魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第14話


・本局内一室

本局内に幾つかある応接室。
部屋の明かりは消えており、唯一スタンドの小さな光だけが、この部屋を照らしている。
備え付けられているソファーには、一人の初老の男性がいた。
彼の手にあるのは『八神はやて』に関する事が細かく書かれた報告書。
だが、彼はそれを手に持つだけで目を通そうとはせず、机に置いてある写真立ての中にある写真を見つめていた。
若い男女と幼い男の子。誰が見ても家族の写真。この部屋に彼の事を知らない人物がいたならば、
息子夫婦と孫の写真を見ている老人と見てしまうだろう。
だが違う。写真に写っている男女は部下だった男とその妻、幼い子供は自分の生徒であり、今では立派な執務官。
初老の男性はその写真を見据えながら11年前の出来事、自分の部下を、彼女の夫を、少年の父を失った事件を思い出す。
だがロクな記憶が無い、あの事件で手に入れたのは名声でも手柄でもなかった・・・・後悔、それだけ。
それなのに周囲の皆は無論、夫を失った妻も、父を失った子供も、自分を責めたりはしなかった。
『仕方が無かった』『しょうがなかった』皆口に出すのはそんな言葉ばかり。
いっそ部下殺し、夫を返せ、お父さんを返せと罵ってくれた方がどんなに楽だったか。だが、自分の周りの人間は物分りが良すぎた。
むしろ英雄扱いをされた。プロパガンダとしての意味合いもあったのだろう。
だが、彼には辛かった・・・・辛すぎた。

               『何が英雄だ?部下を殺した自分が何が英雄か!!』

「・・・・そろそろか・・・・」
我に返ると同時に時計を見る。おそらく自分の使い魔達が上手くやってくれているだろう。
長きに渡る闇の書を巡る忌まわしい事件ももうすぐ終る。彼女『八神はやて』の永久封印という形で。
幼い、未来のある少女を永遠に封じ込めるという事に、心が痛む事もあった。
だからこそ、悲劇を繰り替えさせてはいけないという薄っぺらい使命感を盾にする事で正当化させ、自らを突き動かしている。
「・・・・それでも・・・・心は痛むな。結局、私はこの痛みを死ぬまで背負わなければならないのか・・・・・」
10年前は悲劇を起こさせないために部下を蒸発させた。そして今回は悲劇を永久に起こさせないため、自分を慕う幼い少女を
氷漬けにしようとしている。
「何も変わらんな・・・・・・後悔だけを残したあの時と」
男は手に持っていただけの報告書に初めて目を通した。まるで、眩しい物を見るかのように目を細め、八神はやての写真を見据える。
ギル・グレアム、闇の書事件に裏から暗躍していた男は、ケジメをつけるかのように、ただじっと、はやての写真を見据えていた。


・地球

海鳴大学病院から1キロほど離れた高層ビル、二人の仮面の男は事を終えた後、そこで最後の準備を行っていた。
「・・・よし、結界は張れた」
足元に展開していた魔法陣を消し、目視で結界が晴れたことを再確認する。
「デュランダルの用意は?」
「出来ている・・・・問題ない」
待機モードであるカード状態のデュランダルを見せつけ、抜かりがないことを証明する。その直後、
此処からでも聞こえる爆音と共に強力な魔力が、海鳴大学病院屋上を中心に爆発を起こした。
「・・・・空間攻撃魔法か・・・・・持つかな?あの二人?」
「・・・・・暴走開始の瞬間までは持って欲しいな」
今だ空間攻撃『デアボニック・エミッション』の攻撃が続く上空を見つめながら二人は呟く。

今頃、あの空間内ではあの二人の少女が必至になって攻撃に耐えていることだろう。
その調子で攻撃に耐え、時間を稼いでくれれば良い。いくら彼女達でも、今の実力では奴に勝つ事などできないだろうから。
否、勝って貰っては困る。奴には生きたまま、永遠に眠ってもらわなけらばならないのだから。

「まぁ、精々かんばってくれ・・・・未来を担う魔道師達・・・・・っ!?」
そんな、軽い激励の言葉を呟いた直後、彼らの周囲に、突如蒼い光の粒子が囲むように出現する。
その粒子の正体にすぐに気付いた仮面の男達は、即座にその場を離れようとするが、その行動より早く、
彼らの足元にミッド式の魔法陣が出現、其処から生えるように伸びた魔力の戒めが、彼らを拘束した。
「バインドだと・・・・だが、この程度」
「待て!これはただのバインドでは(そう、その通り」
上空から聞こえた声に、二人は揃えて顔を向ける。
「ストラグルバインド・・・・相手を拘束すると同時に、拘束者にかけられた強化魔法を無効化する」
愛杖のS2Uを構えたクロノ・ハラオウンは淡々と効力を説明しながらゆっくりと彼らの前へと降りる。
仮面の男達は脱出しようともがくが、クロノは特に慌てもせずにその光景を見据えた後、S2Uをステッキの様に回転させる。
「あまり使い所の無い魔法だけど、こういう時には役に立つ。変身魔法も強制的に解除するからね」
その言葉が合図だったかのように、二人の仮面の男は、声をあげて苦しみだす。徐々に体が光に包まれ、
体系が男性から女性へと、白い服が黒い服へと変わってゆく。
そして顔を覆っていた仮面が弾ける様に取れ、その素顔をさらす事となった。
足元まで転がってきた仮面に目を向けた後、クロノは変身魔法が解けた二人を再び見据える。
「・・・クロノ・・・・このぉ・・・・」
変身魔法が解けたリーゼロッテは、悔しそうにクロノをにらみつけ
「こんな魔法・・・教えてなかったんだがな・・・・」
同じく変身魔法が解けたリーゼアリアも、内から出る悔しさを抑えるかのように、声を低くし呟いた。
そんな二人の避難を正面から受け止めたクロノは、こみ上げてくる悲しさを拳を握る事で抑え、ゆっくりと答える。
「・・・一人でも精進しろと言ったのは・・・君達だろ?・・アリア・・・ロッテ・・・」
「・・・・全く・・・余計な事を言わなければ良かったよ」
観念したかの様にアリアは溜息をつき、ロッテもまた、軽く首を左右に振る。
「アタシらの負けさクロ助、さぁ、何処へでも連れて行くが良いさ・・・勿論、クロ助がさ」
「私達・・・・元が猫で自由奔放だからね、クロノ並みに強い相手がエスコートしてくれないと、逃げちゃうかもね?」

クロノに正体がバレ、捕縛された事は計算外だった。だが、まだ全てが台無しになったわけではない。
戦闘は未だ続いている。使い魔らしい二人が合流したが、それでも彼女達では奴を止める事は出来ないだろう。
もしクロノが戦闘に参加したのなら勝敗は分からない。だが、彼には自分達を護送する仕事が残っている、不可能だ。
奴が暴走すればこちらのもの。有効手段を用いてる自分達を拘束するほど、クロノも馬鹿ではない筈。

「確かに・・・・僕は君達をグレアム提督の所まで連れて行かなければいけない・・・・・だから答えてくれ。
騎士ガンダムを何処へ連れて行った」
「っ!!父様は関係(ジュ!!」
ロッテは主であるグレアムは無関係だと叫ぼうとした。だが、何かが顔の横を掠めたため、言葉を詰まらせる。
頬に感じる痛み。滴り落ちる血、パラパラと落ちる髪の毛、テニスボール大の丸さにくり貫かれた落下防止のフェンス、
そして、見た事もない冷たい瞳で自分達を見据え、S2Uを構えるクロノ。
「・・・・・悪いけど、無駄口は叩かないでくれ・・・・・管理外世界人への暴行、脅迫、君らは十分罪といえる行為を行っている。
大人しくこちらの質問に答えるのなら、多少考慮してもいいけど・・・・だんまりを通すのなら、君らの主である提督に全てを被ってもらう」
今まで見た事もない表情で自分達を見据えるクロノに、リーゼ姉妹は悔しそうに歯を食いしばり睨みつける。そして
数秒の沈黙の後、リーゼアリアが吐き捨てるように、ナイトガンダムがいる次元世界の座標を言い放った。

「・・・分かったわ・・・・ガンダム君はこちらに任せて」
クロノからの報告を聞いたリンディは通信を切り、一度溜息を吐いた後、背もたれに背を預ける。

今回の事件、裏で行動していたのは『やはり』グレアム提督だった。
予感はしていた。グレアム提督が闇の書事件に悔いを残していた事は以前から知っていた。だからこそ、今回の事件で何かしらの行動を起こすとは思っていた。
案の定、裏でリーゼ姉妹が動いていた・・・・・グレアム提督の差し金で間違いはないだろう。
身内である彼女達なら、エイミィが不審がっていたシステムのクラッキングなども納得できる。
だが、気付くのが遅すぎた。闇の書は完成してしまい、今はなのは達が迎撃を行っている。
彼女達の強さは十分理解してるが今回は相手が悪すぎる。その証拠に映し出されている映像からでも苦戦を強いられているのは目に見えている。
「(このままじゃ暴走して・・・今までの繰り返し・・・・)」

このままではいずれ暴走し、手が付けられなくなる。そうなってしまうと方法は一つ。
周囲の被害を気にせずにアルカンシェルで吹き飛ばすしかない。だが、方法はもう一つ残されている。
唯一の望みは主である八神はやての意識があること、もし呼びかけに応じればまだチャンスはある。

「エイミィ!!ガンダム君の居場所、特定できた!?」
「はい!ですが・・・・思ったより距離があります。それに、戦闘が行われいるようです!!」
キーボードを素早くたたき、なのは達の戦闘が映し出されているメインスクリーンの横に、映像を出現させる。
音声を拾う事はできなかったが、映像は思ったよりの鮮明に映し出されていた。
一面の砂漠に、巨大生物の死骸が多数。中にはリーゼ姉妹が用意したのか傀儡兵と思われる残骸も確認できる。
それらの屍から少しはなれたところにナイトガンダムはいた。
外傷は無さそうだが、鎧は巨大生物の血液で汚れており、傷も幾つか確認でいる。
どれほど戦い続けていたのだろうか?息は荒く、立っている事も辛いのか、時より膝をつき動きを止めている。
それでも、襲い掛かって来る傀儡兵を横一文字に切り裂き、砂の中からでて来た赤竜を電磁スピアで黒焦げにし、どうにか餌食になる事を防いでいた。
このままでは不味いことは誰が見ても分かった。だが、今の自分達に・・・・・助けに向かわせる戦力は無かった。
なのは達は論外、クロノはリーゼ姉妹やクレアム提督の尋問、アースラ所属の武装局員も結界の維持や周囲の災害で手一杯。
それ以前に、あの場所へ行けば必然的に戦いとなる。相手は赤竜や傀儡兵、仮にどうにか局員を割けても、下手したらナイトガンダムの足を引っ張る可能性もある。
「せめて・・・・・クロノやなのはさん達ほどの実力者・・・・・ランクA以上の魔道師がいれば」
そんな虫の良い話があるはずがない。そう思っていた。だが、頭に浮かんだある人物の姿が、その思いを打ち壊した。
「アレックス!!」
自然と椅子から立ち上がり、武装局員に指示を出しているアレックス目掛け、大声で叫ぶ。

                 「至急連絡を!地上本部へ!!」


「はぁ!!」
もう何十体目かになる傀儡兵を真横に斬り倒す。切り口からスパークが発生しその直後、大爆発。
本来なら盾で爆風をやり過ごすか、斬った瞬間に退避するなど避け方はあるのだが、疲れがピークに達したナイトガンダムには
もうそんな余裕すらなかった。爆風に煽られ吹き飛び、砂の大地に叩きつけられる。
「・・・・・・まだ・・・だ・・・・・」
正直、このまま眠りたい。砂の冷たさが眠気を更に誘う。だが、此処で眠る事は死を意味する。あの機械や獣は待ってはくれない。
電磁スピアを杖にし、どうにか立ち上がるが体は正直に反応してしまう。
「・・・・・・う・・・・ぁ・・・・・」
足が自然ともつれ、尻餅をついてしまう。その隙を見逃す敵ではなかった。
一体の傀儡兵が手に持っている巨大な斧を構え突撃、それに対しナイトガンダムは迎撃態勢を取る所か、満足に立ち上がる事も出ない。
「・・・く・・そっ・・・・」
どうにか電磁スピアを杖にし立ち上がる。だが出来たのは其処まで。
先行していた傀儡兵は既にナイトガンダムの脳天目掛けて巨大な斧を振り下ろそうしていた。その時

                 『Knuckle Duster』

デバイス特有の電子音が突如響き渡る。その直後、ナイトガンダムに攻撃を加えようとした傀儡兵は凄まじい速さの何かと激突。
装甲を凹ませ、大地に自分の一部をばら撒きながら豪快に吹き飛んだ。

「・・・何が・・・一体?」
突然の事態にナイトガンダムは唖然としながらも、傀儡兵にぶつかって来た『者』に目を向ける。
ボディースーツの様な服装、おそらくバリアジャケットだろう。足には以前本で見たローラーブレードという履物の様な物を履いており、
腕には手甲と呼ぶには可笑しい無骨な物を装着している。
魔力で作った道の様なものの上に立っているその人物はゆっくりと顔を向け、間に合った事に安堵していた。
「間に合ったようね」
「ク・・・・クイント殿!?どうして此処へ?」
ナイトガンダムのピンチを救った人物、クイント・ナカジマは何も言わずに、自身が作った光の道『ウィングロード』から降り、駆け寄る。
そして、今すぐにでも倒れそうなナイトガンダムの体を抱え、負傷がないか調べ始めた。
「・・・・・怪我はないみたいね・・・でも、これだけの数をよくもまぁ・・・・」
赤竜と傀儡兵、戦闘能力だけならAランク魔道師とも渡り合える存在。そんな相手が辺りを見渡せば残骸や死骸となって埋め尽くされている。
これを全て一人でやったとなると、彼の実力を凄いと思うと同時に、彼が敵でなくて本当によったと思う。
「・・・・リンディ提督に頼まれてね・・・・・君がピンチだから助けて欲しいって。だから私が所属する陸士部隊が応援と救助にきたってわけ。
今、提督が担当している事件・・・かなり不味いことになってるそうよ」
「・・・・・っ!まさか!(動かないで!」
闇の書になにか動きがあったに違いない、居ても立っても居られなくなる。
咄嗟に起き上がろうとするが、その行動をクイントは無理矢理抑えた。
「落ち着いて、君の強さは十分嫌ってほど分かったけど、こんな満身創痍な状態じゃどうにもならないでしょ?メガーヌ!こっち!!」
クイントより少し遅れてきた陸士部隊っが即座に戦闘を開始する。隊長を思われる槍を持った男性が次々と蹴散らし、
残りは後ろから攻撃で援護する。その中から、クイントの声に反応した紫色の髪の女性が駆け足でこちらへと近づいてくる。
「回復と転送は彼女に任せるわ。私なんかよりエキスパートだからすぐに良くなるわよ。回復が終ったら彼女に現場まで転送してもらって、
此処は私達『ゼスト隊』が抑えるわ!」
到着したメガーヌに、二言三言言葉を交わした後、ガンダムに笑顔でガッツポーズを決めたクイントは、
ウィングロードを展開、戦場へと突き進む。
「さて、騎士ガンダム君ね?事情はクイントから聞いているわ、じっとしてて直ぐに終るから。っとその前に」
思い出し方の様に、メガーヌは不意に右手を肩の高さまで上げる。するとグローブに埋め込まれている水晶が光り、黒い塊を出現させた。
その塊は徐々に大きくなり人の形を形成、成人男性程度の大きさになった直後、爆発。
中から、人の形をしたモンスターが現われた。
「・・・これは・・・モンスター?」
「違うわ。私の自慢の使い魔、ガリューって言うの。見た目は怖いけど優しくて紳士よ。クイントの援護、お願いね」
承知したと言わんばかりに深々と頭を下げた後、踵を返し、砂の大地を蹴る。
ものすごいスピードでクイントの後を追うガリューの姿を確認したメガーヌは、ナイトガンダムの胸に優しく手を載せ、詠唱を唱える。
疲弊していた体がみるみる軽くなる感覚に心地よさを感じながらも、ナイトガンダムは向こうで起こっている出来事に不安を隠せないでいた。


・海鳴市上空

ユーノとアルフも加わり、実質4対1となった戦い。それぞれがスピード戦、砲撃、拘束など得意分野で一気に攻める。
だが、闇の書の意思は顔色一つ変えず、無言でそれらの攻撃を裁ききり、攻撃を仕掛けてくる。
拘束のため巻きつけたバインドは瞬時に破壊され、左右同時に放った砲撃は完全に防がれる。
そしてカウンターといわんばかりに、自動誘導型高速射撃魔法『ブラッディダガー』がなのは達目掛けて放たれた。
その攻撃を皆が咄嗟にガードし耐え切る。
「ううっ・・・どうにか・・・」
自身を包み混む爆煙から咄嗟に抜け出すなのは。自分は防御が間に合ったため、着弾時に舞い上がった煙にむせただけで済んだ。だが、皆はどうなのだろう?
なのはは咄嗟にフェイトやユーノの姿を確認、自分と同じく無傷でいる事に安堵する。
だが、フェイトの顔を見た瞬間、彼女が何か叫んでいた。それが『なのは!上!!』だと理解したその直後、
先ほどの攻撃が再びなのはに襲い掛かった。
レイジングハートが咄嗟にシールドを展開するも間に合わず、数本の赤い鋼の短剣がなのはに突き刺さる。
バリアジャケットの強度のおかげで致命傷は免れたが、彼方此方が裂け、露出した肌からは血がにじみでていた。
「(・・・・・油断・・・した・・・・)」
あの時、自分は仲間の無事だけを気にかけてしまい、敵である相手の行動を見忘れていた。
依然アリサにも言われた事がある『なのははすずかと同じで、私達のことを気にかけすぎて、自分の事をおろそかにしている』と
「はは・・・アリサちゃんの言うとおりだ・・・・・」
それがこの結果、正に自業自得だ。痛みを堪えながも必至に瞑っていた瞳を開ける。
先ず見えたのは無表情の闇の書の意思の顔。何度も言葉を投げかけても、答えるどころか表情一つ変える事がなかった。
その彼女が魔力を纏わせた拳を振り上げ、自分に叩きつけようとしている。
フェイト達が咄嗟に助けに入ろうとするが、再びブラッディダガーの洗礼を受け足止めをされてしまう。
未だにこちらに無表情の顔を向けているとなると、目的は間違いなく自分、あの拳が思い切りたたきつけられる事を考えると嫌な気持ちになる。
「防御を」
咄嗟に右手を翳し、障壁を展開しようとする。だが闇の書の意思は翳されたなのはの腕を掴み、無理矢理横に払う。
握りつぶすかのような力で掴まれる腕に、なのはは苦悶も表情を浮かべるが、
迫り来る拳を見た瞬間、それはすぐに恐怖手と変わる。
「・・・いや・・・・・」
防御の仕様が無い。もし冷静だったら何か考えが浮かんだかもしれないが、そんな余裕は無い。
バリアジャケットも先ほどの攻撃でダメージを負っている、当たればほぼダイレクトに自分にダメージが来るだろう。
体をこわばらせ目を瞑る。この瞬間に出来ることといえば、この位だった。そして

                     「ムービー・サーベ!!」

上空から放たれた斬撃波が、なのはを殴ろうとした闇の書の意思に直撃、爆煙に包まれながら落下してゆく。
自分を助けてくれた攻撃に、なのはは呆気にとられながらも斬撃波が放たれたほうへと首を向ける。
否、分かっていた。聞き覚えがある声、そして特有の魔法。それでも確認したかった。
「ガンダムさん!!」
「すまない、遅くなった」
ゆっくりと自分の元へと降りてくるナイトガンダムをなのはは笑顔で迎える。だが、彼の姿を見てその表情は変わってしまった。
こちらへ向かってくるフェイト達もまた彼の姿に言葉を失う。鎧は傷だらけ、マントは何かの染みで汚く汚れている。
誰が見ても無事とはいえない状態だった。
「一体どうしたんだい!?ズタボロじゃないか!?」
「色々とあってね。鎧はこの様だけど、戦闘には支障は無いから大丈夫。優秀な方に回復魔法を施してもらった。
悪いが詳しい話は後にしてくれ。こちらの事情もリンディ殿から聞いている。先ずは」
ゆっくりと顔を下へと向ける。
直に目が合った。無表情に自分を見つめる彼女に。全くダメージを受けていないのだろう。
直撃した肩には外傷はおろか、バリアジャケットに綻びすらない。ただ、自分・・・否、自分達に向けての強い殺気を感じる事は出来た。
「・・・・・アルフとユーノは動きを止めることに専念してくれ。あと、いざという時の回復を頼む」
「うん!」
「あいよ!」
「その隙に私とフェイトが接近戦を仕掛ける。なのはは後方で援護を頼む」
「わかった!」
「はい!」
なのはは後方に下がり、ユーノとアルフは挟み込む様に左右に展開、そしてナイトガンダムとフェイトは武器を構え突撃しようとする。
その光景を見た闇の書の意思はゆっくりと右手を掲げ魔法陣を展開。だが、その色は黒くは無く、なのはと同じ桃色。
そして大気中に漂う魔力が魔法陣の中心へと集まってゆき、徐々に大きな球体へと変わってゆく。
「なっ・・・まさか・・・」
「あれは・・・・」
ナイトガンダム以外の全員が、これから何が起こるのか嫌でも理解した。
なのはの必殺技ともいえる集束砲撃魔法。その威力を身を持って知ってるフェイトは、叫ぶようにアルフにユーノをつれて逃げるように指示、
その後、有無を言わさずナイトガンダムの手を掴み、全速力で退避、途中なのはの腰を抱え、スピードを上げる。
「フェイト!一体どうしたんだ!?」
「あれはなのはの必殺魔法・・・此処にいると危険!」
「でも、こんなに離れなくても」
「至近で直撃を受けたら、どんなに防御しても確実に落とされる、回避距離を取らなきゃ!」
既に肉眼では闇の書の意思は確認出来ず、桃色の球体が微かに見えるだけ、それでもフェイトはスピードを落とさすに距離をあける。

               『左方向300ヤード、一般市民がいます』

普段は自分から喋る事がないバルディッシュが無視できない報告をしたのは、距離にして数キロはなれた時だった。


「・・・・・」
普段なら車が行きかう道路、だが結界が張られている今では、車は愚か、人すらない筈の空間。だが、二人の人物が取り残されていた。
月村すずかは両手で通学カバンを抱え、ただ呆然と周りの風景を見ていた。
アリサと町を歩いていた時に起こった出来事。突然、人や車、町の喧騒が一気に無くなりゴーストタウンと化してしまった。
「やっぱり誰もいないよ!急にひとがいなくなっちゃった・・・・辺りは暗くなるし、何か光ってるし一体何が起こってるの!?」
様子を見に行っていたアリサが息を切らせながら近づいてくる。普段は強気な彼女も、この非常識な現状では同様を隠しきれないでいた。
それでも、不安がるすずかを・・・大切な友達を、少しでも安心させようと気を強く持つ。
「(・・・何、あの誘拐に比べたらまだマシよ!!)とりあえず逃げよう!なるべく遠くへ!」
「う・・・うん」
自らに活を入れたアリサは、すずかの手を引き、その場から離れようとする。
口では言ったものの、何処へ逃げて言いのか分からない。不安だけが残る。
だが、彼女は諦めていなかった。ある騎士の存在が彼女の心を折れなくしている。
「それに・・・・・私達にはいるじゃない。強くてカッコいいナイトがさ。きっと助けに来てくれるわ」
それはすずかも同じだった。今自分は言いようの無い不安に支配されている。だが、絶望はしてない。
むしろ彼の事を考えると不安が嘘の様に消えてゆく。きっと助けに来てくれると信じているから・・・・・・自分の家族が。
「うん!ガンダムさんがきっと来てくれる!!信じよ!!アリサちゃん!」
「OK!とにかく先ずは此処から離れましょ!じっとしてても何も始まらないわ!!」
不安が消えたすずかの表情にアリサは笑顔で親指を立てる。そして再びすずかの手を取りその場を後にしようとした時、
近くで何かが降り立ち、砂煙を巻き上げた。

『Distance・・・・70・・・・・60・・・・・50・・・・』
結果内に取り残された一般市民との距離をカウントするバルディッシュ。
そして距離が40を切ったった所で、フェイトはなのはとナイトガンダムを下ろす。
二人とも、アスファルトの道路を豪快に土煙をあげなら滑り降りる。
即座に3人は辺りを見回し、取り残された人物を探す。
結界が張られているため、自分達以外の人間はいない筈。だが、バルディッシュの報告が間違いの筈がない。
「だれか!!いるのなら返事をしてください!!!」
おそらく隠れている可能性もある。だからこそナイトガンダムは呼びかけた。
なのはとフェイトもまた、真似するかのように声を出そうとしたその時、
「・・・その声・・・・・」
「ガンダム・・・さん?」
その声に反応したのか、建物の間の道からアリサとすずかが一度顔を覗かせた後、ゆっくりと出て来た。
「すずか!アリサ!どうして君達が!?」
閉じ込められた人物がアリサとすずかだった事に驚きを隠せない。なのは達もただ唖然としている。
とにかく事情を聞くため、二人の下へ歩み寄ろうとするが、
それより早く二人は泣きそうな顔でナイトガンダムの元まで駆け足で近づき抱きついた。突然ぶつかる様に抱きついてくる二人に倒れそうになるが
咄嗟に踏ん張り、二人を抱きとめた。
怖かったに違いない。突然人が消え、自分達だけが取り残されたのだから。
この位の年頃の少女なら泣き崩れていても可笑しくはない。それなのに、彼女達はこの場所から逃げようと行動をしていた。
それでも怖かった事には違いない。すずかは無論、普段は強気なアリサも、自分にしがみ付き震えていた。
だからこそ、少しでも安心させるために二人の頭を優しく撫でた。
「怖かったんだね・・・・もう大丈夫だ・・・・大丈夫だから」

自然と絶望感が抜けてゆく。ナイトガンダムと出会っただけで不安が一気に吹き飛ぶのを感じる。
「良かった・・・ガンダムさんに会えて・・・・・私達・・どうしたら・・・・・えっ?」
「・・・・・なのは・・・・・フェイト・・・・・」
落ち着いたため、回りを確認する余裕が出来たすずかとアリサは、初めて後ろで自分達を見守るように見つめているなのは達に気付く。
なのはとフェイトもまた、何を言って良いのか言葉を詰まらせる。
沈黙が続く中、最初に啖呵を切ったのは仲良しグループのリーダーだった。
「なのはもフェイトも・・・・・一体どうしたの!?制服なんか来て・・・杖みたいの持って!?フェイトにいたってはコスプレまでして!!
町の人はどうしちゃったの!?あのピンク色の光は何!?知ってるなら教えなさいよ!!」
不安が完全に拭いきれていないのだろう、自然と頭に置かれているナイトガンダムの腕を掴みながら一気に巻くしたてる。
本来だったらそんなアリサの行動を抑える役割をしてるすずかも今回ばかりはとめる様子はなく、答えを聞くためなのは達を見据える。
もう隠し切る事も不可能だと思った二人は、手短に事情だけでも話そうとした・・・・その時。
今まで上空にあったピンク色の球体が近くの地面に落下、それはスターライトブレイカーが発射された事を意味していた。
地面に着弾したスターライトブレイカーは、着弾点を中心に広がり、なのは達目掛けて迫り来る。あまりの巨大な魔力波のため、
立ち並ぶビルは丸ごと桃色の光に飲まれる。それは正に衝撃波ではなく数百メートルの巨大な壁。広域拡散しながらも、威力を落とさずに迫り来る。
その光景にアリサとすずかは再び怯え、ナイトガンダムにしがみ付く。
「フェイトちゃん!アリサちゃん達を!!」
フェイトは即座にカートリッジをロード、ナイトガンダムは一度二人に笑顔を向けると、静かに手を話しゆっくりと後ろに下がる。
その直後、二人を包み込むようにドーム型の障壁が形成される。
それを確認した後、なのはとフェイトも直撃に備え防御魔法を展開、だが、ナイトガンダムは防御をしないどころか、
前へと進み、なのはが張った防御空間から抜け出してしまう。
「ガンダムさん!!どうしたの!?早く中に入って!!」
「・・・・この魔力量からして、完全には防御しきれる可能性は低い。わたしが攻撃魔法で相殺を試みる、
相殺が無理でも、威力を抑える事は出来る筈。その後の防御は二人に任せる!!」
目を閉じ詠唱を開始する。メガーヌという魔術師のおかげで体力は回復できたが、使用した魔力はそうも行かない。
それでもどうにか撃つ事が出来る。自分が習得している中で一番強力な魔法を。
闇の書の意思が放ったスターライトブレイカーは、町を飲み込みながらそれなりのスピードで迫り来る。
桃色の光はあまりに巨大すぎて、目を開いてる事すら難しい。アリサとすずかは抱き合いながら蹲り、
なんはとフェイトは目を細めながらも衝撃に備える。
だが、発射される前に逃げた距離が長かったのが幸いしたのか、
スターライトブレイカーの光が前線にいるナイトガンダムに直撃するまでの距離、約100メートル・・・・・・どうにか詠唱が完了した。

                『ソーラ・レイ!!!』

スターライトブレイカーの光をかき消すほど光が、ナイトガンダムから放出される。それは激しい光と激しい熱を発し前面に扇状に広がる。
道路のアスファルトは剥げ落ち、止めてあった車は熱で爆発し燃え盛り、ショウウィンドウのガラスは一斉に割れ、飾ってあった服やマネキンは消し炭となる。
進行方向にある全ての障害物を焦がし、燃やし、吹き飛ばしながら桃色の壁に迫り激突。
衝撃波が町全体を包み込む。広範囲に渡りガラスは砕け、車は吹き飛び、鼓膜が破れるほどの爆音がなのは達を襲った。

「・・・・・やった・・・の・・・・・」
爆音と光が晴れたため、なのははゆっくりと瞳をあける。其処には、膝をつき息を荒くしているナイトガンダム、
焼け焦げた街並み、そして『ソーラ・レイ』の直撃を受けて尚、迫り来るスターライトブレイカーの桃色の光。
「でも・・・以前の様な勢いはなくなってる。威力を抑える事は出来たんだ!ガンダムさん!後は任せて!!」
息を落ち着かせながらも、律義に頷いたナイトガンダムは、バックステップでなのはの後ろに下がり、シールドを構える。その直後、衝撃が皆を襲った。
全員が目を閉じ、歯を食いしばり衝撃に耐える。威力を減少させてもこの衝撃、もし『ソーラ・レイ』での中和がなかったら、
自分達はどうなっていたのだろう・・・・・・・自然とそんな事を考えながら、なのはは衝撃に耐える。後ろにいる皆を守るために。


「・・・・・駄目です!!映像・・・来ません!!!ああもう!!」
悔しさから力の限りコンソールを叩きつけるエイミィ。これほど歯がゆいと思った事は無かった。
皆は現場で頑張っているのに、自分は暢気に座って様子をうかがう事しかできない。
だが、自分が出来ることは嫌でも理解している。だからこそ、今は唯一出来ることをする。
「・・・はやく・・・・・晴れてよ・・・お願いだから・・・」
なぜか取り残されたなのはの友達、彼女達を安全な場所まで転移させ、戦闘での気がかりを無くす事が今自分が出来る唯一の援護。
エイミィは祈った。早く映像が回復する事を、皆の無事を。


時間にして数分、徐々に衝撃がなくなり、眩しさも消えてゆく。
「・・・・・終った・・・・・?」
恐る恐る瞳をゆっくりと開ける。見えたのは結界のせいで不気味に変色した街並み。見る物を圧倒していた桃色の壁は完全に消えていた。
正直ホットした。カートリッジを2発使用して張った『ワイドエリアプロテクション』もあと少しという所で破られそうだったからだ。
「(とにかく、次の攻撃が来る前にアリサちゃん達を安全な場所まで)」
安全を確認するため、張っていたワイドエリアプロテクションを解き、後ろを振り向こうと

                     「上だ!!!!」

なのは達の真上で浮遊していた多数の鋼の短剣『ブラッディダガー』が雨の様に落下したのは、
なのはが振り向き、ナイトガンダムが叫び、フェイトが咄嗟にアリサ達に再びフィールドを張ったのと、ほぼ同時だった。
防御をする暇などなかった。バリアジャケットは裂け、デバイスや鎧は傷つき、肌から血を滲ませる。
フェイトが咄嗟に張った『ディフェンサープラス』により、アリサとすずかはその洗礼を受けることはなかった。だが、
見ている事しか出来なかった。大切な人が傷ついてゆく姿を。
「なのは!!!フェイト!!!」
「ガンダムさん!!!!」
落下音が聞こえなくなったため、攻撃は止んだのだろう。舞い上がった土ぼこりで前が全く見えない。
皆は無事なのだろうか不安になる。だが、自然と想像してしまう。血だるまとなって倒れているなのは達の姿を。
想像した瞬間、アリサはこみ上げてくる物を抑えるため手で口をふさぐ。背中を摩ってくれるすずかの気遣いがありがたい。
無理矢理深呼吸をし、気を落ち着かせる。未だにフェイトが張ってくれたバリアの様な物のせいで外に出ることはできない。
だからこそ立ち上がり、大声で叫んだ。皆の無事を確認するために。
だが、帰ってくるのは沈黙だけ。それでも呼ぶことをやめない。すると、彼女達の呼びかけに答えたのか、
未だ立ち込める砂煙から人影がうっすらと現われた。それはこちらへと近づき形をはっきりしてゆく。
「なのは!!・・・・えっ、フェイト?」
最初はなのはかフェイトだと思った二人は、顔を合わせて喜んだ。だが、近づく影が徐々に大きくなってゆく事に、喜びから不安に変わる。
そして二人の前に現われたのは、なのはでも、フェイとでも、ナイトガンダムでもなかった。
歳は忍と同じ位だろう、モデルも裸足で逃げ出すほどのスタイルに同姓でも見惚れるほどの容姿、
だが、コスプレとも取れる格好、背中に生えてる黒い羽、そして、人形の様な感情の篭ってない表情。
二人を怯えさせるには十分だった。

「な・・・・なによ!あんた!?」
自然とすずかを庇うように前へと出たアリサは、震える体を無理矢理動かし自分達を見つめている美少女『闇の書の意思』を睨みつける。
だが、闇の書の意思はアリサの問いに答える事無く、ゆっくりと右手を上げ、掌を彼女達に突き出す。
甲高い音を立ててディフェンサープラスが砕けたのはその直後だった。
「あっ・・・・・あっ・・・・」
恐怖に負けてしまったすずかはへたり込んでしまう。アリサはせめてもの抵抗と言わんばかりに通学カバンを投げるが、
闇の書の意思に当たる前に、見えない壁の様なものに当たり、一瞬で墨になってしまう。
情けないが動けない、恐怖で足がガタツク、少しでも気を緩めたら大泣きしてしまう。
だが許す事はできない・・・・おそらくなのは達をあんな目に合わせたのはこの人だろう、せめてもの抵抗と、アリサは睨みつける事をやめない。
そんな彼女の目線を光の無い瞳で受け止めた闇の書の意思は、掌に魔力を溜める。砲撃を撃つ為に。
相手が魔力を持たないただの人間と判断したのだろう、直ぐに収束を止め、何の警告もせずに放った。
容赦の無い殺傷設定、並みの武装局員でも防御無しで喰らえば大怪我、防御魔法所か、
バリアジャケットすら着ていないアリサ達が喰らえば、待っているのは間違いない死。
二人は自然と抱き合い目を瞑る。その直後、直撃し爆発。新たな爆煙が吹き荒れた。
抱き合い、恐怖に震える二人。だが、痛みは一向に訪れなかった。不思議に思い、恐る恐る瞳を開ける。
目にしたのは、ボロボロだが見覚えがあるマント、直ぐに理解した、彼が庇ってくれたと。
嬉しかった、生きててくれて、そして助けてくれて。
「ガンダム!!」
「ガンダムさん!!」

ブラッティダガーの雨を潜り抜けたナイトガンダムが先ず目にしたのは、闇の書の意思が怯えるアリサ達に向かって収束砲を放つ瞬間だった。
咄嗟に、高速移動魔法『ホバー』を使い、すずか達の前へと出だナイトガンダムはシールドでその攻撃を防ぐ。
「彼女達は・・・やらせん!!!!」
そして、間髪いれずに電磁スピアを構え地面を蹴る。雷を纏ったその切っ先は真っ直ぐに闇の書の意思の肩目掛けて突き進む。
だが、肩に触れる寸前に闇の書の意思は電磁スピアを掴み、進行を阻止、
電流が流れているにも関わらず、表情を変えること無くカウンターともいえる攻撃を防ぐ。そして握る手に力を込め、あっさりと電磁スピアを握り砕いた。
だが、チャンスは出来た。自分の愛槍を犠牲にしたこの隙を見逃す事はできない。
砕けた電磁スピアの残骸を無造作に投げる。あまりにも幼稚な攻撃に、闇の書の意思は防御魔法を発動させず、手で払う事で防ぐ。
ナイトガンダムはこの瞬間を狙っていた。彼女の右手は今だ砕けた電磁スピアの切っ先を握っており、左腕はその残骸を払ったため、横に伸びている。
時間にしてわすか数秒、だが、至近距離で体を攻撃できる唯一のチャンス。
「破廉恥だが、気にはしてられない!!!」
右手を伸ばし、掌を闇の書の意思の胸に押し付ける、やわらかい感触が手に伝わるが、今はそんなことどうでも良い。
闇の書の意思は、電磁スピアの破片を持ったまま殴りかかろうとするが、攻撃はわずかばかりナイトガンダムの方が早かった。
「ムービ・ガン!!」
零距離から光の弾丸を放つ魔法「ムービ・ガン」を放った。零距離から放ったため、反動でナイトガンダムは吹き飛ぶ。だが、
防ぎようの無い零距離での直撃を受けた闇の書の意思はその数十倍の勢いで吹き飛び、ビルに激突、
ソーラ・レイの光により、脆くなっていたビルはその衝撃で崩落、激しい音を立てながら倒壊し、彼女を生埋めにした。
だが、零距離からの攻撃は使用したナイトガンダムにもダメージを与えた。痛みに顔を顰め、腕を押さえながら蹲る、だが、そんな事をする暇は無い。
「ぐあぁぁ・・・・エ・・・・エイミィ殿!!今です!!転送を!!!」
煙が立ち込める腕を振りながら、様子を伺っているであろうエイミィに大声で伝える。
その言葉が伝わったのか、アリサとすずかの足元に転送魔法陣が展開、驚く間も無く、二人はその場から姿を消した。
「・・・よかった・・・・これで・・・」
二人が無事転送した事に心からほっとする。だがその直後、生埋めになっていた闇の書の意思がビルの瓦礫を吹き飛ばしながら表れ、
即座にナイトガンダム目掛けて砲撃を放った。
二人の転送を確認してたため、背を向けていたナイトガンダムは気付くのが遅れ、振り向いた時には盾を構える暇など無いほど迫っていた。
後悔する暇も、目を瞑る暇もない。だが、その攻撃があたる事は無かった。

                『Sonic Move』

聞きなれた電子音と共に、体が引っ張られる感覚、気づいた時には自分に向かった放たれた収束砲はビルに直撃しており、
その直撃を受けるはずだった自分は手を取られ、空中に浮いていた
「良かった・・・間に合った・・・・ごめん、少し、気絶していた」
普段のバリアジャケットよりさらに薄い格好。『ソニックフォーム』に身を包んだフェイトは、間に合った事に心から安堵する。そして

               『Restrict Lock』

リアクターパージにより、バリアジャケットの上着をなくしたなのはが、近くのビルの屋上から、闇の書の意思目掛けて拘束魔法レストリクトロックを施した。
本来なら一度で済む拘束を3重に賭けて施す。それに続けてフェイトもライトニングバインドを施し、動きを封じた。
「・・・・・これで・・・・・お話しできるね・・・・」
拘束された闇の書の意思に言葉を投げかけるなのは、だが、闇の書の意思は何も答えず、バインドの解除に取り掛かる。
「御願い!止まって!!ヴィータちゃん達を傷つけたのは私達じゃないんです!!!」
彼女は答えない、ただバインドを黙々と解除して行く。
「君は・・・・はやての言葉に耳をかたむけたのか!!はやてがこんな事を本気で望んでいると思っているのか!!」
彼女は答えない、残りのバインドを解除し、自由を手にする。
それでもなのは達は言葉を投げかけた、思いを込めて必至に。だが、その返答は言葉ではなく、
なのは達を囲むブラッティダガーという攻撃だった。
フェイトは咄嗟になのはとナイトガンダムの手を掴み上空へと退避、そして
バルディッシュを構え、両手足のソニックセイルを羽ばたかせる。一撃を見舞うために
「こ・・・の・・・・・・駄々っ子!!!・・・・・言う事を・・・・・聞けぇ!!!!」
猛スピードで一直線に闇の書の意思へと迫り、バルデッシュを振り下ろす。続くようにナイトガンダムも突撃、少し遅れて剣を振り下ろした。
だが、二人の同時攻撃も、彼女が張ったシールドに阻まれ、甲高い音を立てるだけでおわってしまう。その直後
「えっ・・・・?」
「なん・・・だ・・?」
とてつもない無力感が二人を襲う。体は光に包まれ、徐々に薄くなってゆく。
「フェイトちゃん!!ガンダムさん!!!」
なのはの叫び声も二人には殆ど聞こえない、そして

                        『ABSORPTION』

デバイス特有の電子音の後、二人は完全に消えてしまった。

・????

「・・・・・ん・・・・・・」
今までに感じた事もない眠気がはやてを襲う、此処は何処なのか、自分はどうしたのか、そんな事どうでもよくなる程の心地よい眠気。
だが、うっすらと明けた瞳から見える人影がその眠気を無理矢理抑えた。
黒い服を着た同姓が見ても見ほれるほどの銀髪の美人、誰もが一度見れば忘れる事は無いだろう。
「(・・・・・だれやったっけ・・・・・・会った事ある様な・・・・・無い様な・・・・)」
眠いがやはり気になってしまう。声をかけようとしてみるが、体を眠気が支配しているため、口が重くて喋る事もできない。
だが、彼女の言葉を聞く事は出来た。優しい、澄んだ声
「・・・わが主・・・・・貴方の夢は・・・・私が全てかなえます・・・・・」
「私の・・・・・・夢・・・・・」
闇の書の意思はゆっくりと近づき、はやての頬を両手で優しく触る。
人とは思えない冷たい手、だがそれでもはやての眠気は覚める事は無かった。ただ、身を任せるだけ。
そんなはやての態度に何を感じたのか、闇の書の意思は一度微笑んだあと、頬から手を離し
「ですから・・・・主・・・・・」
その手をはやての首へと持っていき

                  「死んでください」

微笑みながら、ゆっくりと首を絞め始めた。

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最終更新:2008年12月07日 09:14