473 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (1/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:17:42 ID:DDj7dPsj
ブォー、ブォー、ブオォーー。

法螺貝の音が鳴り響いた。短く二度、そして長く一度。
ホオリは夕陽に照らされた赤い海を見晴るかす。
もちろん、船影などどこにも見当たらなかった。
少しだけ視線を俯けると、沖合いの暗礁に乗り上げた奇妙な舟の残骸が目に留まる。
切れ上がった不思議な形状の帆と腕木を持つワタツヒトのイクサフネ――マヨリは、確か「カヌ」と呼んでいたか。
ワタツヒトの舟は足が早い。アマヒトの舟では、食らいつかれたらまず逃げることはできない。
かつてのホオリにとってそれは恐怖の象徴だった。
だが、破れた帆を空しく潮風にはためかせるその姿には、もはや物寂しさしか感じない。
ホオリは頭を振ると、再び海岸沿いの急な勾配を上り始めた。

小岩の多い難儀な斜面を登りきると、途端に視界が開けた。
間近になった法螺貝の音のもとに目を向けると、
断崖の縁に、屹立して法螺貝を鳴らし続ける少女の姿があった。
落日のまばゆさの中に、深い褐色の裸形が浮かび上がる。
娘らしく尻も胸もまだ貧しいが、すらりとした四肢は力強く地面を踏みしめていた。
ワタツヒトは女も戦をするという。マヨリのしなやかな体つきを見る度に、ホオリはなるほどと思う。
水平線の彼方を睨み長い黒髪をなびかせるその姿は、確かに自分と同じツワモノの気風を備えていた。
ホオリは岩陰に身を潜めたまま、しばらくワタツヒトの娘に見とれていた。

ブォー、ブォー。

短く二度鳴ったところで、急に法螺貝の音が途切れる。
何事かと目を凝らすホオリの前で、マヨリはゆっくりと地面にうずくまった。
絶壁から下を覗き込むようにして、苦しげに身を捩じらせる。
波頭が砕け散る音に紛れて、二、三回ほどえずく音が聞こえる。
ホオリは岩肌に背を預け、身を隠した。
マヨリの発作が治まり、もう一度法螺貝の音が聞こえ出すまで静かに待つ。

それはほんの僅かな間だった。
直ぐにまた、何事もなかったかのように法螺貝が鳴り出す。
ホオリはたっぷり三度法螺貝の音を聞き流すと、ようやく身を起こした。
小岩を蹴りつけわざと足音をたてながら、マヨリの背後に立つ。
すると、マヨリは法螺貝から口を離し、ホオリを振り返った。
「メシにしよう」
ホオリは左手に携えていた蔦を掲げて見せる。
蔦には四尾ほどもの良く肥えた魚が吊るされていた。
マヨリは顔を背けると曖昧に頷く。
ホオリは、その横顔をたいそう美しいと思った。


474 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (2/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:18:29 ID:DDj7dPsj
* * *

砂浜で焚き火を挟み、二人は黙々と焼いた魚を口に運ぶ。
あたりは既に薄闇に閉ざされていた。

「今日はたくさん獲れた」
沈黙に耐えかねたホオリが口を開いた。
話題になればなんでも良かったが、多少、釣果を誇りたい気持ちがあったのも事実だ。
四尾という数自体はどうということはないが、今日の魚は全てシオノオチだった。
勿論偶然ではない。ホオリは特に滋養があるとされるシオノオチを狙って獲ったのだ。
シオノオチははしこくて銛で突くのは難しい。それが日に四尾も獲れれば「たくさん」と言える。
そのことは言わずともマヨリにもわかったはずだ。
ワタツヒトもアマヒトも、相争う仲ではあるが、共にこの海に住まう民なのだから。

しかしマヨリの返事は素っ気ないものだった。
「トヨタマビッコのおかげだな」
この言葉には、さすがのホオリもかちんと来た。
「アマヒトの俺が獲ったんだ。ホテリノミコトのおめぐみに決まっている」
売り言葉に買い言葉で、つい喧嘩腰の反論が口をつく。
だがこれは賢明なやり方ではなかった。
「ヌシらアマンビトは理屈ばかり言う」
そう言ってマヨリはそっぽを向くと、二度と口をきいてはくれなかったのである。

魚を平らげてしまえば、後はただ焚き火を挟んで座り続けるだけだ。
わざわざこの場を離れたりはしないが、さりとて言葉を交わすわけでもない。
沈黙の中、ホオリは早くも先程の言動を後悔し始めていたが、もう遅かった。

もっとも、こうして何かと仲違いしてしまうのはいつものことでもあった。
激しい戦の中、ホオリは海に落ち、この島に流れ着いた。
そして同じ境遇のマヨリと出会い、奇妙な共同生活を始めて、もう何十日にもなる。
しかし、和やかな雰囲気の中で言葉を交わせたことなど数える程もない。
マヨリは必ず理由をつけては険悪な空気を作り出し、話を打ち切ってしまうのだ。
それが意図的なものであることをホオリはわかっていた。自分も初めはそうだったからだ。

多分、わかりあってしまうのが恐ろしいのだ。
ホオリはそんなことを考えながら、膝を抱えて横を向いてしまったマヨリの顔を見つめる。
彫りの深いはっきりとした目鼻立ち。
赤銅色に焼けたホオリの肌とはまた色合いの違う、深い褐色の肌。
頬に紅く引かれた二本の刺青もそうだし、すらりとした長い手足もそう。
見れば見るほど、マヨリはホオリたちアマヒトとは「異なる人」なのだ。
しかし、ホオリは思う。
それでも、自分はこんなに美しい女を見たことがない、と。


475 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (3/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:18:59 ID:DDj7dPsj
* * *

やがて、燻り続けていた炎がふっと揺らめき、消えた。
満点の星空の下、すべてのものが蒼く染まる。
ホオリは音もなく立ち上がった。
置き火を回って近づいてくるその気配に、マヨリの肩がぴくりと跳ねる。
顔を上げ、傍らに立ったホオリを見上げた。
マヨリの瞳は潤んでいた。唇が小さく開き、熱い吐息を漏らす。
ホオリが跪いて身を寄せると、マヨリはぱっと腕を開きホオリの首元に手を回してしがみついた。
じっとりと汗ばんだお互いの肌と肌がぴたりと吸い付く。
ホオリはマヨリを見つめ、マヨリはホオリを見つめる。
そして、どちらからともなく唇が重ね合わされた。

奇妙な習慣だった。
陽の光、焚き火の灯りのもとではあれだけ反発しあう二人が、夜の闇の中ではお互いをさらけ出しあう。
まるで闇の帳の中でなら、互いの奉るオヤカミの目も届かぬとでもいうかのように。
わかりあうことへの恐怖が薄れ、ワタツヒトでもアマヒトでもないただの一つがいの男女になる。
そして、絶海の孤島にただ二人の孤独を慰め合うのである。
言葉は交わさない。ただ、肌と肌を重ねあう。それが暗黙の取り決めだった。
この島に漂着して間もない夜、寝静まったはずのマヨリが肩を震わせて嗚咽しているのを、
ホオリは何も言わず抱きしめた。それ以来一夜も空けず続いている、奇妙な習慣だった。

割り入ってきたホオリの舌に、マヨリは無我夢中でしゃぶりつく。
激しい動きで舌と舌を絡めあう。流れ込む唾液を、マヨリは音を立ててすすりこんだ。
ぴちゃぴちゃという水音と、時折切なげに鼻を鳴らす音だけが響いた。
二人は唇を重ねたまま、両足を絡め合う。
マヨリは自分の秘所をホオリの腿に押し付けるようにして、もどかしげに腰をくねらせた。
ホオリの腿に熱く濡れた粘膜の感触が走る。
マヨリが腰をくねらせる度、それはぬらぬらと粘液のあとを残してホオリの腿を這い回った。

――ぷはっ
長い長い口付けの後で、ようやくマヨリの唇が離れた。
篭っていた昂ぶりを解き放つように、長く熱い溜息がこぼれる。
マヨリは再びホオリにしがみついた。
背中に回した両腕にぎゅっと力がこもる。
ホオリはマヨリの激しい昂ぶりを鎮めるように、その腰まで届く長い髪に掌をすべらせる。
そしてマヨリの呼気が落ち着くと、ぽんぽん、と二度ほど、その後頭部を優しく叩いた。
口付けの余韻に身を縮こまらせていたマヨリが、それでようやく腕の力を抜く。
しなだれかかるようにホオリにその身を預けると、耳元に唇を寄せてかすれるように呟いた。
「ホオリ……」
マヨリの、少しだけ異なる発音で呼ばれた名は、ホオリの耳にひどく官能的に響いた。
今すぐ、この女を力の限りかき抱いて犯し尽くしたい。
湧き上がるそのほとんど暴力的な欲求を、
ホオリはあらん限りの自制心をかき集めて抑えねばならなかった。


476 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (4/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:19:31 ID:DDj7dPsj
もたれかかるマヨリの体を両腕で抱えながら、ホオリはゆっくりとマヨリを砂浜に横たえた。
「ホオリ、ホオリ」
マヨリはうわ言のようにホオリの名を呼びながら、彼を迎え入れようと脚を開く。
ホオリはその間に体を入れると、体重がかからぬよう肘を立てながら、徐々に体を重ね合わせた。
――ぴとり。
ホオリの、苦しいほどにいきり立った先端がマヨリの秘所に合わされる。
ぬらりとした愛液が先端に伝い、ホオリの背筋をぞくりとした快感が駆け抜けた。
切なげに見上げるマヨリの顔が、星明りに照らし出される。
眉は苦しそうに顰められ、その下で大きな瞳が揺れていた。
ホオリは自分自身を、焦らすように緩慢にマヨリに埋めてゆく。

「ん……んんん、ん……」
マヨリはたまらず喉を鳴らした。
じわじわともったいぶるような挿入のため、マヨリはそのすべてをはっきりと感じることができた。
期待の余り、自分の中が意図せずしてきゅうきゅうとホオリを締め付ける。
そうすると、ホオリが今自分のどのあたりまで来ているのか、その形まで知覚できるようだった。
常にない優しい動きは、かえってマヨリの心にもだし難い欲求を生み出す。
しかしホオリは浅く埋めたまま、突き上げも、抜き差しもせず止まってしまった。
「ホ……オ、リ」
ある高みにまで引き上げられた状態で、達することも冷めることもできない。
そんなもどかしさでマヨリはホオリの名を呼ぶ。

すると、ホオリの上体が動いた。
マヨリの中で抽送への期待が高まる。
しかし、ホオリはゆるく半身を起こすと、片腕に体重を預け、空いた片手でマヨリの胸に触れた。
失望が生まれる。しかし、ホオリの掌が乳房をこね始めると、歓喜がそれに取って代わった。
「んあっ、……あ、はあああっ」
胸を揉まれただけなのに、マヨリは声を漏らすほど感じていた。
ここ最近で急速に張りを増していた乳房は驚くほど敏感になっていたのである。
円を描くような動きがこそばゆい快感となって、昂ぶっていたマヨリの体を疼かせる。
ふと、動きが止まったかと思うと、ホオリの指が乳首を爪弾いた。
「あっ! あっ、あっ、やっ、んんん……んんんん!」
電撃のような快美が走る。
たまらず嬌声を上げたマヨリの首筋に、今度はホオリの舌が這わされた。
ねっとりとしたその動きに全身が総毛立つ。
二箇所からの責めにマヨリの体の芯がきゅうと収縮した。
すると、体内に咥え込んだ熱く硬いホオリの物をきつく締め付けることになる。
自分の中で脈動するホオリの存在感が、マヨリを打ちのめした。
「ああああっ、んんん、んあああああっ!」
気づけば、マヨリはあられもない声を張り上げていた。


477 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (5/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:20:01 ID:DDj7dPsj
「はあっ、……はあっ、……はあっ」
その後もホオリの愛撫は続いた。
中の物はぴくりとも動かさないまま、マヨリの体中に指を舌を這わせる。
激しいわけでもないその愛撫にマヨリは何度も小さく達した。
しかし、達しても達しても、快楽は突き抜けることなく身の内にわだかまり続ける。
マヨリは今や蕩けきっていた。
声すら上げられず、途切れ途切れに息を喘がせる。

一方で、ホオリももう限界であった。
直接の刺激は少ないから、肉体的にこらえることはできる。
しかし、夢中になってマヨリを鳴かせている内に、自分の興奮も極大に達し、
放つ直前で足踏みし続けるような不思議な高揚状態が続いていたのである。
耐え続けたせいで膨れ上がった射精欲求で心がはちきれそうだった。

――ぬぷり。
ホオリが動いた。
充血しきったマヨリの中はきゅうきゅうとホオリを締め付けたが、
溢れるほどに吐き出された愛液のため、ホオリのそれは窮屈な中をものともせずに滑り進む。
それはマヨリの浅い部分をゆっくりと擦り上げるだけの、なんということもない緩慢な動きだった。
しかし、二人は既に意識が焼き切れるほどの官能の限界に上り詰めていた。
ほんの身じろぎ一つで、ホオリは吸い込まれるような極上の快楽を感じた。
僅かな浅い抜き差しで、マヨリの中に骨抜きにされるような官能の渦が広がる。
「ホオリ! ああああっ! ホオリっ! うああああっ!」
マヨリは泣き叫んでいた。
もう駄目だった。体の芯を突き抜ける快感でわけがわからない。
これはお互いの欲求をぶつけ合って慰め合うような交わりとは質が違う。
自分は体の隅々まで愛され尽くされていた。
アマンビトの男に身も心も開ききっていた。
いや、そんなことはとっくにわかっていた。
だけど、もう、陽の光の下でもそれを偽れそうになかった。
――どくん
マヨリの中でホオリが脈打つ。
二人は同時に達していた。
そして、ホオリはこれまで何十回も自分を、自分だけを受け入れてきたそこに、
新たな精を注ぎ込んだのである。


478 :法螺貝の鳴り止まぬ島・別ver (6/6) ◆8czeHikF2E:2008/09/10(水) 20:21:07 ID:DDj7dPsj
* * *

翌朝、二人は再び断崖の上に立っていた。
ここまで互いに一言も発しなかった。
激しい情交のまま眠りに落ち、体を重ねたまま目覚める。
そして無言のまま連れ立って断崖へと上る。
それは奇妙な習慣だったが、これまで毎日繰り返されてきたことだった。

「ワレは漁に行く。今日はヌシの番だ」
銛を手にしたマヨリは、それだけ口にすると、ホオリに法螺貝を押し付けた。
これも何十回と繰り返されてきた光景だった。
ただ、今日はいつもよりもマヨリの顔が青褪めているように見える。

一日交代で法螺貝を鳴らす。そういう取り決めだった。
マヨリの番のとき、彼女は短く二度、長く一度、法螺貝を鳴らし、ワタツヒトの助けを呼ぶ。
助けがくれば、アマヒトのホオリは殺されるだろう。
ホオリの番のとき、彼は長く三度、法螺貝を鳴らし、アマヒトの助けを呼ぶ。
助けがくれば、ワタツヒトのマヨリは殺されるだろう。
この島では一日おきに異なる音色の法螺貝が鳴り続ける。
どちらかが死ぬその日まで。

ホオリは法螺貝を受け取った。
しばらく無言で手の中のそれを眺め回す。
そして、マヨリが止める間もなく、それを断崖から海に放り投げた。
「何をするっ!」
マヨリは叫んだ。怒声を張り上げ、ホオリに銛を突きつける。
しかし、その顔には今にも泣き出しそうな表情が浮かんでいた。
「なぜ……捨てた?」
怒っているのか泣いているのか、今にも嗚咽を漏らして崩れ落ちそうな表情のマヨリに、
ホオリは静かに答えた。
「俺はマヨリに生きて欲しい」
くしゃりとマヨリの顔が歪んだ。
ホオリは続けた。
「俺の子にも生きて欲しい」
乾いた音を立てて、銛が地面に転がった。
マヨリは天を振り仰いで泣いていた。
ツワモノの仮面を捨て、幼子のように声を張り上げて泣いていた。
ホオリは泣きじゃくる子をあやすように、マヨリをそっと抱きしめた。

絶海の孤島に新たな民が生まれた。
もう、島に法螺貝が鳴り響くことはない。

(おしまい)

注記:この物語は架空の時代の架空の生命体のお話です
   妊娠初期のセックスは避けましょう


慌しくてごめん

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最終更新:2008年09月10日 20:48