原作部分=======================
275 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/14(月) 07:18:51 ID:BaNtM6hG

276 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/14(月) 22:26:17 ID:OHJ8Dwz6

277 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/15(火) 19:04:04 ID:wS1GJvJC

278 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/15(火) 19:15:16 ID:egoX2DUu

279 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/15(火) 20:38:16 ID:izTCyXan

280 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/15(火) 21:57:39 ID:iBM8qt4Z

281 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/16(水) 01:31:56 ID:+0TnbPqT

282 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/16(水) 19:23:18 ID:takuDWl1

283 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/16(水) 19:42:12 ID:4pbP2pyd

284 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/07/16(水) 23:37:24 ID:Vvfntise

本文==========
299 名前: 注意書き ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:55:12 ID:eUfC4B1w
久しぶりに来たら>>275-284が素晴らしい連携プレイに感動。
「ほしいものはつめきり」で二人きりネタを書いてみました。
前回と同じくむず痒い系で、エロぬるめです。災害ネタ注意。
よろしければお付き合いください。タイトルは「ほしいものはつめきり」です。
300 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:55:47 ID:eUfC4B1w


爪切り欲しいですー、と俺の隣で寝ていたはず少女がつぶやいた。

「……そうかよ」
「だって、痛いでしょう?」

何がおかしいのか、ソイツはくすくすと笑いながら俺に擦り寄ってくる。裸で
コトに及んだ後なので、汗ばんだ肌と肌がぴったりとくっつくようだ。同じも
のを食べて同じ生活をしているはずなのに、なんだってコイツはこんなにいい
匂いなんだろうか。
男と女の違いか。俺は自分でも分かる自分の汗臭さにうんざりしているという
のに、不公平である。
抗議の意味も込めて無理やり腕の中に閉じ込めると、やっぱりいい匂いがして、
不覚にもちょっと興奮した。男ってのはほんとに単純な生き物である。

'***

災害ってマジ怖い。

というのが、一夜にして住んでたマンションも仕事場も近所のコンビニもいつ
も通ってた駅も全部失くした俺の正直な感想だ。もうほんと、マジで地震怖い
よ、ホント。
幸いにも俺はすぐさま救助隊に救助をしていただけたので、なんとか命の危険
からは(比較的)離れていられた。
いたのだが、禍福は糾える縄の如しとはよく言ったものだ。避難所についた俺
の日常は、まさしく災いなるかな。避難先がスラムとはこれいかに。

人間の本性というのは災害時とか緊急時にはそれはもうモロに剥きだしになる。

普段いくら文明人を気取ってても、文明生活が送れないと人間は獣になってい
くものらしい。

避難所は避難所と書いて「弱肉強食」と読む、そんな場所だった。ていうか、
一部を除いてほぼ地球全体がそんなかんじらしい。あまり入らない電波を運良
く受信したテレビによると。
まあそりゃそうだ。世界中を突然襲った地震は、俺たちの生活を根底から根こ
そぎ揺さぶりまくり、壊していった。
ほとんどの建物は倒壊し、マトモに動いている機関もあるにはあるが、マトモ
に動いていない機関の方が圧倒的に多い。かろうじてなんとか機能しているら
しい国会も、今は目先のことで手一杯のようだし、頑張ってるらしい災害救助
隊も自衛隊も、正直この事態では焼け石に水だ。底の抜けたバケツで水を汲む
ような作業を毎日繰り返している、彼らには気の毒な話だが。

まあとにかく、ある日突然ぶっ壊れた世界に、なんのスキルもない俺はぽつん
と放り出されたわけで。

301 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:57:24 ID:eUfC4B1w

'***

スラム街……じゃなかった避難所は、日に日にガラが悪くなっていく。

災害救助隊も自衛隊も引き上げ、仮設テントだけが残ったこの場所にはとりあ
えずの食糧がある。ついでに雨露をしのげて尚且つ人もいる。
ぽつりぽつりと人が集まりだし、次第に大きな集団となるのに時間はかからな
かった。
俺は比較的最初からこの避難所にいるため、なんとか自分のテントを確保でき
たのだが、そうでない後発組はすぐ傍の廃ビルなんかに身を寄せているようだ。

どう考えても快適とはいえないだろうが、まあこの近所にいれば少なくとも人
はいるし、微々たる食糧もあるので心情的には理解できなくもない。

……その食糧にしたところで、正直もう尽きかけているのだが。
初日からコツコツ貯めていた非常食がある俺はそれなりに余裕があるほうだが、
隣近所の住民は日に日に殺気立っている。出歩けばガラの悪いお兄さんたちが
ウロウロしてるし。
まあ、極力出歩かないようにして、ついでに食糧持ってるのバレないようにし
て、なんとかやり過ごそう。


「…………やめてくださいっ!」

堅実かつ後ろ向きな今後の方針を決定し、俺が眠りに落ちようとしたとき、唐
突に女の悲鳴が聞えてきた。いつもの俺なら無視する。隣近所も無視してる。
うーん。やっぱり無視しとこう。眠いし。

「いやぁぁっ! だれか、誰か助けて!」
「誰もこねえよ。みんな自分が可愛いからな」
「そうそう、諦めて一緒に楽しもうぜえー」

そういうプレイですね。分かります。

近頃では売春組織の台頭のおかげで、道端で犯される女は全くいなくなった。
何しろ、道を歩いている女がもし組織に所属している売春婦だとして、いきな
りレイプなんてしようものなら袋叩きにされて、さらに身ぐるみ剥がれてこの
地域一体を追い出されてしまうのだ。
そんなおっそろしい博打を打つようなアホは滅多に居ない。
ということは、きっと悲鳴をあげている女はそういうところのお姉さんで、尚
且つプレイの真っ最中という可能性が高いわけで。

――やっぱ無視して寝とこ。

302 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:57:53 ID:eUfC4B1w

「そ、そんなことないっ! だれかぁっ! 助けてっ!」
「だーかーらー、無駄だっていってるだろ? 安心しろよ。ちゃあんと、食糧
も分けてやるって言っただろ?」

なんだよもー、いい加減演技過剰だぜ姉ちゃん、男ってのは繊細だからあんま
りしつこいと萎えちゃうんだぜ。などと、勝手にアドバイスをしてみる。
それにしてもいつまでもやかましいヤツらだ。とっととしっぽりヤって、そん
で俺を寝かせてくれや。オカズ提供してくれるのは嬉しいけど安眠妨害なんだぜ。
好き勝手に(脳内で)文句を並べたてていると、テントの外からとても演技とは
思えない泣き声が聞えてきた。

「や、やだ、やだ、やだ、やだよう……」

マジかよ。ほんとにガキじゃないか。
どう考えても幼いとしか言いようのない泣き声は、男たちの嗜虐心を煽ってし
まったようだ。女の嗚咽に重なるようにして下卑た笑いが響く。
うわあ、駄目だ。なんか駄目だ。なんか知らないけど駄目だ俺、こういうの。
少女――少女なのだろう、おそらく――の涙まじりの嘆願が俺のテントまで響
いてくる。

これやっぱ、演技とかじゃねえんだよなあ?

'***

今まで、こういういわゆるレイプというか強姦というか、合意でない性行為の
現場に居合わせたことがない訳じゃない。自慢じゃないが俺の現在の住処の治
安は最低レベルなのだ。
だけど、ここまで嫌がっている女の子が目と鼻の先で犯されようとしている、
という状況は初めてだった。

何しろここではみんながみんな自分が生きるのに必死で、売れるものは身体で
も売る女は山ほどいる。そして、その大抵は食糧が手に入ると聞かされれば大
人しく身体を開いていた。多少の抵抗の差はあれど、少なくとも俺が目撃した
ことのある現場ではそうだった。
ついでに言うなら、女の方も逞しいもので、男たちに交渉を持ちかけているも
のまでいた。

最近では、その辺りの交渉を一手に引き受ける売春組織の元締めのような存在
まで現れている。
聞くところによると、売春組織は組織を通さない売春に厳しいらしい。売る者
も買う者も、組織を通して「商売」をするのがこの辺り一帯の暗黙の了解なん
だと。まあ、価格調整ってのはどんな市場にも欠かせないものなんだろうな。
その代わり、組織は一定の値段で常に商品を供給してくれるし、女たちを守っ
てくれる。
持ちつ持たれつのずぶずぶでダーティーな関係、というやつだ。

だからてっきり……てっきり、この少女もそういう「プロ」なんだと思ってい
たのだが。
どうやら、俺の考えは思いっきり的外れだったらしい。
少女の甲高いすすり泣きがいっそう激しくなり、男たちが彼女を殴りつけて黙
らせた。
いくらなんでも、「商品」への扱い方ではない。組織に知られればタダではす
まないだろう。

――こりゃ、ガチのレイプだわ
303 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:59:15 ID:eUfC4B1w

'***

どーすんの俺、どーすんの? どーすんのよ!?

頭の中ではぐるぐると少女の悲鳴と男たちが彼女を殴打した鈍く暴力的な音が
渦巻いている。今もまだ泣き喚いている女の子は可哀想だ。助けてあげたい。
だけど俺に何が出来る? 暴力なんてからっきしの俺がなんかやたらと荒事に
慣れてそうなお二人さんに立ち向かうなんて無謀に過ぎるし、なにより怖い。
ビビりだと言われようが怖い。オレ、イタイノ、キライ。
かといって誰かに助けを求めるってのも現実的じゃない。現にこの騒ぎの中、
隣近所の連中はガン無視を決め込んでいる訳だし。


「なんだよ、お前」
「コイツはオレらが先にみっけたんだからさー、早い者勝ちでしょー?」

とか考えてる間に、俺はテントの外にワープしていたようだ。身体が先に動く
とか、マジであるんだなー。いやいや、吃驚仰天。あと予想通りお兄さんたち
すごいガラ悪い。何この世紀末覇者。

「……あー、のさ。嫌がってるみたい――」
「ああ゛!? あのさー、オレらお楽しみの真っ最中なわけ。見てわかんでしょ?」
「すっこんでろ」

俺の台詞を遮って世紀末覇者その1が多分さっきまでの悲鳴と嗚咽の主であろ
う少女を顎で示した。
――ありゃりゃ、ズタボロ。
黒髪の、多分普通のかっこして普通に笑ってれば可愛いっぽい少女は顔面蒼白
でガタガタと震えている。傷だらけの細い体に申し訳程度に纏わりついている
ボロボロの服が痛々しい。

「ていうかさ、組合にバレたらやばいよこれ。袋叩きだし」
「はあっ!? つーか何、組合って」
「……なんていうか、売春管理組合?」

どうやら、世紀末覇者二人組みは、この辺りにきて間もない新参の流入者だっ
たようだ。組合のことを知らないとあれば、そりゃ道端でレイプとかいう命知
らずな真似もできるわけだよな。
うんうん、と心の中で頷きながら二人組みをもう一度見ると、どうやら焦って
いるようだった。

「そんなんあんの? ていうかどういうの? なんでヤバいの?」
「そんなのがあって、女の子の斡旋とかしてくれて、ルール守んないと袋叩き
に身包み剥がされてポイ」
「マジで!?」
「マジで」

口々に問いかけてくる覇者二人に、我ながら適当な返事を返す。見た目は怖い
けどすごい馬鹿っぽいなコイツら。なんか好感すら抱ける馬鹿だ。レイプまが
いの真似さえしてなけりゃ、こういう馬鹿は好きなんだけどなあ。残念だ。出
会い方が違えば友達くらいにはなれたかもしれないのに。
まあでも、これならなんとか、適当に言いくるめてお引取り願えそうだ。
304 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 04:59:58 ID:eUfC4B1w

'***

覇者二人に斡旋窓口への道案内を口頭で伝え終わると、ようやっと人心地つい
た。
ため息とともに座り込むと、同じく地面にへたり込んでいたままの少女と目が
合う。薄汚れてはいるが、やはりなかなか可愛らしい。
とりあえず害意がないことを引き攣った笑顔で示し、俺はテントの中に戻るた
めに踵を返す。と、後ろから少女の声が掛かった。

「あ、あのっ! ありがとうございました」
「どういたしましてー、暗い中に女の子一人で歩くのは危ないから今度から気
をつけなね。じゃあお休みー」

律儀に立ち上がってぺこりと頭を下げてきた少女の、ボロボロの服の隙間から
白い肌が覗いている。夜目にも鮮やかに、なだらかなカーブを描く胸とか腰と
か脚とかをなるべく見ないようにして早口で少女にそう言って、俺はテントに
引っ込んだ。

'***

まあそんな訳で、実にありがちなイベントを経て知り合った少女の名前は、タ
カサキリオというらしい。どういう字を書くのかはしらないが。
わりかし可愛いタカサキリオは今年十八歳らしい。やっぱガキだ。寮制の女子
高に通っていたが、その高校もとっくに機能しておらず、両親とは見事に連絡
が取れないそうだ。まあ、よくある話だ。混乱を極めている混沌に満ちたこの
世界では。

でまあ、なんだかんだでここに流れついたタカサキリオは、なんだかんだで俺
のテントに居座ることになった。正直うっとうしい。が、一度助けてしまった
手前無碍にするのもなんだかなー、といった葛藤があるわけで。
流されやすい日本人、ノーと言えない日本人の典型である俺としてはなし崩し
的にこの奇妙な共同生活を受け入れることしかできなかった。
305 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:01:18 ID:eUfC4B1w

女の子と二人きりでのテント生活というのは、この絶望的な状況の中でほとん
ど唯一といってもいいくらいのラッキーイベントだろう。きっとそうだ。そう
に違いない。と、自分を誤魔化しつつ、俺は日に日に減っていく食糧を横目に
タカサキリオに問いかけた。

「……で、どうすんだよ」
「どーしましょーかー」

へらり、と笑って俺の問いをかわしたつもりらしいタカサキリオは、しかしそ
の後の沈黙に耐え切れなくなったらしい。

「…………ごめんなさい。私の所為ですね」

しおらしく謝って、タカサキリオは俯いた。日に焼けていない項の白さがまぶ
しい。細い首筋にはらりとかかる黒髪は、どこかパサついている。栄養が行き
届いていないのだろうか。
俺がコツコツ備蓄してきた食糧はこの少女の所為でずいぶんと消費されてしまっ
たはずなのだが、やはり足りないか。環境の所為もあるのだろうが。
明日の保証もないようなこんな事態では、腹いっぱい食べる、なんてのは夢の
また夢である。

「別に謝らなくてもいい。本気でイヤだったら俺も追い出すなりなんなりして
たさ。それに、遅かれ早かれ、食糧は尽きてただろうし」
「ですよねー!」

凹んでいる彼女を慰めるために言った俺の言葉に、タカサキリオは実に軽い調
子で答えた。
先ほどまでのしおらしさはどこへいったのか。ていうか俺は騙されたのか。い
や現在進行形で騙されてるのか。

「どっちなんだい?」
「何がですかー?」

危ない。思考が声に出ていた。怪訝そうにこちらを見つめるタカサキリオを、
曖昧な笑いで誤魔化す。
優しい微笑みを浮かべた好青年に、タカサキリオは胡乱な目を向けて言った。

「……で、どーしましょー?」
「俺はとりあえずここ引き払うよ。このまま居てもジリ貧だしな。テントはお前
にやるから好きに使ったらいい」

前々から考えていた。このままここに留まっても、そのうち食糧も尽きるし、
テントだっていつかは崩れる。このスラム状態では住民の力で復興、という線
も難しい。
それになにより、いつまでもここに居たら、この状態に慣れてしまうだろう。
実際、俺はレイプや暴力に、それまでの人生では考えられないくらい慣れてし
まった。きっとこれからもどんどん慣れていくだろう。そのうち、人が死んで
もなんともなくなるかも知れない。よくも悪くも、人間は慣れる生き物なのだ。

そう考えると、俺は心底自分が恐ろしくなる。
そんな自分になる前に、本当ならもっともっと早くここを出て行くべきだった
のだ。

だけど俺は怖かった。災害でめちゃくちゃになった街並みを歩ことが。で眠っ
ているだろう数々の死体の上を歩いて越えていくことが。どうしようもなく怖
かった。
その所為で、俺はズルズルとこの荒みきった場所に住み着き、慣れてしまった。

306 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:02:32 ID:eUfC4B1w

けれど、その負の連鎖を断ち切って、ここを出ようと思えるようになったのは、
タカサキリオのおかげだ。
あの夜、タカサキリオがここで襲われていたとき。
俺は彼女を助けようと思った。助けたいと思えた。
この荒れきった場所で、すり減っていった良心が、タカサキリオのおかげで蘇っ
たのだ。
だからもう、俺はここには居られないし、居たくない。

ありがとうタカサキリオ。君も大変だと思うが頑張れよ。うんうんと頷きなが
ら、タカサキリオに笑いかけると、彼女はにっこりと微笑み返しながら口を開
いた。

「わたしも行きます。どうせここに居ても、どーしよーもないみたいだし」

はい? いやいやいや、あのなお嬢さん。呆れて口が塞がらない俺をよそに、
タカサキリオはにこにこと笑う。

「連れてってください。わたし、もう一人でいるのイヤです」
「……あ、あー、うーん……」

そう言われると、俺も辛い。なにしろ、このままここにタカサキリオがここに
留まるとしたら、彼女の運命はほぼ間違いなく娼婦か餓死かの二択である。加
えて、「一人がイヤだ」といったタカサキリオは酷く辛そうだ。
彼女の所為で復活してしまった良心がちくちくと痛む。

「じゃ、明日出発ってことで。今日は明日に備えて寝ましょー」

勝手に話を纏めたタカサキリオが、これまた勝手に提案する。
俺の寝袋に包まって寝息を立てだしたタカサキリオの妙に安らかな寝顔に、俺
は苦笑することしかできなかった。
307 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:05:12 ID:eUfC4B1w

'***

寝袋はタカサキリオが転がり込んできたときから、彼女のものになった。
というわけで、俺は必然的にそのまま寝る訳で。最初こそ身体がギシギシと痛
んで仕方がなかったが、今ではすっかり慣れてしまった。いつもどおりに寝転
ぶと、テントの下の地面のひんやりとした固い感触が伝わってくる。
(食糧と、水と、あとは配られた災害グッズと寝袋)
頭の中で指折り確認をしながら、明日の旅立ちに備えていると、ふいに近くで
影が動いた。
闇に慣れた目を凝らす。俺に近づいてくる影は、どうやらタカサキリオのよう
だ。


「寝てますかー」

ぼそぼそと問いかける声は、確認のようで確認じゃないような、低く潜められ
た声だった。
サラサラと髪が揺れる音がする。なんとなく、どう返事をしていいのか思いつ
かなかった俺は、彼女の問いに答えないことにした。

「寝てますねー」

覆いかぶさるようにして俺に近づいたタカサキリオは、華奢な手のひらで俺の
頬を撫でる。くすぐったい。というか、何がしたいんだ。

「……髭のびましたねー」

じょりじょりと無精ひげをさするタカサキリオ。仕方ないだろう、水は貴重品
だし、カミソリは共同なんだから。そう毎日手入れなんか出来ないんだっつー
の。

「ほんとに連れてってくれるんですかね」

拗ねたように俺の唇を抓ったタカサキリオは、ぼそりと呟いた。痛い。つーか
俺信用ないな。一応連れて行く気はあるぞ。よっぽどそう言ってやろうかとも
思ったが、唇を捻り上げられた状態でそんなこと言うのはなんか癪だった。

「うん、モチロンだよ」
「わあい、ほんとー?」

唇から指が離れた後も、微妙にムカついていたので無言を通していると、突然、
声色を変えたタカサキリオが一人芝居をはじめた。

「だってリオちゃんのこと好きだから」
「わたしも好きー」
「もう離さないぞー」

え? この子なにやってんの? なんか可哀想な子だな、タカサキリオ。いろん
な意味で悲しい子みたいだぞ。もうどの辺りで起きたらいいのか分からず、俺
はひたすら無言を貫いた。だってどう考えても気まずいだろ、俺が起きたら。
俺の葛藤ととまどいを知ってか知らずか(まあ知らないんだろうけど)タカサキ
リオは一人芝居をやめ、俺に覆いかぶさった。長い髪が顔にかかってくすぐっ
たい。

ていうかもう、何この状況!? 意味わかんない! あとタカサキさん、微妙
に胸が当たるのでこの体勢はちょっとヤバいっていうか、お願いだから下りて
ください。

308 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:07:21 ID:eUfC4B1w

「…………好き」

なんか反応し始めている下半身を必死で宥めていると、頭上からタカサキリオ
の囁きが降ってきた。何このフラグ。何フラグ? ていうかこれフラグ越して
ね? どこでこのルート入ったんですか嬉しいけどちょっと困る。
ぐだぐだとくだらない事を考えていると、唇が柔らかいもので塞がれた。少し
だけ荒れた唇は、しかし十分柔らかくてふんわりしてて、ちょっと息子がヤバ
い。
タカサキリオは未だ俺の上に跨ったまま、口づけを続けている。

「好き、です」

泣きそうに震える声で、タカサキリオはそう呟きながら俺に口づけを降らせて
いった。二人きりのテントの中には、タカサキリオの言葉だけが空気を揺らす。

拙い口づけの雨が降り注ぐ中、俺はひどく動揺していた。
女の子と二人きりのテントの中で、その女の子に告白されてしかもキスされて
いるという、この状況。フラグってレベルじゃねーぞ! 

「マジで」
「…………起きてたんですか?」

おお、声に出てしまったぜブラザー。やはり泣き出しそうに顔を歪めていたタ
カサキリオが、小さな声で言った。

「ごめんなさい」
「いや、いい。俺も寝たフリしててごめん」
「……好きです」

脈絡ないな、おい。やはりタカサキリオも俺に負けず劣らず動揺しているらし
い。引き攣りまくった顔が、初めて会ったあの夜を思い出させて、なんだか胸
が痛む。

「……ありがとう」
「迷惑ですか?」
「…………嬉しいよ」

うん、確かに嬉しい。女の子から告白されるなんて、生まれて初めてだからな、
俺。惜しむらくは、タカサキリオの年齢と俺の年齢が実に犯罪チックな点だ。
いくら俺でもさすがに三次元の未成年はちょっと……なあ。

「それって、どういう意味ですか?」
「いやだから、嬉しいって」
「…………わたしのこと好きですか?」
「好きだよ」

――やっちゃった。
俺の脳裏をそんな言葉が掠めて行った。
確かにタカサキリオのことは大事だと思ってるし、好きか嫌いかで言えば好き
だけど、っていうか好きなんだけど、この状況でこの答えはマズい気がする。

「じゃあ、その……しましょう」

ほらな。だってルート的には絶対こうなるもん。フラグ見逃してたのが痛かっ
たよなー。これなんてエロゲ? 頭の中を駆け巡る思考は、圧し掛かってくる
暖かい重みの前で霧散する。
が、これはヤバいだろ。慌てて起き上がり、俺の上に乗っていたタカサキリオ
を引き剥がす。
309 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:08:04 ID:eUfC4B1w

「あのね、」

「――初めて会ったとき、助けてくれて嬉しかったです。ここに置いてくれて
すごく嬉しかった。こんなに親切にしてもらった事、あの地震の時から、今ま
で無かった。身体目当ての人はいっぱい居たけど。なんにもしてないわたしの
こと、なんにもしないで守ってくれて、嬉しかった。一緒に連れてってくれるっ
て言ってくれて嬉しかった」

「だから、」
「わたし、ずっと傍にいたいって思った。ずっと一緒に居て欲しいって思った。
好きだから。すごく好きだから」

タカサキリオは俺の言葉を遮り続ける。ちょっとは俺にも話させろ。

「だから、俺も好きだから。な?」
「……怖いの。わたし、怖いんです。あの地震のとき、全部無くなっちゃった。
またいつか同じことが起きたら、今度もみんな失くしちゃったら、わたしもう
生きていけない」

タカサキリオは、細いからだを震わせて、搾り出すように言う。俺は何も言え
ずに、ただ彼女の言葉を聞くことしかできなかった。

「だから、して欲しいんです。……そしたら、きっとわたし大丈夫だから」

今にして思えば、何がどう大丈夫なのか分からない。けれど俺は、間抜けな事
に俺は、その時、その言い分に納得してしまった。タカサキリオは不安だった
し、俺も不安だった。


そうして、不安な者同士は、互いを抱きしめて、身体をくっつけて、お互いの
高鳴る鼓動を聞きながら、しばらく息を潜める。
お互いの存在を確かめるようにして、抱き締めあった。

310 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:10:33 ID:eUfC4B1w

'***

薄暗いテントの中は、二人の息遣いだけが響いていた。顔を近づけないと互い
の表情さえも見えない暗闇の中で、俺たちは身体を重ね、手探りで相手の身体
をまさぐりあう。
興奮で上がる息と、相手の体温だけがお互いを照明している。

「……んっ……あ……ぅ……んん……」

探り探り、タカサキリオの細く柔らかい体に手を這わす。意外に豊かな胸に尖っ
た乳首の固い感触。すべらかな腹から下に指を伸ばすと、彼女は怯えたように
身じろぎした。

「怖い?」
「……大丈夫。へい、きです……ん……」

問い掛けに首を振って、タカサキリオは口づけを強請るように俺の首に手を回
した。
拙いそれに応えながら、次第に深く舌を絡め合わせる。くっついた頬に触れた
睫毛が、かすかに震えていた。

「ん……むぅっ……んん……ふ……」

テントに響くぴちゃぴちゃとした水音が、淫靡な雰囲気を作り出す。
寝袋の上に身体を横たえたタカサキリオは、俺の首に腕を巻きつけ、餌をせが
む雛のように、俺が唇を離すたび、唇を寄せてキスをせがんだ。
臍の下辺りに置いたままの手を、ゆっくりと下ろすと、下着を撫でる。かすか
に湿っているそこをつつくと、タカサキリオの身体が揺れた。

「んんっ!……ふ……ん……んぅっ……」

しばらく、ぷっくりと膨らんだ可愛らしい肉の芽をつついて楽しんでみる。抗
議するように、タカサキリオの爪が俺の肩に食い込んだ。
下着がしとどに濡れるまで、上から引っかいたり摘んだりを繰り返して、よう
やく下着を脱がすと、潤ったそこから微かな糸が引いていた。粘つく粘液が薄
闇の中にきらきらと光る。

「……もう……ですから……」
「なに?」

俺の腕を掴んで、タカサキリオが言う。が、緊張で震える声はよく聞き取れな
かった。聞き返すと、彼女は恥ずかしそうに顔を逸らす。

「……から、もう……その……」
「あー……わかった」

流石にこの状況で彼女の行動が何を意味するのかくらいは俺でも分かる。エロ
ゲじゃ鉄板のシチュエーションだ。しかし実際体験すると、それほど萌えないっ
つーか、萌える余裕がないもんだな。
極度に緊張しているらしく、触れ合ったタカサキリオの身体は小刻みに震えて
いる。その華奢な身体を抱きしめて、俺はゆっくりと彼女の身体を開いていっ
た。

311 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:11:15 ID:eUfC4B1w

'***

タカサキリオの中は熱くぬかるんでいて、キツく俺を締め上げる。
苦しげな声をあげるタカサキリオは、行為に慣れていないらしい。もしかした
ら初めてなんじゃないだろうか。俺も慣れているわけではないので、無理をさ
せているような気がする。


「痛くない?」
「……ん……へいき……じゃ、ないかも……」

それは困った。だがしかし、俺も今更引っ込みがつかないというか。仕方ない
ので、とりあえず彼女の胎内に納まったまま、俺たちはぴたりと身体をくっつ
けて抱き合った。そのままタカサキリオの呼吸が落ち着くまで待つ。
お互いの汗ばんだ肌と、吐息が重なる。セックスのことをたまに「一つになる」
と表現するが、本当にその通り、俺たちは一つの塊になって静かに繋がってい
た。
不意に、タカサキリオが俺の耳元に囁く。

「ね、わたしのこと、本当に連れてってくれますか」

お前まだ気にしてたのか。今更置いてかないし、そもそもちゃんと連れてくつ
もりでしたよ。

「ああ」
「……わたし、と、ずっと一緒にいてくれますか」

短く俺が応えると、タカサキリオは一瞬安堵したように力を抜き、その後身体
を強張らせてそう尋ねた。忙しいヤツだ。

「一緒にいるよ。……俺な、お前と会えて良かった」

なんか恥ずかしいこと言ってるぞ俺。どうすんのコレ。でもタカサキリオが嬉
しそうに、ホントですか、とか言ってるからいいや。なんかそれでいいや。

「好きだよ、リオ」
「……わたしもです」

小学生みたいな告白のあと、お互いに顔を近づけて、笑い合った。
自然に唇同士が触れ合って、俺たちは何度目かのキスを交わす。
次第に熱を帯びた口づけと共に、ゆるやかに腰を揺らすと、タカサキリオもそ
れを受け入れるように身体を揺らした。

312 名前: ほしいものはつめきり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:11:37 ID:eUfC4B1w

'***

「爪切り欲しいですー」

事が済んで、お互いに息を整えている最中、タカサキリオはぼんやりとした口
調でそう言った。かなり無理をさせてしまったはずなのだが、意外にも元気そ
うだ。

「……そうかよ」
「だって、痛いでしょー?」

くすくすと笑いながら、俺に擦り寄ってくる彼女は、なんだかふわんといい匂
いがする。ちょっと復活しかける息子を宥めていると、唐突にタカサキリオは
俺の背中に指を這わした。

「……いたっ!」
「でしょー? だから、爪切り欲しいですー」

現在俺の背中には、目の前の少女がつけた爪跡が散らばっているらしい。なぞ
られただけなのに、ものすごく痛い。そういえば、先ほどからピリピリとした
痛みが背中を奔っていた。これのせいか。

「わたし、今一番欲しいもの、爪切りです」
「欲がねえな」

俺が痛みに顔を歪めていると、タカサキリオはぽつりと呟いた。この状況下で
一番欲しいものが爪切りって、おい。もうちょっと色々あるだろうよ。
よっぽど言ってやろうかと思ったが、タカサキリオがあんまり幸せそうな顔を
しているので、俺はツッコミを控えた。俺イズ空気の読める男。

一番欲しいものは、もう手に入ったから。あとは爪切りだけあればいいです」

俺の内心を知ってか知らずか、タカサキリオはマイペースに続けた。

「……一番欲しいもの?」
「はい。……ずっと、一緒に居てくれるんでしょう?」
「……あー」

そういや、そんなことを最中に言ったような言わないような。いや、言ったな。
思い出すとちょっと恥ずかしいことも言ったような気がする。
あー、とかうー、とか俺が呻いていると、間近に近づいていたタカサキリオが
俺の鼻先にキスをして、にっこりと笑った。

「だからわたし、あとは爪切りでいいです」
「……そうか」

じゃ、せいぜい爪切り探しの旅にでも出るとしますかね。二人で。


313 名前: 終わり ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/07/26(土) 05:18:22 ID:eUfC4B1w
終わりです、お付き合いありがとうございました。

保管庫編集お疲れ様です。
自分の話が入っていて嬉しかったです。


勝手なお願いなのですが、もしよろしければ話の発端になったレス(>>113-119)も保管して頂けないでしょうか。
住人の方と一緒に作った話のつもりなので、住人の方のレスと一緒に保管してもらえると嬉しいです。

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  • 半角文字***が修飾されてしまうので、頭に’(半角)を付けさせていただきました。 -- 名無し (2008-07-27 23:10:58)

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最終更新:2008年07月27日 23:10