ガングレイヴODクロス短編 

「狗と少女」

もし神様なんて奴がいたら、そいつはどうしようもねえ根性悪だ。
死に底無いの俺にまだ恥かかせようってんだからな。

俺は二度目の死を迎えた筈だった、ブランドン……いやビヨンド・ザ・グレイヴに再び敗れて塵と消えて死んだ。
でも俺は今どこかの下水を歩いてる、最後に受けた銃弾の傷がちゃんと残ってるからまだかろうじて息はあるようだ、夢や地獄の黄泉路じゃねえ。
まあとっくに死んでるのに息があるってのもおかしな話だがな。
でもまあ、日の光の届かない臭え下水路は俺みたいな狗畜生にはふさわしい死に場所かもしれねえ。

そんな皮肉を考えて苦笑していると目の前に小さなガキがいた、そのガキは何故か手に鎖で妙な箱を引きずっていた。
おまけにしゃっくりを上げて泣いていやがる。
俺はガキの鳴き声は好きじゃねえ、だからとにかく声をかけることにした。

「おいチビ、どうかしたのか?」





少女はその涙で濡れた美しいオッドアイで振り返りそして見た。
そこにはボロボロのコートを着て、顔にサングラスを掛け包帯を巻きさらに無精髭まで生やした異様な風体の男が立っていた。
少女は男のその姿に少し怯えるが、寂しさからか目の前の男の服の袖を掴んで涙混じりに言葉を漏らした。

「えぐっ…ママ…いないの…ぐすっ」
「そうか。っていうか泣くな鬱陶しい」
「ぐすん……そんなこと…いったってぇ」

男は泣き続ける少女の姿に呆れて面倒くさそうに頭をボリボリと掻く。
そんな所に突如として壁を破りながら数機の奇妙な機械が現われる。
それがガジェットドローンと呼ばれる戦闘機械であると男は知らない。だがかつて最高の殺し屋として名を馳せ、最強クラスの死人兵士でありシード改造体である彼は即座に反撃に移った。

彼は腕を振るかぶると服の袖口から拳銃を出して両手に構える、俗にガバメントモデルと呼ばれる系統の45口径拳銃を人外の膂力で操り銃弾の雨を浴びせてガジェットを一瞬で蹴散らす。
そしてついでに少女の手に巻かれていた鎖も撃ち砕いていた。

凄まじい銃声が鳴り響いた後には大量の薬莢が甲高い金属音を立てて下水路のアスファルトに落ち、ガジェットが残骸を晒していた。


あまりの早業に少女が唖然としていると、男は銃を袖口に仕舞いながら少女に声をかける。
その口調はまるで何事も無かったように。

「おいガキ、行くぞ」
「ふえっ?」
「ここで泣き喚かれたら迷惑だ、俺はもう永くねえんだからな。とにかく来い、安全な所まで連れて行ってやる」

男はそう言いながら少女に手を差し出す、少女は嬉しそうに彼の手を取った。

「うん、それとねあたしはガキってなまえじゃないよ? ヴィヴィオっていうんだよ?」
「そうかよ」
「おじさんは?」
「文治だ、九頭文治」



文治はヴィヴィオの手を引いてしばらく下水路を進んでいた、するとマンホールに繋がるハシゴに辿り着いた。
文治はまた袖口から銃を取り出してマンホールの蓋に銃弾を叩き込んで、外への道を開いた。

「それじゃあこっから先はてめえ一人で行きな」
「ふえぇ…ヴィヴィオひとり? おじさんは?」
「なんで俺が一緒に行かなきゃいけねえんだよ……邪魔だからさっさと行っちまえ」

文治にそう言われてヴィヴィオは涙を流すが、懸命に拭い去りハシゴに手をかける。
ヴィヴィオなりに文治に迷惑をかけたくないという強い想いが彼女に甘えを捨てさせた。

「うん…それじゃあバイバイ……ぶんじさん」

懸命に涙を堪えて笑顔を作って文治に別れを告げるヴィヴィオの顔に、さしもの文治もバツが悪そうにする。
そして文治は頭を掻きながらぶっきらぼうに声を漏らした。

「お袋に合えると良いな…あばよ………ヴィヴィオ」

その文治の言葉にヴィヴィオは満面の笑みを見せる、それはもう華が咲き誇るような愛らしさで太陽のように温かいものだった。

「うん♪」
「ああもう…そんな笑うんじゃねえよ、気色ワリイ……早く行っちまえ」
「わかった、バイバイぶんじさん♪ またね」

嬉しそうにそう言いながらヴィヴィオは日の光の射す明るい外の世界へと上っていく。
まるでそれは、血に濡れた自分と無垢な少女の姿をよく現しているようで文治は思わず皮肉めいた苦笑を漏らす。

「まったく俺みたいのに懐くなんて、男を見る目がないぜ……それにもう会う事はねえよ」

文治の身体はあちこちに亀裂が入り、死人兵士としての終わりが近い事を物語っていた。
そんな彼の下に再びガジェットが現われる、それも先ほどのような少ない数ではない。
ガジェットは文治の周囲を数十体の編成で取り囲む。

「まったく、しつこい野郎共だぜ……どうせこれが最後だ…それじゃあ俺も本気で行くから、てめえらも本気で来い!」

文治はそう言うと、手に二丁銃を構え身体から青い炎で作られた狼を出す。
そしてその青い炎の狼は遠吠えを上げてガジェットに襲い掛かり、次々に鉄屑へと変えていく。
体内のエネルギーを炎の狼と化して敵を爆砕するこの技こそがシード化した九頭文治の最高の攻撃である。

両手の二丁銃の弾丸が舞い、爆炎の狼が駆ける。
瞬く間にガジェットの群れは倒し尽くされ、無様なガラクタへと変わった。

最後の戦いを終えた文治はガジェットの残骸の上に腰掛けてタバコに火をつける。
思い切り吸い込んで煙たい美味さを味わうと嬉しそうな笑顔を見せた。

「へっ、まあこんな最後も悪くねえか……この先は俺みたいな男に関わるんじゃねえぞ、ヴィヴィオ」

文治は下水路の天井を見上げながら、きっと明るい日向を歩いているだろう少女に向けて最後の言葉を漏らした。

次の瞬間には彼の身体は青き塵へと変わり風と消え、後にはサングラスと二丁の拳銃だけが残された。


だが少女の記憶にはいつまでも残るだろう、少し恐いけど優しい、九頭文治という男の名前を。

終幕。


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最終更新:2008年10月13日 21:05