185 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:18:15 ID:xvJeHgAT
~「どうして助けが来ないの?」
 「さあ」
 「さあじゃないわよ。あとどれだけこうしてればいいのよ」
 「あれじゃないですか?逆に生きてるのは僕らだけだったりして。だとしたら大変ですよ」
 「え?」
 「子孫を残さないと。はは」

 東京の中心で生きてきた人間にとって、精神が参るのにそう時間はかからなかった。~

大勢でこんな事するなんて、僕には耐えられない。
無理強いはしないという事なので、スタッフもあまり声を掛けてこない。
持参した文庫本が僕の世界の全てだ。遠くでは食器の当たる音や、薪が爆ぜる音がしている。
文庫本に陰が落ちた。目の前にスタッフと呼ばれている人が立っていた。

「君、ちょっと手伝ってくれない?」

スタッフは努めて明るく言った。うざいな。シカトを決め込もうか。

「リーダー、どうしました?」

向こうから女性スタッフが一人、こちらに気付いてやってきた。

「うん、彼に手伝ってもらおうと思ってね」
「水汲みですか」

僕は、腰をあげ逃げようとした。
そう思ったのも束の間、女性スタッフに手を取られてしまった。
地べたに座っていた為、尻をはたき面倒くさそうにその人を見た。
大学生くらいの小柄な人だ。髪をお団子に結っているので、その顔の小ささが際立つ。
見た目の印象から僕とそう変わらないように見える。

「一緒に行こう」

ポリタンクを掲げ、微笑んでいる。
「私、山野喜乃子。名前で呼んでくれていいからね。キミは日島京事君だよね。よろしくね」
「はい」
「固いぞ~」

返す言葉がない。笑顔作ったつもりだが、きっと引きつっていただろう。

中洲ふれあいキャンプ場という看板を横に、岸に掛かる橋を渡る。
岸側から中洲を見ると、一見向こう岸がせり出した恰好に見えるが、独立した中洲であった。
谷間を流れる川沿いに遊歩道が整備されている。川側には木々が生い茂っていて、
時折その間から光る水面が目に入る。
真夏なのに涼しい風が吹き抜け、蝉も若干静かに鳴いている様に感じる。
そんな道はすぐに獣道になり、ここからは上り坂だ。この先は滝になっている筈だ。

「ちょっと、早くしてよ」
「・・・」

先程とは違い、口調がきつい。喜乃子さんは随分前方にいた。僕は少し早足になった。

「返事くらいしなさいよ」

前に向き直りざま、喜乃子さんはわざと聞こえるかのように言った。
怒っているんだろうか?綺麗な人だしちょっと緊張してたのになんか・・・
相変わらず速足で、ポリタンクを前後に振りずんずん先を行く。
186 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:18:58 ID:xvJeHgAT
道は更に酷くなってきた。山側は断崖になっており、川側も先程とは違い険しい。
まるで中国の水墨画の様。前方に手掘りと思われる刳り抜いたトンネル。

道隧姫龍

トンネルの上に掲げられた名を見て、ポケットから文庫を取り出し頁を捲った。

「同じだ」
「こんにちは」
「?」

前方からハイカーが二人下りてきた。喜乃子さんが挨拶を交わした。
すれ違う時、女性の方に軽く会釈をした。
横にいた少年は笑いながら女の人と話している。
その後姿を見ると、まるで僕と喜乃子さんのように見えた。
僕も喜乃子さんとあんな風に話せたらいいな。喜乃子さんと目があった。
うんざりしている感じなので、また何か言われる前に走り出した。
初めて喜乃子さんと並んで歩いた。しかし無言が続く。

「先に行きなさいよ」
「え、でも・・・」
「もう、はっきり喋りなさいよ。アンタみたいなの大っ嫌い」

なんか怒りっぽい人だなと思ったのと同時に、嫌われていると自覚した。

ごごごごごぉぉぉお

足元が唸りをあげた。轟音と共に山側の崖が地滑りを起こした。
それは道を呑み込み、川まで一気に崩れていった。僕は反射的に前方に飛んだ。
後ろを振り向くと、足が竦んでいるらしい喜乃子さんがいた。
喜乃子さんの足元も崩れ始め、視界を下方に移動した。
反射的に喜乃子さんの手を取った。反動で振り子の様になってしまって、
喜乃子さんは腹を打ち気を失ってしまった。ポリタンクは土砂にまみれて濁流に消えていった。
一世一代の大勝負。火事場の糞力。自分の足元も危ないので一度しかできないと思った。
幸い足場は崩れず、喜乃子さんを引き上げる事ができた。
喜乃子さんを背負うと上流へ向った。
187 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:19:32 ID:xvJeHgAT
体中から汗が吹き出る。山側の圧迫感がなくなり視界が開けた。
人の行ける最上流と思われる滝壷だ。滝壷を囲む様に円状になっており
断崖絶壁の岩の拭き抜けという感じがした。頭上には霧がかかり滝の最上部は確認できない。

ざああああぁぁぁぁ

中空で飛散した水飛沫を避けるため、大岩の影に隠れた。
喜乃子さんを横にするが呻いている。白地のTシャツから下着が透けている。
胸元には-生活更正委員会-の文字。通称、生更委。不登校、引き篭もり等
社会生活を送る事が困難な子供たちの集まり。
今回は夏季キャンプ合宿と銘打ってのイベントだった。応募が極端に少ない回という事らしく
マイクロバス一台、スタッフ含め十人いないという寂しいものだった。
数日前の台風、期間中の悪天候と、保護者からは不安の声も上がっていた。
その不安が現実になったわけだ。

喜乃子さんの腹部とふとももに血が滲んでいる。
急に不安になった。何かしなければいけない。僕は手ぶらで、持ち物といえば
文庫本と使いかけのポケットティッシュ。それに、持参を禁止されている携帯電話。
あまり使ってないけど、自分も現代っ子の一人。常に持っていないとどこか不安だった。
あえて持ってくる反抗的な自分もそこにいた。喜乃子さんはウェストポーチをしていたので、
それを外し中身を失敬した。応急処置になるような物はなかった。
底の方に小さな小物入れを見つけジップを開けてみた。
や、やはりそれらしきものはない・・・
仕方なくお揃いのTシャツを脱ぎ、滝壷で水を含ませ岩陰に戻った。
心の中でごめんなさいと言い、Tシャツの裾を捲り傷口を確かめた。
幸いかすり傷程度。ガーゼを当てるように優しく傷口にあてがった。
そのまま、太ももの方を確かめるとチノパン越しに血の滲みは広がっている。
破れ目から中を覗くとトクトクと血が溢れている。眩暈がした。僕は血に弱い。
腹に当てていたシャツで太ももを押さえつけ、見つけた蔓で足の付け根を縛った。

「速報です」

客のお膳を片付け、テーブルを拭いていたかすみは、テレビを見た。

「今日、午前十一時頃、○○県○○郡○○村にある、竜涙川上流で地滑りが起こりました。
 下流には民家やキャンプ場などあることから、○○村役場は消防と共に
 確認をしているとのことです。夜半から天気が崩れる恐れもあることから
 土石流などの被害が心配されます」

かすみは厨房で鍋を振るう夫に振り返った。その顔に不安の色が広がるのを見た。

189 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:20:05 ID:xvJeHgAT
ひぐらしが鳴いている。姿の見えない太陽が空をオレンジ色に染めている。
登ってきた川の方を見やると、雨雲が空を覆っていた。
ここは別名、霧の○○山系。年間で霧がとても多く出る地域。天気の移り変わりが激しい。
気が付いたようだ。状況を察していないのか、怪訝な表情。
横にされていると勘違いをし、裸の僕を警戒するかのように上半身を起こした。

「痛っ」
「お腹怪我してますから起きない方がいいですよ」

ちょっと気に障りぶっきらぼうに答えた。

「私、なんで?そうだ、崖が崩れて」

痛む足に施された手当てを見て続けた。

「キミが?」

頷いた。

「歩けますか?」
「だめ・・・痛い」

方法がまずかったか。

「ごめんね。シャツ汚しちゃって」
「血は止まりましたか?」
「うん。あ、ありがと。この体勢のままだからちょっと痺れてるけど」
「ごめんなさい」
「どうしてあやまるの」
「い、いや。応急処置なんて分からないから、見様見真似で・・・それに」
「?」
「喜乃子さんは僕が嫌いみたいだし」
「あ、いや、・・・そうじゃないの」

喜乃子さんの表情が翳った。

「今日はここに留まる事になりそうね」

そう言うと、喜乃子さんはまた横になった。落ち着いた様なので、とりあえずほっとした。
文庫を取り出し、頁を捲る。数頁読んだが薄暗さのせいで読むのをやめた。
変わりに辺りを散策することにした。滝壷脇に小さな一筋の流れが見て取れる。
その流れに注連縄が張ってある。本当に小説と一緒だ。
190 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:20:43 ID:xvJeHgAT
「や、喜乃子さん」
「なに見てるの?」
「歩けるんですか?」
「思ったより、軽いみたい。肩、借りるよ」

喜乃子さんの手が肩に回る。顔がとても近い。

「さっきから何見てるの?」
「あ、いや、小説を」
「へえ、どんなの読んでるの」
「い、いいです」
「見せて」
「駄目ですって」
「あっ!」

思わず振り払う形になってしまい喜乃子さんがよろけた。
グッと彼女の腕を掴んだ。そのままゆっくり座らせた。
ほら、と手を伸ばし本をせがる。
対面して、石に腰掛け、本を渡した。

「へぇ、この作家知ってる。映画になったのもあったし。結構きわどい表現多いよね」

それが何を意味するのかすぐにわかった。
この作家は性描写が露骨でそこらの官能小説よりいわゆるオカズに向いていた。
当然僕もそういう場面で興奮し勃起したし自慰もした。そんな事は露にも出さず続けた。

「この作家好きでよく読んでるんです。それで、その本はこの辺りを舞台にしていて、
 キャンプ地がこの辺りって知って、持ってきてみたんです」
「そうなんだ」
「実際の風景と照らし合わせて読んだら楽しいだろうなと思って」
「なんかロマンチックじゃん」
「そ、そういうんじゃないんです」
「そう?」
「この滝も龍姫伝説って話で載ってるんです。龍と姫の悲恋の物語です」
「なんか、よくしゃべるね」
「・・・」
「あ、別にちゃかしてるんじゃないの。面白そう、聞かせてよ龍と姫の悲しい物語」
191 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:21:14 ID:xvJeHgAT
龍姫伝説

そこは山間を流れる川が海に流れ出るのを見守る川下の集落。
粕葉家は代々神事を司っていた。娘が生まれるとその子は巫女になり、
その力は家を継ぐ男子よりも格が上とされ、女子が生まれた年は大層めでたいそう。
娘が齢十四の年、干ばつで大変な飢饉にみまわれ、巫女である娘は
龍神が住まうという滝壷で雨乞いの儀式をした。

人間の行動に興味を持ち出した小龍は巫女の儀式を見に行った。
小龍は一目でその娘に恋をしてしまった。小龍の行動を知った大龍は怒った。
しかし小龍を哀れに思った大龍は、今ならまだ大丈夫、そもそも龍族と人間が
一緒になる事は出来ないと説得するが、恋というものを知ってしまった小龍には
到底何を言っても無駄だった。小龍はさらに、どうか雨を降らせてくださいと懇願する。
今年はあの地域に降らす雨は無いと大龍も折れない。
ついに小龍は娘会いたさに掟を破り川を下って行った。
龍の通る後には必ず雨が降る。しかし加減を知らない小龍は、
娘に会いたいという欲に駆られているためか、回りが見えていない。
小龍が集落に到達する頃には川は暴れ川と化し、空には黒雲がひしめく。
雨雲に気付いた村人達は始めは喜んだが、それが大水の到来と知るや絶望した。

畑や家畜は流され、数十人の村人が行方不明になった。村人の怒りの
矛先は娘巫女に向けられた。人々のために雨乞いをし、降れば喜ばれるが
降らなければ全ての憎悪を受け、降り過ぎてもそれを受けた。
ひどく悲しんだ娘は滝壷に身を投げた。

小龍はというと、掟を破った為、八つ裂きにされてしまった。
大雨は数日続いた。事態を憂いた粕葉家は隠居した大ばば巫女様に
龍神の怒りを鎮めると共に、娘の弔いに滝壷で新たな祈祷を行った。
儀式が終わると大ばば様は天を仰いだ。

「龍神様と幼き娘が天に昇っていくのを見たのじゃ」

昇天した二人を見たという大ばば様は、それをうわ言のように呟くようになった。
それからのち、小さい流れの裏に洞を造り社を建て、注連縄を張り毎年慰霊祭を催した。
いつしか大滝を龍滝、小さいこの流れを姫滝と名付け、流れ落ちる川を竜涙川と呼ぶようになった。
192 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:22:30 ID:xvJeHgAT
「へえ、なんか切ないね」
「この土地の伝承を土台にした物語だけど、殆ど一緒らしいです。
 一緒と言っても伝承自体が恐らく創られた物だろうけど」
「いいよ」
「え」
「キミ、そうやって話してるととっても楽しそう」
「そんな」
「いい顔してるよ」

こんな事を言われたのは初めてだったので、少しビックリした。

「も、戻りましょうか」
「そうね」
「キミ、何か食べ物は?」
「ないです」

喜乃子さんはポーチから板チョコを出し、均等に分け半分を僕にくれた。

「まあ、明日までの辛抱。助けがくるでしょ」
「そうですね。でもみんな大丈夫かなあ。見てくださいよ、あの雲」
「どうだろう、降るのかな。みんなちゃんと避難してくれてればいいけど」
「喉渇いちゃった。ちょっと失敬」
「あっ!」
「なに?」
「罰当たりますよ」
「これ?」

僕から離れ、喜乃子さんは拍手を打ち、頂きますと言い姫滝から直接口を付け喉を潤す。

「ごちそうさまです」

僕も水を頂いた。僕は律儀に社が納まっている洞に向い腰を降ろし手を合わせた。
その奥には木製の小さな社があった。空き缶に花が捧げられているが随分前に枯れたようだ。
社は常に水を受けているので、とても神秘的だった。
びしょびしょになってる喜乃子さんの、顔に張りつく髪の毛にどきりとした。
その髪を両手で後ろに流した。胸が強調されて目のやり場に困った。
193 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:23:03 ID:xvJeHgAT
辺りはいよいよ夜の帳が降りてきた。
滝の音に加えて、夏の夜の虫の音とカエルの唸る鳴声が辺りを盛り上げる。
そういえばずっとしていない事を思い出した。意識しだしたら、急にしたくなった。

「あ、あの・・・出すものは出させてもらいます」
「???あ、ああ、私も」
「え?」
「私だってそれくらいはします。こっち見ないでよ」

僕と喜乃子さんは反対方向に歩き出し、用を足した。
木陰でチャックを降ろし、陰茎を取り出し放尿をする。
しかし尿が出ない。緊張と、何故か真後ろに喜乃子さんが立って見ているような気がして。
同時に自分の後方で腰を屈め下着を降ろし、陰部から勢い良く
尿を噴射する喜乃子さんを想像してしまった。その陰部は黒くぼやけてよく分からない。
僕は女性のあそこを見た事がない。アダルトビデオのそこには、
しっかりモザイクがかかっていて、その先がどうなっているのか知る由もない。
そんな事を考えていたら陰茎が芯をもってきた。
そっと前後にしごいている自分に気付き、我に返りやっと小便をした。

喜乃子さんは滝壷で手を洗っていた。
僕も横に座り手を洗う。

「足が痛いから、変な体勢でしちゃったよ」
「え、なに?」
「おしっ、・・・?!ちょっと、言わせないでよ。言いそうになっちゃったじゃん!」
「ふふ」
「笑うなー。・・・ふふ・・・ははは。初めて笑ったね。そうしてるとこっちもなんだか
 おかしくなっちゃった。鬱々としてるよりはこっちも楽になる。正直暗闇が怖いからさ」
「あ、安心してください、一応寝ずの番をしますから」
「心強いな。でもいいよ」
「大丈夫です」
「そう?」
「はい」
「じゃ、おやすみ」

虫の声もカエルの声も止み、辺りは静寂としていた。空を見上げると月に雲が掛かり
そのこぼれた明かりにかすかに周りの風景が認識できた。
滝壷に影を見た。人だ。滝に向い泣いているようだ。しなやかな曲線に長い髪。
腰回りはくびれていて、尻の割れ目が確認できる。
月が雲を抜け辺りが一際明るくなる。その明かりは女にスポットを当てるかのように
一箇所に集中した。

「龍姫・・・」

女がゆっくり振り向いた。俯いていた顔が正面を向くと、それは喜乃子さんだった。
194 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:24:30 ID:xvJeHgAT
ザアアァァァァ

滝の怒号で目が覚めた。

「おはよう」

龍ひ・・・め・・・?

喜乃子さんだった。髪を下ろしていたので雰囲気が違う。
それもあって一瞬状況を把握できず混乱したが、崖崩れの足止めを食っていると思い出した。

「おはようございます」
「眠れた?」
「はい・・・あっ」
「ふふふ」
「ずっと起きてるつもりだったのに」
「ふふ、大丈夫よ、生憎物騒な獣はいないみたいだったし」
「じゃあ、喜乃子さんが?」
「ううん、私も寝たよ。随分早く起きちゃったの。キミの寝顔ずっと見てた」
「・・・」
「うそ。ちょっと汗を流してたの。キミもそうしたら」
「え?」
「あそこ、ほら。流れが緩いでしょ」

滝壷に浸かってみた。
心地よい冷たさに顔を洗い、潜って頭を掻きむしった。
仰向けになり流れに身を任せる。喜乃子さんの方を見ると携帯を翳し電波を探っていた。
少し深いところに移動し泳いでみた。久しぶりの感覚がよみがえる。

「昨日○○県で起きた竜涙川の氾濫は河口の地域に大変な被害をもたらしました。
 キャンプ場にいた人々の生存は絶望的で身元の確認を急いでいる模様。
 政府は先ほど自衛隊の派遣を決定し~」

テレビを消すと昨日から連絡の取れない歯がゆさで、
いてもたってもいられないかすみと夫がいた。
195 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:24:56 ID:xvJeHgAT
結局その日は助けは来ず、一日を無駄に過ごした。

「京事君寝た?」
「いいえ」
「明日は来るよね、助け」
「そうですね」
「水は沢山あるし・・・」
「腐る程ありますね。知ってます?水だけで一ヶ月以上生きれるみたいですよ」
「本当に?」
「でも、五日過ぎた頃から、空腹感がなくなるらしいです」
「つまり、欲が無くなり、あとはなんとなく生きてるみたいな状態なのかな」
「どうなんだろう」
「罰が当たったのかな。そうだとしたらキミを巻き込んでごめんね」
「どういうことですか」
「ううん。私偽善者なの」
「・・・」
「こういう活動に参加するといろいろ有利なのよ。水汲みもそのひとつ。
 株を上げようと思ってね。で、お給料もいいし。
 正直キミ達が更正しようがどうしようがどうでも良かった。
 そしたら、この始末。私もどっちかっていうと君達と同じなのに」
「?」
「私もねキミと同じ頃、不登校だったの。生更委にも参加した事があった。
 でもすぐに卒業したの。こんな私でも好きになってくれる人がいた。
 恋人が出来たら、同属嫌悪ってやつかな、生更委の人達を見るのも嫌だった」
「そうだったんですか」
「でも別れちゃったんだけどね」

今度は僕だ。裸で滝壷にいる。何故かとても悲しくて涙が溢れる。
涙が体を伝い陰茎に達する。すると陰茎は膨張し天を仰いだ。
体が熱くなり、手足が胴と一体化し、やがて空に登っていった。
196 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:26:19 ID:xvJeHgAT
「おはよう」
「おはようございます」
「キミ夕べ泳いでた?」
「え?」
「やっぱり夢かなあ。昨日は私だったし・・・」

三日目はその空腹で目が覚めた。板チョコ一枚、それも二人で一枚。
軽く考えていたのでそんなものは昨日のうちに食べ尽くしてしまった。
崩れた現場を見に行った。やはりどうにもならず、滝の方も調べたが断崖で、
空には霧が掛かっている。どうやら陸の孤島というやつだ。

「どうにかしないとまずいですね」
「そうね。でも崖を降りて行くのは不可能。滝の上もとてもじゃないけど登れない」
「それでもなにかしないと。食べる物はないし」
「ちょっと待って」

そう言うと携帯を取りだしまた電波を探っている。

「やっぱり駄目だね。電池もやばいし」

僕もポケットから携帯を取り出した。

「キミも持ってたの?」
「こっちも無理です。残量表示ももう赤くなってる」

落ちこんでいると滝壷を旋回するペットボトルを見つけた。
飛び込み、それを拾う。これは最近発売された新商品で僕も飲んだ事がある。
ていうことは上に人が?まさか・・・
197 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:26:55 ID:xvJeHgAT
「おーーーーい!」
「どーしたのー?」

向こうで何かないか探していた喜乃子さんが尋ねる。

「いや、違うんです!」

それを聞きながらも近づいてきた。

「これ見てください」
「ペット・・・ボトル?」

ペットボトルを滝の上に掲げた。

「上から?」

頷いた。

「まさか?で、どうするの?」
「登ってみますよ」
「登るってここを?」
「はい」
「無理よ!」
「無理でも何もしないよりいい」
「向こうに何かありました?」
「い、いや」
「このままだとどうせ死ぬんです。この崖を登り、失敗して死んでも同じですよ。
 だったらやってみて死にますよ。どうにか上まで行って助けを読んできます。
 自分が死んでも喜乃子さんだけでも助かるように頑張ってみます」

言ってる事が支離滅裂なのに、僕の剣幕に驚いたのか、喜乃子さんは僕を見守った。
シャツを脱ぎ上半身を露にする。
198 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:27:29 ID:xvJeHgAT
「キミ結構逞しいね」
「水泳やってたんで。引き篭もりのクセに、今でも筋トレだけはしてるんです。
 体だけは作っておけっていいますし。これお願いします」

初日に喜乃子さんを手当てした時についた血が落ちず、川で洗っているうちに
ピンク色になったシャツを手渡した。

注連縄の脇の崖を手探りで登る。

「本当に大丈夫?」
「まかせてください。昔屋内レジャーのロッククライムで遊んだ事あるし」

岩を掴むと腕の筋肉に緊張が走る。
一歩一歩確かめつつ、上を目指す。
少しやれそうだ。自信がでてきて更に進む。ゆっくりだが確実に。
なんか今、とても人間ぽい。そう思うと自信が付いた。
しかしふっと笑みと安堵を漏らした途端、油断した。
ただでさえ水で滑る手元を掴み損ね、みるみる地上に落下した。

ああ、これで本当に死んでしまうんだ

喜乃子さんを助けるんじゃないのか?あっと言う間に駄目になったな。
やっぱり僕は駄目だな。でも・・・・死にたくないな。

姫滝の社に小さな花が供えられている。
静寂の滝壷では龍の化身と女が抱き合っていた。
二人は口づけを交わし、その時は永遠のように感じた。
199 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:28:15 ID:xvJeHgAT
今度は激痛に目が覚めた。

「よかった、気が付いた」
「喜乃子さん・・・」
「丸一日気が付かなかったのよ。打ち所が悪かったら本当に・・・うっ」

喜乃子さんは泣き出した。

「ごめんなさい」
「今は休んで・・うっく・・・腕・・・痛いでしょ」
「はい・・・うっ」

僕も悔しくて涙が出てきた。

随分寝たらしい。腹がなる。辺りは真っ暗だ。

「お腹空いた?」
「もうすぐタイムリミットですね」
「なんの?」
「食欲がなくなる・・・」
「大丈夫よ・・・」

彼女の、それでも気持ちだけは明るく努めようとしているのが伝わる。

「何か話して」
「え?」
「じゃあ、私が聞く」
「?」
「龍も娘も安らかに眠って、村も平和になったけど、伝承の方は結末どうなるの?」
「実は結構違うんです。・・・小龍が村を襲い、娘をさらって滝壷で愛し合った後、二人で・・・」
「・・・死ぬの?」
「・・・はい」
「私達もそうなるの?」
「知りません。でも多分」
「キスしてあげようか?」
「?!」
「そうしたら助かるかも」
「え?」
「ずっと同じ夢を見るの。滝壷でキミが悲しそうにしてるの。
 そこに私も近づいて抱き合ってキスをするの。そうしたら二人が一つになって
 天に昇っていく・・・」
「それって・・・僕も見ましたよ」
「え?」

沈黙した。

「忘れて・・・。もう、寝ましょう」

暗闇の中で、長い間そうしていたような気がする。
唇を離れるとその主は隣りで眠りについたようだった。

しかしそれはすぐに咽び泣きに変わった。
200 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:28:51 ID:xvJeHgAT
「どうして助けが来ないの」
「さあ」
「さあじゃないわよ。あとどれだけこうしてればいいのよ」

口調がヒステリックに聞こえる。

「あれじゃないですか?逆に生きてるのは僕らだけだったりして。だとしたら大変ですよ」
「は?」
「子孫を残さないと。はは」

僕も幾分頭が回らなくなっているようだ。キスの影響もあるかもしれない。
なにせ初めてだったし。その後の事もいろいろ想像してしまった。
考えてみたら、数日二人きり・・・

「なに言ってるの?」
「冗談ですよ」
「引き篭もってあんな本読んでるからおかしくなったんでしょ」
「どういう意味ですか」
「あんたがいろいろ歩き回ってる時に読んでみたのよ。
 いっぱしの文学とか言ってるけど、ほとんどエロ本じゃない」
「そんな言い方しなくても。自分だって・・・」
「・・・!?私が・・・なによ」
「・・・いつもコンドーム持ち歩いてる・・・じゃないですか」
「人のバッグ見たの?・・・最低」
「最初の日に絆創膏でもないか見せてもらったんです」
「にしても、断りもなく!」
「そんな事言ったって気を失ってたし手当てしないと」
「あーもういいよ」
「・・・」
「それにね、キミの年頃だと、その、ゴムはイコール、それだろうけど・・・
 しかもキミの場合幻想も抱いてそうだし。だけど避妊具を女の子が持ってるのは
 当然なの。結局女性の側が気をつけてないといけないのよ」
「・・・」
「キミも人を本当に好きになったらわかるよ。キミの場合まず
 学校にいけるようにならないとね」
「・・・」
「私、助かったらこの仕事辞める。こんな目に会ったからじゃなくて、
 私もちょっと変わってみようと思う」
「ぼ、僕だって、学校くらい・・・行ってやる」
「へぇ、言うねえ。そうだ、携帯出して」
「?」
「アドレス交換するの。キミの生活に変化があったら教えて。好きな人ができたらもね」

赤外線を通してお互い電池が切れそうなのを気にしつつアドレスを交換した。
それはある種の、最後の晩餐のような行為だった。
201 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:29:24 ID:xvJeHgAT
目が覚める。携帯はついにその役目を終えたらしい。

「私が・・・好きだって?」
「え?」

喜乃子さんが携帯の画面を僕に向ける。眩い液晶に目が眩んだ。画面には、

喜乃子さんが好きです。
好きな人が出来たらメールしてと言ったのでしました。

と書かれていた。アドレスも確かに僕だ。

「順番が違うけどまあいいわ」
「どういうこと?ちょっと待って・・・ケータイ通じたんですか?」
「そんな事どうでもいいの」

喜乃子さんは羽織っていた着物の帯を解き、前をはだけた。
上半身は裸で、綺麗な乳房が露になる。
下は襦袢というんだろうか、それに手を掛けするすると脱ぎ捨てた。
整った陰毛が目に入る。なぜそんな恰好だったのか気にもせず。
そこでやっと自分の陰茎が張ってくるのに気付いた。
喜乃子さんは僕のズボンを脱がすとパンツ越しに下から撫ぜた。
僕はビクンとした。
そしてパンツを脱がされた。そこには皮を被っているが自分でも
大きいと自覚している、いきり立った陰茎があった。
まるで意思を持っているかのようにピクンピクンと脈を打っている。
その陰茎に彼女が手を添え、ゆっくり皮を剥く。
彼女は微笑みながら何かを取り出した。
それを陰茎にあてがうと、何であるか分かった。
自分の秘部に当てていた艶めいた手を、陰茎になすりつけた。
そして僕に跨ると陰茎を自分の股に誘った。
その瞬間、僕に絶頂が訪れてしまった。
彼女の秘密の入り口で、陰茎は激しく痙攣し白い液体を薄いゴムの中に噴射した。
彼女はゴムを手早くはずした。ドロっと白い液体が陰茎を伝うと前後に扱きそのまま
腰を落とした。射精したばかりの陰茎は、彼女の体内で再び芯を持ち始め、
彼女の往復運動に答える。なんて気持ちがいいんだろう。
まるで全身を彼女の中に治め、体全部が性感帯になったよう。
彼女が首に手を回し、荒い呼吸をしながら喘ぐ。
その淫靡な息を感じながらキスをし、彼女を横にする。
そのあとは、もう一心不乱に腰を振り続けた。
最後はあっと言う間に訪れた。体中の精気を、まさに性器から噴射した気分だった。
もうどうなっても良かった。彼女もそうならもっと良い。彼女の胸に顔を埋めそのまま眠った。

バタバタバタバタ

「見てください。今自衛隊が滝壷の捜索に向いました。
 人です!この災害の被災者かどうかは確認できませんが人を発見した様です」
202 名前: 龍姫伝説 [sage] 投稿日: 2008/06/12(木) 01:30:00 ID:xvJeHgAT
この独特の匂いはどうやら病院らしい。
誰もいない。今度は僕だけになったのか?
廊下をかつかつと足音が聞こえる。

ふふ

僕は起き上がった。腕にはギプスがされている。
今日はいつなんだろう。あれからどれだけ経ったのだろう。

「今回の災害ですが、これは明かに初動ミスですよ。
 キャンプの被害者もそうですよ。被害者を別人と断定するなんて怠慢ですよ。
 霧が出ていたから川上は後回し?有り得ませんね。
 疑問を持った救助された少年のご両親の話に耳を向けなかったらしいじゃないですか」

患者の集まる休憩所から聞こえてくる、
ワイドショーのコメンテータの勝手な発言をスルーし屋上に行った。
そこは爽やかな風が吹いていた。心が晴れやかで、生まれ変わったようだ。
引き篭もりをしてしまような弱い心が、風と共にどこかに飛んでいくような気がする。
まず行動しろ、と良く言うが今はそれが出来そうな気がする。大抵のことはなんとかなるもんだ。
そもそもとても小さい事で悩んでいたのだ。そう、まずは行動だ。

携帯を見る。送信履歴を見た。

-喜乃子さんが好きです。
好きな人が出来たらメールしてと言ったのでしました。-

そんなメールは無かった。改めて、いや初めての送信をしよう。

「あの人」
「あら、どうしたの」
「ほら、あの人。○○県の災害の」
「あの滝壷で見つかったっていう?えー!」
「しっ!声が大きいわよ」
「生中継見たけどホントなのかしらね」
「私も見たわよ。テレビに注目してたわけじゃないけど、確かに裸のようだったわ」
「嫌だわ~」
「でも週刊誌に載ってたけどアレがあったって」
「なに?」
「もっと寄って」
「なになに?」
「ひ・に・ん・ぐ」
「ひえぇ~。最近の子は分からないわ~。あらやだ、こんな事言ったら不謹慎よね」

ヅー ヅー ヅー

携帯が震える。

-今、どこにいるの?-

彼女を探さなくちゃ

おわり

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最終更新:2008年07月20日 20:09