魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第20話

                     「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

未だ叫び続ける闇の書の闇、その声は皆の鼓膜を刺激するには十分過ぎるほどの騒音。
一種の音波攻撃では無いかというほどの騒音に、全員が顔を顰め、なのはとはやて、そしてアリサとすずかは堪らず耳をふさぐ。
特に鼓膜が治ったばかりのなのはにとっては、この騒音は無視できる物ではなかった。
「もう・・・・・この、静かにしてぇ!!!!」
堪らずなのははレイジングハートの切っ先を向けカートリッジをロード、彼女の願いを無視して叫び続ける闇の書の闇に向かってエクセリオンバスターを放つ。
「こ・・・・・・・のぉ・・・・・うるせぇ!!!!」
なのはの攻撃に続くかのように、ヴィータも攻撃を始める。目の前に鉄球を放り投げ、それらをグラーフアイゼンで次々を叩き付ける。
『シュワルベフリーゲン』となった数個の鉄球は、彼女の魔力の色である真紅の光に包まれ闇の書の闇に迫る。
そして、その二人の攻撃を皮切りに、射撃魔法が可能な人物は一斉に攻撃を始めた。
『Blaze Cannon』
「プラズマ・スマッシャアァァァァァァ!!!」
「ムービー・サーベ!!」
クロノが、フェイトが、ナイトガンダムがほぼ同時に攻撃を仕掛ける。
そしてそれらは、何の抵抗も妨害も無く、豹変した闇の書の闇に直撃、大爆発を起こした。

「・・・・・・・やったの・・・・・・」
誰もが口を閉ざし、煙に包まれている着弾点を見つめている中、アリサはたまらずナイトガンダムに言葉を投げかける。
だが彼はその問いに答えず、黙ったまま様子を伺っていた。
本来なら無視された事に腹を立てるアリサも、今回ばかりは癇癪は起こさず、再び黙って様子を伺う。

「(確かに直撃はした・・・・・だが)」
アリサの問いを無視した事に罪悪感を感じるが、この状況では安易な答えなど出すわけにはいかない。
自分を含めた5人による同時攻撃、相手は回避は勿論の事、防御魔法を施した形跡も無い、
間違いなく直撃している筈・・・・・だが、あまりにもあっさり過ぎる。

直撃した時に舞った爆煙がゆっくりと晴れる。そこでなのは達が目にしたのは、先ほどの攻撃のダメージを確かに受けた闇の書の闇の姿だった。
体のパーツの彼方此方が吹き飛び、斬られ、凹んでおり、それは正に誰が・・・それこそ素人のアリサとすずかが見ても大ダメージを負っている姿。
その光景に誰もが手ごたえを感じた。なのはとフェイトは互いに頷き、アルフとヴィータは堪らずガッツポーズをする。
「よし、全員、もう一度だ!!これなら倒せ・・・・・・・」
クロノも予想以上の手ごたえに喜びを感じてはいたものの、今は浮かれる時では無いと自分自身を自主し、
再び攻撃を仕掛けるよう皆に伝えようとするが、彼は途中で言葉を止めてしまう。
それはクロノだけではなかった。先ほどまで喜んでいた皆がクロノと同じ表情で、クロノと同じ光景をただ唖然と見つめている。
それは正に一瞬だった、先ほどまでダメージを負っていたはずの闇の書の闇。だが、まるで時間を巻き戻したかの様にヴィータ達が与えたダメージは修復されてゆく。
時間にして数秒程度の驚異的な再生、だがそれだけでは終らなかった。
体の再生を終えた闇の書の闇は、自身の周囲に赤竜を出現させる、その数10匹。
否、それは赤竜ではなかった。体は確かに赤竜の物、だが頭部は黄色いレンズの様なもので形成されている。
そして、出現した赤竜は一斉になのは達の方へとレンズの切っ先を向け、収束を開始、そして
「っ!!?皆防げ!!!」
クロノの悲鳴とも思える叫びの直後、収束を終えた砲撃が一斉になのは達に襲い掛かった。

「二人とも!!私の後ろでジッとしていて!!」
振り向かないままアリサ達に指示を出したナイトガンダムは、力の盾で迫り来る砲撃を防ぎ、
なのは達も各自で障壁を展開することでどうにか直撃を免れる。だが、砲撃が一向に止む気配はなかった。
まるで通常攻撃の様に乱射される砲撃、各自がどうにか耐えてはいるが、それにも限界がある。
この弾幕では反撃を行う暇さえ与えてくれない、それ所が砲撃用の赤竜は更に増え、一層弾幕が濃くなっていく。

                    『Eternal Coffin』

この電子音を聞き取れた人物はどの程度いるだろうか?
おそらくこの状況では誰もいないだろう。だが、突如周囲の海が凍り出すというありえない自体には全員が驚きを表す。
そしてその現象は海ばかりではなく闇の書の闇にも襲い掛かった。
絶え間なく砲撃を放っていた赤竜は凍りつき、その直後自然倒壊。闇の書の闇もまた、ゆっくりとその巨体を凍りつかせ、活動を無理矢理停止されられた。
「何これ?凍っちゃった」
「これは・・・・・凍結魔法、しかも広域で強力な」

凍結魔法に関してはリニスから聞いたことがあった。自分の『電気』の様に魔力を変換する事により出来る魔法。
だが、自分の『電気』や『炎』などは比較的多いが凍らすなどの『凍結』は殆どいないと聞いたことがある。
今使われた魔法は魔力変換資質による『凍結』によって使用された魔法で間違いない。
一般では『魔力変換資質』は自分の様な生まれつきの性質によって使えるかどうかが決まるが、
資質が無かったとしても使えないわけではなく、資質が全くなくても、学べばどうにか出来るらしい。
だがこの氷結魔法、仮に自分の様な資質があったとしても出来るものではない。闇の書の闇を一瞬で凍結させた・・・・なみの使い手ではない。
咄嗟に周囲を見渡し術者を探そうとするが、上空に感じる魔力反応に直ぐに気付く・・・・・そこには
「真打登場~!!」
面白そうに声を上げながら、目が合ったフェイトに手を振るリーゼロッテと
「どうやら、ナイスタイミングだったようね」
闇の書に闇に向けていた杖を再びカードに戻し、クロノの方へとゆっくりと降りてゆくリーゼアリア、
本当なら今頃、本局で主であるグレアム提督と一緒にいる筈の二人が、ゆっくりとクロノ達の所へと降り立った。
「リーゼアリアさんにリーゼロッテさん!!」
「お二人でしたか、助かりました!」
本局でも有名なキル・グレアムの使い魔でもあり、クロノの師匠でもある二人の登場に、なのはとフェイトは安心と同時に心強い味方が来てくれたことに喜びを表す。
あのクロノを鍛え上げた上、今でも管理局で活躍してる二人が来てくれたのだ、嬉しくない筈が無い。
そのうえ、あの暴れまわっていた闇の書の闇をあっという間に凍結した魔道師としての能力、期待は否応無く膨らんでくる。
二人を良く知るクロノも、なのは達ほどではないにしろ、微笑みながら二人を歓迎する・・・・・・表面上では
「(・・・なぜ君達がいる!?本局で提督と一緒の筈だろ!?)」
「(いや~・・・権力って便利だね~)」
「(茶化さないでくれ!!!)」
「(茶化していないよ、クロノ達がピンチだったから助けにきたわけ。幸い、私達が行ってきた事はハラオウン家の皆にしか知られていなし。
見張りの局員に事情を説明したらあっさりね、敬礼付きで見送ってくれたよ)」
勝ち誇った様に説明するリーゼアリアに、クロノは皆に見られないように歯を食いしばる。
確かに今までリーゼ姉妹が行ってきた事を知っているのは自分と直接報告を聞いた母であるリンディ提督のみ、
つまりここにいる自分以外の全員がリーゼ姉妹があの仮面の男だという事実は知らない。
「(・・・・・・それで、君達は協力してくれのか?)
「(勿論だよ。こうなってしまった以上私らも協力する・・・・・・ああ、クロ助の指揮下に入るって方が安心かい?まぁ、細かい事はクロ助に任せるよ)」
彼女達も彼女達なりに闇の書を葬ろうとしていたのは事実、自分達の邪魔をしないことは勿論、今となっては八神はやてに危害を加えることも無いだろう。
それに彼女達の頼もしさは、自分が良く・・・・・・それこそ嫌というほど身をもって知っている、戦力としては十分以上に期待できる、拒否する事など出来ない。

「(あまり良い気はしないが・・・・彼女達の正体は後に話すとして・・・・・・」)わかった、お願いするよ」
猛烈な敗北感を感じながらも、クロノは妙に疲れた顔を引き締め、なのは達に簡潔に説明する。
既に面識があったなのは達は二人を歓迎し、はやて達ヴォルケンリッターも協力相手が増えたということで納得する。だが
「・・・・・すまないが、その提案は受け入れられん・・・・・」
「・・・私も、盾の守護獣と同意見だ」
ヴォルケンリッターの一人、盾の守護獣ザフィーラとリインフォースだけが、リーゼ姉妹を睨みつけながら二人の協力を拒否した。
思わぬ人物の協力拒否に、皆が一斉に彼に視線を向ける。何より一番驚いたのはヴォルケンリッターの皆だった。

「おいおいザフィーラ!!リインフォース、今の状況わかってんだろ!?何言って・・・・・ん・・・・だ」
この中で唯一協力を拒みそうだったヴィータが二人を窘めようとするが、二人の表情を見た途端、言葉を詰まらせてしまう。
ヴィータの意見は無論のこと、皆の視線を無視してまで、二人はリーゼ姉妹を睨みつけていた、それこそ殺気が篭った瞳で。
「あらあら、守護騎士っていうのは協力の一つも出来ないのかね~?犬はちゃんとしつけしないと~」
常人なら震え上がり、腰を抜かすほどの視線。だが、幾つもの修羅場をくぐってきたリーゼ姉妹には脅しにもならない。
むしろ睨み返し、小馬鹿にするかのように言い返す。
「ザフィーラ、リインフォース、今は争っている場合ではない、特にザフィーラ、一体どうした?お前らしくない?」
ザフィーラの性格はシグナムは無論のこと、ヴォルケンリッターの皆が良く知っている。
常に一歩引き、自分達のために最善の行動をとれるようにしてくれている頼れる仲間。
感情的になりやすいヴィータならまだしも、そんな彼がこの提案を受け入れないのは明らかに可笑しい。それ以前に彼が殺気を放っていることも不自然だ。
「・・・・・すまんな、シグナム。私もこの状況は理解している、だが、彼女達が・・・あの仮面の騎士だと知っても納得できるか?」
その言葉は、此処にいる全員を動揺させるのには十分だった。
なのはとフェイト、アルフとユーノは驚くと同時に自然と身構え、ザフィーラ以外のヴォルケンリッターは驚きよりも即座に武器を構える。
ヴィータにいたっては咄嗟にはやてが止めなかったらアイゼンで殴りかかっていただろう。
クロノは最悪の事態に顔を顰め、リーゼ姉妹は『やれやれ』と頭を左右に振りながら大きく溜息をついた。
「はぁ?何言ってるの?証拠でもあるの?」
「あの時、私は仮面の男に襲われ、リンカーコアを抜き取られた。だが抜き取る際、貴様は変装を解いた、その時に見た顔は忘れん」
此処で初めでリーゼ姉妹は顔を顰めた。あの時、仮面の男に変装し、あの守護獣を襲い再起不能にした。
だが、リンカーコアを摘出する時、偶然にもクロノから通信が来たため、急いで変装を解き対応した。
本当ならこのようなミスはしないのだが、あの時相手が気絶していたと思い込んでいた事、そして
『どうせ二度と会うことも無い相手』の前だと油断してしまった自分のミス。だが、彼女達は自分を責める気など毛頭無い。
「ハァ~・・・・・空気読めよこの犬、現状も分からないほど馬鹿じゃないだろ?」
「別に私達も隠し通す気は無い、でもこの場で正体をばらしたらどうなるか分かるだろ?クロノが折角お膳立てをしてくれたのに」
クロノの機転により出来た団結を無茶苦茶にされたことに、リーゼ姉妹は不快感を表す。
だが、シグナム達は引き下がらない。
「現状は無論理解している。だが、シグナムから聞いた騎士ガンダムとフェイト・テスタロッサへの仲間とは思えぬ仕打ち、とても信用できるものではない」
「それに、また何時殺られるか分かったもんじゃねぇからな!!後ろからグサってのはごめんだぜ!!」
「確かに貴様達の強力は必要・・・・・・だが、安心して得られるものではい」
「そうね・・・・・笑顔で協力する気には・・・・・なれないわ」
互いを殺気が篭った瞳で睨みつける。場の空気は一挙に険悪なものとなり、後少し経てば戦闘が始まらん勢い。
クロノとユーノはこの争いをどうにか止めようとするが全く聞き入れてもらえない。むしろリーゼ姉妹の正体を隠していたクロノにも敵としての眼差しが向けられる。
なのはとフェイトはリーゼ姉妹が仮面の男と知った途端、自然と行動を自主してしまい、ただ現状を見守るだけに留めてしまう。
アルフに至ってはザフィーラ達の肩を持つ始末。

見かねたナイトガンダムが、仲裁に入ろうとしたその時、一人の少女の声が木霊した。
「いい加減にし!!!なぁ、皆こんなことで喧嘩しとる場合じゃないやろ!!!!!なにやっとるんや!!!!」
リインフォースに抱き抱えられたははやては、くだらない言い争いをしてる皆に向かって力の限り怒鳴る。
今まで聴いたことが無い怒声に、先ほどまで殺気を放っていたヴォルケンリッターは一斉に口を噤み、俯く。
ヴィータに至っては目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな表情をしている。
「で・・・・ですが主!彼女達は(シャラップ!!」
それでも食い下がろうとするシグナムに、今度は別の怒声が響き渡る。
シグナムは声がした方へと顔を向ける、其処にいたのはナイトガンダムだが、彼の声ではない。
「ガンダム!ちよっと退いて!!」
ナイトガンダムの肩を掴み、無理矢理横へと下がらせる。
ガンダムの後ろから現われたのは、明らかに怒った表情で自分を見つめている金髪の少女『アリサ・バニングス』だった。
はやての友人であるただの少女。だが今、自分はその『ただの少女』に圧倒されている。口を噤み、自然と体を後退させているのが良い証拠だ。
「はやての言う通りよ!!まったくこんな時に言い争って!!!あのね、事情を知らない私が言うのもなんだけどね・・・・・喧嘩なら後にしろ~!!!
今は協力して勝利を勝ち取って、その後でクロスカウンター撃ち合いの喧嘩でも、罵りあいの話し合いでもすればいいじゃない!!!」
正に正論、彼女の意見がもっともだ、言い返すことなど出来ない。
「シグナム・・・それにヴォルケンリッターの皆」
アリサの行動を見守っていたナイトガンダムがようやく口を開く、自分が言うべき事ははやてとアリサが殆ど言ってくれた。
だが、自分が言うべき言葉はまだ残っている。
「みんなの気持ちも分かる、だけど今はこの戦いを終らせる事を優先しよう・・・・・だから頼む、私達に力を貸してくれ」
深々と頭を下げるナイトガンダムに、ヴォルケンリッターは勿論の事、なのは達やリーゼ姉妹も沈黙で答える。そして
「頭を上げてくれ、騎士ガンダム」
今までとは違い、明らかに落ち着きを取り戻した声で、シグナムはナイトガンダムの名を呼ぶ。
頭を上げた途端、シグナムと目が合う。そのの直後、今度はシグナムがナイトガンダムに向かって深々と頭を下げた。
「騎士ガンダム、その協力、喜んで受け入れよう。我らヴォルケンリッター、騎士ガンダムの剣となり共に戦う事を誓う」
頭を上げたシグナムが見たのは、純粋に驚いているナイトガンダムの姿、その顔を満足げに見つめた後、アリサの方へと顔を向ける。
「アリサ・バニングス、貴方のおかげで目が覚めた。心からお礼を言いたい、ありがとう」
同性が見ても顔を赤らめてしまう微笑に、アリサは案の定顔を真っ赤にした後そっぽを向く。
そんな彼女の態度に自然を笑いを漏らした後、はやての方へと体を向け、跪く。
「主はやて、取り乱してしまい、誠に申し訳ありませんでした。この失態、この戦いを終らせる事で挽回いたします。必ずや、主に勝利と平穏を齎しましょう」
「・・・・・うん、騎士シグナム。貴方の近い、確かに受取った。せやけど注文が一つや」
そっと手を差し出し、シグナムの頬に触れる。
暖かく、ぬくもりに溢れている手、自分達はこの温もりを守るために戦う事が出来ると改めて実感する。
「皆、無事に帰ってくること。これは絶対条件や」
「御意!!」
力強く返事をした後シグナムは立ち上がる、もう迷いは無い。ただ全力を尽くすのみ。

「まったく、何勝手に決めてんだよ、うちのリーダーは」
ニヤニヤしながらシグナムの元へと近づくヴィータ、彼女に続いてシャマル、ザフィーラもシグナムの元へと集まる。
「・・・・・やはり私は、あのリーゼ姉妹を完全に信用することは出来ない。だから私は騎士ガンダムを信用することにした。彼は信用に値する騎士だ
共に戦い、安心して背中を預けることが出来る。だからこそ、我々の力を彼に貸し与える。異存はあるか?」
「・・・・・・まぁ・・・な。文句はねぇよ。ガンダムの剣になるって宣言、アタシは全然かまわねぇぜ。
あいつを疑った負い目もあるし、なにより助けられた借りをかえしてねぇ・・・・・・借りっぱなしは好きじゃねぇからな、鉄鎚の騎士ヴィータは力を貸すぜ!!」
「・・・・あの時、騎士ガンダムさんは敵である私を庇ってくれた。そのお礼もしなくちゃね。湖の騎士シャマルは大賛成です」
「ガンダムは主の正体をしっても尚、我らに時間を与えてくれた、彼には返しきれない恩義がある、盾の守護獣ザフィーラ、騎士ガンダムの盾になる事を誓おう」
「・・・・・ふっ、そういうことだ、騎士ガンダム。我らの力、お前に貸し与える。好きに使ってくれ」
ヴォルケンリッターの全員が、未だに驚いているナイトガンダムに顔を向ける。ナイトガンダムはそんな彼らに感謝を表すため、跪き、頭を垂れた。
「八神はやての剣、守護騎士ヴォルケンリッターよ。貴方達の力、この戦いを終られるため、平和を取り戻すため、使わせていただく!!」
騎士同士の誓い、それは本当に互いを信頼しなければできない強固な誓い。
騎士ガンダムと守護騎士ヴォルケンリッター。守るもの、行く路が違えど、彼らにはその誓いを出来るほどの信頼と強さが備わっていた。

「まったく・・・・・カッコええな・・・・リインフォース、うちも戦う。力、貸してくれへんか?」
思いもしなかった言葉に、リインフォースは驚き、抱きかかえてるはやての顔を見る。
そして直ぐにでも『無理です』『皆に任せましょう』などの否定の言葉を言おうとしたが、彼女の顔を見た途端、口を噤んでしまう。
彼女の瞳には決意があった・・・・・・子供とは思えない強い意志があった。
「うちは皆のマスターや、それ以前に闇の書・・・いんや、夜天の魔道書のマスターでもある。せやから今回の事件、ただ見ているだけで終りたく無い。
この事件・・ううん、今まで闇の書によって起こった悲劇、今日この場で終らせる・・・・・せやから(主はやて」
もう何も言う必要はなかった・・・・・そして今気が付いた。八神はやては確かに今までの主の中では最弱であるが、
心の強さ、何かを成し遂げたいという思いの強さは今までの主をはるかに凌駕する。これほど心が強い主を・・・・・否、人間を自分は見た事が無い。
もし神がいるのなら心から感謝したいこのような主に巡りえた事に。だがらこそリインフォースは
「分かりました・・・・・我が主、八神はやて。共に戦いましょう」
そっと右手をはやての頭に乗せる。その直後、光の球体が二人を包み込んだ。

はやてが目を開けるとそこは光の中、目の前には夜天の魔道書が浮いている。
「リインフォース・・・・・私に、杖と甲冑を」『はい』
はやての体に光の帯が巻きつき、黒を強調した騎士服が形成される。そして騎士服形勢直後、目の前に現われる杖。
それを力強く握りしめ掲げる。そして
「夜天の光よ、我が手に集え。祝福の風、リインフォース、セットアップ!」『ユニゾン!イン!!』

リインフォースの役割は闇の書の管理人格の他にもう一つある、それは主と肉体・精神の融合を果たすことで、主の魔法の手助けとなる
「融合型デバイス」としての機能。
彼女と融合しストレージデバイスとしての「夜天の魔道書」を用いることで、これまで蒐集した膨大な魔法を使用する事が出来る・・・・・だが、それだけではない。
収集した膨大な魔力により、魔法によってはオリジナルを上回ることも可能であり、それらのサポートもリインフォースが行ってくれる。
本来なら、管制プログラム・防御プログラム、双方の認証が無ければ、このような事は出来ない。
そのため、今までの主は意思のある防衛プログラム(闇の書の闇)により、常に同じ末路をだとっていた。
闇の書の大部分の力を持っている防御プログラムの暴走・・・否、欲望に任せた行動。どんなにあがいても結果は見えていた。
だが、今回は違った。
守護騎士達との生活以外、何も望まなかった八神はやてが主となったこと、そして偶然にもこの世界へ来たナイトガンダムの存在、
この二人の出現により、無限に続くかと思われたループが狂いだした。

何も望まなかった八神はやてという存在が、闇の書の闇の行動を狂わせ、ナイトガンダムの活躍によって、
闇の書の闇は今まで自分が散々撒き散らした『死』を体験する事となった。
その結果、はやては防衛プログラムの分離に成功。闇の書の闇を完全に『夜天の魔道書』から追い出す事に成功した。
だが自らの意識が消える寸前、闇の書の闇は自らの意識を消し『暴走体』となった。
死ぬのなら皆を巻き込むという歪んだ考えの現われ、その思考が具現化したのが、今皆の前に出現しいている巨大なモンスター。


ユニゾンした結果、黒を主体としたバリアジャケットに黒いスカート、白いジャケット、白い帽子が加わり、ユニゾンしたことにより、
髪は薄い金色となり背中には6枚の羽が生える。そして
はやてとリインフォースを包み込んでいた光の球体は砕ける、そこにはあの小学3年生相等の八神はやての姿は無い。
ヴォルケンリッターを従える夜天の魔道書の主、彼女位の年齢の少女では見る事が出来ない強い意志を内に秘めたその表情は、皆に自然と頼もしさを与えてくれる。
「守護騎士ヴォルケンリッター・祝福の風リインフォースの主、八神はやて!うちも戦います!!」

「あ~あ、盛り上がっちゃってまぁ・・・・・」
はやての周りに集まるなのは達、その光景を腕を組み、小馬鹿にした様にリーゼロッテは見つめる。
突っかかってくる対象がいなくなったため、リーゼ姉妹からも険悪な空気は消えており、今はクロノの元に身を寄せていた。
「ナイトガンダムに感謝するべきだ。彼がヴォルケンリッターの皆を説得してくれたんだからね。君が彼にした仕打ちに対して何も言わずに」
そのことは申し訳ないと思っているのだろう、二人とも言葉を詰まらせそっぽを向く。
「ま・・・・・まぁ、その事に関しては後で謝るよ・・・・・でも、あんなに派手に出て来たのは良いけど、もう戦闘は終わりだよ」
先ほどまで耳が痛くなるほどの叫び声を上げ、雨の様に砲撃を放っていた闇の書の闇は彼女達の凍結魔法で完全に凍っている。
本当ならある程度抵抗があるかと思ったが、思った以上に上手くいった・・・・・・もうこの事件は終わり。
自信満々にその光景を見つめる二人にクロノも自然を目を向ける・・・・・その時

             「アア・・・アアアア・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

二度と聞きたくない叫び声が再び響きわたる。皆が一斉に裂けぎ声が聞こえた方向、凍結された闇の書の闇へと顔を向ける。
そんな皆の注目に答えるかの様に、闇の書の闇は再び叫び声をあげ、凍結した体を再び動かし始める。
その時に体の各パーツが砕け散るが、砕けた部分は即座に再生され、元通りとなる。
「くっ・・・こいつ!!!」『Eternal Coffin』
リーゼアリアはカードに戻していたデュランダルを起動、再び広域凍結魔法『エターナルコフィン』を放った。だが、
最初の時とは違い、全てを凍らす事は出来ずに終る。その結果、今度は動きを封じる程度、効果はバインドと大して変わらない。
「くっ・・・そ・・・・あいつ、自分の温度を上昇させて・・・・中和させ・・・・た」
オーバーSランクの高等魔法をほぼ休み無く広域で使用、それらの行為の代償が疲労となり、リーゼアリアに襲い掛かる。
並みの術者なら即座に気を失うほどの疲労、ギル・グレアムの使い魔である彼女であってもそれは無視できるレベルではなかった。
ふらつき今にも落ちそうなアリアをロッテは咄嗟に受け止める。そして普段は見せる事の無い泣きそうな表情で必至にアリアの名前を呼ぶ。
「大・・丈夫・・・よ。でも、まさか切り札が・・・・通用しない・・・・なんてね・・・畜生・・・」
ロッテに笑顔を向け、自身が大丈夫な事をアピールするが、もう戦うほどの体力も魔力も無い、自然と悪態をつき、悔しそうにデュランダルの柄を握り締める。
「アリア、その杖を貸してくれ!!もう一度放てば(駄目や!!」
魔力変換や温度変化などの技能は自信がある、だからこそ自分もアリアが放った氷結魔法が使えると思ったクロノは、
『エターナルコフィン』を放とうとする。だが、その行動をはやては大声で咄嗟に制止した。
「いくらやっても効果はあらへん!!!『闇の書の闇』は今暴走しとる!!完全凍結は不可能や!!」
「はやてちゃんの言う通りです。今の闇の書の闇は純粋な魔力の固まり、凍結しても、コアがある限り直ぐに目覚めて再生を始めます、よくて動きを封じる事位しか・・・・」
シャマルが補足を入れ簡潔に説明する・・・・・・凍結は無理だという事を。

確かに、アリアが二度目に放ったエターナルコフィンは妨害され、中途半端な結果に終った。それだけなら妨害された結果、効果が不完全だったと納得がいく。
だが、最初に放ったエターナルコフィンはダイレクト直撃、確かに奴を凍結させた・・・・だが奴は直ぐに活動を開始、シャマルの説明が正しい事の証明である。
それを聞いたロッテは悪態をつき、クロノは悔しそうに歯を食いしばる。
だが、彼女とクロノがこのような表情をするのは、決して手段が無くなったからではない。

リーゼ姉妹は『闇の書の闇』を停止する方法を二つ用意していた。
その内の一つがデュランダルによる凍結での永久封印。だが結果はこの有様、精々動きを一定時間封じられるバインド程度の効果しかない。
そして残るもう一つの手段、それはリーゼ姉妹だけではなくクロノも検討していた最も確実で、最終にして最悪の手段。
「残るは・・・・アルカンシェル・・・・だけか・・・・・」
「クロノ!それは・・・でも・・・・」
その言葉の意味を即座に理解したユーノは顔色を変え、その意見を否定しようとする。だが、直ぐに口を噤み俯く。
彼にも理解できたからだ、この現状を打破するにはアルカンシェルしかないという事が。
「ユーノ君?ねぇ、クロノ君、アルカンシェルって何?」
普段は見た事の無いユーノの態度、そんな彼の表情で嫌でも理解できる、『アルカンシェル』という物がどれほど危険な物か・・・・だからこそ聞く必要がある。
「アルカンシェル・・・管理局が所有する中で最強の部類に入る魔道砲。魔力弾を打ち出し、それが着弾した後、
着弾点を中心に百数十キロの空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔道砲だよ」
「例えて言うのなら、なのは達の世界の『核兵器』より段違いの破壊力を持った兵器って言えば分かりやすいかな?」
クロノの説明ではあまり理解できなかったが、ユーノの例えを入れた補足で嫌というほど理解できた。
こんな所でそのようなものを撃てば、闇の書の闇は勿論、海鳴市もただではすまない。
「で・・・でも、封鎖結界内なら・・・・建物が壊れても」
咄嗟に自分を安心させるために出た言葉。だが、それが無意味だと自分自身で直ぐに理解してしまう。

なのは達が戦闘などで張る結界、その中で壊れた建物などは、そのままでは通常空間に影響する事は無い。
だが、もし壊れた状態で結界を解いたり破壊したりすると、その状態がダイレクトに通常空間に影響し、場合によっては大惨事に発展する。
そのため、結界を解く時などは常に破壊した物の修復作業が必要不可欠となっている。

確かにクロノとユーノの説明からして、もし撃ったら海鳴市は壊滅的な打撃を受ける。
半径数百キロ、とても修復というレベルでは片付けられない。
それだけではない、アルカンシェルの威力からするに、結界そのものが持つかどうかも怪しい、もし持たなかったら・・・・
「反対!!!絶対反対!!!」
なのははクロノに掴みかからん勢いでアルカンシェルの使用を反対、フェイトとはやて、ヴィータもその意見に賛同するが、クロノはそれを受け入れない。
「僕も使いたくは無い・・・でも奴が本格的に行動を起こしたら、被害は遥かに大きくなる・・・・・触れた物を侵食し、無限に広がっていく。
倒そうにも、奴の再生能力は嫌でも理解出来たろ、仮に奴のコアにどうにか攻撃をしかけても、コアそのものにも再生能力がある。
再生をさせる暇を与えずに一瞬で消滅させる、それほどの威力があるのはアルカンシェルだけだ。
無論民間人の避難は全力で行う、だが覚悟はしてくれ・・・・・もう選択肢はないんだ」
嫌でも他に手段が無い事を言い表す説明に、全員が押し黙る。そして嫌でも想像する、消える海鳴市を。
この結末は海鳴市に闇の書が転生した時から決まっていた運命・・・・・・だが、一人の小学3年生の少女の発言で、その運命は狂う。良い方向へと
「・・・・・・あの・・・・・いいですか」
恐る恐る手を上げるすずかに一同が一斉に彼女に顔を向ける。いきなり注目された事にすずかは驚くが、一度深呼吸をし、自分を落ち着かせた後、ゆっくりと話し始めた。
「その・・・・・『アルカンシェル』という兵器は、此処でないと撃てないんですか?」
「いや、そう言うわけではないけど・・・・・どうしてだい?」
「あの、私とアリサちゃん、町での戦闘の時、戦闘に巻き込まれないようにエイミィさんに町外れまでテレポートで送ってもらいました。ですから
あのモンスターも、同じ様にテレポートさせればどうかなって・・・・・」
「そうか!!いっそ太平洋のど真ん中・・・いえ、宇宙にでも送りつけて、そのあとぶっ飛ばす!!完璧じゃないの!!」
控えめなすずかの発言、それに加わるアリサの勝利を確信した発言、全員の顔色を変えるのには十分だった・・・・クロノとリーゼ姉妹、ヴォルケンリッターを除いて
「確かにその提案なら安全だ・・・・・だけどあの暴走体を転送するなんて無理だよ、質量がありすぎる。
もし転送魔法が使えるB・・・・・いや、Aランク魔道師が後20人はいてくれればいいんだけ(いや、クロノ」
ここで初めてナイトガンダムが口を開いた、最初は考えるように俯いていたが、直ぐに顔を上げ、クロノを見据える・・・・アリサの様に勝利を確信した瞳で。
「すずかの考え、実践できる・・・・可能だ!!アリサの『ぶっ飛ばす!!』を加えれば!!」

ナイトガンダムの考えは正にシンプルな力押しだった。
先ず皆で闇の書の闇を攻撃、奴に再生の余裕を与えない程の連続した攻撃を与える。
そうして奴の外装を剥ぎ取り、コアのみを露出させる。それなら質量的にも問題は無い筈なのでユーノ達の転送魔法で宇宙まで転送、
そして転送されたコアをアルカンシェルで打ち抜く。

「此処にいる皆が力を合わせれば必ず出来る・・・・どうだろう?」
その問いに、首を横に振る物は誰もいなかった。
「なのは、フェイト、はやて、ガンダム!!絶対勝ちなさいよ!!!」
「皆・・・・気をつけてね・・・・私達・・・信じてる」
「二人の気持ちは確かに受取ったよ、リーゼアリア殿、リーゼロッテ殿、お二人をお願いします」
これから始まる最終決戦、さすがにこれ以上民間人の二人をいさせるわけにはいかいため、
彼女達は凍結魔法の連続仕様で飛行も出来るか怪しいアリアと付き添いのロッテと共に、アースラへと向かう事となった。
先ずはアリサ達が転送魔法によりアースラへと転送される。
そして次にリーゼ姉妹が転送されるのだが、二人はエイミィに少しだけ待ってもらうように連絡をする。
そして、二人の見送りに来ていたナイトガンダムの方へと顔を向け何の前触れも無く謝罪をした。
「ごめん・・・・アンタやあの子達には酷い事をしたね・・・・・許してもらおうなんて虫の良い事は言わないよ・・・・・でも、ごめん・・・・謝りたかったんだ」
「だけど・・・・その・・・・・グレアム提督・・・・・父様は本当に関係ないんだ、貴方達を傷つけたのは私達が勝手にやった事だ!!だから(もういいんだ」
明らかに怒っているだろう、二人はそう思っていた。あの様な事をしたのだ、正直斬り捨てられても文句は言えない。
だが彼女達の考えとは裏腹に聞こえてきたのは優しい声。驚き顔を上げると、其処には怒りに満ち溢れている表情ではなく、優しく微笑んだナイトガンダムの姿。
「確かに・・・貴方達のやってきた事は良い事ではない。でも貴方達も貴方達の主も、この事件を、この連鎖を終わらせようとしていたのは事実です。
そんな貴方達を怒ることは私には出来ません。それにクロノの様な素晴しい執務官を育てた貴方達が悪い人たちでないとは理解しています。ですから、気になさらないでください」
自分を痛めつけた人物に言うとは思えないやさしい言葉、どんな罵倒よりも彼女達にはダメージがあった。
体を震わせ、再び頭を下げる、そして消入りそうな声で二人同時に口を開いた

                               「「あ・・りが・・とう」」

リーゼ姉妹が転移した事を確認した後、ナイトガンダムは皆の輪の中に入る。
そして、それぞれの役割、攻撃するタイミングなど詳しい作戦を立てようとしたその時、

         「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

何か硬い物が激しく砕ける音、そして、体が自由になった事を喜ぶかの様な叫び声が一斉に響き渡る。
その直後、『闇の書の闇』を取り囲むように四つのバリアが形勢、自らを守るように、守りを強固にする。
「これは・・・・魔力と物理の複合四層式のバリア・・・・・まったくけったいなモンを」
「それでも、僕達の行うことに変わりは無い、実にギャンブル性の高い作戦だが・・・・・僕らなら出来る、そうだろ!ガンダム!!」
クロノの問いかけ・・・・・その答えはクロノ自身も愚問だと思う。此処には将来が期待できる魔道師の少女とその仲間。
味方として力を貸してくれる夜天の書の主とその守護騎士。そして、異世界から来た優しい勇者、出来ない事など無い。
それでも、皆の気を奮い立たせるため、願掛けのつもりでナイトガンダムに尋ねる。
そんなクロノの気持ちを理解したのだろう、皆が注目する中、堂々と炎の剣を掲げ、ナイトガンダムは答えた。
「ああ!!私達に出来ない事は無い!!永く続いたこの連鎖、皆と共に終らせる!!」

闇の書の闇は触手砲台を新たに出現させ収束を開始、そして

         「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

                               「いくぞ!!」

戦闘が開始された。

「チェーンバインド!!」
「ストラグルバインド!!」
先ずはユーノとアルフが得意のバンド魔法で周囲の触手を絡め取り引きちぎる、こうする事で接近戦での触手攻撃を無効化。
「縛れ!鋼の軛、でぇやぁああああああああああああああああ!!!!」
間髪いれずにザフィーラが鋼の軛を放ち、周囲の触手砲台を一気に蹴散らす。
その結果、『闇の書の闇』の周囲には何もなくなり、複合四層式のバリアだけが唯一の防衛手段となる。

「ちゃんと合わせろよ!高町なのは!!」
「ヴィータちゃんもね!!」
初めて名前を呼んでもらえた事に、自然と笑顔になるなのは。
その笑顔は、ぶっきらぼうでありながらも名前を読んでくれた嬉しさの他に、彼女『ヴィータ』と共に戦えるという心強さも表している。
思えば彼女との出会いはフェイトの時以上に最悪だった。突然襲われ、話を聞いてもらえずに一方的に叩きのめされた。
自信があった自分の防御魔法をあっさり破った強敵、そんな彼女が共に戦ってくれる、これほど頼もしい事は無い。
「(そういえば・・・・・ガンダムさんと始めて会ったのも、あの時だったな・・・・・)」
自分の危機に颯爽と駆けつけてくれたガンダム・・・・あの時、初めて兄以外の男性をカッコいいと思った。
その気持ちは今でも変わらない、なのはにとってナイトガンダムは仲間というよりは頼りになる兄という感じである。
「(そうだよ・・・・・みんながいるんだ・・・負けるはずが無い!!)高町なのはとレイジングハートエクセリオン!!いきます!!」
ヴィータの渾身の一撃『ギガントシュラーク』が四層式バリアの一層目に直撃、
数百倍に巨大化したグラーフアイゼンが、何の小細工も無く叩きつけられる。その結果、辺りに衝撃波と爆音を巻きちらしなら、ガラスが割れるかの様にバリアの一層目が砕け散った。
バリアの上からでもよほどの衝撃だったのだろう、バリア越しにも拘らず、叩きつけられた瞬間、闇の書の闇は海中へと沈みかける。

そこへ、間髪いれずになのはが攻撃を放つ。
カートリッジを一気に4発ロード、レイジングハートを振り回し、切っ先を闇の書の闇に突きつける。
彼女の砲撃の恐ろしさを本能的に思い出したのだろうか、海中から数本の触手を出現させ、なのはに攻撃を仕掛ける。
切っ先が鉤爪の触手、バリアジャケット越しからでも十分なのはの体を引き裂く事が出来る。だが、なのはは恐れる事無く収束を続ける、そして
「エクセリオォオオオオオン!バスタァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」『Barrel Shot』
先ず放たれたのは複合高速砲撃魔法『バレルショット』
照準・弾道安定・発射直後の魔力暴発や周囲拡散の防止など、砲撃魔法の補助効果を満載した衝撃波が放たれ、なのはを襲おうとした触手を吹き飛ばす。
「ブレイク・・・・・・」
今の攻撃で砲撃魔法で必要なサポートは全て出来た、後は力の限り放つのみ。
先ずは4発のバスターを一斉に発射、一発一発が並みの砲撃以上の威力を持つ桜色の光が同時に二層目のバリアに直撃、だがなのはの攻撃はまだ終らない。
「シュート!!!」
トドメと言わんばかりに、フルパワーの一撃を放つ。最初の四つのバスターでも限界だったバリアはその一撃により爆散。
二つ目の壁を見事打ち砕いた。

「次!シグナムとガンダムさん!!」
シャマルの声に、二人の騎士は同時に自らの獲物を構える。その瞬間、まるでタイミングを合わせるかのように、互いの剣から炎が噴出、
その炎は今の二人の気持ちを代弁するかのように激しく燃え盛る。
「・・・・ゆくぞ!!烈火の騎士、シグナム!!」
「ああ!共に行こう!我が友、騎士ガンダムよ!!」
互いに見つめ合い、力強く頷く。そして倒すべき敵をにらみつけた瞬間、二人は弾ける様に突撃。
なのはの時の様に、周囲から生え出た鉤爪の触手が二人に迫り来るが、彼らは突撃するスピードを落とさず、
時には避け、時には斬り捨て一気に接近する。そして
「紫電!!!!」
シグナムの声に合わせ、二人は大きく剣を振り被る。未だにスピードは落とさず、このまま行けばバリアに直撃する勢い、
このまま行けば正に体当たり、だが三層目のバリアに当たったのは彼らではない。
「一閃!!!!」
シグナムの声に合わせるかのようにナイトガンダムが叫ぶ、そして二人は同時に己の剣を三層目のバリアに叩き付けた。
叩き付けられた二つの炎の剣、その斬撃に三層目のバリアはさしたる抵抗も出来ずに砕け散る、だが、彼らの猛攻は止まらない。
振り下ろした剣を、即座に引き、肩の高さで再び構える、その構えは相手を突き刺す時に行う構え。
だが、彼らが突き刺すのは人でもなければモンスターでもない、最後に立ちはだかる四層目のバリア。
「「はぁああああ!!!」」
互いが次に何をするのか理解しての攻撃、即席とはとても思えないコンビネーション。
それを可能にしたのは互いを信頼し、互いの戦い方を知っているからこそ、あの無人世界での戦闘で互いの戦い方は十分理解できた。
シグナムならこうするだろう、騎士ガンダムならこうする筈、疑いや疑問をいっさい廃止し、考えると同時に即座に行動を起こす。
その結果が、四層目のバリアを破壊するという功績を齎した。

四層目のバリアが破壊された直後、ナイトガンダムは右へ、シグナムは左へ、弾ける様に真横に呼ぶ。
それはまるで何かを避けるかの様な行動にも見えると同時に、何かに道を譲るかの様にも見える。
結果としてはその両方であった。
「撃ち抜け!!雷神!!!」『Jet Zamber』
フェイトとバルディッシュの声と共に、あの空間で使った斬撃魔法『ジェットザンバー』が振り下ろされる。
振り下ろされた瞬間、ザンバーの魔力刃は数十倍にも伸び、闇の書の闇を切り裂く。
あの時は体の不調などで満足に威力を発揮する事が出来なかったが今は違う、己の全力を出し切ることが出来る。
それを証明するかの様に雷光の刃は四層式バリアを無くした闇の書の闇の巨体を豪快に袈裟に切り裂いた。

             「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

その叫びは傷つけられた事への怒りか、それとも痛みから来る悲鳴か。
闇の書の闇は自身の再生よりも、周囲に砲撃用の触手を無数に展開、収束はせずに、数による弾幕を展開する。
相手を近づけさせず、己の再生時間を稼ごうとする、まるで意識があるのかと疑いたくなる様な行動。だがそれも彼らの前では通じない、
弾幕を展開してから約2秒後、砲撃用の触手は上空から降り注ぐ100近い魔力刃『スティンガーブレイド』によって次々と切り裂かれてゆく。
「まだまだいくよ!!スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!!」
闇の書の闇の真上に陣取ったクロノは再び広域攻撃魔法『スティンガーブレイド・エクスキューションシフト』を放つ。
新たな触手を出現させる暇を与えない猛攻、魔力刃の雨は闇の書の闇そのものも容赦なく切り裂いてゆく。
それでも再生をとめる事は無い、むしろ欠落した部分を無理矢理補うため、その姿は最初の時以上にグロテスクに変化していた。

「この・・・・・そんなら、攻撃と拘束!!一度で二度美味しい取って置きを喰らい!!」
その姿に皆同様、嫌悪感を隠す事無く表したはやては左手に持った夜天の書を開き詠唱を開始する。
「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け」
呪文など今のはやてには全くわかからない。そんな彼女が間違える事無く詠唱できるのは融合しているリインフォースの助けがあってこそ。
詠唱が終了した直後、はやての足元、そして闇の書の闇の斜め上空にベルカ式の魔法陣が出現、
そして直ぐに上空のベルカ式魔法陣の中心に一つ、そして周りに6つの球体が現われる。
それを確認したはやては、勢いよくシュベルトクロイツを振り下ろし、詠唱の最後を叫び唱えた。
「石化の槍、ミストルティン!」
周囲に展開していた球体が順番に闇の書の闇に向かって突撃する。それらは途中細長く形状を変化させ槍となって突き刺さる。
だがそれだけでは終らない、突き刺さった部分を中心に細胞の石化が始まり、瞬く魔に広がってゆく。

ベルカ式の魔法には相手を拘束する捕獲系魔法はあまり存在しない。それは攻撃を主体としているベルカ式ならではの特徴でもある。
それでも全く無いというわけではないのだが、その特性はある意味では拘束より残酷な攻撃方法として分類される。
例えばザフィーラの鋼の軛、これは数少ないベルカ式の拘束魔法なのだが、その拘束方法がミッド式とかなり違う。
ミッド式の様な相手を絡め取ったりする拘束とは違い、相手を突刺し、標本の様に貼り付けるという方法を取っている。
攻撃と拘束を一挙に行なえる拘束魔法・・・・・むしろ対人目的で使用した場合は立派な攻撃である。
そしてはやてが今放った『ミストルティン』これはなのはのメイン魔法である砲撃魔法に分類されるが、対象を吹き飛ばすといった効果はほとんど無い。
その代り、対象を石化させてしまうという効果があり、こと生命体相手に対しては『永遠の拘束』を齎す恐ろしい攻撃と化す。

放たれたミストルティンは瞬く間に闇の書の闇の体を石に変え、10秒も立たずに巨大な石の彫刻を作り出す。
自然と石化の重みに耐えられない部分は崩れ落ち、破片を海に撒き散らす。だが、石化しても尚、闇の書の闇は活動をとめない。
まるでかさぶたを剥ぎ取る様に石化された細胞を引き剥がし、其処から新たな細胞を作り出す。
その行為をいたる所で同時に行い、素早く石化された細胞を体から引き剥がす。
新たな細部から触手が、生物の頭が、手が、不自然に生え、体を新たに形成、既に元の形など無い、あるのは醜い固まり。
だが、必死に体を形成するあまり、攻撃を行なわなかった結果、闇の書の闇はチャンスを与えてしまった。自分の体を吹き飛ばせるほどの魔法を放てるチャンスを。
もし闇の書の闇に明確な意思があったのなら、再生を行わずに逃げていただろう・・・・否、ただ呆然としていただけかもしれない、
自分の上空で今か今かと放出を望んでいる桜、金、白、3つの巨大な魔力を目にすれば。

                                            「スターライト・ブレイカー!!!!!」

                                            「雷光一閃!!プラズマザンバー!!」

                        「響け終焉の笛!!ラグナロク!!」

小細工いっさい無し、純粋な破壊のみを追及した砲撃が一斉に放たれた。
正にトドメを通り越した圧倒的な破壊の嵐、全くの無防備だった闇の書の闇を吹き飛ばすのには十分だった。
着弾点を中心に大爆発が起こり、魔力の残照が派手に撒き散らされる。
この一斉攻撃には誰もが勝利を確信した、あの馬鹿魔力が3つ、ダメージを追っている闇の書の闇にダイレクトに当たったのだ、もう体は吹き飛んでいる筈。
そんな皆の願いが叶ったのか、煙が晴れた爆心地からは、闇の書の闇のコアが現われ漆黒の輝きを放っている。
「転送班!!!転送準備!!!提督!!今からそちらへ送ります!!!」
今目の前にある黒いコア、これを完全に消し去ればすべてが終る。この質量ならユーノ達だけでも宇宙まで転送は可能、不確定要素など何も無い・・・筈だった。
「長距離転送!!」
「目標!!きどう・・・・・っくそ!!!」
アルフの悪態の意味、それはコアを見た全員が嫌でも理解してしまう。
先ほどまで黒いコアだけだった筈が、既に再生を開始、コアは既に新たな細胞に包まれ、徐々に体を構築してゆく。
それでも今までのダメージが効いているのか、再生スピードはコアを包んだ直後、急激に遅くなり、それこそもう一度砲撃を加えれば再びコアを露出させることが出来た・・・だが
「くそ・・・・こうも早いなんて・・・・・ユーノ転送は可能か!!?」
「駄目だ!!質量を増された・・・・軌道上までは無理だよ!!!」
「くっ!!なのは、フェイト、攻撃できるか!!!」
「ごめん・・・もう、限界・・・・・」
「私も・・・・」
尋ねるまでも無い、なのは達の表情からしておそらく飛んでいる事もやっとなのだろう。それは八神はやてやヴォルケンリッターも同様、
おそらく今一番体力・魔力があるのは自分、だが、自分にはなのは達の様な高威力の砲撃を撃つ事ができない。
「(畜生・・・・僕は・・・何も・・・何も出来ないのか・・なに)クロノ!!」
内心で悔やんでいる時に聞こえる声、それは何時の間にか自分の隣にいたナイトガンダムの声だった。
「クロノ、君は魔力の変換で炎を作り出せるか!?」
「あっ・・・ああ、魔力変換や温度変化などの技能は熟知している、炎なら凍結よりは飛躍的簡単にできるよ」
その答えを聞いたナイトガンダムは右手に持っている炎の剣をクロノに差し出す。
「残された手段は一つだ、君の魔力を炎に変換し、炎の剣に火を灯してくれ!この剣は、邪悪な物を焼き尽くす効果がある、
あの時の巨大な姿ならまだしも、今の闇の書の闇になら、効果はあるはずだ」
突然舞い降りた最後の手段、一瞬クロノは呆気にとられてしまうが、直ぐに顔を引き締め、左腕で炎の剣を握る。
そして直ぐに自身の魔力を炎に変換、炎の剣に火を灯した。
宝石の様に輝きだす炎の剣に、一瞬見惚れてしまうが、直ぐに目標へと顔を向ける。そして
「さぁ、終らせよう!!君の手で、この事件をこの連鎖を・・・・行くぞ!!」
「ああ!!」
二人は弾ける様に突撃、それは一つの赤い魔力光となって闇の書の闇に迫る・・・・そして

             「「悪よ・・・・・・滅びろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

二人の力で振り被った炎の剣が、闇の書の闇を袈裟に切り裂く。その瞬間、クロノの魔力で変換された炎が激しく燃え盛り、闇の書の闇を包み込んだ。
それでも、闇の書の闇は往生際悪く再生を繰り返すが、再生した途端に炎が再生場所を燃やしつくし、増殖を抑える。そして
「これで・・・・・・終わりだぁああああああああ」
クロノは右手に持ったS2Uを燃え盛る闇の書の闇に押し付ける、力任せに押し付けたため、切っ先が砕け散るが、それでも機能に支障は無い。
これは母さんが自分のために作ってくれたデバイス、こんな程度では壊れない、それを証明するかのように収束が開始される・・・そして、
       
                             『Blaze Cannon』

母であるリンディの声と共に、熱破壊魔法『ブレイズキャノン』がゼロ距離で放たれた。
その攻撃は炎だけを残し外装を吹き飛ばす。再びコアが新たな体を構築し始めるが、その度にまとわり着いた炎がそれらを灰にする。

                            「「今だ!!!!!」」

クロノとガンダム、二人の声が木霊する。だが、その時には既に転送準備は整っていた。

                           「「「転っ送!!!!」」」

コアは3人の転送魔法により、軌道上へと転送される・・・・そして

                          「アルカンシェル・・・・発射!!」

軌道上へ転送された直後、既に発射準備を終えていたアルカンシェルが発射される。
そして空間を歪曲させながら反応消滅を起し、闇の書の闇は今度こそ、完全に、消滅した。


「効果空間内の物体・・・・完全消滅・・・・再生反応・・ありません!!!」
アースラからのモニターでも、それは確認出来る。だが相手が相手のため、リンディはエイミィの報告を聞くまでジッと着弾点を見つめていた。
そしてエイミィの報告を確かに聞いた後、肩の力を抜き、静かに準警戒態勢を維持するように伝えた。
「・・・・・ふぅ・・・・」
体から力が抜けるのが嫌でもわかる、いっそこのまま警戒をアレックスにでも任せて眠ってしまいたい気分になるが、そうも言っていられない。
地上にいる皆は自分達以上に疲れれているだろう、だから簡潔に報告するだけで済ませようと思う。
一度大きく背伸びをした後、地上にいる皆へと通信を繋ぐ・・・その直後、
「(はやて!!!はやてちゃん!!!ガンダムしっかりしろ!!ガンダムさん!!!)」
現場から聞こえてきたのは悲痛な叫びだった。

「(・・・・・ありがとう・・・・三種の神器・・・・この戦いが終るまで・・・・私に・・・ちか・・・ら・・・・)」
ふと剣の重みが増した事に、クロノは驚く。だが、それは一緒に持っていたナイトガンダムの手がただ離れただけ。
驚いた自分を恥ずかしく思いながらも、炎の剣をナイトガンダムに返そうとする・・・・その時
 
               「あぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

一瞬誰の声だか分からなかった・・・・・・だが、その叫びは近くから聞こえる。そうなれば一人しかいない。
ナイトガンダムは苦痛の叫びを上げながら体を激しく痙攣させる、そして急に動きを止め、グッタリする。
場の空気が一瞬で凍りつく、誰もが何が起きたかわからない。
「ガンダム・・・・どうした・・・・・ガンダム!!!」
この中で一番先に我に返ったシグナムが、普段あまり見せない心配そうな表情でナイトガンダムの元へと近づく、すると
彼女が手を触れようとした瞬間、霞の鎧の甲に嵌めこまれている赤い宝石が光り、石版を出現させる。
同時に、炎の剣は普通の剣へと戻り、鎧も以前の銀色の鎧へと戻る・・・そして
ナイトガンダムは体を2~3回揺らした後、ゆっくりと海面に向かって自由落下を始めた。

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最終更新:2009年05月31日 09:00