魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第17話

12月24日クリスマスイブ、本来ならいつも以上に人々が賑わう日。
町の彼方此方からはクリスマスソングが聞こえ、眩しいほどのイルミネーションに包まれる。
サンタクロースの格好をした店員がハンドベルを鳴らしながらクリスマスケーキを売り、
恋人達がレストランでクラスを交わす。
子供がプレゼントを大事に抱え走り、母親と思われる女性が転ばないようにとやんわり注意する。
とても平和なクリスマスの光景。だが、それは結界外での光景に過ぎない。
結果に包まれている海鳴市は・・・・・・・・正に戦場であった。


「第六班!!炎の噴出を抑えろ!!!」

「修復なんで後でやれ!!これ以上ぶっ壊さないように手足動かせ!!!」

「結界維持班!!絶対に維持しろ!!破壊されたら一気に阿鼻叫喚の地獄絵図の出来上がりだ!!!」

「分かってる!!そっちこそあの赤竜モドキをどうにかしろ!!この人数じゃ維持で限界だ!!迎撃なんで出来やしない!!」

「あーくそ!!援軍はまだか!!」

「クロノ執務官がグレアム提督から借りてきた武装局員は!!?」

「知るか!!連絡が全くつかないんだとよ!!!」


なのは達が海上で激戦を繰り広げている時、此処、海鳴市市街地でもアースラ所属の武装局員達が、なのは達と同等の激戦を繰り広げていた。
本来なら市街地での戦闘で破壊された町を修復し、結界を維持というそれ程苦ではない任務。
だが、彼らが作業を始めた瞬間、異変は起こった。
まるで彼らの作業が機動キーになったかの様に地面から本来この世界は生息しない筈の赤竜が多数出現
そして、それを祝うかの様に、幾本もの火箸が町の彼方此方から立ち昇る。

アースラ所属の武装局員もけして無能ではない。
全員がそれなりの場数を踏んでおり、他部隊に胸を張って自慢しても恥ずかしく無い程の実力と行動力を兼備えている。
(プレシア事件ではあえなく全滅したが、相手を殺す気だったプレシアに対し、全員が生き残った事は十分彼らの実力を証明している)
ただ、なのは達の存在が彼らの実力を過小評価してしまうのは仕方の無い事だと思う。
年齢、実力、魔力量、彼女達は特別すぎるからだ。
だが彼らは決して嫉妬などはしなかった。むしろ彼女達を頼れる仲間として頼り、妹の様に接してきた。
まだ子供であり、次元世界の事を知って間もないなのはが、今でも魔法と接した生活を続けられるのも、
立場が微妙であり、外の世界をロクに知らず他者とまともに喋った事のないフェイトが、安心して今この場にいられるのも、
リンディ達や彼らの存在があってこそ。

「くそっ!やらせねぇぞ!!あの子達の町はな!!」
情けないが、自分達の実力では今回の戦闘には加わる事はできない。むしろ邪魔になる・・・否、なのはの性格は短い付き合いながらも知っている。
自分達を助けようとして自らが盾になることもありえる。援護なぞ出来るわけがない。邪魔しに行くような物だ。
そんな自分達に出来る事といえば、破壊された町の修復と、結界を維持し、外に被害を出さない事。だからこそ、彼らは死力を尽くす。
共に戦えないという悔しさを歯を食いしばって押さえ、自分達が出来る事を精一杯行うが、現状はそんな彼らの決意を砕くほどに切迫していた。
本来結界維持を8割、残りの2割で町の修復を予定していたが、突如地面から発生した火柱、そしてこの世界には存在しない筈の赤竜が
彼らの計画をズタズタにした。
火柱は彼方此方に発生し、空中にいる武装局員を怯ませ、根元から流れ出た溶岩は町を飲み込み、結界外から抜け出ようとする。
同じく地中から出現した赤竜は触手を駆使し、武装局員に襲い掛かる。
突然の自体に、武装局員の数名が舌打ちをするが、彼らは決して慌てる事無く行動を開始した。
先ず彼らは町の修復作業を中断した。敵対する相手が現われた以上、暢気に修復している暇などない。
それ以前に、戦闘となれば周囲の建物の損傷は免れないからだ。消して結界に制限時間があるわけではない。全てが終ったら直せばいい。
その結果、修復担当班と一部の結界担当班は赤竜の撃退、そして結界維持で身動きが取れない仲間の援護という役割についた。

だが、正直人数が足りない。本来なら此処にいる人員の8割で結界を維持し、残りが町の修復などを行うという計画だったが、
今では人員の5割で、しかも脆くなりつつある結界の維持を行っている。担当している全員が苦しそうな表情をしていることから
この人数での維持がどれほど無茶な事か誰にでも痛いほど分かる。
そして残りの隊員は赤竜との戦闘に負われていたが、これは戦闘とは呼べず、ただ近づかない様に弾幕を張るという行為しか出来なかった。

もし赤竜が数匹なら撃退という選択肢も出来ただろう。だが、数が多すぎた。結果内の彼方此方からコンクリートの地面を割って出現した赤竜は
自分達を殺そうとしてる局員には目もくれず、結界を維持しようとしている局員にのみ攻撃を加えていた。
それに対し、撃退を担当した武装局員は途中から更に役割をわけ、迎撃に当たっていた。
弾幕を張り足止めと触手を破壊する前衛、そして一撃必殺の砲撃で頭を打ち抜く後衛、この人数で出来る唯一の防衛方法。
否、これは防衛ではない。援軍が到着するまで、もしくはなのは達が根源を倒してくれるまでの時間稼ぎに過ぎない。

だが、そんな絶望的な状況でも救いはあった。それは町の修復、結界維持の他に課せられた『民間人の保護』という任務。
何故かこの結界内に取リ残された子供二人を保護すると言う任務だったが、このような状況ではそんな事をしている余裕などない。
そんな二人が、今の所被害が無い、外れに向かってくれているのはありがたかった。
赤竜達も、脅威とならない子供は無視する事にしているのだろう。子供達の所には一切向かわず、こちらに攻撃を週集中している。
「ほらほらこっちだ、化け物!!」
言葉が通じるとは思えないが大声で挑発しながら注意をこちらに向けさせ攻撃を続ける。

そんな時であった、地中から新たな赤竜が現われたのは。
突然砲撃を担当する局員達の真下から現われた赤竜は、コンクリートの地面を砕きながら、這出た時の勢いを殺さずに
上空で攻撃をしている局員に体当たりをかける。
この現場の隊長が咄嗟に声をかけるも、疲れきり、各自の持ち場に集中している局員にその声が届く事はほとんど無かった。

ある者は自分に何が起こったのか理解する暇も無く意識を失い
ある者は気づく事は出来たが反応が出来ずに体当たりを喰らい
ある者は道連れといわんばかりに避けずに攻撃を放つ。

どうにか全て撃退はしたものの、戦闘を担当していた局員は半分に減り、残りも殆どが奇襲によるダメージが聞いているのか
デバイスを構える事すら出来ず、今にも落下しそうにふらふらと浮いているだけとう状況。
「っ、くそ!!」
どうにか不意打ちから逃れる事は出来たが、状況が最悪な事に現場隊長は悪態をつく。
運よく結界担当班には被害は無く、どうにか作業は継続されていたが、彼らを守る隊員の殆どが戦闘が出来る状態ではない。
否、結界維持班もそろそろ限界が来ているのだろう。目視でも分かるほど結界が薄くなっている。
そして、こんな彼らを見てチャンスと感じたのか、赤竜が正面から一気に押し寄せてきた。
「くそっ!!諦めるな!!動ける奴は迎撃を再会しろ!!!」
自らを奮い立たせるかのように叫び、周囲に指示を出すも、内心ではこの状況に絶望を感じていた。
結界は限界、迎撃できるのは自分を含めて数人、絶対絶命という言葉がぴったり当てはまるこの状況。
現場隊長を含めた全員が諦め、絶望、そして死の恐怖を感じ、中にはデバイスを下ろす者まで現われる。
「・・・・・すまない・・・・」
口から出た謝罪は誰に対してだろうか?
戦っているなのは達に対してか?
この世界の住人に対してか?
ミットチルダの自宅で帰りを待つ妻と子供達に対してか?
赤竜は雄叫びをあげ迫り、口を大きく開け局員達を飲み込もうとする・・・・そして

       銃声が鳴り響き、現場隊長を飲み込もうとした赤竜の眉間に風穴が空いた。

現場隊長を飲み込もうとした赤竜は絶命、彼の横を通り過ぎ、ビルへと激突する。
続けて聞こえてくる発砲音、そのたびに局員に襲い掛かろうとしていた赤竜は生命活動を停止する。
「な・・・・なんだ一体・・・・」
突然の援護攻撃に一瞬呆気に取られるが、直ぐに頭を切り替え、魔力弾が飛んできた方へと体を向ける。
なのは達が駆けつけてくれたのかと思ったが、直ぐにその考えを否定する。
彼女が得意とするのは砲撃、このような精密射撃ではない。それ以前にアースラ関係者にピンポイントの精密射撃魔法を使える人物などいない。
「・・・・・誰だ一体・・・・・」
魔力反応から射撃を行った人物がこちらへと近づいてくることは分かるが、姿が全く見えない・・・・否、
目を凝らせばどうにか何かが近づいてくることが分かる。
「・・これほどの距離から・・・一体・・・・」
こちらへ近づきながらも、射撃を行い赤竜の命を奪ってゆくその人物。
とにかく部隊長は内心で感謝の言葉を述べた後、その隙といわんばかりに大声で全員に指示を出し、体制を立て直す。
「迎撃班!!動ける奴は数名を残して結界担当と変われ!!結界担当!!!交代の後、半分は迎撃に回れ!!!
残りは無理矢理にでも休んで少しでも体力その他諸々回復させろ!!疲れが取れた者から交代!!!」

               『了解!!!』

一気に捲し立てた後、深呼吸を一回。自身に冷静さを取り戻させ、力強くデバイスを握りなおす。
その直後、精密射撃魔法を行っていた人物が、現場隊長の元へと到着した。
「貴方が、ここの現場隊長ですね?」
なぜ自分が現場隊長打と分かったのだろうと考えるが、おそらく大声で指示を出していたからだろうと内心で納得する。
「(・・・・しかし・・・若いな・・・・)」
外見からだが、歳は執務官補佐であるエイミィ・リミエッタと変わらないであろう少年。
バリアジャケットからして、おそらくミットチルダ首都航空隊の隊員だろう。手には精密射撃を行ったと思われる銃型のデバイスを持っている。
「・・・・君は、首都航空隊の隊員だろう?どうしてここへ・・・・提督の指示か?」
「はい、リンディ提督からは許可を貰っています。自分は時空管理局首都航空隊所属、ティーダ・ランスター二等空尉であります」
現場隊長を見据え、力強く敬礼をするその姿に、自然と頼もしさを感じながらも、敬礼を返す。
正直、此処での援軍はありがたかった。先ほどの攻撃で分かったが、彼なら自分達の数人分の働きをしてくれる。
だが、吉報はこれだけではなかった。ティーダの報告はまだ続く。
「もうすぐ、援軍として時空管理局・首都防衛隊のゼスト隊も到着します。それまで頑張りましょう!!」
正に天の助けとはこの事だと思う。ゼスト隊といえば、ストライカー級の魔導師であるゼスト・グランガイツを隊長とした
首都防衛隊の切り札ともいえる精鋭部隊。そんな彼らが駆けつけてくれるのだ、心強いなんて物ではない。
「それは・・・・ありがたい。だが、何故だ?」
彼が疑問に思うのは不思議ではない。ディータをはじめ、ゼスト隊が駆けつけてくる理由が思いつかない。
同じ本局の部隊ならまだしも、地上本部、それも本局を嫌っているレジアス・ゲイズの懐刀であるゼスト隊が来るとは考えられないからだ。
「・・・・・自分は志願して此処へ来ました。ゼスト隊もクイント・ナカジマ准陸尉が志願した結果、
ゼスト隊全員がこちらへ来る事になったと聞きました。友である、騎士ガンダムを助けるために」

騎士ガンダム、次元漂流者である見た事も無い種族の騎士。彼とは一度顔合わせをしたきり、会ってはいない。
だが、噂は他の隊員から聞いた事はある。礼儀正しく紳士、正に絵に描いたような騎士だと。

「(これも・・・・彼の力か・・・・・)だがいいのか?騎士ガンダムは別の場所で戦っている。そちらも苦戦していると聞くが」
「大丈夫です。自分も、ナカジマ准陸尉も騎士ガンダムを信じています。彼が勝利を齎してくれる事を。だからこそ、
彼が安心して戦える場所を作るのが、自分の仕事だと思っています」
「生意気な・・・・・なら、遠慮なく頼らせてもらうぞ!!礼に飯ぐらいおごってやる。本局の食堂だけどな」
「はい!ご馳走になります!!」
「部隊長!!自分達も御相伴にあずからせてください!!」
自分達の話を聞いていたのだろう。負傷、もしくは回復に専念してい隊員が上空へと上がってくる。怪我をして上空に上がれない者も、
ビルの屋上でデバイスを構え、射撃体制を取っていた。
既に彼らを支配していた諦め・絶望・死の恐怖は吹き飛んでいた。その代わりに、終っていない、まだ戦えるといった希望が彼らを支配する。
そんな彼らの姿に、自然と戦意が向上していく事を部隊長も感じた。獰猛にニヤついた後、再び迫り来る赤竜目掛けてデバイスを構えた。

               「ああ、こうなりゃ大盤振る舞いだ!!!好きなだけ食え!!!」

その声を合図とし、反撃の砲撃が再開された。

  • 海鳴市海上

「はぁああああ!!」
声と共に、金色に輝く大剣『バルディッシュ・ザンバー』が振り下ろされる。
容赦の無い縦一文字の斬撃。その攻撃を闇の書の闇は舌打ちをしながらバックステップで後ろへと避ける。
だが着地した瞬間、今度は横一文字の斬撃が彼女を襲った。
「っ!こいつ!!」
その大きさとは裏腹に、まるでナイフでも扱っているかの様な素早い攻撃に対し、その場で踏ん張ると同時に咄嗟に肘を曲げ、
フィールドでコーティングした前腕でその攻撃を受け止める。だが、
「このぉおおおおおおお!!!」
フェイトは足を踏ん張り、腕に力を込め、防御の上から彼女を斬る勢いでそのままバルディッシュ・ザンバーを押し付ける。
それに対し、闇の書の闇も対抗するかの様に押し返す。

「(勝てる!!)」
闇の書の闇と戦闘を開始して数分、その僅かの時間に、フェイトは自身の勝利を確信した。
今戦っている相手は決して弱くは無い。だが、自分が今まで戦ってきたなのはやシグナムなどの強敵と比べると明らかに劣る。
これなら勝つ事が出来る。消して自惚れでは無い、自身を持って言える確信。
だからこそ、ェイトは勝負に出た、全てに決着をつけるために。

互いに力のぶつけ合いとなるかと思ったが、突如フェイトは押し付ける力を弱めた。
突然対抗する力がなくなった事により、闇の書の闇は簡単にバルディッシュ・ザンバーを押し返す事ができたが、
バランスを崩しよろめいてしまう・・・・その隙をフェイトが見逃す筈が無かった。
横薙ぎに斬りつけた時に準備は済ませていた。後は至近で放つのみ、自身の砲撃魔法を
「プラズマ・・・・・スマッシャアァァァァァァァァー!!!!!」
たたらを踏み、どうにかバランスを取り戻した闇の書の闇にフェイトは至近距離から中・近距離砲撃魔法『プラズマスマッシャー』を放った。
その黄金色の魔力は、ほの暗いこの空間を照らすと同時に、闇の書の闇を容赦なく飲み込み、吹き飛ばした。

「よっしゃ!!」
その光景に、はやては嬉しそうに叫び
外で様子を伺っていたなのは達も安どの表情を浮かべる・・・だが、
「まだだ・・・・フェイト・テスタロッサ!」
リインフォースだけは、変わる事無く険しい表情で様子を伺っていた。
そして、そんな彼女の言葉を実現するかの様に、爆煙の中から闇の書の闇がその姿を現した。
咄嗟にバルディッシュ・ザンバーを構えるも、服はボロボロの上、険しい表情で右腕を押さえている闇の書の闇の姿に、
フェイトは勿論の事、はやてやなのは達も勝利を確信する。
だがその姿を見ても、リインフォースの表情は変わることはなった。
「・・・・・お前・・・・・何を隠している・・・・」
「・・・・何って・・・・・何も・・・・」
だるそうにリインフォースの方に顔を向け答える闇の書の闇、フェイトはどういうことか聞こうとするが、
彼女より先に、隣にいるはやてが尋ねた。
「リインフォース・・どういう事や?どう見ても後一歩でフェイトちゃん大勝利な流れやんか?」
「はい・・・ですが主、思い出してください。闇の書の闇は、今までの主を殺してきたといっていましたよね?」


『そう、今までの主はどんな願いにせよ自分の欲望に忠実だった。だからこそ、闇の書の力を手に入れようと躍起になった。
闇の書が完成した後はね、主は皆此処に来るの。そして私が甘い言葉で誘うわけ、当然皆乗るわ。
当たり前よね、自分の欲望を満たせる力が手に入るのだから。あとは簡単、緩みきった主を取り込む・・・・まぁ殺すわけよ』


確かにあの時その様な事を言っていた事を思い出す。だが、それでもはやて達は答えにたどり着けない。
「失礼ですが主、魔法の存在を全く知らなかったから仕方が無いことですが、貴方は今までの主の中で一番弱い。
ですが他の・・・・今までの主の中には、かなりの強者もいました。それこそ、フェイト・テスタロッサの様な強者から
ヴォルケンリッターが束になっても勝てないほどの者まで・・・・・・そんな彼らが、闇の書の闇に、それこそ管理者権限の効果で
完全に暴走していない彼女に殺されることなど考えられない。
無論、油断なども考えられますが、今の彼女の実力はシグナムに劣る。そんな彼女が今まで勝てたのには何かが在る筈です」

正直、リインフォース自身も自分の発言が考えすぎではないと思う事もある。
今までの主が奴に殺された時、自分は何もしなかった。無論、何も出来なかったらという理由もあるが、
彼らが守護騎士に行った仕打ちからして、助けるに値しないと思ったからだ。だがら何もしなかった。ただ彼女の行為から目をそらしていた。
だからこそ、先ほどの発言もただの憶測に過ぎない・・・・・否、むしろ憶測であって欲しいと願う・・・・・だが、

           「あ~あ・・・もう!ネタバレはよしてよ・・・・つまんなくなるじゃない」

先ほどの苦しそうな声とはまるで違う生気に溢れた声、それは先ほどフェイトの攻撃を受けた闇の書の闇から放たれた。
フェイトは直ぐに顔を引き締め、『勝利』という言葉を頭の中から排除する・・・・その直後だった
「・・・えっ・・・・」
自分でも何が起こったのかわからない。とにかく言える事は急に体が重くなった事。
まるで生まれてから今までの疲れが一気に押し寄せてきた感じ・・・・目がかすみ、立つ事さえさえ困難になる。
「ふふっ・・・・どう、『闇』に飲まれる気分は」
嬉しそうな声と共に、見つめる闇の書の闇はゆっくりとフェイとへと近づく。いつの間にか腕の傷は癒えており、
ボロボロになった服も3歩目には新品の様に元どおりに修復される。
「そんな・・・・・ダメージが・・・・」
「ん?ああ、これね。此処が何処だか忘れてない?ここは闇の書の中。暴走した今では此処は私の体の中と言っても過言では無いわ。
だからね、この中にいる限り貴方が頑張って傷つけてくれたこの体も、服も、ご覧の通り。まぁ、私を倒したかったらアルカンシェルでも使いなさい」
自慢するように喋りながらフェイトへと一歩一歩近づく。
相手が来る事は分かってはいるが、体が全く動かない。経験した事は無いが、まるで毒でも受けているかの様に力が抜け、
バルディッシュを持つ事さえ出来なくなる。そして
乾いた音を立ててバルディッシュが床に落ちると同時に、フェイトもゆっくりと倒れこんだ。
はやてが何か叫んでいる。バルディッシュが何か報告している。だが、頭が理解に追いつかない。
「人・・・いえ、あらゆる生物は誰にでも心に闇を持っている。それでこそ、生まれたての赤ん坊にも闇はあるわ。
私はね、それを弄る事が出来るの。まぁ、闇の大きさによって出来ることは限定されるけどね」
倒れているフェイトの元まで辿り着いた闇の書の闇は、倒れている彼女の右腕を掴み、力任せに持ち上げる。
まるで死んでいるかの様に体からは力が抜け落ち、抵抗所か体を動かす事さえ出来ない。
「今までの主もこんな風にして殺したわけ。ホント楽だったわ。彼らは悪意に満ち溢れていたら虫を殺すより簡単だった。
本当はもう少し経ってからやろうとしたんだけどね。ほら、希望を十分に持たせた後にそれが無駄だと分かった瞬間の絶望感、その表情を見るのが大好きなのよ。
だけどあの馬鹿がネタバレしたから台無し・・・・・だけど貴方の闇は小さいわね、この程度で済むんだから。普通だったら体の彼方此方から体液撒き散らして再起不能よ」
一方的に話す闇の書の闇、フェイトはただ彼女の話を聞く事しかできなかった。
右腕だけで体を持ち上げられているため、傷みに顔を顰める。だが、その傷みのおかげで、どうにか飛びそうな意識を保つ事が出来た。
「ふふっ、さて、説明はお終い・・・・・それじゃあ・・・・・お楽しみと行きましょうか」
声を弾ませ楽しそうに微笑んだ後、闇の書の闇はフェイトのバリアジャケットの前襟に人差し指を引っ掛ける。そして

                 ビリィイイイイイイイイイイイ

指を引っ掛けたまま力任せに下へと下ろし、フェイトのバリアジャケットを引き裂いた。

「オマエェエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」
その光景を見た瞬間、アルフは喉が張り裂けんばかりの叫びをあげながら、フェイト達がいるであろう黒い半球に向かって突撃、
拳にありったけの魔力を込め、叩きつける。
「殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!!!」
許せない・・・否、許せる筈が無い。今すぐフェイトを助け、あいつを殴り殺してやる。
野生の本能をむき出しにし、奇声とも思える叫び声をあげながら拳を叩きつける、何度も、何度も。
だが、彼女の怒りが実を結ぶ事は無かった。いくら拳を叩きつけても、黒い半球はびくともしない、
だたアルフの拳がボロボロになるだけ。だが、それでも彼女は攻撃を止めない。
「ハハハハハ無理無理!!!外からじゃ此処に来る事は出来ないわ!!大人しく主が大人の階段を上る瞬間を姿を眺めてなさい。
安心して、私、女でもオッケーだから、ゆっくりとこの子の体を堪能させてもらうわ。その後、この子の体を頂くわね。先ずはファーストキスから」
意識が朦朧としているフェイトの顎に手を乗せ、頭を無理矢理持ち上げる。
涙を浮かべ、必至になって攻撃を行うアルフを、『自分の体を差し出すから手を出さないで』と叫ぶなのはを、
『やめてくれ』と懇願するクロノを、『この変態!!』と罵るはやてを、
ゆっくりと見据えた後、鼻で笑い、再びフェイトの方へと顔を向ける。
「・・・・や・・・だ・・・・・」
自分がこれから何をされるのか、今のフェイトには理解する事ができなかった。
だが、恐怖だけは感じる。舌なめずりをしながら顔を近づける闇の書の闇にフェイトは体を震わせ、恐怖から逃げるかのように目を瞑る。
「安心して・・・・・痛いのは最初だけ・・・直ぐに貴方から求めるようになるわ・・・・・」
息が顔に掛かる、それ程顔が近づいているのだろう。
怖くて目を開けられない。ただ震え、心の中で助けを求める事しかできない・・・・・・そして互いの唇が触れる瞬間、

                        突如空間が割れた

皆が驚く中、一番驚いたのは闇の書の闇だった。
彼女が覚醒してから今に至って、その殆どは予測していた範囲で起こったことだった。それこそフェイトの出現もその予測の範囲。
それでも予測外だったことが二つある。一つは高町なのはによる予想外の健闘。だが、それも今となっては過ぎた事として片付ける事が出来る。
そして残りの一つが今現在の状況である。
この空間では無敵と言っても過言ではない闇の書の闇にも弱点が一つだけあった。それは『臨機応変』な対応が出来ない事。
彼女は誕生してから今まで、窮地に陥った事はなかった。その強大な力を振るい、逆らう物をただ蹂躙するだけの力任せの行為。
だからこそ咄嗟の対応が出来ない。ヴォルケンリッターの様に様々な敵と、それこそ命をかけて戦い、戦闘経験を積んでいない彼女には。
もしなのはだったら防御魔法を展開していただろうし、フェイトやシグナムだったらバックステップで距離を取っていただろう。
だが、彼女が出来た事といえば空間が割れた方へと顔を向ける事だけ。
先ず彼女の瞳に写ったのは・・・・・・・拳だった。その直後

               「女性を殴るなど騎士失格だが・・・・貴様は別だ!!!!!!」

捻りを加えたストレートが頬に直撃した。
手加減一切無しの鉄拳に、闇の書の闇は地面に叩きつけられながら豪快に吹き飛ぶ。
その結果、枷が外れたフェイトは、重力に従い背中から地面に落下しそうになるが、その体をストレートを放った騎士が優しく受け止めた。
そして直ぐに、自身のマントをフェイトの体に被せ、露になった裸体を隠す。
「・・・・・暖かい・・・・・」
両腕で抱きかかえて受け止められたため、背中と太股から感じる手の暖かさがとても心地よい。
いや、この暖かさは感じた事がある。あの時、優しく頭を撫でてくれた暖かさと同じ。
だが確かめたい。自身を安心させたい。そんな思いからゆっくりと瞳を開ける。
「すまない・・・遅れてしまって・・・・でも、もう大丈夫だから」
自分を安心させるかの様に微笑む騎士に、フェイトは精一杯笑顔で返した後、ゆっくりと頷いた。

フェイトの体を優しく床に横たえた後、先ほどフェイトに向けた笑顔とは違う、
怒りに満ちた瞳で倒れている闇の書の闇を睨みつけ、剣を突きつける。
「立て・・・・・貴様には言葉など不要!!」
「・・・・まったく・・・・・アンタの存在を忘れていたわ・・・ナイトガンダム!!!」
ゆっくりと立ち上がった後、口から血が混じった唾を吐き出す。
既に余裕のある表情などしていなかった。憎しみを憎悪に顔を歪ませ、自分を殴り飛ばした相手を射殺さんばかりに睨みつける。
だがそれも一瞬、直ぐに先ほどの様な余裕のある笑みを見せる。まるで勝利を確信したかの様な笑みを
「あかん!!ガンダムさん!!あいつ、フェイトちゃんと同じ事する気や!!!」
その表情の変化にはやては闇の書の闇が何をするのか直ぐに理解できた。十中八九、フェイトの時と同じことをする筈。
だが、それが分かっていても、自分には何もする事ができない。否、この光景を見ている人達、誰もが彼女の凶行を止めることなど出来ない。
「ふふっ、かっこよく出てきたところ悪いけど、さっさと・・・・・・・・」
『さっさと死んでちょうだい!!』そう声を弾ませて言おうとした・・・だが、言う事ができなかった。
今彼女を支配しているのは余裕ではない、純粋な驚きと恐れ。それを周囲にアピールするかの様に体を震わせ、自然と一方後ろへと下がる。
また相手を油断させる芝居かとはやては思ったが、ネタがばれている以上、そんな事をする必要は無い筈。
否、彼女は演技などしていない。純粋に恐怖していた・・・・・・目の前の騎士の存在に。
「・・・・・・あんた・・・・・何者・・・・・・本当に生き物・・・・・・」
突然質問を投げかけられたナイトガンダムは、答える必要が無いと思い沈黙を通す。
だが、闇の書の闇はしつこく、同じ質問を投げかけた・・・・・・・・何度も、何度も。
「・・・・そうだが?私はMS族という生物だ・・・それがどうした・・・・」
答えを聞いても信じられないのだろう。唇をかみ締め疑いの視線をナイトガンダムに向ける。
その間沈黙が続くが、誰も動こうとはしなかった。数秒後、大きく舌打ちをした後、闇の書の闇はゆっくりと質問の意味を話し始めた。
「人・・・いえ、あらゆる生物は誰にでも心に闇を持っている。それでこそ、生まれたての赤ん坊にも闇はあるわ。
だけどねナイトガンダム・・・・アンタには闇が一切無い・・・・本来生物には必ずある筈の闇が・・・一欠けらも・・・・・。
最初は見慣れない生物だがらそういう奴もいるかと思った・・・・だけどアンタは違う、アンタにも闇があった・・・・・だけど」

          「アンタの闇は、綺麗に切り取られている。まるで、闇だけが分裂したかの様に」

「貴様が何を言っているのか理解できない・・・・いや、理解する必要など・・・・皆無!!!」
ナイトガンダムは地面を蹴り、闇の書の闇へと斬りかかる。
咄嗟に腕を交差し、その斬撃を受け止めるが、ナイトガンダムは強化魔法『ゼータ』を使い、
防御の上から叩ききる勢いで押し切り、切り払う事で再び彼女を吹き飛ばした。
「こいつ!!?」
足で地面を削りながら衝撃を殺し、どうにか体制を立て直すが、ナイトガンダムの猛攻は止まらない。
彼女が体制を立て直した時には既に目の前まで来ており、容赦なく斬撃を連続して喰らわせる。
「くっ・・この・・・図にのるなぁ!!!」
どうにが防御魔法で防いではいる物の、ダメージは確実に蓄積している。
回復しようにもフェイトの時の様には行かないうえに、ナイトガンダムは自分に少しの余裕も与えてはくれない。
「まともに戦った事が無い様だな・・・・明らかに弱い・・・・・シグナム・・・・否、イレインの量産型以下だ!!」
左手に持っていた盾を押し付けるように叩きつけ、三度彼女を吹き飛ばす。
そしてトドメと言わんばかりに斬撃魔法『ムービー・サーベ』を二発、連続して放った。
激しい爆音の後、爆煙が闇の書の闇を包み込み、彼女の体を覆い隠す。その隙に、ナイトガンダムは彼女にトドメを刺すべく詠唱を開始する。
自身が使える最強の魔法『ソーラ・レイ』を放つために。

ナイトガンダムにとって、これは自身が撃てる最後の魔法だった。
今までの戦いで体力、魔力共に、ほぼ使い切ってしまっている。この『ソーラ・レイ』を放てば、間違いなく疲労で意識を失うだろう。
だが、確実にトドメをさせる方法はこれしかない。内から湧き出る不安感、焦る気持ちを抑えながら、確実に詠唱を唱える。

今度こそ、誰もが勝利を信じていた。特になのはとフェイトは、ナイトガンダムが放とうとしている魔法『ソーラ・レイ』の威力を
間近で見ているため、その思いを更に強くする。
そして、詠唱も半分以上終わり、皆が勝利を確信した時

                 「へぇ・・・・・シグナム以下ね」

爆煙の中から放たれた攻撃、威力はたいした事は無いが、ナイトガンダムの詠唱を邪魔するのには十分な効果を発揮した。
咄嗟に盾で攻撃を防ぐが、その直後バインドが彼の体を拘束する。
「くっ、こしゃくな」
輪の様な物が三重にナイトガンダムの体を拘束するが、あの仮面の男に比べれば拘束性はさほど強くは無い。
体に力をいれ、直ぐに解こうとするが、突然発生した魔力反応が彼の行動を鈍らせた。
「な・・・・・これは・・・・・」
突如現われた魔力反応、その数は4つ。その内の2つにナイトガンダムは見覚えがあった。
フェイトとリインフォースも同じく感じ取ったのだろう。その反応に純粋に驚き、反応が出ている爆煙の方に顔を向ける。
「なら・・・・戦ってもらいましょうか・・・・シグナムと・・・いえ、ヴォルケンリッターと」
爆煙が徐々に晴れてゆく。其処には、受けたダメージを徐々に回復させてゆく闇の書の闇、
そして彼女を守るように周囲に浮いている四つのリンカーコア・・・・・そして
「リンカーコア送還・・・・・守護騎士システム・・・破損修復」
四つのリンカーコアの輝きが増し、弾ける様に消えると同時に、地面に四つのベルカ式の魔法陣が出現・・・そして

               「おいで・・・・・私の騎士達」

その言葉が合図となったかのように、魔法陣から、消滅した筈のヴォルケンリッターが現われた。

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最終更新:2009年02月01日 21:19