そして彼は、王(キング)を得た。

アーシア島。オレンジ諸島の海の果てと呼ばれる、穏やかな場所。
だがその海底には、この星の均衡を保つ深層海流が流れている。
火、氷、雷。三つの島には三匹の神が宿り、その秩序を守ってきた。
――いや、その三匹だけではない。まだ、一匹、神はいる。
嵐の海を滑る、白き竜。圧倒的な力を以って、世の半分を統べる者。
人は其れを、ルギアと呼んだ。

そのアーシア島上空。雲の切れ間から、幾何学的な何かが覗く。
それは、巨大な飛行宮だった。複雑怪奇な造詣は、どこをどう見ても自然のものではありえない。
ゆっくり風を切り雲を引き裂き、飛行宮は空を行く。
やがて雲のヴェールは剥ぎ取られ、島が現れる。
その様を男は、じっくりと眺めていた。

肌や髪の色素は薄く、しかし対照的に身体のつくりは男らしかった。
貴族のような服を身にまとい、豪奢な椅子に腰掛けている。
目の前には、ホログラフで描かれたチェス盤が、淡い光を放っている。
「王(キング)は、何処にいる?」
男は、そう尋ねた。低いがよく通る、蟲惑的ですらある声だった。
「ルギアはアーシア島の海面下、約3000m付近で半覚醒状態にあるものと思われます」
コンピュータの声が、それに答える。
同時にチェス盤にも、王……ルギアを模したらしい、チェスピースの映像が浮かび上がった。
「ほう? そこまで上がってくるのは珍しい。それに半覚醒とは……私に気づいたのだろうか?」
「不明です」
まあいい、と男は椅子に座りなおした。
チェス盤には、更に何かの駒が浮かび上がった。それは、誘導弾のような形をしていた。
その誘導弾はいくつも現れ、その先端のどれもが、ルギアを指していた。
「その深さなら、これが使える。少々値は張ったが…それもコレクションの価値に比べれば、たいしたものではない」
次々と誘導弾が赤い光を帯び、点滅する。どうやら、準備が出来たらしかった。
男は口元に微笑を浮かべ、
「――発射」
そう、呟いた。


来る。何かが――来る。
海の神はその存在を、夢に視ていた。何時か逢った存在が、また来る。
その時はまた、世界の均衡が崩される時。触れてはならぬ禁忌が、侵してはならぬ聖域が、また――
ルギアはゆっくりとその眼を開き、辺りを見た。
深層海流の流れが乱れている。直感は当たったらしい。
では、何が来るというのか。今度は……どの神に手を出そうというのか。
火の神、雷の神、氷の神。その絶対なる天秤が傾いたとき、海の神は完全に覚醒する。
海流を流路に、心を疾らせる。何か不自然なものが、海流の流れを切り裂き、こちらに向かってくる。それも、途轍もない速さで。
ルギアは云わば、半分眠ったような状態だった。だから、急に飛んできたその異物をよけることは難しかった。
だからその異物はなんでもないようにルギアを追い越し、その眼前で爆発した。
中に詰められていたらしい薬品が、海中に一気に流れ出す。それは白い霧状になり、一瞬でルギアの全身を染めた。
浴びた瞬間焼けるような痛みと、猛烈な眠気が襲ってきた。
―― 一体、何が、起こったんだ。
あまりの痛みに耐えかね、ルギアはぎゅうっと身体を丸め――その咆哮を海底中に轟かせた。
だがその声もどんどん小さくなり、思わず自分のヒレを見る。
どんどん、縮んでいる。
本当に、訳が解らなかった。だがその間にも痛みと眠気が全身を襲い、そして。


――そして彼は、王(キング)を得た。


飛行宮に備え付けられた、人間の大きさほどある水槽。
その中でルギアは、身体を丸めて眠っていた。
ほんの数分前までは、嵐の海を統べる神として、崇め奉られていたポケモンだ。
だがこうなってしまっては、殆どペットも同じである。
――否。彼なら今のルギアを、ペットとは呼ばないだろう。
その彼は、すっと水槽のガラスを撫でた。恍惚の笑みを浮かべ、とても嬉しそうに。何度も、何度も。
「漸く、手に入れたぞ。私の――コレクション」
薄い唇が弧を描く。

「所有者は、自身のコレクションを磨かなければな。……楽しみだよ、久しぶりに」


男の名は、ジラルダン。彼はトレーナーでもロケット団でもない。
ただただ珍しいものを蒐集し、その快楽を味わうもの――コレクターである。





古くよりアーシアの巫女が吹く笛の音は、海の神の心を癒し、均衡を元に戻す手助けをしてきた。
美しきその音色は、海の神の声。海底に響く、優しい歌声。
喉を鳴らして歌う声は、何よりも美しく、魂を包み込むようだった。

だからジラルダンは、今その声を間近で聞けて、とても満足していた。
ただ、それは歌声ではなかった。
悲鳴。そして、慟哭。喉の奥から搾り出される、悲哀の声。
ルギアは、啼いていた。
当然だ。何故なら彼は今――辱められているのだから。

「いい光景だ。実に、いい光景だ」
葡萄酒を唇に馴染ませるように飲みながら、ジラルダンは呟いた。
強化ガラスの向こう側には、広いタイル床の部屋がある。
床の筋に、排水溝に、とろりとした粘液が垂れ、下水へと落ちていった。
では、その粘液はどこから――目線を上に上げると、そこにはありえない光景があった。
そこにあったのは、所謂三角椅子と呼ばれるものだった。
木製のしっかりした造りのもので、ぬっとりとした粘液に濡れている。
粘液を噴出している主は、その拷問道具に跨っていた。――海の神、ルギアだ。
両ヒレを後ろに縛られ、身動きがとれないでいる。無理に動こうとすれば、角がよりいっそう、股間に食いつくだけだ。
そのたびにルギアは、あの笛のような、涼風のような美しい声で悲鳴をあげる。
それは凄惨でもあり、妖艶でもある光景だった。
海の声、至高の響きが今、自分だけのものになっている。
ジラルダンはその状況に、改めて心を震わせた。
誰も手にしたことのない存在がいま、自分の手元にある。自分の支配下にある。
コレクションを愛で、磨き上げていくことこそ、コレクターの矜持にして快楽。唯一の愉しみ。
今はまだ悲鳴を上げているだけだが、何れその声も嬌声に変わる。いや――変える。自分から強請るように、躾けてやる。
「さて、そろそろ仕上げにかかるか」
立ち上がることもなく、ジラルダンは手元のボタンを押した。

排泄口が、肉棒が、熱い。熱くてむず痒い。
此処に連れてこられた時、一体何をされたのか、ルギアにはよく解らなかった。
ただ身体中が、特に性器がかあっと熱くなったのが解った。
それと同時に訳の解らない衝動が起こり、理性が弾け飛びそうになった。
その衝動から我を取り戻した時にはもう、この妙な椅子の上に座らされていた。
自重で排泄口や雄は、めりめりと角にめり込んだ。
痛みと同時に熱や痒みが起こり、ルギアは思わず悲鳴を上げた。
途中何かぬるりとしたものを感じて下を見ると、排泄口がしとどに濡れているのが解った。
僅かな困惑も、今起こっている熱に比べれば些細なものだった。
むず痒い。が、身体を動かそうとすると、ますます痛みが激しくなる。
初めての感覚に背中のヒレを逆立て、ルギアは再び喉を震わせた。

その瞬間、がくん、と足元のそれが揺れた。
予想外の動きに、充血した粘膜や張り詰めた雄が堪えられる筈もなく――
「うああぁッ!?」
びゅくびゅくと濃い精液を噴出しながら、ルギアは初めて絶頂した。
放たれた精液は放射線を描きながら、びちゃりと床に落ちた。
ルギアは自分の身に何が起こったのか、訳の解らないままに、かくりと頭を垂れた。

ジラルダンはその様を肴に、もう一杯葡萄酒を飲み干すのであった。



『何故……こんな事をするのだ』
「……」
ジラルダンとルギア。二人は、向かい合っていた。
最もルギアは、手や足、首や尾に枷を嵌められ、床に釘付けにされていたが。
『海の礎を失えば……均衡は崩れてしまう。そうなれば、世界は崩壊するだけだ』
それでも何とか首を持ち上げ、ルギアは掠れた声で訴えた。
『互いの世界を、壊してはならない。私にも、お前にも世界がある。
だからこそ、私は、私は幻であることを願ったのだ。なのに、お前は……』
ジラルダンは、顔色一つ変えずに、呟いた。
「人語を解すのは便利だ。要望を聞く事が出来る」
『何?』
「だが、不便でもある。主人の意に背く戯言を吐く場合があるからな」
ジラルダンはそこでようやく、後ろにやっていた手を前へ出した。
『……ッ』

その手に握られていたのは、何又にも分かれた、禍々しい鞭だった。

何かが空を引き裂いた。耳に響く破裂音が、シャワールームを満たす。
『ぐッ……』
その音と共に、ルギアの前ヒレが赤く染まる。すうっと赤いラインが走る。
「ほう。思ったよりも柔なのだな。深海に耐えうるから、どんな肌だと思っていたが」
まったく表情を変えずに、ジラルダンは更に鞭を振るった。
「いい鞭だろう? ケンタロスの皮をなめして作らせたものだ」
一回、二回、三回、四回。
その度に鞭が、白い柔肌を切り裂いていく。
ルギアは只管歯を食い縛り、痛みに堪えた。
『人間、少しは此方の話を……ぐあぁッ!?』
合間に口を開いても、また鞭打ちが襲ってくる。
「少しは状況を理解する事を勧めるよ。お前は私のコレクションなのだから」
鞭打ちは前ヒレだけではなく、背中や尾、終には首筋へと至った。
打たれた場所も赤みを増すだけでなく、衝撃に耐えかねぱっくりと裂け始めた。
「コレクションは、主に逆らわない。……解ったな?」
漸く手を止め、ジラルダンはルギアの目を覗き込んだ。
「大丈夫だ。言う事を聞くとさえ誓ってくれれば、痛い事はやめよう。私とて、自らコレクションを傷つけるのは忍びない」
『…………』
それでも、彼から矜持は消えなかった。元より神と呼ばれしポケモン。この星の礎となるポケモンが、この程度で折れては――彼はそう思っていた。
だからジラルダンは、更に鞭を振るう。その矜持を削ぎ落とすように。

結局鞭打ちは、ルギアが失神するまで続けられた。
彼は、最後まで弱音を吐かなかった。少なくとも、口では。
失神した後も、彼は開放される事はなかった。夢の中でも痛みと恐ろしい影の存在に苛まれ、尾の先をぶるぶると奮わせた。
認識していないであろう恐怖は、しかし確実に、ルギアの心の奥深くに根を張った。


ラジオでは、オレンジ諸島で久しぶりに雪が観測された、と伝えていた。
逆にシンオウでは、雪解けが観測されたらしい。
それもおそらく、世界の均衡が崩れてきたということの証なのだろう。
だが、ジラルダンにはどうでもいいことだった。唯、今目の前にあるコレクションさえ愛でる事が出来れば、それでよかった。
元より誰もが求めるポケモン。ポケモントレーナーとて、幻の存在とあらば手中に収めたいと思うだろう。
だから、自分とトレーナーは、何も変わらない。
我ながら珍しい、とジラルダンは思った。こういう風な考え事をすることは、普段あまりない。
葡萄酒で考え事を流し込むと、彼は再び、強化ガラスの向こうに目をやった。

頭が、ぼうっとする。脳ごとぬるま湯に包まれているようだった。
先ほど食べさせられたものが原因だろうか――霧がかった意識の中で、そう思う。
ふと、近づいてくる気配を感じ、ルギアは首を持ち上げた。同胞の気配だ。
そこにいたのは、カイリューだった。普段は見下ろす程の大きさだが、今では見下ろされる立場になってしまった。
『お前も此処に、囚われてしまったのか?』
返事はない。テレパシーは届いているはずなのに、波が返ってくる感触がない。
『一体、何故お前は……』
そう尋ねる間もなかった。
『……ん? ん、ぅ!?』
カイリューはルギアの頭を持ち上げると、深く、ゆっくりと口付けた。
逃げる舌を追い、絡めとる。牙の根元をすっとなぞり、じっくりと骨抜きにするように。
その間にも、閉じた排泄口に爪をそっと差し入れ、中で眠っている雄をなぞる。
それだけで、ルギアの尾がびくりと跳ねた。
カイリューは楽しそうに、するりと肉棒を引き出した。かと思うとそれをゆっくりと扱き始める。
ルギアはというともうすでに、身体の奥から湧き上がってくる肉欲に翻弄されていた。
慣れない快感も薬で増幅され、口と急所を同時に攻められているのだから、ある意味当然の結果だった。
やがて、ぱっと目の前が真っ白に光ったかと思うと、止め処ない白濁液が、カイリューの腹を白く染めた。
弄られただけで達してしまったらしい。
『い、まの、は』
理解できない。そんな様子で呟く。
だが神以前に生き物であるルギアは、その本能に目覚めつつあった。
カイリューも舌なめずりをすると、ルギアの雄を咥え、口内で弄び始めた。
再び意識を失いかけたルギア。
理性がある状態で最後に見た景色。それは他のポケモン達が、屹立した肉棒も露に、此方に歩いてくる姿だった。

コレクションは今、輪姦されていた。
ポケモンに性的な調教を仕込む仕事があるとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。
彼らに調教されたポケモンもまた、調教師らしい。
生娘も同然のルギアは、上の口も下の口も、肉棒すらも犯され、完全に参ってしまっている。
いくら媚薬を盛ったからとはいえ、神なるポケモンがここまで乱れるのは如何なものか。
一瞬そう思ったが、考えれば、神達は子作りの中からあらゆる物を創造したことを思えば、これもまた、いい。
ともあれ、ルギアの痴態は、いい肴となった。

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最終更新:2011年07月02日 16:59