236 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 00:20:31 ID:YoX5+n4+
「雪、やみそうにないわね」
「ああ」
「このままだと命にかかわりそうだわ」
「…ああ」
「こうなったらあれね、お決まりのパターンってやつよ」
「……」
「裸になって肌と肌で暖めあいましょ…ってどこ行くのよ」
洞穴の外に出て行こうとしていた俺は振り向いて言った。
「いいか、俺はそういう冗談が一番嫌いなんだよ」
「はいはい。ゴメンナサイ。何もしないから戻ってきなさいよ」
外は相変わらずの猛吹雪で現在地もわからない。
一緒にスキーに来ていた他の仲間も行方不明。
確かにここから出れば遭難&凍死は考えるまでもないことだ。
仕方なく奥に戻り、真ん中に足で線を引く。
「いいか、ここからこっちが俺のエリアだから入ってくんなよ」
「それ普通は女の子のせりふよ。
まあ、あなたは小さくて可愛いから似合わなくはないけど」
うるせぇと心の中で毒づき俺は身を丸めて寒さをしのぐ。
俺だってせめて160は欲しかったよ。
ちらりと千秋の方を窺うと170オーバーの体を俺と同じように丸めていた。
可愛くないという理由でゴスロリ風に装飾されたスキーウェアが
体の大きさに合わず、はっきり言ってイタイ。
237 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 00:22:55 ID:YoX5+n4+
まったく、一緒にいるのが片思い中の高町ならよかったのに。
そんな下らない妄想を膨らませながら吹雪が止むのを待っていた。
漫画やドラマと違い現実はうまくいかない。
この旅行中に告白するつもりだった。
それがこんな目にあっている。
…そういやこいつも誰かに告白するとか言ってたっけ。
来る時の電車の中で女友達と喋っていたのが漏れ聞こえたのを覚えている。
俺でないことを祈るばかりだ。
あれから何時間経ったのだろう。
あまりの寒さに体もうまく動かせない。
意識も霞みがかっている感じだ。
「やっぱり私達助からないのかなぁ」
千秋の声も弱々しい。
「さあな」
死ぬかもしれないなんて今まで生きてた中で考えたこともなかったが
急に現実になりつつある。やり残した事だらけで後悔が頭の中で渦巻く。
「はぁあ、死ぬ前にあいつに告白しておきたかったぜ」
俺の呟きを聞いた千秋が寂しそうに微笑みつつ言った
「…そう、…そうね。死んじゃう前にか」
うん?どうしたんだ。
「あのね、わたしね。君のことが好きなの」
穴の外で降り続く雪のごとく頭の中が真っ白になった。
238 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 00:25:21 ID:YoX5+n4+
「君が高町さんを好きなのは知ってた。決して私を受け入れられないことも。
でも死んじゃう前に後悔はしたくないし言っておくね」
勘弁してくれ。俺には俺の女神様がいるんだよ。
「ついでに言うと高町さんには付き合っている年上の彼氏がいるよ」
さようなら、俺の女神様。
「あぁ。生き残ったら新たな女神を探しにいこう」
「生き残るためには最大限努力をしなくちゃ」
気づけば千秋が俺の方ににじり寄って来ていた。
いやな予感がする。
「今こそ肌と肌で暖めあう時よ。ついでに激しい運動なんかもいいわね」
「ちょっと待て。待ってくれ」
「死ぬ前に後悔したくないわ」
「いま生きのこる為と言わなかったか!」
「この際どっちでもいいわ」
目が怖い。
239 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 00:27:43 ID:YoX5+n4+
確かにこいつの言いたいこともわかる。
だがしかしっっ!!
「いいかっ。俺は。どんなに頼まれても。
男とそーゆーことするのは御免だぁぁぁ!!
わかったか!この筋肉ダルマ!! 」
スキーウェアの前をはだけながら千秋邦彦が言う。
「体は男、心は女。真実は常にひとつ」
柔道部で鍛えられた体が迫ってくる。
「恋する乙女は無敵なのよっっっ!」
「意味がわからねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
この閉ざされた空間で、
「心だけは女の子」と二人きりになってしまったこの俺を助けてくれ!!
最終更新:2008年07月20日 20:09