魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第二話



                           闇の書事件から2年後 新暦67年 とある次元世界


此処は何処にでもある無人の次元世界、周囲は白い雪に覆われ、所々に文明が栄えていたであろう証拠の残骸が、厚い雪に覆われその姿を隠している。
本来なら無人のこの世界は静寂に包まれ、ただその大地を白く染め上げるだけで終わり、次の季節が来るまでその姿を維持してる・・・・筈だった。
「ぐ・・・はぁ・・・」
黄金色の光が物凄いスピードで白銀の大地に落下・・・否、叩きつけられた。
爆音が轟き、衝撃で雪が、地面が吹き飛び、雪原の大地に土色のクレーターを作り出す。
「・・・・やりすぎたか・・・・」
その光景を上空から見下ろす一人の女性


ボーイッシュな顔立ちと髪型、そしてそれに似合う鍛え上げられた体、一見逞しい美男子にも見えるが、そのボディーラインから彼女が女性だと直ぐにわかる。
気温が氷点下に達するにも関わらず服装は薄いタイツの様なスーツのみ、そんな格好にも関わらず一切寒さを表していないのは、そのスーツが特殊なものだという事を意味している。
そして、両手、両足にはエネルギーで形成された羽・・・否、刃。
その刃を小刻みに振動させながら、彼女は先ほど自分が落下させた者の様子を伺っていた。


障壁で攻撃を防がれたが、地面に叩き付けられた衝撃までは緩和しきれてはいまい、高確率でクレータの真ん中で気を失っている筈
その様に内心で結論付けた時、彼女の瞳が急速な魔力収束を感知、その直後
「プラズマ・スマッシャァァァァァァ!!!!」
未だたちこめる爆煙の中から、中・近距離砲撃魔法『プラズマスマッシャー』が彼女『トーレ』目掛けて放たれた。
それ程離れていない距離、発射速度、そして不意打ち、直撃する条件は全て揃っている。だが
「IS・ライドインパルス」
どんな速度の速い魔道師でも避ける事は難しい、自己破壊願望の持ち主でもない限り誰もが防御魔法で耐える事を選ぶ、
だがトーレは何もせずに何かの名前を呟くだけ、だがそれで十分だった。
呟いた直後、軸戦場にいた女性は消えてしまう。否、消えたのではなく途轍もないスピードで移動し、迫り来る砲撃を軽々とかわした。
だが彼女が移動を終えた直後、突如気配を感じ上を見上げる、すると其処には黄金色の大剣を振り下ろそうとしている少女『フェイト・T・ハラオウン』の姿
その剣が自分目掛けて振り下ろされる瞬間、彼女は左腕だけを掲げる。誰もが見ても防御とは思えない行為。
だが、フェイトから見れば防がれるかもしれないという恐怖が体を支配する。
そしてトーレから見ればこの程度の斬撃、これで十分といえる防御手段・・・そして激突
互いの武器がぶつかり、魔力とエネルギー波が激しい音を立てながら荒れ狂う。
一見すればザンバーを振り下ろしているフェイトの方が有利に見えるが、彼女達の顔を見ればその考えは間違っていることが直ぐにわかる。
「・・・・・ぐっ・・・・・」
歯を食いしばり、両腕に力を込め、振り下ろすザンバーに更に力を込めるフェイトに対し、
その渾身の攻撃を片手で平然と受け止めるトーレ・・・否、徐々に押し返す・・・・・・・・そして
「・・・・先ほども申し上げた筈です・・・・」
力任せにトーレは腕を振りザンバーを弾く。彼女のパワー、そして自身が持つザンバーの重さに振り回されるかの様にフェイトは再び吹き飛ばされる。
トーレのパワーとザンバーの重さにより、空中で振り回されているフェイトに、トドメと言わんばかりにインヒューレントスキル『ライドインパルス』を使用、
ソニックフォームとほぼ同等の高速移動で一瞬で間合いをつめ、右腕に生えるように展開してあるエネルギー刃『インパルスブレード』を袈裟に振り下ろす。
だが、フェイトも黙って攻撃を喰らうほど愚かではない、間合いが詰められた瞬間、体に力を入れバランスを一瞬で戻すと同時にフォームチェンジ、
その場から一瞬で退避し、トーレとの距離を再び広げた。


「・・・ソニックフォームですか、ですがその姿では・・・・・死にますよ?」
ソニックフォームへと姿を変えたフェイトを一瞥した後、トーレは彼女を睨み付けながら忠告するかのように呟く。
彼女の忠告、それが正しい事は忠告された本人であるフェイトが一番理解できていた。
今のフェイトの状態『ソニックフォーム』はスピードを極限まで高めた高速戦闘フォーム、だが、デメリットとして防御能力が殆どなく
攻撃を喰らえば大ダメージは必至、下手をすれば死ぬこともある。
それでも、このデメリットを補うほどの高速移動はこれまでに仲間の危機を何度も救い、強敵から幾多の勝利を自身に齎した。


だか今回は違う、今戦っている人物、彼女もまた高速移動を使用した戦闘を行う・・・・それも自分とほぼ同等のスピードで
だがそれだけではない、今戦っている相手はパワー、技のキレ、そして戦闘経験、殆どにおいて自分を凌駕し、魔法に対する体制も備えている。
自分が唯一勝っているのは攻撃方法の多さのみ、スピードに関してはソニックフォームでようやく互角といった所だ。
正直自分がこの相手に勝てる可能性は限りなく低い、だが逃げることなど出来ない。背を向けた途端、自分は間違いなく切り裂かれるだろう。



否、逃げようなどとは思わない、傍から見れば勝てる可能性はほとんど無い戦いを行おうとする自分を馬鹿だと思うだろう
だが自分が彼女を足止めしなければ・・・助けられる人達も助けられなくなる、戦っているなのは達にも危険が及ぶ・・・・・ならば


目の前の敵を見据え、ゆっくりとバルディッシュを構える。ザンバーでは獲物が大きいため、破壊力には劣るがサイズフォームに変形、少しでも小回りが効く武器に置き換える。
「・・・・・引きませんか・・・・ならば」
フェイトの行動、そして表情から続けると理解したトーレもまた、腿と足首、そして手首からインパルスブレードを発生させ構える。
彼女の事はドクターから聞いている、だが、捕獲命令などが出ていない以上目の前のいる少女は敵、倒すべき好敵手
「(・・・ん?『好敵手』か・・・・・ふっ、このような感情、チンクと戦って以来だな)」
目の前の少女を敵ではなく、好敵手と思ってしまった自分に対し不思議な気持ちになる。
そしてふと思ってしまう、もし目の前の少女が敵ではなく自分達の妹であったなら、共に高みを目指す事もできただろうと。
「まったく、クアットロの事を悪く言えんな・・・・余計な事を考えるなど・・・・」
相手は余計な事を考えながら戦えるほど甘い敵ではない、殺すつもりで挑まなければこちらが負ける可能性もある。内心で自重した後、顔を引きしめ頭を切り替える。
互いににらみ合い、それぞれ出方を伺う・・・そして
「はぁあああああああああ!!!」
「おぉおおおおおおおおお!!!」
互いの叫びと共に、自身の翼を羽ばたかせる・・・その直後、空には激突した時に生ずる激しい光と爆音が響き渡った。



『はぁ~い、トーレ姉様~元気ですかぁ~?』
突如目の前に開く空間モニター、其処に写っているのは眼鏡を掛けた女性、
何がそんなに楽しいのか、面白そうに笑いながらモニター越しに姉であるトーレを見つめている。
「お前の目は再調整が必要だ様だな・・・・この姿で元気と言えるか馬鹿者」
現在トーレは空を飛びながら空間モニターで会話をしている、だがその姿は酷い者だった。
戦闘用のスーツは所々裂け、左腕の手甲は粉々に砕けている、そして右肩から左腰辺りまで大きな袈裟の傷があり、スーツで隠されていた肌を大胆に露出させていた。
『あらあら?トーレ姉さまったら大胆!!これは録画物ですわ~』
「・・・・・後でストレートをくれてやる、変えの眼鏡を用意しておくのだな・・・・・で、クアットロ・・・守備は?」
このままクアットロの戯言に付き合っては話が進まないと結論付けたトーレは現状を聞く
あの施設から離れてから、それなりに時間が経過している、聞かずとも、間違いなく全てが終っているであろう
『まぁ、結果から言えばトーレお姉さまが思っている通りですわ、こちらの被害は研究施設とガジェット数十機、研究資材云々とチンクちゃんの目・・・・・ですわね。
まぁ、収穫もありますわ、高い素質を持ったサンプルが二体、結果としては被害、収穫あわせてプラスマイナスゼロ・・・・いいえ、管理局の有名なおちびさんを再起不能にしたら
プラスですわね、トーレ姉様の方は?』


「痛みわけといった所だ、相手のアバラを数本折ったしデバイスも破壊した、あれではもう戦えまい」
『あらあらもったいない、戦闘馬鹿・・・じゃなく、戦闘タイプのお姉さまと戦えるなんて、あの二人に匹敵するサンプルじゃないですか~、
回収用のガジェットを数体送りますね~』
「その必要は無い、おそらくもう仲間に回収されている筈だ、我々ももう構う必要は無い・・・・撤収するぞ」


一方的に通信を切った姉にクアットロは溜息を一つ、そして表情を一変し、つまらなそうな表情をしながら歩き出す。
「『仲間に回収されている筈』ですか・・・・アバラ数本にデバイス破壊、これだけすれば相手はただの人間、適度に痛めつければ拉致など簡単ですのに、
妙な所で甘いトーレ姉様・・・・・・・私はそんな所だけは大嫌いですわ」


姉であるトーレの強さはクアットロが一番良く知ってる、彼女もそんな強い姉の事は嫌いではない。だが、妙な所で『情け』や『フェア精神』など、
敵に塩を送る様な真似は好きになれない・・・むしろ反吐が出る。
「ドゥーエ姉様の様に、敵は敵、味方は味方ときっちり区別して殺してくれればいいのですけれどね・・・・」
誰に語りかけるわけでもない独り言をつぶやきながら、クアットロはその場からゆっくりと姿を消した。



新暦67年 地上本部・首都防衛隊の要であるゼスト隊がある調査の途中、消息を断った。
彼らが行っていたのはある『秘匿任務』、本来なら時間をかけて行う調査だったのだが、上からの突然の圧力により任務の中止も時間の問題だった。
それを怪しく感じたゼスト含む部下のクイント、メガーヌ達は調査を決行するが、その後彼らとの通信は突如途絶えた。
だが、彼らも天に見放されたわけではなかった、近くの次元世界でとある任務に当っていた時空航行艦アースラにクイントが送ったSOSメッセージが届いていたのだ。
現場に到着し、早速それぞれの役割を果そうと奮闘する魔道師達、だがPT事件や闇の書事件など、様々な事件を解決した彼らでも、
魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御AMF『ANTI MAGILINK-FIELD』、そしてそれらを駆使し質量兵器で攻撃を行なう機動兵器ガジェット、
そして魔力とは異なるエネルギーを使用する戦闘機人の前には苦戦を強いられた。


                   その結果アースラ、ゼスト隊双方の武装局員の多くが負傷


ゼスト隊の隊長『ゼスト・グランガイツ』と隊員『メガーヌ・アルピーノ』は行方不明(生き残った隊員の証言、そして施設の崩壊などから死亡の可能性が高い)


ゼスト隊隊員『クイント・ナカジマ』は意識不明の重傷、後に応援として駆けつけた湖の騎士により一命を取り留めるも、魔力を生み出すリンカーコアが消失、魔道師としての道を断たれる


アースラ所属の魔道師『フェイト・T・ハラオウン』は打撲と骨折の重傷、デバイスのバルディッシュもまた、中枢以外無事な所が無いほどに大破


そして、アースラの応援として駆けつけた魔道師『高町なのは』は意識不明の重傷、一命は取り留めるも、入院生活を余儀なくされた。



                              それから8年後


                           第61管理世界『スプールス』



ミッドチルダの様な都会とは正反対の自然に満ち溢れた管理世界、ビルや道路など人口建造物は一切なく、純粋に自然の力により生えた草木で覆われた世界
其処では動物達が何不自由なく暮らし、人間もまた、スプールスの景色や動物と触れ合うため、この世界に訪れる。
そんなスプールスの中にある自然保護区間、其処には密猟者に狙われる希少動物や絶滅危惧種が多く存在する。
無論管理局もこの行為を見過ごす事はせずに自然保護隊を編成、自然保護区間にベースキャンプを張り、常に監視を行っていた。


現在は夜の11時、ベースキャンプの側にある丸太を置いただけの簡単な椅子に一人の女性が座っていた。
自然保護隊特有の服装の上から、休暇の時に購入したコートを羽織った女性『ミラ』は白い息をはきながら夜空を見上げていた。
季節としてはこの世界は今は冬に該当する。だからこそ、この時期の見張りは体にとても堪える、だからこそ自然と手をすり合わせた後、はく息で量掌を暖める。
だがこんな寒い夜だからこそ、冬の澄んだ空気は夜空の星をより一層輝かせてくれる。見慣れた人物でもこの景色には見惚れてしまう、ミラもまたその一人だった
「また星か・・・まぁ、気持ちはわかるけどね」
そんな彼女の後ろから二つのコーヒーカップを持った男性が歩いてくる、男性『タント』はミラの隣に座り、適度に砂糖が入ったコーヒーが満たされたカップを渡す。
彼女は軽くお礼を言った後、コーヒーを受取り早速口にした。コーヒーの温かさが体に染み渡り冷えた体を温めてくれる。
「・・・・・キャロもこの星を見てるのかなって思ってね・・・・・元気にしてるかしら?」
「まったく、最近手紙を貰ったばかりだろ?優しい上司や先輩と一緒に頑張ってるって、まぁ星に関しては否定するけどね、
此処より星が綺麗に見える次元世界なんて、早々見つかるもんじゃないさ・・・・・おっ、流れ星」
タントの言葉に、ミラはカップから口を離し空を見上げる。だが既に流れ星は流れた後、空には変らない満開の星空
だが直ぐに新たな流れ星は現われた。ミラは即座に願いを呟く、『キャロが元気でありますように』と・・・・・・だが
「・・・・おい、おかしくないか?」
一番最初に気が付いたのはタントだった、ミラが願いをかなえた流れ星、だがそれは消える事無く徐々に近づいてくる・・・・・・そして
「「うそ」」
二人の声が重なると同時に、その流れ星はベースキャンプの近くに落下した。



「・・・・・隕石かしら?」
「隕石だったらここら一帯はクレーターだ、動物は無論、俺達も無事じゃすまないさ」
「そうよね、落下の割にはたいした音も衝撃も無かったし、だったら人口物?密猟者の襲撃?」
「わからない・・・もうすぐ落下地点だ・・・気をつけろ」


隕石落下を目撃した二人は即座にベースキャンプの仲間に報告、そして直ぐに仲間数名を引き連れ調査に向かった。
悪戯、密猟者の仕業、謎の宇宙人、仲間の間では様々な憶測が飛び交うが、どれも予測であるため当てには出来ない。
だが隕石で無い以上、人口物の可能性が高い。誰かの悪戯で済めばいいが、こんな所で悪戯などをしても何の意味も無い。


「周囲の状況は?」
「放射線や有害残留物は一切関知されてないわ・・・・あるのは熱源・・・・温度からして生物のようね・・・でも一つだけ」
「そうか・・・・皆、・最悪戦闘になるかもしれない、気を引き締めて」
タントの言葉に皆自身の武器を持つ手に力をこめる。此処にいる全員は今まで戦闘などほとんど行ったことは無い、
無論密猟者とのいざこざもあったが、殆どの場合管理局がバックに付いている自分達を見た瞬間、さしたる抵抗もせずに捕まるため、打ち合いなどの戦闘は殆ど無かった
だが今回は違う、相手は得体の知れない何かだ、密猟者とはわけが違う。
緊張からか、冬にも関わらず誰もが冷や汗を掻き、静けさから生唾を飲み込む音が大きく聞こえる。
そして、先頭のタントが立ち止まり後ろにいるミラ達に目を合わせる、それは『行くぞ』という意味を込めた視線
その視線に全員が頷き同意を示す、それを確認したタントは何度目かになる生唾を飲み込んだ後、目の前の茂みをそっと掻き分けた。


「・・・・傀儡兵か?」
第一目撃者であるタントが、落下物を見たときに口にした最初の言葉だった。
大きさからして一メートル強、白を強調した西洋の甲冑のような物を着た傀儡兵の様な物体が横たわっていた。
一度大声で呼んでみるがピクリとも動かない、試しにゆっくりとにじり寄り、デバイスの切っ先で突っついて見るがやはり反応はしなかった。
「(何だ?・・・・・機能が停止しているのか?)」
内心でつぶやきながらも目の前の物体を警戒しながら手招きをし、後ろで待機しているミラ達を呼んだ。


「傀儡兵・・・ではないようね、体温もあるし、生物みたいよ?」
「だが、見たことが無いな・・・・・こんな生き物、鎧の様な物を着ているから知性はあるようだが」


改めて周囲を確認したが、見つかったのは見たことの無い生物。失礼だとは思いながらも体を彼方此方触ってみると、
手や頬に当たる部分など、人肌の様な温かく柔らかい部分もあった。
そして口の様な部分からは息を吸ったり吐いたりする行為も見受けられる事から、
目の前の物体が『物』ではなく『者』だという事が結論付けられ、今は簡易の担架で寝かされている。
「管理局に問い合わせてみる必要があるわね・・・・・・見たことの無い知性のある生物である以上、次元漂流者の可能性もあるわ」
「わかった、だがもう夜も遅い、今夜はやめて明日にしよう・・・・・引き上げた!」
タントの合図で皆がその場から引き上げる、誰もが戦闘が起こらなかった事への安心感に満たされていた。
緊張からか全員が激務を終えたかのように疲れた顔をし、体を引きずる様にベースキャンプへと進む。
そんな中、ミラは担架で運ばれてる者へと改めて目を向けた。
見たことの無い生物、このような職についている以上興味がないと言えば嘘になる、
だからこそ、改めて眠っている彼『バーサルナイトガンダム』を見据え、小さく呟いた。
「・・・まるで騎士ね・・・目覚めても騎士らしく紳士であればいいけどね」



                        ほぼ同時刻


「・・・・・疲れた・・・・」
表情からして『もう疲れて動けません』と言いたげな表情をした女性が夜道を歩いていた。
女性用のスーツを見事に着こなした美女、すれ違う男性は通り過ぎた彼女の容姿を再び見ようと振り返る。
だが、当の女性はそんな男達を無視し、真っ直ぐに家へと歩みを進めていた、疲れた表情で
「・・・まったく・・・・毎度毎度あんな・・・・脳味噌と顔を合わせていると・・・・精神が参るわ」
彼女の呟きは決して冗談ではない、現に彼女は主に3つの脳味噌『管理局最高評議会』の世話的な役割を行っている。
だが常にメディカルチェックや情報管理、それらを脳が入った3つのカプセルの前で行っているため、主に体力よりも精神的な疲れが大きかった。
否、もしかしたら体力的な疲れもあるかもしれない、だが彼女には・・・・戦闘機人No.2『ドゥーエ』にとっては常人の疲れなど感じるほどの事でもない。
だが、元を正せば人間であるため、メンタル面までは戦闘機人といえども限界があった。
「家に帰ったら・・・・・部屋の掃除・・・・溜まった洗濯物・・・・ウーノに提出するレポート・・・・脳味噌達のメディカルチェックの結果・・・・・・地獄だわ」
考えるだけでも鬱になる、これではせっかく貰った休みも潰れれうだろう・・・・だが、どれも逃げることが出来ない物ばかり、
観念したかのように大きく溜息をついた後、歩みを速める、。少し手も家に早く付き、少しでも自由な時間を手に入れたいから。
そんな時であった、進路上右側に人だかりが出来ているのを見つけたのは


「人だかり?あそこは確か湖・・・・・だれか溺死でもしたのかしら?」
物騒な事を呟きながらも、どうせ通る道なのだと内心で自分自身に理由をつけたドゥーエは、人ごみの中へと足を踏み入れた。
人を書き分け、皆が注目する所を除く、其処で彼女が見たのは、局員と思われる人物数名が何かを調査している姿、
だが周囲には特に変った所は無い、何気なく自身の知覚器官を使用してみるが特に目立った所は無かった。
それでも局員がこうまでして調査を行っているのだ、何かあった筈、ためしに近くにいる男性に聞いてみることにした。
「すみません、此処で何かあったのですか?」
「あっ・・・・ああ、なんでも隕石が落ちたらしいですよ」
突然美女に話しかけられた男性は顔を真っ赤にし戸惑いながらも、此処で起こったことを話し始めた。
今から約1時間前、光の弾が此処に落ちた事、自分を含めた数名がいち早く現場にたどり着いたが、其処には何も無かった事、
ただの悪戯にしては手がこんでいるため、一応管理局が調査をしている事、男性はそれらを簡潔にまとめ、ドゥーエに説明をした。
「そうですか・・・おそらく悪戯でしょうね、ありがとうございます」
自分の知覚センサーにも全く反応は無かった、おそらく暇人による悪戯だろう。
そう結論付けたドゥーエは丁重にお礼を言い、その場から立ち去った。

人ごみを離れてから数分、もう直ぐ自分のマンションに付く距離まで差し掛かった時、突如近くの茂みから物音が聞こえた。
その音はゆっくりとこちらに近づいてくる、この辺りは住宅街なども無いため、その音は嫌でも大きく聞こえる。
「・・・はぁ、またかしら?」

ドゥーエは以前にもこのような自体に遭遇した事がある、その時現われたのは連続強姦魔であり、自分を強姦しようと襲い掛かってきた。
がたいの良い男のため、普通の女性ならさしたる抵抗も出来ずに犯されていただろう、だが相手が悪かった。
その男は翌日、早朝ジョギングを日課としている男性に斬殺体として発見される事となり、新聞の一面を飾ることとなった。


「ふっ・・・まぁいいわ、むしろいらっしゃい。いいストレスのはけ口になるから」
自身が敵と決め付ける時に見せる冷酷な表情で茂みを睨みつける、自然と舌なめずりをし、襲い掛かって来るであろう獲物を待ち構える
骨を片っ端から折ってやろうか、ピアシックネイルで切り刻んでやろうか、現われるであろう外的をどう料理するかを嬉しそうに考えながら獲物が来るのを待つ
そして、等々茂みから音の正体が現われた・・・だが、茂みを掻き分け出て来たのは、強姦魔でもなければ変態でもなかった。
出て来たのは一メートル位の物体、傀儡兵に見えなくも無いが、知覚センサーで見る限りでは生物らしい。だが、このような生物は全く見たことが無い
全身ずぶ濡れのその生物は、ゆっくりとドゥーエの前まで歩く。意外な生物の出現に一瞬呆気に取られたが、直ぐに気持ちを切り替え、
何者か聞こうと口を開く、だがそれと同時にその生物は力尽き、ゆっくりと地面に倒れた。
「・・・・・さて、どうしましょうか?」
目の前で倒れている生物、無論そのまま無視して帰るのが利口だ、さっそくその考えを実行しようとするが、ふと考えてみる
この生物は今まで見たことが無い、下手をすれば新種の可能性もある、もしかしたらあの隕石騒ぎの犯人はコイツかもしれない
「もしかしたらドクターですら知らない生物かもしれないわね・・・・・・このまま見捨てるのは勿体無いか、それに何気に可愛いじゃない」
そう結論付けたドゥーエは、一度周囲を確認した後その生物を背負い、自身のマンション目指して再び歩み始めた。



                          ほぼ同時刻


                         とある無人世界


それは兵器だった、遥か昔、王の武器として戦場を駆け巡り、自らが手を下した相手を自身の分身に、王の兵に作り変えた。
屍兵器と呼ばれた彼女達は戦場を自分達色に染め上げ、王の力を、そして自分達『マリアージュ』の力を敵に見せ付けていた。
だがそれも、突如現われた光の騎士により自分達マリアージュは全滅させられてしまう。
圧倒的な力の前に、無敵を誇っていた屍兵器は余りにも無力だった。
だが、全てが絶滅したわけではなかった、古代ベルカ・ガレアの王『イクスヴェリア』の側近の一人が、
無断で軍団長クラスのマリアージュを一体保存していたのだ。それは王のためではなく、自身の野心を実現する時の駒として利用するため、
だが、その側近の謀反は直ぐに発覚。結果、自身が保存したものと同型の軍団長クラスのマリアージュによって、
屍兵器の一体となる末路を辿ってしまい、光の騎士に消されてしまった・・・・・保存されたマリアージュをそのままにして。


だが遥かな時が過ぎ、マリアージュは突如目覚めた、自身の創造主であるイクスヴェリアの目覚めと共に。
彼女は探す、創造主であるイクスヴェリアを、自身と同じ軍団長クラスのマリアージュを生み出してもらうために・・・そしてその命を奪うために。
彼女の中では戦いは終わっていなかった、味方は主である側近のみ、それ以外は全てが敵、当時のベルカの戦を戦っていた魔道師や兵を同じ思考を今でも持っている。
だからこそ、謀反を起こそうとした側近が入力した命令も変る事は無かった、『イクスヴェリアの抹殺』という使命も忘れてはいなかった。


その使命の遂行はすぐにでも実行できる筈だった、自分が目覚めたのは本来は無人世界だったが其処は次元犯罪人に労働をさせる施設がある世界だった、
そのため犯罪者とはいえ人間のも多くいた・・・・目の前に材料がある以上、マリアージュのやることは決まっていた。
目に付く人間を殺し同じマリアージュにするという古代ベルカ時代では日常的に起こっていた行為。
結果、さしたる苦労もせずに数十対の兵隊マリアージュを手にすることが出来た。


そして、何処かの世界で目覚めたであろうイクスヴェリアを探すべく、多次元へと渡ろうとした・・・・・その時である、
突如時空を裂く様に現われた流れ星がマリアージュ達の近くに落下したのは。
「・・・・・索敵」
突然の出来事、普通の人間なら驚く事態も、マリアージュ達は冷静に現状を分析、直ぐに今後の行動選択に入る。
分析の結果、落下したのは魔力、体温からして何かしらの生物、だが人間で無い以上自分達マリアージュとして使用するのは不可能
そうなると限られた選択肢は少ない、否、一つしかない『組しない物は全てが抹殺対象』
「・・・・結論、対象の抹殺・・・・」
軍団長の呟きに、落下地点に一番近いマリアージュが攻撃を開始する、それぞれが両腕を刀や槍などに武装化し、落下してきたアンノウンへと攻撃を仕掛ける。
完璧な先制攻撃、直ぐに決着は付くだろう・・・・軍団長はそう考えていた。だが、その考えが間違っている事に彼女は気が付く、それ程時間を要せずに


「ふっ、早々面白い歓迎をしてくれるな、この世界は」
勝負は直ぐについた、マリアージュ達の完全な敗北と言う形で。
マリアージュは行動不能になると燃焼液に変化し自爆するという特性がある、だから死体等は残らない
今この場にいるのはアンノウンと、アンノウンに行動不能ギリギリまで痛めつけられ、今は首を握りつぶすかの勢いで掴まれている軍団長マリアージュのみ
今正に行動不能に陥りそうなマリアージュですら、何が起こったのかが理解できなかった。全ては一瞬、強大な魔力により先行していたマリアージュは蒸発
残りも吹き飛ばされ、切り裂かれ、焼かれ、潰された。
このまま使命を達成せずに終るのか・・・・マリアージュの中では既に結論が出ていた、だが、アンノウンの言葉が、彼女に別の選択肢を与える。
「さて・・・ふざけた歓迎の礼はせねばならんが・・・・・気が変った・・・貴様、我の下僕となれ」
突然のアンノウンの提案に、マリアージュは思考する
現状で勝てる可能性は0%、このまま機能停止するよりは、目の前のアンノウンの仮の部下となり行動を共にする方がまだ可能性はある。
「私にも使命があります・・・・・古代ベルカ・ガレアの王・イクスヴェリアの抹殺、その使命を破棄する事は出来ません」
「好きにしろ、我には興味はない。駒として貴様らを使えればそれで良い・・・・」
話は終わりといわんばかりにマリアージュを放す。突然戒めを解かれたため、尻餅をつき倒れるが、直ぐに立ち上がり破損した部分の自己修復を開始しようとする。
だが、それよ早くアンノウンは回復魔法『ミディアム』を施し、一瞬で彼女の怪我を完治させた。
「モタモタするな・・・・先ずは現状と此処が何処かを知りたい、教えろ」
「了解しました、ですが先ずは貴方を仮の主と認定、貴方の命令を聞く様にマリアージュの行動設定を変更しておきます・・・・・貴方のお名前をお聞かせください」
「名前か・・・・・・ふっ、奴が欠けている今の我では『神』とは名乗れんな・・・」
マリアージュを見据えアンノウンは叫ぶ、自身の名を、他次元世界にまで響くかの様に


                       「我が名は魔王!サタンガンダム!!」

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最終更新:2009年11月23日 10:00