原作部分==========
113 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 07:28:23 ID:1P1fByZd

114 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 22:18:42 ID:ZwYPly4k

115 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 22:30:23 ID:EEdk7GgX

116 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 22:46:07 ID:n9NHeSzM

117 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:57:34 ID:0GL/VRQ/

118 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/05(木) 03:47:51 ID:TddQtFq4

119 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/05(木) 20:23:49 ID:4pPlPgei

120 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/06/05(木) 21:22:10 ID:mHD71rWI
なんだこりゃw

これはあれか、「星の歌姫」でなにか2人きりなネタを書けということか

むりだw

122 名前: 注意書き ◆AO.z.DwhC. [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 01:59:37 ID:B/eqjmBR
'>>113-119の連携プレイに感動したので「星の歌姫」で二人きりネタ。
エロはぬるめで背筋がむず痒い感じを目指しました。
よろしければお付き合いください。
タイトルは「ほしのうたひめ」です。

本文============
123 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:00:28 ID:B/eqjmBR

ある日突然、あっさりと人類は滅んでしまったらしい。
僕はその歴史的瞬間に、ぼけっと寝こけていた為、一体何が起こってこうなっ
てしまったのかは分らない。
ともかくも、ある朝目覚めたら街は無人で、そう広くもない家の中には誰一人
いなくなっていた。
父さんも、母さんも、妹も、ペットのタロでさえ、その姿を綺麗さっぱりと消
していたのだ。

最初は、悪い夢でも見ているのかと何度か頬をつねったり、無理やりベッドに
潜り込んでみたりもしたが、いつまでたっても何一つ変化は起こらない。
諦めて、とりあえず街を巡ってみようと、ぐるりと近場の駅周辺を一周したが、
やはり人っ子一人いなかった。
駅に停車したままの電車はドアが開いたまま、車掌も運転士も乗客も乗せずに
のっそりとその場に留まっていたし、いつも騒がしい駅前のコンビニはガラン
としたままだ。
仕方なく、おにぎりとペットボトルのジュースを失敬して、僕は再び家に戻っ
た。
こんな時でも、いやこんな時だからこそ、家の中は落ち着く。
こんな小説やドラマみたいな出来事に遭遇しても、なかなかその通りには事は
進まないものだ。
似たような状況に陥った主人公は、まずは生き残っている相手を探したり、原
因を究明するための努力をしていたが、僕にはどうもそんな気力はない。
おにぎりにかぶりつきながら、居間のテレビをつけると当然のように映らなかっ
た。
しかし、どうやら電気は通っているようだ。
ザーザーと流れる砂嵐は、電波に乗る番組が既にないことを示していたが、変
わりに電気がまだ存在していることを教えてくれる。
水道もガスも、今の所は通っているし(今後どうなるのかは分らないが)、とり
あえず現状にあまり不満はなかった。
人寂しいことを除けば、高校生としては申し分のない、”毎日が夏休み”状態
な訳だから。
普段はうっとうしくて仕方なかった家族の声がしない家の中はがらんと広くて、
セットしたゲームの音楽がやけに大きく響いた。

124 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:00:51 ID:B/eqjmBR

===

あんまり家でごろごろしているのもなんなので、ふと思い立って学校に行って
みることにした。
誰もいない通学路を、いつものように自転車に乗って進むと、僕が通っている
地元の高校の灰色の校舎が見えてくる。
コンクリート造りの校舎はお洒落ではあるが、夏は暑く冬は寒い、最悪の学び
舎だ。
なんだかそのシルエットを見ただけでうんざりしてくる気分を無理に押し上げ
てペダルを漕ぐ。
パーカーのフードがぱたぱたと風に揺れて、肩を叩いた。

がらんとした校舎は、昼だというのにしんと静まり返っていた。
まあ、無人なのだから当たり前だろう。
特に感慨もなく、土足のまま廊下に上がりこんで、スニーカーをぺたぺた言わ
せながら教室に向かった。
本当なら授業を受けているはずの僕の教室、2-Bは見事に誰一人いない。
おそらく、僕が一人残ってしまった日のまま放置されているのだろう、机の上
には教科書や筆記用具がそのまま置きっぱなしだ。
きちんと片付いた机と、ごちゃごちゃした机、そして落書き。
各人の個性が垣間見れて、僕はついついクラスメイトの机をじゅんぐりに回っ
てしまった。
ちょっと悪趣味だが、別に机の中まで覗いたわけではないのだから、むしろ良
心的だと思ってもらいたい。
特別親しくない限り、なかなか人の机の使い方を観察する機会はもてないから、
実に興味深くそれらを見ていると、いきなりチャイムが鳴った。
びっくりして、教室に備え付けられたスピーカーを見ていると、唐突に歌声が
響き始める。
流行に詳しくない僕には、それが何の歌なのか、さっぱり検討はつかなかった
が、一つだけ分ることがあった。
その歌は、今この場で歌われている、ということだ。
息継ぎのタイミングや、マイクがたまにハウリングするかんじは、まさしくリ
アルタイムで誰かが歌っているに違いなかった。
「……放送室に誰かいるのか、な?」
呟いて、ちょっと背筋が寒くなった。
誰もいない学校の中に、一体誰がいるというのだろう。
もしそれが人間ならいいが、みもうこの状況下ではなんでもアリだ。
実は宇宙人が侵略して人類は絶滅していて、この歌は仲間たちに送っている電
波だったりすることも在り得るかもしれない。
だったら嫌だなあ、と思いつつも、僕の足はふらふらと放送室に向かっていた。

それはその歌声が可愛い女の子の声だったからかもしれないし、あまりいい思
い出のない教室から出たくなったからかもしれない。
けれどやっぱり、一番の理由は、僕がこの一人きりの世界にものすごく孤独を
感じていたことだろう。

125 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:01:48 ID:B/eqjmBR

===

「……………………」
「……………………」
意を決して放送室のドアを開けた僕は、そこに思わぬ人物を発見して固まった。

それは向こうも同じだったらしく、こんな時だというのにかっちりと制服を校
則どおりに着こなした女の子――松永雪子(まつながゆきこ)は僕の姿を見て、
歌をやめて静止した。

松永と僕の関係は、一言で言うなら「イジメられっ子同士」だ。
特に接点はない、というか会話を交わしたことすらないが、僕は彼女のフルネー
ムさえ知っていた。
それはきっと彼女のほうでもそうだろう。
何しろ僕たちは、学校でも有数のイジメの被害者だったのだから。
僕が受けていたイジメは主に精神面で、松永が受けていたイジメは極端に肉体
的なものだった。
何度か彼女が女生徒たちに囲まれてリンチにあっているのを目撃したことがあ
る。
松永がそんな風にイジメを受けるようになった原因を、僕は知らないが、きっ
と僕がイジメを受けるようになった理由と同じく、些細でつまらないことなの
だろう。
ともかくも、彼女はその所為でいつも生傷が絶えず、よく包帯や絆創膏を巻き
つけていた。

白い顔立ちと、制服から覗く細い腕は、リンチがなくなった所為かなめらかに
傷一つなくなっている。
鎖骨の少し下あたりまで伸ばされた真っ直ぐな黒髪は、開け放たれた窓から入
る風にさらさらと揺れて靡いた。
「……吉田くん?」
「松永さん、歌上手いね」
やっぱり松永も僕の名前を知っていたようだ。
軽く首を傾げて問いかける彼女に、なるべく笑顔をつくりながらそう言うと、
松永は不思議そうな顔で押し黙った。
久しぶりの人との会話は、しかし沈黙とあまり変わりがない。
どうしたらいいか迷いながらも、僕は意外にもすっきりと美しい顔立ちをして
いる松永を見つめた。
「人がいるなんて、思わなかった」
「僕も、誰もいなくなったと思ってたよ」
頷きあうと、緊張していた空気がふと緩んだ。
そういえば、誰もいないんだった。
僕らが二人きりで会話をしていたところで、誰にも見つからないし、その所為
で面倒なことになることもないのだ。
どちらともなく安心のため息をついて、僕たちは日頃とはうって変わって饒舌
に話しあいはじめた。
「いつからこうなんだろうね。電気も水道もガスもあるし、スーパーもあるか
ら別に困らないけど、ちょっと怖い」
「学校に行かなくて良くなったのは嬉しいけどね」
「それは、私も嬉しいけど。することがないから、つい来ちゃう」
「分るな、それ。僕もゲームクリアして暇になっちゃったから、ついつい出て
きちゃったよ」
顔を見合わせて笑いあうと、すっと心が軽くなっていくようだった。
松永はリンチにあっている間中、眉ひとつ動かさずに孤高を保っていたが、今
はくるくるとよく笑い、忙しなく表情を変えていく。
その様子は年頃の少女らしく、とても可愛らしい。

126 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:02:31 ID:B/eqjmBR

「でも松永くんで良かった。わたし、ずっと不安だったの。もしわたし以外の
人がいるとして、それがあの人たちだったらどうしようって」
「ああ、そっか。僕はてっきり本当に誰もいなくなったと思ってたから、そん
なこと考えもしなかったよ」
「吉田くんらしいね。ほんとに、あの話の通りの人だ」
「………………そうかな」
松永も読んでいたのか、あれ。
ちょっと凹んだ僕の様子を察したのか、松永は顔色を変えて押し黙る。
気を使わせて申し訳ないな、と思いつつも僕の機嫌は急速に落ち込んでいく。

===

小さい頃から、話を作るのが好きだった。
当然、作文コンクールだの小論文の賞だのに入賞することは日常茶飯事だった
僕の転機は、ある一つの物語に出会ったことだった。
その小説を読んでから、僕はどっぷりと創作に嵌り、寝る間も惜しんで書き続
けた。
書きあがったいくつかの話を、新人賞に応募し、そのうちの一つがめでたく雑
誌に掲載されたのが、不幸の始まり。
運悪くペンネームを使わずに投稿したため、学校の国語教師にそれを発見され、
何に浮かれたのか、彼がそれを授業で配布したり、教室に貼り出したりしたせ
いで僕の学校生活は一気に灰色になった。
思春期の男子にとって、もっとも恥ずかしい創作を、クラスメイトに見られる
というだけでもかなりのダメージだというのに、その教師は更に雑誌掲載時の
賞金額まで話題に出してしまった。
一介の高校生にとってはかなりの大金であるその金額を聞き及んで、クラスの
内外からさまざまな勧誘(という名のたかり)が横行した。
それをきっぱりと跳ね除けた後は、なんというか……はっきり言って地獄だっ
た。
けれど書く楽しさを知ってしまった僕は今更それをやめることはできず、その
後も性懲りもなく投稿を繰り返して、そのうちのいくつかでまたもや賞金を手
に入れる。
そして、それを発見した教師の手によって、地獄は幾度も繰り返されたのだ。
ペンネームを使うことも考えたが、元は文筆家志望だったらしいその教師は妙
なコネを持っていて、何をしてもすぐにバレてしまう。
もう、全てどうでもいいと割り切って、僕はひたすら外野を無視して己の世界
にのみ没頭することで教室での悪夢のような時間を乗り切ってきたのだ。

その、僕の話を松永も読んでいたとは。
件の国語教師がさんざんバラまいてくれたのだから、まあ不思議ではないが、
やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
うっそりと落ち込む僕を気遣うように、松永はプリーツスカートの裾を白い指
で掴んでは離し、手を握り締めては開く動作を繰り返した。
「……ごめん。気にしないで。ところで、腹減らない?」
「そういえば、そうかも」
「松永はいつも食事どうしてんの? 俺はコンビニでカップ麺とか買ってるけ
ど」
「私は家でご飯作ってるかな……生野菜とかは保存利かないから、スーパーの
早めに使って腐らないように料理してる」
松永は自炊もできるらしい。
成績がいいのは知っていたが、料理ができるとは知らなかった。
顔立ちも可愛らしく、成績のよい、おまけに家庭的な優等生がどうしてまたリ
ンチを受ける羽目に陥ったのか、僕には想像もつかない。
にこりと微笑む松永に笑い返しながら、僕はついつい考えをめぐらせてしまう。

127 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:03:27 ID:B/eqjmBR

他人の不幸さえ話のネタにしようとしている自分の業の深さには呆れるばかり
だが、どうにも止められない。
今度は松永を主人公のモデルにして、何か書いてみようかな、と思っていると、
彼女は躊躇いがちに言った。
「良かったら、吉田くんも食べに来ない?」
「いいの?」
そろそろカップ麺にも飽きていた頃なので、松永のお誘いは素直に有難いが、
誰もいない女の子一人の家に上がりこむのは気が引ける。
「うん。一人ぶんだけ作るのって実はけっこう面倒だから、吉田くんがきてく
れると助かる」
「じゃあ、遠慮なく」
僕がそう答えると、松永は嬉しそうに笑って放送室の椅子から立ち上がった。
スカートのプリーツの裾が揺れて、白い膝が見える。
うっすらと傷の残った白い足が痛々しくて、僕はそこから視線を外した。

===

松永の家は、僕の家より大きかったが、豪邸とまではいかない、よく手入れを
された庭が綺麗な一軒家だった。
赤味がかった煉瓦づくりの家は、西洋風のモダンなデザインで、趣味の良い作
りのドアには金字のアルファベッドが刻まれている。
真鍮のドアノブに鍵を差し込み、僕を招き入れた松永は、陽の光が差し込むフ
ローリングのリビングのソファを指して言った。
「座ってて、すぐできるから。飲み物は何がいい?」
「なんでもいいよ。お構いなく」
「じゃ、ペットボトルのお茶にする」
くすくすと笑ってキッチンへと消えていった松永を見送ると、僕はソファに座
り込む。
もぞもぞと落ち着かなく身じろぎをしていると、グラスを片手にやってきた松
永に笑われた。
「そんなに緊張しなくていいのに」
「いや……女の子の家に来るのは初めてだから、つい」
僕の答えに、松永はくすくすと笑って薄緑色の緑茶の入ったグラスをテーブル
に置いた。
グラスの中に入った氷がかしゃんと涼しげな音をたてる。
「苦手なもの聞いてなかった。何か食べられないものってある?」
「特にないかな。でも生の玉ねぎが苦手」
「それは私も苦手だから、入れない」
「そうなんだ」
うん、と頷いて、松永は再びキッチンへと去っていった。
手持ち無沙汰に、ソファに放り出されていた雑誌をめくると、そこには松永が
いた。
正確には、松永に良く似た容姿を持った華やかな美少女が、水着姿で笑ってい
た。
可愛らしい笑顔とは裏腹に肉感的な肢体を惜しげもなく披露している少女は、
プールサイドのチェアに寝そべって長い脚を腕に抱え込み、豊かな胸を押し潰
すようにしている。
思春期の健康的な男子としては、ついつい食い入るように胸の谷間に注目して
しまうのは仕方ない。
雑誌に見入っていると、いつのまにかいい匂いの湯気が立った皿を両手にした
松永が僕の後ろに立っていた。
「それ、私のお姉ちゃんなの」
「…………美人だね」
「自慢のお姉ちゃんだけど、ちょっと嫌だったな」
「なんで?」
疑問に思って問いかけると、テーブルに皿を置きながら、松永は口をへの字に
曲げた。
聞いてはいけないことだったんだろうか。

128 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:03:58 ID:B/eqjmBR

「それが原因で、イジメられてたからね」
「…………ああ、なるほど」
それは嫌いにもなるだろう。
兎角、思春期の少年少女は目立つ人間に容赦がない。
それが本人だろうと、はたまた身内だろうと、イジメの理由にはなるのだろう。

僕にはあまり理解できないが。
松永は、僕が手にしていた雑誌の姉の写真を見つめて、泣きそうに顔を歪めて
話し出す。
「こんな風になる前の夜、大喧嘩しちゃったんだよね。お姉ちゃんの所為でイ
ジメられてるって、わたしが泣いたら、すごく困った顔してごめんねって。お
姉ちゃんの所為じゃないのに。すごくすごく大好きなお姉ちゃんは、わたしの
自慢なのに。泣きそうな顔して、ごめんねって……そんな顔させたくなかった
のに」
「……………………………」
堪えていたものを吐き出すように、松永はすすり泣くようにして姉との出来事
を語った。
実に悲惨すぎて、僕は何と言ったらいいのか分らなかった。
イジメられることのないこの世界では、同時に松永が姉と仲直りする機会も永
久に失われているのだ。
目と鼻を赤くした松永は、沈黙する僕に照れたように笑って言う。
「ごめんね、急に。誰もいなくなってから、ずっとそればっかり考えてて。誰
かに聞いて欲しかったんだ」
「いや、いいよ」
「冷めちゃうから、食べようか」
さばさばと笑って頷いた松永は、フォークを手にとってパスタを巻き取ってい
く。
その器用な動きをぼんやりと見つめながら、僕は女の子一人慰めることのでき
ない自分の不甲斐なさに腹が立った。
話の中でなら、いくらでも、そう、いくらでもかっこよくて優しくて、ついで
に頼りがいのある男の台詞くらい考え付くのに。
現実ときたらこの体たらくである。
美味しいトマトソースのパスタを啜りながら、僕はなんだか落ち込んだ。

===

結局、松永の家で夕食までご馳走になり、僕はとっぷりと暮れた夜道を自転車
で自宅まで走り出した。
初めてマトモに話した松永は、勝手に抱いていたクールで冷たいイメージとは
違って、ごく普通の可愛らしい女の子だった。
やはり、学校では色々と張り詰めているものがあったのだろう。
元イジメられっ子同士という奇妙な連帯感からか、松永は最初からあまり警戒
心なく僕に接してくれた。
そのおかげもあり、夕食を共にとる頃には僕と彼女はすっかり打ちとけ合って
いた。
さっぱりメモリの埋まっていない携帯にでも、登録をお願いしたいくらいに意
気投合したのは良いが、肝心の携帯の電波が非常に不安定だった為、やめてお
いた。
会いたくなったらどちらかの家に行くか、学校で落ち合えばいいだけの話であ
る。
家に帰り着いた僕は、なんだかこの生活も悪くないと思いながら、ベッドに入っ
て眠りについた。

129 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:06:10 ID:B/eqjmBR

===

「吉田くんは、やっぱりすごいね」
「何が?」
あんまり暇なので、折角だからこの状況をネタに一本話を作ってやろうと思っ
た僕は、学校に原稿用紙を持ち込んでざくざくとそれを埋めていった。
恒例行事であるらしい松永の歌を聞くともなしに聞きながらシャープペンシル
を走らせていると、歌い終えた松永が僕の原稿を覗き込むようにして笑った。
「わたし、吉田くんの話好きなんだ。同じ年であんなにすごい話が書けるなん
て、すごいってずっと思ってた」
「全然すごくないよ。むしろ松永さんのがすごい」
「私が? なんで?」
「イジメでリンチにあっても、絶対学校休まないで来てたし。成績すごくいい
し。料理も上手いし。僕には絶対真似できない。なんか憧れるよ」
呟くように言った僕の言葉に、松永はかすかに頬を染めた。
実際、松永雪子という女の子は、極端に欠点の少ない、実に魅力的な女の子だっ
た。
そんな彼女だからこそ、やっかみもあってイジメは加速していったのだろう。
そう考えると人の欠点というのも良し悪しだな、と思いながら、僕はなるべく
松永から視線を逸らして原稿用紙を埋め続けた。
自分で言っておいて、なんだか恥ずかしくなったのだ。
「…………そういえば、松永はなんで歌ってたの?」
「……え? ああ、えっとね……ちょっと恥ずかしいんだけど」
「いいじゃない。教えてよ」
なんとか話題を逸らそうと、戸惑う松永に食い下がると、彼女はやがて諦めた
ように口を開いた。
「これね、吉田くんのお話の真似なの。誰もいない星のお姫様が歌って、その
歌声が王子様に届く話。私、あれがすごく好きだから。誰かに届かないかな、っ
て思って」
「……”ほしのうたひめ”?」
「そう、それ。すごく優しくてあったかくて、わたしあの話が大好きなんだ」
「ありがとう」
にっこりと笑った松永を直視できず、俯いて呟いた僕の頬は、自分でも分るく
らいに熱くなっている。
これは相当赤くなっているんだろうな、と思うとますます恥ずかしい。
けれど、自分の書いた話がこうして誰かの特別になっていることは、自分でも
思いがけないほど幸せで、嬉しい。
「だから、吉田くんが来た時は、本当に王子様がきたのかと思っちゃった」
「ごめんね、僕で」
「ううん。嬉しかった。もし誰かに会うなら、吉田くんがいいなってずっと思っ
てたから」
「……僕も、松永でよかった。ずっと、松永とこんな風に仲良くなって、話し
てみたいって思ってた」
松永のストレートな言葉につられるように、そう言ってしまってから、思わず
自分の口を押さえる。
しかし、今更自分の口から出た言葉を取り消すことはできずに、放送室には気
まずい沈黙が落ちた。

松永を意識するようになったのは、彼女が校舎裏でリンチにあっている所を偶
然見てしまってからだ。
その時は名前も知らなかった彼女は、何をされても表情を変えず、やがてリン
チに飽きたらしい相手が去っていくまで、気丈に睨み続けていた。
細く華奢な身体に、世界中の全てを敵に回して一人で立っているかのような、
挑戦的な眼差しがひどく不釣合いで、印象的だった。
気がつくとつい視線で彼女を追うようになり、時にはこっそりと彼女が逃げ出
す手助けをしたりして、勝手に満足していた。
それが、この僕たち二人以外誰もいなくなった世界で、急速にその距離は縮ま
り、今こうして互いの息も届くような距離で見詰め合うことになろうとは。

130 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:07:29 ID:B/eqjmBR

===

回想を終えた僕の目の前には、頬を染めて目を潤ませた松永が、にじり寄るよ
うにして近づいてきていた。
「ま、松永…………」
「……吉田くん、わたしねえ、知ってたよ。吉田くんが時々わたしのこと、助
けてくれてたの」
「あ、いや、その……ごめん。あんなことしか出来なくて」
僕が表立って松永を庇うと、ますますイジメは加速するかもしれない、そう思っ
て、影から助けることしか出来なかった。
……いや、それは言い訳だ。僕は松永を助けることで自分もリンチの対象にさ
れるのが怖かっただけの臆病者だ。
こんなに華奢な女の子が耐えているというのに、僕ときたらたったそれだけの
理由で彼女を見殺しにしてきた。
「ううん、わたしすごく嬉しかった」
松永は、そんな僕にもにっこりと笑ってくれる。
一緒にいるようになって、本当は彼女がよく笑う女の子だということを知った。

その笑顔を奪い続けてきたのは、あの連中と、そして僕だ。
もう少しだけ踏み込んでいれば、せめて僕の前だけでも、松永は学校の中でも
笑ってくれたかもしれないのに。
「ほんとに、ごめん、松永。なんにもできなくて、ごめん」
「吉田くん、泣かないで」
自分の情けなさに泣けてきた僕の視界は、潤んでいく。
そんなどうしようもない僕の頭を慰めるように優しい手つきで撫でながら、松
永は小さな声で囁いた。
「こんな状況で言うのもおかしいけど、わたし、吉田くんが好きだよ」
「…………僕も」
僕ときたら、本当に最初から最後まで情けない。
ある意味初志貫徹ではあるが、全くもって誇れないにも程がある。
震える声で囁いた松永に、その倍くらい震える声で頷きながら、僕たちは誰も
いない学校の、誰もいない放送室で初めての口づけを交わした。

===

131 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:08:52 ID:B/eqjmBR

===

松永の身体は柔らかく、甘く、そして傷だらけだ。
初めて裸で抱き合ったとき、僕は不覚にもその痛々しい傷跡に涙が出てきてし
まった。
松永といると、泣いてばかりのような気がするが、まあ仕方ない。
何しろ松永があり泣かない女の子なのだから、僕が変わりに泣いていると思え
ばいいのだ。
世の中は上手いこと釣り合いが取れている。
「よ、よしだくんっ……あ……ん……」
僕の下で、甘い声をあげる松永の首筋に噛み付くように口付けると、松永の細
い肩がひくりと引き攣る。
それと同時に、僕が押し入った松永の熱いぬかるみは、その内壁をきゅうと引
き締めて、僕をきつく絞り上げた。
「ま、まつながっ……すご……」
「あ……い……きもち、いいっ……す、ごくい、い……」
グラビアを飾るお姉さんよりは大分慎ましやかな胸を優しく揉むと、松永はき
れぎれに快感を訴える。
真っ赤に染まった顔が、妙に愛しくて鼻先に口づけを落とすと、松永は照れた
ようにそっぽを向いた。
そうこうしている間にも、僕の方の限界が迫っていて、正直かなりやばい。
先に僕だけ、というのもなんとなく男の沽券に関わるかんじがして、必死に松
永の身体を舌と手で愛撫していく。
「も、無理……イク……あっ……よし、だくんっ……」
「まって、もう少し」
なんとか高まったらしい松永の方の絶頂に待ったをかけながら、僕もラストス
パートを掛ける。
高くなった松永の喘ぎ声と、粘液が触れ合う湿った音に煽られて、僕は荒く息
を吐いた。

松永とこういう関係になったのは、あの放送室の出来事から二週間ほど経って
からだった。
それまでも口づけを交わす程度の接触はあったものの、それ以上の肉体的な触
れ合いはなく、しかし僕としてはそう急ぐつもりもなかったので、別段不自由
はなかった。
無人の学校で松永と話したり、彼女の歌を聴いたり、または時折キスをしたり
するだけで、結構満ち足りていたのだ。
人並みの性欲はあるが、なんだか松永をそういった対象で見るのは躊躇われて、
僕にはどうもそれ以上の行為に進むことができなかった。
その足踏み状態を一気に乗り越えてゴールまで導いたのは、やはり松永で、僕
はどうやら自分で思っているよりも更にへたれなようだった。
僕自身の情けなさは、あの時の放送室で十分に認識できたと思ったのに、更な
る下方修正が必要だったとは、我ながらびっくりである。

132 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:09:40 ID:B/eqjmBR

「……どうしたの?」
「ううん。なんか、ぼうっとしてた」
初体験を回想してため息をついた僕に、松永は不安そうに問いかけたが、僕の
答えに照れたように笑った。
シーツを巻きつけた白い体は、未成熟ではあるが十二分に魅力的である。
「松永くんと、こんなふうになるとは思ってなかったなあ」
「僕も。でも、こんなこと言うとアレだけど、ちょっとこの状況に感謝してる。
こんなことにならなかったら、こんな風に松永と一緒にいること、無かっただ
ろうし」
「そうだね。わたしも、ちょっと感謝だな」
くすくすと笑いあって、再びベッドに倒れこんだ僕らは、お互いの身体を確か
めるように抱き合う。
そうしないと、いつのまにか相手もある日突然消えてしまいそうで怖いのだ。
松永の暖かい体温に安堵を感じながら、僕は正直にも再び硬くなっている自身
を持て余す。
抑えが利かないのは、若さゆえだ。
松永の耳元で、もう一戦を強請ると、彼女は顔を赤くして、眉を顰めた。

===

133 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:10:30 ID:B/eqjmBR

===

はじまりが唐突なら、終わりも唐突だった。
ある朝目が覚めると、そこにはいつものように父がいて、母がいて、生意気な
妹が俺に突っかかり、懐かないペットのタロ(猫)が優雅に毛づくろいをしてい
た。
仕方なく、制服に着替えてパンを頬張っていると、しばらくぶりに見たテレビ
のアナウンサーが今日のニュースを伝えた。
日時は、あの世界から唐突に人が消えたその日ぴったりで、別段何一つ変わっ
たニュース
流れていない。
全ては夢だったのだろうか。
首を捻りながら学校に向かうと、通学路には同じ制服を着込んだ生徒たちの群
れが溢れている。
何一つ変わらない、いつもの光景だ。

ガラリと教室の引き戸を開けると、教室は一瞬静まり返り、やがてひそひそ声
と微かな笑い声が陰湿に広がった。
やはり、いつもどおりである。
窓際の一番後ろにある自分の席に座ると、そこには悪意のある落書きが変わら
ずに描かれていた。
何一つ、変わりはない。

昼休み、屋上に出ると、眩しい日差しが目に痛かった。
人のいないそこでは、何故か殴打の音と小さな悲鳴、そして罵倒が響いている。

134 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:11:34 ID:B/eqjmBR

まず間違いなく、リンチの現場なのだろう。
いつもならそこそこ賑わっているはずのここに、全く人気がないのはその所為
か。
納得しつつも、関わらないように踵を返そうとして、ふと響いた声に立ち止ま
る。
――――松永の声だ。
そう思った瞬間、自分でも良く分らない衝動に突き動かされて、声がする屋上
の隅へと走り寄った。
「…………なんだよ」
「何見てんだよ、チクる気?」
直感に違わず、そこには松永がいつもにようにリンチにあっていた。
彼女を取り囲むガラの悪い女生徒の鋭い視線に怯みつつも、僕は必死に座り込
む松永の手を取って立ち上がらせる。
「なんだよ、やっぱ姉貴に似て男垂らしこむのは得意ってか?」
「ていうか、コイツ吉田じゃん。金持ちの! 松永、さすがぁ~」
囃し立てる彼女達を、できるだけ無視して松永の手を引いて歩き出すと、一人
が面白く無さそうな顔で僕を蹴りつけた。
それに呼応するように、一人につき一発ずつなんらかの攻撃を受けて、僕の身
体はちょっとズタボロになる。
が、気が抜けたのか、一人また一人とその場を立ち去っていき、屋上には僕と
松永だけが残された。
「……大丈夫?」
「松永さんは?」
やっぱり、夢だったのかな、とすこし寂しく思いながら問いかけると、松永は
俯いて頷いた。
細い指が微かに震えていて、それでようやく、松永もこのリンチが全く平気だっ
たわけではないことに気付いた。
理不尽な暴力に耐え切れる人間なんていないのだ。
それが、こんなに細くて優しい女の子だったら尚更。
ひたすら鈍い自分を恥じたが、僕はどこか満足だった。
見ているだけだった自分が、とうとう行動を起こす事ができたからだ。
あの夢の出来事のように、僕自身の不甲斐なさに好きな女の子の前で泣き出す
なんてのは、もう御免である。
「ありがとう。吉田くん」
「気にしないで、勝手にやっただけだから」
「でも…………」
「代わりに、お願いがあるんだけど……いいかな?」
弱々しく首を振った松永に、緊張しながら問いかけると今度は頷いてくれた。
それに勇気付けられて、僕は小さな声で呟く。
「歌ってくれないかな……あの曲」
「……いいよ」
その呟きに、驚いたように顔を上げた松永は、一転してくしゃりと顔を歪めた。

135 名前: ほしのうたひめ [sage] 投稿日: 2008/06/06(金) 02:12:44 ID:B/eqjmBR
澄んだ声で、いつも放送室で歌っていた、あの曲のメロディを口ずさむ。
サビまで歌い終わると、松永は小さく笑いながら背伸びをして、僕の頬に口づ
けた。
「夢じゃなかったんだ」
「僕も、夢だとおもってた」
びっくりしたように笑った松永は、僕にしがみついて泣き出しそうな声で言っ
た。
その細い背中に手を回しながら、僕は不覚にもまた泣きそうになっている自分
を叱咤する。
「本当に、”ほしのうたひめ”みたい。吉田くんは、わたしの王子様だね」
震える声で囁く松永の耳元に、唇を落とすと、僕はもう一度その華奢な身体を
強く抱きしめた。
気丈で頑張りやで料理の上手い、星の歌姫は、ようやく王子様に見つけられた
ようだ。
僕がその王子様にふさわしいかはこの際置いておいて、とりあえずは、巡り合
えた僕の歌姫を抱きしめ続けることにした。


===


「今日の朝、戻って嬉しかったけど、すごく悲しかった、もう吉田くんと話せなくなるんだ、って」
「それは、僕も」
「でも、さっきはすごく嬉しかった」
「僕も。そういえば、仲直りはできた? お姉さんと」
「うん。朝一番に謝ってきた。許してくれたよ」
「良かったね」
「また遊びにおいでよ。オムライス作るから」
「……いや、えーと……」
「あと、吉田くんが置いてった原稿用紙、ウチにあるよ」
「……ええっ!? ……ほんとに、夢じゃなかったんだ」
「うん。だから、取りにおいでよ、今日」
「お、お邪魔しようかな」
「おいでよ。今日は誰もいないから」
「……あのね、松永さん」
「…………吉田くん、結局向こうでも最後まで名前で呼んでくれなかったよね」
「それは君もでしょ。ひょっとして僕の名前知らないんじゃない?」
「知ってるよ」
「僕も知ってる」
「……今日、家おいでよ」
「……分った。行く」

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  • 段落区切りがワイルドカード文字になっており変に修飾されるため、イコールに変更して転記しました。 -- 名無し (2008-07-20 19:31:43)

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最終更新:2008年07月27日 23:02