魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第四話


「っておい!スバル!!」
突然自分の手を振り解き地上へと降りたスバルに、ヴィータは咄嗟に叫び彼女を止めようとする。
だが、ガンダムを前にしたスバルの耳には彼女の叫びは届く事は無く、マッハキャリバーで砂煙を上げながら真っ直ぐに駆け出した。
「ったく・・・あの馬鹿・・・帰ったら敷地30週だ!!」
既に彼方へと走り去ったスバルに向かってヴィータは叫びながら怒りを露にする。
だが、露になった怒りも直ぐに消え、歳相応に相応しい笑みへと変っていった。

スバルの話を聞いていて分かってはいた、彼女も自分達と同じく、ガンダムによって救われた一人なのだろうと。
本当なら独断行動をした以上、追いかけてぶん殴って正座させて説教のフルコースなのだが、今回は仕方が無い。
「(・・・・はぁ。まぁ、昔のあたしだったら間違いなくスバルと同じ行動をしていただろうし・・・大目に見るか)」
今回は大目に見ようと思った。

『ふふ、何だかんだいっても、ヴィータちゃんも嬉しいんじゃないんですか』
ユニゾンを解き、本来の姿に戻ったリインフォース・ツヴァイはヴィータの表情を覗き込みながら訪ねた。
否、尋ねる必要など無い。ユニゾンしていたため、彼女の気持ちは既に分かっている。
ガンダムという騎士に会える事をどんなに楽しみにしているのか、そして、どんなに嬉しいのかが十分理解できた。
「まぁな、嬉しい反面、帰ってくるのが遅すぎた事に腹も立ってる。まぁ帰るっていう約束は守ったから許してやるか。
そういやリインは話は聞いてるだろうがナイトガンダムに会うのは初めてだよな?まぁ当然か、生まれる前だもんな」
「はいです!お姉ちゃんやはやてちゃん達から聞いたことがあるです!優しく強い騎士、皆を救った勇者、背中を安心して預けられる好敵手!」
「・・・・・最後は間違いなく戦闘馬鹿(シグナム)だろうな。まぁ間違ってはいないな。あいつがいなかったら今のアタシらは間違いなくいなかった。
あいつ自身は『過剰評価』って言っていたが誰もそんな事は思ってない、アタシもそう思ってる一人さ」

今思い出すだけでもゾッとする。あの時、ガンダムがいなかったら自分達は愛する主を殺していたに違いない。
否、それ所がなのは達、そして海鳴市そのものも奴の餌食になっていた筈だ。
そんな絶望的な状況から主や仲間、そして自分を救ってくれたのはナイトガンダムだった。
皆を闇の呪縛から救い、家族の一人であるリインフォースから闇のみを取り除き、共にいる時間を与えてくれた騎士。
自分は共にいた時間でなら、彼を知っている中では一番少なかった方に入るだろう。それでも彼の評価に間違いは無いと自身を持って言える。
「でしたら、はやてちゃんに早く連絡をしましょう!とても喜ぶ筈です!」
「いんや、もしかしたら別人って可能性も無くは無いから一時保留だ、先ずは会ってみないとな」


「ス・・・スバル・・・それは・・・本当なのか・・・・」
スバルが何気なく言った10年という歳月、到底信じられるものではない、だからこそ聞き返す。
驚きのあまり声が震えてしまう、頭が理解に追いつかない、「嘘であってくれ」と願う自分がいる。

そんなガンダムの表情にスバルもまた驚き、声を詰まらせる。
『冗談を言っているのではないのか?』一瞬その考えが頭を過ぎったが直ぐに打ち消す。
ガンダムの表情を見れば嫌でも理解できる、彼が現状を信じられないという事が。
だが黙っているわけにもいかない、今の自分に出来る事はガンダムの問いに嘘偽り無く答えるだけだ。
「・・・・・うん、そうだよ。ガンダムさんがスダ・ドアカ・ワールドに帰ってから10年が経ってる・・・それは間違いないよ」
ガンダムから体を離し、真っ直ぐ彼を見つめながらゆっくりと答える。
彼女の瞳を見据えその言葉を聞いたガンダムは確信した・・・・・彼女が本当の事を言っているという事を。
否、スバルの姿を見た時点で可笑しいとは気付いていた。いくら何でも2年であそこまで成長する筈が無い、相応の年月が経過しなければ不可能な事だ。
「・・・ありがとうスバル、教えてくれて・・・そしてすまない、みっともなく慌ててしまって」
「謝る必要なんて無いよ!!だって、ガンダムさんには2年前の出来事なのに、此処では10年も経っていたんだよ!慌てない方が可笑しいよ!
だから・・・ガンダムさんは悪くは無いよ・・・・帰ってくるって約束を守ったガンダムさんは悪くない!!」
スバルは再びガンダムに抱きつく。まるで自分を慰めてくれるかの様な暖かな抱擁に、ガンダムは自然と身を任せてしまう。
ガンダムにとって、今は彼女の暖かさが何よりの救いだった。

「おっ!いたいた!」
上空から二人の姿を確認したヴィータは嬉しそうに声をあげながらツヴァイと共にゆっくりと降りる。
そして改めてスバルの隣にいる騎士を見据えた後、多少緊張気味に声を掛けた。
「あ~・・・・・・・オッス!!久し振り・・・・だな」
「ああ、また会えて嬉しいよ、鉄鎚の騎士ヴィータ。本当に久し振りだね」
微笑みながら挨拶を返すガンダムに、ヴィータは内心でホッとする。
この感じ、間違いなく自分達が知っているナイトガンダムだ。先ほどまでの緊張が自然に解けてゆくのを感じながらも、ナイトガンダムへと歩み寄る。
そして右手にグラーフアイゼンを展開、彼の隣にいるスバルの方を向き、ゆっくりを振り上げた後
「スバル、罰だ」
軽くスバルの頭をごついた。
「この馬鹿、勝手に行くなっていっただろ!罰として帰ったら敷地30週だ!!」
「あ・・・・あはは・・・・わかり・・・ました」
流石に自分でも悪いと思っていたのだろう。観念し、力なくうな垂れるスバルに満足した笑みを浮かべた後、再びナイトガンダムへと顔を向ける。
だが、いざ再開したものの、彼との会話や共にいた時間が極端に少なかったヴィータは先ず何を話していいのか迷い、言葉を詰まらせてしまう。
「(あ~・・・・まいったな、世間話でもしたいんだがガンダムと一緒にいた時間って極端に短いからな・・・・・話題が・・・・・)」
もしも目の前にいる相手が仕事での付き合いだけの人物なら、適当に言葉を並べればいいか
彼にそんな事はしたくはない・・・・正直に、思ったことを話したい。
数秒考えた結果、とりあえず先ず目に入った彼の姿について尋ねることにした。
「しかしお前は鎧が変ったな・・・こう、カッコよくなったな」
「ああ、この鎧のことかい?向こうで色々あってね、昔着ていた鎧と霞の鎧、そして力の盾を組み合わせて作った物だよ。
バーサルの称号を貰ってからは『バーサル・アーマー』と名付けられたんだ」
「(あの神器を使いこなしてるのか・・・・さすがだな)バーサルの称号?何だそれ?」
「ああ、『騎士の中の騎士に送られる称号』だそうだよ・・・ん?そのこは・・・リインフォースに似ているけど・・・・」
恥ずかしいのか、それとも緊張しているのか、ユニゾンを解除してからずっとヴィータの後ろでこそこそと様子を伺っていたツヴァイ。
だがナイトガンダムに見つかり目が会った瞬間、怒られたかの様に体をびくつかせ、ヴィータの後ろへと隠れた。
「ったく・・・なに緊張してんだお前は・・・」
「だって~・・・緊張しますよ~」
弱気な声をあげならもツヴァイはゆっくりをヴィータの後ろから姿を現す。
目の前にいるのは皆が心から信頼して止まず、主や騎士達、そして姉であるリインフォースを救ってくれた騎士。
ツヴァイからして見れば、本の中から突如現われた勇者の様な人物である、緊張するなという方が無理があった。
そんな態度を取るツヴァイをガンダムは純粋に可愛いと思いながらも、慌てる彼女を見据えると同時に跪き、頭を垂れた。
「お初にお目にかかります。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します」
「あ・・・あわわわわわ!!?わ・・・私は八神家の末っ子・・・じゃなくて・・・いえいえそうでもありますけど!!?!
じっ時空管理局本局!古代遺物管理部!!機動六課所属!!リインフォース・ツヴァイ曹長でございますですぅ!!」
舌が回らずに声が裏返りながらも、ヴィータの前に出て敬礼をし、大声で自己紹介をする。
そんな彼女の姿を微笑ましく思いながらも、彼女を見た瞬間に感じた疑問をぶつけてみた。
「よろしくおねがします、リインフォース・ツヴァイさん。所でリインフォース・ツヴァイさんは彼女、リインフォースにそっくりですが・・・・・」
「はいです!ガンダムさんの事はお姉ちゃん・・・じゃなくて姉であるリインフォース・アインから聞いています。
それと敬語なんて使わなくてもいいですよ、私の事もリインと読んでください。ですけど本当に聞いたとおり、皆が認める騎士様ですね~、
こう言う紳士な所はヴィータちゃんもみなら(ゴン!!」
ヴィータの拳がツヴァイの脳天目掛けて振り下ろされ、鈍い音が辺りに響き渡る。
頭を押さえ、悶絶するリインを一瞥した後、唖然とするガンダムとスバルを無視し何事も無かったかのようにヴィータは一度咳払いをし、無理矢理場の空気を誤魔化した。
「悪い、手が滑った、許せ」
「そんなわけないじゃないですかぁああああああああ!!」
まだダメージが残っているのだろう、頭を抑え、涙目になりながらも突然の暴挙に出たヴィータに抗議をするツヴァイ、
だがヴィータは最初から聞こえていないかの様に無視を決めこむ。
「まぁ、リインが言ったことに間違いは無いな」
「ヴィータちゃんが紳士じゃないって所ですかぁ~?」
先ほどのお返しなのだろう、挑発するように言い放ッた後、直ぐにガンダムの後ろへと隠れる。
流石にガンダムを押しのけてまで鉄拳制裁をする気にはなれないのだろう、悔しそうにガンダムの後ろからニヤニヤと様子を伺うリインを睨みつけた後、
諦めたかのように深く溜息を一回、自身の怒りを仕舞い込んだ。
「皆が認める騎士って所さ、それに関しては間違っていないとはっきり言えるな」
「そんな事は無いよヴィータ、私はまだまだ未熟、皆が思っているような騎士ではないよ。このバーサルの称号も私にはもったいない位だと今でも思っている」
その発言に真っ先に噛み付いたのはスバルだった。誰が見ても分かるほどに口をへの字に曲げながら抗議を開始する。
「そんなこと無いよ!ガンダムさんは騎士の中の騎士だよ!誰がなんと言おうと・・・・・ガンダムさん本人がそうで無いと言っても私は曲げないよ!ガンダムさんがバーサルナイトだって事実は!!」
「スバルの言う通りだ、お前はもう少し偉ぶってもいいぞ・・・つーか少しは偉そうにしろって。
だけどそうなると今度は『バーサルナイトガンダム』って呼ばなきゃ駄目か?・・・・・・うん、長いから却下だ。だけどシグナムが黙って無いだろうな。
お前の今の姿、そしてそのバーサルの称号の由来、ガチの模擬戦は覚悟した方がいいぞ」
「ははは・・・でも彼女も元気そうでよかった。シグナムとは一対一での戦いを約束しているからね、一人の騎士として彼女との戦いは楽しみだよ」
「ああ、出会って早速申し込まれるかもしれねぇな、『いざ勝負!』って。なんたって10年ぶりなんだから・・・どうした?」
『10年』、その言葉が出た途端スバルとガンダムは押し黙ってしまう。
何か不味いことでも言ってしまったのか?ヴィータは慌てて会話の内容を思い出すが、ガンダムは無論、スバルも押し黙ってしまう様な事は言ってはいない。
考えても分からない以上、聞くしかない。早速ヴィータが聞こうと口を開こうとするが、それより先にスバルがヴィータを見据え、話し始めた。


「・・・・そうだったのか・・・・・ごめんな、ガンダム。辛いのに無神経で」
「謝らないでくれヴィータ、話を切り出さなかった私に非がある」
「・・・そう言ってくれると助かる、だがお前の世界では2年でこちらでは10年・・・・・・此処まで時間の流れが違う世界なんて聞いたことが無いぞ。
まぁお前の世界そのものが未だに未発見の次元世界だ・・・・常識なんかが通用しないのかもしんない・・・ああ、めんどくせぇ話は後だ!」
帽子に守られていない後頭部を乱暴に書きながら無理矢理話を終らせる。
先ずは『何故ガンダムが来たのか』より『ガンダムが帰ってきた』という報告をする方が優先順位(関係者限定)としては圧倒的に先だ。
だからこそヴィータは空間モニターを開き通信を開始した、自身の主『八神はやて』が指揮する後方支援隊『ロングアーチ』へと

・機動六課管制室

ほの暗い機動六課管制室に鳴り響く通信音、オペレーターの一人アルト・クラエッタは即座に対応、
直ぐに後ろで指揮をしている、部隊長・八神はやてへと回す。
「八神部隊長!現場に向かったスターズ02・ヴィータ副隊長から通信です!」
「ありがと、直ぐに回して」

時間からしてそろそろだと思っていた。
おそらく・・・否、間違いなくうちの子達と自慢のストライカーズ達は任務を成功させてくれているに違いない。
だが、万が一という事もある、特に今回は急な出撃、現場で活動できたのは結果的にストライカーズ達とヴィータ、そしてリインだけの筈だ。
その上今回はガジェット殲滅だけではなく自然保護局員達の救出も含まれている。正直戦力的に完遂は難しいと思う、ある程度の被害は覚悟した方がいいかもしれない。
色々と頭の中で被害の予想を立ててしまうが、予想を立てた所で結果は変らない。
「(・・・あかんな、ネガティブな考えは・・・・・部隊長が隊員を信じなくてどうするんや)」
少しでも部下や家族を信じなかった自分に自己嫌悪しながらも、直ぐに気持ちを切り替え、画面に映るヴィータに瞳を向けた。

結果から言えば、ヴィータが報告した内容は心配した自分が馬鹿らしく思える程完璧な内容だった。
ガジェットはすべて破壊、保護対象だった自然保護局員達は無論、ストライカーズやヴィータ達にも怪我は無い、オマケにレリックも回収、
文句のつけようの無い完璧な結果を齎してくれた。
「さっすがヴィータ副隊長とリイン曹長!!そして六課が誇るストライカーズ!!」
指を鳴らし、皆の心境を代表するかのように歓喜の声をあげるシャリオ・フィニーノにグリフィスは満足そうに頷き、
アルトとルキノは互いを見据え嬉しそうに微笑む。
はやてもまた、早速モニターに移るヴィータに労いの言葉を掛けようとしたが、ふと彼女のバツが悪そうな表情に言葉を詰まらせた。
「・・・?ヴィータ?どないしたん?」
『あ~・・・・いや、実はアタシらが来た時にはすべて解決してたんだ。ガジェットを全滅させたのも、
自然保護局員達を助けたのも、レリックを守りきったのもアタシらじゃない』
歓喜に包まれたロングアーチが一瞬で静かになる。否、固まったといった方が正しい。同時に皆が疑問に思う、『誰がやったのか』と。
「(ヴィータ達やない?・・・・・せやけど此処までの事をするとなると相当腕の立つ人に間違いは無い。それに人命救助やレリックを大人しく渡した以上、
こちらの敵ではないと見るべきか?もし怪しい人物ならヴィータが黙ってるはずが無いし・・・・・一応警戒はしとこうか)ヴィータ、詳しい報告を。
出来ればその人にも会ってみたい・・・・お願いできる?」
隊長であり、主でもあるはやての頼みに、ヴィータは『まってました!』と言いたそうな表情で答える。そして
『経緯なら直接聞いてくれ、10年ぶりに帰還したアタシらの勇者に!』
『えっ!?ヴィータ!!?何を!?』
ヴィータに無理矢理空間モニターの前に引っ張られたため、ナイトガンダムは慌てた声をあげながらその姿を映像越しにロングアーチの前に晒す事となった。
突如現われた小さな傀儡兵の様な物体、皆が言葉を詰まらせるは当然だ・・・・一人を除いて

                        ガタッ!!

沈黙するロングアーチに響き渡る物音、全員がその音がした方向へと振り向く。
クリフィスにいたっては近場にいたため、その音が何なのかが直ぐに分かった。はやてが急に立ち上がった結果、座っていた椅子が後ろへと倒れた音だ。
そして全員がはやての表情に驚いてしまう。目を見開き、心から驚いている表情。この様な表情は此処にいる誰もが見たことがない。
だが唯一分かる事がある、それはははやてが今映し出されている傀儡兵の様な者を知っているという事。
そんな皆の予感は的中する。内から湧き出る驚き、懐かしさ、嬉しさを必至に堪え、はやては名を呼ぶ・・・・・その騎士の名を
「ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか」

『ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか』
空間モニターに移る女性に名を呼ばれたガンダムは、直ぐに返事をすることが出来なかった。
自分を驚きの表情で見据える女性・・・・・自分は彼女の事を知っている。
あの時は車椅子が無いと動くことも出来なかった少女、だがそれも10年という歳月の前では過去の出来事だ。
今ではで二本の足でしっかりと立ち、美しい女性へと成長した夜天の主
「・・・・はやて・・・・八神はやて・・・・本当に久し振りだね・・・・」
驚くはやてとは対象に、ナイトガンダムは笑顔でその女性の名を呼んだ。

「ほんまに・・・ほんまにガンダムさんなんやな!!?嘘付いたら承知せんよ!!?」
『ああ、君たちにとっては10年ぶりだね・・・・・けどスバル同様、元気に、美しく成長した』
世辞などの感情が一切感じられない心からの言葉に、はやては顔を赤くし、てれを隠すかのように俯く、
だが、ふとガンダムが呟いた言葉に引っ掛かりを感じたため、再び顔を上げ彼を見据えた。
「ちょいまって!?ガンダムさん、さっき『君たちにとっては10年ぶり』って・・・・どういう事や!?」
『横から失礼するぞ、それについては後で話すよ。あたしやスバルは無論、ガンダムでさえあたしらと同じ・・・いや、それ以上に不可解に思ってるからな。
とりあえす、積もる話は六課に戻ってからで・・・』
横から割り込み、話に区切りをつけたヴィータに、はやては高ぶる感情を抑えこむと同時に、今後の指示を簡潔に伝える。
そしてもう一度モニター越しに写るガンダムの姿を名残惜しそうに見つめいた後
「それじゃ、六課でまっとるから・・・なのはちゃんの台詞を取るけど、色々おなはしきかせてぇな・・・」
通信を切った。

「・・・ふぅ~・・・」
通信を終えた後、はやては深く息を吐くと同時に既にグリフィスが起こした椅子に倒れこむ様に座る。
だがその表情は心からの嬉しさがにじみ出ている笑顔、常に顔を合わせているグリフィスでさえ、その笑顔に自然と心を奪われ見惚れてしまう。
「なんや~グリフィス君?私の顔じっと見てぇ~?」
既にグリフィスの視線に気が付いたのだろう、はやては悪戯心満載の笑みで隣にいるグリフィスを見つめる。
目が合った瞬間、グリフィスは面白いように慌てふためき、後ろへと下がりながら必至に否定しようとするが、根が真面目な分、言い訳の言葉が出で来ない。
そんな幼馴染を可哀想に思ったのか、シャリオが『自分も混ざってからかいたい』という感情を押し殺し、助けに入った。
「ですけどはやてさんはあの・・・・人?のことをご存知なのですか?」
「私も気になります!?見たことも無い種族でしたし・・・それに八神部隊長の凄く嬉しそうな表情・・・是非教えてください!」
シャリオに加え、アルトもまたガンダムについての説明を求める。ルキノも声には出さないものの、気になっているのだろう、二人と一緒にはやての方へと顔を向けた。
「う~ん、詳しい事は本人の紹介と一緒でな。まぁ簡単に言うと、私や守護騎士の皆、そんでなのはちゃんやフェイトちゃん達を救ってくれた勇者様って所やな」
「み・・・・皆さんを・・・ですか?」
ようやく我に返ったグリフィスを含め、はやて以外のロングアーチの面々はその言葉に只唖然とする。
外見で判断してはいけないのだが、見た感じではどう見ても強そうには見えない。
だが、ヴィータの報告からして今回の事件を解決したのはそのガンダムという騎士だ、はやての言葉は嘘では無いのだろう。
「なんや?皆疑っとるんか?まぁ、初めてガンダムさんを見たら強そうって印象は抱かないかもしれない・・・・・私も可愛いっておもっとったし。
せやけどな、ガンダムさんは強いでぇ~。ちなみに分かりやすく言うとな、シグナムが好敵手と認め、私達と本気の戦いが出来る程度って所や」
余りにもわかりやすい例えに、皆は唖然としながらもガンダムの評価を改める、同時に『見かけで判断してはいけない』と言う事を再認識した。


「・・・・・(バーサルナイト・・・ガンダムさんか・・・)」
ストームレイダーの嵌め殺しの窓から空を見ながら、ティアナは楽しそうにスバルと会話しているガンダムの姿を瞳だけを動かして見つめる。

副隊長であるヴィータが現場に向かってから数十分、彼女は見たことも無い種族と一緒に帰ってきた。
先ず彼らを迎えたのは自然保護局員の皆だった。全員が彼の無事を喜ぶと同時に助けてくれた事への感謝の言葉を贈る。
その中にはキャロの姿もあった。彼女からしてみればこの異邦人の騎士は家族も同然の自然保護局員達を助けてくれた恩人だ、当然といえば当然の行動だと思う。
その後、キャロとエリオのライトニング組はこの場に残る事となった、名目は『襲撃時の事情聴取のため』
本当は既に事情聴取は終了しており、その様な事をする必要など無かった。だがヴィータ副隊長が気を利かせたのだろう。

       「久し振りに会えたんだ、ゆっくり、じっくり話をしてこい・・・・・・でも夜までには帰ってこいよ」

つまりは『久し振りにゆっくりして来い』という事だ。ちなみにチームでの行動という事でもあり、エリオも一緒に残る事になったのだが、
彼を見た瞬間、女性の自然保護局員達からは好奇の視線、一部男性の自然保護局員達からは妙な敵意を感じたのは気のせいだろうか?
そのため、今ストームレイダーに乗っているのはヴァイス陸曹とリイン曹長にヴィータ副隊長、スバルにバーサルナイトガンダム、そして私、ティアナ・ランスターだ。

「はじめまして皆さん、私、ラクロア騎士団所属バーサルナイトガンダムと申します」
自分達の前で跪き頭を垂れるという初対面の挨拶の仕方に度肝を抜かれながらも、彼はストライカーズの面々とは直ぐに打ち解けていた。
彼の態度は無論、スバルやヴィータ副隊長の説明(スバルにいたいっては思い出話全開だった)もあったからだろう。
だが私はそれだけではなかった、私が自分の名を紹介した時だ、あの時
「ティアナ・ランスター・・・・もしかしてディータ殿の妹君ですか?」
兄の名が出たときには正直驚き、声を詰まらせた。そして、それが引き金になったかの様に昔の出来事を思い出す。

それはまだ兄が生きていて・・・・・そう、十年前の誕生日の時。
あの時自分は貰ったプレゼントに夢中になって兄の話を余り聞くことは無かった、だが『やさしい騎士に会った』という言葉は覚えていた。
そして数日たった日のあの夜、物音に起きた自分が見たのは、自身のデバイスを持ち出かけようとする兄の姿だった。
どう見ても遊びに行くような格好ではない事は当時の自分にでも十分理解できた、だからこそ聞いた、何処へ行くのかと。
兄は自分を起こしてしまった事を謝りながら、腰をお降ろし、自分と同じ視線で答えてくれた。
『友である騎士を助けに行く』と、そして明日には帰ってくるといい出かけていった。

おそらく・・・・いや、間違いなくあの時兄が言った『優しい騎士』そして『友である騎士』というのはガンダムで間違いないだろう。
時間の経過、そして彼が私の名前を聞いただけで兄の妹だと分かった事、疑いようが無い。
正直、兄が言っていた騎士に会って見たいとは思っていたし、兄もまた自分を紹介する予定だったらしい。
だが彼は一ヶ月も経たずに自分の世界に帰り、兄も帰らぬ人となった。

「(その騎士が目の前にいる・・・・神様も面白ことをしてくれるわね)」
兄は無論のこと、ヴィータ副隊長やリイン曹長、そしてスバルの態度からしてあの騎士がどんな人物なのかは大体予想が付いた。
簡単に言うと『とてもいい人』だと思う、そうでなければ皆の接し方に納得がいかないからだ。
「(・・・・・今度・・・お兄ちゃんの事聞いてみようかな・・・・・)」
いつの間にか視線だけではなく顔そのものを窓から見える風景から楽しく話す二人へと向けていた。そんなティアナの視線を感じ取ったスバルが
楽しそうに手招きをし、自分を誘う。
本当ならスバルの誘いに乗りたい。だが、自分が会話に参加するとなると、必ず伝えなければいけないことがある、兄『ディータ・ランスター』の死を。
もしこの事を伝えたらスバルは無論、おそらくバーサルナイトガンダムも自分の事の様に悲しむだろう。そしてこの場の空気を濁してしまうに違いない。
今の同僚の気持ちを駄目にはしたくは無い。この事を伝えるのはいつでも出来る。
だからこそ、ティアナはわざと空間モニターを出現させ、事後報告書を入力し始める・・・参加しない事を表すために。
「挨拶は済ませたから私は後にしておくわ。それに、今のあんたの事だから事後報告書とか忘れそうだしまとめてやっておく・・・・後で苺パフェ奢りなさい」
「ティア・・・・うん!ありがと。ジャンボサイズ奢るね」
「アンタの言う『ジャンボサイズ』はやめてね・・・・普通でいいわ・・・・・ん?」
スバルが言うジャンボサイズを想像した瞬間、顔を引きつらせながらも律義に通常サイズを頼むティアナ、
そんな彼女の瞳が偶然、ガンダムの後ろの嵌め殺しの窓から、ある光を捉えた。

青空と白い雲しか映さない窓、その中に現われた一つの桃色の光。何も知らない人なら警戒などをするだろう。だが、知っている側からすれば警戒をする必要など無い。
あの光・・・魔力光を放つのはあの人しかいないからだ。
おそらく既に着艦することを伝えたのだろう、後部ハッチが開き、強風がガンダム達を襲う。
そしてその風に先導されるように一人の人物が降り立った。
ティアナにとっては完璧とも思える隊長
スバルにとっては憧れの存在
そしてバーサルナイトガンダムにとっては10年ぶりに再会する強い意思を持った少女

降り立った女性は、スバルの隣にいるガンダムを見つめると同時に瞳に涙を溜めながら笑みを浮かべる、そして
内から湧き出る思いを抑えきれずに駆け出し、ガンダムに抱きついた。
突然の隊長の行為にスバル達は唖然とする、だがそれ以上に抱きつかれたガンダムは突然の事に何が起こったのかさえ分からない。
だが直ぐに冷静さを取り戻し、何が起こったのがを瞬時に整理する。
自分は先ほどヘリコプターに入ってきた女性に抱きつかれている。そして、自分はその女性に見覚えがある。
あの時はまだ少女だった、真っ直ぐな気持ちと強い心をもった魔法使い。その身からは信じられないほどの魔力を秘めながらもその力に溺れる事無く、皆のために振るった。
はやて同様彼女も大きく、そして美しく成長した・・・・そんな彼女達を見るたびに自分が時間に取り残された感じに陥るが
それ以上に彼女達が元気に成長した嬉しさの方が遥かに大きい。
「(フェイトやユーノ、クロノにギンガ、アリサにすずか・・・・彼女達と出会うたびに驚くのだろうな・・・・)」
そんな事を思いながら、ゆっくりと彼女の体を離し、顔を見据える。そして指でそっと流れ落ちそうな涙を掬う。
「・・・・駄目だよ、隊長がベソなんかかいては」
「ガンダムさんが・・・悪いんだよ・・・皆を待たせるから・・・心配するから・・・」
「・・・すまない・・・でも、これだけは言わせてほしい・・・・ただいま、なのは」
「うん、お帰りなさい、ガンダムさん」


「そっか・・・・ヴィータちゃんが驚くなって言っていたけど・・・そんな事が・・・」
「ああ・・・・・だけどすまない、こんなに時間が経つとは思っていなかった・・・・」
「ガンダムさんが謝る必要なんて無いよ、約束を守って、無事に帰ってきてくれたんだから」
邪魔をしてはいけないと思ったのだろう、ガンダムとなのはの会話をスバルはティアナの隣でニコニコしながら聞いており
ティアナは視線を窓から見える街の景色に向けながらも、その瞳は街ではなく窓に映るガンダム達の姿を、そして両耳でしっかりと会話の内容を聞いていた。
正直な所、ティアナは驚いていた。
自分は隊長である『高町なのは』を『完璧な人間』だと思っていた。
魔法の才能、若くしての今の地位、そして誰もが認めるカリスマ性、どれをとっても遠い存在、自分とは住む世界が違う人間だと思っていた。
だが今の彼女はどうだろうか?
楽しそうに微笑み、驚いた表情をし、声を出して笑う、其処には自分が感じていた『高町なのは』は微塵も感じられない、友達と話す只の少女だ。
そう感じると同時に自分自身の視野の狭さに情けなくなる。
確かに『高町なのは』は自分が思っている様な『完璧な人間』だという考えは変らない。だがそれだけではないのだ。
彼女は優秀な魔道師であると同時に自分達と同じ女の子、決して仕事や戦いの世界だけで生きる人間ではない。
もしそんな人間なら、この様に心から楽しく笑ったりすることなど出来る筈が無いからだ。
「(・・・楽しそう・・・なのはさんも普通の女の子だったんだな・・・・)」
強さや功績などが原因で彼女を『強い魔道師』として見る者は多い、自分もその一人だった。
だがいざ戦いから離れれば、自分達とそう歳が変らない女の子なのだ。
「(今度・・・・スバルと一緒に誘ってみようかな・・・・・・)」
最近見つけた美味しいケーキを出してくれるお店、今度の休みになのはを誘ってみようと思う。
仕事や訓練の話しは一切無し、、一人の女の子として高町なのはという人物と話してみたい。
数時間前の自分だったら『図々しい』『すむ世界が違う』などと理由をつけてそんな事考えもしなかっただろう。
だが今はそんな気持ちは微塵も無い、今まで自分が無意識に隔てていた壁を崩したい。だたその気持ちで行動しようとしている自分がいる。
「まったく・・・・・馬鹿スバルの猪突猛進振りが移ったのかしかね?」
「・・・ん?なんかいったティア?」
最後の言葉だけは自然と口に出してしまった。
小さな呟きだったのだが、近くにいたスバルには聞こえたのだろう、キョトンとしながら自分を見つめるスバルに、
ティアナは誤魔化すかのように軽くデコピンを一回、そして
「スバル、やっぱりパフェじゃなくてケーキにするわ、一人前多くね」
デコピンをされたオデコを抑えながら何が起きたのか混乱しているスバルをよそに、ティアナは予定変更だけを良い再び視線を窓の外に戻す。
その視線の先には、これからストームレイダーが降り立つであろう自分達の本部、機動六課本部隊舎が見えてきた。


ヘリポートにゆっくりと着陸したストームレイダーを待っていたのは、待機していた整備員数名、そして
「来たわよ!ザフィーラ!!」
「気持ちは分からんでも無いが落ち着け」
白衣を羽織った女性と蒼い毛並の大きな狼、傍から見れば妙な組み合わせだが、そう思うのは彼女達を知らない者だけ、
此処に配属されてる以上、待機している整備員達は無論知っている、
夜天の主にして此処の部隊長『八神はやて』の守護騎士『湖の騎士シャマル』と『盾の守護獣ザフィーラ』
此処では無論、管理局の中でも知名度は高い。
そんな二人が仕事(シャマルは医務官、ザフィーラははやての警護)を中断してまで此処に来ることに疑問を感じるのは当然である。
だからこそ緊張する者、そして「誰かが大怪我をしたのか?」「凶悪犯を捕まえたのか?」などと、こそこそと小声で話したりする者達がいても可笑しくは無い。

ヘリの後部ハッチと操縦席が開く、先ず出て来たのはスバルとティアナ、そして操縦席からはヴィータ。
整備員達が『お疲れ様です』と敬礼で労うと同時に後部ハッチから部隊長のなのは、そしてバーサルナイトガンダムが出てきた。
隊長であるなのはにも挨拶をしようとしたのだが、彼女の隣にいる小型の傀儡兵のような者を見た瞬間、敬礼をしようとした手を止め、言葉を詰まらせてしまう。
ナイトガンダムに関しても、傍から見れば変った傀儡兵にしか見えないだろう。だがそう思うのは彼を知らない者だけだ。
当然今固まっている整備員達は彼の事を知らない、だからこそこの態度も当然といえば当然である。
中には「何だ?」「秘密兵器か?」など、好奇の視線を向けながらヒソヒソを話し出す者も出てきた・・・・その時

             「言いたい事があるならはっきりと言え!!(言いやがれ!!)」

ザフィーラとヴィータの怒声が周囲に木霊し、ヒソヒソ話をしていた整備員達と一気に黙らせた。
一気に押し黙りうな垂れる整備員を他所に、シャマルとザフィーラは小走りにナイトガンダムへと近づく、10年ぶりの再会を祝うために。
「おかえりなさい・・・ガンダムさん。本当に久し振り」
「よく無事に戻ってきた、騎士ガンダム。主共々、お前の帰りを心待ちにしていたぞ」
「ああ、ただいま、湖の騎士シャマル、そして盾の守護獣ザフィーラ・・・・二人とも変らず元気でよかった」
シャマルが一歩近づき、腰を下ろす。そしてゆっくりと優しくガンダムを抱きしめる、突然の彼女の行動にビックリしながらも、
自然とガンダムも彼女を抱きしめる、互いに再開の喜びを分かち合うかの様に。

「ごめんなさい・・・整備員達の態度に不快な思いをさせてしまって」
「気にしないでくれ、MS族が確認されていないんだ、彼らの態度は当然だよ」
「ったく、相変らず甘いって言うか易しいって言うか・・・・まぁ、それがお前のいい所でもあるんだけどな・・・だけどこの視線はどうにか何ねぇのか?
こんなんじゃ体がもたないだろう?」

ヘリポートでの再開の後、ガンダムはヴィータとシャマルに連れられ六課本部隊舎の中を歩いていた。
やはり自分という種族が珍しいのだろう、その上此処では有名な守護騎士達と歩いているのだ、すれ違う人々は整備員達が向けたような視線を向ける。
だが仕方が無いと思う、自分の様なMS族は珍しいし、10年前も本局でこのような体験はした。言ってしまえば慣れてしまった。

「心配してくれてありがとうヴィータ、やはり君は優しい子だね」
「なっ・・ば・・馬鹿!!何言ってんだよ!!あ・・あたしは報告書書かなきゃいけないから行くぞ!!あとはシャマルに連れて行ってもらえ!!!」
純粋に褒められた事に、ヴィータは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らした後、機械の様な動作で回れ右、全力疾走でその場から逃げるように離れた。

あっという間に視界から消えたヴィータをポカンとした表情で見ていたガンダムはゆっくりとシャマルの方へと首を動かす。
「・・・私は・・・彼女を怒らせるようなことをしたでしょうか?」
「ガンダムさん、世の中には恥ずかしくて素直な気持ちを表せない子もいるのよ。ちなみにああいうのを『ツンデレ』って言うらしいわ」
「『つんでれ』・・・・・ですか」
「そう『ツンデレ』。ちなみにティアナとアリサちゃんが該当するわね・・・・・あとシグナムもかしら・・・何でも『萌え属性』に必要不可欠だとか」
もしこの場にシャマル以外の人物がいたら『変な知識を与えるな』の声と共に彼女を殴り倒しても喋らせる事を止めただろう。
だがこの場にいるのはガンダムとシャマルだけ、彼女の知識の供給を止める者は誰もいない。
その結果、二人が部隊長室に付くまでの数分間、ガンダムの頭の中に無用な知識が幾つも加わる事となった。

「さっ、此処よ、中に八神部隊長・・・はやてちゃんが待ってるわ」
二人の前の前には部隊長室の扉、その扉は自動式であり、あと一歩踏み出せば空気が抜ける様な音と共に自動で扉が開くようになっている。
だが直ぐに入ると思っていたシャマルの予想に反し、ガンダムは踏み出そうとはしない、扉をジッと見据えている。
不審に思いながらも、自分が先に入ろうと一歩踏み出そうとする・・・・だが
「・・・・お待ちを」
静かに・・・だが否定を許さない声でガンダムは右手を差し出し、彼女の動きを止める。
そして差し出した手を腰に回し、バーサルソードの剣柄を握った。
ゆっくりと引き抜かれるバーサルソード、その突然のガンダムの行為にシャマルは一瞬唖然とするも、説明を求めるため尋ねようとする。
だがそれより早く、ガンダムは一歩踏み出した。自動ドアのセンサーが反応し扉が開く

                                ガキッ!!

シャマルが聞いたのは扉が開くときに聞こえる空気が抜けるような音ではない、何か金属が激しくぶつかり合った音。何が起きたのか分からず唖然としてしまう。
結果的に状況を理解するのに数秒を要した・・・・・とても簡単な答えだ。入り口にいるシグナムが扉が開くのと同時にガンダム目掛けてレヴァンティンを振り下ろしたのだ。
正に不意打ちと言っても良い攻撃、だが彼女が振り下ろしたレヴァンティンはガンダムのバーサルソードによって受け止められていた。
「・・・・・よく気が付いたな、殺気は無論、気配すら消していたのだがな」
「周りと違って扉の前が静が過ぎた・・・・まるで故意に場の空気を消したかの様に・・・それで怪しいと思っただけさ」
「ふっ、その腕、衰える所が磨きがかかっている、さすがは我が好敵手だ」
「ありがとう・・・といいたいけど、さすがに手荒すぎる気がするな」
流石に今の行為は度が過ぎてると思ったため、ガンダムはさりげなく指摘する。
指摘されたシグナム本人も流石にやりすぎたと思ったのだろう、声を詰まらせた後、素直に謝罪した。
そして謝罪後、ゆっくりと腰と落とし、シャマルやなのは同様ガンダムを優しく抱きしめた。
「よくぞ帰ってきた、騎士ガンダム。好敵手として、共として、帰還を心から祝おう」
「ありがとう、そしてただいま、烈火の将シグナム。貴方の美しさは変らず、強さにはより磨きがかかった」
「ふっ、お前にそう言われるとこそばゆいな・・・だが悪くは無い」

『積もる話は中に入ってからしましょう』というシャマルの言葉に3人は部隊長室へ。
流石に機動六課を取り仕切る部隊長の専用室、部屋の広さは指令室並、はやてとリインフォース・ツヴァイの机の他に、
来客用の大型テーブルと数人は軽々と座れるソファーが備え付けられている。
そのソファーに座り、今か今かとガンダムの到着を待っていたはやては、彼の姿を確認するないなや立ち上がり駆け足で近づく
そして皆と同様に抱きつき、心から再開の喜びを表した。
「あ~!やっぱりガンダムさんや!ほんまお帰り!!」
「ああ、改めてただいま、はやて。もう走れるほど歩けるようになったんだね、本当によかった」
「当たり前や、もうあれから10年たってるん・・・・・・そうやな、早速で悪いんやけど先ずはそれについて教えてくれない?」

途中遅れてきたなのはとツヴァイも加わり、今部隊長室には重要な会議を行えるほどの人物が揃っていた。
それぞれがソファーに座り、シャマルが入れてくれたお茶を味わいながらひと段落着く。
そして頃合を見計らったところではやてが話を切り出した。
皆が沈黙し、注目する中、ガンダムはゆっくりと10年前、皆と別れてからの出来事を話し始めた。
伝説の巨人との戦い、ガンダム族の末裔達との出会い、そしてなぜか記憶が途切れ途切れになっているジークジオンとの戦い。
時間にして約一時間、静まり返る部隊長室にガンダムの声だけが響き渡った。
「・・・・これが私がスダ・ドアカ・ワールドから帰り、今この時までに体験した事です」
「・・・色々聞きたいこともあるけど、先ずは時間の流れやな。ガンダムさんはスダ・ドアカ・ワールドに戻ってから再び此処に来るまでに要した時間は2年。
せやけど私達が再びガンダムさんに会うまでに10年かかっとる・・・・ぶっちゃけありえへん」

次元世界同士が近い場合(航行艦を使わない程度)時間の流れに変化は無い、だが航行艦を使う距離を、転移に関する特殊な能力が無い人間が次元間移動をすると
時間の歪み(俗に言う浦島太郎の様な効果)が発生することは確認されている。
それでも『往復したら数十年経過していた』という事は無く、精々数分程度の歪みなのは実証されていた。

「次元航行、次元間移動での時間差は確認はされているけど精々数分程度、それにガンダムさんの話からしても私達の世界とスダ・ドアカ・ワールドの
時間軸はほぼ変り無い・・・・もしかして此処へ次元間移動する時に何かが起きたとしか考えられへんな」
「ありえない話しでありませんね、そのスダ・ドアカ・ワールド自体が未だに見つからない次元世界、我々の常識が通用しないのかもしれません。
それに手掛りが無い以上、ガンダムが体験した時間の歪みを解決する事は・・・・無理かと思います」
シグナムは遠まわしに結論付け、この話を切り上げ様とする。この話題には興味があるが原因を解明する材料が不足している。
それ以前に彼が無事に帰ってきた、それで十分ではないか?この場にいる全員がその意見に無意識に同調した。

「だけど、伝説の巨人にガンダム族・・・そしてムーア界、向こうでも色々とあったんだね。でもガンダム族か。
その『アレックス』って言う騎士もガンダムさんと同じガンダム族なんだよね?何か知らなかったの?」
「いや、アレックス殿もガンダム族の末裔は自分を含めたアルガス騎士団のみといっていた。だがラクロアにもガンダムの伝説があった以上、
スダ・ドアカ・ワールドの何処かにその末裔がいても可笑しくは無いとは言っていたよ・・・・・ただ」
突然言葉を詰まらせ、俯くガンダムに皆が視線を向ける。
おそらく話そうか話すまいかと迷っているのだろう。彼らしくない言動に先ほどまで話していたなのはが切り出す
「?・・・・どうしたの?」
「これは・・・・『何となく』という曖昧な感覚なんだが・・・・・最近、自分は元々、スダ・ドアカ・ワールドの者では無いような気がしてきたんだ。
いや、今ではそんな気がしてならない・・・・・何故だか分からないが・・・すまない、忘れてくれ」
「それって・・・ガンダムさんが次元漂流者って事でしょうか?」
「う~ん・・・・そないな曖昧な感覚なら気のせいやと思うんやけど・・・・・発言者がガンダムさんやからな。気のせいで終らすには出来んな。
スダ・ドアカ・ワールドにも地球に来た時同様、次元漂流の結果とかやったらガンダムさんの『何となく』も解決するんやけどな。
何より『気付いたら記憶が無く、景色に全然見覚えが無い』って事自体、次元漂流者の症状そのものやからな。せやけど・・・・ガンダムさん」
「いや、仮に自分の事や住んでいた世界が分かっても今更帰るつもりは無いよ・・・ただ、自分の正体が不可解なのは気持ちのいいものじゃないから・・・・・それに」

頭の中に過ぎったのはあの光景、最初に自分を保護してくれた人達。
そして涙を流し、帰るなと言ってくれた少女、自分はあの時約束したのだ・・・必ず帰ると。
彼女はどうしているだろうか・・・元気だろうか。

「他の・・・・皆は元気なのかい?」
「勿論や!フェイトちゃんとリインフォースは今は用事でこの場にはおらへんけど連絡はいっとる筈や。
ユーノ君は無限書庫ってとんでもない図書館の司書長をやっとる。女性から見ても妙に美人さんに育っとるからおどろくなや~。
あとクロノ君はエイミィさんと結婚したんよ。今では二児の父!あとで連絡をいれとかんとなぁ」
はやての楽しそうな話し方からするに、皆無事に成長し、日常生活を送っているのだろう。今は会えずとも、それを聞けただけで安心感に満たされる。
「(プレシア殿に関しては・・・・フェイトとアルフに最初に話そう)皆無事でよかった・・・それで(あ~まちまち!!!」
そして、必ず帰ると約束した子達の事を聞こうとするが、それより早くはやてが大声を上げ手を差し出す。まるで自分の発言を遮るかのように。
「実はな~、ガンダムさんにお願いがあるんや、今度うちらとスバル達ストライカーズが聖王教会からの任務で、ある世界のある場所に数日滞在する事になったんや」
ガンダムは突然の会話変更に要領をつかめないが、それ以外の人物ははやてが何をしたのかが直ぐにわかり、笑みを浮かべる。
「そんでガンダムさんにはその世界でお世話になる人のところへ行って挨拶をして来てもらいたいんや・・・・頼めるか?」
「えっ?ああ、構わないけど。でも私が言っても余計混乱するだけじゃないかな?六課の誰かが行った方がいい気がするのだけれど」
「それなら心配あらへん、なんたってガンダムさんにぴったりの任務やからな・・・・ちなみにその場所というのはやな」
机から身を乗り出し、ガンダムに顔を近づける。そして目が会った瞬間悪戯を成功させた子供の様に微笑んだ。

          「場所は第97管理外世界『地球』。日本の街『海鳴市』在住の現地協力員『月村すずか』のお宅や」


月村邸裏庭

転送を終えたガンダムはゆっくりを瞳を開ける。
目に映るのは10年前、この家で庭師の仕事をしていた時にいつも見ていた光景。
まるで森の様に木々が生い茂げ、風がふくたびに揺れてさわさわと音をたてる。
これが一家庭の庭だと聞いたら誰もが驚くだろう・・・・現に自分も始めて聞いたときは驚いたものだ。
あの時、この場所で過ごした事を思い出しながらゆっくりと歩み始める。
転送ポットから半分ほど歩いただろうか・・・・いつの間にか周りには自分と一緒に歩くかの様に猫が数匹ついてきていた。
「此処は変らず猫達の楽園なのだな」
庭で仕事をしている時、剣の鍛錬をしている時、そしてリビングで寛いでいる時、そのすべての時に必ずと言っていいほど猫が一緒だった。
気まぐれといわれている猫にしては主人やここに住む住人には忠実であり、共にいることはあっても、何かの作業をしている時に邪魔をされた事は一度も無かった。
「案内をしてくれるのかい?」
その問いに数匹いる猫の内の一匹が元気よく鳴き、小走りに前へと進む。
返事をする様に鳴いたあの猫、あの時月村家で保護された時に自分を起こしてくれた猫によく似ている。
もしかしたら子供なのかもしれない。その子にまた導かれると思うと妙な運命すら感じてしまう。

暫く歩くと森を抜け、開けた庭へと出る。先ず目に付いたのはこの森とも思える庭の持ち主が住む月村邸。久し振りに見るその外観に改めて驚き、そして懐かしさを感じる。
そしてその近くから聞こえる歌声にガンダムは和らいできた緊張が一気に元に戻った感覚に襲われた。
今いる位置から聞こえる歌声、あそこは自分がすずかのために花壇を作った場所だ。其処に誰かがいる・・・否、もう聞こえる歌声で分かったしまった。
拳を力強く握りしめ、無理矢理緊張を打ち砕く。
だが不安に思う、彼女は自分の事を覚えているだろうか、待っていてくれているだろうか、緊張に続いて襲い掛かる不安に狩られながらも
ガンダムはゆっくりと歩き出す・・・そして


「これでよしっ」
日課の水遣りを終えたすずかは如雨露を両手で持ち直し、先ほどまで水をやっていた花々を見つめる。
10年前、とても大切な人が作ってくれた花壇、今では季節ごとに色とりどりの花を割かせてくれる。
何時見ても心を穏やかにしてくれる。そんな花々を見つめながらも、ふと今後の予定を思い出し腕時計を見る
「たしか・・・・はやてちゃんの部隊から挨拶に来る人がそろそろ来る頃かな、今はファリンもイレインもいないし、お茶の準備をしなきゃ」
お茶とお茶菓子は何がいいだろうと考えてる最中、後ろから聞こえる猫の鳴き声に自然と振り向く・・・そこには


歌声が聞こえていた方へと向かったガンダム。角を曲がり正面を見つめる、其処で見たのは花壇に水をまく一人の女性だった。
あの頃とは違い、大きく、美しく成長した・・・・今も昔の様に紫のロングヘアーがよく似合う。
記憶にある十年前の姿と重なったがそれも一瞬、ガンダムの目の前には美しく成長した一人の女性『月村すずか』がいる。

「えっ・・・?」
目の前の光景に頭が追いつかない、如雨露を落とし、中に入っていた水が足に盛大にかかるが今はそんな事気にもならない。
夢なのか?幻なのか?それとも本当の出来事なのか?
10年前とは違い、鎧が変ってはいるが瞳を見れば分かる間違えるはずが無い。
怯えていた自分を勇気付けてくれた、再び会うことを約束してくれた、あの強く優しい瞳を。
情けない事に未だ頭が混乱し、声を上手く出す事ができない。話したい・・・名前を呼びたい・・・そんなことも出来ない自分に腹が立つ
だが、彼女が言葉を発するより先に、彼が自分の名を呼んだ

                        「すず・・・・か」

それだけで十分だった、目の前にいるのは幻ではない、自分が見ている夢でもない。
彼は約束を果してくれた、かえって来てくれたのだ、それが分かっただけで無意識に体が動き走り出す。
突然走り出した自分に彼が驚いた表情をしている、だが10年も待たせたのだ、驚かせたって罰は当らないだろう。
そして、スバルの時の様に走り出した時の勢いそのままに、ガンダムに抱きついた。

「うわっ!?」
走る勢いを殺さずに抱きついてきたすずかに、ガンダムは彼女を受け止める事が出来ずに後ろへと倒れてしまう。
スバルの時は勢いやマッハキャリバーのスピードなどから、受け止められるように体に強化魔法を施していたが、今回は何もしていない。
無論、掛ける暇はあったのだが、女性だから大丈夫だろうと思ってのが間違いだった。
すずかも夜の一族の血を色濃く引いているため、通常の力は人間の比ではない、勿論日常生活を送る時には自然とリミッターを掛けてはいるが
今回はそんな物を無視してしまうほど感情が高ぶってしまい、結果、ガンダムを押し倒す形となった。
「ガンダムさん!ガンダムさん!!本当に・・ほんと・・・う・・・・」
名を呼びながらまるで絞め殺す勢いですずかは抱きしめる。だが、名前も徐々に嗚咽に変り、抱きしめる力も緩んでくる。
ガンダムも最初はすずかの行動に驚き、抱きしめるとは程遠い絞めつける行為にも顔を顰めた。
だが同時に思う、今彼女が泣いているのは自分が原因だという事だ。
一度目を瞑り、心を落ち着かせる。そして両手を彼女の背中に回し、優しくすずかを抱きしめた。
泣きじゃくる彼女の背中を優しく叩き落ち着かせる。それだけで泣き声は嗚咽へと変り・・・・・次第にそれも収まってゆく。
そして、完全に収まった後、すずかは体制はそのままでゆっくりと体を起こした。
至近距離から互いを見つめる二人・・・互いに何を話していいのかわからない・・・だが言いたい事は互いにあった。それは只の挨拶

                       「ただいま・・・・すずか」

                    「おかえりなさい・・・・・ガンダムさん」

あの別れから10年・・・・少女と騎士は再び再会を果した。

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最終更新:2010年02月14日 19:27