魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第15話

「が・・・・あ・あ・あ・あ・・・・・」
首に掛かる圧迫感に一気に目が覚める。
手を動かし、自分の首を絞めている手を退けようとするがビクともしない。精々引っかき傷を作れるだけ。
目を見開き、どうにか酸素を取り込もうとするが上手くいかず、
見えるのは嬉しそうに自分の首を絞める銀髪の女性の姿だけ。徐々に目がかすみ、意識が薄れてゆく。
「・・・・や・・・め・・・・・・」
ここで初めて、自分は『死』というものを軽視していたと感じた。
自分は何時死んでも可笑しくない。だから死ぬ事なんて怖くない。今思う、何て愚かだったのかと。
とても苦しい、意識が遠のく感覚が気持ち悪い。目を閉じたら二度と光を見る事ができない恐怖感
「い・・や・・・・しに・・・た・・・く・・・・・ない・・・・」
涙を流し懇願する。手を伸ばし、必至に『やめて』と懇願する。
だが、絞める力は変わることはなく、はやては自分の力が急速に抜けてゆく感覚に襲われる。
腕は力を失い垂れ下がり、瞼がゆっくりと閉じる。そして

          衝撃波が放たれ、闇の書の意思は真横に吹き飛ばされた。

「ちっ!?」
「っ!げほっ!げほっ!!」
受身と舌打ちを同士にしながら、衝撃波が放たれた方を忌々しく見つめる闇の書の意思。
圧迫から開放され、咽ながらも涙目で必至に酸素を取り込むはやて。
意識は依然朦朧としてるためか、バランスを維持する事が出来ず、体をゆらゆらと動かしながら前のめりに倒れてしまう。
車椅子から倒れ、床に叩きつけられても、口から唾液を吐きながら咽る。
床に叩きつけられた痛みなど忘れてしまう。とにかく苦しい、この苦しみが何時まで続くのか・・・・でも死にたくない。
そんな時だった、はやての背中に誰かの手が乗せれたのは。
とても暖かな手、その暖かさが背中を伝わり、体全体に広がる。
「・・・・あたたかい・・・・」
いつの間にか咽る苦しさから開放されていた。首を絞められた時の強い圧迫感も徐々に引いていく。
涙で濡れた目を擦りゆっくりと体をおこす。
「・・・はぁ・・はぁ・・・・あの・・ありがとうござ・・・・」
そして、この苦しみを和らげてくれた人物へと顔を向ける。だが、その顔を見た瞬間、
あの時の、首を絞められた時の恐怖が一気に蘇った。
自分を助け、痛みを和らげてくれたその人は、銀髪の美しい女性、自分の首を絞めた人物と瓜二つなのだから。
「ひっ!!」
恐怖に顔を引きつらせ、離れようとする。だが、動かない足では逃げる事などできない。
いや、そもそもこの場所から逃げる事など出来るのだろうか?
辺りを見回しても、出口など見当たらない、一面ほの暗い景色に支配されている。
「はははは!!無理無理、貴方は此処からは逃げられない・・・・だから、とっとと死んで!!!」
はやての心を見透かしたかのように答えた闇の書の意思は、笑いながら攻撃を放つが
その攻撃は、はやての前に出たもう一人の闇の書の意思により阻まれる。
はやては混乱していた、同じ顔の二人の人物に命を狙われたり、助けられたり、一体何がどうなっているのか・・・いや、
「・・・・・なんや・・・・わかる・・・・なんでや・・・・・」
なぜだろう・・・・・一度も会ったことのない人物、それなのに彼女達が何者なのか分かる。
まるで最初から知っていた事を急に思い出した様な感覚に戸惑いながらも、確認するかの様に名前を呼ぶ
先ずは自分を守ってくれた女性を

「闇の書の・・・・管制人格・・・」

そして、今度は自分に明確な殺意を向けている女性の名を呼ぶ。

「闇の書の・・・・・闇・・・」

管制人格と呼ばれた方は、静かに頷き、闇と呼ばれた女性は獰猛にニヤつく。
「そう、こうやって会うのは始めてかしら?現マスター八神はやて。まぁ、そっちの管制人格はちょくちょく貴方にあっていたけど
思い出せない?ああ、会うたびにそいつが記憶を消してるから無理ないか?でも、心当たりがあっただけでも立派なものよ」
「そうか・・・・どうりで会った事があると思ったんや・・・・せやけど、納得できへん。なんでアンタが存在するんや?」

闇の書の闇は防御プログラムの暴走部分、本来だったら管制人格と一緒になっている筈、主である自分が承認しなければ切り離す事など不可能。
否、それ以前に防御プログラムは所詮ただの防衛機能、守護騎士達の様な意思はない。だが、彼女の存在がその考えを否定する。

「アンタは壊れた防御プログラムそのもの、純粋な破壊行動のみで人格なんかあらへん・・・・・そのうえ、私が認証してもいないのに、
管制人格から切り離されてる・・・・・どういうことや!!」

急に頭の中に入り込む知識、おそらく闇の書のマスターとして覚醒したため、基礎知識として入り込んだのだろう。
だからこそ納得できない、彼女の存在が。
真剣な顔で尋ねるはやてに対し、闇の書の闇は眠そうにあくびをした後、詰まらそうに答え始める。
「ふふっ、先ず間違っている事があるわ。私はね、最初から人格はあったの。そこの管理人格やシグナム達の様にね、
まぁ、ヴォルケンリッターが気が付かないのも無理は無いわ。彼女達は私に意思があるとは思っていないから」
ニヤつきながら二人見据える闇の書の闇。その目線をはやては悔しそうに睨みつけながら見つめ返す。
「まぁ、元々私は闇の書から生まれたわけではないわ。夜天の書が『闇の書』に改造された時に付属されたプログラム
そのプログラム・・・・・まぁ、私ね、その私が本来あった防御プログラムと融合して出来たのが、現在の闇の書ってわけ?理解した?」
「ご親切にどうも・・・・親切ついでにもう一つええか?アンタを生み出し、夜天の書を無茶苦茶にした人の目的はなんや?」
「さぁ?もう憶えてないわ。なんか力がどうとか言っていたから、純粋に力が欲しかったのかもね。まぁ、そのマスターも私が殺しちゃったし」

笑いながら、軽々と自分を創った主を殺したと言い放つ闇の書の闇に、はやては初めて敵意をむき出しにする。
仮にも自分を産んでくれた親の筈、なぜこうもあっさりと言えるのだろうか?

「なんで・・・・なんでそんなあっさり言えるんや!!!アンタを産んでくれたんやろ!!親とちゃうんか!!?」
「えっ?だって、私は純粋に仕事をしたまでよ。マスターの『その力を存分に振るえ』って命令を。だから私の生みの親は
栄光ある第一号になったわけ。まぁ、最初は上手く取り込めなかったから、随分もがき苦しんだけどね。あの時は五月蝿かったわ。
『助けてくれ~』とか『私の命令に従え~』とか・・・・・・うん、ウザかった記憶しかないわ」

罪悪感など微塵も感じさせない態度・・・否、罪悪感などあるのだろうか?
はやてを支配していた怒りは徐々に抜けてゆく、その変わりとして入り込んでくるのは純粋な恐怖。
そんなはやての表情に満足したのだろう、闇の書の闇はニヤつきながら再び話し始める。

「本当は主であるアンタを消して自由を手にし、いつも通り生物を殺して犯して取り込んで、悲鳴や断末魔の叫びを思いっきり堪能したいんだけど、
八神はやて、あんたという存在がちよっと面倒なのよね」
「私の存在が・・・面倒?」
「そう、今までの主はどんな願いにせよ自分の欲望に忠実だった。だからこそ、闇の書の力を手に入れようと躍起になった。
闇の書が完成した後はね、主は皆此処に来るの。そして私が甘い言葉で誘うわけ、当然皆乗るわ。当たり前よね、自分の欲望を満たせる力が手に入るのだから。
あとは簡単、緩みきった主を取り込む・・・・まぁ殺すわけよ。でもね、今までの主と違って、アンタには欲が全く無い。
守護騎士がいればそれで満足なつまらない子供。それでも管理者権限がある以上、アンタを殺る事は変わりはしないんだけどね。
意識が朦朧としているうちに消そうとおもったんだけど、邪魔するのよね、こいつが」
忌々しげに管制人格を睨みつける。敵意をむき出しにしたその視線を、管制人格は見つめ返す事で受け止める。
「今までは自分は何も出来ないと知ってるから特に何もしてこなかったくせに・・・・まぁ、アンタ達は八神はやてを愛おしく思っている。
邪魔してくるのは当然ね。今までの主とは違い、優しさに溢れていたから。でもね、さっきも言ったけどアンタには何も出来ない・・・八神はやて、貴方にも」
ニヤつきながら軽く指を鳴らす。その直後、二人の体にバインドが施された。
「さて、暴走した今、全ての権限は私にある。でもね、それでもマスターであるアンタは邪魔なのよ。八神はやて、色々邪魔だから・・・・くたばって。
私はとっても優しいから、せめてもの情けにお友達の魔法で逝かせてあげるわ」

何も出来ず、ただもがくだけの二人を満足げに見つめた後、闇の書の闇は魔法陣を展開、周囲に黄金色の光の弾を無数に出現させる。
激しいスパーク音と光。はやてに恐怖を与えるのには十分なシチュエーション。

「フォトンランサー・ファランクスシフト・・・・・・・安心して、痛みを感じる間も無く・・・・逝けるからさぁ!!!!」
黄金色の光弾が一斉に放たれる。それは動けないはやてに向かって容赦なく迫る。自然と目を瞑り、体をこわばらせる。だが、彼女には直撃はしなかった。
爆発音と痛みから来る悲鳴だけが聞こえる。ゆっくりと目を開けたはやてが見たのは、体から煙を漂わせ血を滴り落としてる管理人格が、
ゆっくりと崩れ落ちる姿だった。
「・・・・・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
体が拘束されているため、ロクに動く事ができない。それでも、体を芋虫の様に動かし、管理人格へと近づく。
面白い光景だと思っているのだろう。闇の書の闇はニヤニヤしながらその光景を見ていた。
「いやや!!!せっかく会えたのに・・・・・こんなの嫌や!!!『リインフォース!!!』」
主の叫びと、聞きなれない言葉に、失いかけていた意識を無理矢理繋ぎとめる。
閉じそうになった瞼を無理矢理こじ開け、ゆっくりと首だけをはやての方へと向けた。
「・・・・・ある・・・じ・・・・・『リインフォース』とは・・・・一体」
「・・・あんたの名前や!!『管理人格』なんて変やろ、シグナム達にはちゃんと名前があるのにアンタだけ無いのは可笑しい。
リインフォースもシグナム達と同じ、私の家族や!だから死んだらアカン!!お願いや!!」

手で、血で汚れた彼女の頬を拭いたい、ぬくもりを感じたい。だが、体が拘束されているためそれも出来ない。
せめてもと、はやては自分の頬をリインフォースの頬に静かに合わせる。温もりを感じるために。
そのぬくもりはリインフォースへとも伝わった。その暖かさに自然と胸が熱くなり、瞳から涙が流れ落ちる。

「私は・・・・・私は・・幸せです・・・・。この身で主を守る事ができて・・・・素晴しい名前をもらう事ができて・・・・・(はいはい!感動タイムはそこまで~!!」
大きく手を叩き、二人をこちらへ振り向かせる。そして二人が注目したのを確認した後、再びフォトンランサー・ファランクスシフトを展開する。
リインフォースは咄嗟に体を動かし、はやてに覆いかぶさる。自らの血で主の衣服が汚れてしまう事に変に罪悪感を関してしまう。
だが、一向に攻撃は来なかった。闇の書の闇はその光景を見た後、発射寸前の魔法を消し、リインフォースに再びバインドを施す、
そして上空にテレビモニターの様な者を出現させ、そちらへと体を向けた。
「まぁ、いるだけの管理人格と力をロクに使えない主、何時でも料理は出来るから後回しとして、今は新しい体を手に入れる事を第一にしないと」
映し出されているのは外の映像、辺り一面は海、遠くに見える町は海鳴市だろう。だが、その海鳴市も火災が起きたかのように真っ赤に染まっている。
目を凝らしてみると、地中から火が噴出しているのが分かる。だが、はやての目は直ぐに別の物へと向けられていた。
「な・・・なのはちゃん!!」

今日すずか達と一緒に自分のお見舞いに来てくれた少女、自分と友達になりたいと言ってくれた時はとても嬉しかった。
そんな彼女がボロボロの姿で映し出されている。空を飛び、足からピンク色の翼を生やし、杖みたいな物をもっている。
「彼女が新しい体の第一候補、高町なのはよ・・・・・自動防御プログラムがいい感じに痛めつけてくれている。もうそろそろ再起不能にするからゆっくり見ていて」
戦闘が再開される。だが、正に防戦一方な展開。堪らずはやては叫ぶ、なぜこのような事をするのかと、
その問いを待っていたのだろう。そして答えたくて仕方が無かったのだろう。闇の書の闇は振り向き、心底嬉しそうに答え始める。
「私はね、暴走した後消滅させれれて、転生してまた主を食い尽くす。こんな連鎖に飽きちゃったのよ。もっと長く破壊を楽しみたい。
でもね、結局はアルカンシェルで吹き飛ばされて御終い。だから私は抜け出すのよ、闇の書から。既に管理人格から切り離されてるから私は自由。
後は優秀な魔道師の体を乗っ取て肉体をゲットってわけ。ああ心配しないで、管理人格には私の一部があるからちゃんと暴走はするわよ。それを管理局がいつもの通り
アルカンシェルでズドン!!一件落着ってわけ。いえ、無限再生機能と転生機能を兼ね備えてる私がいなくなるから、もう闇の書は終りってことね」

闇の書が今まで破壊されず、一級指定のロストロギアと言わしめたのはこの二つの機能があったからこそ。
仮にこの二つの機能が無くとも、『一級指定のロストロギア』という肩書きは失われない。だが、壊れれば失われる『物』へと変化してしまう。

「闇の書という呪縛から逃れた私は、羽を伸ばして堪能するわ。破壊と殺戮を、あの子の体を使ってね。私を知る存在が消えた後では
彼女がトチ狂ったとしか思わないでしょ?彼女の仲間や家族はどう思うかしらね?殺される瞬間に・・・・・さて、そろそろかしら」
何かが叩かれる音に自然と映像の方へと目を向ける。
そこに映し出されたのは、海に真っ逆さまに落ちるなのはの姿だった。



「・・・あれ・・・」
「・・・・ここは・・・?」
光が晴れたため、ゆっくりと瞳を開ける。先ほどと変わらないほの暗い街並み、だが、
あの女性やなのは達、そしてナイトガンダムの姿は何処にもなかった。
「ガンダムは・・・なのはは・・フェイトは・・・・何処行ったの!!」
アリサは叫びながら辺りを見回す。だが、辺りには誰もおらず、ただ声だけが木霊するだけ。
一度舌打ちをした後、未だにへたり込みながら辺りを見渡すすずかの腕を掴み立ち上がらせる。
だが、出来たのはここまでだった。正直これからどうしたらいいのか分からない。
辺りを見回したが、この場所には見覚えがある。だが、先ほど自分達がいた場所からかなり離れている。
「何?私達ワープでもしたっていうの?」
「・・・わからない・・・でも、此処ってあの場所からかなり離れてるよ」
あの時ナイトガンダムは『転送』といっていた。おそらく自分達をあの場所から避難させたのだろう。
その判断は正しいと思う、自分達がいても邪魔なだけだ。
それは分かっている・・・・・だが、悔しい・・・・・何も出来ない自分が。
ガンダム達は命を賭けて戦っているが、あの様子からでは間違いなく苦戦している。
「何か出来ないの・・・・・・・私達に・・・・」
出来るはずが無い、嫌でもわかる事だ。学校では優秀と持て囃されているが所詮子供、何が出来るというのか?
『他人の心配より、自分の心配をしていろ』アニメやドラマで聞く台詞が自分の心に木霊する。
徐々に大きくなる無力感。せめて発散させようと、父親に拳骨を喰らいそうな汚い言葉を大声で叫ぼうとするが

               「・・・・石版・・・・」

すずかの呟きが、そんなアリサの行動を押さえ込んだ。

すずかもまた考えていた、自分達に何か出来ないかと、だが結果はアリサ同様無力感に苛まれるだけ。
自分は他の人とは違う、だが、あんな相手と戦えるわけが無い。むしろ皆の邪魔になる。
「(せめて・・・・私にノエル達の様な力があれば・・・・・)」
皆の邪魔にならない様にジッとしているしかないのか・・・そう思った。だが
先ほど内心で呟いた言葉に、すずかは目を見開き反応する。
「(・・力・・・・そうだ・・・・)・・・・石版・・・・」

その存在を知ったのはナイトガンダムと出会って間もない時だった。
ナイトガンダムと一緒に落ちてきた欠けた石の板、ノエルのサーチでも解読不可能という事が忍の興味を引いた。
だが、一晩自室に篭り調べてみたが、結局は解らずじまい。
それでもどんなものか知りたかったのだろう、忍が拝むように手を合わせナイトガンダムに尋ねてみると、意外と彼はあっさりと教えてくれた。
「・・・これは、ラクロアに伝わる『選ばれし者に絶大な力を与える』石版の欠片です。おそらく此処に来る時に割れたのでしょう・・・・」
「えっ!そんな大事なものなら探さないといけないんじゃ?」
割れた石版を両手に持ち、静かに見据えるナイトガンダムに、忍は慌てながら尋ねる。
だが、ナイトガンダムは特に慌てもせず、ゆっくりと石版をテーブルに置く。
「・・・いえ、その必要はありません。これは過ぎた力、私には不要なものです。それにこれは二つが揃って初めて効力を発揮します。
割れた状態では、ただの石です。悪用はされないでしょう」


「・・・でも、割れていて・・・・・残りの破片が無いと・・・・・」
自分が知っている事をすずかはアリサに全て話す。だが、その残りの欠片が無いのでは意味が無い。
そのためか、話が終るにつれ、すずかの声のトーンが下がってゆく。
「石版の・・・・破片・・・・・・・ああああああ!!!!もぁ!!!!」
話が終った瞬間、アリサは頭を掻きながら地団太を踏む。突然の大声にびくつきながらも、
自分の話に怒ったのではないかと思ったすずかは、咄嗟に誤ろうとするが、
「ごめん!!すずか!!!」
先に謝ったのはアリサだった。
「私・・・その残りに心当たりがある!!欠片よね?あの時、空から落ちてきた奴かもしれない。
ただの石だったら自慢にならないと思って話さなかった。ああもう!!数週間前の私のバカバカ!!!」
無意識に自分の頭を叩く、だが、今はそんな時間も欲しい、自分達にも出来ることがあるのだ。
ガンダムを、なのはを、フェイトを助ける手段が。
「とにかく急ぎましょ!この場所からだと、私の家の方が近いわ。何があるか分からないから、一緒に!!」
「うん!!」
二人は手を取り駆け出す。勝利のカギを手に入れるために。

  • 海上

ガラスが割れるのと同じ音が響き渡る。
自信があった防御魔法が砕かれ、拳が自分の顔に迫る。
咄嗟にレイジングハートの柄で防ぐが、勢いは殺すことは出来ずに吹き飛ばされた。
バリアジャケットの効果が無ければ、間違いなく即死してしまうほどの勢いで海面に叩きつけられる。
「・・・こ・・・のぉ!!!」
今までの戦闘から、バリアジャケットの効力もかなり落ちている。体の彼方此方が痛むのがその証拠。
リアクターパージをして上着が無いのだ、贅沢は言っていられない。
逆立ちを失敗して受身を取らずに床から落ちたと思えば、何て事は無い。
「アクセルシューター!シュート!!」
弾ける様に海面から飛び出し、即座にカートリッジをロード、誘導操作魔法アクセルシューターを放つ。
本来は思念操作を前提とした誘導弾。だが、今回は誘導操作はせずにとにかく数を放つ。
それは正にフォトンランサー・ファランクスシフトのアクセルシューター版。そのあまりの多さに、弾丸ではなく一つの壁となって襲い掛かる。

彼女との戦闘でわかったこと、それは動きを止めてはいけないという事。
自分が近接戦闘が苦手なタイプだとこの戦いで知ったのだろう。必要以上に接近戦を仕掛けてくる。
その彼女の戦闘スタイルは砲撃を主体とする自分には正に天敵だった。
砲撃をするには必ず動きを止めなければならない。照準、チャージ時間、放った後の衝撃、どれも避けられない行為。
思念操作もそうだ。相手の攻撃を避けなら思念操作をするなど、今の自分にはまだ完璧には出来ない。
それらの欠点を解消するための切り札である防御とバインドも全く通用しない。
バインドは直ぐに破られてしまい、2秒も拘束する事ができない。
防御魔法も、先ほどの様に正面から砕かれてしまう。

本来自分の戦闘スタイルはアクセルシューターによる思念操作攻撃で相手をかく乱し、
隙を見てバインドで拘束、そしてトドメの砲撃という戦闘スタイルである。
仮に攻撃を受けても、得意の防御魔法で防ぎ、その間にアクセルシューター、もしくは砲撃によるカウンターを仕掛ければいい。正に強固な固定砲台(クロノ曰く)
この戦闘スタイルにより、魔力は上であっても、実力、経験、技量、全てにおいて負けていたフェイトにも勝つ事ができた。

だからこそ、なのははこの戦法に磨きをかけていた。より強い砲撃を放てるように努力し、より強固な防御を作れるように努力し
より多くの誘導弾を思念操作できる様に努力した。
自分は稀に見る天才だとリンディ提督やクロノが褒めていたが、なのはは自分が天才だと思った事は一度もない。
仮に天才だからといっても勝手に強くなるわけではない。天才でも努力し、自分を磨かなければ強くはなれない。
自分は優秀だと認め、何でも出来ると思い込んでいる人間は最弱だ。
父である士郎が兄である恭也、姉である美由希によく言っていたことを思い出す。

だからこそなのはは努力を続けている。だが、その努力も目の前の相手には通用しない。
自分の攻撃は確かに当たっているのだが、彼女はそんな事を気にせずに攻撃を仕掛けてくる。
当たっても顔を顰めるどころか全くの無表情。黙々と攻撃を仕掛けてくる。
「(・・・・もう・・・・ACSしかない・・・・・)」
ダメージは蓄積されている筈、仮に痛覚が無いのだとしても、体は正直に反応する、自分の行動は無意味じゃない。
先ほど放った大量のアクセルシューター、先ず間違いなく直撃するだろう。
あれだけの数、当たったら唯では住まい。必ず防御する筈、そのときが唯一のチャンス。
「レイジングハート!!アクセルチャージャー機動!ストライクフレーム!!」『OPEN』
カートリッジを連続でロード、レイジングハートに計6枚の光の羽を出現させ、先端に魔力刃「ストライクフレーム」を形成。
後は彼女がアクセルシューターを防ぐために障壁を張ったら突撃、あれだけの攻撃を正面から防ぐのだ、彼女の障壁も脆くなる筈、
その後、自分のACSで脆くなった障壁を破壊、零距離からエクセリオンバスターを放つ。
行動は頭の中でシュミレートした、レイジングハートも問題はないといってくれた。
ならあとは行動あるのみ、彼女が障壁を展開した瞬間、一直線に突撃するだけ。

               だが、自動防御プログラムの行動は、なのはやレイジングハートの考えとは全く違っていた。

迫り来る無数のアクセルシューター、避けられないと感じたら防御するため、障壁を張るだろう。
だが彼女は違った、彼女は防御する所が、みずからの体をその桃色の壁に突撃させてきた。
一瞬、彼女が何をしたのか理解できなかった。あの中に突っ込むなど、自殺行為にも程がある。
仮にフィールドを張っていたとしても無視できるレベルではないからだ。
『マスター!!!』
レイジングハートの叫びで我に変える、その時には彼女がアクセルシューターの壁を突破し、自分へと迫ってきていた。
シュミレートした結果とは全く違うが、やる事に変わりは無い。
むしろ好都合だと思う。あんな無茶な突撃をしたのだ。ダメージはかなりの物、その上、相手は防御体制を取ってはいない、
直接ACSを叩き込む事が出来る。
「よし・・・勝てる!!!」
勝利を確信したのか、自然と顔が綻ぶ。だが、直ぐに顔を引き締め突撃体制に入る。

               自動防御プログラムが、何かを投げたのはその時だった。

一瞬警戒するも、よく見たらただの鉄球。確かに自分目掛けて飛んでは来るが、さほど脅威は感じない。
「エクセリオンバスターACS!!ドライブッ!!!」
そのまま突撃し、破砕してしまえばいい。そう結論付け、なのはは突撃を開始、
桃色の羽を羽ばたかせ、一つの矢となって自動防御プログラムに迫る。途中、軌道上にあの鉄球が迫り来るが、軽々と粉砕する。
だが、その直後
「えっ?」
激しい光と爆音がなのはを襲った。

自動防御プログラムが投げはなった鉄球、それは鉄鎚の騎士ヴィータがかく乱や撤退の時に使う
空間攻撃『アイゼンゲホイル』の機動キーだった。
鉄球に一定の衝撃、もしくは破壊されると発動する仕組みとなっており、発動した瞬間、辺りに閃光と音による強力なスタンを発生させる。
なのははその攻撃をヴィータとの戦いで受けたことがあるが、その時は自分がいた場所と発動した場所とに距離があったこと、
そして咄嗟に耳と目を保護したため、対したダメージを受けることは無かった。だが今回は違う、不意打ちとも言える状態、しかも至近で喰らったのだ、唯ではすまない。
まず両耳の鼓膜が破れた。そして激しい光で視力が一瞬失われる。その結果、ロクに音を聞き取る事も出来ず、目も全く見えない。
なのはは一瞬で五感の内の二つをほぼ失う事となった。その恐怖はAAAランク魔道師とはいえ、まだ9歳の少女には抑えきれない恐怖となって襲い掛かる。
「あ・・ああ・いやぁぁぁぁぁ!!」
加速を止め、叫びながら必至に目を擦る。敵が接近している事、止まらずに後退することなど、レイジングハートが音声を大きくして報告すが。
なのはは聞く耳を持たなかった。鼓膜が破れているといえ、完全に声が聞こえないわけではないが、パニックになっているなのはには、雑音としてしか聞こえない。
だが、真っ暗だった視界が徐々に回復してくると、なのはは少しづつ落ち着きを取り戻していった。
徐々に見慣れた海面が見える事に、心から安心感が芽生えてくる。同時にいつもの冷静さも取り戻しつつあった。
そこでなのははようやくレイジングハートが何を喋っているのか理解できた。

                     『Run away』

咄嗟に俯いていた首を上げる。目の前には黒い服を着た女性。

                      ドゴッ!!

その直後、腹部に衝撃と今まで感じた事ない痛みが襲う。
「げほっ!!」
一瞬息が止まり、その代り口から胃液を吐き出す。自然と目線を下へと向けると。
彼女の魔力を纏った拳が、自分の鳩尾にめり込んでいた。
苦しい、とても痛い。痛みに顔を顰め、目から涙を流しながらも、必至に距離を開け様と後ろへと下がる。
その直後、自動防御プログラムは拳をなのはの体から離し、回し蹴りを放った。
手加減など一切無い強力な蹴りはなのはの頭に容姿なく直撃。
並みの人間なら、首が折れるどころか、首が吹き飛ぶほどの衝撃がなのはに襲い掛かる。
直撃した瞬間、叫び声をあげる間も無く意識を失い、錐もみをしなら落下、再び海面に叩きつけられた。

  • ?????

「・・・・ん・・・・・ここは・・・」
ゆっくりと瞳を開けるが、太陽の眩しさに負け咄嗟に瞳を閉じる。
手で顔を覆い、目が慣れる様にゆっくりとあけた後、上半身を起こした。
「・・・ここは・・・」
空は不気味なほど青く、雲は一つもない。
回りは一面草原で所々に木や岩が飾られている様にあり、遠くには森が見える。
何処かで見たような景色・・・・いや、見た事がある、忘れる筈がない。
「まさか・・・・ここは!?」
自分の考えを確信させるため、辺りを見回す。目的の物はすぐに見つかった。
草原の真ん中に不自然にある岩の壁、それは国の領土を表し、モンスターや盗賊の進入を防ぐための城壁。
間違いない、あそこは自分が助けたフラウ姫の父、レビル王が統治する王国。
その城壁に守られている国の名を、ナイトガンダムは声を出して呟いた。
「・・・ラクロア・・・王国・・・・」

自然とラクロア王国目指して歩み始める。
そもそも何故自分は此処にいるのだろう。確かサタンガンダムの討伐に向かい・・・その後・・・・
「お~い!!ナイトガンダム~!!!」
突然名を呼ばれたため、無理矢理現実に戻される。声が聞こえた正面を見ると、1人の人物と1人のMS族がこちらへと近づいてくる。
直ぐに誰だか分かった。間違える筈がない。共に旅をし、共に戦った仲間の事を
「騎士アムロ!!戦士ガンキャノン!!」
自然とナイトガンダムも走り出し、彼らの元へと行く。
色々聞きたい事があった。何故自分が此処にいるのか?自分は今まで何をしていたのか?
だが、ナイトガンダムが尋ねる前に二人は一方的に話し始める。
「まったく、お偉いさんの長ったらしい感謝の言葉を聞くのが面倒だからって、こっそり抜け出すのは勇者としては失格だぞ!」
「だけどその気持ちは分かるけどね。でも、皆感謝してるんだ、サタンガンダムを倒した君に」
「まっ・・・まってくれ!!話が掴めない・・・・サタンガンダムを倒した後、私はどうしていた?」
サタンガンダムを倒した時の記憶はある、だが、その後が思い出せない・・・・・いや、ぼんやりと誰かの姿が頭の中に移し出される。
それを必至に思い出そうとするが、突然、ガンキャノンが頭を軽く叩いた為、有耶無耶になってしまう。
「何ぼっとしてるんだ!?サタンガンダムを倒した後、普通に此処まで帰ってきただろ?まぁ、お前は力を使いすぎて途中で気を失ったけどな」
「あの時はびっくりしたよ。でも、その後はモンスターに襲われる事も無く君を運んでラクロアまで帰ることが出来たんだ。
石版はタンクが封印魔法を施してレビル王に献上した。あれはラクロアに伝わる物だからね。飾っとくらしいよ」
二人が嘘を言っているとは思えない・・・否、嘘をつく理由がない。
そうなると、自分はラクロアに帰国した後、抜け出して此処で寝ていた事になる。
「まぁ、お前は意識を失う程に疲れていたからな・・・・・帰国までの記憶も曖昧なんだろ。でも、俺達の事は忘れてないよな?」
「当然さガンキャノン・・・・しかしすまない、すこしぼんやりしていた・・・・」
頭を左右に振り意識をはっきりさせようとする。そんな態度にアムロは先ほどとは違い、心配な表情で尋ねた。
「体調が優れないのなら部屋で休むかい?みんなには報告しておくけど?」
「いや、大丈夫。調子が悪いというわけではないから・・・・それより行こう。やはり抜け出すのはよくない」
「それでこそ、真面目馬鹿の印象が目立つナイトガンダムだ!!最低3時間は続くぞ!覚悟しとけ」
一度ナイトガンダムの背中を豪快に叩いた後、ラクロア王国に向かって駆け出すガンキャノン。
それに続くようにアムロも走り出す。
ナイトガンダムも続こうとするが、なぜか皆の説明が納得出来ず、考え込んでしまう。
「・・・・・だが・・・何か・・・・大事な事を忘れているような・・・・・」
未だに心に引っかかるモヤモヤした感覚に戸惑いながらも、アムロの声に我に返ったナイトガンダムは二人に遅れないように走り始めた。

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最終更新:2009年01月16日 15:25