「仲間を集めて勇者が魔王に挑むゲームがあったとして、私はいつも魔王を倒す最後の一
撃は、勇者にやらせるんだ」
 スカリエッティの周囲から、強烈な魔力がほとばしる。
「パーティにいる戦士の攻撃や、魔法使いの呪文でも倒せるところを、私は彼らを行動不
能にしてまで勇者を使う。何故だかわかるかい?」
 今まで戦ってきたナンバーズのそれよりも、遥に凄まじい力が、大広間という空間を支
配し、征服していく。
「それはその物語の主人公が勇者だからさ。彼が魔王を倒すと心に誓い、彼が仲間を集め
たんだ。なら、やはり最後の一撃、トドメを刺すのは彼でなくてはいけないだろう」
 逆に言えば、魔王を倒すためなら勇者は仲間がどんなに犠牲になっても、それを厭わず
戦い続けなければならないのだ。
 何故なら、それが勇者の選んだ道なのだから。
「私も同じさ。この戦いを始めたのは私で、君に戦いを挑んだのも私だ。ならば、最後は
この手で決着を付けたいと思うのが、普通だと思わないか?」
 奇怪に変貌を遂げた右の拳を握りしめながら、スカリエッティは凶悪な笑みを敵に向け
ている。彼にとっての敵、ゼロに対して。
「お前は、自分が勇者だと言いたいのか? オレは魔王か」
「まさか、私はどうしたって悪人だよ。勇者とか英雄とか、そういうのは君にこそ相応し
い称号だ」
 しかし、自分は悪人であっても魔王ではないだろう。そんな大層な存在になれるとは思
えないし、なりたいとも思わない。
「君のおかげで、楽しいゲームになった。最後までゲームマスターでいようかと思ったの
に、ついついプレイヤーの真似事をしてしまいたくなるぐらいに」
 スカリエッティの言葉に、近くに佇むウーノが心配そうな表情をしている。ドクターが
負けるとは思っていない、だが、相手はこれまでナンバーズを幾人も敗北させている実力
者だ。勝てたとして、何らかの大きい代償があるのではないか?
「勝てたとして、だなんて。私は何を……」
 そんな言葉が出る時点で、自分はスカリエッティの勝利に揺るぎない自信を持てていな
いのではないか。ウーノの胸中は、不安で一杯だった。
 だが、一度決めたことを覆すスカリエッティではない。彼が自らの意思を持って、ゼロ
と戦うと決めたのだ。そうなってしまった以上、ウーノとしては黙って見守るしかないの
である。

「お前がどんな力を持っていようと、オレには関係ない」
 ゼットセイバーを構える手に、力が籠もる。
 ゼロの全身が輝きを見せ、スカリエッティの醸し出す強烈なエネルギーを吹き飛ばすよ
うに、周囲を閃光が煌めく。
「オレはお前を倒して、この船を止める」
 例え止めることが出来なくても、次元航行艦隊が来るまで粘ることが出来れば勝機はあ
る。これは現場到着前、六課の面々が下した結論だった。本局ではゆりかご復活の報を受
け次元航行艦隊が出撃準備を、もしくは既に出撃している可能性が高い。地上部隊がレジ
アスという総司令官を失っても尚、奮戦を続ける理由は、強力な援軍の当てがあるからな
のだ。
「なるほど、次元航行艦隊か……確かにそれは私も気がかりだった。ゆりかごの出力はち
っとも上がらないし、二つの月の魔力圏内に入る前に艦隊に補足されれば、我々は終わり
だろう」
 言葉の割りに、せっぱ詰まった様子が微塵もない。
 そんなスカリエッティを、制御室にてクアットロが見つめている。
「確かに、今の状態で艦隊と戦うとなればさすがにこちらの方が不利……」
 いつもの笑いを含ませた口調が態を潜め、淡々とした冷酷な口調で喋っている。まるで、
誰かを意識するかのように。
「だけど、来られるかしら? 次元航行艦隊は」



           第22話「爆炎の剣聖」


 爆発が、時空管理局本局で起こっていた。爆発箇所は、本局内部ではない。
 次元航行艦が収容されている港で、爆発物による爆破が起こっているのだ。
「何が起こった、中はどうなっている!?」
 それは総旗艦クラウディア含む、艦隊の第一陣が出撃した直後に起こった。出港途中、
または直前だった艦が集中的な被害を浴びて、メインポートは全壊寸前となっていた。
「わかりません、港内で爆発が起こっていると思われますが……」
「そんなことはわかっている。事故か? それとも何者かの仕業なのか!?」
 出撃できた艦艇はまだ八隻程度で、大半は港の中である。もはや出撃どころではない、
という事態になってしまったが、クロノとしてはその選択肢を選ぶことが出来なかった。
「本局周辺宙域から離脱し、地上へ向かうんだ。ここには一隻残しておけば、救助活動は
行えるはずだ」
 地上を見捨てるわけにはいかないという論調でクロノは部下を諭したが、部下は納得が
いかなかった。
「たった七隻で何が出来ると言うのですか! ここは全力で救助活動に専念し、艦隊を再
編した後に再出撃を行うべきです」
 もっともな意見であるが、そんなことをしている間にゆりかごが二つの月の魔力圏内に
入ってしまったら元も子もない。七隻だろうと五十隻だろうと返り討ちにされてしまう。
「しかし、七隻で勝てるのか……あのゆりかごに」
 アルカンシェルなど、強力な武装が使えるならまだしも、クラナガンが近いという理由
から使用許可が下りるはずもなく、だからクロノは数に頼んだ艦隊を編成したのだ。
 早急な思案が必要と考え込むクロノだが、天運は彼に味方しなかった。
 突如、クラウディアの艦艇が衝撃で揺れた。
「なっ、今度は何だ!」
「後方の砲艦が、我々に向かって砲撃を仕掛けてきます!」
 馬鹿な――!?
 その言葉を、クロノは口から発することが出来なかった。モニターには、クラウディア
と共に出撃した砲撃型の次元航行艦が、クラウディア含む七隻の艦艇に砲火を浴びせかけ
ているのが映っている。
「か、回線を開け。砲艦に止めさせるよう言うんだ」
 クーデターでも起こったというのか? クロノの声に応じて通信士官が動き出すが、砲
艦との間に回線を繋ぐことは出来なかった。回線が完全に切られている。それどころか、
艦内の生命反応をスキャンした索敵士官が驚きの叫び声を上げた。
「砲艦内、生命反応なし! 無人です」
 では、誰が艦を動かし、砲撃しているというのだ。
 クロノの問いに答えられる者は誰も居らず、そんな暇もなかった。砲艦から発せられた
直撃弾が、クラウディアの艦艇に穴を開けたのだ。
「反撃しろ! 撃沈させて構わない!」
 生命反応がないというのなら、一向に問題がないはずだった。艦艇一隻よりも自分たち
の命のほうが大事だった。

 正確なことを言えば、砲艦内の生命反応はゼロではない。大量の屍の中には、かろうじ
て息がある者も居たし、艦の乗組員を屍へと変えてしまった犯人も、まだ艦内にいたのだ。
「まぁ、こんなものかしら?」
 血だらけとなった腕を拭いながら、女は楽しそうに呟いた。虐殺が楽しかったからでは
ない。これで、自分の任務に一段落付いたからだ。
 砲艦に対する砲撃が開始されたのを確認すると、女は艦内にある転送ルームへと入って
いった。艦の操縦、及び迎撃は自動運転だ。先ほどまでは自分で行っていたが、一分程度
なら自動でも持つだろう。
「待っていて下さいね、ドクター。今、帰りますから」
 女はそのまま転送システムを作動、艦内から姿を消した。まさにその十秒後にクラウデ
ィアから撃ち込まれた魔力砲が艦艇を破壊するのだが、クロノたちが彼女の存在を知りう
るのは、ずっと先のことである。


 本局でこのような事件が発生したとを、地上部隊は知る由もなかった。だが、その方が
良かったのかも知れない。次元航行艦隊は彼らにとって頼みの綱であり、それが来られな
いなどという事実が知れ渡れば、彼らは今度こそ戦意を完全に喪失していただろう。
「フリード、ブラストフレア!」
 機動六課が来援したと言っても、絶対的な実力者である隊長二人はゆりかご内へと突入
してしまった。
 だから、地上での戦闘に加わるのは、キャロやスバル、ティアナといった新人たちであ
るが、彼女たちはそれぞれ個々に相対する敵との激闘を繰り広げていた。
「地雷王、地雷震を。ガリューはそのまま突撃」
 キャロとルーテシア、二人の召喚術士の戦闘は、一見するとキャロが有利なように見え
る。空を飛ぶことが得意ではないルーテシアの地雷王に対し、キャロのフリードリヒは空
中を自在に移動する。空からの砲火を浴びせかけるだけで、相手を追いつめることが出来
るはずだった。
 それが出来ないでいるのは、ルーテシアが多種多様な召喚虫を利用したコンビネーショ
ン攻撃を行っているからであろう。
「避けて、フリード!」
 地雷震の振動波から抜け出したフリードリヒに、空戦も行うことが出来るガリューが迫
った。近づかれ、格闘戦に持ち込まれれば勝ち目はない。
「ガリュー、そいつを殺して」
 同年代の少女を殺せと命じるのは、さすがのルーテシアでも後ろめたいものを感じた。
しかし、キャロと名乗った少女は自分の心の深い部分を、一瞬ではあるが触れてしまった。
生かしてはおけない。
 ガリューの攻撃に対し、フリードリヒは身を避けることが出来た。しかし、彼の狙いは
必ずしもフリードリヒ本体ではなかった。
「きゃっ!?」
 強烈な打撃が、幼い少女を襲った。ガリューの狙いは手綱を握るキャロだったのだ。キ
ャロが手綱を握ることに固執すれば、背骨をへし折られたかも知れない。咄嗟に離し、空
へと投げ出されたから衝撃が緩和されたのだ。
「フリードッ」
 助けを求めて叫ぶも、肝心のフリードは地雷王の攻撃に動きを封じられている。仕方な
い、このまま落下するぐらいならば次なる召喚を行って……
「追いかけてくる!?」
 落下するキャロに対して、ガリューが追撃を仕掛けてきた。腕に牙のような武器を生や
し、串刺しにするべくキャロの元へ向かう。フリードがいなければ空も飛べないキャロに
とって、これを避けることは出来ない。防ぐにしても、防ぎきる自信がない。
 そうこう考える間にガリューの姿はすぐそこまで迫っている。
「フェイトさん――!」
 敬愛する女性の名前を最後に叫んだ。

 少なくとも、キャロはこれが最後になると思っていた。

「ッ!?」
 キャロを殺すべく拳を突き出したガリューの一撃が、空を切った。手応えもなく、掠っ
た感触すらしなかった。キャロの姿が、ガリューの眼前から消えたのだ。
「瞬間移動?」
 その光景を見ていたルーテシアも、何が起こったのか理解できなかったようだ。判るの
はガリューの攻撃で死ぬはずだったキャロが消えたという事実だけで、姿を追うことまで
は出来なかった。
 敵の位置を確認しようとするルーテシアの背後に、地雷王とは別の気配が生まれた。
「ルフトメッサー!」
 慌てて振り向くルーテシアに、空気の刃が襲いかかった。咄嗟に防御魔法を展開するも、
衝撃に屈して大きく後ろに下がってしまう。
 それでも何とか無傷で済むと、ルーテシアは背後に現れた敵に目を向けた。
「あなた、誰……?」
 キャロと同じく、ルーテシアと同年代の少年だった。デバイスを構えたその横に、キャ
ロがへたり込んでいる。恐らく、この少年が助けたのだろう。
「機動六課ライトニング分隊所属、エリオ・モンディアル」
 名乗り上げるエリオには、以前とは違う凛々しさのようなものがあった。キャロでさえ
見違えてしまったほどで、まさに男子三日会わざれば刮目してみよといった感じか。
「エリオくん……どうして」
 聖王病院のベッドの上にいるはずの少年が、何故クラナガンの戦場に現れ、自分を助け
てくれたのか。そもそもエリオは戦うどころか動くことすらままならない身体だったはずだ。
「僕も、機動六課の一員だから」
 強い笑みを見せるエリオに、キャロが叫ぶ。
「無理だよ、まだ怪我も治ってないんでしょう?」
 そんな状況で戦えば、エリオの身体は今度こそダメになってしまう。キャロはそのこと
を知っていた。しかし、エリオだって承知の上だった。
「戦いに来たのは、僕だけじゃない。みんな、みんな頑張ってるんだ」
「えっ?」
 エリオの言葉に困惑するキャロだが、突然その視界が暗くなった。視界が閉ざされたの
ではなく、日の光が遮られたのだ。
 一体、何が――
「次元……航行艦」
 驚きの呟きを漏らしたのは、ルーテシアだった。
 スカリエッティが対策は打ってあると話した次元航行艦が一隻、クラナガンの空に現れ
た。空間移動をしたのだろう、突然現れたという表現がよく似合っていた。

 この情報はゆりかご内のクアットロもすぐに察知したが、彼女は艦船照合をしてあるこ
とに気がついた。
「艦艇の形状が、古い?」
 少なくとも、十年以上前に建造されたものだろう。お世辞にも最新鋭艦には見えないし、
艦体にも細々とした傷が見受けられる。大方、どこかから使えそうな艦艇を引っ張り出し
てきたといったところか。
「けど、誰が乗ってるのかしら」
 旧式の艦艇を使うなどと、およそまともな人間の考えることではない。きっと、物凄い
馬鹿か、それとも……
「砲門の標準を、こっちに向けてる!?」
 クアットロが目を見開いた。実のところ、クアットロはスカリエッティほどにゆりかご
に過度な期待をしていない。というのも、実際に制御する立場になってみて、ゆりかごの
様々な欠点が露呈したのだ。
 重要な欠点として、ゆりかごは後部砲門や、防御機構の類が存在しない。後ろのからの
攻撃に対して無力なのだ。ほとんどを推進機関にすることで高い推進力を発揮し、さらに
聖王という存在の性格上、後ろを顧みずひたすら前方に進軍、進撃するという戦略構造が
あったのも理由の一つだ。
 しかし、クアットロに言わせれば後ろぞなえがないなど、上半身だけ服着て歩き、その
恥ずかしさに気づくことも出来ない愚か者と同じだ。
「反転は間に合わない。ガジェット部隊で壁を作る!」
 次元航行艦の艦砲が発射された。咄嗟に地上や空中からかき集めたガジェットが壁とな
り、爆散しながらもゆりかごを守った。

 だが、これこそが敵の狙いだったとは、クアットロには判らなかった。

「地上の敵戦力が減った、一気に反撃!」
 次元航行艦から、若い女の声が響いてきた。誰のものか、瞬時に判ったものはごく僅か
だったが、その言葉の意味するところは明白だった。
「そ、そうだ、反撃だ!」
 クアットロが慌ててガジェットにゆりかご後部に結集するよう指令を出したものだから、
ガジェット部隊の行動は大きく乱れた。戦闘を中断し、我先にとゆりかごへ戻ろうとした。
 そこに地上部隊の反撃が行われたのだが、敵を倒すということより、クアットロの命令
が優先されたガジェットたちはこれに抵抗も対抗もしなかった。結果、反撃の砲火の前に
かなりの数のガジェットが犠牲となったのだ。
「私が、誘いに乗ってしまった」
 敵の狙いを読み違えたことにクアットロは愕然としたが、ガジェットに対して命令の撤
回は行わなかった。どちらにせよ反転迎撃態勢が整うまで、後背を空にしておくことが出
来なかったのだ。
「だけど、あの声……死んだんじゃなかったの?」
 やや事実を誤認しながら、クアットロは悔しそうに叫んだ。


「敵は反転行動に移るはず、距離を取りつつ地上に向けて援護射撃、召喚虫を蹴散らせ!」
「了解です、総隊長」
 指示に対し、オペレーターが伝達を開始する。砲手が応じて、地上へと砲撃が開始される。
「リイン、マイクを!」
「はい、はやてちゃん、じゃなくて総隊長!」
 リインから渡されたマイクを握りしめ、八神はやてが起ち上がった。次元航行艦アース
ラ、かつてはやても乗艦し、なのはやフェイトにも思い出深い船だ。
 その艦橋の艦長席に、はやてはいる。
「クラナガンで奮戦する地上の戦士たちへ、私は機動六課総隊長八神はやてです!」
 演説にも似た叫び声が、戦場にこだましていく。誰もが戦いながら耳を傾け、はやての
声と言葉を聞く。
「今我々は、地上本部が墜ち、総司令官のレジアス中将を失い絶体絶命の窮地にある。し
かし、我々はまだ負けてない。戦う力は残っているし、戦いを止めるつもりもない。それ
は何故か?」
 理由なんて、一つしかない。
「この地上を、クラナガンを、ミッドチルダを守りたいから! その為に我々は戦っている」
 何を今更という話ではあるが、戦闘に疲弊しきった部隊員たちにとって、事実の再確認
は必要だった。そうだ、地上を守らなければいけない、我々がやれねば、誰がやるという
のさ。
「今目の前にある驚異に立ち向かうには、我々は崩れかけた組織を再編数必要に駆られて
いる。だから……そこで」
 一瞬だけ、はやては言い淀んだ。次の言葉が、どういう反応で迎えられるのか、想像も
付かなかったのだ。
「この次元航行艦アースラに、私に指揮権を引き継がせて貰いたい!」
 予想通り、即座に反応はなかった。いきなり現れ、はやては指揮権を寄こせと言ったの
である。確かにこの窮地、指令系統の再編は最も重要であったが、生前のレジアスがそう
であったように、八神はやてを嫌うものは地上本部には多い。しかも将官ですらない、一
部隊長でしかない彼女に全部隊の指揮権を与えるなど、常識では考えられない。
 はやては目を瞑りながら、反応を待った。癒えない傷を押してまで、はやては戦場に行
くことを選んだ。誰かが動かなければ地上は終わる、そして、恐らく自分にはそれが出来
ると、彼女は考えたのだ。
 このアースラは、元々はやてが用意していたものだ。何らかの事情で六課が隊舎を失っ
たとき、新たな前線基地として、解体寸前だった艦艇を確保し、聖王教会に保管させてい
たのだ。まさか、こんな急場で使用するとは思っても見なかったが。
「頼む、私に力を貸してくれ」
 自分にそんな資格があるかはともかく、はやては祈るしかなかった。
 そしてその祈りが通じたのか、意外なところから助けが来た。

『地上本部総司令部より、レジアス中将の副官オーリス・ゲイズです』

 オーリスが、クラナガン全域に向けて放送を行ったのだ。

「今は亡きレジアス中将、あの方は死の間際まで地上の平和について思いを馳せ、それを
願うと共に亡くなられました」
 涙を流さなかったのは、強者たる父親の娘であったからか。気丈にも、オーリスは強い
口調と意思で、言葉を紡ぎ出していた。
「地上を守る、それこそがレジアス中将のご遺志です! 総司令部は、八神はやて隊長に
全権を委ねます!」
 驚きの声が、地上部隊に波紋していく。だが、それはすぐに変化を遂げた。

「皆さん……中将の愛した、守りたかったこの地上を、守って下さい!」

 驚きは、熱狂へと姿を変えた。地上部隊が、戦意と闘志を取り戻していく。


「はやて総隊長、陸士大隊が指示を求めてきました!」
 次々と、指令系統がアースラに纏め上げられる。
「魔法戦車部隊の再編が終了、いつでも行けるそうです」
 はやては、大きく息を吐いた。人の力を借りはしたが、目的は果たせた。後は、果たせ
た目的を、潰えさせないだけだ。

「まずは前面の敵の撃破を行い戦力の再編を計る、急げ!」

 地上部隊の、反撃がはじまった。




「地雷王が……」
 熱狂的な地上部隊の反撃に対して、召喚虫軍団が総崩れとなった。元々数がそれほど多
いわけでもなく、ガジェットの援護がなければその差を埋められないのだ。怒濤の攻勢に
対して、地雷王は完全に守勢に回った。先ほどまでは指示を与えずとも目の前の敵を捻り
潰していた彼らが、混乱に足をすくわれ瓦解しはじめている。
「召喚虫をこれ以上失いたくないなら、降伏するんだ」
 ストラーダを構えるエリオに対し、ルーテシアは鋭い瞳で睨み付けた。ガリューが彼女
の横に降り立ち、敵を寄せ付けまいと威嚇する。
「私はまだ、逃げるわけにはいかない。逃げたら、ドクターのお願いを叶えられない、約
束を破ることになる」

 そんなの、嫌だ。

 ルーテシアのデバイスが光り輝き、魔法陣が出現する。彼女が何をしようとしているの
か、気付いたガリューが止めようとするも、遅かった。
「お願い、来て―――白天王!!!」
 究極召喚、ルーテシアが召喚できる中で、最強にして最大級の召喚虫。彼女が管理外世
界で出会い、触れ合い、仲間にした存在。

「大きい……!」
 余りの巨体さに度肝を抜かれそうになるエリオであるが、呼び出された白天王の姿を見
たキャロが、ゆっくりと起ち上がる。
「あの子、悲しそう」
 キャロにとって、ルーテシアの必死さは少しだけ理解できるものだった。キャロが機動
六課という自身の居場所を大切し、守りたいと思ったように、あの子にもまた、守らなけ
ればいけないものがあるのだろう。
「だけど、それでも私はあなたを倒す!」

――天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守
護者、

 キャロが目を瞑り、呪文の詠唱をはじめる。ルーテシアと同じく、魔法陣が浮かび上がる。

「竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルーテル!!!」

 竜騎召喚、ヴォールテール。キャロの究極召喚。白天王と変わらぬ大きさの竜に、ルー
テシアが少しだけ怯んだ。
「私たちには、私には譲れないものがある。それを守るために、私はあなたと戦う!」
 史上最大、究極召喚が激突した。




「――はやてが来た」
 ゆりかご内にいるフェイトも、はやてが来援したことに気付いていた。高濃度AMF下に
あるとはいえ、それぐらいは判る。
「つまり、反撃開始だ!」
 フェイトの周囲にプラズマランサーが出現する。中空にあって、地上から突撃してく
るトーレを狙い撃つ。
「貫け!」
 十数発のランサーに対して、トーレは回避行動を行わないどころか、防御姿勢すら取
らなかった。
 彼女は、そのまま突撃を敢行したのだ。
「その程度の小細工、攻撃にあらず」
 プラズマランサーを全てその身で受け、あろうことか身体で弾きながらトーレはフェ
イトに迫った。予想以上の硬さと突貫力を持つ敵に、フェイトはソニックブームを使っ
て地上へと逃げた。
「遅い!」
 しかし、トーレは一瞬早くフェイトに迫り、蹴りの一撃をお見舞いした。なのでフェ
イトは移動したというより、叩き付けられる形で地上へと降りた。
「それなら、これで」
 フェイトの左腕に、雷撃の魔力が集まっていく。環状の魔法陣が生成され、トーレへ
と向けられる。
「プラズマスマッシャー!!!」
 雷撃の魔力砲が放たれた。フェイトの得意とする高威力砲撃魔法、プラズマランサー
とは破壊力が違う。
 墜ちろ、そうフェイトは念じたのだが、

「小賢しいんだよっ!」

 トーレは怒号と共に、プラズマスマッシャーを右腕で弾き飛ばした。雷撃は壁へと激
突して、爆光を撒き散らす。

「プラズマスマッシャーを、素手で弾き飛ばした……」
 半ば唖然として、フェイトは呟いた。防御魔法で弾かれるならまだしも、何という奴だ。
 フェイトはザンバーを構え直す。
「それほどの実力がありながら、何故スカリエッティに忠誠を誓う!」
 無意味な問いかけだった、少なくともトーレにはそう感じた。
「あなたと同じですよ、フェイト・テスタロッサ」
「私と同じ?」
「あなたが、あなたを作り上げた母親を愛していたように……こう言えば判りやすいで
すか?」
 そういう理由を持ち出されると、フェイトとしては答えようがない。だが、トーレの
次の言葉がフェイトの感情を刺激した。
「まあもっとも、あなたの場合は少し違うか。あなたの母親を愛する気持ちは、所詮記
憶転写技術によるものだ。そうでしょう? プロジェクトFの申し子よ」
 瞬間、フェイトが飛んだ。凄まじい勢いで、トーレにザンバーを叩き込んだのだ。
「フッ、怒りましたか」
 しかし、トーレは交差させた腕、インパルスブレードでこれを完全に防ぐと、大剣の
刀身を押し返した。
 速さは、二人とも互角。攻撃の威力はフェイトが勝るものの、揚力においてはトーレ
が圧倒する。容易に決着は付かず、その点でフェイトは苦戦していた。
「それと、あなたは一つだけ勘違いをしている」
 また何か、こちらの気に触ることでも言うつもりか。睨み付けるフェイトに対し、ト
ーレは何気なく言葉を続けた。
「ドクターは、私などよりずっと強い」



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最終更新:2008年10月13日 21:33