「外に出してやろうか」
……なんだって?
「外に出してやろうか、って言ってんだよ。出たくねえんだったらそれでいいけどよ」
今まで何度も耳を疑ったが、この言葉には本当に耳を疑った。
「……どういう、ことだ?」
「そういうことだよ。よくわかんねえけど、何かそういう感じで話が進んでいるっぽい」
そんな重要な事を、どうしてそう軽い調子で話すんだ。
しかし……今更開放するなんて、どういうつもりなんだ?
「まあ、勿論なんもなしに開放しないけどよ。最後に……いいな?」
そう言って笑う男の手には……目隠し用の布が、握られていた。
ああ……解っている。どうせ、タダでは開放されない。
だが、これはチャンスだ。その条件を呑みさえすれば、私は帰ることが出来る。
アーロン様やリーン様が住む、あの城に。

目隠しをされ、向かう間、私は憂鬱だった。
何せ、交換条件が余りにも悪すぎる。
「これがラストだ。まあ、ラストになるかどうかはてめえ次第だけどな」
そう言って、男は説明を始めた。
「これからてめえは、そのまま犯される」
…………訂正する。さっき驚きをあっさり上回った。
「それってどういう……!」
「声がでけえんだよ。落ち着けよ糞狗。……最後までヤッててめえがてめえの理性を保てればてめえの勝ちだ。
そんなんじゃとてもここで奴隷なんざ出来ねえ。まあそんかわり、マンコ狗になっちまったらてめえの負けだけどな」
……なんという条件だ。吐き気がする。
「まあでも? 感じても感じねえフリとか? まあ色々手はあるだろ。頑張れよー」

やがて、男の足が止まった。手にふかふかとした物が触れる。どうやら、絨毯らしい。
歩いた時間から考えると、多分ここは、初日に連れて来られた大広間だろう。
人間のざわめき声が聞こえる。かなりいるらしい。
奴隷のお披露目とか、公開調教とか、わけのわからない、わかりたくない単語が聞こえてくる。
心の準備も出来ぬまま、無理やり台らしきものへと乗せられる。
いよいよ、始まってしまうらしい。
……心を強く持つんだ。確かに身体は穢された。心も……
だが、私はまだ、私のままだ。なら……きっと、大丈夫。

少なくともそのときは、そう思えた。

暗闇から、手が伸びてくる。私の身体に触れる。
それは、人の手だった。
どうやら人間達は数人いるらしい。
無理やり手と足を握られ、私は動けなくなった。
荒い息遣いが聞こえてくる。聞こえてくるだけじゃない。感じる。
「……ッ! ん……ふぅ……」
不意に、口を塞がれた。……苦い。どうやら、性器らしかった。
いっそ噛み付いてやろうかと思ったが、その気も直ぐに萎れてしまった。
その臭いや味が、私の中の何かを呼び覚まそうとしている。
美味しいと、心地良いと感じてしまっている自分がいる。
気づけば意思とは無関係に、舌が勝手に動いてしまっていた。
より多くの精液を飲もうとするように、喉を鳴らし、舌を動かして。
「……ッ!?」
不意に、下半身が痺れた。弄られて、いる。
性器を露出しようとしているのだろう。こんな状況で、交尾の準備が出来る訳……
そう思った瞬間、また、びりりと快感が走った。――性器を、扱かれている。
べたべたした軟膏のようなものをつけながら、揉み扱いている。
思わず口を開けようとすると、奥まで性器を突っ込まれた。
何とか鼻で息をしながら、性器を舐める。舐めれば舐めるほど、とろりとした汁が溢れて来る。
その間に私自身の身体も、じわじわと熱くなっていく。
……嘘だ。こんな……私は、こんな事なんて嫌な筈なのに……
「んぅっ!?」
しかし奴らの手は、私の意志などお構い無しに、私を蹂躙する。
熱いのに冷たい。矛盾した感覚。軟膏のべたつきなのか、それとも私自身の体液なのか。
認めたくはなかった。しかし、意思とは裏腹に、私の身体は、貪欲に快感を求めていく。
「見ろよ、我慢汁垂らしてるぜ」
「こんだけ大勢の人間の前で、よくチンポおっ勃てられるなあ?」
私を犯す人間達の声。
「達者なのは……チンポだけじゃねえぞ。コイツ、……うめえんだよ。舌遣いが」
娼婦みたいだ、と男が嘲る。
……悔しい。こうなるはずじゃ、なかったのに……
いや、まだだ。まだ、あきらめない。まだ私は、完全には流されてはいない。
そうだ、このまま堪え続けるんだ。堪えて、堪えて……帰るんだ。絶対に。
「おい、もう……イッていいだろ?」
「おう。たっぷりお前の子種飲ましてやれよ」
「そんじゃ、一回こっちも……」
何? 何をするつもりなんだ?
そう思った瞬間、上も下も、激しく動いた。
釘を打ち込むように、口の中で性器が激しく動く。
喉を突かれ、思わず息が止まる。
いっそ意識を手放したら楽だろうか。いや、それでは負けてしまう……帰れない。
それでは意味が……
考える間もなく、手はぐちゅぐちゅと音を立てながら、私の性器を扱いていた。
熱い。理性が燃え落ちそうだ。段々、脳が沸騰し、目の前が白くなって……

「ほらッ、出すぞ!……ッ!」
「ッ!? ……ん……んぐッ……」

私は……精を吐き出した。自身の性器がびくびくと震えていることが解ってしまった。
口の中にも精液を流し込まれたが、まるで水を飲むように、飲み込んでしまった。

身体が投げ出される。男達の手が、離れる。
「あ……」
今の物欲しげな声は……私の声?
思わず、口を押さえる。周りについた精液が粘ついた。
まだ……身体が熱い。ぼうっとする。それでも更なる熱を、快感を欲しがる自分がいる。
このまま目隠しをとって逃げてしまえばいい。押さえられていないんだから。
だが、腰が立たない。もがいても、ろくに前に進まない。

「何逃げようとしてんだよ」
突然、氷雨のような声が降ってきた。あの男の声だ。
それと同時に、身体が行き成り持ち上げられる。
「言っただろう?……最後まで、だって」
最後? まさか……!?

鋭い痛みが脳天を突き上げた。目は塞がれたはずなのに、星が散って見えた。
何かが、私の中に、入って、いる。
何か? ……考えるまでもないだろう。
私は犯されている。肛門に性器を突っ込まれて。
もう、身動きなんてとれなかった。
腸壁が濡れる。ぐちゅぐちゅと音を立てる。
その度に熱が溢れ出し、身体を焼き尽くしていく。
何とか元に戻ろうとしても、無駄だった。今までにされた行為の一つ一つが心の中に蘇り、理性を塗りつぶしていく。
この為の、行為だったのか。今更気づいても、もう遅い。
今や私は、完全に、あの男が言うところのマンコ狗に、成り果ててしまった。
私は……波導使いではない。ましてやアーロン様の弟子でもなんでもない。
マンコ狗である私には、そんな資格なんてない。あの方の傍にいる資格なんて。
なら……帰る理由なんて、ない。ここが、私の居場所なのだから。
……そう、だ。何を躊躇する事がある?
もし、そうなら……逃げる必要なんて、ない。このままもっと、愉しめばいい。
私は自分から腰を動かした。ある一点にチンポが擦れると、眩暈がするほどの快感が押し寄せてきた。
「あッ……ち、チンポ……気持ちいい、です……!」
口を開くと、自然と扇情的な言葉が溢れてきた。……これで、いい。私は、これで。
「チンポ、チンポがッ、擦れて……ケツマンコ、が……あ、熱いんですッ!」
ますます快楽が強くなる。壊れてしまいそうな快感。いつまでも味わっていたい。
たとえそれで完全に、壊れてしまったとしても。
「もっと、もっと突いてくださいッ! マンコ狗に精液たくさんくださいーッ!!」
私自身も燃えるように熱い。絶頂が、近い。
男は遠慮なく私の中を突いてくれた。頭の中に虹色の霧がかかる。もう、快感しか、感じない。

「ふぁッ、あ、イ、イっちゃいますッ! チンポでケツマンコ突かれてイっちゃいますううッ!!」

しかし、私は達しなかった。あの声が、聞こえたから。

「ルカリオッ!! ルカリオーッ!!」

るかりお……誰、だ? これは……誰の声、だ?
考える間に、何かが転がるような音や、どたばたと騒がしい音が聞こえた。
「もういいッ! もういいんだ! やめろルカリオ!」
誰なんだ……今、とてもいい気持ちなのに……

荒々しい足音が、こっちに向かって走ってくる。
途端、引き剥がされる感覚。肛門からチンポが抜けた。
……イけなかった。その熱が身体をちりちりと焼いていく。
「だ、誰!? イ、イきたかったのに! なんでイかせてくれないんですか!? なんで、何でイ」

突然、視界が明るくなった。目隠しを外されたのだろう。
そして、目の前には……黒髪の、精悍な顔つきをした男がいた。
突然、その男は私を抱きしめた。そして、耳元でささやく。とても、優しい声色で。
「……もういいんだ、ルカリオ。お前が傷つく必要なんて……何一つ、ない。
本当に、すまなかった。まさか……お前がこんな目に会っているなんて……」
誰? ……違う。私は、……知っている。この人間を……知っている。
「……ぁ……あ、ぁ……」
喉が、震える。声が、出ない。
でも、彼の手のひらはまるで、魔法の手のひらのようだった。
気づいたとき、私は大声で、彼の名前を叫んでいた。

「あ……アーロン様ああッ!!」

私も、思わず手を回そうとして……躊躇した。
今の私は……もう、彼の弟子でもなんでもない。ただの穢れた、快楽に溺れるのみの存在だ。
「や、やめて、ください……私は、もう……貴方とは、何の関係も……」
「何を言っているんだルカリオ!」
アーロン様は、私を更に強く抱きしめた。
「私は……私は一日とて、お前を忘れたことなんか無かった。何度、もう一度お前に会いたいと思ったことか……!」
ああ、なら、……余計に、会えない。私は、貴方を忘れていた。
貴方やリーン様のためと思いながら、その記憶は薄れ、今はただ快感に酔うだけの獣だ。
「そんなことはない。ルカリオ……お前は、お前だ」
「でも見たんでしょう!? 私が……私が、あんな風になる様を……!」
……待て。見ていた? アーロン様は、私の痴態を見ていた……?
なら、何故……
「そんなこと、関係ない。身体の事なら、ロータに帰って休めば」
「……アーロン様……」
言葉を遮ると、彼はいぶかしんでこちらを見た。
「何だ、ルカリオ」

「どうして……あの時点で、止めてくださなかったんですか?」

そうだ。見ていたのなら……舞台の上で犯し始める前に、止める事も出来たはずだ。
なのに何故、諦めた時に来たんでしょうか。
「それは……ッ」
ああ、そうか。アーロン様も……愉しみたかったのか。
「そうなんでしょう? アーロン様。アーロン様も……このマンコ狗に、チンポをくれるんですよね……?」
「違う……違うんだルカリオ! 目を覚ましてくれ!」
目を、覚ます? ……もう目は覚めている。なら……することは決まっている。
「アーロン様……お願い、します。ご奉仕しますから、貴方の」
「!? 駄目だルカリオッ! 戻……」
不意に、背中が熱くなった。そして、どさり、と大きな音。
何が起こったのか、よく解らなかった。
「色々と予定が狂いましたね、公爵様」
「ああ。……いやはや、参ったよ。若いっていいね」
公爵の声が聞こえる。
「でもまあ、約束だったし? 犯されてるのを見て、声かけたり動いたり、助けたりしたら弟子を殺すって。
まー、死んじゃったのは師匠の方だったけど。でもまあ、扱いには困ってたし、結果オーライっすかね、公爵様」
……え? ……それは、一体…………どう、いう……
ふと肉の焼ける臭いを感じて、私は振り返った。

そこには…………何かが、いた。
ああ……ええと、……何だっけ。そうだ、奉仕するんだ。ケツマンコに、チンポを貰うんだ。
でも、こんなに焼けては……貰えないじゃ、ないか。
身体の内で、熱が燻る。訳の解らない切なさが込み上げる。
「……あ……お、お願い、します……犯して、ください……ねえ、犯して、くださいよ……」
かさかさになった指に、自分のチンポを擦り付ける。
劣情と悲しみが込み上げ、そして。

私は、達した。今までに無いような快感と、苦しみを伴って。




あれから私は、公爵様の奴隷となりました。
公爵様に呼ばれてご奉仕し、沢山精液を頂きます。
痛い事も平気です。気持ちいいといってよく鳴くと、公爵様は沢山褒めてくださいます。
頭を撫でられるのも、褒められるのも好きです。
これからも公爵様のマンコ狗として、頑張りたいです。

                    ――おわり――

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最終更新:2007年08月14日 22:19