ロストロギア――かつての文明の遺物。超高度技術や魔法。それら指定遺失物を総じてロストロギアと呼ぶ。
次元世界全てに危機を及ぼす可能性を秘めたそれは、時空管理局によって最優先に回収され、厳重に保管される。だが、それでも悪意ある者の手によって、もしくは自らの意思で次元世界に散らばるロストロギアは時に大きな事件を引き起こす――


Extra Task01 「異界の来訪者」

「まったく……やれやれだ」
クロノ・ハラオウンは誰にともなく、ひとりごちた。外見は二十歳かそこらの立派な青年だが、どこか幼さを感じさせる顔つきをしている。
次元空間航行船『アースラ』。船内通路を歩きながらクロノは疲れた目を押さえた。このところ忙しく、まともに休養もしていない。この仕事を選んだ時から分かってはいたが、たまに退屈が恋しくなることもある。
ブリッジの扉をくぐると、すぐに管制担当のエイミィに声を掛けられた。
エイミィ・リミエッタ。古い付き合いである彼女をクロノはパートナーとして信頼している。
「あっ、クロノ君!大変、大変!」
「どうした?エイミィ」
すぐにモニターに目をやる。モニターの多くの情報を瞬時に処理していき、
「これは……」
クロノは大きく目を見開いた。
「百鬼界の周辺に次元震を感知!?」
百鬼界――それは正確には世界の一つとしては数えられていない。次元の狭間に封印されたその世界には、昔から誰も立ち入ることはなく、誰も出てくることはない。クロノもその名前しか聞いたことはなかった。
「今、原因を調査中。だけど百鬼界は、第97管理外世界――なのはちゃん達の世界だね。そこの近くだし、地球とも関連があるみたい。詳しくはユーノ君に調査を頼んであるから」
手早く報告を済ませたエイミィはすぐに席に戻った。
ロストロギアが関わっている可能性もある。どうやらまた忙しくなりそうだ。クロノは軽くため息を吐いた後、すぐに気を引き締め直した。

プレシャス――それは危険な力を持つ秘宝。古代文明の遺産、超科学の兵器、奇妙な美術品、地球の自然を由来とする宝石や動植物、想像でしかありえないような幻獣。
これら様々なものの総称がプレシャスである。そしてその中には、遥か宇宙から地球に飛来したものもあるという。
別世界をわたってきた秘宝。そんなものが存在する可能性も0ではないかもしれない――

「おしっ!ミッション完了!」
ビルを包む炎は、通常を上回る放水によって完全に鎮火し、負傷者は無し。
高岡映士は上機嫌で変身を解く。全身に纏った銀の光が消え、茶髪の青年――髪の一部が白い――が現れた。歳は二十代前半だろうが、老成しているような雰囲気も感じられる。
銀のジャケットの背中にはSearch Guard Successor とロゴが入っている。そのロゴは彼がサージェス財団の人間であることを示していた。
正式名称『SGS―foundation』。通称『サージェス』とは貴重な宝を回収・保護する民間団体である。プレシャスを災害救助に利用するサージェスレスキューが現在の彼の任務だ。

消防車型のビークル『ゴーゴーファイヤー』を基地へ帰し、彼は歩き出した。空は晴れ、陽射しが心地いい。たまには歩いて帰るのも悪くない。
キュウリを懐から取り出し、かじりながら街を散歩する内に、ふと周りを見回す。どうやら路地裏に迷い込んだようだ。人の気配は消え、先程までの太陽には雲が掛かりだしていた。
なにかがおかしい――映士はそう感じ始めていた。消火に当たったビルはサージェスの近くだ。知った道で自分が迷うはずがない。
肌が粟立つ。空気の流れが変わった。五感の全てが映士に異常を告げている。
(まさか……結界?)
それを感じることができるのは、映士の生まれと過酷な修行故だろう。だが、この結界は映士が学んだものともまた違う気がする。
警戒しつつ歩き続ける。変わらず人の気配はない。
代わりに別の気配が急激に膨れ上がる。肌にひりつく殺気だ。
映士は専用武器『サガスナイパー』を槍状に変形させた『サガスピア』を握り締める。こんなこともあろうかと、変身前から持ち歩く癖が幸いした。
「はっ!」
後ろから振り下ろされた小型の鎌を受け止め、同時に敵の腹を蹴り飛ばす。
「手前ぇはっ!カース!」
石に魔力を込めた人形――古代ゴードム文明の大神官ガジャの使役していた戦闘員。これまで最も多く戦った雑魚だろう。
「なんで手前ぇらが!?」
だがガジャは最終決戦に破れ、海に沈んだはずだった。操る者のいないはずの人形を前に映士は問わずにいられなかった。
当然答えるはずもなく、カースは距離を詰めてくる。背後にも三体のカースが現れた。
「仕様がねえっ!まずは手前ぇらを片付けてからここから出るか!」
左手の腕時計『ゴーゴーチェンジャー』のカバーを開き、文字盤に触れる。
「スタートアップ!」

映士が叫ぶと同時に全身が銀の光に包まれ、『アクセルスーツ』を身に纏う。ほぼ全身が銀色、足から首まで身体の中心を黒のスーツ。頭部の角の様なアンテナが特徴的だ。
ボウケンシルバーはサガスピアを振り回し、最初に前のカースに袈裟斬りに切りつける。そのまま身体を回転させ、背後のカース二体を薙ぎ払う。一対四であろうと、カースごときに後れをとることはなかった。火花を散らし仰け反ったカース三体は耐え切れず、爆発し、四散した。
「よっしゃあっ!」
だが、カースは四体いたはずだ。背後にいたはずの残りのカースは振り向いた先にはいない。
瞬間、背後に滑り込んだ影に振り向く。
カースの鎌が風を切り、目前まで迫っていた。だが、その鎌は見えない壁に阻まれる。カースは何が起こっているのか理解できず、鎌をガンガンと叩きつけるのみだった。
シルバーは自分の懐に目を下ろす。
そこには――少年が両手をカースに向け、突き出していた。
「早くっ!早く止めを刺して下さい!!」
一瞬混乱したが、すぐにサガスピアをサガスナイパーへ切り替え、カースの頭目掛け撃ち込む。ビームの連射を至近距離から受けたカースは爆散した。
「「は~~っ」」
シルバーも少年も張り詰めた緊張を解いたのか、大きく息を吐き出した。同じモーションで膝に手を当てた二人の目が合う。少年は気まずそうに苦笑する。
さっき飛び込んできたのはこの少年だったのか。少年は見た目、14、5歳。金の長髪の上、眼鏡を掛けているため、中性的に見える。実際、最初は少女かと思ったくらいだ。
周りにもう敵がいないのを確認し、変身を解除する。
「それで坊主、お前はなんなんだ?」
少年は一度、映士を上目遣いで見た後、深呼吸した。
「えっと、僕はユーノ・スクライアと申します。魔導師です。あなたは……高岡映士さん、ですよね?『アシュ』についてお聞きしたいことがありまして――」
「お前、何でアシュを知ってる!?それに魔導師だと?」
ユーノが最後まで言い終わる前に、映士は彼に詰め寄っていた。

『アシュ』。それは映士にとって忘れることなどできない言葉だった。
人類の進化の過程で別の道筋を辿った高等生物。それがアシュである。その言葉通り、人間の亜種といえる。
好戦的で人間を敵視していた彼らは一部を除き、次元の狭間の百鬼界へと追放、封印された。逃れたアシュを抹殺し、アシュの封印を監視するもの。それが映士の一族、高岡家である。
だが、映士自身の身体の中にも、アシュの血が半分流れていた。それ故、彼はアシュの討滅に全てを賭けていた過去がある。

「お、落ち着いて下さい!これから順に話しますから!」
ユーノは驚き、映士をなだめようとする。映士が落ち着いたと見ると、ぽつりぽつりと話し出した――
「魔導師……、それに時空管理局ねぇ……」
ユーノから聞かされた説明は、これまでの映士の常識を遥かに超える、とても信じ難いものだった。
「信じられないのも無理はないかと思います。でも、事実なんです。なんらかの理由により、百鬼界とこの世界が繋がろうとしているんです」
だが、戦闘での彼の結界術をこの目で見てしまうと信じざるをえない、とも思う。それにさっきのカース達、何かが起ころうとしているのは間違いないだろう。アシュが関係しているならなおさらだ。
「つまり、俺様はアシュの情報提供と調査の協力をすればいいんだな?」
ユーノはようやく理解が得られたのが嬉しいのか、少し表情が和らいでいる。
「はい。それと……この世界に原因となるロストロギアが存在しているかもしれません。その時は――あなた達ボウケンジャーに探索と回収の協力をお願いしたいんです」
「おう!プレシャス回収なら、ボウケンジャーに任せときな!」
映士はそう言って力強く頷いた。

『轟轟戦隊ボウケンジャー』
それはサージェスによって組織された秘密部隊。危険なプレシャスを回収し、プレシャスを狙う悪と戦い続けている。
その本拠地たる博物館『サージェスミュージアム』の奥にプレシャスが、そしてボウケンジャーの基地が存在する。
だが、そのメンバーが待機するサロンには、一人の青年が暇そうに座っているだけだった。
黒を基調としたジャケットの青年。普段は鋭く研ぎ澄まされたその眼も、今は眠たげに半分閉じられている。

伊能真墨――ボウケンブラックであり、現在ボウケンジャーのリーダーでもある彼は、退屈していた。このところ出動も少なく、ほとんど学芸員の仕事しかしていないのだ。
プレシャスを悪用しようとする連中――『ネガティブシンジケート』が減ると同時に出動回数も減ってしまった。別に戦いがしたいわけではない、だが、冒険の機会が減ってしまったのが退屈なのだ。
一年半ほど前のガジャとの決戦に勝利した後、ガジャは深い海の底で眠りに就いた。
恐竜遺伝子と掛け合わされ誕生した『ジャリュウ一族』も、長にして創造主のリュウオーンを亡くして以来、鳴りを潜めている。
忍者集団『ダークシャドウ』は、他の組織のように人類滅亡を企てているわけでもない、ただの営利目的の小悪党だ。その上、好戦的な副頭領『闇のヤイバ』の裏切りと死により、随分と大人しくなった。
映士と深い因縁のある『アシュ』。わずか数人に何度もピンチに陥ったが、今では封印されていないアシュは全て倒した。
その後、前リーダーのボウケンレッドと副リーダーのボウケンピンクは仲良く?宇宙へプレシャスを探しに旅立っていった。
今に不満はない。だが、宇宙へ冒険に行ったボウケンレッド――明石暁を少し羨ましく感じているのも事実だった。

「どうしたの?真墨」
いつの間にか黄色のジャケットを着た女性が真墨の顔を覗き込んでいた。両端で結んだ髪が、突然目の前に垂れ下がり、思わず椅子から転げ落ちそうになる。
「なんだ菜月か。なんでもねえよ」
真墨はうざったそうに片手を振って答える。
彼女はボウケンイエローこと間宮菜月。真墨の入隊以前からの仲間で、最も古い付き合いといえるだろう。
「暇そうですね。チ~フ」
その内、ブルーのジャケットを着た軽薄そうな男も入ってきた。
最上蒼太――ボウケンブルーであり、菜月や真墨よりも先にボウケンジャーに入隊していたが、真墨がリーダーになったことを不満に思っている様子もない。たまにからかい半分で「チ~フ」とか呼んでくるだけだ。
結局、未だ新しいレッドとピンクは入ってきていない。出動しても、ビークルを発進させる機会も少なければ、合体する機会はもっと少ないのだ。真墨を含む三人に、ここにはいないが、ボウケンシルバーの高岡映士の四人で事足りてしまうのだった。

「お~い。みんな集まってるね。」
三人で他愛もない会話を交わしていると、モニターから声が聞こえた。
そして逆さにした白いコーン(円錐)に手や顔を付けたCGキャラクターが現れる。
「なんだ。ボイスか」
真墨がボソっと漏らすと
「なんだ、じゃないでしょブラック君。なんだ、じゃ。え~、今日はみんなにちょっと用事があるんだ」
耳に障る加工音声で喋るCG。ミスター・ボイスと呼ばれるそれはボウケンジャーの司令官的な存在だ。サージェスの命令をボウケンジャーに伝えるのだが、真墨は実際に会ったことはない。
「なんだよ。用事って」
「新しいピンクとレッドの面接をしてもらおうかと思ってね。ほら、ブラック君の時もレッド君が決めてたし、君達の意思も大事だから。お~い、入ってきて~」
間の抜けた声でボイスが呼ぶよりも先に、ドアを開けて入ってきたのは二人の女性。いや――女性と子供が一人ずつ、と言ったほうが適当だろうか。
一人はピンクの長い髪を後ろで束ねた女性。かなりの美人だが、鋭い刀剣のような雰囲気を漂わせている。
もう一人の子供は、緋色の髪を三つ編みにして二つに分けている。普通にしていれば可愛いのだろうが、何が気に入らないのか、噛み付きそうな目でこちらを睨んでいる。
「ええ~~!!」
三人ともが声を上げ驚いた。言うまでもなく、子供に。
だが、この二人との出会いが真墨の退屈を流し去ってしまうことになるとは、まだ、この時点では気付くはずもない。

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最終更新:2007年08月14日 11:51