魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第12話


「スバルとギンガ・・・あの子達を私にちょうだい」

まるで物をねだる様にスバルとギンガを寄越せという忍の物言いに、クイントは怒りで頭が真っ白になった。
おそらく自分の今の表情も、スバル達を見つけたあの研究所を見たときの様に怒りに満ち溢れているだろう。
今すぐ飛び掛ってぶん殴りたい。だが、後ろで自分を監視しているノエルがその行動を無理矢理自主させている。
だからこそ、自身の歯を噛み砕かん勢いでかみ締め、怒りを内に押し込める。そして遠慮なく殺気を放ちながら忍を睨みつけた。
「・・・・どうする気なの・・・・・・あの子達を貰って・・・・・」
聞くまでも無いと思う。どうぜ実験などのモルモット的な扱いに決まっている。
戦闘機人は機械部品を埋め込まれているといっても立派な人間。そんなことが許される筈がない。
だが、そんな考えを微塵も持たない人間がいる事も確か。スバル達を生み出した連中が良い例だ。
「どうすると言ってもねぇ~・・・・・別に良いじゃない?貴方の子供じゃないんでしょ?あの二人は?」
確かにそうだ。スバルとギンガは私がお腹を痛めて産んだ子達ではない。違法研究所から引き取った子達。
最初は同情心、そして子供が産めないから欲しいという身勝手な我侭だった。
だが、今は違う。この子達は正真正銘自分の子。その気持ちをナイトガンダムが分からせてくれた。
だからこそ守る。自分がどうなろうと構わない。この子達が笑って過ごせるのなら。
「・・・・・ええ・・・・確かに、スバルとギンガは私達の子供じゃないわ・・・・・・」

ああそうだ、スバルとギンガは自分達の子供ではない。だからどうした?何が悪い。
誰がなんと言おうと、この子達は私と夫であるゲンヤの子供だ。その思いをぶちまけてやる。

「だけどね・・・・あの子達は、私達の子供よ・・・誰がなんと言おうとね。だからこそ守るわ、私の命に代えても。あの子達の笑顔を・・・幸せを!!!!」
言い切った。後はどう動くか瞬時に考える。
とにかく後ろのノエルを振り切った後、二人を抱えてこの場を脱出。同時に連絡を入れて、この場所を知らせる。
あとは可能な限り時間を稼げば良い。スバル達は人ごみの中に紛れ込ませれば簡単には見つからない筈。
早速実行に移すために、体に魔力を張り巡らせようとするが、

                              「よし!!合格!!!!」

先ほどの表情が嘘の様に微笑む忍の表情、そして『合格』という言葉に、クイントは魔力を張り巡らせる事も忘れ、呆気にとられてしまった。
「・・・・・忍お嬢様、いくらなんでもやりすぎです・・・・・もう少し、やり方という物が・・・・」
一度溜息を吐いた後、ノエルはクイントの肩から手を話し、無礼を詫びるかの様に頭を下げる。
そして普段は見せない呆れた表情で主である忍を見据えた。
「へへ~、でも、鬼気迫ってたでしょ?」
「ええ、それはもう。正に悪党・・・いえ、外道を極めた悪党・・いえ、鬼畜外道を極限まで極めた悪党でした」
「・・・・・・褒めてる?貶してる?見下してる?3秒以内に答えろ~!!!!」
自分を無視して漫才を始める忍達に、先ほどまでクイントを縛り付けていた緊張感と絶望感は何処かへと消え去ってしまった。
おそらく自分の頭の上にはカラスが『アホー』と鳴きながら中黒(・)をつけているだろう。
それ位、今の自分は気が抜けてしまっている事が痛いほど実感できた。
「って、ああごめんごめん!!ナチュラルに無視して。全くノエルったら、主を外道呼ばわりして、酷いと思わない?」
「えっ・・・・いえ、それより、どういう事ですか?これは?合格って?」

とにかく状況がわからない。自分を挑発した後『合格』と言い、メイドと漫才をする。わけが分からない。
そんなクイントの表情に満足したのか、一度笑顔で頷いた後、ゆっくりと話し始めた。

「先ずは色々と失礼な事いってごめんなさいね。知りたかったのよ、貴方があの子達の事をどう思っているか。
だけどクイントさん、貴方の気持ちよく分かったわ・・・・・安心した」
ようやく理解した。彼女は自分がスバル達をどのように思っているか知りたかったのだろう。
おそらく彼女も自分と同じ気持ちを持っている。だからこそ、気持ちを打ち明けた自分に安心感を抱いている。
だが、まだ疑問が残る。
「・・・・・・一つ知りたいのですが・・・・どうやってスバル達を戦闘機人だと?」
ナイトガンダムには彼女達のことは伏せてある、知る事は出来ない。
それなのに忍やスバル達の正体を知っていた。だからこそ気になる、どうやって彼女が知ったのかを。
「ああ・・・・その事ね。まぁ、理由は見てもらったほうが早いわ。ノエル」
「はい、忍お嬢様」
忍の横に立っていたノエルは、不意に左腕で自身の右手首を掴む。
その行動を不審に思ったクイント、だが、直に驚きに変わった。
当然だった。彼女が左腕を回すと、『カチッ』という音と友に、ノエルの手首が取れたのだから。
「・・・・・・貴方・・・・戦闘機人・・・・・・」
ようやく理解した。なぜスバル達が戦闘機人だと分かったのかが。
同じ戦闘機人なら、目の作りも違う。センサーなどで感知出来るはずだからだ。
「そう、ノエルはスバルちゃん達と同じよ。あと、ファリンとイレインもそう。
だけど『戦闘機人』なんて物騒な呼び名ね。自動人形って呼ばないの?」

『自動人形』という言葉には聞き覚えがあった。あれは戦闘機人の資料を探していた時、偶然見つけた資料の中に載っていた。
旧暦時代、唯一完全な形として戦闘機人を生み出した種族『夜の一族』が呼んでいた『戦闘機人』とは別の名称。
だが、その所属は大規模次元震により滅んだと書いてあった。
「(そうなると・・・・・彼女は大規模次元震から生き残った者達の祖先ということね・・・・
それなら納得が行くわ)」
寿命が長い『夜の一族』は自分の付き人として『自動人形』を作ったと書いてあった。それならノエルを含めた彼女達の存在も納得がいく。
自分の中で捻じれていた疑問の意図がほぐれていく事に、徐々にすっきりした気持ちになる。

「納得がいった?だけど本当にごめんなさいね。自動人形と一緒にいる以上、貴方を疑う事は必要だった・・・・イレインの様な子を野放しにしないためにも」
ゆっくりと首を動かし、イレインがいる方へと顔を向ける。
クイントも釣られて忍と同じ方を見る。、其処にはノエル達と同じメイド服を着た少女が木に凭れ掛かり、ナイトガンダムを何かを話していた。
「ふふっ、ガンダム君と話しているとあんな顔をするのね、あの子はね、此処に来る前はある男の欲を満たすためだけに使われていたのよ。
当然そんなことは許されない。確かに彼女達は普通には生まれてこなかった。だけどそんな事は関係ないわ」
「分かります。だから忍さんはあの子を引き取ったのですね?」
素晴しい考えだと思う。そして同時にこの人に会えてよかったと思う。だが
「・・・・ううん、私はあの子を殺そうとしたわ」
迷い無く言い張る忍に、クイントは笑顔のままで固まってしまう。
一瞬、また自分を騙そうとしているのかと思ったが、先ほどの様な危機感に襲われているわけではないからこそ、
冷静に彼女を観察する事が出来る。だからこそ分かった、彼女が嘘をついていないと。
「『自由になりたい』それがイレインの望みだった。だけどね、それを叶えようとした彼女は私達に牙を向けたわ。
イレインにも色々な事情があった。だけどね、彼女はノエルを傷つけ、ファリン達を危ない目に合わせた。
私はね、家族を傷つける奴はどんな奴でも許せない・・・・・イレインが機能不全で朽ちようとした時も正直『イイ気味』と思ったわ」

       あの時は本当にそう思った。自分でも怖いほどに・・・・まったく罪悪感を感じなかった。

「だけどね・・・・そんな考えをガンダム君が否定した。彼はイレインを助けようとした。『彼女の優しさを知ったから』
それを聞いた時は自分を恥じたわ。あの時の自分はイレインの一部しか見ていなかったと気付いたから。
誰にでも色んな一面がある。狂気・怒り・悲しみ・そして優しさ。勿論、彼女にもある。その全てが私達と同じ様に・・・・・だからね、クイントさん」
再びクイントノ方へと体を向け、彼女を見据える。その真剣な瞳につい緊張し、生唾を飲み込んでしまう。

「貴方は理解しているだろうけど、改めて言わせて、スバルちゃんとギンガちゃんは人間よ。
だからね、守ってあげなさい。一人の母親として、自分の子供達を」
忍の言葉を心から受け止めたクインとは、彼女と出会えた事に再び感謝した。
だからこそ、感謝の気持ちを込め、答える事にした。

                        「はい」

とても短い返事。だが、その中に込められた思いはとても大きな物だった。
その後、軽い世間話に花を咲かせた後、ノエルが淹れるお茶を飲みながらスバル達を微笑ましく見る3人。

「その・・・・・聞かないんですか・・・・・私たちのこと」
ナイトガンダムがどちらのチームに入るかで揉めている光景をニヤニヤしながら見つめている忍に、
クイントは言うべきか迷った疑問を打ち明けた。
忍も自分達の事を疑問に思っている筈である。夜の一族でない自分がスバル達を連れていることに。
最悪、次元世界や管理局の事を話さなければならない。本当なら管理外世界の住人に管理局などの存在を話す事は
禁止されている。考えればわかる事だが、いらぬ混乱を起こさないためだ。
だが、彼女になら話しても問題ないと思う。そもそも彼女の祖先は此処とは違う次元世界の住人、
知る権利はあると思うし、知ってほしいと思う。おそらく笑って受け入れてくれる筈。だが
「ん?別に。興味ないし」
ノエルが淹れ直したお茶を飲みながら興味なさそうに答える忍に、クイントは言葉を詰まらせるも、
納得いかないため、つい身を乗り出してしまう
「興味がないって!?気になりませんか?私達のことが・・・・私は此処とは違うじげ(はいシャラ~ップ!」
忍の手がクイントの口を押さえる。ぴったりと隙間無く抑えられているため、クイントは『モゴモゴ』と言う事しか出来なかった。
「だから、興味はないわ。クイントさん、貴方が何処から来たかなんて。私はね、貴方の気持ちを知る事が出来ただけで、十分満足。
まぁ、仮に異星人だろうがなんだろうが、驚きはしないし不思議にも思わないわ・・・・・ガンダム君がいるしね」

クイントの口から手を話し、にんまりと微笑む忍に何もいえなくなる。
正直釈然としないが、向こうが興味がないと言う以上、無理に言う事は無いと結論付けたクイントは、一度溜息を突いた後、腰を下ろした。
「でも、暇が出来たら何時でも家に来てね。貴方となら良い友達になれそうだし、
スバルちゃん達に関しても、一技術者として色々と出来るかもしれないから」
その申し出は心からありがたかった。歳が近く、話が合う忍と友達になれるという事の他に、あまり認知されていない戦闘機人に関しても
色々と聞くことが出来、スバル達に何かあっても頼る事が出来る。大きな安心感を手に入れたようなものだ。
「分かりました。ノエルさんが淹れてくれる紅茶を目当てに、ちょくちょく訪れようと思います」
安心感と満足感に満たされた笑みで、クイントは答えた。


その後、日も暮れてきたため、ナカジマ一家は帰ることとなった。
遊びつかれ眠ってしまったスバルを背負うクイントと眠そうに目を擦りながら手を振るギンガを見送った後、
丁度夕食の時間となったため、残ったアリサを誘い、夕食を取る事となった。


「八神はやて殿ですか?」

夕食が終わり、今はテレビのワイドショーを見ながらゆったりとした時間を過ごす2人。
忍はイレインの検診をするために自室の篭り、ノエルはその手伝い、ファリンは洗い物などの雑務に追われており、
この広いリビングにはナイトガンダムとアリサとすずか、そして飼われている猫しかおらず、
それぞれが暖かい紅茶を飲みながらゴールデンタイムに放送されているお笑い番組を時より笑いながら見ていた。
本当ならナイトガンダムも愛剣の手入れなどをしたかったのだが
「な~に~?こんな美少女二人を置いて行く気~?」
『一緒にいなきゃ唯じゃ置かない』と言いたげに軽く睨みを利かせるアリサに負け、こうしてお茶に付き合っている。
ちなみに、すずかは先ほど自分の携帯電話が成った為、今は席を外しており、今はアリサとナイトガンダム、そして
ナイトガンダムに妙に懐いている数匹の猫という構成になっていた。
暫らくアリサの習い事について他愛も無い話をする二人。そして、今度アリサの演奏を聴く約束をした直後、
すずかがリビングに戻って来た・・・・・暗い表情をして。
「「すずか!?」」
当然何事かと慌てた二人は席を立ち、駆け寄る。
心配そうに自分を見つめる二人に、すずかは俯き、持っていた携帯電話をぎゅっと握り締めなら聞いた内容を話し始めた。
そこで出て来た名前が『八神はやて』であった。
ナイトガンダムは初めて聞いた名前であったが、アリサは心当たりがあったのか『ああ・・あの子ね』と内心でつぶやきながら相づちを打つ。
すずかの話しでは、その『八神はやて』とう少女が急に倒れ、入院する事になった事、
病状はそれ程悪くは無いが、検査などで色々と時間がかかり、暫くかかる事、
耳を澄まさなければ聞けないほどの小さな声で話すすずかにアリサは溜息を一回、そして

                     ビシッ!

彼女のオデコに強力なデコピンを喰らわせた。
「ひぁ!!?」
突然の打撃に、すずかは声をあげて驚き、涙目になりながら直撃したオデコを抑える。
「ア・・・アリサちゃん・・・何を(シャラップ!!」
恨めしげにアリサを見据えようとするが、腕を組み、仁王立ちしながら自分を睨みつけるその迫力に、言葉を詰まらせる。
咄嗟に助けを求めるようにナイトガンダムを見つめるが、彼にしては珍しく、助け舟を出す事無く成り行きを見守っていた。
「あ~も~!すずかの悪いくせよ!!なんでも必要以上に悲観的に考えるのは!!
今のすずか、まるではやてが死んで明日御通夜が行われるって感じだったわよ。まったく、私とガンダムをビックリさせないでよね」
顔を近づけ、すずかの瞳を覗き込む。そして、今度は優しく微笑みながら、軽くデコピンをした。
「確かに倒れて入院はするけれど、病状はそれ程悪くは無いんでしょ?だったら『その程度で済んだ』ってポジティブに考えなさい」
「だけどその純粋に相手を労われる優しさも、すずかの長所だよ。その優しさが、アリサやなのは達を引き付けているんだ」
ナイトガンダムのフォローにアリサは「その通り!」と叫びながら力強く頷く。

確かに、自分は物事を悲観的に考える癖があることは、姉である忍からも言われた事がある。
治そうとは思いながらも、自然に身についたため、中々治す事ができない。
時にはその性格から来る必要以上の不安に押しつぶされそうになった事もあり、一人苦しんだ事もあった。だが、
「(アリサちゃんやなのはちゃんと出会ってから・・・・苦しむ事は無くなった)」
いつも明るさを振りまいてくれるアリサは自分に明るさと勇気を与えてくれた。不安に押しつぶされそうになる気持ちを吹き飛ばしてくれた。
なのはは必要以上の不安に押しつぶされそうになる自分の気持ちを逸早く感じ取ってくれた。
改めて思う、この二人と友達になれたことを心から良かったと。最初は大喧嘩から始まった付き合いも、今となってはかけがえの無い物となっている。
フェイトやはやては出会ってからまだ日が浅い。だけど、アリサやなのは達の様に心から接し合える事が出来ると信じている。

「うん・・・ありがとう、ほんと、アリサちゃんの明るさには・・・・いつも助けられてばかりだよ・・・・」
自然と流れる涙を拭きながら笑顔でお礼を言うすずかに、アリサは照れを隠すようにそっぽを向く。
そんなアリサの姿につい笑みを溢したナイトガンダムは、すずかに近づき、そっとハンカチを差し出した。

「じゃあ、湿っぽい空気も吹き飛んだ所で、明日の放課後、皆でお見舞いにいこうか?」
アリサとしては当然二人とも承諾してくれるだろうと信じての提案
「えっ・・・いいの?」
その提案にすずかは嬉しそうに乗ってきたが、ナイトガンダムは少し難色を示した。
「・・・・・突然で大丈夫でしょうか?それに大勢で押しかけるというのも・・・・」
彼女達の気持ちも分からないでもないが明日、しかも突然大勢で押しかけるのはどうかと発言してみる。だが
「大丈夫よ!すずかの友達なんだし、紹介してくれるっていってたから。それにお見舞いも、
どうせなら賑やかな方が良いじゃない。勿論、回りの迷惑も考慮してよ」
ナイトガンダムの意見をアリサは自信満々にあっさりと斬り捨てた。
彼女の言い分も分からないでもない。アリサ達位の年頃の少女なら、落ち着いた感じよりは大勢で騒いだ方が楽しいのだろう。
おそらく火付け役はアリサとなるだろうが彼女の事だ、周りの迷惑なども考えて騒ぐ筈。
「・・・・そうだね。すずか達のリーダーであるアリサが言うんだ。私が心配する必要もないだろう。
明日、楽しんでくると良いよ」
「は?何言ってるの?ガンダム、貴方も行くのよ」
飲みかけた紅茶を吐き出しそうになるが、騎士としてのプライドがその行為をどうにか抑えた。
だが、その代償として豪快に咽てしまう。
「ゲホッ!ゲホッ!!・・・わ・・私もかい!?」
「当然じゃない。私達が行くんだから当然ガンダムも一緒よ。拒否権は無いわ!」
何を言ってるの?と言いたげは表情でアリサは強制同行を要求する。
「私も・・・ガンダムさんには一緒に来て欲しいな。実はね、ガンダムさんの事、はやてちゃんに少し話したの。
といってもね、『優しいお兄さんが来た』位しか話してないから・・・・紹介したいの」
すずかもまた、遠慮がちにだがナイトガンダムに一緒に来て欲しいとお願いをする。
考えようとしたが結論は直に出た。二人の頼みをを断る理由などないからだ。
「わかった。私も同行させてもらうよ」
「よし!決まり!!もう今日は遅いからなのは達には明日学校で話しましょ。学校が終ったら
一度すずかの家に寄るから、ガンダムはそこで合流、寝てるんじゃないわよ!」
おそらくすずかから聞いていた『八神はやて』という少女に出会えるのが今から楽しみで仕方が無いのだろう。
声を弾ませながらテキパキと指示するアリサを、すずかとナイトガンダムは微笑みながら見つめていた。

  • 翌日

「あ~も~!!なんでなのはもフェイトも学校休むかな~!!!」
アリサの父が娘の『通学用』のみに購入したリムジンの車内、
その高級車の持ち主と言っても間違いではないアリサ・バ二ングスは、不満を隠す事無くさらけ出し、
その原因となった二人の友の名前を恨めしげに叫ぶ。
「し・・・・しょうがないよ・・・・・なのはちゃんもフェイトちゃんも家の都合なんだし」
アリサの大声の洗礼をモロに受けたすずかは耳を押さえながらも、宥めるように説明する。
そんな二人を、事情を知っているナイトガンダムはただ心の中で詫びるのみだった。


はやての事を話そうと、意気揚々と学校へ来たアリサ。だが、

    「本日、高町さんとテスタロッサさんは、ご家庭の事情でおやすみです」

担任の先生のその言葉に、アリサは無意識に席を立つと同時に机を叩き
「なんでよぉ~!!!!」
隣の、そのまた隣の教室まで響き渡る声で叫んだ。


「・・・まぁ、家の事情じゃしょうがないし・・・・以前みたいに長期休学ってわけでもないから・・・・・・でもタイミング悪すぎ」
癇癪を起こしても何も解決しないとは分かってはいるものの、どうにも納得できない。
「アリサ、別に今回きりというわけではないんだ。なのは達とはまた日を改めて行けば良いじゃないか」
ナイトガンダムのフォーローに、アリサは釈然としない症状をしながらも納得したのか、『フン!』と鼻を一階鳴らした後、
腕を組み、シートに深く腰をかけた。

「(すまない、二人とも。本当の事情を話すわけにはいかないんだ)」
なのはとフェイトは、家の都合で休んだのではなく、リンカーコアの検診があったため、今日は本局に行っている。
二人とも体が未成熟な状態でリンカーコアを抜かれたため、完治といわれていても
一ヶ月は定期的な診断を受けたほうが言いというリンディの進めがあったからだ。
なのはは既に完治しているので特に問題なかったのだが、フェイトにいたっては、今日の診断で完治か否か結果が出る為、休む事は確定だった。
そんなフェイトの事が心配だったなのはは、本当なら休みの日に受けるはずの定期診断を今日受けることにし、
診断を受けると同時に、フェイトに付き添う事にした。
ちなみにこのことは早朝ナイトガンダムにも知らされたため、アリサの態度も大体は予想できていた。
「ガンダムさんの言う通りだよアリサちゃん。今度また来よ・・・・そうだ、クリスマスが近いから、
今度はプレゼントを持って皆で行こうよ。きっと喜ぶよ!」
「むっ、すずかの癖に生意気にもナイスアイデアを・・・・これは極刑よ!!」
言葉とは裏腹にニヤニヤと不気味に微笑んだアリサは、すずかの頬を掴み、容赦なくこね回した。
手をバタつかせながら助けを求めるすずか
そんなすずかの態度に昔の虐め心が復活したのか、楽しそうに頬を抓ね、こね回すアリサ。
一度は助けようと考えたが、子供らしいスキンシップだと思い、微笑ましく見守る事に下したナイトガンダム。
運転手の鮫島も笑いを漏らす中、リムジンは海鳴大学病院に着こうとしていた。


  • 八神はやて病室

「・・・暇やな~・・・・」
完全な個室のため、自分以外は誰もいない病室。
TVもない上、持って来た漫画や小説も読みつくしてしまったため、この病室唯一の患者
『八神はやて』はとても暇をもてあましていた。
首を窓の方へと向けるが、見えるのは全く同じ景色、もし此処山道を走る電車の個室なら
どんなに良い景色が見られたかと思うが、そんな都合のよい事が出来るはずが無いので直に考えるのをやめる。
「・・・・・はぁ、皆、今どないしてるんやろ・・・・・」
ふと、今は離れ離れになっている家族の事を思ってみる。すると
元気にやっているか、ちゃんとご飯を食べたか、ヴィータはアイスの食べすぎでお腹を壊していないだろうか、
不安だけが頭の中に押し寄せてきた。
「・・・だめや。不安になって、いてもたってもいられなくなってきた・・・・・・・まぁ、
みんなは元気の筈やし、ご飯も・・・・・これは皆顔色がええからシャマルが頑張ってくれてるとして、
シグナムが注意してくれるからヴィータも程ほどにしとるやろ・・・・・うん。大丈夫大丈夫!!」
ここであれこれ考えてもどうにもならない。皆を信じて自分は3食昼寝つきの休暇に勤しもう。
だが、せめて携帯電話が使えればと思う。それならすずかや図書館で出会ったアリサと話す事が出来るから。
「まぁ、此処は病院、無理な願いやな。せめて尋ねてきてくれれば・・・・っそんなミラクル起こるわけ(こんこん」
ふと聞こえるノック音。此処の病室に来るのは大体決まっている。先ほど検診で石田先生が来たばかりだから
おそらくはシグナム達だろう
「はーい!どうぞ~!」
ふと考えてみる。扉を開けて入ってくるのは誰だろうと。
先ずヴィータではない事は間違いない。あの子はノックなどせずにいきなり扉を開けるのだから。
常に家で留守番をしてるザフィーラも可能性は低い。
そうなるとシグナムがシャマル・・・・・・・二者択一となる。
「(う~ん・・・昨日はシャマルが着たから・・・・・シグナムや!)」
結論が出た直後、扉が開きノックをした人物が入ってくる。
結果的にはやての予測は大はずれだった。だが、ミラクルは起こった。
「アリサちゃんに・・・・・すずかちゃん!?」
話をしたいと思っていた人物二人が、尋ねてきたのだから。


「こんにちわ~って、意外そうな顔をしてるわね?」
自分達を歓迎するわけでもなく、また、非難するわけでもなく、ただ純粋に驚いているはやてに
アリサとすずかもどうして良いのか戸惑ってしまう。
「えっ・・・ああ・・・ごめん。来るなんて聞いとらんかったから・・・・・それに二人って友達やったんか」
まるでアリサを知っているかの口ぶりに、すずかは『えっ』とつぶやきながらアリサを見据える。
その視線と表情に満足したのか、『くっくっく~』と笑いながら、はやてと図書館でであった事を短く話した。
「まぁ、私も二人が知り合いだった事は最近知ったけどね。でも今日来ることはすずかが連絡した筈よ。ねぇ?」
「うん。それは間違いないよ・・・・・・もしかして」
「うん、100%うちに知らせる事をを忘れたんや・・・・・・でも、いらっしゃい!座って座って!!」
正直嬉しかった。話をしたいと思っていた二人が訪れた事に。
はやては早速来客用の椅子に座るように進めるが、なぜか二人とも笑ったまま動こうとはしなかった。
「実はね~、もう一人いるのよ、はやてに紹介したい人が。さあ、入って!」
アリサの声にあわせて、すずかが扉を再び開けた。すると
「・・・・・ロボット?」
誰もが彼を見たとき感じる第一印象。はやても同じくそう思った。
彼はゆっくりと近づき、はやてのベッドの前まで近づくと、跪き、頭を垂れた。
「お初にお目に掛かります。八神はやて殿、私、すずかの姉、忍殿によって作られたロボット、ガンダムと申します」
まるで主君に忠誠を誓う騎士の様に自己紹介をするガンダムに、はやては何とも恥ずかしい気持ちになる。
「はぇ~・・・・まるで騎士やな~、うち八神はやてといいます。よろしゅう。
やはり興味があるのか、ナイトガンダムをじろじろと物珍しそうに見つめる。
「すずかちゃんが言っていた『優しいお兄さんが来た』って、ガンダムさんのことやったんか~。
う~ん・・・・・忍さん、スゴイ人やな~、来ないなロボットを作れるなんて~、どれどれ?」
依然ジロジロと見つめながら感心するはやては、自然と両手をナイトガンダムの頬へと伸ばし、
「ムニュ」
しっかりと掴み              
「ムニュ~」
それなりの力で引っ張った。
「あ・・あにお~!(な・・なにを~!)」
「はぇ~、人肌みたいに温かいし柔らかいな~。まるで生物みたいや~」
何気なく呟いたはやての言葉に、此処にいるはやて以外の3人は固まる。
だが、ご機嫌なはやてはそれに気付く事無く手を離し、再び椅子に座るように勧めた」

「せやけど、なんかガンダム君は似とるな~」
アリサは紅茶を淹れるためにカップを取り出し、すずかはなのはの家で買って来た
シュークリームをお皿に分ける。
ナイトガンダムは持って来た花を花瓶に活けるために、踏み台を使って花瓶を取ろうとする。
「私に似ているとは?」
花瓶に顔を向けながら、ふと気になったので聞き返してみる。ただ単に何気ない行為。だが、
「いやな、私の家族なんやけど、性格がな・・・こう・・・騎士っぽい所とかが特にな」


                 その何気ない質問が

「まるで・・シグナムみたいや」


             物語を急速に進展させる事となる。

「!!」
花瓶を落とさなかったのは偶然と言って良いだろう。
『シグナム』その名前を聞いた瞬間、鼓動が激しくなる。
おそらく今の自分は驚きの表情をしているだろう。花瓶の方に顔を向けているため、
3人には気づかれていない事に安心する。
誰にも聞こえないように深呼吸を一度したあと、自然とはやてに尋ねてみた。
「『シグナム』とは・・・名前からして、外国の方ですか?」
「そうよ、はやての親戚の女の人。ピンクの髪のすっごい美人よ」
人数分の紅茶を用意しながら、アリサがはやての代わりに答える。
「あとヴィータちゃんにシャマルさん、あとザフィーラって大きな犬もいるんだよ」
「へぇ~、犬もいるんだ。それは知らなかったわ。はやて、今度触られてよ」
「アリサちゃん犬が好きやったからな~、ええよ。大きいけど、とても大人しい子やから」
すずかの補足に乗る様に、3人の会話は弾む。
ナイトガンダムも笑顔でその光景を見つめていた・・・・・・表面だけは。
内心では事態が急展開した事に驚きながらも、どうにか心を落ち着かせ、状況を整理する。

まずはやての言う『シグナム』という女性は、間違いなく『烈火の将・シグナム』だろう。
ピンクの髪で『シグナム』という女性がこの海鳴市で2人といるとは思えない。
そして続けて出て来た『ヴィータ』と『シャマル』と『ザフィーラ』、もう疑いようが無い。
彼女達を『家族』と言った『八神はやて』彼女が闇の書の主だということが。だが、疑問に思う事もある。
「(・・・・彼女から・・魔力が全く感じられない・・・・・何故だ?)」
闇の書の主であるならば魔道師の筈。だが、彼女からは魔力を微塵も感じ取る事が出来ない。
もしかしたらはやての家族の誰かという可能性も考え、彼女の家族構成などを聞ければいいのだが、
はやてが言った『家族』とアリサが言った『親戚』という言葉、この価値観の違いがどうにも引っかかる。
もし家庭の事情で何かあるのなら、その事を彼女に聞くのは酷なことだ。
なら、本人に会ってみるしかない。

「はやて殿、その・・・シグナムという女性の写真などはありますか?」
「な~に~?ガンダムったらやっぱり気になる~?それとも早速お近づきになる気~?」
アリサがニヤニヤしながらからかう様に尋ねてくるが、
「いえ、似ていると聞くとどうにも気になってしまいまして・・・・まぁ、美人という事も興味の一つですが」
それを笑顔で軽く流す。言い返されたアリサはムスっとするが、ナイトガンダムは今回ばかりは無視し、
再びはやての方へと顔を向ける。
「あ~・・・写真ならあるんやけど・・・・・アルバムは家や・・・・・ごめんな。
でも、シグナムなら今日来るんよ。昨日来たヴィータがいっとった。確か6時位やったかな・・・・」
ふと、備え付けの時計に目をやる。時刻は午後3時40分。まだ時間はある。だが、
「・・・シグナムさんにも挨拶したいんだけど・・・・私達、5時がら習い事が・・・・・・」
今日は午後五時からアリサと一緒にバイオリンのお稽古がある。はやてともっと話しもしたいし、
最近会っていないシグナムに挨拶もしたいが、年末に発表会を控えているため、休むわけには行かない。
「そうよね~・・・・・私も図書館で会って以来だし・・・・・・よし!ガンダム!!」
何かをひらめいた顔つきでナイトガンダムを見据え、左手を腰に置き、右手の人差し指で彼を指差す。
何か特別な効果音でも聞こえるかの迫力に、はやては自然と『おお~!!』と声をあげてしまう。
「貴方は私達が帰っても此処にいなさい!!シグナムさんが来るまで、どうせはやては暇を持て余すんだから、
女性を退屈させないのも、騎士の勤めよ」
このアリサの気遣いに、ナイトガンダムは素直に感謝した。
当初は写真などで人相を確認するのみに留めようとしたが、これなら本人に会える。
「わかりました、アリサ。このナイトガンダム、貴方から受けた使命、見事、達成させてごらんにいれましょう」
跪き、頭を垂れるナイトガンダムに、命令したアリサは満足げに微笑み、
すずかとはやては互いを見つめた後、嬉しそうに微笑んだ。

  • 午後六時三十分

「遅くなってしまったな・・・・」
今日の収集活動を終えたシグナムは、多少だるさが残る体を引きずりながら
海鳴大学病院内のはやての病室へと向かっていた。
収集活動を優先してから、主であるはやてと顔を合わせることが少なくなっていた。
それでも、常に毎日誰かが訪問する様にはしているが、主に寂しい思いをさせいるのには変わりは無い。
むしろ、自分達の行動を何一つ追求しない所か、寂しさを感じさせない笑顔で迎えてくれるはやての優しさに胸が痛む。
だが、それは仕方のない事。主であるはやての命を救うには闇の書を一刻も早く完成させなければならない。
『主の命を救うための仕方の無い行為』そう自分に言い聞かせ、シグナム達は行動していた。
途中で会った石田医師に挨拶をした後、はやての病室へ到着。
一応、主を驚かせないようにノックをしようとするが、中から聞こえてくる声にノックを止める。
「(ん?誰か着ているのか?・・・いや、何処かで聞き覚えが・・・・)シグナムです。入ります」
中から聞こえる声に引っ掛かりを覚えながらも、主の楽しそうな声に気分を良くしたシグナムは
数回ノックをした後扉を開ける。そして
「あっ、ガンダムさん、シグナムが来たで」
備え付けの椅子に腰を下ろしているナイトガンダムの姿を見て固まった

  • 屋上

「・・・まさかな・・・・・お前がいるとは思わなかった・・・・・」

海鳴大学病院の屋上、本来は立ち入りを禁止されている場所だが、聞かれたくない話を
するにはもってこいの場所だった。
病室に入ってきたシグナムの姿に確信を得たナイトガンダムは、はやてに自分はもう帰ると伝える。
同時にシグナムに念話を送り
「(自分を送っていく様に伝えて欲しい・・・・話しがしたい)」
二人で話しが出来るように口実を作ってもらうように頼んだ。

当然シグナムは彼の願いを聞き入れた・・・否、聞き入れるしかなかった。
この状況、勘の良いナイトガンダムの事だ、既に主はやてが闇の書の主だと気づいている筈。
ならば逃がすわけには行かない。もし、奴が管理局にこの事を話したら主に危険が及ぶ。
他の皆を呼ぼうとしたが、3人とも遠くの次元世界で収集活動を行っている。シャマルならまだしも、
自分の思念通話では伝える事はできない。
反対にナイトガンダムがテスタロッサ達を呼んでしまったら、事態は最悪の状況になる。
「(・・・・・・喋らせないためには・・・・・・)」
待機レヴァンティンを強く握り締めながら、シグナムは屋上へと向かった。

「・・・ガンダム、お前はどうする気だ・・・いや、私達は敵対している・・・・・聞くまでも無いな」
レヴァンティンを待機状態からシュベルトフォルムへと変形させ、切っ先を突きつける。
そのシグナムの態度に対し、ナイトガンダムは警戒をするどころか、武器も取らず、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「・・・今回の事は誰にも言わない・・・・私の騎士の誇りに誓って約束をしよう・・・ただし条件がある」
おそらく嘘は言っていないと思う。一度とは言え真剣に剣を交えた相手、あの真剣な瞳で邪な考えや嘘をつけるとは思えない。
だが、それでも今回は状況が違う。必要以上に疑う必要がある。
「すまないな・・・・・・好敵手とはいえ、貴様との出会いは浅い。信じる事は出来ない。
だが、条件というのが気になる、それを聞いてからだ」
とりあえず、武器も持たない相手に剣を突きつけるのは良い気分では無いので、シグナムはレヴァンティンをゆっくりと下ろした。
「それで・・・・条件とは何だ?」
「簡単な事だ。私の話を真面目に聞いて欲しい。ただし、質問は受け付けるが、途中で投げ出す事はやめて欲しい」
ナイトガンダムが出した条件に、シグナムは沈黙で答える。
冬の風が二人を容赦なく襲い、町の喧騒だけが響き渡る。
時間にして10秒足らずの沈黙を破ったのはシグナムだった。
レヴァンティンを待機状態へと戻し、戦闘の意思が無い事を表す。
その態度で了承したと感じ取ったガンダムは、リンディやクロノに話した自分の予測を、ゆっくりと話し始めた。

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最終更新:2008年11月03日 09:53