を分解して取り込んじまうんですがね。接触こそしていませんが、こうして機体と接続すると・・・」

すると機体の脇に、武装局員が現れる。
機体前方には再び結界が張られ、それを確認すると、局員は魔法を放った。
機体のすぐ隣から、4本のロッドの内側へ。
何の事は無い、ごく初歩的な射撃魔法。
その、筈だった。
その魔法が、フォースに命中するまでは。

「・・・お解かりになりましたか? この兵器が、如何に危険な存在か」

主任の問い掛けに、返す言葉は無い。
支局長はただ呆然と、焼け焦げた隔壁を見詰めていた。

たった1発の射撃魔法。
それはフォースに命中すると同時、荒れ狂う光の本流となって結界を襲った。
数十発、超高速の魔導弾幕。
三重の結界を一瞬にして打ち破り、隔壁を抉る。
明らかに範囲殲滅魔法と同レベル。
これは、まさか。

「触媒です。何らかの手段で機体と接続する事で、あの兵器は接続面からのエネルギーのみを特異的に触媒・増幅する機能を持っています」

呆然とウィンドウを見詰めれば、今度はフォースの前面から魔法を放つ局員の姿。
しかし今度は、魔導弾は増幅される事無くフォースに喰らわれる。
分解・吸収まで1秒足らず。
いや、その瞬間さえ視認できなかった。
もしや、分解すらせずに一方的に喰らっているのか。

「私個人としては、これはロストロギアの類ではないかと・・・いえ、そうあって欲しいと思いますがね。こんなもの、現在の次元世界の技術力で造り出せる物じゃない」

ウィンドウの向こうで、機体とフォース・ビットを引き剥がす作業が始まっている。
其々の間に結界を張り、カーゴを後退させての強引な分離作業。
やがて接続が途切れたのか、フォースは新たに張られた結界の中心に、ビットはその周囲へと落ち着く。
機体は隔壁の向こうへと消えていった。

「残念な事に今のところ、こいつは第97管理外世界で造られたとの見方が有力です。余りにもプロテクトが固い上に魔法とは互換性が無いんでシステムを覗く事は出来ませんが、其処彼処に使用されている言語から見るに間違い無いかと」

支局長の目が力を取り戻し、主任へと視線を送る。
それに答える様に、彼は結論を伝えた。



「こいつは魔法体系を用いずに造られた、魔法を越える兵器ですよ。異常に発達した科学が生み出した化け物です」



結論が伝えられるや否や、彼は決断する。

「本局に連絡を。それと、この事は解析に関わった者以外には漏らすな」

本局へと、緊急の通信が発せられた。



バイド。
自己増殖能力を備えた粒子によって構成されながら、同時に波動としての性質をも併せ持つ、超束積高エネルギー生命体。
あらゆる物質へと伝播・干渉する能力を持ち、生態系を侵し、機械を操り、時に精神すら貪る。
従来の兵器は対バイド戦に於いては有効たり得ず、同じく純粋培養したバイド体を用いて製造された「フォース」、本来はアステロイドバスターとして開発され対バイド兵器へと転用された「波動砲」によってのみ、敵性体に対し打撃を与える事が可能。
バイド体の多くは人類の兵器同様に異層次元航行能力を持ち、時に空間ごと軍事施設を取り込み、「汚染」する事さえ確認されている・・・

そんな事は、軍で散々に叩き込まれていた。
バイドは敵勢力を殲滅するに飽き足らず、時にそれらを喰らい、己が勢力の一部とする。
そうして汚染された友軍を、幾度となく目にしてきた。
太陽系外周を、軍事施設を、都市を。
それらを命懸けで守っていた者達が、バイドと化して襲い来る、悪夢の様な光景を。
汚染されたものは数え上げれば限が無い。
それは都市防衛用の小型無人兵器であったり、攻撃型の中型有人機であったり。
大規模殲滅型の大型機動兵器、全長十数kmに達する巨大異層次元航行戦艦だった事さえある。

兵器だけではない。
時にバイドは、戦闘とは全く無縁のシステムを侵食し、人類に対する刃と為す。
災害救助用大型輸送機、都市再生用大規模範囲破砕機、資源採掘坑道輸送システム、廃棄物処理場資源回収システム・・・
凡そ戦闘を想定して建造されたとは思えぬものですら、バイドによっておぞましい殺戮機構へとその様相を変貌させるのだ。

民間旅客輸送船団に接触したバイド体を目にした時の、悪夢そのものの光景が脳裏を過ぎる。
そのバイドは破棄された研究用小型コロニーの制御中枢に同化、これを復旧すると共に完全に支配下へと置いていた。
緊急用推進システムを稼動させて民間航路を辿り、やって来た輸送船団を丸ごとコロニー内に取り込んで「捕食」したのだ。
そして20時間後。
艦隊が到着した時には、コロニーは既にバイドの資源再生工場と化していた。

建造中の小型艦艇。
「資材」は捕食された輸送船。
培養される有機生態部品。
「原料」が何かなど考えるまでもない。



敵主要兵装破壊より6時間後。
全ては、応援として到着したヘイムダル級戦艦、そして「R-9S STRIKE BOMBER」の編隊による、波動砲の一斉射によって消し飛ばされた。
生存者の捜索は為されず、それに対し意見する声も無かった。



バイドに汚染された旅客達は、どんな心境だったのだろう。
恐怖に蝕まれたのだろうか。
絶望に身を焦がしたのだろうか。
希望に縋ったのだろうか。
怨嗟に狂ったのだろうか。

いや、もしかしたら。
バイドの精神干渉は、それとは全く別のものを齎すのかもしれない。
例えば、対象の精神を取り込むべく、現実としか思えない幻の世界を体験させる事も考えられる。
丁度、自身が体験しているこの状況の様に。

「貴方には時空管理局所属艦艇撃沈の容疑が・・・」

女だ。
女が喋っている。
金髪の、見慣れない褐色の制服に身を包んだ女。
その後にもう1人、同じ服を着た女。
感情の窺えない目で、此方を捉えている。

はっきりとしない思考で、彼は考える。
これも、バイドの見せる幻なのか?

「もう一度訊きます。貴方の所属は? 管理局所属艦艇との交戦に到った経緯は?」

馬鹿げた妄想と笑い飛ばせるほど、彼はバイドに関して無知ではなかった。
4世紀もの時を遡り、時空の壁すら引き裂いて22世紀へと現れた、人の手による絶対生物。
「人類」自らが建造した、禁断の兵器、狂気の産物。

バイドに汚染されて、無事に戻った者は居ない。
バイド化したR-9Aが鹵獲されたという話もあるにはあるが、パイロットが生存していたという話はやはり無い。
恐らく、既に人間ではなくなっていたのだろう。

「内容の如何によっては、管理局が責任を持って貴方の身柄を保証します。質問に答えて下さい」

皮肉な話だ、と彼は思う。
彼の愛機もまた、R-9Aだった。
そう、「R」シリーズですら、汚染からは逃れられない。

「・・・少し間を置きましょう。1時間後にまた来ます。良く考えて下さい」

沈黙を貫く彼に対し、攻め方を変えたのか、女性は席を立った。
もう1人の女性を促し、退室する。

そういえば、「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」とか名乗っていた。
よりにもよって「運命」とは、バイドは思ったより洒落の利く奴らしい。

彼女達の退室を見計らい、彼はパイロットスーツの袖口、隠れた小さな気密ポケットを開く。
そして、小さなカプセルを取り出した。
バイドに相対する者、その全てに与えられる、軍からの小さな贈り物。
自らに2つの選択肢を突き付けるそれを前に、彼は覚悟を決める。

汚染なぞ御免だ。
例えバイドではなかったとしても、「R」に関する情報漏洩を最低限に抑える事は無駄にはならない。

そして、彼はカプセルを呷った。



『久し振り、フェイトちゃん、ティアナ』
「久し振り、なのは。はやても」
「なのはさん、八神部隊長、お久し振りです」
『うん、久し振りやなぁ、2人とも』

本局通路、フェイトとティアナはウィンドウ越しに、なのは、はやての両名と言葉を交わす。
久し振りの会話だが、それを喜ぶ余裕が4人には無い。
友人としての会話もそこそこに切り上げ、4人は情報交換を始めた。

『本局が攻撃を受けたって聞いたけど・・・』
「初めはそうと分からなかったんだけどね。外部装甲に数ヶ所、防御結界ごと撃ち抜かれた跡が発見されたんだ。本局自体は大した被害じゃなかったんだけど・・・」

言葉を詰まらせたフェイトに代わり、はやてが言葉を引き継いだ。

『・・・無限書庫、やね』
「うん・・・」

力無く頷くフェイト。
そこで見た光景は、丸1日経った今でも鮮明に思い起こせる。

無限書庫を含む一帯のエリアは、着弾の被害を最も大きく被った範囲に含まれる。
フェイト達が掛け付けた時、通路には負傷者が山と転がり、壁や床、果ては天井までが赤く染まる中、無数の呻きと悲鳴が木霊していた。
負傷者が語った「人間が宙を舞った」との証言からも、衝撃の大きさが予想できる。
そして無限書庫内は、意識を失った人間達が血を流しつつ力無く宙を漂う地獄と化していた。
衝撃と共に無尽蔵とも思える蔵書が書庫内を高速で飛び回り、凶器と化したそれら数十万、数百万、或いは数千万もの本が司書達の身体を容赦無く襲ったのだ。
全身の複雑骨折で済んだ者はまだ良かった。
中には数十トンもの蔵書の波に呑み込まれ、複数の書籍を赤く染める染みと化した者も少なくない。
それどころか消息不明となった者すら居るのだ。
そんな中で、ユーノとその周辺に居た数名の司書は、幸運な者の部類に入った。

「ユーノ、咄嗟に自分と周りの人達を守る様に結界を張ったんだって。余りにも突然の事で、それが限界だったって・・・それでも衝撃までは防ぎ切れなくて、左脚を・・・」
『そっか・・・』

暗い空気。
しかしそれを打ち破る様に、ティアナが声を発した。

「なのはさん、第97管理外世界の方はどうなったのですか? 確か、艦隊が惑星を包囲しているとか・・・」

その問いに、更なる緊張が場に満ちる。
第97管理外世界に起こった異変については、救助と取調べに忙殺されていたティアナ達の耳にも届いていた。
所属不明の大艦隊。
転送ポートの機能麻痺。
極め付けは、時空間航行から脱しようとしていた管理局艦艇への砲撃である。
信じられない事に、第97管理外世界への実体化寸前に砲撃を受けたというのだ。
つまり不明艦隊は、時空間移動時に起こる何らかの変動を感知している事になる。
何もかもが異常だった。

『それなんだけどね・・・フェイトちゃん、ティアナ、落ち着いて聞いてね』
「何? どうしたの、なのは?」

煮え切らないなのはの言葉。
その様子を怪訝に思ったフェイト・ティアナは、軽く首を傾げた。
そして、なのははそれを伝えた。



『第97管理外世界がね・・・「2つ」見付かったんだ』



沈黙が降りる。
誰も言葉を発しようとはせず、そのまま数秒の時間が流れた。
やがて耐え切れなくなったのか、なのはは言葉を続ける。

『私達の地球も確かにあった。でも、そのすぐ側の次元空間にもうひとつ地球があったの。私達の知ってる地球とは、全く違う地球が』
「・・・分からないよ、なのは。一体どういう事なの?」

なのはは答えない。
代わりに、隣のウィンドウに映るはやてが答えを返した。



『その地球はな、フェイトちゃん。私らのいた21世紀の地球やない。百年以上も未来の地球なんや』



フェイトの中で、何かが噛み合わさる。
不明機体に使用されていた言語。
魔力を用いない時空間航行。
超高度テクノロジー。

『フェイトちゃん?』
「ごめん、なのは、はやて。また後でかけ直す! ティアナ!」
「はい!」

ウィンドウを閉じ、来た道を引き返す。
然程間を置かず、2人は先程退室したばかりの取調室前へと辿り着いた。
ドアが開くと、其処には椅子に座したまま項垂れる男性の姿。
不明機パイロットだ。
フェイトは毅然と歩み寄り、声を発した。

「貴方は・・・地球に於ける軍事組織に属しているのでは?」

沈黙。
フェイトは続ける。

「所属する国家は? どういった過程であの機体に搭乗を? 答えなさい!」

沈黙。
男性は答えない。

「貴方の属する世界は、現在非常に危険な状態にあります。地球は次元世界について何処まで把握しているのですか? 質問に答えて・・・」

言葉が途切れる。
男性は反応しない。
その様子に、フェイトとティアナは不審を抱いた。
咄嗟に、ティアナが男性の肩を掴む。

その身体が、ぐらりと揺れた。
ティアナの手をすり抜け、重心を崩して床へと叩き付けられる。
沈黙は、一瞬。
取調室に、フェイトの声が奔った。

「ティアナ! 医務室!」
「はい!」
「しっかり! 目を開けなさい! しっかりしてっ!」

フェイトの必死の叫びが、取調室に響き渡る。
しかし、それに応えるべき者が声を発する事は無かった。



《クロックムッシュⅡよりアイギス》
報告。
調査の結果、不明惑星は21世紀初頭の地球と判明。
バイドは探知できず。
2207時、異層次元航行による所属不明艦の転移を確認。
ニーズヘッグ級及び「R-9A4」6機により迎撃するも、不明艦は異層次元へと逃亡。
「R-9E3」による追跡の結果、異層次元ポイント19667305に高度文明都市を確認。
追加調査の結果、ポイント04137003にて確認された超大型異層次元航行艦艇との関連性が浮上。
バイド係数、検出不能。
指示を待つ。

《アイギスよりクロックムッシュⅡ》
照合終了。
貴艦隊が異層次元ポイント04137003にて確認した大型艦艇について、再度の強行偵察の結果、バイドによる汚染が確認された。
ポイント19667305の都市についても、2166年8月の時点に於いてバイド種子の落着が確認されている。
現在の21世紀地球に対する包囲を解き、速やかにこれらの目標を制圧せよ。
敵攻撃手段の喪失を確認後、本隊の到着を待て。

《クロックムッシュⅡよりアイギス》
任務を確認する。
対象の殲滅をもって任務達成とするのではないのか?
更に此方の偵察では、両目標に対するバイド汚染は確認されなかった。
パイロット達は混乱している。
収集情報の厳密な確認を要求する。

《アイギスよりクロックムッシュⅡ》
ポイント04137003の大型艦艇に停泊する多数の攻撃型艦艇について、363部隊機を撃墜したものと同型である事が確認されている。
363部隊機が交戦していたのはバイドにより汚染された艦艇であり、これを無条件にて援護した不明艦は同じくバイドにより汚染されていると考えられる。
繰り返す。
21世紀地球に対する包囲を解き、速やかにこれらの目標を制圧せよ。
殲滅する必要は無い。
敵攻撃手段の喪失を確認後、本隊の到着を待て。
追加任務。
此方より実験部隊を送る。
機数1、コールサイン「キャプテン」。
機種は新型、「R-9WF SWEET MEMORIES」。
実戦投入し、「R-9E3」によるデータ収集を実行せよ。

《クロックムッシュⅡよりアイギス》
任務了解。


21世紀、地球。
決して地上から観測される事無く、宇宙空間にてその周囲を包囲していた大艦隊は、僅か2時間足らずの間に5隻の巡洋艦を残し、忽然と消え去った。
彼等が向かうは、異層次元ポイント04137003、超大型異層次元航行艦艇。
そしてポイント19667305、高度文明都市。

その船は、次元世界の住人達より、こう呼ばれていた。
時空管理局本局と。

その都市は、管理世界の住人達より、こう呼ばれていた。
ミッドチルダ首都、クラナガンと。



その指令に秘められた謀略に気付く事も無く。
バイドとの戦いを通して育まれた、壮絶なる「狂気」に踊らされるままに、艦隊は管理局を目指す。
地球を、自らの故郷を守る為、ただそれだけの為に。

己が内の「狂気」に気付かぬまま。
人類は破滅への階段を上り始めた。

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最終更新:2015年10月26日 07:23