354 :名無しさん@ピンキー:2007/04/08(日) 01:51:39 ID:IUqREXR1
それは、急な嵐だった
大学のサークルの皆でのひと夏の思い出旅行。
日程、時間、特に障害もなく、スムーズに…それこそ順調すぎるほど予定が決まり
意気揚々と出航した…までは良かった。急に振り出した雨に荒れてきた海…
危険だとは思った、それでも戻るのも面倒だという事で押し切った形で船を進めていた
あんなことになるとは露も知らず…


「バカ!?危ないぞ!?外は俺が見てるから仲に入っとけ!」
「大丈夫だよっ。とと…」
「…危ないって言ってるだろうが」
「そこまで足腰弱くないってば…それに、拓海一人じゃ、寂しいでしょ?」

そう言ってにっこりと微笑みこちらを覗き込むように顔を近づけてくる
そう言われて悪い気がする男はいないだろう拓海は少し誤魔化すように顔をそらし辺りを見回した
坂下 遥。同じゼミ、同じサークルの仲間の一人だ
よく喋り、ころころと表情が変わり明るくみんなのムードメイカー的なクラスで一人はいる、人気者タイプの少女だった


「こんな状態で女のお前が出てきてもしょうがないだろうが…」
「ひっどいなぁ…人が心配して来て上げたんだよ?大人しくありがとー♪の一言も言えないの?」
「よく言うよ…まったく」

身振り手振りを交えながらくすくすと笑い説明を始める遥を
はぁ。と盛大に溜め息を吐き肩を竦める…
彼女といればこの憂鬱な気分も少しはマシになっていたのかもしれない
今まで気を張っていた反動か少し…ほんの少し気を緩めた。

「まぁ、もう戻るよ。そこまで怒るなら戻ればいいんでしょーだ・・・きゃっ!?」
「当たり前だっての…危ないって遥!?」

急な横波の衝撃は遥の足元を攫っていく
振り返れば海に投げ出されようとしている遥が目に入った
どうすればいいっ!?…迷ってる時間はなかった。
気が付いたら俺は遥の体を抱き締める形で海に投げ出されていた・・・


うん、なんだ、そのごめんよ_| ̄|○

364 :354:2007/04/09(月) 02:06:07 ID:Oxv/0gqx
「…っ…ぁ?生きてる」

目が覚めれば拓海は見知らぬ浜に倒れていた
いや、打ち上げられていたといった方が正しいんだろうか?
日が高くのぼり嵐が嘘のように静まっておりまるで拓海や遥が海に落ちる為だけに
あの嵐があったかのような…それほどまでの快晴だった
太陽に手をかざし辺りを見回せば少し離れている所に倒れている遥が目に入った

「まぶし……そうだアイツは!?…遥!?」

だが、ここから見ている限りではピクリとも動く気配がない
まさか……溺死なんて冗談はないよな?
自然と焦りが生まれていく、あの荒れていた海に落ちたんだ
むしろ助かっている方が奇跡に近いのだろう急いで近寄っていき抱き起こた。
少し、いやかなり冷えた体は否が応でも「死」という言葉を連想させた

「おいっ!?起きろ!!おいっっ!!!」
「・・・・・・・・・」
「冗談じゃねぇぞこのっ!!起きろってんだよ!!!」
「・・・・」

あぁ、テレビとかの特集を見てるときにバカにしていた応急処置なんか少しも思いつかなかった
あんな事を冷静に出来るほど俺は冷静でいられるはずもない。
ただ、俺に出来る事は名前を呼びながら頬を軽く叩く事だけだった

(そうだ…人工呼吸!?心臓マッサージ!?なんでもいい試すだけ試してみる価値はある!!)

だが、思いついたところで正確なやり方なんか覚えてない
せいぜい、覚えているのなんかキスして息を吹き込む
鳩尾の辺りを押し込む。この程度の知識くらいしか持っていない

「・・・っ」
「・・・・」
「だあああああああ!?やりゃぁいいんだろうがちくしょうがっ!?」

とりあえず、このまま黙って見ている事なんか出来なかった。
抱き抱えていた華奢な体をそっと砂浜に寝かせ、少しずつ顔を近づけていく
目を閉じまるで眠っているだけの様な様子をじっと見つめる
濡れた髪、濡れた服が張り付いてボディラインが浮き上がっている体。
近づけていけばいくほど均整の取れた顔にどうしても意識してまい無意識のうちに躊躇する。

「っ・・・・・」
「・・・・・・・しないの?キス」
「うわあ!?」

不意に掛けられた声。
今まで意識がないと思っていた相手からの
問いかけに思わず声をあげてしまう

「お、おおお、おまっ!?だって!?おきなかっ!!?」
「起きようとしたら顔が近づいて来るんだもん。どうしようもないでしょ・・・」
「起きたなら突き飛ばせばよかっただろうがっ!?」
「・・・そっか。その手があったねっ!」
「・・・・・」
「なんだよー!?そのアホの子を見る目は!・・・・拓海?どうして泣いてるの?」
「・・・・なにがだよ。別にどうもしてない」

こんな自然な会話が、こんな何時もの会話が、
これほどありがたいものだなんて思ってなかった。
知らないうちに目から涙が零れていた……

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最終更新:2007年08月14日 11:34