魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第18話


・月村邸正門前

「おまたせ!アリサちゃん!!」
此処まで全力疾走で走ったにも拘らず、息を全くと言っていいほど荒げないすずかが屋敷から戻ってくる。
その手にはナイトガンダムと一緒に落ちてきた石版の欠片が握られていた。
そんな彼女に対し
「はぁ・・・はぁ・・・・・でかしたわ・・・・」
アリサは今にも死にそうな表情で塀に背を預け、汗を面白いように流しながら呼吸を整えていた、正に疲労困憊という文字がよく似合う。
だが、そんな彼女の態度も仕方の無い事である。

彼女達が転送された場所から、バニングス邸、そして今いる月村邸まで力の限りの全力疾走。
普段通学や習い事などでは常にリムジンでの移動をしているとは言え、
アリサは一般的な小学生3年生よりは体力がある。だが、全力疾走した距離は一般的な小学生の体力には無理があった。
そんな距離をほぼ休み無く走ったのだ、倒れないだけでも立派な物である。

「(まったく・・・・はぁ・・はぁ・・・・なんでこうも・・・すずかは・・・・はぁ・・・・元気なのよ)」
同じ距離を走ったのにも拘らず、ロクに息を切らしていないすずかに不審感を抱きながらも
すずかの報告には笑顔で答えた後、自分の家から持って来た石版の欠片を自然と掲げた。
「これだけよね・・・・・うん、間違いない。じゃあ早速」
すずかから石版の欠片を受取ったアリサは、一度確認するように二つを見据えた後、欠けた部分同士を合わせる。
その瞬間接触部分が光り、合わせ目が徐々に消えてゆく。
そしてあっという間に一枚の石版へと修復され、表面に文字の様な物が浮かび上がった。
「・・・これが・・・ガンダムさんが言っていた石版・・・」
「よし!あとはこれをガンダムにっ!!?」
石版の完成に喜んだのもつかの間、突然アリサは小さく悲鳴を上げ、持っていた石版を地面へと落とす。
突然の行動に、すずかはどうしたのかとアリサに尋ねようとするが、
彼女が顔を顰め、痛みに耐えている姿に、血相を変えアリサの元へと駆け寄った。
「っ・・・この・・・・・なんなのよ・・急に・・・熱くなって・・・」
言葉の意味を理解したすずかは咄嗟にアリサの腕を取り、彼女の掌を確認する。
案の定、彼女の掌は真っ赤に腫れ、何か熱い物を持ったかのように熱を帯びており、石版もまた、高熱を発しているかの様に真っ赤に染まっていた。
「アリサちゃん!!まってて、今救急箱を!!」
「大丈夫よ・・・ちょっとビックリしただけ・・・手もほら、腫れているけど水膨れもないから症状も軽いものよ。
だけどなんなの?突然焼けた石みたいに熱くなって・・・・どうして・・・・どうしてよ!!せっかく此処まできたのに!!!
結局は何の役にも立てないの!!!?」
すすかの手を振りほどき、自分を痛めつけるかのように手の痛みを無視し手を握り締める。
よほど悔しいのだろう、喉が張り裂けんばかりの勢いでアリサは叫ぶ、悔しさを外に吐き出そうとするかの様に。
「アリサちゃ・・・・・・ん・・・・・」
すずかは自然とアリサを励まそうとするが、言葉が全く出てこない。無論、『そんなことないよ』などといった言葉を投げかける事は簡単に出来る。
だが、それが何になるのだろう・・・・・・意味など全く無い。
アリサ同様、何も出来ない無力感に襲われそうになるが、真っ赤に熱を帯びた石版を見た瞬間、
すずかは何かを決意したかのように頷いた後、ゆっくりと近づく。そして
「・・・・持てないわけじゃ無いんだ・・・・私なら・・・・・大丈夫・・・・」
ゆっくりと石版に手を伸ばし、一瞬躊躇した後石版を両手で握り、持ち上げた。
無論、すずかが特別なわけではない。石版はアリサのとき同様、発する高熱ですずかの手を焼くが、それでも彼女は手を離さない。
無論痛みは感じている、その証拠に顔は苦痛にゆがみ、脂汗が頬を滴り落ちる。
「なっ!?すずか!!やめなさい!!!」
すずかの行動に唖然としながらも、アリサは血相を変え彼女の元へと走り、腕を取る。
だが、アリサがどんなに力を加えても、石版を離す所か、彼女の腕はびくともしない。何かが焼ける嫌な匂いが辺りに立ち込める。
「この・・・・・いい加減に・・しろぉ!!!!!」
我慢できなくなったアリサは、一歩後ろに下がった後肩を突き出す、そして思いっきり地面を蹴り、体当たりを食らわせた。
さすがにそれは効いたのか、すずかは短い悲鳴をあげた後、石版を離し塀に体をぶつける。
その隙にと言わんばかりに、アリサは早足ですずかの元へと近づき、彼女の手を取る。
そして掌を見た瞬間、想像していた以上の状態に、心配よりも怒りが勝ったアリサは、容赦なくすずかを怒鳴りちらした!!
「この馬鹿!!!!何やってるのよ!!!いくらなんでもやりすぎよ!!!!!手をこんなにし・・・・・て・・・えっ?」
再び目にしたすずかの掌、だが見た瞬間、アリサは目を見開き言葉を失う。
彼女が石版から手を離した時、一瞬であったが掌を見る事が出来た。
確かに自分とは比べ物にならに程焼け爛れていた掌が直っている。無論、水泡など十分大火傷といえる症状は見て取れるが、
明らかに先程より症状が軽い。
おそらく気が動転して見間違えたのだろうと事故解決しようとするが、彼女の目に映った光景は、その考えを真っ向から否定した。
「嘘・・・・・直ってる・・・・」
まるで巻き戻したかの様に、焼け爛れたすずかの腕は徐々にではあるが、直ってゆく。
その光景に唖然としながらも、どういうことかすずかに聞こうとするが、なぜか言葉が出ない。
否、恐れているのだと思う、自然と手を離し、一歩後ろに下がっているのがよい証拠だ。・・・・・こんな状況だからだろうか・・・・否、それはいい訳だ。
「・・・・・驚いたよね・・・・・アリサちゃん・・・・」
俯きながら、ようやく聞こえるか細い声で、すずかはアリサに尋ねる。
アリサは咄嗟に何か言おうとするが、ただ『あっ』『えっ』などの躊躇いを示す言葉しか出ない。
何故言えないのだろう・・・・・・『そんなことない』などの軽い言葉が。
「・・・当然だよね・・・・私・・・普通の人間じゃないんだから・・・・」
「な・・・・何言ってるのよ・・・・・すずか・・・・」
口ではそうは言ってはいるが、その言葉を信じてしまう自分がいる。何より先ほどの光景がよい証拠だ。
そんな自分に自己嫌するアリサを無視し、すずかは俯きながらゆっくりとその理由『夜の一族』の事を話し始めた。

 

「(・・・・・嫌われちゃったな・・・・・)」
数分にも満たない説明が終った後訪れたのはただの沈黙、互いに何も喋らずじっとしてる。
俯いていて見るとは出来ないが息遣いが聞こえる事から、近くにアリサがいることは間違いない。
なぜ逃げないのだろうと思う・・・こんな自分を前にして。
何故何も言わないのだろうと思う・・・こんな自分を前にして。
向こうが何も言わないのなら尋ねればいい・・・・だが、顔を上げる事が出来ない。上げれば自然とアリサの顔を見てしまう。
すずかは怖かった。いつかはばれるだろうとは思っていたが、真実を話した後、アリサ達は前と同じ様に接してくれるかどうか。
だからこそ顔を上げる事ができない。自分をどんな表情で見ているのか怖い・・・・恐れているのか、軽蔑しているのか・・・・・・

                          パシッ!!!

自分の考えに埋もれそうになった時に響きわたった音に、自然と体をびくつかせる。
そして、体か勝手に反応してしまい、音が響いた方向・・・・正面へと顔を上げてしまう。
其処にはやはりアリサがいた・・・・・右頬を真っ赤にした顔で自分を見てる。
だが、表情はすずかが予想していた物と全く違っていた。
アリサの表情は怒りに満ち溢れていた。歯を軋むほど食いしばり、瞳からは内から湧き出る怒りのあまり涙があふれ出ようとしている。
「最低だわ・・・・・私・・・・・一瞬でも・・・・すずかの事を恐れた・・・・化け物を見るような目で見た・・・・
そんな自分が情けない・・・許せない・・・・・だからこれは自分への罰」
目を閉じ、左腕でゆっくりと赤く腫れた頬に触れる。その直後
「そしてこれは!!!馬鹿なこと言ってるあんたへの罰よ!!!!!!!」

                          パシッ!!!

目を見開き、思いっきりすずかをにらみつけた後、空いている右腕を振り上げ彼女の頬を力の限りひっぱたいた。
甲高い音と主に頬に感じる痛み、だが、それを実感する暇も無く、アリサはすずかの胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。
「アンタね・・・本当にそう思ってるの!?自分が人間じゃないって!?自分が化け物だって!?ふざけるのもいい加減にしなさいよ!!!」
「でも・・・でも!!私、他の人と違う!!!ほかの(シヤラップ!!!」
泣きながらすずかは自分は人間ではないと言おうとするが、
怒りに満ち溢れている瞳で自分を睨みつけるアリサの前には、自然と言葉を詰まらせてしまう。
「確かにね、アンタの説明聞いたら誰もがそう思うかもしれない・・・だけどね、そんな事関係ない!!!アンタがなんであろうと!!あんた自身が
自分を化け物と決め付けようとも!!!あんたはね・・・あんたはねぇ・・・・いつも大人しくて言いたいとこをはっきり言えない、
だけど人の気持ちを誰よりも分かる猫が大好きな優しい私達の友達、月村すずかよ!!!」
アリサの言葉が心に響く、それは自然と、自分を責める気持ちを抑え、冷静さを、そして安心感を与えてくれる。
そして今になって、彼女の顔をまともに正面から見る事ができた。確かにアリサの表情は怒りに満ち溢れている。
だが、それ以上に彼女は悲しんでいた。目からは涙が溢れ、唇が微かに震えている。
なぜそんな表情をするのだろう・・・否、理由は考えるまでも無い、明らかに自分が原因、自分を罵り、決め付け、自己満足に浸った自分が原因。
そう感じた瞬間、罪の意識が一気に押し寄せてくる。口から謝罪の言葉を言い出そうとするが、アリサはそれを許さない。
「アンタは化け物なんかじゃない!!一人の人間よ!!!さすがに一緒に住んでいたガンダムは気付いているわよね!!?
ガンダムはアンタの正体を知ったら化け物って罵った!?異物を見るように恐れた!?」
その問いにすずかはハッとする。

夜の一族に関しては、ナイトガンダムは姉である忍から聞いていた。だが、話を聞いた後でも彼は普段通りに接していた。
ある日、彼の気持ちを聞きたくて、自分達の事をどう思っているのか尋ねた事がある。
だが、ナイトガンダムは気にしてはいなかった、むしろ『なぜ気にする必要があるんだい?』と尋ね返した位である。
その即答の答えに、すずかは正直納得がいかなかった。そんな筈が無いと思った。
よほど釈然としない表情をしていたのだろう、今度はナイトガンダムがすずかに尋ねた。
「すずか、君は私のことをどう思う?」
「えっ・・・どうって・・・」
「私は人ではない、この世界にとっては異物だ。モンスター、化け物、そうよばれて(違うよ!!」
大人しいすずかでも、この発言にはさすがに頭にきた。普段は見せない怒った表情でナイトガンダムを見据える。
「ガンダムさんはモンスターでも、化け物でもない!!優しい騎士さんだよ。人間かどうかも関係ないなんでそんなこと(その気持ちだよ」
優しく微笑みながら、彼女を落ち着かせるかの様にすずかの頭を優しく撫でる。
いつも不思議に思う、ナイトガンダムに頭を撫でられると、魔法に掛かったかの様に心が落ち着き、暖かい気持ちになる。
恥ずかしいとはわかっていながらも、つい自然と身を任せ、微笑んでしまう。
「私も同じ気持ちさ。確かに驚きはした、だけどそれだけさ。すずか、君が私に抱いてくれている印象となんら変わりは無い。
明るく、恭也殿を心から愛している忍殿、優しく、皆を労わる心を持っているすずか、そんな彼女達に仕えるノエル殿達、
そんな皆をどうして恐れる必要があるんだい?君や忍殿、ノエル殿達がなんであろうと、そんな事は関係ないよ」

「(そうだ・・・・私、怖かったんじゃない・・・・信用していなかったんだ・・・・ホント・・・・最低だ)」

ナイトガンダムの言葉が不十分だったわけ得は無い、だが不安だった。なのはが、フェイトが、はやてが、アリサが、ナイトガンダムの様に
受け入れてくれるかどうか。勇気が無かった、もし今回の出来事が無かったら一生言い出させず、仕舞いこんでいたかもしれない。
「それにもし、アンタの事を化け物とかほざく奴がいたら・・・・私がぶん殴るわ!力の限り、容赦なく、徹底的に!!!
そして、そいつに言い放ってやる!!すすかは・・・化け物じゃ・・・ない、私の・・・・大切な・・・友達・・・・って・・・・・」
もう限界だった、感情を丸出しにして泣く事を我慢していたがもう限界だった。
大事な事を黙っていたすずかに対する腹正しさ、そんな彼女の気持ちに微塵も気が付くことが出来なかった自分に対する不甲斐なさ。
それらが、一挙に『涙』という形になって押し寄せてくる。
もう泣いてしまうのも時間の問題だった・・・・・だが、彼女のプライドが泣き顔を見せまいとしする。
「(全く・・・意地っ張りね・・・・・私も)」
内心で自分自身に呆れながらも、すずかの胸に顔を埋め、泣き顔を見せないというプライドを忠実に守った。
「だ・・・・から・・・・・ね・・・・もう・・・そんな事・・・・・言わない・・・・でよ・・・・・一人で・・・・抱え・・・込まないでよ」
その言葉を最後に、アリサは泣き出した、声をあげて思いっきり。

プライドを忠実に守ったアリサに対し、すずかは正直だった。内から湧き出る申し訳無ささ、そして自分を受け入れてくれた嬉しさ
それらが『涙』となって押し寄せてくる。
彼女は純粋に感情に身を任せることにした。胸に顔を埋めているアリサの頭を抱き、背中を壁に擦りつけながらゆっくりと座り込む、そして
「ごめん・・・・ごめんね・・・・・・アリサちゃん・・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・・」
アリサの髪に顔を埋め、すずかは泣き出した、声をあげて思いっきり。

時間にして数分、十分泣いた二人は、互いにゆっくりと呼吸を整えながら離れる。
涙で濡れた瞳を多少乱暴に擦った後立ち上がり、互いを見据え微笑みあう。
言葉にせずとも感じる事が出来る、心から言葉をぶつけ合った、互いをもっと知る事ができた。
既に確固たる強さを持っていた絆が更に強くなったことを二人は自然と感じ取る事ができた。
「さて、遅れちゃったけど、石版をガンダムの所までもって行くわよ!!すずか、上着を脱いで」
自分の制服の上着を脱ぎながら、すずかにも脱ぐように言うアリサ。
その意味を最初は理解できなかったが、脱いだ上着を持って石版へと近づくアリサを見た瞬間、その意味を瞬時に理解した。
「本当は車なんかが使えればいいんだけどね・・・・・熱!・・・・・熱!!」
上着越しから高熱を発する石版を掴んだ後、起用にそれを包み込む。だが包み込んだ直後、布が焼ける焦げ臭い匂いが鼻につき、上着からは煙が立ち込める。
「あ~も~!!!これじゃあ50メートルも進まないで上着が灰になるわ!!どうしたら(アリサちゃ~ん!!!」
仮にすずかの上着を加えても、それ程距離は稼げ無いだろう。もうこうなったら下着を残して全ての衣類で包んでしまおうかと、
我を忘れヤケクソ気味に考えていたが、遠くから聞こえるすずかの声に、現実に引き戻される。
家から何かを取って来たのだろう、両手に布の様なものを抱えこちらに近づいてくる。
「すずか!気が利く~!!って、それ、ノエルさんのメイド服じゃないの!?」
すずかが持って来たのは月村家で働くメイド、ノエルが普段来ているメイド服の予備だった。
確かに、石版を包む物は欲しかったが、さすがにこれはどうかと思う。だが
「ふふっ、まぁ見ていて、アリサちゃん」
そんなアリサの不満げな表情を自信満々の笑みで返したすずかは、テキパキとメイド服で石版を包み込む。
そこで初めてアリサは異変に気が付いた、自分の制服の上着が焼けたときの様な焦げ臭い匂いが全くしない事に。
一度メイド服に包まれた石版を突っついてみるが熱さを全く感じない。それ所か、両手でガッシリを持っても熱さを感じる事は無かった。
「すごいでしょ?重さは普通の布と変わらないんだけれど、マシンガンの弾も余裕で防ぐ防弾性、火炎放射の高熱にも耐える防熱性を兼ね備えた
月村家メイド専用のメイド服、これなら安心して持ち運べるよ」
「・・・・あ~・・・・・なんでこんなに高性能?テロリスト・・・・いや、どっかの悪の組織が作った怪人とでも戦うの?」
現代科学で作れるのかも怪しいメイド服にアリサは顔を引きつらせ、何かを言いたそうな瞳ですずかを見据える。
その表情に満足したのか、すずかは微笑みながら人差し指を口にあてた。
「今言えるのはね・・・・・月村の科学力は世界一って事」
明らかに秘密にしている事を楽しんでいるように思えるが、とにかく持ち運ぶ手段が見つかった事に安心する。
後はこれを持ってナイトガンダムのところまで行けばいい、今町や海上で何かが爆発する音や幾つもの光が見える、おそらくそのどちらかにいるに違いない。
危険な事はわかってはいるが、何もしないで震えているよりはマシだ。
「・・・・・さて、ひとっ走りするわよ!!すずか、腹括りなさい!!」
「うん!!」
互いに覚悟は出来た、いざ行かんと一歩踏み出したその時、

               『やっと繋がった!!アリサちゃんにすずかちゃん!!無事!!!!』

空からエイミィ・リミエッタの声が木霊した。


・?????

「・・・・・・・・」
無言でレヴァンティンをナイトガンダム目掛けて叩きつけるようにシグナムは振るう。
その攻撃を剣で受け止め、直ぐに切り払い、距離を取ろうとするが、ヴィータの射撃魔法『シュワルベフリーゲン』
がバックステップを終えた直後のナイトガンダムに襲い掛かった。
再び地面を蹴り、避けようとするが、咄嗟の行動に体が反応しない。
「くっ!?」
避ける事を断念したナイトガンダムは、咄嗟に左腕のシールドでその攻撃をやり過ごす、
シールド越しからでも伝わる衝撃に体が崩れそうになる。
どうにか攻撃を耐えている彼に、今度はザフィーラの蹴りが襲い掛かった。
体を大きく回転させた回し蹴りは無防備なナイトガンダムの背中に直撃、彼をボールの様に吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

ナイトガンダムは限界だった、リーゼ姉妹の仕向けた罠から始まり、防衛プログラムとの戦闘、そして今はヴォルケンリッターと戦っている。
怪我に関しては、地球に来る前にゼスト隊のメガーヌ・アルピーノによって治療を施されたが、さすがに消費した魔力や体力までは回復する事は出来ない。
だからこそ動きにも切れが無く。咄嗟の行動にも体が反応してくれない。
本来だったら、殺気や気配などで感じ取る事が出来る攻撃も、疲労による集中力の低下で察知する事ができなくなっており、
魔力に関しても、シグナムとヴィータの同時攻撃を捌ききるために強化魔法として消費してしまい、
その結果、決め手としていた『ソーラ・レイ』を撃つ事が出来なくなってしまった。

「がはっ!」
地面に叩きつけられた瞬間、痛みが体を容赦なく襲い、彼の意識を奪おうとする。
そんな彼に追い討ちをかけるかのように、ヴィータがアイゼンを振り、彼を撲殺せんと迫る。
振り下ろされるグラーフアイゼン、だが、その打撃をナイトガンダムは力任せにシールドで横に払うように叩きつけ、アイゼン諸共ヴィータを真横に吹き飛ばす。
同士にその時に得た遠心力で空中で体を180度回転させ、仰向けだった状態からうつ伏せへと体の位置を変える。
そして落下する瞬間、肩から地面に落下し、転がる事で体へと掛かる衝撃を抑える事に成功した。
「はははははは!!面白い、あんたサーカスでもやったら!?」
一部始終を見ていた闇の書の闇は手を叩きながら面白そうに笑う。
既に彼女の傷は癒えており、今では面白そうにナイトガンダムとヴォルケンリッターの戦い・・・・否『殺し合い』を堪能していた。
「シグナム!!ヴィータ!!ザフィーラ!!やめっ・・・ぐっ・・・」
もはや一方的なリンチと化している戦いに、はやてはたまらず声をあげようとする。だが、声を出そうとするたびに、
クラールヴィントの紐が自分の首を締め付ける。
「シャ・・・マ・・・・ル・・・・」
苦しみを我慢してシャマルの名を呼ぶが、彼女は声を返すどころか振り向きもしない。
否、自分の声が届いてるのかさえ怪しい。
あの闇の書の闇がシャマル達を蘇らせた時から、彼女達からは感情という物を感じなかった。まるで元から意思の無い人形の様な感じ。
「やめたほうがいいわよ~?別に殺してもいいようにセッティングしてあるから。もし死にたければ騒ぎなさい。首と胴体を分割してくれるから」
「『セッティング』って・・・・・・やっぱりアンタが操ってるんか!?」
「大正解、マスターであるアンタが生きている以上、こいつらは今でもアンタの騎士、だからね、リンカーコア送還時、
こいつらのリンカーコアに私の一部を加えてあげたわけ。その結果がこれ、無様よね?自らの意思はあるのに今では私の操り人形。
『死ね』って言えば首を掻っ斬るし、主を殺せって言えば殺してくれるわ。その時には撲殺が斬殺、どちらか選ばせてあげるから安心して。
あ~なんてやさしんでしょ、私って!!」
はやては口を開く事を止めた。この悪魔に何を言っても無駄。いや、それ以前にこんな異常者と口を利きたくは無い。
「(あら?もっと突っかかって来ると思ったけど?)」
何かしら突っかかって来ると思っていたはやてが、何も言ってこない事に少し残念な気持ちになりながらも、戦いの様子を再び見学する。
もう勝敗は決したと言っても過言ではない。あの騎士も持って後数十分、彼が戦闘不能になれば自分は完全な勝利を掴む事が出来る。
何一つ不安材料は無い、だが、闇の書の闇には一つ気になることがあった・・・・・騎士ガンダムの存在である。
数多の次元世界でも見た事も無い種族、そして自分を初めて不安に陥れた闇の部分が綺麗に無い存在。
十分彼女の気を引く材料を持ってはいたが、それだけではなった。

           「(・・・・あいつ・・・・・どっかで見た事があるのよね・・・・・)」

今になって思い出したが、自分は・・・・いや、闇の書の管制人格・・・リインフォースはこの騎士を見た事がある。
自分がプログラムとして夜天の書に組み込まれた時、姿は無論、記憶も彼女から受け継いでいる。
その結果、闇の書の闇が組み込まれる前にリインフォースが体験した記憶も、自然と闇の書の闇に受け継がれる事となった。
だが、思い出せない、自分が組み込まれた事によって発生したバグが、記憶を曖昧にしている。

昔・・・・・・それこそ、自分が未だ誕生しておらず、夜天の書が本来の働きをしていた頃、
質量兵器が飛び交い、ベルカの王達が戦を繰り広げていた時代・・・・・・リインフォースはあいつを見た事がある

「・・・・・まぁ、どうでもいいか、別に」
物事を思い出せないという、何かが引っかかる感覚はあまり好きではない。
だが、思い出したところで自分の得になったり自分に不利になったりするとは無い。
だがら考えるのを止めた直後、彼女が目にしたのはヴィータとシグナムの猛撃から逃れたナイトガンダムが、剣を振り被り、自分に迫ってくる姿だった。


シグナムとヴィータが接近戦をしかけ、後方ではザフィーラが鋼の軛で攻撃を仕掛ける。
その猛攻撃をナイトガンダムはどうにか捌き、無効化する事が出来ていた。
シグナムのレヴァンティンを剣で捌き、ヴィータのグラーフアイゼンを盾で防ぎ、ザフィーラの鋼の軛を動き回る事で回避する。
本来だったら一対一でも捌ききる事が困難な攻撃を体力や魔力が消費しきっているナイトガンダムが捌ききる事ができたのは
彼女達の戦闘パターンを既に読むことが出来たからだった。
確かに、彼女達の強さには変わりない。剣術、スピード、打撃力、全てが十分すぎるほどの脅威。
だが、動きそのものに柔軟性が全く無い。それこそ、量産型イレインの様にある程度の動きしか与えられていないかの様に。
だからこそ、数回戦闘を行っただけで彼女達のパターンを読む事が出来た。
相手の行動がある程度予測できるのなら、疲弊した体でも、どうにか捌く事は出来る。
無論、パターンが分かっている以上、ナイトガンダムにも攻撃のチャンスはあった。
その気になれば、接近戦を仕掛けてくるシグナムとヴィータを3回は斬り倒す事が出来たが・・・・・彼にはそれが出来なかった。

                  「・・・・・・・殺してくれ・・・・・・・」

              「頼む・・・・・アタシ等を・・・止めてくれ・・・・・」

      「・・・・ガンダム・・・頼む・・・・我々に・・・主を・・・・・殺めさせないでくれ・・・・」

その声が、彼の攻撃性を鈍らせたからだ。
武器を交えるたびにシグナム達はナイトガンダムに乞う。操られていたとしても彼女達には意識があった。だが、それだけ
体の自由は奪われ、人形の様に玩具として玩ばれている。
そして騎士ガンダムを倒したら今度は愛する主である八神はやてが目標となる。

想像もしたくない、自分のレヴァンティンがはやてを切り裂く光景を・・・・・血に埋もれ、助けを請う様に刃を振り下ろした自分に手を伸ばすはやての姿を。
想像もしたくない、自分のグラーフアイゼンがはやての頭を叩き潰す光景を・・・・頭の中身を撒き散らしたはやてと、
その一部をグラーフアイゼンにこびり付かせ、彼女の死体の前に立っている自分の姿を。
想像もしたくない、自分のこの腕が、はやての首をへし折る光栄を・・・・『ボキリ』という音と共に、口から泡を吹いたはやての体から力が抜ける。
彼女の首は本来曲がる筈の無い方向へと曲がっている。それでも彼女の首から手を離さず、高らかとその死体を掲げる自分の姿を。

想像もしたくない、だが、想像してしまう・・・・自分が主を殺す光景を・・・・・現実となりうるかもしれない光景を。
自分達はそんな事をしたくは無い・・・・・それなら喜んで死を選ぶ、だからこそ、彼女達はナイトガンダムに乞う、自分達を殺してくれと。


「ふざけるな・・・・・君達は死なせない・・・そしてはやても死なせない!!!」
そんな彼女達の願いを、ナイトガンダムは真っ向から否定する。そしてそんな馬鹿なことばかり言っている彼女達に、当々ナイトガンダムは罰と言わんばかりに攻撃を始めた。
先ず迫り来るシグナムの斬撃、スピード、重さ、どれも文句が無いが、振り下ろす位置、タイミングは既に熟知している。分かってしまえば避ける事など造作も無い。
最小限の動きでそれを避けると同時にシグナムの頭の高さまでジャンプ、剣背で彼女のこめかみを叩きつけ、吹き飛ばす。
重力に従い着地した直後、即座に地面を蹴り、ヴィータへと迫る。
シグナムが剣を振り下ろしきった直後に、ヴィータは接近戦を仕掛ける、アイゼンを振り被り横薙ぎに叩きつ得るシンプルな攻撃。
その行動をヴィータは忠実に守って再現していた、既に懐にナイトガンダムがいるにも関わらずに、
「はぁ!!!」
左腕に持っている盾をヴィータの体に押し付け、力任せに吹き飛ばす。
地面を転がるヴィータを見る事無く、ナイトガンダムは瞬時に詠唱を終え、振り向き様に『ムービー・サーベ』を放った。
二人が攻撃を行った後にザフィーラは行動を起こす、接近戦が鋼の軛のどちらか、この場合は距離を置いての鋼の軛に間違いない。
彼の予想は当たっていた。ザフィーラは接近せず、鋼の軛を使おうと足元にベルカ式の魔法陣を展開させる。
だが、彼が魔法を放つより先に、ナイトガンダムのムービーサーベが彼に直撃、豪快に吹き飛ばした。
「残るは・・・・・貴様だぁああああ!!!」
剣を構えなおし、地面を蹴る。目標は諸悪の根源である闇の書の闇、いかに再生が優れいていようが、首を飛ばせば死ぬ筈。
だが、それが有効かも分からない、それでも決定打を失ったナイトガンダムにはそれしか手段が無かった。
ほぼ一瞬で剣が届く距離まで近づき、首を断ち切らんと剣を横薙ぎに振るう・・・・その時
「シャマル~盾になって~」
戦闘中とは思えない愉快な声の直後、二人の間にシャマルが割って入ってきた。
「っ!!?」
咄嗟に腕に力を込め、横薙ぎに振るった剣を無理矢理止める。
剣はシャマルの首ギリギリの所で止まるが、微かに剣身がふれた首からはうっすらと血がにじみ出ている。
「あら残念、首がコロンってするシーンをみたかったんだけど?」
「この・・・・外道っ!!?」
崩れ落ちる様にシャマルがナイトガンダムの方へと倒れこむ。
受身などの態勢を取らずに倒れこむ彼女の体を咄嗟に抱きとめるが、突如聞こえて来るスパーク音に再び正面を向く・・・その直後
「ありがとう・・・・いい響きよ!!」
フェイトの必殺魔法の一つである魔法『フォトンランサー・ファランクスシフト』が、がほぼゼロ距離からナイトガンダムとシャマルに向かって放たれた。
フォトンランサー・ファランクスシフトは30発以上のフォトンスフィアを、相手に向かって『一点集中』に放つフォトンランサーのバリエーションの一つ。
だが、30以上のフォトンスファイを散弾の様に拡散せずに撃つという事は、威力の増大というメリットを招くと同時に、
命中率の低下、防御のしやすさというデメリットがつくこととなる。
だからこそこの攻撃も、ナイトガンダムは避けるか、盾で防ぎやり過ごすという選択肢があった・・・・・・シャマルがいなければ。
今の状態では防げるか分からなかったので避ける事を選択。シャマルを抱え、横に飛ぼうとしたその時、突如シャマルはナイトガンダムに抱きつき、彼を押し倒した。
抱きしめる・・・否、絞め殺す様な勢いでナイトガンダムに抱きつく。咄嗟にもがくも、彼女はナイトガンダムを離そうとはしない、
その直後、ファランクスシフトは目標に着弾、それを皮切りに次々とフォトンスフィアが爆音と共に爆煙の中へと消えてゆく。
「ははっ?名付けて『シャマルバインド』美人に抱きつかれて死ぬんだもの~あの世で感謝してね」
はやてが、フェイトが、外で様子を伺っているなのは達が、ナイトガンダムのシャマルの名前を叫ぶ。だがその声も、激しい爆音の前にかき消されてしまう。
そして、最後のフォトンスフィアが爆煙の中に消え、爆音を発した後、ようやく攻撃は止まった。
早く亡骸を確認したいのだろうか、闇の書の闇は腕を横に振るい風を起し爆煙を一気に吹き飛ばす。
先ず確認できたのは倒れているシャマルだった。目を閉じ、仰向けに倒れているが、怪我などをは見た所確認できない。
そして全部の爆煙が晴れた後、姿を現したのは、シャマルを庇うように前に立ち、盾を構えているナイトガンダムの姿だった。
「へぇ~・・・紳士ねぇ~、敵とは言え身を挺して女性を庇うのだから・・・・まぁ、私からしてみれば馬鹿としか言いようが無いわ。
盾を構える暇があったのなら良ければよかったのに、追尾じゃないから横に飛ぶだけで簡単に避けられたわよ?ああ、追尾じゃないから避けたらシャマルに当たるか~」
ナイトガンダムは答えない・・・否、もう言葉を出すのさえ辛くなっていた・・・・・そしてゆらゆらと体を揺らした後、ゆっくりと前のめりに倒れた。
闇の書の闇以外の皆が、ナイトガンダムの名前を叫ぶ、だが、全く反応しない。ピクリとも動かない。
全員が最悪の事態を想像してしまう・・・・・そんな予測を打ち消すために・・・否、打ち消したいために、なのは達は声を荒げてナイトガンダムの名前を呼び続ける。
「無駄無駄!!もうこいつは再起不能よ、まったく往生際の悪い。さて、お待たせしました現マスター八神はやて、これから貴方の処刑を行います。
さっきも言ったけど、死に方は選ばせてあげるわ。フェイト、貴方は私とたのしみましょ」
心から嬉しそうに宣告しながら、闇の書の闇はゆっくりと、まるで恐怖感を与えるかのようにフェイトの元へと歩み寄る。
ヴォルケンリッターもまた、それぞれの武器を構え、動けないはやての元へと近づく。

                          「ま・・・だ・・・・だ・・・・」

耳を澄まさなければ聞こえないほどの小さな声、だが、それを補うかのよな力強さが込められている。
その声に唖然としながらも、不愉快を隠す事無く表した表情で声が聞こえた方向・・・・・・ナイトガンダムが倒れていた所へと顔を向ける。
彼は立ち上がろうとしていた、痛む体を無理矢理動かし、剣を杖代わりにしてどうにか立ち上がる。
誰が見ても戦えるような状態ではない、だが、立ち上がったナイトガンダムの瞳を見た瞬間誰もが、闇の書の闇でさえその考えを捨てた。
彼の目には、敗北、諦め、それらが一切感じられない、敗北を真っ向から否定する瞳。
「な・・・なんなの・・・・こいつ・・・・!!!」
その目と合った瞬間、満身創痍の人物が出すとは思えない覇気に、闇の書の闇は自然と後ろへ一歩下がってしまう。
「(この私が・・・・死にぞこないに圧倒された・・・・・)ふざけるな!!シグナム!!殺れ!!!」

何故恐怖する必要がある?なぜ焦る必要がある?相手は死にぞこない、このまま何もしなくても朽ち果てる。
それなのに、自分は恐れてしまった・・・・・・そんな事はあってはならない。

「・・まぁいいわ・・・・今度こそ本当に終わりよ」
闇の書の闇の命令に逆らえないシグナムは、レヴァンティンとその鞘を重ねカートリッジロード、
レヴァンティンをボーゲンフォルムへと変形させ、ナイトガンダムに向け構える。
彼女が放とうとしているのは直射型射撃魔法『シュツルムファルケン』
カートリッジの消費と使用までのタイムラグなどの欠点があるが、それらを補うほどの破壊力を秘めている、
純粋な攻撃力でならシグナムの持つ魔法の中では最強、正に必殺技。
それをボロボロのナイトガンダムに向かって放とうとしている。当たれば死は免れない・・・否、死体が残るかさえ疑わしい。
「くっ・・そ・・・・・」
悪態をつきながらもどうにか体を動かそうとするが、ナイトガンダムの想いとは裏腹に、体は満足に動く事ができない。
だが諦めるわけにはいかない・・・・・奴をほっておけば多くの人が不幸な目に遭う。
それまでは死ぬわけにはいかない・・・・・諦めるわけにはいかない。
「だからこそ・・・・私は・・・・倒れん!!!」
体を完全に起し、剣と盾を構える。まだ戦える事を知らしめるために。その時であった

                     「「ガンダム(さん)!!!」」

聞き覚えのある声が聞こえたのは。


戦闘の様子を見守っていたなのは達の所に、突如転送魔法陣が出現する。
「援軍か!?エイミィ、誰だ?」
「援軍よ!!クロノ君、悪いけど、足場を作って、二人とも魔法なんて使えないから!!」
「魔法が使えなって!!?どういう(いいから早く!!」
エイミィに急かされたクロノは、納得をしない表情をしながらも転送魔法陣の真下に丸い足場を形成する。
その直後、転送魔法が発動、二人の人物が転送された。
「ア・・アリサちゃんに・・・すずかちゃん!!?どうして」
避難した筈の二人の親友が、最も危ない所に現れた事になのはは言葉を失い、クロノは通信越しにエイミィを怒鳴りつける。
「どういうつもりだ!!エイミィ!!民間人をこんな所に転送し(クロノさん!」
何も出来ないという苛立ちもあったのだろう、必要以上にエイミィを怒鳴りつけるクロノをすずかは咄嗟に大声で止める。
「エイミィさんは悪くないんです。私達が頼んで此処まで運んでもらったんです!」
「だが、結果的に民間人の君達を運んだのは彼女だ、詳しい事はこの際後、此処にいては危険だ!早く(話を聞けぇ!!」
さっさと話を終らせようとするクロノに、アリサは堪らず大声で会話を無理矢理中断させる。
そして、メイド服に包まれた石版を、見せ付けるように差し出した。
「私達も馬鹿じゃないわ!!魔法も使えない私達じゃ何も出来ない事位知っている。
それでも、私達は来た、ナイトガンダムに渡す物があるからよ!!」
アリサは手早くメイド服をはがし、石版を露出させる、そしてそれをメイド服越しにすずかと一緒に持ち掲げた後、
中で戦っている騎士の名を、声を揃えて大声で叫んだ。

                     「「ガンダム(さん)!!!」」

聞き覚えがある声に、自然と外の光景が映し出されているスクリーンへと顔を向ける。
間違いなかった。其処にいたのは避難した筈のアリサとすずか。だが、彼女達の存在以上に、
見せ付けるように掲げられている物に驚きを隠せないでいた。
「あれは・・・・石版!!?」
ラクロアに伝わる『選ばれし者に絶大な力を与える』という石版、その力は使用した事があるナイトガンダムが一番良く知っている。
だが、地球に来る時再び二つに砕け、その内の一つは見つからないままだった筈。
その石版を、彼女達は完成した状態で持って来た。間違いなく、自分に渡すために。
「二人とも・・・・・無茶な事をする・・・・・」
此処がどれだけ危ないのか・・・・・二人とも理解はしているだろう、それなのに彼女達は来てくれた、自分に勝利を、皆を守る力を与えてくれるために。
ならば答えよう・・・・・・彼女達の思いに、自分の誇りと命をかけて。

                   「「ガンダム(さん)受取ってぇえええええ!!!」」

その言葉が合図だったかのように、石版は急に光だし、ひとりでに空中に浮く、まるで早く使えとナイトガンダムを急か様に
「・・・・石版よ・・・・私はまだ未熟だ・・・・・だが、皆を守りたい、だからその力、我に貸し与えよ!!」

シグナムはゆっくりと魔力で出来た弦を引く。同時にカートリッジをダブルロード、
レヴァンティンの刀身の一部で出来た矢を出現させ、狙いをナイトガンダムへと向ける。
石版に浮かぶ文字、それをナイトガンダムは焦らず、確実に唱えた。石版の力を発動させる呪文を
              
               「ONOHO TIMUSAKO TARAKIT!!!」

唱え終えた瞬間、石版は輝きを増し、一つの光の弾となってナイトガンダム達がいる黒い半球へと吸い込まれる。その直後、

                      『Sturmfalken』

シグナムの最大の攻撃力を秘めた魔力の矢『シュツルムファルケン』がナイトガンダムに向かって放たれた。
炎が尾を引き、一筋の光となって襲い掛かる。
迫り来る死、だが、ナイトガンダムは動こうとしない、ただ盾を構えじっとしている。
「無駄よ、この攻撃はバリア、結界破壊の機能も備わっている、いかに頑丈な盾でも装備者諸共吹き飛ばし、焼き尽くすわ!!」
既に勝利を確信しているのだろう。闇の書の闇は腕を組み、笑いながら様子を伺う。
もう勝利は決まっている。あの小娘達が何を持って来たのかは知らないが、どんな人物、物でさえここに入ってくることなど不可能。
仮にとんでもないアイテムだったとしても、ナイトガンダムの元まで来なければ意味はない。
そう、勝利は確実・・・なのに・・・・なぜ・・・・・・なぜだ・・・・・・・なぜ

                 自分は焦っているのだろう

ナイトガンダムが此処に来た時と同じく、空間が砕けたのは彼女が考え事をしていたそんな時だった。
突然の音に、ナイトガンダム以外の全員が、砕けた方向へと顔を向ける、だが、既に空間を砕いた物体『石版』は消えており、ナイトガンダムへと向かってゆく。
だが、ほぼ同時にシュツルムファルケンの魔力の矢も迫る。二つの物体は、競い合うようにほぼ同じスピードでナイトガンダムを目指す。
一つは希望と勝利を齎すために、もう一つは死と絶望を与えるために・・・・そして
石版がナイトガンダムに吸い込まれた直後、シュツルムファルケンがナイトガンダムの盾に直撃、大爆発を起こした。

闇の書の闇は爆煙と衝撃波に襲われながらも、その光景を仁王立ちしながら見つめ、勝利を確信し。
リインフォースは吹き飛ばされそうになるはやてに覆いかぶさり、衝撃波から彼女を守り
バルディッシュはロクに動けない主を守るために障壁を張る。

「・・・はは・・・はははははは!!!!!勝ちね、私の勝ち!!あのわけわかんない物の方が早かったけど、それも紙一重、
物を手に入れても使う準備をしなきゃ意味無いわよね~、残念でした~!!!」
爆煙ではなく爆炎に包まれた着弾点を、闇の書の闇は嬉しそうに、他の皆は諦めと悲しみ、そして絶望が入り混じった瞳で見据える。
炎が激しく、ナイトガンダムの姿を確認する事ができない。否、姿など保っているのだろうか?
「あら~?炎が邪魔で姿が確認できないわね~。もしかしたらバラバラになって彼方此方に自分の破片を撒き散らしているのかもしれないわね~」
認めたくない・・・だか、彼女の言葉が嫌でも心に突き刺さる。ナイトガンダムは負けたと・・・・自分達は負けたのだと・・・・・二人を覗いては。
「大丈夫よ・・・なのは・・・・」
突然名前を呼ばれたことに、ビックリしながらも、名前を呼んだアリサの方へと体を向ける、そして純粋に驚いた。
アリサとすずか、彼女達からは自分達が抱えている絶望感を全く感じ取る事ができない・・・・笑っていた、力強く、まるで勝利を確信した様な笑みで。
「ガンダムさんは大丈夫だよ・・・・・なのはちゃん」
「そうよ、大丈夫。だって、私にとって・・・・ううん、私達にとって・・・・・ガンダムは」


                        「「勇者だから!!!」」
「・・・・・ん?」
その物の姿を最初に確認したのは、闇の書の闇だった、
爆炎の中に何かが見える・・・・緑色の何かが・・・・・眉をひそめながらも目を凝らし、確認する。
すると、爆炎が少し晴れ、その物の姿がはっきりと映し出された。
「緑の・・・・・十字架?」
爆炎の中から現われたのは、緑色の十字架・・・否、十字の形をした盾。
中央の黄金色の十字がその存在を示さんと光り輝く

                    それは三種の神器の一つ、『力の盾』

そして、その盾を構える騎士・・・否、勇者も、爆炎の中から徐々にその姿を現す。
「・・・・そんな・・・・・バカな・・・・・・」
何故奴は生きている?確かにシュツルムファルケンは直撃した、それなのに奴は健在している。
あのアイテムのおかげか?否、使う暇などなかった筈だ、それ以前にシュツルムファルケンを完全に防ぐなどありえない。
闇の書の闇は自然と後ろへと下がる、目の前の現実を受け入れたくないから、
自分を正面から見据えているあの騎士が怖いから・・・・一歩・・・・また一歩と。

そんな彼女を見据えながら、ナイトガンダムは右手に持つ剣を横に振るう。
それだけで、辺りを燃やし尽くしていた爆炎が一瞬で消える、消化などではない、まるで空間に溶け込むかの様に一瞬で。
だが炎はまだ残っている、その炎はナイトガンダムが持つ剣を包み込むように燃え盛る。
そしてその炎が消えると、彼が持つ剣の姿が変わっていた。
銀色に輝いていた剣は、赤い光沢を放つ宝石の様に美しい剣へと変化していた。まるで炎を取り込んだような剣。

                    それは三種の神器の一つ、『炎の剣』

皆がその光景に自然と見入っている中、ナイトガンダムは炎の剣を天へと掲げる。その直後、炎の剣から黄金色の光が放たれ、上へとと駆け上る。
それは闇の書の闇が作り上げた空間を突き破り、外へと突き出す。だが、それでも光は伸び、上空に立ち込めていた暗雲の中へと消えてゆく。
その直後、炎の剣から放たれ、暗雲の中へと消えた光は、その数倍の大きさの光となって落ちて来る。
その光は石版同様半球に吸い込まれ、炎の剣を掲げているナイトガンダムに叩きつけるように直撃、彼を光で包み込んだ
「あぁああああああああああ!!!」
光の中から聞こえてくるナイトガンダムの悲鳴。それは石版を装備する物にとっては避けては通れない道。
三種の神器は力を与えてくれる。だが、その代償として装備者に途轍もない負担をかける。
もしこの光の衝撃に耐えられないのであれば、装備をする事など出来ない、これは三種の神器を持つに相応しいかの最後の試練であった。
サタンガンダムの時と違い、今の疲弊したナイトガンダムにはこの衝撃は耐えられるものではない。
だが、助けたい騎士達がいる。守ってあげたい少女達がいる。自分を信じてくれた少女達がいる。
だからこそ耐える。この戦いを終らせる力を、この手にするために。
「おおおおおおおお!!!!!」
光の中で、徐々に身に着けている鎧の姿が変わってゆく。銀色の鎧から、蒼を主体とした鎧へと。

そして光が晴れた時には、彼の鎧は完全に変わっており、最後の装着品であるバイザーが、
スパークを立てながら既に装着されているバイザーに被さる様に装着され、中央のくぼみに真紅の宝石がはめられる。

                      それは三種の神器の一つ、『霞の鎧』


                      それは、ラクロアに伝わる伝説の武具。
                   それは、選ばれし者に絶大な力を与える伝説の武具。
                    それは、神の一部とも言われている伝説の武具。

                      それを装備するもの、伝説の名を持つ者
                      それを装備するもの、ラクロアの勇者

                          その名を、ガンダム

三種全ての神器が装備され、力が隅々にまで行き渡る事を感じる。
一部始終を見ていた皆も、見ていただけだが、その力はヒシヒシと感じ取る事が出来た。
「ちっ!!ヴォルケンリッター、来い!!」
闇の書の闇からは余裕と勝利という言葉が抜け、険しい表情でヴォルゲンリッターを周囲に配置し
フェイト達は喜びよりも、ただ唖然とその姿を見ている。
そして、彼らの注目対象となっているナイトガンダムは、ゆっくりと炎の剣を構え、剣身に炎を纏わせる、そして

                           「参る!!」
                           「行け!!」

ナイトガンダムは地面を蹴り突撃、ほぼ同時に闇の書の闇はヴォルケンリッターに攻撃命令を出す。
戦いの火蓋が・・・・再び斬って落とされた。

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最終更新:2009年03月01日 19:49