魔法少女リリカルなのはStrikers×龍が如く 嘘予告

『リリカルが如く』


数多の管理世界の中心でもあるミッドチルダ、その首都クラナガンは無論だがあらゆる分野で発達した未来都市。
工業が流通が、都市を形成するあらゆる機能は最先端、そこに住む人々に快適にして安定した生活を提供している。
それは正に人々の求める理想的な世界の形であった。
だが人間とは清浄なだけでは生きていけない、その精神と肉体には常識的規範の外にあるものを求める事がままある。
酒を飲みたい、女を抱きたい、クスリが欲しい、様々な不浄なる欲望を人は抱き求める。
それに応えるのは無論法治を破る者達、夜の世界に生きる人間、犯罪者の形成する結社。俗にマフィア・ギャング・幇そしてヤクザと呼ばれる存在だ。
ミッドチルダの裏社会を支配するのは【東城会】と呼ばれるヤクザ組織の一つである。
そして、男はそんな組織の一員だった。




からん、と音を立ててグラスの氷が揺れた。
そこに満ちるのは琥珀色をした芳醇な芳香を持つ液体、永き時をかけて人々を魅了してきたアルコールと言う名の誘惑。
男はグラスを傾け、その熟成された味わいを楽しんだ。


「ああ……良い酒だ」


口内を通り喉を流れる酒に舌鼓を打ち、壮年を過ぎたその男は感嘆の言葉を漏らす。
だが男の隣りに座った美しい少女は、彼のそんな様子に綺麗な眉をしかめて苦言を吐いた。


「もう、お父さん飲み過ぎですよ?」


艶やかな紫色を持つ長い髪を揺らす美少女、ギンガ・ナカジマは父の飲酒に咎めるような言葉をかけた。
だが当のゲンヤはヒラヒラと手を振り娘の苦言に軽く返す。


「おいおい、まだこれくらい序の口だぜ? それに酒場で一滴も飲まないヤツにゃあ言われたくねえ」

「17歳の娘に飲酒を勧めないでください」

「法的には問題ない筈だが?」

「個人的倫理感です」

「そいつは残念」


男、ゲンヤ・ナカジマは冗談交じりの言葉を吐くと、再びグラスを傾けた。
ここはミッド最大の歓楽街カムロ・タウンにある一軒のバー、来る人間は決して多くないが良い酒と静かで落ち着いた一時を提供してくれる隠れた名店。
様々な職種の様々な人間がその日の仕事の疲れを癒しに訪れる、ゲンヤとギンガのナカジマ親子もまたそんな客の一組だった。
そんな時だった、唐突にガラスの砕け散るような耳障りな音と怒声が店の中に響き渡る。
突然の騒ぎに二人が顔を向ければ、そこには真っ赤に染めた顔を怒りで歪める一人の男が立っていた。
焦点の定まらない目、口から漂うアルコール臭の溶けた息が離れた場所まで漂いそうな程の臭気に満ちており男が完全に酔っ払っている事が良く分かる。
だがそれ以上に目を引いたのは、男の服装と手にしたモノ。
身に付けているのは陸士部隊の制服、そして手には刀剣のような形の得物、俗にアームドデバイスと呼ばれる類の魔道師用の兵装を持っていた。


「ああっっ!? てめえ……俺になんか文句でもあんのかっ!?」

「い、いえ……私はなにも……」

「おうおう! 言い訳しようってのか!?」


男はデバイスの切っ先をバーテンに向けて怒鳴り散らす。
誰が見ても酔っ払った男が一方的に言いがかりをつけている絵にしか見えない状況、自然ゲンヤとギンガは眉をひそめる。
同じ地上本部に所属する人間の酷い様に、二人は注意をしようと立ち上がった。
だがそれよりも早く酔っ払った男に声をかける者が一人。


「おいあんた。ここは静かに飲む店だ、騒ぎたいなら他所でやってくれ」


軽く後ろに撫で付けたオールバックの髪型にカミソリのような鋭い眼光、長身を襟を立てたシャツと白いスーツで包み、服越しにも分かる屈強な五体を有した伊達男だった。
身体から滲み出る気迫から、彼が堅気でないという雰囲気がなんとはなしに感じられる。
だが気迫と眼光の鋭さに反してその口調は穏やか、深みのある声と相まって彼の印象をただのヤクザ者ではない男だと思わせた。
だが、まっとうな注意を受けて酔っ払いの男はさらに逆上して赤い顔を余計に真っ赤にする。


「あんだぁテメエは!? 天下の管理局員様に逆らおうってのか、ああん!?」


威勢よく吼え、酒臭い息を撒き散らしながら酔っ払った男はデバイスを向ける。
だが彼は眉一つ動かさず、むしろ不敵な嘲笑気味の笑みを浮かべた。
丸腰の人間がデバイスを向けられて笑みを浮かべる、それはありえない状況。
だがしかし、獅子が棒切れを向けられたとて怯えぬ様に、彼はデバイスを見ても少しも動揺する事はなかった。


「そんだけクダ巻いて、天下の管理局様とはよく言ったもんだな」

「な、なんだと!? てめえ言いやがったな……表に出やがれ!!」

「ああ、構わねえぜ」


完全に怒り狂った男の言葉にも眉一つ動かさず了承、二人はそのまま店の外へと出て行った。
その様に、ギンガは慌てふためき後を追おうとする。
下手をすれば局の人間が人を殺める可能性もある、焦らない法がどうかしているだろう。
だがそんな彼女の肩を父の手が掴んだ。


「な、何するの父さん! このままじゃ……」

「止めとけギンガ、そりゃ杞憂だ。心配する事ぁねえよ、あの男にはな」

「え?」

「まあすぐ終わるさ」


父の言葉が理解できず狼狽するギンガ。
娘のそんな様子に、ただゲンヤは意味深な笑みを浮かべるだけだった。
心配など無用、何故なら彼は獅子すら超える存在、“龍”なのだから。
そうして先ほどの二人が外へ出てからしばらくすると、凄まじい音が聞こえた
まるでコンクリートの上に巨大な肉塊を叩き付けた様な、何ともいえない打撃音。
唐突に耳を打った異音にギンガが驚く間もなく、バーのドアが開く。
そこに立っていたのはアームドデバイスを向けていた男ではなく白スーツの伊達男だった。
服の肩部分に少しだけ煤が付き、拳が血で濡れている以外はまったく怪我一つ負っていない。
ついでに言うならば拳の血にしても彼のものですらなかった。
男の姿にバーテンは慌てて声を上げた。


「だ、大丈夫ですか桐生さん!」

「ああ、気にするな、こいつはあいつのだ」


桐生と呼ばれた男はバーテンから紙ナプキンをもらうと拳の血を拭い去る。そこには案の定、傷一つ無い無骨な拳だけがあった。


「あの管理局の人……大丈夫ですか?」

「ああ、軽くオネンネしてもらっただけだ、気にするな。それより迷惑かけちまったなぁ」

「い、いえ。桐生さんがいてくれなきゃ、どうなっていたか。ありがとうございます」

「よせよ、水臭い。俺はここの店で飲む酒が好きなだけだ」


桐生はそう言うと、もう一度“迷惑掛けてすまんな”とバーテンに告げ、明らかに多めに支払いをして店を出て行った。
見ていた客の半分は唖然と、もう半分は納得したような顔をする。
男の素性を知らぬギンガは無論前者の方だった。


「あ、あの人は一体……」

「桐生一馬さ」

「キリュウカズマ?」

「ああ、ミッド最強の極道、堂島の龍と呼ばれる男だ」


ミッドチルダ最大の暴力団東城会、その直系組織堂島組において腕っ節の強さと義理堅い心意気から“堂島の龍”と呼ばれる男。
それが彼、桐生一馬である。




店を出た桐生は、夜のネオンが煌めく帰り道を一人歩いていた。
めっきり冷え込んできた夜風が身に染みる、アルコールと派手な立ち合いで得た熱も徐々に冷たくなっていく。
どこか別の店で飲み直そうかとも一瞬考えたが、それはすぐに破棄した。
今日はこのまま帰ってすぐにでも眠りに付きたい気分だ。
懐から出した紙箱から煙草を一本取り出し、長年愛用しているオイルライターで火を点ける。
苦く不味くそれでいて癖になる煙たい味を肺に満たす。


「ふぅ……」


口から一度紫煙を吐き出して空気に溶かし、煙草を口の端に咥えると桐生はそのまま帰路に着く。
そんな時だった、路地裏から妙な音が聞こえたのは。
普通なら聞き逃す、もし耳に届いたとしても気にも留めない、そんな音量の異音。
だが彼は足を止め、ネオンの光の届かぬ路地裏に顔を向けた。
それは桐生の身体と本能に染み付いた習性か、彼は理性で処理できない直感を感じたのだ。
今ここを素通りできない、という運命を。
そして、桐生一馬という男は一度そう決めたらあとはただ突き進むだけだ。
闇に包まれた路地裏に足を進め、夜目の効く瞳で注視してあたりを探る。
すると、そこになにか物体が転がっているのを発見した。
小さな子供くらいの大きさのナニか、いや、良く見ればそれは本当に小さな子供だった。
その事実に気付くや否や、桐生は即座に倒れている子供に駆け寄る。


「おい! 大丈夫か!?」


急いで駆け寄ると、桐生は慎重に子供、金髪の幼い少女を抱き起こした。
見た所、外傷らしい外傷は皆無、だが少女は随分と衰弱しているらしく桐生の言葉にもほとんど反応しない。
ただ生命の証である心臓の鼓動と呼吸をするだけだ。
それでも桐生は少女の息がまだある事にほっと胸を撫で下ろした。


「生きてはいるみたいだな……しかしこんな子供が一体どうしてこんな……」


良く見ればその子供が身に付けている服は酷いボロ、ただの布切れを最低限着れるようにした様な代物だった。
オマケに身体に鎖で妙なケースまで巻きついている。
あまりに奇異な状況に、荒事に慣れた桐生は顔の疑問符を貼り付けて、普段は見せぬ表情を呈した。


そしてこれが最初の出会いだった。
堂島の龍と呼ばれた男と聖王の器、後にミッドチルダ全体を混乱に巻き込む大事件の中心人物となる二人の……




次回予告。


邂逅を果たした堂島の龍、桐生一馬そして聖王の器、ヴィヴィオ。
レリックを求めて殺到する謎の機械兵器【ガジェット】の群れに襲われる二人。
そうして、夜のネオン煌めく街で繰り広げられる激闘の嵐!
堂島の龍の拳が唸りを上げて、群がる敵を鉄屑へと変える。



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最終更新:2008年12月21日 15:13