魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

 

最終話

 

診断の結果から、ナイトガンダムはただの疲れによる過労だという事がわかった。
その程度ならと、クロノは月村家で療養したらどうたと進めたが、ナイトガンダムはその申し出を断る。
そして、急に電子スピアがどうなったのかをクロノに尋ねてきた。
自分の記憶が正しければ、あの戦いの時に握りつぶされ、破片諸共封鎖結果以内に置きっ放しだった筈、
おそらく局員の人達が処分してしまったのだろうと諦めてはいたが、答えは思いがけない物であった。
「電磁スピア?・・・ああ、君が持っていたスピアか。あれなら局員が回収したよ、バラバラで、此処では修復は無理だったから先に本局の方に転送して送っておいた。
元の形に戻すことは直ぐに出来るらしいけど、ここでは見かけない魔法的な処置が施されているから、完全には無理らしい。
ちなみに君のスピアなんだが、いっそ僕達のデバイスの様に改造してみてはどうかと修理を担当した本局メンテナンススタッフが提案しているんだが・・・どうだろう?」
「・・・・・申し訳ないけど、改造はやめて欲しい。おそらく私には使いこなせないだろうから、できれば直ぐにでも欲しいのだが・・・無理かな?」
「いや、問題ないよ。直ぐにでも転送できる。でもアースラも今本局に向かってるから、それまで休んでいたらどうだい?後数時間位で着くから
それまで眠っているといいよ。地球についたら説明とかで色々ゆっくりは出来ないだろ?」
確かにクロノの言う通り、地球についても説明などでゆっくり出来ない可能性は高い。
「(それに・・・考えたい事もある・・・)ああ、お願いするよ」
ナイトガンダムはクロノの行為に甘えることにした。

 

「・・・・クロノ執務官・・・・・聞きたいことがある」
お手本の様に規則正しく歩く二人、ただ靴音だけがやけに煩く響く。
向かう先はそれぞれ違う、クロノはブリッジへ、リインフォースは転送装置室へ
途中まで道は一緒だったので、リインフォースは主や自分達の今後の事について色々と聞くことにした。
「保護観察処分という決定は既に出ている。あとは君達したいだね」
「そうか・・・・色々手を回してくれたのだろう?本当にすまない」
「何、僕はただありのままを言っただけさ・・・・・それより、気付いたかい?」
その意味をリインフォースは直ぐに理解した。同時に、自分の考えが思い過ごしではない事に確信を得た。
自然と足を止める二人、そしてほぼ同時に先ほどほどまでいた部屋、ナイトガンダムの病室に目をやる。
「彼は何か隠している・・・・・・自分では隠し通せているつもりだろうが、彼はそういう行為は下手の様だ」
「ナイトガンダムとの付き合いは君達よりは長いから分かるよ、嘘をつくことに異常に罪悪感を感じているから・・・・・・誰が見てもわかる。
問いただせば直ぐにでもボロを出すだろう、だけど彼が嘘までついて何かを隠すという事は、よほど重要なことなのだと思う。
なら待つしかないさ・・・・・彼が本当の事をいってくれるまで」

 

数時間後、アースラは本局に着き、乗務員がせわしなく動き回る。
ナイトガンダムはそんな彼らの邪魔にならない様に人ごみを避け、クロノから教えられたメンテナンスルームへと向かう。
事前に手続きなどをしていてくれたのだろう、眼鏡をかけた少女から難無く電子スピアを受取りお礼を言った後、直ぐに転送装置室へと足を運ぶ。
既に転送装置室までの道順は頭に入っているため、迷う事無く進むことができた。
すれ違う局員に挨拶をしながら順調に進む。すると、前方から見た事のある人物が近づいてきた。
服装はリンディ達が着ている管理局の制服の色違い、茶色の制服を身に纏った紫の髪の女性
両腕には彼女と同じ髪の毛を持った赤ん坊がすやすやと眠っている。
「・・・・・・・・」
その光景を見たナイトガンダムは、赤ん坊を起こしてはいけないと思い、声をかけるのを躊躇うが、
彼が声をかけようとした、女性『メガーヌ・アルピーノ』は、目が合った瞬間微笑み、こちらへと近づいてきた。
「こんにちは、ガンダムさん、倒れたってクイントから聞いたけど、もう大丈夫なの?」
「はい、ご心配をおかけしました・・・・・・・その赤ん坊は、メガーヌ殿の?」
両手で抱えている赤ん坊を見つめ尋ねる。声を小さくして話しているのは起こさないための自分なりの配慮。
「ええ、私の娘、任務の時は本局の託児所で預かってもらってるの。私、預かってくれる親戚とかいないし、
地上本部じゃチャイルドマインダー所か託児施設も満足に無いから」
すやすやと眠るわが子を優しい瞳で見つめる、小声での会話が功をそうしたのか、赤ん坊は起きずに眠っていた。
「よく眠っているわ・・・・・・・そうだ、よかったら抱いてみる?」
「えっ!?・・・・・ですが私ではこの子を起こしてしまうのでは」
メガーヌの申し出は是非受けてみたかったが、赤ん坊を抱くという経験は全くしたことがない。
安らかに眠っているこの子を起こしてしまうのではないかと思うと、その申し出を受けることを遠慮してしまう。だが、
笑顔で赤ん坊を差し出すメガーヌに、ナイトガンダムは自然を体を動かし、赤ん坊を受取った。
母親から自分の手に渡っても、泣く事はせずに眠る赤ん坊、その姿にナイトガンダムは自然と笑みを浮かべると同時に思う。

 

間違いなく、あの戦いの舞台であった海鳴市にもこの子の様な赤ん坊はいただろう、自分はそんな小さな命を
そして、平和に暮らす人達を皆と一緒に守ることが出来た。本当に良かったと思う、そして力を貸してくれた皆に改めて感謝をする。

 

「本当に良く眠っている・・・・そういえば、この子はなんと言う名前なのですか?」
メガーヌはしゃがみ、ナイトガンダムが抱きかかえている我が子の頭を優しく撫でる、
我が子を心から愛おしく思うその表情に、自然と心が安らぐ気がする。
「・・・・・・・・この子の名前はね、ルーテシア、ルーテシア・アルピーノ、私の自慢の娘よ」

 

おそらく時間にして30分程度だっただろう、ルーテシアをメガーヌに返したナイトガンダムは、改めて今回の件のお礼を述べた。
そして出来れば他のゼスト隊の皆にもお礼が言いたいと頼んだのだが
「ごめんなさい、皆地上・・・ミッドチルダでのテロ事件の捜査に当たってるわ、私は特別に休暇をもらったからいるだけ、
ああ、クイントなら私と一緒に休暇を貰っている筈だからいると思う、呼んでみましょうか?」
「いえ、せっかくの休暇です、わざわざお呼び立てするのは申し訳ありません」
「そう?わかったわ。君がお礼を言っていたって事は隊の全員に伝えとくから、それじゃあね」
軽く手を振るメガーヌにナイトガンダムは深々と頭を下げ彼女を見送る。
そして姿が見えなくなったのを確認した後、再び転送装置室へと歩み始めた。

 

何事も無く順調に進み最後の角を曲がる。
「転送装置室・・・・・ここだ間違いない」
道が間違ってなかった事にホッとし、早速中に入ろうとしたその時、突然後ろから衝撃を受けた。
「!!?」
ビックリはしたものの、衝撃といっても吹き飛ばされたりダメージを負ったりすほどの物ではない。
精々何かに軽く叩かれた程度、一瞬何事かと思ったが、
「がんだむさ~ん!!」
その聞き覚えのある声で直ぐに誰だか分かった。
「こ・・こらスバル!!いきなり抱きついたらびっくりするでしょ?」
ナイトガンダムに抱きついた少女、スバルを姉であるギンガが慌てながら注意する。
後ろを向くと、其処にはニコニコ笑顔を絶やさないスバルと、走ってこちらに近づくギンガ、
その後ろをスバル同様ニコニコしながら近づいてくるクイント。
その組み合わせから、おそらくスバル達の体調検査なんだろうと直ぐに理解し、挨拶と感謝の意味を込め、深々と頭を下げた。
「あの時はありがとうございました・・・・・私だけではなく、皆さんも助けていただいて」
「そんなにかしこまらいで、困った時はお互い様でしょ?これから帰るの?」
その問いに、ナイトガンダムは自然と頷くが、ギンガは目に見えて慌てた。
理由は間違いなく今ナイトガンダムにすがり付いてるスバルだ。
以前も帰ろうとしたナイトガンダムと遊びたいため、母であるクイントを出し抜いてついて行ったことがある。
あの時は本当に楽しかった・・・・・・・同時にあの後の母のお説教は本当に怖かった。
だが、スバルも考えてはいるのだろう、今回はあの時の様に内緒話などは無論、『遊ぼうよ』などという我侭は言わなかった。
無論スバルもナイトガンダムと遊びたい気持ちで一杯ではあったが、これから帰ろうとする彼を引き止めようとはしなかった。
「(お母さんが言ってた、ガンダムさんは凄く疲れているって)」
スバルは仕事から帰ってきたクイントから、どんな事をしてきたのかを聞く事が日課となっていた。
今の彼女は、母であるクイントが管理局員と言うより『悪い人達をやっつける正義の味方』と思っており、そんな母から聞く武勇伝を何時も楽しみにしていた。
(当のクイントは、デスクワークなどで仕事が終った時は、帰り道でスバルに話すフィクション武勇伝を悶々と考えていたりと結構大変な思いをしてる)
無論、今回の闇の書事件に関しても色々と聞いており、ナイトガンダムが事件を解決に導いたことも聞いていた。
だからこそ、事件解決で疲れているであろうナイトガンダムと遊ぶことも我慢する、大好きなガンダムにはゆっくり休んでもらいたらだ。
それでも、約束だけだならしてもいいだろうと思う。約束だけなら怒られないし、迷惑もかけることは無いから。
「ガンダムさん!今度、また一緒に遊ぼうね!!」
「うん、今度は家に来て!」
彼のことだ、笑顔で「いいよ」と言ってくれるに違いないと・・・・・・・だが、帰ってきたのは沈黙。笑顔ではなく申し訳無さそうな表情、そして
「・・・・・すまない、もう、君達と遊ぶ事は・・・出来ないんだ」
スバルやギンガは無論、クイントすら予想しなかった答えが返ってきた。

 

意識を失った時に見た真っ白な光に包まれた空間、
「っ!!!?誰だ!!!」
あの時、気配を感じ振り向いた・・・・・・其処には自分がいた。
否、顔は自分にそっくりだか、黄金色の鎧を身に纏ったMS族
彼は何もせずにジッと自分を見ている。だが、それだけで自分は何も出来ない。
金縛り?否、その視線、それだけで自分は何も出来ずに固まってしまう、感じる各の違い・・・・・いや、それ以前の問題だろう。
『帰るときが来た』
何もいえない、「誰だ?」「何者だ?」「此処は何処だ?」一切の質問が出来ない。
この場の空気、そして彼の目線が自分が喋る事を許さないでいる。
『スダ・ドアカワールドへ渡るであろう脅威は排除した・・・・・・此処にいる目的は無い』
何を言っているのか理解できない。だが、そんなナイトガンダムを無視して話は進む。
『この世界へは・・・まだ来る時ではない・・・・・・・答えを出すには・・・・・・まだ多少時間がある』
「っ!!、こ・・・答えとは何だ!?それ以前に、君は何者だ!!?」
口が震える・・・・この恐怖が圧倒的な力の差を思い知らされる・・・それでもどうにか口に出来た質問、
だか、ナイトガンダムの質問に答える事無く、その黄金の騎士は話し続ける。
『悪は滅んではいない・・・・・・邪悪な意思がスダ・ドアカワールドを飲み込もうとしている。
真悪参・・・・・いや、ラクロアの勇者よ・・・・・・・帰るのだ・・・・ラクロアへ・・・・・石版が導いてくれるだろう』

 

夢は其処で終った、その夢で聞いた内容はとても無視できるものではない、その証拠に石版からも力の放出を感じる。
それは自分が見た夢が妄想ではなく、あの黄金の騎士からのお告げであったこと、そしてスダ・ドアカワールドに危機が迫っている事。
そして、自分は一刻も早く帰らなければいけないことを意味していた。

 

「・・・・どうして・・・・」
ナイトガンダムの説明を聞いた後、真っ先に口を開いたのはギンガだった。スバルの様に体当たりなどの積極的なスキンシップはしないが、
彼女もナイトガンダムと遊ぶ事を楽しみにしていた。
だが、彼が口にしたのは拒否の言葉、それも『今日は』『今は』という決まった時間ではない、
『もう、遊ぶ事ができない』それはこれからもずっと、ナイトガンダムと遊べないとこを意味する。
なぜそんな事をいうのだろう・・・・・・・私たちが嫌いになった・・・・・・

 

               『可愛い顔しても、やっぱり化物よね』

 

そうだ・・・・・私やスバルは人間じゃない・・・・・・作られた化物・・・・・・だから嫌われるんだ。

 

それは、ほんの数日前の出来事
「このデータの結果見た?魔力の保護なしでこの数値・・・・これでも子供なのよ」
「まぁ、見た目は子供でも、中身は犯罪者並に危険だからな・・・・・・まったく面倒な物を押し付けられたもんだ」
「まったくよ・・・・可愛い顔しても、やっぱり化物よね・・・・・・怖い怖い」

 

ギンガは信じられなかった。この話をしているのが、先ほどまで自分達に笑顔でやさしく接してくれていた人達と同一人物だという事が。
本当なら、忘れ物のリボンを取りに来ただけで終る筈だった。だが、部屋の奥から聞こえる話し声に、自然と耳を傾けてしまった。
職員達はギンガに気付く事無く本音を言い続ける・・・・・・笑いながら、楽しそうに。
その後、自分がどのような行動を取ったのかのかは憶えていない。気が付いたときには、トイレの個室で泣いていた。
心を落ち着かせ、涙を拭き待っている母親の元へともどったか、クイントは直ぐにギンガの異変に気が付いた。

 

その後、今まで担当していた局員はいなくなり、今は『マリエル・アテンザ』という人が担当している。
だが、担当者が変わったとは言え、あの時の言葉は今でも自分に重く圧し掛かっている。
そして、自然と考えるようになっていた『化物である私達は・・・いつか捨てられるんじゃないか』と。

 

「どうして帰っちゃうの!!!私達が・・・・・・私達が人間じゃないから!!化物だから!!!だから嫌う(ギンガ!!」
ナイトガンダムもそうに決まっている、だから『もう、遊ぶ事ができない』と言ったに違いない。
だが、すべてを言い切る前に、ナイトガンダムの怒声が響き渡った。
目を閉じ、体を震わせ言葉を詰まらせる、そして恐る恐る目を開けると、其処には明らかに怒っているナイトガンダムが自分を
真っ直に見つめている、そして、おもむろに手を伸ばしてきた。
その表情から、「打たれるのではないか?」という恐怖が体を襲い、体をこわばらせ目を瞑るが、その手はギンガの頭に
優しく乗せられ、ゆっくりと、落ち着かせるように彼女の頭を撫でた。
「・・・確かに、君やスバルは普通の女の子じゃない、それは認めなくちゃいけない事だ。
だけど、それが原因で他者が不幸になることも、そして君達姉妹が不幸になることは決してない」
頭を撫でながら、ナイトガンダムはギンガに語りかける。
優しい口調、そして掌の温かさがギンガの心をゆっくりと落ち着かせる。
「それでも、君達の事を蔑む人はいるだろう、化物と言う人もいるだろう・・・・・・だけどね、気にする必要は無いんだ。
君達は特別な力を持ってはいるけど、化物なんかでは決して無い。君達は、優しく、暖かな心を持った女の子だ。
母であるクイント殿を慕い、皆に笑顔を振りまき、私との別れを惜しんで涙を流してくれる、それらの行為はね、優しく暖かな心を持っていないと出来ない事なんだ」
「でも・・・・・私達は・・・・戦闘機人で・・・こんな怖い力を持ってる・・・・・」
普段は笑顔を振りまいているスバルも、自分に備わっている力を怖いと感じてはいた。
そしてこの力が、いつかは人を傷つけてしまうのではないかと恐怖し、震えることもあった。
ナイトガンダムはスバルの元へと近づき跪く、そしてギンガと同じく頭に掌を乗せ、ゆっくりと話し出す。
「いいかい、力というのは、確かに物を壊したり、相手を傷つけたりなどに使われる、だけどね、その力で大切な人を助ける事も出来る。
瓦礫を破壊し道を作ってあげたり、悪人を懲らしめ皆の平和を守ったり。
君やギンガなら、その持っている力を皆の平和と幸せに、そして大切な人を守るために使えると、私は信じている
だから恐れないで欲しい、その持つ力に、そして自分自身に」

 

「・・・・・・ありがとう、ガンダムさん」
スバルとギンガが検査用のポットの中に入った後、クイントは唐突にナイトガンダムにお礼をいった。
彼としては何故お礼を言われるのかが理解できなかったか、その理由をクイントはポツリポツリと話し出す。
「・・・・私、あの子達の不安に気付いてあげられなかった・・・・・・あの子達の笑顔を見るだけで安心しきっていた。
まったく、最低ね・・・・・母親しっか(それ以上言うのはよしてください」
静かに・・・・だが、力強い言葉に、クイントは声を詰まらせる。
「先ず、お礼は必要ありません、私はただ彼女達を励ましただけです。そして二度と言わないでください『母親失格』などと」
おそらく・・・否、間違いなく彼は怒っている。理由など直ぐにわかる、馬鹿なことを言った自分へ対する怒りだろう。
「悔やむ事は何時でも出来ます。ですが、それで自分の価値を決め付けるのはいけない事です。クイント殿、貴方は間違いなく
彼女達の母親です、あの子達に対して申し訳なく思っている、それが何よりの証拠です」
ギンガやスバルとの会話で感じてはいたが、いざ自分となると改めて感じる事が出来る。
彼には、ナイトガンダムには相手を安心させる何かがある・・・・・それは言葉ではどうにも言い表せない。
ただいえる事は、不安になった心を安らかに、そして安心させてくれるという事だけだ。
「それに・・・・彼女達はまだ幼い・・・・これからも、自分達の事で苦しむ事はきっとある筈です。
そんな時に彼女達を支えてあげられるのは、友人、そして家族です。それを忘れないでください」
「わかったわ・・・・・ふふっ、ガンダムさんってなんだか先生みたいね」
「そんな事ないですよ」
軽くクイントの発言を否定したナイトガンダムは、話は終わりと言わんばかりに立ち上がる。
そして彼女に頭を下げた後、転送装置室に向かって歩き始めた。
「もう行くの?せめてあの子達の検査が終るまで」
歩みを止め立ち止まる。そしてゆっくりと振り向き答えた。
「既に別れは済ませました・・・・・・それに、また彼女達の悲しそうな瞳を見ると・・・決意が鈍くなってしまいますから・・・・」
再び彼女に背を向け歩き出そうとする。だが、クイントの質問はまだ終っていない。
「皆には・・・・忍さんやすずかちゃん達には話したの?帰るって」
「・・・・・・はい、既に連絡はしました」
再び立ち止まり、暫く間を空けた後しっかりと答える。だが、今度は振り向く事はなかった・・・・・まるで、顔を見られるのを避けるかの様に。

 

  • 月村家

 

月村家へと帰宅したナイトガンダムを迎えたのは、派手なクラッカーの音だった。
「「「「「メリークリスマス!!!!!」」」」」」
全員が笑顔でナイトガンダムを向かえる、そして、呆然とするナイトガンダムを有無を言わさずにすずかが引っ張り、リビングへと導く。
其処は色とりどりに飾られた部屋、食欲をそそる豪華な料理、そして唯でさえ高い天井に届くほどの大きさのクリスマスツリー。
「さて、詳しい説明やら何やら色々あるけど!!今は楽しみましょ!!!」
未だに現状が理解できていないナイトガンダムにすずかが笑顔で近づき、頭に何かを被せた。
それは皆が被っているのと同じ白と赤の三角の帽子、その帽子には見覚えがあった、確かサンタクロースなる人物が被っている帽子と同じ物。
其処で初めて、ナイトガンダムは彼女達が何をしているのか理解できた。

 

『まぁ、24日は恭也といちゃ・・・じゃなくて翠屋でアルバイトだけど、25日は月村家の皆でクリスマスパーティーと洒落込みましょうか。
今年は騒ぐわよ~。なにせ二人も新しい家族が増えたんだからね~』

 

闇の書の闇との激戦、そしてリインフォースの説得、本当に色々な事があった、だが、それはすべて1日の中に起こった出来事
今日は12月25日・・・・・・・・・・あの激戦から1日しか経過していなかった。

 

その後、クリスマスパーティーとは名ばかりのどんちゃん騒ぎが数時間に渡り続き、ナイトガンダム以外の全員が
ソファーで、床で、それぞれ生きた屍と化していた。
「・・・・まったく、この様な所で寝ては風邪を引きますよ」
あのメイドの鏡といえるノエルですら、今はファリンに抱きつかれて寝息を立てている。
そんなみんなの姿に自然を笑みを溢しながらも、風邪を引かないようにと、全員に毛布をかけて回る。
ノエルとファリンに、腕を組んで眠るイレインに、シャンパンの瓶を持ち『きょうや~』と寝言を言う忍に、そして
「ガンダム・・・・さん・・・・・」
寝言で自分の名前を呼ぶすずかに、そっとかける。
正直未練はあった。あの時の忍の誘い、自分の中では答えはほぼ出ていた。
だが、あの黄金の騎士が言った事を無視する事は出来ない。
スダ・ドアカワールドに危機が迫っている以上、共に戦った仲間にも危機が訪れる筈、自分だけが平穏な暮らしをする事など出来るはずが無い。
本当なら皆には自分が帰ることを言うべきなのだ・・・・・だが言えなかった。
何度も口に出そうとした、だがそのたびに言葉を詰まらせ誤魔化してしまう。
「・・・・・別れも言えないなど・・・・・なんて意気地が無いのだろう・・・・・私は」
自己嫌悪に陥るが、帰るという決意には変わりは無い。
それに、自分が此処を去っても、彼女達の生活にはなんら変わりは無い。
自分がいなかった一ヶ月前の様に平穏な生活を送れるはずだ・・・・・・いや、イレインという新たな家族が増えたのだ、賑やかになるに違いない。
ゆっくりとリビングの入り口へと向かう、そしてドアの前で立ち止まり振り向き
「・・・・今まで・・・ありがとうございました・・・・・」
深々と頭を下げた後、リビングを後にした。

 

          ドアが静かに閉まり、沈黙が支配する・・・・だが直ぐに
                 「あの馬鹿」

 

時刻は夜の二時、辺りは暗く、そして肌寒い。
白い息をはきながら、ナイトガンダムはゆっくりと庭の中央を目指す。
足取りがとても重い、未練があることが嫌でもわかるが、歩みを止める事はない、そして中庭の中央まで来た所で歩みを止める。
「っ!?」
突如感じる殺気、ナイトガンダムは石版を落とすと同時に剣を抜き振り向く、その直後、
甲高い音と共にナイトガンダムの剣と自動人形の武器であるブレードがぶつかり合う。
「なっ!!?イレイン!!?」
自分に刃を向ける少女の名を叫ぶと同時に力任せに切り払い吹き飛ばす。
何かの冗談か、もしかしたら酔っているのではないか?などと考えるが、怒りに満ちた表情、自分を睨みつける目線
そして再び襲い掛かるという行動がその考えを否定した。
「どうして・・なぜだ!!?」
襲い掛かる斬撃をすべて斬り払い、受け流しながらナイトガンダムは叫ぶ、どうしてこのような事をするのか、
このような、あの時の様な戦いをしなければいけないのかと。
「『何故』だって・・・・・『どうして』だっで・・・・ふざけるなぁ!!」
叫ぶと当時に襲い掛かりブレードを振り下ろす。それをナイトガンダムは剣で受け止め、唾競り合いとなるが、
イレインは自動人形特有のパワーでそのまま押し込もうとする。
自慢のパワーに頼る彼女らしい攻撃、だが、そう何度も通用する物ではない。
鍔競り合いになった直後、ナイトガンダムはシールドを捨て背中に背負っている電磁スピアを取り出し
間髪いれずにイレインの鳩尾目掛けて突刺した。
今の電磁スピアには危険防止などのため、先端には非殺傷用の丸いボールがついてる、そのため
イレインの鳩尾目掛けて突き刺さった電磁スピアは、彼女を貫く事はなかった・・・だが
「げほ!?」
手加減無しに受けた電磁スピアの突き、それはイレインの機能を一瞬麻痺させるほどの衝撃を与えると同時に
彼女を吹き飛ばす。
それでも、ノエル達以上に戦闘に特化した自動人形である彼女は、飛ばされながらも直ぐに機能を回復させ体制を立て直す
そして、地面に叩きつけられることなく着地。だが
「そこまでだ」
顔をあげ、再び突撃しようとする彼女が見たのは、自分を見下ろすナイトガンダム、そして、突きつけられる剣だった。
自分を敵の様に睨みつけるイレインにナイトガンダムは素直に困惑してしまう。
だからこそ聞こうとした『なぜ、このような事をするのか』と、だが彼が口を開くより早くイレインが口を開いた
「・・・・なんで・・・何も言わないんだよ・・・・・」
その言葉の意味は直ぐに分かった、そしてナイトガンダムを動揺させるのには十分だった
目に見えて同情するナイトガンダムをイレインは蹴りで吹き飛ばす。同時に右腕に装備されている特殊武装『静かなる蛇』を
ナイトガンダムに巻きつけた。
「・・・・返すもんか・・・・暫く動けないように痺れさせ、考え直させてやる!!」
完全に巻きついた事を確認したイレインは、間髪いれずに高圧電流を流そうとする、だがその行為は二人の間に割って入った人物が
『静かなる蛇』を切断する事により、無効となった。
「っ?ノエル殿」
「ノエル!!邪魔をするな!!」
「やめなさい!イレイン!!」
二人の間に割って入ったノエルは先ずはイレインを一喝、今の生活に馴染んだ結果、ノエルに頭が上がらなくなったイレインは大きく舌打ちをした後、
ブレードを外し、地面へ放り投げた。
イレインが戦闘の意思をなくした事を確認した後、今度は体に絡まった『静かなる蛇』を解くナイトガンダムの方へと顔を向ける。そして
「ガンダム様・・・なぜ、何もいってくれないのですか」
イレインと同じ質問をぶつけた・・・・・そして
「そうね・・・私達にも教えて欲しいわ」
彼女の質問に続くように投げかけらえる問いかけの言葉、その声はイレインの後ろから聞こえる。
そして、その声を発した人物『月村忍』と『ファリン』、そして『月村すずか』がゆっくりとこちらに近づいてきた。
なぜ彼女達が此処にいるのだろう?確か眠っていた筈、イレインとの戦闘もそれ程大きな音は鳴ってはいなかった。
そうなると考えられる事は一つしかない・・・・寝たふりをしたという事だ。
「私達ね・・・・貴方が帰ることを知っていたの・・・・・クイントさんが教えてくれたわ」
「クイント殿が」
「クイントさんが君に『別れのあいさつはしたのか?』って質問に、君は『はい』って答えたらしいわね?でも、その時君は顔を見せて答えなかった。
可笑しいでしょ?君の性格な短い付き合いだけど知ってるつもりよ?よほど急いでいる時でもない限り、君ならきっちり相手の顔を見て答える筈。
それが出来ないのは、君が嘘をついてるという証拠よ・・・・・・・君、嘘が直ぐ顔に出るからね・・・・・」
忍の言う通り、自分は嘘を付く時に直ぐに顔に出てしまう、ラクロアの仲間からも指摘された事だ。
それを隠すために顔を見せなかったのだが、結果的にはばれてしまった。
「それを聞いた時、此処にいる皆は貴方に聞こうとしたわ、理由とか、いつ帰るのかとかね。
だけどね、私達は君から話してくれるだろうと思って待ってた・・・・・・・でも、君は話してくれなかった・・・・・・黙って帰ろうとした・・・・・・」
「・・・・・」
何もいうことが出来ない、自然と俯き、忍達から目をそらしてしまう。
その直後聞こえてくる足音、それは自分の目の前で止まる・・・その直後、『ゴン』という鈍い音と共に、忍の拳がナイトガンダムの兜に叩きつけられた。
「君は・・・・君は・・・・黙って私達のもとから去る様な奴だったのか!?別れの言葉を言うほどの価値の無い連中だったの(そんな事はありません!!」
さすがにその言葉には黙っている事ができなかった。自然と顔を上げ、忍を見据える・・・・・・彼女の瞳からは涙がこぼれていた。
だか、高ぶった感情が様々な思いより先に言葉として口に出る。
「最初は、身後も左も分からない私を保護してくれ、衣食住を与えてくださった貴方達を親切な方々としか思ってはいませんでした。
ですが、貴方達と共に生活して行くうちに、それらでは得られない暖かさを私はもらう事が出来た。そして自分も皆と共に暮らしたいと思うようになりました。
そんな時に忍殿、貴方は言ってくださった『私達の家族としてこの家で暮らさないか』と、その申し出がどれ程嬉しかったことか、
ですが、私がいた世界、スダ・ドアカワールドの危機を知ってしまった・・・・・あそこには苦楽を共にした友がいる、彼らの危機を無視することは出来ません。
もう戻って来れる事など出来ないかもしれない・・・・・・別れなど言ってしまったら・・・・黙っていかなければ・・・決意が鈍ってしまう!」
忍を含め、これほど声を荒げて話すナイトガンダムを見た事は無かった。
その声を聞いただけで、忍は先ほどの発言を取り消したくなる、彼は自分達をただの他人ではなく、家族の様に思ってくれていた。
彼も苦しんでいた、そして悲しんでいた、なぜ彼の心の内を読む事が出来なかったのだろう・・・・・自分が情けなくなる、それでも
「確かに・・・私達は貴方に帰って欲しくはない!でもね、私達が望めば、それは貴方の意思を曲げる事になる。だからさ
私達は貴方を送るわ、笑顔で貴方を送る・・・・・それ位・・・・やらせてよ」
しゃがみ、自分と同じ目線で話す忍に言葉が出ず、ナイトガンダムは無言になる。だがそれも数秒、自然と俯き、かすれた声で呟いた
「・・・ありが・・・とう・・・・ございます・・・・」

 

                         「いやだよ」

 

小さいが、その声は此処にいる全員に聞こえた。
そして皆が同時に声がした方へと振り向く、其処には俯き、体を震わせているすずかがいた。
「す・・・・・すずかお嬢様・・・」
その姿に、近くにいたファリンが声をかけ、近づこうとする。そして彼女の手が触れようとした時、声がはじけた
「いやだよ!!いかないでよ!!!会えなくなるなんてやだよ!!!お願いだから行かないで!!ずっと此処にいてよ!!!!」
「すずか!!落ち着きなさい!!」
「落ち着いてなんかいられない!!!ねぇガンダムさん!ガンダムさんを困らせてるって分かってる!我侭だってわかってる!それでも嫌なの!!
ガンダムさんが・・・もう・・・・・いなくなる・・・・・・なん・・・・て・・・」
途中から涙が頬を伝い、声も大声をいきなり出したためか、かれて出なくなる。
すずかの様子を伺おうとしていたファリンは無論、実の姉である忍さえ、どうしていいのか分からなくなる。
このようにすずかが感情丸出しで叫び、我侭を言った事など無かったからだ。それでも、実の姉である自分が慰めねばという思いが彼女を動かす。だが
「忍殿・・・・・私が」
動こうとする忍をナイトガンダムは制し、ゆっくりとすずかの元へと向かう。
そして、未だに俯き、泣き続けるすずかの目の前で止まると、優しく彼女を抱きしめた。
「・・・すずか・・・・すまない・・・・」
突然抱きしめられた事に驚きはしたものの、相手がナイトガンダムという事、そして彼から感じる暖かさが心地良い為、自然と身を任せてしまう。
「君が涙し、悲しむのは私が原因だ・・・・・許して欲しいとは思わない・・・・それでも、私は行かなければならない、スダ・ドアカワールドの、仲間の危機を救うために」
抱きしめられながら優しく頭を撫でられる、それだけで高ぶっていた感情が落ち着きを取り戻し、心が少しずつ穏やかになる
「・・・・そして、ありがとう私のために泣いてくれて、私に行くなと言ってくれて、私は本当に幸せだ・・・・・だから・・・・その思いの甘えようと思う」
その言葉に、すずかは「えっ?」と呟きながら俯いていた顔を上げる、ナイトガンダムは確かに言った「その思いに甘えよう」と。
「スダ・ドアカワールドの脅威が去った時、私は此処へともどって来る。正直何時になるかは分からない、方法も今は分からない、だが信じて待っていてほしい・・・・・駄目かな?」
何を言ってるのだろう?そんなの答えは決まっている。
ナイトガンダムから離れ、瞳にたまった涙を拭く、こんなみっともない顔で返事など出来ない、この答えは笑顔で言いたい。
「・・・ガンダムさん・・・・私は・・・・・私達は待ってる、貴方の帰りを・・・・だから、いってらっしゃい」
「いってきます、すずか」
これは永遠の別れではない、暫しの別れ、だから笑顔で言う事が出来る、だがら笑顔で送ることが出来る。
「ガンダム君、月村家の庭師は君一人だからね、今後雇う予定は無いから、早く帰ってこないと仕事がたまるぞ」
親指を立て、ウィンクをしながら見送る忍。
「ガンダム様、何時帰って来てもいい様にお部屋の掃除は常にしておきます、おきをつけて」
「ガンダム様の家は此処なんですからね、早く我が家に帰ってきてくださいね」
ノエルとファリン、それぞれの送る言葉に、ナイトガンダムは深々と頭を下げるそして、残ったイレインの方へと顔を向けた
未だに納得してはいないのだろう、頭をかきながらそっぽを向き、ナイトガンダムと視線を合わせようとはしない。
「イレイ(帰ってこいよ・・・・」
ナイトガンダムの言葉を遮り、イレインは呟く、そして振り向きヤケクソ気味に叫んだ。
「私は・・・・あんたの専属メイドってことになってるんだ!!・・・・だから早く帰ってこいよ!
使える主人がいないと・・・・その・・・・仕事がないからな!!って、忍!腹抱えて笑うな!ノエル!微笑ましく私を見るな!!ファリン!何録音してんだ!!」
自分を茶化す忍達を、イレインは顔を真っ赤にし、拳を振り上げ襲い掛かる。
その光景をすずかと一緒に微笑ましく見ていたその時、月村家の正門に一台のリムジンが急停車した。
停車して直ぐにリムジンのドアが勢いよく開かれ、後部座席に乗っていた人物が飛び出す。
そしてそのまま駆け足でナイトガンダム目掛けて突撃、彼との距離が約3メートルほどの距離になったところでジャンプ
そして空中で体制を整える、右足を突き出し左足を引く、それは誰が見てもキックの体制・・・・・そして
「黙って行くな馬鹿ぁああああああ!!!!!」
アリサ・バニングスは雄叫びをあげながら、ナイトガンダムに容赦の無い蹴りをかました。

 

「まったく・・・・・とにかく分かったわ、私も帰りを待ってるからね!!」
彼女が蹴りを放った後、周囲が唖然とする中攻撃は続いた、だが、どれもちらカのない拳でただ叩くだけ、
そしてその行為もそれ程続かず、最後には大泣きしてしまった。
「あらあら~ガンダム君、可愛い女子を二人も泣かすなんて・・・即地獄行きよ~」
ニヤニヤしながら見つめる忍を軽くにらみつけながら、アリサを先ずは落ち着かせる。そして
スダ・ドアカワールドに危機が迫っている事、仲間を助けたい事、そしていつかか必ず帰ってくることを話した。
それらを聞いたアリサは徐々に落ち着きを取り戻す、そして先ほどの蹴りの謝罪と同時に『話さなかった、アンタが悪い』とそっぽを向きながら自分の行動原因が
ナイトガンダムであることを指摘、そんなアリサに自然と笑みを浮かべながらも、何時もの彼女にもどってくれた事に安心し、自分のために涙を流してくれた彼女に感謝した。
「だけど、さすがにあの蹴りは私でも効いたよ・・・お転婆もいいけど、ほどほどにね」
「うっ・・・わかったわ。それと・・・・せっかくだもの・・・・これは・・・その・・・・選別よ!!」
それは一瞬の出来事、アリサは一瞬でナイトガンダムに近づき、その唇を彼の口に添える。
あまりの出来事に、ナイトガンダムは無論、その場にいる全員が固まった。
「ア・・アリサ!!?君は!!!な・・・・何を!!!」
「餞別、それにあの時助けてくれたお礼よ・・・その・・・初めてなんだからね」
今になって、自分が行った行動の大きさに気が付いたのだろう、顔を真っ赤にしそっぽを向く。
その時、すずかが恐ろしい顔でこちらを睨みつけていたが・・・・気のせいだろう・・・うん、気のせいだ。
「ふっふ~ん、すずか~、先こされ『お姉ちゃん黙って』はい、こめんなさい」
明らかに異様なオーラを出すすずかの突っ込みに忍は押し黙る、そしてそのオーラは(ナイトガンダム以外の)場の空気を一気に
重くしようと徐々に広がりを見せるが、突如現われた幾つもの転送魔法陣がその空気を断ち切った。
転送魔法陣から現われたのはなのはとフェイト、はやてとヴォルケンリッター、そしてクロノとリンディ、否それだけではない
当時に展開される広域結界、その直後、上空にはリンディが指揮を務める次元航行艦アースラが現われた。
その甲板には乗組員・武装局員が整列し一斉に敬礼、それは自分の世界を救うために旅立つナイトガンダムへの見送り、そして感謝の気持ちをを表していた。
「皆・・・どうして」
「クイントさんから聞いたのよ、君が旅立つって。それをみんなに知らせたの、そしたらクルー全員が見送りたいって言い出してね、
『闇の書の闇の破片の最終調査に向かう』って名目でアースラごと来たってこと」
「正直破片の回収は終ってるから結構無茶な事だったんだけどね・・・・・グレアム提督が色々根回しをしてくれたんだ」
クロノはゆっくりと歩み寄り、右手を差し出す、その意味を直ぐに理解したナイトガンダムは、右手でしっかりと彼の手を握り返した。
「本当にありがとう、僕達は君の旅路に勝利と幸福があることを願っている・・・・・ナイトガンダム、気をつけて」
「ああ・・・・ありがとう、我が友、クロノ・ハラオウン」

 

「なのはにフェイト、君達は管理局に入るんだって?」
「うん、私はクロノ・・・・ううん、お兄ちゃんと同じ執務官を目指すの。そのために先ずは経験と勉強を積まないと」
「私は武装隊の仕官から、そして目指すは戦術教導隊。色々な人に、自分が学んだ経験、技術を教えるのが夢かな」
まだ幼い少女なのに、彼女達は自分の目標に向かって進もうとしている。
彼女達の様な子ならば、多くの人を救い、多くの人を導いてくれるだろう。
「ん?そういえばフェイト、君はクロノをお兄ちゃんって呼んでいたけど」
「フェイトちゃん、リンディさんの養子になったの、だからクロノ君がお兄ちゃんになったの」
「でも・・・本当についさっきの事だから・・・まだ・・恥ずかしくて・・・」
照れくさそうに俯くフェイトにナイトガンダムは自然と笑みを漏らす。そして自然と二人の頭に手を載せていた
「フェイト、焦る事はない、ゆっくりと馴染めばいいんだ・・・私の思い過ごしならいいのだけど、君は自分の幸せに臆病になっている感じがする。
でもね、怖がる必要なんて無いんだ、君が幸せになって不幸になる人なんで誰もいない、君は優れた魔道師だけどまだ子供だ、だから今は何も考えずに目の前の
幸せに身を任せてもいいと思う。そうする事で君は無論、リンディ殿達や周りの人々も幸せになれるのだから」
「なのは、君は目標を持ち夢に向かっている。君のことだ、それはきっと叶うと信じている。だけど一つ約束をして欲しい。
その目標へは、焦らず目指して欲しい。フェイト同様君はまだ子供だ、魔術の鍛錬もいいけど、
友達と遊んだり、趣味を楽しんだりなどの自分の楽しみや幸せを忘れないで欲しい」

 

「ガンダムさん、ホンマにありがとう・・・・・・・・うちらがこうしていられるのはガンダムさんのおかげや」
「違うよ、此処にいる皆、そして君達が頑張ったおかげさ、決して私一人の力ではないよ」
「たしかにそうや」と呟きながら笑うはやて。
話の区切りと感じたのか、はやてに断りを入れた後、シグナムがゆっくりと近づきナイトガンダムの前へと立つ。
「我が友にして好敵手・・・・騎士ガンダムよ・・・・・・貴殿の旅の無事、そして揺ぎ無い勝利を祈る」
シグナムはレヴァンティンを取り出しシュベルトフォルムへと変形させるそしてその切っ先を軽く空に掲げる
その意味を理解したナイトガンダムは盾から剣を取り出し同じく掲げた。
「そして帰り、再び剣を交える事を楽しみにしている・・・・・騎士ガンダム」
「ああ、その時は是非、正々堂々とした戦いをしよう・・・・烈火の将シグナム」
互いの剣が空中で重なる、それは認め合った騎士同士が再戦を誓った証、互いの剣が重なった時に響いた音が周囲に響き渡った。

 

皆がそれぞれ別れの言葉を送り、最後はリインフォースだけとなった。
彼女はナイトガンダムの前まで近づくとゆっくりとしゃがみ、そして抱きしめる、力強く、決して離すまいと。
「私は・・・・・お前が・・・・好きだ・・・・・だから・・・・必ず帰って来い・・・・・」
体に伝わる鼓動と暖かさ、その温もりに心地よい気分になる。
「ありがとう・・・リインフォース・・・君はもうはやての家族だ・・・・皆と幸せな時を過ごせる事を願ってるよ」
ナイトガンダムもまた、彼女を抱きしめる。そして、互いのぬくもりを感じあった後、ゆっくりと離れた。
すると、そのタイミングを見たかのように、石版が光りだす。
この光はあの時と同じ自分を異世界へと飛ばす魔法の一種・・・・・別れが来たのだと実感させられる。
「皆!!ありがとう!!・・・・・また会おう!!!いつか、必ず!!!」
光がナイトガンダム包み込む、そして徐々に上空へと上がっていく。
「アースラクルー全員!!異世界の騎士に敬礼!!!」
リンディの指示と共に、アースラのクルーは再び敬礼をし、ナイトガンダムを見送る。
彼らに同じく敬礼をし答えた後、ふと下を見る、其処には全員が自分を見上げ、手を振り、自分に最後の見送りをしていた。
そんな皆に答えるようにナイトガンダムは下を向き、大声で答えた。

 

                          『行って来ます!!』

 

  • スダ・ドアカワールド

 

ナイトガンダムが降り立ったのは既に溶岩が固まりつつある火口の中だった。
上を見上げると一面は曇り、そして雪が少し降っている。
「ここは・・・・・・・あの場所か」
あの時、奴の腹の六芒星に炎の剣を突刺し、共に落ちた場所、そして奴の魔法で自分はあの世界へと飛ばされた。あの時、奴は言っていた
『何処へ行くかは・・・・我でも・・・知らん。ここ以上の争いが・・・・起きている世界か全てが・・死に絶え・・・荒廃・・・した・・・世界か・・・』と。
だが自分が飛ばされたのはそんな世界とは無縁の所、 とても暖かく守りたい人達、とても強く頼もしい仲間達、自分は沢山の物を得られることが出来た。
「・・・・・・私は、貴様に感謝するべきなのだろうか・・・・・」
サタンが故意に飛ばしたとは思えない、正直全くの偶然だったのだろう。
それでも、自分は様々な物を手に入れることが出来た、その気が無かったとは言え、それはサタンガンダムのおかげという事は間違いない。
ナイトガンダムは石版を発動させ、三種の神器を装着する、そして炎の剣となった剣を地面へと突刺した。
地面に突刺した炎の剣はサタンガンダムの墓標、それがナイトガンダムがサタンガンダムへ送る最初で最後の感謝の気持ち。
再び鎧を石版に戻すが、炎の剣だけは戻らず、地面に突き刺さったままだった。
「・・・よし、行こう!!」
墓標に背を向け、歩き出す・・・・仲間達の下へ、そして新たな戦いの舞台へと

 

後に僧侶ガンタンクはクレバスから出てきたナイトガンダムを見て、こうつぶやいた。

 

           『星降る時、大いなる地の裂け目から、神のいた持ちて勇者現る・・・・・・・その名は・・・・・・』

 

                               『ガンダム』

 

                      魔法少女リリカルなのはA,s外伝・ラクロアの勇者

 

                                  終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 一週間後

 

ナイトガンダムが仲間と合流し、共にラクロアへと帰還するが、其処にあったのは王国ではなく、平地と無数の瓦礫だけであった。
僧侶ガンタンクの説明から、この一件には『伝説の巨人』が関係している事を聞いたナイトガンダム達は
休む間も無く、巨人を倒す手掛りを持っているであろう『ルホイの星』を探す旅に出た。

一方、残ったガンタンクは城の兵や僧侶、動ける民を指揮し、救援活動、物資の調達、救援諸国への援助要請
など多忙な日々を送っていた、そんな時である。

「ガンタンク様!この薬草でしょうか?」
「・・ああ、間違いない、直ぐに収穫をしてくれ」

 今のラクロアには圧倒的に物資が足りなかった、その中でも医薬品の数は絶望的で怪我の人数からして圧倒的に足りなかった。
瀕死の者や重傷者などには城の僧侶が付きっ切りで看病しているため、手遅れで死亡という自体にはならなかったか、
骨折や打撲などの死ぬことが無い怪我の者には少ない薬でどうにか凌いでもらうしかなかった。
痛み止めも無いため、野戦テントからは痛みによるうめき声が後を経たなかった。

 

先ほどガンタンクが見つけた薬草は処方すれば良い痛み止めになる。
あの兵士の話した量からするに隣の国からの物資補給までには十分持つ量だ。
「さて、私も帰っ!?」
帰ろうと仲間の元へ行こうとした直後、彼の後ろの森林が眩く光りだした。
何かと思い杖を構え振り向くが、光は既に消え、何事も無かったかのように静けさを取り戻す。
「・・・ジオンの魔術士か?だか、何故襲ってこない?」
サタンガンダムを倒したとはいえ、ジオン族やそのモンスターが襲ってくることがなくなったわけではない。
だからこそ、今の光もジオン族の魔術士の攻撃ではないかと疑ったが、一向に攻撃が来ない所か姿すら現さない。
不審に思いながらも、ゆっくりと光が発生した方へと足を勧める・・・・・・・・すると
「なんだ・・・・これは・・・・」
其処にはジオン族の魔術士などいなかった。其処にいたのは二人の人間・・・親子だろうか?
色々不審な点はあるが、この二人をこのままにしておくわけには行かない、特に親である女性の方はこのままでは死んでしまう。
小さな女の子の方は魂が抜けている症状に酷似しているが、助けられないことは無い。
「こっちに来てくれ!!!重傷の旅人の様だ!!!」
大声で仲間を呼ぶと同時に、ガンタンクは大人の女性の方に回復魔法を施す。
「・・・ただの旅人ではなさそうだな・・・・・」
彼がそう思うのも無理は無い、旅荷物は無論、彼女達の格好がそう思わせる。
大人の女性の方は黒い服にマントを羽織っただけの格好、とても旅人とは思えないし旅荷物も一切見当たらない。
そして小さな女の子の方は裸、割れた大きなガラスケースの様な物の中で蹲っていた。

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最終更新:2009年07月12日 10:24