魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第19話

「・・・・くそ!!」
闇の書の闇は不愉快な気持ちで一杯だった。
本来だったら何時もの様に楽しむだけではなく、新しい体を手に入れ、長きに渡って殺戮と破壊を楽しむ。
それは決して難しい事ではない。少し趣向を変えれば直ぐに済むこと。
本来だったら今頃、新しい体でこの世界の住人を虐殺している筈だった・・・・・奴さえいなければ。
そもそも奴はこの世界の住人ではない全くのイレギュラー、何処の種族かも分からない本来ならいる筈の無い存在。
そんな不可思議な奴のおかげで、予定は粉々に打ち砕かれ、自分は生まれて始めて『不愉快』『苛立ち』という感情に支配されている。
だが、彼女『闇の書の闇』は『危機感』という感情には未だに支配されてはいなかった。
確かに、あの小娘達が持って来たアイテムにより、奴の力は爆発的に増した。まるでついさっきまで死にかけていたとは思えないほどに。
だが、奴が相手をするのはヴォルケンリッターの四人。無論実力もあるが、今までの戦闘から奴がシグナム達を殺せないことは知っている。
こいつらに情が移ったのかは知らないが、そんな奴の甘さこそ、どんな力を得ても克服できない奴の最大の弱点でもあり、自分にとっての最大の武器と言っても過言では無い。
「ふふっ、この甘さ、徹底的に利用させてもらわ」

大体のプランは直ぐに考え付いた。
先ずはザフィーラが体を張って奴の動きを封じる、それこそ後ろから羽交い絞めなどでいい。
その後、シャマルの『旅の鏡』で奴のリンカーコアを取り出し再起不能にする。
そしてトドメとしてヴィータのギガントシュラークとシグナムのシュツルムファルケンで決まり。
あの盾の強度は先ほど嫌というほど分かったが、様は構えさせなければいいこと、あの鎧も鎧である以上盾ほどの強度はない筈。
いくらパワーアップしたとはいえ、あの二人の攻撃をモロに喰らえば装備者諸共、砕け散る事だろう。

「まぁ、ザフィーラは尊い犠牲ってことで・・・・筋肉質な奴は嫌いだから丁度いいか」
自然と不愉快感や苛立ちが収まってくる。腕を組み、ニヤつきながら自体を見守る。
先ずはザフィーラが先陣を切り、拳を振り被りナイトガンダムに殴りかかる。
「さて、お優しいナイトガンダム様はどう出るのかしら?盾で防ぐか?回避するか?素直に殴られるか?」
魔力で強化された拳がナイトガンダムの顔面に迫る。無意識か、それとも騎士としての本能か、自然と鎧の加護を受けていない顔に迫る拳。
だが、ナイトガンダムは闇の書の闇・・・否、この戦いを見ている全員が予想もしなかった行動に移った。

ザフィーラの拳を紙一重でしゃがんで避ける、この行動は誰もが予想する事が出来た。
だがナイトガンダムが致命傷を与える反撃、相手を殺すという行為を取るとは誰もが予想し得なかった。
ナイトガンダムはザフィーラの拳を避けたと同時に、炎の剣に炎を纏わせる、そして地面を蹴り、すれ違い様にザフィーラの胴体を横一文字に切り裂いた。
炎の剣はザフィーラの体に深々と食い込み、彼の体の中を横一文字に通り過ぎるが、切り裂かれても尚、彼の胴体は分かれる事はなく一滴の血すら滴り落ちない。
だがその直後、ザフィーラは激しい炎に包まれた。
「いや・・・・・いやぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
一瞬にして火達磨となる家族に、はやては張り裂けんばかりの叫び声を上げる。
家族が火達磨となったのだ、彼女の叫びは当然といえる。必至にザフィーラの名前を呼ぶが、彼は答えることなく燃えさかり、ゆっくりと崩れ落ちた。
「なんで・・・・なんでや・・・・なんでや!!!!」
あの時の光景が頭を過ぎる、なのはとフェイトの偽者によって皆が消された時のあの光景が。
ザフィーラを殺したナイトガンダムが憎い、自然と憎悪を秘めた瞳で彼をにらみつける。
だが、それが間違いだと警告している自分もいる。操られ、命を狙われている以上、ああするしか方法がなかったのも事実。
この湧き出る憎悪は、ナイトガンダムを恨むと同時に、自分達を必至に助けようとしているナイトガンダムが、
あのまま死んでしまえばよかったという事を自分自身に認めさせるようなもの。
それでも、分かってはいるが、ザフィーラを殺したナイトガンダムを許すことは出来なかった。感情を制御し、自分自身を無理矢理納得させるにははやては幼かった。
感情に任せ、ナイトガンダムを大声で罵倒しようとするが、この行為をリインフォースが手で制する。
自然と庇い立てするリインフォースを睨みつけるが、彼女はその視線を真正面から受け止める、そしてはやてを落ち着かせるようにゆっくりと話し始めた。
「落ち着いてください主、盾の守護獣は・・・・死んではいません」

一瞬にして火達磨となる駒に、闇の書の闇は呆然とする。
奴の『顔見知りを殺せない』という甘さを期待していたのだが、結果は予想を大きく上回る事となった。
「ふっ、いよいよ見境を無くしたか!!!?」
皮肉を込めた言葉に答えず、ザフィーラを斬り倒したナイトガンダムは、続けて旅の鏡を発動させようとしているシャマルへと斬りかかる。
接近するナイトガンダムを無表情で見つめるシャマルは、旅の鏡を発動。ナイトガンダムのリンカーコアを抜き取ろうとする。だが、
「っ!!?」
手を入れた瞬間、彼女の手に激痛が走り堪らず鏡から手を離す。
それは感じた事の無い衝撃だった。本来、リンカーコアに直接触れる事が出来る旅の鏡に対し、いかなる防御も不可能。
外的手段ではなく、直接リンカーコアに触れるこの行為は、ある意味では最強の攻撃と言っても過言では無い。
だが、ナイトガンダムには通じなかった、鏡に手を入れた瞬間、進入を拒むかの様に手に激痛が走る。
攻撃ではない・・・・これはまるで『触れられる事を何かに拒否されるような感覚』
もし今のシャマルが操られていなかったら、この事態に驚きはしたものの、距離を取るなり、シグナム達に援護を求めたりなど、
臨機応変な行動が出来たに違いない。
だが、今の彼女は操られているだけの人形、ただ『旅の鏡を使え』という命令しか聞いていない今の彼女では臨機応変な態度を求めるのは酷な事だった。
通用しないと分かってはいるが、彼女は攻撃を再開する。無駄だと分かっていても、ナイトガンダムが迫ってきても・・・ただ命令通りに。
地面を蹴り、シャマル目掛けて突撃、再び旅の鏡に手を入れようとするシャマルの胸にナイトガンダムは炎の剣を突刺す。
ザフィーラの時と同じく、剣が突き刺さっても血は一滴も流れない。その代り、シャマルも同様に激しい炎に包まれる。
あっという間に駒であるヴォルケンリッターがやられた事に、闇の書の闇は不快感を表すが、直ぐに余裕のある表情へと戻る。
「・・・・まぁ、この二人は戦闘に関してはシグナムとヴィータには劣る、やっぱり戦闘向きではないか・・・・・でも、まだまだ働いてもら・・・・う・・・・」
面倒だが、再びリンカーコアを修復し、二人を蘇生させようとする。だがそれが出来なかった。
炎に包まれた筈の二人、炎が消えその姿を確認した時、誰もが目を疑った。誰もが焼かれ、黒焦げになった二人の姿を想像していたが、
二人とも火傷は愚か、服にさえ焦げ痕すらなく、全くの無傷だったからだ。
だが、闇の書の闇の驚きはそれだけではなかった。炎が晴れた直後、あの二人と自分を繋ぐパスが突如切れたのだから。
「・・・・なっ・・・お前!!何をした!!」
否、聞かなくても分かる。自分とあの二人を繋ぐパスが切れたという事は、あの二人は自分の支配下から逃れた事それはつまり

「ナイトガンダムは、二人を縛る戒めのみを・・・・奴の一部のみを殺しています・・・・・そんな事が出来るなんて・・・」
はやてに説明しているリインフォースですら信じられない。奴の一部は守護騎士達のリンカーコアの中に紛れ込んでいる。
仮に奴の一部のみを排除しようものなら、間違いなく守護騎士達のリンカーコアにも深刻なダメージを与える事となる。
だが、あの騎士は肉体は勿論、リンカーコアにすらダメージを与える事無くそれをやってのけた。不可能な筈の行為をあっさりとやってのけたのだ。

それが出来たのは三種の神器の一つ、思いを力とし、装備者に対する『悪』のみを燃やし尽し消滅させる事が出来る『炎の剣』だからこそ出来た事。

「じゃ・・・じゃあ・・・・シャマルとザフィーラは」
「はい、今は気絶していますが、無傷です、奴の戒めからも解放されています」
その報告に、はやては嬉しさのあまり、目に涙を浮かべるが、同時に先ほどナイトガンダムに向けた憎悪に対する罪悪感に苛まれる。
彼は自分達を助けてくれる所か、操られていたシャマルとザフィーラを救ってくれた。
そんな彼に対し、知らなかったとは言え自分は憎悪が入り混じった瞳で彼をにらみつけてしまった・・・言い訳の仕様が無い。
「はやて!」
そんな罪悪感のループに堕ちそうになるが、ナイトガンダムの声により無理矢理引き戻される。
自分を呼んでいることは分かっている、だが罪悪感からか顔をあげることが出来ない、彼を見る事が出来ない。

ナイトガンダムも自分を見る事が出来ない彼女の気持ちを感じ取る事は出来た。だからこそ、彼女の反応を待たずに言葉を投げかける。
「君の家族は必ず救ってみせる・・・・・・だから、もう暫く辛抱してくれ!!」
あんな態度を取った自分に投げかけるとは思えない言葉に、はやては目を見開き、自然を頭を上げる。
其処には笑顔で自分を見つめ、軽く炎を剣を掲げるナイトガンダムの姿、それを見た瞬間、罪悪感は一気に吹き飛び顔からは微笑がこぼれる。
多少乱暴に瞳を擦り、涙をふき取る。そして一度深呼吸をした後、その笑顔に答えるかのように、親指を立て、満面の笑みで微笑み返した。

「なに余裕かましてんのよ!!!」
戦闘中に雑談をするなど、余裕の現われにしか見て取れない。その行為は闇の書の闇の不愉快感を増大するには十分だった。
感情をむき出しにし、残ったシグナムとヴィータに攻撃を命令する。
先ずはシグナムがレヴァンティンを両手で構え、地面を蹴りナイトガンダムに接近、カートリッジをロードし剣身に炎を纏わせ
彼の頭目掛けて振り下ろす。
今は言葉を喋る事が出来ないが、もし話すことができたなら『紫電一閃』と凛々しい声で技名を叫んでいたであろう斬撃。
それに対し、ナイトガンダムはその場を動かずに、炎の剣で彼女の斬撃を正面から受け止めた。
剣同士がぶつかり合い甲高い音が木霊する。互いの炎の剣が軋みを上げ鍔競り合いが開始されるかと思ったが、
「シグナム・・・・貴方は・・・・この程度では・・・無いだろう!!!!」
叫びと共に、炎の剣に更に炎を纏わせ力任せに吹き飛ばす、同時にナイトガンダムは地面を蹴り、吹き飛ばしたシグナムへと一気に近づく、
吹き飛ばされたシグナムは空中で体を捻りバランスを取り戻し、地面に叩きつけられる事を回避、踵で地面を引きづりながらも、どうにか着地する。
だが、その時には既に、ナイトガンダムが目の前まで接近しており、上空から彼女目掛けて剣を振り下ろしていた。
迫り来る炎の剣、シグナムは咄嗟にレヴァンティンの鞘でその斬撃を受け止める。
再び響き渡る金属音、だがそれも一瞬、叩きつけられた瞬間炎の剣はレヴァンティンの鞘を叩き斬り、そのままの勢いでシグナムを袈裟ぎりに切り裂いた。
地面に着地すると同時に、シグナムは激しく燃えさかり、地面に倒れこむ。

                           「殺れ!!」

明らかに焦りがにじみ出でいる闇の書の闇の声が響く、ナイトガンダムとシグナムを覆う影が現われたのはその直後だった。
咄嗟に上を向く、ナイトガンダムが目にしたのは迫り来る壁、彼がそう勘違いしても不思議ではない。
それはヴィータのデバイス、グラーフアイゼンのフルドライブモードである『ギガントフォルム』
ハンマーヘッドを巨大な角柱状へと変形させ、大型の相手を撃ち砕く正に一撃必殺。
だが、攻撃対象が人間ほどの大きさの場合、その鉄鎚は『打ち砕く』のではなく『叩き潰す』凶器へと変化する。
直撃すれば無残な肉片をさらすこととなるその凶器が、何の警告も無く振り下ろされた・・・・・倒れているシグナム諸共。
何かが叩きつけられた轟音と共に、衝撃波が吹き荒れる。
「ガンダム!!シグナム!!」
ナイトガンダムが今までいた所・・・・今では巨大なハンマーヘッドが鎮座している所に向かってフェイトは叫ぶ。
明らかに今のは不意打ちだった・・・・・避ける姿は確認できなかった。
此処からでも嫌というほど分かる、あの攻撃が防御などで・・・・それこそなのはの障壁でさえ防ぐ事は難しい事が。
だが、ハンマーヘッドが鎮座している所を改めてよく見た瞬間、『ナイトガンダムとシグナムが潰れた』という考えは、一気に頭の中からかき消される。
おそらくはやてを含めた全員も同じことを考えていたのだろう。皆がフェイトと同じ光景を見た瞬間、
闇の書の闇は苦虫を噛み潰した表情で歯を食いしばり、それ以外の全員は安心と希望に満ちた瞳で見据える、
地面に浮いたグラーフアイゼンのハンマーヘッドを。

ヴィータの一撃必殺の攻撃、ナイトガンダムはそれを避ける事無く、防ぐ事を選択。即座に力の盾を構え踏ん張る。
その直後、ハンマーヘッドが力の盾に直撃、激しい轟音と衝撃がナイトガンダムに襲い掛かった。
「くっ!!」
体に掛かる負担に、堪らずうめき声を上げる。いかに三種の神器を装備していたとはいえ、真正面からこの攻撃を完全に防ぐ事は出来なかった。
打撃によるダメージは無いが、叩きつけられた時に発生した衝撃は体の中に染み渡る。
この衝撃で痛いほど分かる。もし石版の力がなければ間違いなくシグナム諸共潰れていたに違いない。そんな考えが頭を過ぎるが、今は考える時ではない。
両足を踏ん張り、体に力を入れる。そして
「おおおおおおおお!!!!」
自ら気合を入れるための大声と共に、力の盾を力の限り押し付け、グラーフアイゼンを徐々に持ち上げる。
無論、ヴィータも黙ってはいない、グラーフアイゼンのグリップに力を込め、今度こそ二人を押しつぶさんと押し付ける。
互いに一歩も譲らない力勝負、当然『彼女』はこんなチャンスを見逃す筈はなかった。
「ふっふ~、計画通り!狙い打ち放題!!」
闇の書の闇はチャンスといわんばかりに弾んだ声で右手を翳し、身動きが出来ないナイトガンダムに向かって攻撃を放つ。
本来だったら避けるなり切り払うなり出来る攻撃も、グラーフアイゼンの攻撃を耐えている今の状態ではいとも簡単に直撃する。
「ほらほらほらほらほら~!!!!」
動けない事をいいことに闇の書の闇は攻撃を続ける、だか彼女は破壊力ではなく、連射を重視した攻撃を行なう。。
本来なら、破壊力を考慮した攻撃で一気にバランスを崩す事が望ましい、だが彼女はあえてそれをせず、威力が軽減する連射による攻撃を行った。

それには彼女らしい理由があった。自分に生まれて初めて屈辱を与えた奴に、ジワジワと死を味わってもらうため。
奴のバランスを崩し、ヴィータに潰してもらうのは簡単だ。だが、そんなあっさり死んでもらっては困る。
あいつには迫り来る死を味わってもらう必要がある、自分をコケにした当然の報い。

「くっ・・・・」
休む事無く続く攻撃、全てが吸い込まれる様にナイトガンダムに直撃するが霞の鎧の防御力により、ダメージ葉を受けることはなかった。
それでも体に響く衝撃はナイトガンダムの集中力を鈍らせるには十分な効果を得ていた。
その証拠に、序所ではあるが、力の盾は押され、グラーフアイゼンはゆっくりと下がる・・・そして
「そろそろ潰れてもらいましょうか」
ニヤつきながら足元に魔法陣を展開、ナイトガンダムに向かって手を翳し、魔力を収束させる。
彼女が撃とうとしている魔法は、なのはの必殺魔法『ディバインバスター』威力は先ほどまで放っていた魔力弾とは比べ物にならない。
ナイトガンダムのバランスを崩すには十分すぎる攻撃。
収束は終っている、あとは放つだけ・・・・・・・・だが、
「さて・・・・収束完了、これでさよっ!!?」
『これでさよならよ』そう言おうとした瞬間、闇の書の闇は豪快に真横へと吹き飛んだ。

「・・・・ナイト・・・・ガンダム・・・・・」
未だに体を支配するダルさに苛まれながらも、フェイトはナイトガンダムの方へと顔を向ける。
グラーフアイゼンの打撃と、闇の書の闇による攻撃、状況は再び最悪な方向へと進んでいた。
彼女には分かっていた、ナイトガンダムはその気になればヴィータの攻撃を避ける事が出来た事を、だが彼はそれをせずに防御に徹した。
理由は分かる、近くで倒れているシグナムを助けるため、そしてヴィータに仲間殺しという汚名を着せないため。
おそらく・・・・否、ほぼ間違いなく、彼女は知っていてヴィータに攻撃命令をしたのだろう、ナイトガンダムが避けないと確信して。
「そろそろ潰れてもらいましょうか・・・・・」
嬉しそうに微笑みながらナイトガンダムに向かい手を翳す、先ほどの様な連射とは違い、砲撃を放つため収束。
「・・・だ・・め・・・だ・・・・」
撃たせてはいけない・・・・・助けなければいけない・・・だが、体が言う事を聞かない。
このまま何も出来ないのか・・・黙ってナイトガンダムがやられてしまう光景を見ている事しか出来ないのか。
あの砂漠の時も、そして先ほども、自分はナイトガンダムに助けられっぱなしだった。だからこそ、
「・・・そんなの・・・いやだ!!」
このまま見ているだけなど出来ない、手を伸ばしバルディッシュの柄を力強く握る、そしてそれを杖代わりにし、ゆっくりと体をおこす。
体がだるい、目がくらむ、経験した事は無いが二日酔いとはこのような状態なのだろうだと、ふと思う。
闇の書の闇はナイトガンダムに攻撃をする事に夢中となっているため、自分が立ち上がった事には全く気が付いていない、正に好都合。
カートリッジをロードし、再びバルディッシュをザンバーモードへと変形させる。
「バルディッシュ・・・ごめん、ザンバーの魔力コントロール・・・・御願い・・・・・」『・・・・・sir・・・・・』
本当なら今の主には動いてもらいたくは無い、心を持つバルディッシュだからこそ出来る主への気遣い。
だが、心があるからこそ、彼女の思いを受け止める事が出来る、感じる事が出来る。ナイトガンダムを助けたいという彼女の思いを。
ザンバーに魔力刃か形成される。だが、今の自分には接近戦は愚か、まともに動く事ができない、それでも攻撃方法はある。
右足を一歩前に出し、ザンバーを肩に担ぐように構える、歯を食いしばり体に力を入れ攻撃する相手をにらみつける、そして
「はぁあああああああああああああ!!!!!」『Jet Zamber』
普段はあげる事の無い大声で叫びながら、フェイトはバルディッシュをバッドを振るうかのように横薙ぎに振るう。
振るわれた瞬間、ザンバーの魔力刃は数倍に伸び、横一文字に目標へと迫る・・・そして
「さて・・・・収束完了、これでさよっ!!?」
渾身の攻撃は見事闇の書の闇のわき腹に直撃、体を面白いようにくの字に曲げた彼女は、豪快に吹き飛んだ。
振るったときの勢いに体が耐えらえず、フェイトは再び地面に叩きつけられる様に倒れこむ。
本当だったらこの斬撃、剣刃の部分でたたきつけることが望ましかった。そうすれば対象は真っ二つになってたに違いない。
だがフェイトは怖かった、人で無いとは言え、憎い相手とは言え、人の形をした相手を切り裂くという行為が・・・・・
馬鹿だと思う、甘い考えだと思う、だが自分には出来なかった、剣背で彼女を叩きつける事しか。
それでも、後悔のループに飲まれる前に最後の力を振り絞り、大声で叫んだ。

                「ナイトガンダム!!!!今!!!」

「ぐっ・・・・おおおおおおおおおお!!!!!」
動くことは無論、立つ事すら辛い筈、それでも、彼女は自分を助けるために頑張ってくれた。
ならば、自分はそれに答える必要がある、彼女が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
両足に力を入れ、力の限り力の盾を押し付け、グラーフアイゼンを押し戻す。
無論、ヴィータも叩きつける力を弱めてはいない、だが徐々にではあるがグラーフアイゼンは押し返される、そして
「はぁ!!!」
ナイトガンダムは渾身の力を込める、その直後、グラーフアイゼンは弾ける様に吹き飛び、ヴィータもまた空中でバランスを崩す。
その隙と言わんばかりに、ナイトガンダムは跳躍、一気に距離をつめ、空中でバラスを取り戻したヴィータの胸に炎の剣を突刺した。
激しく燃え上がり、落下しそうになるヴィータを、ナイトガンダムは抱きかかえ、ゆっくりと降りる。
そして彼女の体をシグナムの隣にそっと横たえた。

「この・・・・・小娘!!!」
怒りに顔を歪ませながらフェイトを睨みつけようとする。だが、ヴィータとのパスが突然切れたことにより、
怒りよりも動揺が彼女を支配する。案の定、最後の駒であったヴィータは気を失っており、シグナムの隣に寝かされていた。
「ちっ!!こうなれば!!!」
癪だが、今の自分には勝ち目は無い。だが、暴走すれば話は別。
圧倒的な力で全てを飲み込み蹂躙する。ナイトガンダムは無論、此処にいる奴、外にいる奴、この世界の奴、関係ない。
何時もの様にアルカンシェルで蒸発という結末が待っているであろうが、また転生すればいいこと・・・・そのためには
「死ね!八神はやて!!」
もうニヤつきながら攻撃するほどの余裕も無いのだろう、ヴィータ達を心配そうに見つめているはやてに、闇の書の闇は
先ほどまでチャージしていた『ディバインバスター』をはやてに向かって放った。
真っ直ぐにはやてに向かう桃色の魔力。その眩しさに、はやてはその存在に気づいたものの、何もする事が出来ない。
リインフォースは再び体を張って主を助けようとする、フェイトは体の自由が効かない為見ていることしか出来ない。
ナイトガンダムはそんな二人の前に出ようとするが、一歩前に出た後、突如その行動を中断する。
無論、はやてを助ける事は出来る、だがそれは自分の役目ではない。

                  彼女を・・・主を助けるのは、守護騎士の役目だから

瞳に写る桃色の光、だが、彼女の前に人が立ちふさがり、その光をかき消してしまう。
見覚えが・・・・・否、見間違える筈が無い、知っている背中だ、自分がデザインした騎士服、家族の中で唯一の男性。そう、彼は
「盾の守護獣!ザフィーラ!!主達は、やらせん!!!」
両手を翳し障壁を展開、迫り来るディバインバスターを防ぎきる。
リインフォースがはやてを庇うと予測しているため破壊力はかなり高くしており、それこそ並の障壁なら術者ごと吹き飛ばす攻撃。
だが、ザフィーラの張る障壁はそれを軽々と受け止める、盾の守護獣の名に恥じない防御力。
「ザフィーラ!!」
自分達を守ってくれた守護獣の名を呼んだ瞬間、突然体に心地よい風が吹く。
暖かい風、ずっと身を任せたい感覚に囚われるが、そっと肩に置かれた手に我に帰り後ろを向く。
否、置かれた手を見ただけで誰かは分かった。指輪の形をしたデバイスを持つ女性、自分が知る限り一人しかいない。
誰よりも早く今の生活に馴染んだ女性、何時も皆を見守るように微笑む母の様な存在、だが、料理は少し苦手でいつも自分が教えていることを思い出す。
「シャマル!!」
「はい、湖の騎士シャマル、ただ今戻りました、クラールヴィント、御願い」
はやての肩からそっと手を離し、指輪に向かって口付けをする。それは、シャマルが最も得意とする回復魔法の一つ。
至近距離の範囲内にいる特定した相手の治療、体力・魔力の回復、さらに防護服の修復まで行うことが出来る高位補助魔法『静かなる癒し』

                   「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

はやてに、リインフォースに、フェイトに、ナイトガンダムに風が吹く。優しく温かな風が包み込む様に優しく穏やかに。
皆の体力、魔力は回復し、リインフォースとフェイトの敗れたバリアジャケットも元通りに修復される。
フェイトは本調子に戻った事が嬉しいのか、この時ばかりは歳相応の笑みで嬉しさを表現し、
軽く腕を動かしたり、飛び跳ねたりして調子を確かめ、体が完全回復した事を実感する。
「すごいです!体がとても軽い!!ありがとうございます!!」
嬉しそうに微笑みながらお礼を言うフェイトに、シャマルは笑顔で答えた。

そんな彼女達とは正反対に闇の書の闇は先ほど同様、苦虫を噛み潰したような表情で一部始終を見ていた。
自分の駒として復活させた守護騎士が、自分の命令を躊躇無く聞くはずの騎士が、傷一つなく自分の呪縛から逃れている。
これほど癪な事は無い。これも全てあの騎士のせいだ、
「お前が・・・お前が全て!!」
もう感情に任せるのみだった、元凶であるナイトガンダムにむかって我武者羅に攻撃を放つ。
後ろを向いていたナイトガンダムはその攻撃には気付かない、いち早く気付いたフェイトが咄嗟に防御に回ろうとするが
彼女より早く、人影がナイトガンダムの前へと出る、そして炎を纏わせた剣を一戦、迫り来る砲撃を切り払った。
「・・・・・油断するな、騎士ガンダム、お前らしくない」
そう言い、炎の魔剣、『レヴァンティン』をゆっくりと下ろしながら後ろを向く。
此処からでもその凛々しさを感じる事が出来る、とても真面目で真っ直ぐ、その性格が災いしてか、今の生活に慣れるのに一番時間がかかった。
それでも一生懸命平穏な生活に馴染もうとする姿に関心すると同時に、悪いと思いながらも笑ってしまった事を憶えている。
ヴォルケンリッターの将であり、八神家では母の様な存在であるシャマルとは違い、凛々しい父親の様な存在、
「シグナム!!」
嬉しさを隠す事無く、自分の名を呼ぶはやてに、シグナムは微笑みで答える、そして
『Schwalbefliegen』
突如聞こえる電子音、その直後、再び攻撃を放とうとする闇の書の闇に無数の鉄球が襲い掛かった。
闇の書の闇は攻撃を中断し防御魔法を展開、その攻撃を防いだものの、不愉快さを隠す事無く、攻撃を行なった相手をにらみつける。
そんな彼女とは裏腹に、はやては先の3人と同じ様に嬉しさを隠す事無く、シグナムの隣に降り立った相手の名を呼ぶ。
最初は自分を常に警戒した瞳で見つめ、3人の中で最後まで『主と下僕』という関係を無理矢理続けていた子。
それでも打ち解けてみれば自分に懐いてくれ、作る料理を何時も美味しいといってくれた可愛い妹の様な存在、
「ヴィータ!!」
嬉しさを隠す事無く、自分の名を呼ぶはやてに、ヴィータもまた、満面の微笑みで答えた。

「くそ・・・・・思い通りにいかない、どいつもこいつも、言う事を聞かないでぇ!!!!」
駄々をこねる子供の様に叫びながら、再び攻撃を放つため、翳した右腕に魔力を集中する。
その光景を見た瞬間、シャマルとザフィーラ、リインフォースははやてを守る様に彼女の前へと立ち、
シグナムとヴィータ、フェイトは攻撃を仕掛けようと踏み込もうとする。
だが、ナイトガンダムは特に剣を構えるわけでもなく、自然と一歩前へと出た。
攻撃を放とうとしている自分に対し、無防備に前へと出るナイトガンダム。彼女からして見れば、舐めた真似をしているとしか思えない。
「舐めるなぁあああああああああ!!!!」
叫びながら放った攻撃は何の障害も無く直撃し、激しい爆音と爆煙が辺りに立ち込める。
だが、爆煙が晴れた所には骸はなく、闇の書の闇をじっと見つめるナイトガンダムの姿、そして何事も無かったかのようにまた一歩前へと出る。
「・・・・貴様に教えてやろう・・・・」
相手を威圧する重い声、闇の書の闇は自然と一歩後ろへと下がり攻撃を再開する。
だが、攻撃が当たっても尚、ナイトガンダムは構わずゆっくりと一歩一歩近づく。
「・・・・・悪が栄えた例は無い・・・・」
立ち止まり、炎の剣を一度振るい、剣身に炎を纏わせる。
その光景に攻撃を続けながらも自然と顔を引きつらせ、再び後ろへと下がる。だが、ナイトガンダムは容赦はしない。
「・・・・・・正義は勝つ・・・・・・・」
一定の距離まで近づいた後、ゆっくりと炎の剣を構え、足を踏み込む。
はやて達から見れば凛々しい姿に写るが、闇の書の闇から見れば、死を齎す死神にしか見えない。
気が付いてみれば攻撃の手を休め、徐々に後ろへと・・・・・ナイトガンダムから逃げている自分がいる。

                   「そして正義は・・・・・・・我にあり!!!」

「消えろぉおおおおお!!!!」
砲撃を放つが、恐怖が体を支配し、ナイトガンダムには全く当たらない。既に戦意が喪失しているといっても過言ではない。
本当なら、このような相手を斬る事はしたくは無い、それは自身が立てた誓い。だが奴は別だ、恐怖と殺戮を撒き散らした根源である奴は。
だからこそ、今回に限り、この誓いを捨てる・・・・奴を滅ぼすために。
我武者羅に放つ攻撃の一つがナイトガンダムに迫る。だが、避ける所かナイトガンダムはそれに向かって地面を蹴り突撃、
攻撃が直撃するも、速度を落とさずに闇の書の闇に迫る。そして

                 「消えるのはお前だぁあああああああああああああ!!!」

そのままの勢いで、炎の剣を闇の書の闇の胸に突刺した。
その瞬間、ヴォルケンリッターの時と同様に激しく燃え上がる。だがその炎は彼女という存在を消滅させるために燃えさかる。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
感じた事の無い苦しみ、だが、この苦しみは自分の体がダメージを受けている事、そして自分という存在が消えるという証拠だとは理解できる。
生まれて初めて味わう死の恐怖、自分が散々撒き散らしてきた恐怖が自分自身に襲い掛かる。

その時であった、自分自身というプログラムが崩壊する予兆なのか、今までの記憶が無作為に頭を過ぎる。
正に走馬灯という体験、様々な記憶が移っては消えてゆく・・・・・・・・・・・・・・その中に見覚えの無いものがあった。
辺りは戦場、上空には巨大な戦艦が埋め尽くすように存在し、辺りは魔道師や質量兵器で武装した人間達、機械で出来た兵器と同じ仮面を被った人の群れ。
自分は見た事が無い・・・・・おそらくバグで消えていたと思っていたリインフォースの・・・・夜天の書の記憶だろう。
その記憶も直ぐに消え、また別の記憶が入り込む。
機械の残骸だらけの大地、空を埋め尽くしていた船は大地へと墜落、もしくは着陸しており、今では青空が広がる。
そして大地には先ほどまで戦っていた人間が、中には王と思われる女性までも、敵味方無く全員跪いている。
皆が見つめるその先、其処には黄金の光・・・・・・・否、これは・・・・・あいつだ・・・・ナイトガンダムだ。
姿が違えど顔は瓜二つ・・・だが、跪いている皆はそうは呼ばなかった。
跪いている群集の中心にいる女性、おそらく王であろう人物は跪いたまま顔を上げ、彼をこう呼んだ。

                            「神」と

「中で・・・・何が起こっているんだ・・・・」
中の様子が写らなくなった事に、クロノは苛立ちを抑えるかのように歯を食いしばる。
ナイトガンダムが闇の書の闇に炎の剣を突刺した直後、中の様子を映し出していた映像モニターはホワイトアウト、
そのため中の様子をうかがうことが出来ない。
最後に見た映像からナイトガンダムが奴にトドメを刺した事は理解できる、ならなぜ彼らは出てこないのだろう?
なぜ目の前の黒の半球は消えないのだろう。
まさかやられてしまったのか?いやあの状況からでは考えられない・・・だが、不安が自分を・・・否此処にいる皆を支配する、その時
「・・・な・・・何!?」
大地・・・否、周囲の空間が揺れ動くような感覚が皆を襲う、アリサとすずかは立っていられず、互いにしがみ付いたまま足場に座りこむ。その直後、
黒の半球は突如大爆発、激しい光と音となって皆に襲い掛かった。
「「きゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」」
アリサとすずかは堪らず大声で叫び、なのはなそんな二人を守るように前へと出る。
攻撃かと思い、咄嗟に障壁を張るが、襲ってくるのはただの爆音と衝撃波、それもじょじょに収まってくる。
安心し、障壁を解こうとしたその直後、多数の魔力反応が周囲に突如出現した。
本来なら障壁を解かないのは無論、即座に戦闘態勢に入るべきなのだが、なのはは障壁を解除、レイジングハートをゆっくりと下ろす。
なのはには直ぐにわかった、その出現した魔力反応、それは自分達が良く知っている人物達の物だという事が。

フェイトはゆっくりと瞳を開けた後、バルディッシュザンバーを構えたまま辺りを確認するように見渡す。
おそらく出られたということを理解し切れていないのだろう、それでも近づいてくるなのはと目が合った瞬間、
外に出られたことをようやく確認し、安殿の溜息をつこうとするが
「フェイト!!!!」
突撃するようにフェイトに抱きつくアルフによって阻まれてしまう。
「い・・・・・痛いよ・・・アルフ!!!」
泣きながら自分の名前を呼ぶアルフの頭を優しくなで彼女を落ち着かせる。
そして、自分を大事に思ってくれる使い魔に、自分を心配してくれる友達に、無事帰還した事を伝えた。
「ただいま・・・・アルフ・・・・なのは」

ナイトガンダムもフェイト同様辺りを確認するように見渡す。そんな彼に真っ先に声をかける二人の少女
「「ガンダム(さん)!!」」
ナイトガンダムは声の主を直ぐに見つけ、彼女達の元へと近づく。
彼が無事でいた事、そしてまた会えたことに二人は心から嬉しく思う。本当は抱きつきたい、嬉しさを分かち合いたい。
だが飛ぶ事が出来ないため、彼が来るのを待つしかない、そんな歯がゆさがアリサをいらだたせるが
「二人とも・・・・・ありがとう。この勝利は君達のおかげだよ」
笑顔でお礼を言うナイトガンダムの姿にその苛立ちも一瞬で消える、その代り、照れくさい気持ちが彼女を支配し、ついそっぽを向いてしまう。
そんな友の態度を微笑ましく見つめながらも、すずかは自然とナイトガンダムの頬にあて、優しく撫でる。彼が目の前にいるということを確認したいために。
「私達、ガンダムさんに何かしたかったら・・・・・自分達が出来ることを・・・・・・でもよかった・・・・・本当に」
涙が瞳からにじみ出てくる事がわかる、会えた嬉しさ、感謝された嬉しさが彼女の感情を高ぶらせる。
だが、今は泣く所ではない、笑顔で彼を迎える。それが自分達の仕事なのだから。

そしてはやてとヴォルケンリッターの面々もまた、二人と同じ行動をする。
リインフォースに抱き抱えられたはやては安堵の溜息をつき、喜びを皆で分かち合おうとしたが、リインフォース以外の全員は
彼女と顔を合わせようとはしなかった。四人全員が気まずそうに俯き、何かを言いたそうに口を開こうとする。
「ええよ・・・・皆わかってる」
彼女達の気持ちは理解している、自分との誓いをやぶって収集活動をしていた事への罪悪感だろう。
だが、はやては彼女たちを攻める気は毛頭無かった、無論彼女達の行いを褒める気は無いが、
誓いを破ってまで自分の事を心配してくれた皆の優しさは、彼女の心に深く染み渡る。
「・・・・・・色々あるけど・・・今は後回しや・・・・・今は・・・・」
近くにいるヴィータの頭にそっと手を載せる。怒られる、嫌われる、そういう気持ちで一杯だったヴィータは恐る恐る顔を上げる。
だが其処には、自分が予想しなかったはやての笑顔、そして
「・・・おかえり・・・みんな・・・・」
それだけで十分だった、ヴィータは大声で泣きながらはやてに抱きつき、シグナム達はその言葉を目を瞑り、体に染み渡らせるように聞き入れた。

皆がそれぞれ再開を喜びあっている最中、突如クロノの叫びが木霊する。
「・・・まだだ!!!」
その言葉に反応する全員、そして皆がクロノと同じ方向へと顔を向ける・・・・・・その直後
先ほどと同じ様な爆発が再び起こり、爆音と衝撃波が皆を襲う。
だが、先ほどとは違い、それらは直ぐに収まる。そして再び静けさが辺りを支配しようとしたが、突如声が響き渡った。

               「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

黒い半球があった海上、其処には巨大なモンスターの姿があった。今まで守護騎士達が収集したモンスターの体を組み合わせた下半身、
そして上半身と思える部分はナイトガンダムが倒した闇の書の闇を素体をした女性の人型。
それは闇の書の闇が自らの命と人格を犠牲にした暴走体。どうせ死ぬのなら皆を、この世界を道連れにしようと考えた彼女の最後の抵抗。
全てを飲み込み蹂躙する究極の破壊神・・・・・だが、今までとは違い人格はない、楽しみなど無く、ただ黙々と破壊と殺戮を繰り返す悪魔。

               「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

自分の存在を・・・・・誕生を示すかのように叫ぶ、同時に海上から赤竜や触手などが次々と這い出てくる。
その光景を見た全員が静かに己の武器を構えた・・・・最後の戦闘を・・・闇の書事件を終らせるために。

 

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最終更新:2009年03月29日 19:55