592 :名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 19:21:24 ID:UwZoniHW

593 :名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 19:53:06 ID:vmhr8yTD

594 :名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 20:00:23 ID:PaYmOG1v

631 :名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 23:03:31 ID:lQ4hgYRg
閉じ込められました。

「\(^q^)」
「何万歳してるの?気持ち悪い……」
「今この状況を悲観してたんだが。 終 わ っ た ってな」


保健体育の授業で係だった俺、青下光は、
女子の係である星夜空と閉じ込められました。

「ったく、地下倉庫でまさかこんな目にあうとは」
「それはこっちの台詞よ。なんであんたなんかと……」
「そのあんたと閉じ込められる事になった原因は誰だろうな?」
「う……」


教材用のビデオがあるからと地下倉庫に取りに行かされた俺。
正直このままサボろうかなとか思ったんだけどさ。
屋上に行こうとしたところで空に見つかり地下倉庫に来ましたよっと。
この地下倉庫、立て付けが悪いことで有名でさ。
ちゃんと空けっぱなしにしないといけないらしい。

はい、空さんがうっかり閉めてくれちゃいましたよっと。

「まぁ、誰もいないよりかはマシだったんじゃねーか?」
「あんたといるくらいなら一人で閉じ込められた方がまだマシよ!」
「おま……まぁ、お前の背中にあるもの凝視して言えるなら信じてやるよ」

右手でポケットからすばやくイヤホンを取り出して耳に装着。
密閉式だからちょっとした耳栓代わりに。

632 :名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 23:04:05 ID:lQ4hgYRg
「……?」

俺の行動に疑問を持ちながらもゆっくりと後ろを向く空。

「……キャー!」
「だから言ったろうに」


地下倉庫は文字通り物置と化しているようで。
人体模型が空を見下ろしておりました。


「……」
「あぁ、そっち骸骨あるからな」
「!」

口をパクパクさせながら後ずさる空。
そのままへたり込んでしまう。


こいつはホラー系とかそうゆうのが苦手だ。
こう見えてもガキの頃からの付き合いなんだぜ?
まぁ、ちょっとした事で縁が切れてるんだけどさ。

「さてどうしようかな」
「……携帯は?」
「生憎だが圏外だ」
「……使えないわね、その携帯」
「そうゆうお前の携帯は?」
「……カバンの中」
「自分に無いもの人にねだるなよお前は……」

文字通り八方ふさがり。
とりあえず先公が気付くのに期待するしかねーな。

「寝るか」
「何で寝るのよ」
「それ以外に選択肢が無い。いっそ無理やりこのクソ狭い地下室で骸骨と人体模型相手にダンスでもするか?」
「……いい」

ため息をつく空。
ため息をつきたいのは俺のほうなんだがなぁ。

「なんかいった?」
「いんや」

……無駄に勘が鋭いし。

背中を棚の柱につけて右腕を後頭部にまわす。
……やっぱり片腕だと面倒だ。

661 :名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 23:39:58 ID:0sP5aht4
俺には左腕が無い。
正確には左腕を失った……か。

ガキの頃、交通事故で左腕をグシャグシャにしたらしくてさ。
左腕を切り落とさなければ命に係わっていたいたらしい。

ボールを落とした子供があわてて道路に飛び出て、
ダンプに轢かれて、なんてよくある話だ。
ただ、ちょっと違う点があってさ。

ボールを追いかけたのがボールの持ち主ではなく。
轢かれた本人ではなく、ボールを持っていた子供がトラウマになってしまった。


ずいぶん前の記憶だ。
記憶は磨耗するし、本能が事故当時のことを封印している。
つまり、俺はそのときのことを覚えていなくて。
おれの近くにいたこいつがトラウマになってしまったと。
皮肉な話だ。

「光」
「ん?」
「……やっぱり、不便?」
「?…あー、確かに面倒だな。地下室に閉じ込められたときは特に」
「……」


落ち込んでら。
確かに言い過ぎた感はあるが、んなことは知らねーよ。

「情けが仇」
「……?」
「情けが帰って悪い結果になるっていう慣用句だ。
 悪い結果になるとまではいわねーけどさ。
 いちいち人の腕見て同情だの罪悪感だの湧かせるのやめろ。
 虫唾が走る」

662 :名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 23:41:26 ID:0sP5aht4
別にそこらへんのパンピーに同情されたくて左腕を失ったわけじゃない。
いくら人体の一部が欠如しようとお前らと変わらない人間なんだ。

「罪悪感はともかく、そんなに同情したいなら紛争地域にでも行って来い。
 俺よりも酷いやつがごまんといるだろうよ」

言いたい事を言い切って目を閉じる。
……胸糞悪い。ここが学校じゃなかったら三本吸いだな。

「……いの」
「ん?」
「どうすればいいのよ!」
「……なにが?」

単純に疑問だった。
どうすればいいのよって……何を?

「あー……そうだな。もしどんな顔すればいいのとか考えているのなら、
 お前の頭は小学生以下だ」
「な!?」
「笑ってればいいじゃねーか」

呆気……じゃなくてあきれてるな。
あきれたいのはこっちなんだが。

「いつか言った筈だ。『笑っていてほしい』ってな。
 それを今更気付いたかのように罪悪感と同情に塗れた顔しよってからに。
 お前のせいで俺の腕を失っても、この傷は俺のものだ。
 罪悪感はともかく同情で塗れるのはお門違いにもほどがある」
「だって……私があの時……」

空が泣いた。
こいつの泣き顔久しぶりだなと、
心の片隅で思いながら、俺は言葉を紡いだ。

663 :名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 23:42:32 ID:0sP5aht4
「バーカ。人生はゲームじゃないんだ。
 リセットボタンなんて無いんだよ。
 だから学習するんじゃねーか。
 二度と繰り返さないように。
 これから先へ繋ぐ為に。」

空は泣き止まない。
もうこの際だ。俺も言うだけ言ってしまおう。
こいつが泣けるだけ泣かせてしまおう。
こいつがいつでも笑えるように。
過去から伸びる、後悔という名の鎖を断ち切るために。
これから先にも続く道を閉ざさないように。

「いつかは忘れたが、きっと小学生の頃だろう。
 俺もお前も馬鹿だった。
 だからこんなことになった。
 それでも一つだけ言える事がある」


あー…こうゆう状況だから言えるんだろうが、
やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいな。

それでも、後で自分が後悔しないように。
一つの思いを言葉にこめた。



「笑っていて欲しいんだよ。
 今も昔も、お前のことが好きだから」


「!……」

おーおー、顔真っ赤にして泣いてら。
まぁ、顔が真っ赤なのは人の事いえないだろうけどさ。

664 :名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 23:43:45 ID:0sP5aht4
「……ずっと好きだったんだよ。
 文句あるか?いくら左腕を失ったからって
 好きになっちゃいけないなんて道理は無いぞ」

左胸のポケットからハンカチを取り出して空の涙を拭う。
でもこいつは泣き止まない。
いいさ、いくらだって拭ってやる。
空が俺のことをどう思っていようと、
今だけは涙を拭うのが俺の権利だ。

「……ずっと……好きだった」
「……」
「好きだけど…あんたに拒絶されることが怖かった……」
「……」
「拒絶されるくらいなら自分から拒絶したほうが怖くないと思った……」
「……」
「もっと怖くなった……」
「……」
「でもあんたは私に近づいてくる……どうして……」
「……全てを肯定するのなら、傷はつかない。
 全てを否定するのなら、傷つくしかない。
 俺の言葉じゃないし、全てってわけでもないが。
 左腕が無くなったという事実を肯定した。
 お前に拒絶されてる事実をを否定した。
 だから傷はつかないし、傷つくしかない」
「……」
「何度も拒絶された。何度も否定した。もう傷だらけだ」
「……どうして」
「それだけお前のことが好きなんだよ。
 ……もう肯定しろ。
 俺がお前を攻めてないという事実を。
 もうそんなことで自分を傷つけるな」

そう言って、空をそっと、抱きしめる。

665 :名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 23:44:31 ID:0sP5aht4
小さな子供。そう思った。
空は俺より一回り小さい。
でも、それよりももっと小さく感じた。

「……光」
「なんだ?」
「光って、大きかったんだね……」

空が、俺の背中に手を回す。

「ばーか、お前が小さいんだよ」
「そうなの……?」
「当たり前だ。それに……」

少しだけ、抱きしめる腕に力をこめて、こう言ったんだ。





「好きな女を包み込めないのは正直頂けない」

672 :保体:2008/09/27(土) 03:35:05 ID:sC2Z3ag4



「で、どこまでいった?」
「ちょ、おま」
「先生!」


あの後、教師によってあの地下室から開放された。
弁明はあるが、サボったことには変わらないので、
二人仲良く職員室に出頭した。

「なに、担任としては聞いておかないといけないんでのぅ。
 不純異性交遊。その年なら理解できるだろう?」
「後一歩でってときに開放されたよ。
 ハグしてたのは人体模型と骸骨を見て泣いたコイツを宥めるため」
「光!」

いくらこの担任が俺の左腕の事情を知ってるからって、
体面は張らなきゃいけない。

「ふむ。まぁいい。星夜、先に戻りなさい。青下と話がある」
「マジかよ……。空、先戻ってろ。とっとと終わらせて追いつくから」
「……うん」



少しだけ不安そうな顔をしながら職員室を出て行く空。

673 :保体:2008/09/27(土) 03:35:43 ID:sC2Z3ag4


「で、どんな話?」
「なに、星夜と仲良く話をしているからな。
 あの件は片付いたのか?」
「……あぁ。ようやく肩の荷が下りた気分だ」

この教師は命の恩人だ。
轢かれた後すぐに病院へ連絡してくれたらしい。
事故が起きたのが朝早くで、散歩をしてたら腕が挽肉みたいになって気絶してる俺と、
その場で泣き崩れている空を発見したらしい。

「そうか……長かったのぅ」
「同感だ。まぁ、それだけ濃く生きてきたって事だろうな」
「ふむ、青下」
「?」
「今ならお前に渡しても問題ないだろう」

そう言いながら、机の中から小さな紙袋を取り出し、俺に手渡す。

「これは?」
「餞別だ。必ず二人であけること」

そう言って、担任は机の上の書類に目を移した。
もう俺に用はないということだろう。


紙袋をポケットに入れて、俺は空を追った。




その時に疑問に思うべきだった。
何故あの担任が肩を震わせているのか。

674 :保体:2008/09/27(土) 03:36:39 ID:sC2Z3ag4



「で、どんな話をしたの?」
「話じゃなくて、こんなのを渡された」

放課後、二人きりで家に向かっていた。
あの地下室を除いて、こうゆう風に話すのは久しぶりだ。
コイツは女友達と、俺は男共とつるんでいるから、
基本学校で話すことはない。
それ以前にコイツが俺を避けていたんだが。

ポケットから紙袋を取り出す。
それを空に渡す。

「二人で開けろってさ」
「ふーん……」

軽くセロハンテープで封をしてあるだけだが、
片手しかない俺には十分厳重だった。

「開けてくれ」
「うん」

セロハンテープをはがし、中身を取り出す空。

「なにこれ?」
「ぶっ」

中に入ってたのは男性用避妊具。
コンドームでした。
忘れてた。あの担任は素敵爺さんだということに。

急いで空からコンドームを引ったくり、ポケットに隠す。

「何するのよ!」
「お前が持ってたら怪しまれる。あの素敵爺さんめ……」
「…なんなのあれ?」
「……男性用避妊具」
「男……っ!」

675 :保体:2008/09/27(土) 03:37:15 ID:sC2Z3ag4

茹で蛸みたいに顔を真っ赤にする空。
人の事いえないのはいつもどおりで。

「やられた……」
「……光」
「ん?」
「今日お父さん帰ってこないんだけど……家に来る?」
「ちょ、おま」
「……ダメ?」
「……本当に帰ってこないのか?」
「うん、お母さんのお見舞いでそのままお泊りだって」
「……着替え持ってくるからな」
「……うん!」


右手を差し出す。
左手が右手に絡む。



綺麗な夕焼けだった。
宵の明星が見えた。

そっと、キスをした。

「空」
「?」
「ずっと……好きだからな。これから先も」
「私だって、光のこと、大好きでいるんだからね!」



きっと、俺達はどこか歪なはずだ。
それでも。


歪だからこそ、美しく見えるものもある。


静かに、そう思ったんだ。
~fin~

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最終更新:2008年09月28日 17:04