604 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:43:15 ID:RK4nF5hh

 サン・ミシェル女学院といったら、本国フランスはおろか、欧州中に知れ渡っているハイスクールの一つ。
 貴族の子孫も大勢ここで学ぶ。いわばお嬢様学院。
 ここで五年間すごした私は、その名前を口に出しただけで、
驚き、喝采し、そして敬服する周りの人たちに対してすっかり謙遜する素振りを身につけてしまったけど、まあ、悪い気はしないわ。
 ここに通っている私でも、実際すごいと思うのよ。
 例えば今回の旅行とかね。
 修学旅行といった大層なものではないけど、社会科の授業の一環として、ジャポンへの学習旅行。
 テーマはアジア経済の発展について。
 とはいっても、私の友人、そして教師すらさらさら、勉強を教えあうといった雰囲気は感じられない。
「さあ、みんなで遊びに行きますわよ」
「ウィー」
 というような感覚ね。

 そんな私も正直、アジア経済なんかどうだっていいの。
 世界第二位の経済大国だか、自動車の輸出大国だか知らないけど、
そんなことを暗記するよりも、ほら……なんだっけ?
 友達が踊って私に見せつけていた、ハヒルだっけ? アヒルだっけ?
 ああ、そうそうアヒルダンスを歌いながら踊り、
もしくは、それに関わるアニメーション談義を聞いていたほうが、よっぽどジャポンの勉強になるわ。

605 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:44:26 ID:RK4nF5hh

 パリ東京間の飛行機の中では、けっこう退屈なく過ごせた。
 まあエアフランスを一機まるごと借り切っているもんね。
 普段のおしとやかな雰囲気はどこへやら。
 迷惑をかける相手のいない私たちは、女子高生らしくキャイキャイ談笑している内に、あっという間に東京に着いた。

 うんうん。ここの国は面白いわ。
 まずそうね~、第一印象といったら、結構な割合で日本人がマスクをしていたことかな?
 ゴーグルを身につけている人もたね。
 でも決して大気汚染が激しいってわけではないわよ。
 春真っ盛りの新鮮な空気を思いっきり吸い込んだら良いのに。環境に敏感なのだろうか?
 あとはね、アキハバラに行ったときのこと。
 日本語読めないから、何をいっているかわからないけど、
 普通の看板広告が、アニメーションから飛び出してきたようなキャラクターでそれはもう大勢。
 ティッシュを配るメイドさんもたくさんいたわ。
 私たちとそんなに年、変わらないんじゃないかな。
 今学校ある時間だと思うんだけど、どうなっているのよ?
 友達は、
「むえ~♪ むえ~♪」
 とかいって写真を撮りながら喜んでいるし。

 ようやく授業らしい授業といったら、自動車の組み立て工場の見学。
 車体にドアが取り付けられる瞬間を狙って、
「ウィーン……ベルン! ウィーン……ベルン!」
 って言ったら、みんなが笑ってくれたわ。
 だってそう聞こえたのもの。
 私の高等すぎるギャグを分かってくれるクラスメートに感謝をし、
 次に向かったのは、魚加工工場。

606 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:46:06 ID:RK4nF5hh

 魚といったらあれね。
 隣国イギリスの唯一の名産フィッシュアンドチップ。
 マクドナルドのフィレオフィッシュにはさまっているやつよ。
 食事に関しては<天国の料理人>と<地獄の料理人>。
 そんな風に揶揄されている仏英だけど、同じ島国のジャポンも、地獄のほうに入るのかしら。

「はーい、いまからここの加工工場に入りまーす。皆さん、ホッカイロは買ったかしら?」
「えー? なんでホッカイロが必要なんですか、先生?」
「ホッカイロは冗談だけどね。とっても寒いところに入るからだわ。覚悟しておいてね」
「寒いって、どのぐらい?」
「そうね~。真冬の吹雪の中、エッフェル塔のてっぺんにいるときより寒いかしら。マイナス二十度よ」
 きゃあー、とクラスメートたちの喚声があがる。
 二人で抱き合いながら、ブルブル震える振りをする友人もいたわ。
「さあついていらっしゃい」
 先生に従って、私たちはついていった。

 ドアというよりも、城門みたいな入り口にたどりつくと、
上から強く吹きつける風で、私の腰まである金髪がくしゃくしゃになった。
 後ろにいた友達は爆笑していたけど、冗談ではないわよ。
 いくら冷気を逃さないための仕組みといっても、限度があるでしょう!
 私は後ろにいた人たちに、華麗な言い回しの文句でその場を収めようと思ったけど、
それが、もう、できなかった。
 くちびるの水分は、灼けた鉄板にとんだ一粒の水滴よりも早く蒸発し、
追いうちをかけるように、乾燥と痛みを与えるの。
 同時にからだ表面のすべての細胞が、いっせいに収縮し始め、
目の角膜も、髪の毛の表皮細胞も例外なく、寒気に備えたわ。
 さ、さぶーー。これがマイナス二十度……
 もう、視界なんてあったもんじゃない。
 というか寒くて目があけられないもん。
 かろうじて首を上げると、強制労働前のうなだれた罪人がゆっくりと徒行しているような列に見えるし。
 うー、さぶい。私もあんな無様な格好で歩いているのかな。
 なんて思い始めて、乱れた金髪を笑った連中のことは、どうでもよく……

607 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:47:08 ID:RK4nF5hh

 いや待てよ。こうなったら後ろの連中が寒さで豹変するさまを見てやろうではないか。
 こう思った私は、ギギギとロボットがごとく首をひねらすと、寒さに震える集団が二つに見えた。
 えへ♪ これはまいちゃったわ、目がここまで悪くなってしまうとは……
 いや、ちがうちがう、ちゃうねんで。制服ちがうから。
 私がみた二つの集団とは、私の後ろに続くクラスメートたちと、恐らくは……ジャポンの学生さんたちだ。
 多分私たちと同じ、社会科見学みたいなものかな?
 あの顔だちと長ズボンが途切れなく続いていくのを見ていると、男子校の学生さんっぽい。
 うわあ、異国の異性を見てるとなんか変にドキドキしたりしてしまうわね。っていうのもちょっとあったけど、
それよりも正常顔が、寒さに震える顔に次々と変わってゆく、まるでコンベヤーシステムかよ!
ってつっこみたくなるほどの流れ作業っぷりが面白かったわ。……私たちも同じだけどね。

 体育館ほどの広さがある冷凍庫にはさまざまな魚が置いてあったわ。
 魚。魚。魚。
 うーん。魚に種類があるというのは分かる。
 だけど、これ以上どう観察せよというのかしら。
 品書きには日本語で書いてあるし、読めないわよ!
 はっ! もしや先生は、この寒さを体験したいがためだけにルートに加えただけかも……
 そんなこんなを思っていると、私にも種類が分かる魚に出会った。
 コッドフィッシュ。つまりタラよタラ。魚辺に雪で鱈!
 ははーん。やっぱりイギリスと同じ島国のようね。
 これでフィレオフィッシュでもつくって。日本の名産とでも言うつもりかしら。
 最近では低カロリーの日本料理が世界的にブームだというけど、所詮はこの程度なのね。

608 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:47:57 ID:RK4nF5hh

 私が、日本料理と英国料理の図式をイコールで結んでしまおうという時に、
「アメリカから来たの?」
 と誰かが英語で話しかけてきた。
 ジャポンの学生。私より5センチほど高くて、年齢のほうは……ジャポン人は幼く見えるという噂もふまえて、同じくらいかしら。
 発音の基礎を学びなおしたほうがいいんじゃない? というぐらいだったけど、
それよりもこの高貴な私を、肥満率60%のアメリカ人だと思われたことに腹が立った。
 ふん、でもまあいいわ。
 周りを見たところ、特にジャポン学生の集団とクラスメートが交流している様子はないし、
私に声をかけようと決めた。という一点のみ、この男子学生を評価してあげなくもない。
 胸は少し控えめですけど、このエメラルドのような瞳に惹かれたのかしら。
 それとも毎日手入れの欠かさないこの金髪に目を向けたのなら、それもまた良しですわ。
「いいえ、私はフランスから来ましたわよ」
 と丁寧に英語で言い返した。
 ホントは美しい音色を持つフランス語で返そうかと思ったけど、
それではコミュニケーションが図れるとも到底思えない。し、仕方なくなんだからね!
「おーう、フランスか、パリ! シャンゼリゼストリート! ルーブルミュージアム!」
 なに? この子、頭おかしいのです? 自分の中のフランス知識をひけらかしているのかしら。
 こ、これは負けていられないわね。
「ゆのーう、ジャポンアニメ、シャナ! ラキスータ! テニプーリ!」
 刹那、男の表情が変わった。まさに痛恨の一撃をくらった具合に。
 アニメ自身は見ていないのだけど、友人に教えてもらった単語が効を奏したようだわ。
 あ、あれ? だけどこの男、だんだんとくちびるがにぃっと吊りあがって、ほくそえむのはどうして?
「おーう、ラキスータ! アーイマーイサンセーンチ!」
 な、なんですの? そんな英単語、高校では習わなかったわ。
 もしやアニメ単語の続き? じょ、冗談じゃないわよ。アウェーの私が勝てるわけないじゃない。
 今度はボディーラングエッジで話しかけてくるわ……ジャポン人男性は気が弱いというのは嘘のようね。
 でもまさかこの私が、彼のに押されてしまっているとは……悔しいけど事実かも。
 い、いや、これは違う……ボディーラングエッジではない!
 ――アヒルダンス!

609 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:49:13 ID:RK4nF5hh

 おそらく私たちはコミュニケーションの三割程度しか取れなかったとはいえ意気投合したのだと思う。
 いえ、意気投合したと思わなくてはやってられませんわ。
 なんですの、この状況!
 あんなに明るかった冷凍庫は、今は薄暗い電球色に変わってしまっているし。
 あんなに騒がしかった冷凍庫は、今は凍った魚のパリパリっとした氷運動の音に変わってしまっているし。
 あんなに私の髪の毛をぐしゃぐしゃにした入り口は、今は無残にも厚い鉄の扉に覆われているし。
 私たちがどうしたっていうのよ!
 絶望した! マイナス二十度のなか、異国の男の子と二人っきりという状況に、絶望した!
 こういうのって管理人みたいなのが、ぬこの子一匹見逃さずに巡回してまわって、
ようやく誰もいないって確認してから扉を閉めるのが相場じゃない!
 これは訴えてもいいレベルじゃないかしら。リーマンとメリルが再生できるほどの巨額の慰謝料を吹っかけてやるんだから!
 わあ! 隣を見ると、寒さで真っ青にしている彼がいるし。……彼って。
「そういえば、あんた名前なんていうのよ」
「……睦啓太」
「ムツメーター? なんですのその自動車に取り付けられているかのような計器は」
「……?」
 ああ、この程度の英語も通じないのでしたわね。
 ったく、アメリカは日本を従属させているのだったら、英語ぐらい叩きこんでやりなさいよまったく。
「もう一度聞くわ。あなたのお名前はなあに?」
「……けいた」
「ふぇいた?」
「けいた」
「ふぇいと?」
「けいた」
「ああそう。あなたの名前はフェイトね。私の名前は……」
 そこまでいうと、急に男は活力を取り戻し、

610 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/18(木) 11:50:05 ID:RK4nF5hh

「ナノハ」
「……は?」
「君の名前はナノハ」
 ――――!
 な、なーんで私の名前をあんたに決められないといけないのよ! そこにある魚で頭かち割ったほうが良いんじゃない!?
「いや、この場合は逆に、僕がナノハで、君がフェイトのほうが、いいかも……なぜなら君金髪だし」
 …………
 だめだ、こいつ……はやくなんとかしないと……
「私の名前はマリーよ。いい? とってもポピュラーな名前なんだから覚えなさいよ」
「けい。いー、あい、てぃー、えい――――ケイタ」
「ケイタ。わかったわケイタね」
 セサミストリートじゃあるまいし、なんでこんなに時間がかかることやら。


「今、とてつもなく危機に瀕しているのは分かるわよね?」
「……うん」
「このままでは私たちも、あの魚と同じようになるわ」
「……うん」
「んで、これからなんとか対策をとらなくてはいけないんだけど」
「……うん」
 …………
「WHAT DO YOU DO!!」
「……う、うん!」
 ああ、終わった。
 さっき彼とは三割はコミュニケーションが取れるといったけど訂正するわ。ゼロよゼロ!
 使い魔じゃないけど、本ッ気でゼロだわ。
 でもケータはもしかしたら私の役に立っているかもね。怒りの炎のおかげで少しは寒気が遠のくわ。
「くしゅん」
 うおーっと。やっぱり寒い。寒いというより、ちょっとくしゃみをしただけで顔の回りがひりひり痛い。
 いくら叫んでも叩いてもどうにもならないあの扉がある以上、どうにかして暖を取らなくちゃいけないわね。

613 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/19(金) 10:23:12 ID:LpHbQNZO

 暖……暖というと……どこかに冷風をしのげる場所とか、その冷風をとめるスイッチみたいなものはないのかしら。
 ってかここ、空調効きすぎよ!
 なんか閉じ込められてから、一段と寒さが増したと思うのは、たぶん気のせいじゃないわね。
 私たち見学者によって暖められた空気を、急激に冷やそうと思って、冷房のつよさを強にしたんだわ、きっと。
 もう耳の感覚なんか、寒さや痛さを通り越して無感覚になっているし、頭の内部まで、ジェラートを食べたように、鈍痛がする。
「くちゅん」
 あー、鼻水が出ているか出ていないのかもわからないわね。
 あれ? ケータ? なんかこっちに手招きをしている。 何か発見したのかしら。
 え? なに!? 突然制服のボタンをはずし始めた。 何考えているのよあんたは。
 ……あ……ああ。その上着を貸してくれるってわけね。
 いや、で、でもいいわよ。ケータだってものすごく寒いんでしょ。顔見たら分かるよ。
 私はノンメルシーって言おうと思ったけど、その前に彼はまたそのボタンをとじはじめた。
 ん? ……ってなに? ボタン掛け違えていただけかよ!?
 彼は制服上のホックまでしっかりはめこむと首まで縮こませて、またその場にしゃがりこんだ。
 はぁ……こっちはブラウスなんだから、胸元がスースーするのよ。つーかコイツは何のために呼んだんだか。
 ケータは横目でじろりとこっちの胸元を指差した。
 今度はどうしたって言うのよ。……うわ、わ、私の胸に手を伸ばして、何する気!
「マリー」
 突然ケータは、私のブラウスの襟首をつかんだ。
 サン・ミシェル女学院伝統的な茶色のブラウスに。
 こ、こんなところで、だれも周りにいないからって、そういうのは良くないと思うのよ。
 だいたい、ねえ? そういうのって早すぎるでしょ。
 いくら私たちが、クラスメートたちの集団行動に気づかないぐらい語り(?)あってたとはいえ、
魚の切り身がすぐ横にある場所でなんか、したくないわ。
 考え直して、ケータ!

614 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/19(金) 10:24:14 ID:LpHbQNZO

 私はなみだ目になって訴えるも、彼はブラウスをはだけ……
 ……うん?
 逆におもいっきり締めつけられて、安全ピンでとめられた。
 …………
 な、何よ! そうするならそうするってはじめに言いなさいよ!
 胸元が暖かくなったじゃないのよ! まったく!
 ケータはまた元の位置にもどって、お尻のつかない体育座りをした。

 三十分ぐらいたったと思う。
 いまごろはきっと私がいないって大騒ぎしているころかしら。
 ケータのクラスでも同じことよね。すぐに助けが来る……うん、きっとすぐに。
 私たちはそれから一言も声を掛け合わずにじっとしていた。
 じっとしていると急に悲愴感が押し寄せてきて、それがどうしようもなくなって話しかけたくなってしまう。
 でも、さっきの勘違いによる羞恥心が負けじと出てきて、ケータからまた顔を背けてしまう。
 ああん、寂しいよう、リアちゃん、メアリーちゃん、せんせい~。
 私が友達の名前を心の中で呼んでいると、突然、キテレツな音色が響いた。
「ミックミクニシテアゲル~。ウータハマタネガンーバールカラ~」
 なあ、なに? なに? なにこれ?
 すると、ケータだけがなんか分かったような顔をして、ごそごそと制服ポケットをまさぐった。
 あるじゃん! セルフォンあるじゃん!
「しかし、僕は、携帯電話を、持っていた」
 こうケータが説明し始めた。
 なにが“しかし”よ! しっかりこの場においてもっとも大事なものをもっているじゃん!
 説明は良いから、早く出なさいよ。 ああ、もう! ミクの歌、聴き入ってるんじゃないわよ!

615 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/19(金) 10:25:01 ID:LpHbQNZO

「――――」 
 ケータはジャポンの言葉で、誰かと話していた。
 たぶん彼の先生か友人が気づいたのね。助けはいつ来るのかしら。十五度ぐらいの素肌を癒してくれる大気にはいつ会えるのかしら。
 ああ、だめね。心が急いでしまうわ。まずはここから生きて帰れるという安堵をギュっとかみしめなくちゃ。
 ケータの電話が終わった。すると同時に私は、
「あなたの先生たちはどこにいるの? いつ助けがくるの」
 と聞いた。
 中学一年程度の英単語で、ゆっくりと。
 するとケータは、
「ああ、違う違う。今のは、弟から」
 は?
「みなみけのDVD第三巻、どこにあるのって」
 は?
「あいつにも困ったものだよ。弟は十二歳のくせして千秋が好きなんだぜ。でもこういうのもロリコンって言うのかな」
 ちょ……
 そんなのどうだっていいじゃない! アニメなんかユーチューブで見なさいよ! 千秋よりまこちゃんだろ常考!
「助けはいつ来るのよ!」
「それは、いまから、呼ばないと……」
「なら早く電話をかけなさいよ!」
「わ、わかったから、首絞めないで……」
 私は速攻でケータに電話をかけさせた。
 鏡をみなくても分かるほどケータをガン見していたから、よもや関係のない人に電話をかけるといったボケはしないだろう。
「あ……」
「なによ! 今度はどうしたのよ!」
「電池……」
 …………
 …………
 私は呪ったわ。自分の運のなさに。

616 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/19(金) 10:26:07 ID:LpHbQNZO

 ついていない。と思っていたけど、実は何かが取り憑いているんじゃないかしら。
 ほら、ここには何千という魚の死体があるわけだし。
 取り憑くんだったら、ケータのうじのわいてる頭の中だけにしなさいよ。
「くちゅん……く、くちゅん」
 うわあ、体の芯まで冷えてきた。
「大丈夫?」
 わたしのくちゃみに反応して、ケータの方から声をかけてきた。
「え、ええ。まだ大丈夫だわ」
 と返しても、やはりそろそろ限界が近いかもしれない。
 やっぱ……
 やっぱあれなの? あれをするしかないの?
「くちゅん」
 ……し、仕方ないわ。

617 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/19(金) 10:26:45 ID:LpHbQNZO

「ねえ、ケータ」
「ん?」
「あなた、寒くない?」
「……特に」
 強がりを言わないでよ。会話が続かないじゃない。
「わ、わたしはちょっと寒いんだけどさ、もしよかったら……」
「?」
「ほら、お互い体を寄せ合うと、凍えが止まる可能性が若干増えるというか……」
 ああん、もう。こんな遠まわしに難しい単語並べても、ケータは理解してくれないわよ。
 もっと直接的に言わないと……
「あなたと合体したい」
 つ、通じたのかな、ちょっと恥ずかしいセリフだったけど。
 でも、思いは通じた。
 ケータはそっと肩を寄り添ってくれた。
 なに? こいつ結構いいところあるじゃない。近くで見るとそれなりにたくましくて、男の子の香りもするし……
「ケータ、あなた女の子ににモテるでしょう?」
「いや、ぜんぜん?」
「いーえ、私には分かるわ。ジャポンは謙遜する文化だって習ったからね」
 ケータは少し困ったような表情を作ったが、私は続けて言う。
「私は自分のことをはっきり言うわ。もし私が女学院に通っていなかったら、ボーイフレンドなんかいっぱい作っていたね」
「……」
「自分で言うのもなんだけど、結構モテたと思うよ」
 私は前髪を掻きあげながら、彼にウインクをした。
 どう? これで何百人もの後輩からお姉さまと慕われるほどのプロポーションよ。(胸はないけど)
 私の髪には香りは薄いけれど芯の強いシャネルの五番をつかっているんだから。街を歩くだけで皆振り向くわ(胸はないけど)
 この靴も、スカートも、ブラウスもすべて一級品のブランド物なのよ。(胸はないけど)
「ケータもさぞやおにゃのこにモテモテなのでしょうね」
 こうして膝を組み替えさせてみたりして、ケータを誘ったのだけど、
「あなたとは違いますから!」
 突如、彼は人間離れした顔になった。
 びっくりしたのと同時に、なにかまた理不尽な怒りが込み上げてきた。
 なーにがあなたとは違いますよ! フフンじゃないわよ!
 …………
 まあ、いいわ。そうだった。ケータは男子校だったのよね。
 つまり女の子に対して免疫がない……ということにしといてあげるわ。
 でもこんな美貌の持ち主にそんなこと言うなんて、ちょっとしゃくにさわるわね。

621 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:03:04 ID:ymWeqJAC

「ぉーぃ、ぉーぃ」
 響きの伝わらない、まるで遠くの彼方から叫ぶような呼び声が聞こえたあと、
あの忌まわしい入り口の扉にガンガンともの打つ音がした。
 私の耳に狂いはありませんわ。これぞまさしく探している合図!
「ケータ、助けが来たわよ! ほら、おきなさい!」
 隣にいるケータを肩で小突くと、ケータはそのまま……
 反対側に倒れてしまった。
「ちょっと……ケータ?」
 彼はまるでカチカチに凍ってしまったように、両膝をきちんと折りたたんだ形で動かない。
 顔を触ると、それはもう冷たく、意識がないようにも思えてしまう。
「ケータ! ケータァ!」
 返事がない、ただの……って冗談じゃないわよ!
 起きなさい! 起きないと、あんたのCドライブ、全世界に公開しちゃうわよ!
「う……ぁ……」
「ケータ! ケータ! ケータ!」 
 意識はある!? ここで眠ってしまったらおしまいよ! お願いだからしっかりして!
「……姉ちゃん……あと、五分」
「だーれが姉ちゃんよ! 立てやゴルァ!」
 私は無理やりケータを立ち上がらせた。
 股間にも変なテントがたっているけど、そこは気にしたら負けよ、マリー。
「ほら、ガンガンガンって扉がたたく音が聞こえるのよ。私たちを助けに来たのよ」
「ん……本当、だ」

622 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:03:51 ID:ymWeqJAC

 私はケータを入り口まで引っ張っていった。そして確実に人の声を耳にした。
「――――!」
 扉の外にいる男性が、ジャポンの言葉で叫んでいる。
「ほら、ケータ! 彼なんて言っているの?」
「――――、――――」
 ケータは外との会話をしていた。
 わ、わ。これはいけないわ私。うれしくてケータの会話の邪魔をしちゃ、足手まといな女の子になっちゃうじゃない。
 およそ一分の話し合いの間、私はじっと黙ってケータの顔色をうかがっていた。
 ケータはポーカーフェイスだから、ぜんぜんわからなかったけど。
 外の男の声が止まった。
 続いて、ケータが……さっき座っていた位置に戻り始める。
 な、何を言われたのかしら。
「ね、ねえ、ケータ。いまからドア開けますよ~、みたいなことを言ったんだよね」
「ああ、そうだよ」
 ふぅ、ちょっとびっくりしたじゃない。黙って扉から離れるから。
「なんか扉が故障したらしくて、開かないんだ。取り外すのに、十時間ぐらいかかるんだって」
 はあ? TEN HOURS? 
「分っていうのは、MINUTESって言うのよ。テンミニッツ。そんなのこともわからないの?」
「わかっているよ。本当に十時間だよ。十時間というとマリーがフランスから日本に来るのと同じぐらいの時間かな?」
「本気で言っているの? あなたの聞き間違いじゃない?」
「聞き間違いはしないよ。同じ日本語で話しているんだしね。ははは、参っちゃったね」
「ははは、じゃないわよ! どうするのよ、これから!」
「あ、ほら。冷房も止めてくれたみたいだし。なんとかなるんじゃないかな?」
 確かに、突き刺さるような風の流れはいつのまにか無くなっている。
 でもこの冷凍庫の中の熱活動といったら、私たちの二人ぐらい。とてもすぐに温度が上がるような状況ではないわ。
「と、とにかく。十時間なんて間違っている! おかしいと思わないの? 何かの陰謀よ!」
「そんなことないさ」
「もうあなたの国のガンダムとかエヴァとかを出動させて、助けにこさせなさいよ!」
「……マリー、いくらアニメが好きだからって、現実逃避するのは良くないよ」
 じょ、冗談にきまっているじゃない! あんたに話を合わせてあげただけよ!
 そんな哀れむような視線はやめて。

623 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:04:39 ID:ymWeqJAC

 私は何かの陰謀という線をまだ疑ってはいたけれど、
十時間ここでこーして身を屈めていなければいけないということは理解したわ。
 閉じ込められてからようやく一時間。つまり今までの十倍はこの苦痛に耐えなければいけないわけね。
 ……もうやだ、この国。
 そういえばパリからここまでちょうど十一時間だったわね。
 あの飛行機の中では、あっという間に時間が過ぎていったけど……今はどう暇を潰せばいいのかしら。
「はっはっは、魚の見学でもするかい? マリー」
「魚なんかもう見飽きたわよ。今度食卓に並んでいることがあったなら、星一徹ばりにちゃぶだい返ししてやるんだから」
 はぁ、唯一の知的生命体と思わしき人物は、なんかアホの子だし、key作品の歴代ヒロインよりも私はかわいそうなんじゃないかしら。
「kjちゅん」
 あーもう、今日何回目のくしゃみだろう。あまりにくしゃみのしすぎで文字化けしちゃったじゃない。
 私はまた、ケータの左隣にくっつくようにして腰を下ろした。
「ケータ?」
 あれ? 震えているの? んもうしょうがないわね。だったら……
 そう思っていたら、急にケータがすくっと立ち上がったわ。
 え? 私の近くにいるのがそんなに嫌なの!? 緊急事態なんだし、そんなあからさまな態度を取らなくても、
「ちょっと、離れるね」
 ケータはポケットからビニール袋を取り出すと、ささっと物陰に隠れていく。
 二十メートルぐらい離れていったかしら。
 突然、ものすごい湯煙が舞い上がっていくのが遠目にも見えて、それがトイレだと気づいてあわてて目をそむけたわ。
 そして一分もしないうちまた私の隣に座る。
 手際がいいわね。そ、その、おしっこの入った袋は置いてきたのかしら……まあ当然ね。
 持ってきてもらっても困るもの。
 それにしても、もし私だったら、あるはずのないトイレを探して、我慢しながらうろちょろしていたでしょうね。
 ていうか、あんたなんでそんなビニール袋なんてもん持っているのよ。

624 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:05:24 ID:ymWeqJAC

 あ……
 やばい、なんか私も、おしっこに行きたくなってきたわ。
 当然、私のポケットにはビニールなんてない。
 こ、これは、どうしたものか……
「ケータ」
 声をかけたら、目が合った。
 ま、まあ、もっとも声をかけたら振り向いてもらわなくちゃ困るわけなんだけど、
こう10センチの距離感で見つめあうのは、耐えられないぐらいはずかしい。
「な、なんでもありませんわ」
 ってー! なんてことをいうの、私は! 
 いまはケータがビニール袋を持っているかどうかを聞くのが、最優先事項なのに。
 で、でもそういうの聞くのって、でっかい恥ずかしいじゃない。
 もうまるで、いまからトイレに行きますよって言っているのと同じじゃん。
 うーん、どうしたものかー、どうしたものかー。
 ケータはこんな私の気持ちを知ってかしらずか、またポケットからさっとビニールを取り出した。
 あ、よかった、一応、まだ持っているわけね。……ていうか何者よ、アンタ。
 さあ、それを無言で私に渡してくれたら、あなたをアホの子呼ばわりしたことを撤回してあげてもいいわ。
 ケータは、そのビニール袋を……
 もってまたどこかに行こうとした。
「ちょ、待ちなさいよ。またどこかに行く気?」
「あ、うん。今度は大きいほう」
 ……あなた、なかなかやるわね。

625 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:06:05 ID:ymWeqJAC

 そのあと恥ずかしながらもビニールを頂戴し、用を足したわけなんだけど、やっぱりマイナス二十度ってものすごいわね。
 あっという間に袋の中に霜がついてしまう。
 この分だと、すぐにでも凍ってしまいそうだわ。
「は……くちゅん」
 さむいさむいさむい。
 わっちはまたぬしの隣という定位置に座ると、少しだけ安心感を得たわ。離れないでくりゃれ?
 ドアの工事が始まったようだわ。
 音量としては小さいものだけど、重い音がする。
 斬鉄剣の使い手なんか日本にいっぱいいるはずでしょ? ホントなにやっているのかしら。
 ぐぅ~
 ――――!
 私のおなかの音……じゃないみたいね。
 ……ケータったらおなかすかせちゃって。
 私はほっとして、そしてほほえましくケータを見ていたら、またもやポケットから……
 りんごを取り出した。
 ボクドラえもんかよ!
 シャリシャリとおいしそうにりんごを食べ始めると、半分食べたところで、こっちを向いてきたわ。
 まるで、マリーも食べる? と言わんがごときに。
 あ、でもビニール袋の件もあるし、ここは素直に受け取っておいたほうが、いいかも。あと何時間あるか分からないし。
「マリー」
「な、なによ」
「マ リー  し っ て い る か  し に が……」
「はいはーい、ストーップ」
 谷川九段もびっくりの光速のつっこみを入れておいて、半分食べかけのりんごを奪い取ったわ。
 もぐもぐ。
「あー、おいちぃ」
 か、勘違いしないでよ。私は青い血が流れているほど、野蛮ではないわ。
 どうせケータもこのりんごをくれる気だったんでしょうし……
 ケータは、こんな私をニコニコしながら見ていたわ。
 まるでこうなることを予想していたかのように。
 くぅ。
 ……私にとって、アンタは本当に死神よ。

626 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:06:52 ID:ymWeqJAC

「そういえばさ、マリーってツンデレだよね」
 またまたまた、いきなり何を言い出すのかな、この子は。
「あー、やべえ、マリーがかわいく見えてきた」
 私はそういわれた瞬間、顔という顔から火が吹いたのを感じた。
 って、って、って、てもて~!
 し、至極当然のことだわ! でもその言い方だと、まるで私が今までかわいくなかったみたいに聞こえるじゃない。
「でもなー。僕まだレベル3だから、声が聞こえないしな~」
「は? 何のレベルなのよ」
「レベルが4まで上がると、君の声が、くぎゅに変換されるんだ」
「はあ?」
「オタクレベル」
「はぁ、左様ですか」
 もうケータに対しては、愛しさと切なさと心強さの割合が0:10:0になってきて、なんかいろいろと、諦めた……わ。

 ゆび先がジンジンと痛むなか、私は今までのことを思い起こしてみた。
 っていっても、ケータのボケに私が振り回される展開なんだけど、ちょ、ちょっとは役に立ったこともあったわ。
 くび回りの暖かさ。これは彼が安全ピンで止めてくれたおかげだわ。胸がなかったからとかいわないで! ステータスなんだから。
 りんごもおいしかった。彼の体温のおかげで凍ってはいなかったし、その甘さが心身に染みこんでいったわ。
 しかしね、ケータのあの鈍感さはなんなのよ! 蹴ってもつねっても、何にも感じないんじゃないかしら。誘惑にも無視するし。
 てあたりしだいに罵倒してみても、仕方がないわね。オタクだから喜びそうだけど……それにしても、
 つんでれって何よ! あんなのただのヒステリー人格破綻者なだけじゃない! 
 てゆーか、ホントに私は無事生きてフランスに帰れるのかしら。頭が朦朧としてくるし……
 ね、眠たくなってきた。あん、でも、ここで寝てしまうと本格的にやばいような希ガス……

 縦読みなんかしなくても、十分ゆっくりできているわよ、バカ。

627 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:07:33 ID:ymWeqJAC

 …………
 …………
「マリー」
 …………
「マリー、起きた?」
「ぅ、うん?」
 ここは、どこなんだっけ?
 あ、魚が見える。
 そうだった。
 冷凍庫だったわね。
 でもそれにしても暖かいな。
 なにかに包まれているような。
 私は……
 ――――っ!
 なに! なんでこんな姿勢でいるの?
 これ、ケータだよね。
 ケータの肩にあごを乗せちゃっている?
 右のほっぺたが、たぶんケータの顔にくっついてて……
 わたしったら、なんでギュッと抱きついているのよ!
 ちょこんと膝の上にのっちゃっているし、
 ケータったら地面にお尻ついちゃっているじゃない。冷たくないの?
「あったかいね」
 う……わかったわよ。あったかい。すごくあったかい。
 それは認めるわ。
 ……あ、
 抱きついて密着している部分がやけに体温を感じるなと思ったら、ケータのやつ制服脱いでいるじゃない。
 その制服は……
 なによもう。私が着ているんだわ……

628 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/20(土) 10:08:42 ID:ymWeqJAC

 やさしかった。
 そう思えたのは、制服をくれたとかそんなことじゃない。
 ケータの心臓のオト。
 トクン、トクンって。
 世界のどの言語よりも雄弁に語りかけてくれる。
 “信頼”っていう言葉があるわよね。
 例えばほら、戦争のときに、彼なら背中を預けられるぜ。みたいなやつ。
 そういった気持ちが、彼の中から私の中に、そして私の中から彼の中に、出たり入ったりしているのが分かる。
 なーんだ。なんで早くこうしなかったのかなあ。
 十時間を生き延びるには、こうするしかなかったのに。
 私はまた一段と強く彼を抱きしめ、より彼に体温を分けてあげられるような体勢にしようと思ったわ。

637 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/22(月) 11:27:36 ID:YOMObaqB

「ケータ、それではお尻が冷えるでしょう?」 
「え……全然平気だから、気にしなくていいよ」
「あなたが気にしなくても、私が気にするのよ。それに体重を思いっきりかけちゃっているから重いでしょうし」
「マリーはそんなに重くないよ」
「い、いいから立ちなさい」
 私はケータの膝から降りて、腕を引っ張ったわ。
 私を支えてずっと座りっぱなしだったから、足腰が痛むみたい。
 時間をかけてゆっくり立りあがらせると、私はケータの胸に飛び込んだ。
「えい」
 すこし驚いたみたいだったけど、かまわずケータの腰に手を回す。
「これなら寒さをしのげるわね」
「マリー、二人とも立ったまま待ち続けるのかい?」
「ええ、そうよ」
「さっきみたいに座っていたほうがいいんじゃないかな?」
「それだと、あなたのお尻が冷たくなっちゃうじゃない」
「それでもいいよ、座っていようよ」
「……うーん、どうしても座りたかったら、今度は私の上に座ってもいいわ」
 一人で座るのと違って、お互いの体温を共有する形で座ろうと思うと、
どちらかが、氷よりもはるかに冷たいこの地面に腰を落とさなくちゃいけない。
 ケータはもしかしたら私に対するいたわりだけではなくて、
本当に座っていたほうが楽だと判断したのかもしれないけど、
それではケータのお尻が凍傷になってしまうわ。
「そんな……女の子の上に座るなんてできないよ」
「じゃあ、こうして立っていましょうよ」
 ケータは、最初はその両腕の置き場に困っていたみたいだけど、観念したみたいにまた抱きしめてくれたわ。

638 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/22(月) 11:28:18 ID:YOMObaqB

 気づいたのは、それから十分後ぐらいかしら。
 ケータが前かがみになったり、そしてまた直立を繰り返したりして、なんだか様子が変みたい。
「なによ」
 といって、グイっと体を寄せてやったわ。
 うん? 私のおなかに当たるの、なんなのよこれ。
 私が、ケータから出ているその不審な突起物を私のおへそあたりにくっつけようとすると、
ケータはものすごい勢いで後ずさった。
「え? どうしたっていうのよ」
「あ、ごめん。マリーがあまりに良い匂いがするもんだから……」
 良い匂い? まあ悪い気はしませんけど、だからってどうして私から離れるのよ。
「それは、ケータにとってイヤなことなの?」
「いや、嫌っていうことじゃなくて、そのなんだ、マリーに迷惑をかけてしまうというか……」
「? 私は別に迷惑とは思っていませんわ」
「……マリーってエッチなことをされても気にしないタイプ?」
「エッチ? なんでそこでエッチなことになるよ」
 エッチ――という単語自体、私はよく理解していなかったけど、
友達からは、男女がラブラブになることって聞いたことあるわ。
「寒いわ。エッチでもなんでもいいから、私を抱きしめてちょうだい」
「……わかった」
 ケータは、いろいろと申し訳なさそうな顔をして、また近づいてきた。
「悪かったよ。緊急事態だというのにな」
「別にもういいですわ……で、これは結局なんですの?」
「え、あ……その……」
 私はそこではたと気がついた。
 もしかしたら、おなかにできもののある人かもしれない。
 そうだとしたら、私はとても失礼なことを言ってしまったことになるわ。
 でもそれと、エッチなことと、何か関係あるのかしら。
 私は、ケータのその大きなできものをそっとさわってみた。

639 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/22(月) 11:28:57 ID:YOMObaqB

「うわ!」
「ご、ごめんなさい。痛かった?」
「痛くはないけど、大胆だなって。その、男のここにさわるなんて」
 男のここ?
 あ、なるほど。もしかしたらこれは男性器というやつかもしれない。
 保健体育の教科書で読んだことあるわ。
 ふーむ。
「これはいわゆる、おちんちん。というやつかしら」
 私は興味本位で、ケータのお腹にある盛り上がっている部分に顔を近づけた。
「……そういうね」
「むかしパパのを見たときは、ぷらーんとしていて柔らかそうだったけど、あなたのは硬そうだわ、個人差?」
「いや、マリーを抱きしめて興奮したからだと思う」
「……そうなの?」
「……本当にお嬢様みたいだね」
「な、なにがよ」
 お嬢様みたい。といわれれば普通ほめ言葉のように聞こえるはずなんだけど、
今のケータの言葉には、なんだそんなことも知らないのか。というニュアンスがあったわ。
「馬鹿にしないで。常識も兼ね備えているお嬢様よ。し、知らないわけありませんわ」
「はは、そうだね。性に対する知識はテレビやネットでいっぱい転がっているもんね」
 テレビやネットか。
 ケータはそこで性の知識を手に入れたというわけね。
 私は……
 私の場合は、環境が悪かったせいだわ。そうよ! 環境のせいよ!
 小学校を卒業して以来、男の人とここまでお話したことはなかったし、
学園寮にあるテレビやネットでも、そういうこと教えてくれなかったわ。
 いま考えると、もしかしたら寮が規制していたのかもしれないわね。
 でも無知は罪。そして屈辱だわ。
 ケータに、それがバレないようにしないと。
 ……大丈夫。私には人より優れた頭脳があるわ。

640 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/22(月) 11:30:52 ID:YOMObaqB

「その、なにかな、男の人って大変よね。おちんちんを大きくしたり小さくしたりするもの」
 私はさっき得たばかりの知識を持って、そう言ってみた。
「あははそだね、でもあまりおちんちんという単語を使うのははしたないよ」
 そ、そうでしたの? 知らなかったわ。
「じゃあ、何というのが正しいのかしら」
「うーん、言いよどむのが、恥じらいがあっていいんじゃない?」
 そういえば、ジャポンのアニメにもそんな場面があったわね。
 むむむ、これが、萌えってやつか。
 しかし、これでケータには一本取られてしまったわ。
 どうする? じゃあ逆にケータの知らなさそうな女の子に関することを言ってみようかな。
 ふふふ、ケータにあーんなことや、こーんなことをいったら、
私がちゃんと性知識を持っていることをわかってくれるかしら。
 ……いや、でもそれだと逆に自慢しているような態度になってしまうから、悪い印象を与えてしまうかもしれない。
 うーんと、困ったわね……
 ……そうだわ!
「私はね、ジャポンの人に対して、興味があるの」
「いきなり、どうしたんだい?」
「せっかく地球の反対側にきてまで勉強しに来たのだもの。しっかり学ばなくては学生失格だわ。そう思うでしょ?」
「うん」 
「いい返事ね、ケータ。じゃあ男の人にという意味じゃなくて日本人にとして質問するわ」
 私は、いまなおケータの膨らんでいるところを、なでなでしてみた。
「ここはどんな形をしているかしら」
「わっ、わっ!」
 ケータは、また慌てたように後ずさろうとする。でも今度は私が許さない。

641 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/22(月) 11:31:37 ID:YOMObaqB

「な、なに? デレモードに入ったの?」
「あらもーど? なにそれ。今は私がここを見たいというお願いに、あなたはウィかノンかを言うだけよ」
「ちょ、ちょっと。それはやっぱりおかしいよ。じゃあ僕もマリーに胸を見せてっていってもいいの?」
「え! そ、そ、それはおかしいわよ。私がジャポンの勉強をしたいだけなんですもの。そ、それに……」
「それに?」
「そういうところ見せちゃだめって、先生が……」
「じゃあ聞くけど、なんでだめなのかな?」
「そ、それは……はしたないからですわ」
「はしたなくないという理由だったらいいんだよね。それだったら僕も、フランスを勉強したい」
 一理……あるわね。
「じゃあ、私がブラウスをとったら、ケータもズボンを脱ぐわけね」
「え? いいの、それで」
「だってそうしないと、ジャポンの勉強ができないんでしょ。仕方がないわ」
 私は、安全ピンをはずし、ボタンをはずし、ベージュの中から現れる白のブラジャーもはずした。
 そしてあらわになったふたつの先っぽを見せる。
「ど、どう? これがフランスよ」
「お、おお! これがフランス!」 
 ケータは私のぺったんこのフランスをまじまじと見つめた。
「も、もういいよね! 寒いし着るよ」
「あ、うん」
 素肌の熱が逃げないうちに、さっそうとブラウスをはおって、
「じゃあ、こんどはケータのジャポンの番ね。はい、脱いで脱いで」
「……うん」
 私はドキドキしたわ。だって、写真とかじゃない男の子のはだかをみるなんて初めてだもの。
 ケータはズボンを緩め、そしてパンツごとゆっくりと下ろしていった。
「――!」
 想像してたのより、大きくて、グロテスクで、変な臭いの放つジャポンがそこにあった。
「ところで僕のジャポンをみてくれ。こいつをみてどう思う?」
「すごく、金閣寺だわ」
 私の目には、ケータのジャポンがとても輝いて見えた。

648 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:43:28 ID:FljhsdPO

「いつもは小さくなってズボンにしまわれているのよね、どうしたら小さくなるの?」 
「その……抜いてくれるとか」
「え? 抜くの?」
「いやいや。無理にお願いしているわけじゃないんだ。もしマリーが良かったらなんだけど」
「別にいいわよ。だけど本当に抜いてもいいの? 痛くないの?」
「痛くないよ。逆に気持ちいいよ」
 わ、わかったわ。 これを抜くのね。
 きっとトカゲのしっぽみたいに生えてくるんだわ。ジャポンってとてもフシギ……
 私はジャポンの根元を右手で握り、そして左手でケータの下腹部を支えた。
「い、いくよ」
 そしてありったけの握力を、両腕にこめたわ。
「いた、痛え! 待った待った。何をしたいのかなマリーは」
「決まっているわ。もちろんこれを抜……」
 あれ? ケータのこの慌てた表情を見ると、私はなにか間違えたことをしたのかしら。
 もしかしたら、“抜く”というのは、何かの隠語かもしれない。
 そしてケータは私がこの単語の意味をわかっていて当然のように話したということを考えると……
 常識である可能性が高いわね。
 ……そんなこともわからないのかと思われたくない。
 この窮地をしのぐには……
「や、やだわ。ケータはフランス式というのを知らないのかしら」
「フランス式……」
「そうよ! フランス式!」
「おお! フレンチキスは濃厚って聞いたことあるけど、フレンチ抜きとは……」
「そ、それなのよ! それも濃厚なの!」

649 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:44:11 ID:FljhsdPO

 こ、困ったわ。濃厚に……抜くんだって?
 なによ、濃厚って。ジャポンの未開の地を耕して小麦でも植えるのかしら。
 ってそれは農耕だっちゅーねん。
 まずよ。まず、抜くの意味を理解しなければいけないわ。
 そういえばさっきケータは気持ちいいって言ってたわね。
 気持ちいいことか……
「ほ、ほらどう? これ気持ちいい?」
「……え?」
 私はケータのジャポンを、子供の頭をかわいがるようになでてみた。なでなで。
「ど、どうよ!?」
「うー……ん。気持ちはいいけど。これって濃厚?」
「え? いやいや。まだあれよ! フランス料理で言ったらまだオードブル。メインディッシュはまだまだ!」
「あ、ああ。前菜のサラダの段階ね。やっぱり抜くことにもテーブルマナーみたいなのがあるんだ」
「そ、そうなの。マナーはとても大切なことだわ。ヨーロッパでは常識よ!」
 助けて……エーリン!
 話がどんどん膨らんでしまうわ。どうしたら……
 こうなったら、意地でも小さくなってもらわないと。
「じゃあ、次は本気だしていくよ」
「う、うん」 
 今度は、ジャポンをゲーセンのレバーのように上下に揺らしてみた。
 上上下下左右左右BA。
 ちなみにBは左の玉、Aは右よ。
 …………
 あれ? 裏技が起こらない……バグかしら?
 入力ミス? 
 もしかしたらBは右の方だったかも……

650 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:45:11 ID:FljhsdPO

 んなわけないわね。
 ケータの顔も気持ちよさそうな感じじゃないし。
 ケータは、
「……今の僕には理解できない」
 苦笑いをひくつかせるようにそういった。
「ち、違うわ。今のはスープよ。ほら、オードブルとメインの間には、スープが必ずあるじゃない。
こうすると、メインがより引き立つのよ」
「な、なるほど。メインのためなんだね」
 ふぅ。助かった。おもわずケータの脳みそをアンインストールしてしまうところだったわ。
 だけど、これでいよいよ後にも引けなくなった。
 まさしく背水の陣だわ。
 と、とりあえずもっと情報を得なくては……
「そういえば、ケータはいつもこんなに大きくなったとき、どういうふうに抜いているの」
「え? 今それ関係あるの? メインを早く出してほしいんだけど」
「関係あるわよ。こっちだって、魚料理出したらいいか、肉料理出したらいいかわからないじゃない。
この質問は、あなたにとって一番いい料理を提供するためのものよ」
「そ、そうなんだ」
 ケータは自分のジャポンを握りしめると、しごき始めた。しこしこ。
「あはは、なんだか恥ずかしいね」
 うん? 動き的には、さっき私がやった二つとあまり変わらないじゃない。
「なによ。全然小さくならないわ……それどころかどんどん大きく」
「え? いやまだイっていないから」
 イク?
 ああ、これもまた別のことを意味する単語ね。
 イクと小さくなるんだ。
「マリー。だんだん耐えられなくなったよ。そろそろメインディッシュを」
「わかったわよ。でも最後に二つ質問させて。
まず一つ。その抜こうとしている行為は、あなたの手と私の手を比べたら、どっちが気持ちいい?」
「もちろんマリーの手だよ」
「ふーん。じゃあ二つめ。“イク”のに必要な力はあなた自身が加減できるものの?」
「そうだね」
 ……よし!
 じっちゃんの名をかけただけあったわ。
 謎が全て解けた。
 ケータの求める濃厚さをだすこと。そして無知な自分をさらけ出さなくていいこと。
 この相反する二つの事象を満たす方法を!

651 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:46:03 ID:FljhsdPO

「一番いいメインディッシュがみつかったわ」
「本当?」
「どんなふうでもいいわ。私を好きに使っていいよ」
「ええ!? 好きにって……?」
「さっきあなたのジャポンを私のおへそに当てたとき、気持ちよかったよね」
「うん。とても」
「だから私のどの部分でもいいわ。手でも足でも。
そのジャポンを私の好きな部分へ押し付けて、好きなだけ力を込めて、好きなだけイッてもいいわ。
それがあなたにとって一番いいメインディッシュ」
「な、僕の望むまま動いてもいいの?」
「ええ、あなたのお好きなように」
「僕の望むまま脱がしてもいいの?」
「ええ、その代わり暖めてね」
「わ、わかった」
 ケータはその言葉を最後に、ゆっくりと前進してきて、私の胸の中に顔をうずめた。
 そしてこれでもかというほど、そこで大きく深呼吸する。
「な、何をしてるの? ケータ」
「マリーの匂いを嗅いでいる」
「匂い? 香水だったら、この冷凍庫から出たあと、いくらでもあげるわよ」
「香水じゃないよ。マリーの匂い」
「そ、そうなの?」
「うん。あまりにも良すぎてクラクラくる」
「……」
 確かに私もこの位置なら、ケータの男の子の匂いが感じられる。とってもドキドキする匂いが。
 ケータの頭の位置がどんどんと上がってきた。
 そしてパンツに固い何かが当たったわ。

652 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:46:53 ID:FljhsdPO

 私の目線からは、スカートに隠れていてよく見えないけど、おそらくはジャポンね。
「んっ……んん」
 ケータはそれを突き刺すようにしたわ。
 冬に飲む缶コーヒーと同じぐらいの熱さ、固さが、私を持ち上げるように。
「そんなに、力を入れて、痛くないの?」
 そういった私もその強さに、くすぐったさを超えて痛みを感じた。
 でもケータのほうが心配。
 例えて言うなら、ワイングラスを下から箸で強く押しているよう。
 折れてしまわないか心配なのよ。星野ジャポンみたいに。
「んっ! んっ! 大丈夫! だよ! マリーこそ! 平気!?」
 押し付けるリズムに合わせてまで、無理に話しかけてくれる。
 でもこんなに夢中なんだから、どうやら平気そうね。
 力を入れているのもケータなんだし。
「ええ。私もへい――っ!」
 ――んんんんんっ!
 とつ、ぜん、すごい……ものすごい痛み? いえ、ものすごくよく分からない感覚が全身に駆けめぐったわ。
 不思議、というよりも怖くなってきた。なんなのこの感覚。
「マリー、いまイった?」
「イったって、なに、が……?」
「とても気持ちよさそうだったよ」
 気持ちいい? 私が?
 この感覚が何なのか判断するまえに、ケータがまたその突き刺す運動をしてきた。
「マリー! マリー!」
 私の名前を叫んで、今度は腰を大きくグラインドさせる。
 わからない。
 この感覚を、なんていえばいいのか分からない。
 無理にして言葉をつむぐとしたら、突き続けてほしい感覚……っていうか……
 ――ふぁあ!
「ケータ! ケータ! もっと!」
 ――!
 いまっ、誰の声? 私!?
「マリィィー!」
「あああっ! んああああああっっ!」

653 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:47:34 ID:FljhsdPO

 …………
 …………
 私は今、ケータに体重を預けていると思う。
 ケータの肩に、両腕を乗っけて、その片方の腕の上からも、さらに頭を乗っけて。
 なんで私は疲れているのかしら。
 なんでパンツがベトベトになっているのかしら。
 ……でもそんなことどうだっていいや。
 頭が回らない。
 …………
「マリー、とても気持ちよかったよ」
「……そう」
「マリーは?」
「……」
 なんて、言えばいいのだろう。
 私の辞書に、該当する単語がない。
 私は……
「普通よ」
「普通!?」
 どういったらいいのか分からなかったから、ベターに答えてみた。
「あはは、普通か……そだよね。僕のためにしてくれたことだもんね」
 あれ? なんかケータがしょんぼりしちゃったわ。
「あのさ……だったら今度はマリーを気持ちよくさせたいんだけど、どうかな?」
「私を気持ちよく? 今こうしているだけで、心の底から気持ちいいわ」
「今よりも、もっとだよ」
「もっと?」
「今度は僕が、日本式を教えてあげるよ」

654 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:48:57 ID:FljhsdPO

 ――ジャポン式。
 でも、彼女がいないって言っていたケータが、そんなことを知っているのかしら。
「僕は雨の日も風の日も毎日、妄想で鍛えていたから大丈夫だよ」
「毎日?」
「うん。ある日エロゲをやったときには指テクを編み出し、ある日アニメを見たときには舌テクを極めたよ……想像でね」
 な、なんて勉強家なのかしら!
 私が、航空力学における偏微分をつかった証明問題や、
北海原油先物とIFO景況指数の相関関係をプログラミングするという無駄な時間を過ごしている間に、
ケータはなんて素晴らしく充実した時間を過ごしてきたのかしら。
 負けたわ……私の存在が恥ずかしくなってきた。
「……ジャポン式を、教えてくれる?」
「うん、任せて」

655 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:49:45 ID:FljhsdPO

 ケータはポケットの中から、ベトベトになった私のパンツの代わりに、替えのパンツを用意してくれた。
 もちろんそのパンツは女もので、サイズもぴったりだったわ。
 あとそれと、二人用キングサイズのベッドを取り出し、
枕、シーツ、掛け布団も取り出し、
周りの空気を暖めるためのファンヒーターもいくつか取り出した。
 もちろんこのポケットからね。
「ここに寝転がって」
「……うん」
「服を全部脱がすよ」
「ふ、服を!?」
「うん、もっとフランスを見てみたい」
「ええ!? さ、さっき私のフランス見たじゃない。まだ足りないの?」
「あれはフランスでいうと、まだマルセイユあたりだよ。僕はパリも見たいな」
「パ、パリってどこ?」
「こ・こ」
 ケータは替えたばっかりのパンツをツンツンした。
「きゃん」
「脱がすよ、いいかな?」
「そ、それがジャポン式なの?」
「うん」
「そ、それなら仕方ないわね」
 ケータはパンツの両端を持って、とてもやさしく下にずらしていく。
「ああ、ブローニュの森が見えてきたよ」
「ブローニュの森?」
「知らないのかい? 全仏オープンのテニス場やロンシャン競馬場がある場所だよ」
「そんなの知っているわよ」
「マリーのここではもう“深い衝撃”は走ったのかな?」
「深い衝撃? 変な英単語」
「うわあ、今度は森が深くなるにつれて、ベルサイユの薔薇の匂いがしてきた」
「ベルサイユの……いえ、もういいわ」
「ああ、ムネのドキドキが止まらなくなってきたよ。輝かしいシャンゼリゼ通りのその先には……雨に濡れた凱旋門が!」
「ケータ? もうそろそろ作者がフランスの友人に怒られそうなんで、やめてもらえません?」
「あ、ああ、そうだな。つい暴走してしまったよ」

656 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:50:39 ID:FljhsdPO

 その後、お互い真っ裸になって、抱きあったわ。
 君が上手で、下手が俺で。
「……このあとどうするのよ」
「僕のジャポンをマリーのフランスに入れたい」
「こ、こんな大きいのが入るの?」
「だからね……」
 ん?……んああ!
 なにか、さわられた!?
 私にはケータの顔しか見えないから、あそこがどうまさぐられているか分からない。
 だけど、体が、ヒクッ、ヒクッってなっちゃうの! んふぅ! ふぅああ!
「こんだけ、濡れれば、もう大丈夫だね」
 そして、ケータが自分のジャポンを私のフランスにあてがうと、
「いくよ!」
「…………んんんん、た、いた、いたーい!」
「そこでこれ! アマゾンで買ったこの薬!
この薬をクリに塗ると、破瓜の痛みですら全て快楽の饗宴に変えてくれるという幻の一品。塗るよ? ぬりぬり」
「ふぁあああああああ!」
「ふん! ふん! ふん!」
 そっか、そっか、これが、気持ち、いい、というのね、いい。イイ! スゴクイイ!

 ドン!
「おーいケーター! 助けに来たぞー!」
 なに? 今の音? そして声? 扉のほう? あ、助けが来たわけね。
「いるかーケーター? あ、いた、ケータ……お、お前なにやってるんだ?」
「マリーとセックス中だ」
「セックスって、ちょ、おま……」
「大丈夫、彼女も同意の上だ」
「はああ! んああ! うぐぅ!」
 ケータは助けに来てくれた友達と言葉を交わしながらも、腰を振り続ける。
「ふんが! ふんが! ふんが!」
 はあ、はあ、はあ……あれ? だんだん、薬が切れてきたのか、痛みが出てきた……イタ、痛い!
「もうやめてケータ。薬のヒットポイントはとっくにゼロよ」
「お、おい。彼女痛がっているぜ。もうやめてやれよ」 
「HA・NA・SE!」

657 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:51:39 ID:FljhsdPO

 ……あの後、無事に収まったのは奇跡としかいいようがないわ。
 ケータがたまたま、その場で見たことを全て忘れさせてくれる薬を友人に飲ませ、
さらに時間を十時間逆流できる時計みたいなもんも持っていたのだもの。
 でもこれって、奇跡というのかしら……考えるだけで、野暮ってもんよね。
 私とケータは冷凍庫に閉じ込められる前まで昔に戻って、そしてクラスメート達とともに外に脱出したわ。
 ケータのクラスと私たちが離れ離れになる際、私はメールアドレスを書いた紙を彼に差し上げた。
 そして、残りの社会見学も済ませ、私達は母国へと。

 ふぅ。一週間近くの旅も終えて、私はいま寮の自室にいるんだけど、ケータはメールを出してくれてるかしら。
 むつみけいたから一件メールが来ています? ん、どれどれ?


―――――――――――――――――――――――
 From  むつみけいた
 To まりー


 /^o^\フッジッサーン フッジッサーン

 \\(^o^)タカイゾ

 (^o^)// タカイゾ

 /^o^\フッジッサーン
―――――――――――――――――――――――


 ……なにこれ? これがジャポンの流行なのかな?
 まあいいわ。私も返信してあげる。

658 :冷凍庫に閉じこめられた二人:2008/09/25(木) 17:52:24 ID:FljhsdPO

―――――――――――――――――――――――
 From  まりー
 To むつみけいた


 そんな事よりケータよ、ちょいと聞いてくれよ。富士山とあんま関係ないけどさ。
 このあいだ、ジャポンに行ったんです。ジャポン。
 そしたらなんか冷凍庫に閉じこめられてとても寒いんです。
 で、よく見たらジャポンのオタクも一緒に閉じこめられているんです。
 もうね、アホかと。馬鹿かと。
 お前な、社会見学如きで普段来てない冷凍庫に来てんじゃねーよ、ボケが。
 二人きりだよ、二人きり。
 なんか金閣寺とかも見せてくるし。一家4人で金閣寺か。おめでてーな。
 よーし僕ホントは英語できないけど、いつのまにかペラペラになっちゃうぞぉとか言ってるの。もう見てらんない。
 お前な、グレンラガンのフィギュアやるからその冷凍庫の扉空けろと。
 ジャポンってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
 マスターの向かいに座った英霊といつ聖杯戦争が始まってもおかしくない、
 刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。タイガー道場は、すっこんでろ。
 で、やっと座れたかと思ったら、隣の奴が、「嘘だ!」とか言ってるんです。
 そこでまたぶち切れですよ。
 あのな、ひぐらしなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
 得意げな顔して何が、「嘘だ!」だ。
 お前は本当に「嘘だ!」を言いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
 お前、レナとちゅっちゅしたいだけちゃうんかと。
 ジャポン通の私から言わせてもらえば今、ジャポンの間での最新流行はやっぱり、
 ローゼンメイデン、これだね。
 乳酸菌とってるぅ? これが今、麻生政権の正しい生き残り方。
 もちろん景気対策を優先。そん代わり財政再建はおいてけぼり。これ。
 で、中川が、真紅をモデルに女装してコスプレ。これ最強。
 しかしこれを頼むと次から民主にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
 素人にはお薦め出来ない。
 まあお前、ケータは、ポニョでも見てなさいってこった。
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 ……よし、送信っと。
 
 よくわからないボーイフレンドができてしまったけど、まあこれも人生よね♪  おわり

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最終更新:2009年02月24日 12:04