「消えろ」
 エネルギー砲が発射された。セッテは遠距離攻撃も行えたのだ。
 正面に砲火、後背に4本のブーメランブレード、ゼロは前後を挟撃される形となった。

 避けることは、出来ない。

 砲火と刃が、直撃した。
 追撃と迎撃を同時に行う、セッテの編み出した技だった。
「まだ死んでいない」
 爆発によって生じた煙から、ブーメランブレードが飛び出してくる。ゼロは恐らく、ギ
リギリまで刃を引きつけ、セッテにぶつけるつもりだったのだろう。
「――甘い」
 だが、ブーメランブレードはセッテに当たる直前で動きを止めた。これが単純に敵を追
尾するだけの武器なら当たっていたかもしれないが、これはセッテが直接動かしているの
だ。常に冷静な彼女は、眼前に刃が現れようと動作を誤ることなどなかった。
「敵の位置を予測、敵は上にいる!」
 二刀のブーメランブレードを、中空へと投げ放った。あの状況下でゼロにできるのは、
ツインブレイズで瞬間移動するぐらいである。そこを捉えれば、自分の勝ちだ。勝ちの、
はずだ。
「上に、いない?」
 計算が、狂った。データから導き出される正確な戦闘パターンに、間違いが生じた。ゼ
ロの姿は中空になど、ありはしなかった。
 上にいないのだとすれば、まさか――!

「そこだ!」

 ゼロが『床の下』から飛び出してきた。咄嗟に手元に残った二刀のブーメランブレードを
構えるセッテだが、全ての動作が間に合ったわけではない。ゼットセイバーが斬り上げられ、
セッテの胸元を軽く薙いだ。
「……ディープダイバー」
 傷を抑えながら、セッテは呟いた。セインの持つ先天固有技能だが、彼女のは完全なる突
然変異、つまりは偶然から発生した能力であり、コピーは出来ないと判断していた。その判
断を、誤ったというわけか。
「浅かったか」
 今の一撃で確実に仕留めるつもりだったが、ゼロは敵の動きが良いと感じていた。冷静に
判断し、対処する。戦士としては理想的な姿だろう。データだけの強さというわけでもない
ようだ。
「もう、油断はしない」
 セッテはブーメランブレードを構え直し、ゼロと距離を取る。ディープダイバーが使える
のなら、それもデータとして記憶すれば良いだけの話だ。
 対するゼロはゼットセイバーを片手に全身に光を纏い始める。
「オレは先に進む。それを邪魔するなら、叩き斬る!」
 チャージ斬りの激烈なる一撃がセッテに打ち込まれた。セッテは二刀の刃でこれを受け止
めるが、あまりの威力に武器が持たなかった。
「指針距離――それなら」
 迷いがないというのも、場合によっては考えようだ。追い詰められたセッテは、超近距離
からの砲撃でゼロを吹き飛ばそうとした。他に方法がなかったとはいえ、これではセッテ自
身もダメージを受けることになる。
 自滅もいとわぬ砲火に対し、ゼロはシールドブーメランを展開することでダメージを最小
限に抑えた。むしろ、防がれた分だけセッテの受けた衝撃の方が強かった。
 生まれた隙を、ゼロは見逃さなかった。片手に持ったセイバーの斬撃を、セッテに叩き込
む。
「――ッ」
 ほとんど反射的に、セッテは中空へと飛んだ。そして、先ほど投げ放ち、浮遊したままだ
ったブレードブーメランを、スローターアームズで引き寄せる。
「これで、切り裂く!」
 セッテは二刀の刃を、重ね合わせた。ギンガの左腕を両断した一撃を、ゼロにも使おうと
いうのか。
 ゼロの身体が、再び輝き始める。必殺のチャージ斬りか、だが、必殺技で弾き飛ばそうな
ど、無駄な考えだ。激突の瞬間にスローターアームズで軌道を変えてしまえば、ゼロに迎撃
は出来なくなる。

「ブレードブーメラン!」

 セッテが重ね合わさったブレードブーメランを、ゼロに向かって投げ放った。

 それに対し、ゼロはゼットセイバーではなく何故か円盤状の盾を構えた。まさか、防御す
るつもりなのか? 無駄だ、スローターアームズを使って込めたエネルギーは先ほどの砲撃
以上、今のブレードブーメランなら盾ごとゼロを切り裂ける。

「シールドブーメラン!」

 ゼロが、光り輝くシールドシールドを、セッテに向かって投げ放った。

「な、に!?」
 驚愕に、目を見開いた。常に冷静であるはずのセッテが、僅かながらにも動揺してしまっ
たのだ。
 円盤状の盾と思っていたゼロの装備、まさか、攻撃にも使えるというのか。

 セッテのブレードブーメランと、ゼロのシールドブーメランが激突した。

 激突音が、辺りに鳴り響く。威力は互角、双方の技量もまた。唯一違うのは、
「武器の、破壊力」
 ブレードブーメランは、シールドブーメランとのぶつかり合いに打ち勝てなかった。砕け
散った二刀の刃、その破片を弾き飛ばしながら、シールドブーメランはセッテに直撃した。
「ぐがっ――!?」
 腹が抉り、削られるような感触が体中を支配した。激痛が全身に回り、セッテは浮遊を維
持することが出来なくなった。
 セッテは地面へと落下した。しかし、衝突したわけではない。痛みにかき消されそうな自
我を何とか保ち、さしたる衝撃もなく着地することが出来た。
「私が、負ける?」
 傷口を押さえるセッテだが、血が止まらない。かなり深く抉られたようだ。
「ダメだ、私は負けない。負けられない」
 そんな状況にかかわらず、セッテはブーメランブレードを取り出すと、それを支えに起ち
上がろうとした。執念と言うべきその姿に、ゼロが彼には珍しく唖然としていた。
「死ぬ気か?」
 かつてチンクにも言ったような台詞を、セッテにも投げかける。チンクは自ら望んでの自
爆攻撃だったが、セッテのこれは明らかに自滅である。
「私は、ここで終わる。けれど、まだトーレがいる」
 敬愛する姉、ナンバーズ最強の戦士である女性の名を、セッテは呟いた。
「あの人のために私は、一つでも多くのデータを収集しなくてはいけない」
 動けるはずがない、動けるはずがないのに、ブーメランブレードを振り上げる。痛ましい、
痛々しい姿だった。
「お前は、はじめからそのつもりで……」
 セッテは、割り切っていたというのか? ゼロを倒すための駒として、自分が潰えるとい
うことを。
 だとすれば、こいつは本当の戦士だ。
「呆れるほどの武骨だな」
 褒めているのか、それと単に呆れているのか、ゼロはゼットセイバーを真っ直ぐと構えた。
殺す気で掛からなければ、こいつは倒れない。
 ゼロの決断に、いつも無表情であるはずのセッテが、少しだけ満足そうな表情をした。

「それでいい……私は、最後までお前と」

 言いかけて、セッテの意識はそのまま暗い闇へと沈んだ。


 ゼロは、戦闘機人という存在に物悲しさを感じ始めていた。彼女たちはレプリロイドより
も、人間に近い存在だ。それなのに、あるいはレプリロイドよりも自由がないのではないか?
 しかし、こんな考えは目の前に倒れるセッテに対して侮辱も良いところだろう。彼女は戦
士として、矜恃を持ってゼロと戦ったのだから。
「ゼロー!」
 見計らったわけではないのだろうが、ゼロとセッテの戦いが終わった直後、セインが現れ
た。よほど急いできたのか、息を切らしてる。
「早かったな」
「そりゃすっ飛んで、というか飛び込んできたから」
 ディープダイバーを駆使してきたということだろうか。確かに障害物を潜って通り抜けれ
ば、すぐにでも到着できるのだろうが。
「……セッテを倒したの?」
 ゼロの目の前に出来た血溜まりを見ながら、セッテの表情にあった笑みが薄れていく。
「あぁ、倒した」
 セッテも、そして隅に倒れるディードもまだ生きていたが、放置しておくと死ぬだろう。
 だが、ゼロには助ける術はない。彼は、進まなくてはいけないのだから。
「何でだよ、どうして、姉妹同士で戦わなきゃいけないんだ」
 ディードが誰にやられたのか、セインは容易に想像が付いた。彼女は目に涙を溜めながら、
悔しそうに呟いた。セッテは、機械的なんじゃなくて馬鹿正直なんだ。ドクターがいくら生
みの親だからって、ここまでする必要なんてあるもんか。

「良くやったぞ、セッテ。後は私に任せろ」

 声は、ゼロとセインの前方から響き渡ってきた。力強いその声は、セインのよく知る長姉
のもの。

「トーレ姉……」
 非難めいた口調と目で、セインは現れたトーレを見た。この人は、セッテが負けるのを黙
ってみていたというのか。
「セインか、裏切り者が良く戻って来れたな」
「その話は、多分トーレ姉としても意味ないよ。ドクターに絶対の忠誠を誓ってる、あなた
とは」
 ナンバーズ最強、戦闘機人の最高傑作、それがトーレだ。確かな実力と、他者を圧倒する
威圧感。自他共に認める最強戦士である彼女は、その強さを忠誠の証としてスカリエッティ
に捧げている。
「気をつけて、ゼロ。あの人は私たちの中で一番強い」
 恐らく、他の姉妹が束になっても、あしらうとはいかないまでも、トーレなら倒すことが
出来るだろう。
 それほどの強さが、実際にあるのだから。
「……お前の能力は、他の人間も運べるのか?」
 ゼロが突然、奇妙な質問をセッテにしてきた。
「え? いきなりなにさ」
「いいから答えてくれ、どうなんだ」
「2,3人ぐらいまでなら、運べなくもないけど」
 さすがにそれ以上は無理だろう。抱えたり背負ったりしても、それぐらいが限界だ。
「なら、ギリギリ大丈夫だな」
「だから、一体なんの話を――」
「そこに倒れている奴と、隅にいる奴。それから下の階層にも一人、そいつらを連れて、お
前は脱出しろ」
 衝撃的な一言を、ゼロは言ってのけた。
「に、逃げろって、そんな!」
「時間がない。放置してると、そいつらは死ぬぞ」
 ゼロの言うとおりである。階下のディエチはともかく、セッテとディードは非情に危険な
状態だった。
 それに、トーレが現れた状況下で、セインが何の役にも立たないのは、本人が一番良く分
かっていることだった。
「でも、あの子は良いの?」
 ヴィヴィオのことだ。
「ここに乗り込んだのは、オレたちだけじゃない。何とかなるだろう」
 希望的観測に過ぎないが、確率は高い。
 迷ってる暇は、ない。
「……わかった、私は逃げるよ」
 素早く跳んで、セッテとディードを両脇に抱え込んだ。トーレは邪魔する気はないらしく、
黙って見つめている。
 この二人と、後は下にいるディエチを連れて行けばいい。
 ディープダイバーで潜ろうとするセインだが、ふとその動きを止め、ゼロへと向き直った。
「ゼロ、死なないでね。絶対また会おうね。何か、私、アンタのことが結構気に入ったからさ」
 笑いかけると、セインはそのまま潜って階下へと降りていった。


「意外と、甘い奴だな。ディードはまだしも、セッテやディエチまで助けるとは」
 トーレが静かに、口を開いた。
「あそこで助けなければ、あいつは後悔した。それだけだ」
 セイバーを煌めかせながら、ゼロが呟く。
「フッ、素直じゃない奴だ。しかし、戦士に必要なのは実力だからな」
 溢れ出るエネルギーの波、ナンバーズ最強を自負するだけあって、トーレの波動めいた力
がゼロの身体にも伝わってくる。
「お前と戦っている時間は、あまりない。すぐに終わらせる」
「出来るかな? ナンバーズ7体分のデータを持つ私に」
 身体にエネルギーブレードが、翼のように発生していく。構えを取り、視線が真っ直ぐゼ
ロへと向く。
「ナンバーズ3番、トーレ――いざ、参る!」
 ゼロとトーレは、真正面からぶつかり合った。ゼットセイバーとインパルスブレードが火
花を散らし、視界を焦がす。
 斬撃と打撃の応酬は、やはり手数の多い方が上か。ゼロはセイバーでは不利だと悟り、す
ぐに武装をリコイルロッドと交換した。
「ツインブレイズ!」
 そして、瞬間移動を使い、トーレの死角からの攻撃を試みる。

「遅いなぁっ!」

 しかし、トーレは繰り出された打撃を左腕で受け止めた。ツインブレイズによる攻撃が、
完全に見切られている。
「これが、リーダーの実力か」
 距離を取りながら、すかさずゼロはバスターをチャージする。
「だが、オレは前に進むだけだ!」
 チャージショットが放たれた。狙いは正確、弾速も素早い。
 これなら、当たる――
「ぬるい!!!」
 突き出された拳の一撃が、バスターショットを打ち消した。思わず目を見開くゼロに対し、
トーレは一気に距離を詰めた。
「隙だらけだぞっ」
 鞭のようにしなやかで、剣のように硬い蹴りが飛んできた。避けられなかったゼロは、ゼ
ットセイバーの刀身でこれを受けきった。
「お前がドクターの元へいくことはない。お前は、ここで敗れるのだから!」
 体勢を立て直す間を与えないトーレの連撃に、不覚にもゼロは圧倒された。ゼロの動きが、
完全に読まれている。セッテが命がけで集めたデータが、決め手となったようだ。
「これで、トドメだ!」
 右手のインパルスブレードが輝き、ゼロへと叩き込まれた。強烈な一撃、当たればゼロと
て倒れただろう。
 そう、当たれば……

「させないっ!」

 ゼロとトーレの間を、光りが遮った。雷光のような光りが、瞬時に現れ、輝く大剣がトー
レの一撃を受け止めた。

「フェイト・テスタロッサ!?」
 思わぬ敵の登場に、トーレが慌てて後退した。フェイトはゼロを守るように立ちながら、
ザンバーを構える。
「遅くなってごめん、ゼロ」
「やはり、来ていたのか」
「私だけじゃなくて、なのはも一緒だよ。もっとも、なのははヴィヴィオの所へ向かったけど」
 ゼロが体勢を立て直すのを見ると、フェイトが魔力を解放させた。彼女もまた魔力制御を
解除されており、フルの実力を出せる。以前戦ったときよりも強い魔力に、ゼロは密かに感
嘆を憶えた。
「ゼロ、先に行って。ここは私が戦う」
 トーレを見据えながら、フェイトが言った。
「だが、しかし」
「スカリエッティとは、あなたが会うべきだと思う。だってこれはもう」
 あなたの戦いなのだから。
 強い瞳で、フェイトはゼロを見つめた。
「わかった、そうさせて貰う」
 フェイトだって、スカリエッティとは因縁がある。しかし、それを放棄しても尚、彼女は
ゼロを行かせたかった。
 ゼロはフェイトに背を向け、駆け出そうとする。そして、まさに駆け出す直前だった。

「フェイト、ありがとう」

 ゼロが初めて、フェイトの名を呼んだ。

「えっ――」
 そういえば、自分はゼロに名前を呼ばれたことがなかった。フェイトという、名前を。

「行かせはしない……ライドインパルス!」
 スカリエッティの元へ向かおうとする、ゼロに、トーレが仕掛けた。
「させないっ、ソニックブーム!」
 高速移動を行う両者が、中空で激しく衝突する。突貫力ならトーレに分があるが、フェイ
トにも強力な一撃がある。フェイトはとりあえず、全力で敵の突破を阻止すればいいのであ
って、トーレよりも有利だった。
「プロジェクトFが、いいだろう、過去の遺産などここで潰えろ!」
 トーレのエネルギーの波動と、
「どんな生まれ方だろうと、私は私だ。否定はしないし、誰にもさせない!」
 フェイトの魔力の波動が、空間を揺らした。フェイトはザンバーを構え、一気に斬り掛か
った!


 ひたすら、前に向かって走った。
 ここまで来れば、道は一直線に続くのみだ。ガジェットによる妨害もなく、真っ直ぐスカ
リエッティの元に辿り着ける。
「オレは勝つ、そして、この馬鹿げた戦いを終わらせる」
 扉が見えてきた。やけに大きい扉だが、この先にある広めの空間にスカリエッティと、部
下のナンバーズがいる。もう戦闘用のナンバーズは残っていないはずで、驚異として考える
必要はない。
 敵は、スカリエッティただ一人。

「テァッ――!」

 ゼットセイバーの斬撃が、大広間へと続く扉を斬り裂いた。

「おや? 遅かったね、ゼロ」
 紛れもなく、スカリエッティの声だった。表情に張り付いている笑みも、何もかもが以前
見たときのそれと違わない。間違いなく、本人だ。
 だが、唯一の違いがあった。

「ウォーミングアップは、とっくに終わったよ」
 スカリエッティの右手が、男の首を掴み上げていた。黒衣を纏った男の姿は、ゼロにも覚
えがある。

「ほら、こんな風に」    
 ゼストの身体を、スカリエッティが乱暴に放り投げた。アギトが悲鳴を上げて飛んでいく。
ゼロも勿論、駆け寄った。
 仰向けに叩き付けられた身体は、ボロボロだった。砕かれ、へし折られた槍と大差なく、
ゼストの身体は傷ついている。
「しっかりしろ、大丈夫か?」
 戦歴の長さからか、ゼロはゼストの傷に嫌なものを感じていた。致命傷が、余りにも多す
ぎる。
「旦那! 旦那! 目を開けてくれよ!」
 アギトの必死の叫びが届いたのか、ゼストは薄れる意識を、半ば無理矢理覚醒させた。
「ゼロが、来たのか」
 もう、眼は見えていないのだろう。光りなき瞳が、ゼロとアギトの姿を探している。
「いるよ、今、ここに来たよ!」
 叫び声も、どれほど聞こえているのか。ゼストは動かすことの出来ない身体に顔を顰
めながら、声を絞り出す。
「スカリエッティは、強い。奴を殺すつもりが、返り討ちにされた」
 全身全霊を込めた一撃を破られたとき、勝負は付いていた。ゼストはスカリエッティにい
いように嬲られ、死に絶えようとしていた。
「俺の頼めた義理ではないが……」
 まさか、親友と同じように死ぬことになるとは思っても見なかった。だが、頼める相手は
他におらず、頼まないわけにもいかなかった。
「アギトと、ルーテシアを」
 言葉に、アギトが顔色を変えた。
「ダメだよ旦那! 死んじゃ嫌だ!」
 ダメだろうと嫌だろうと、ゼストは死ぬ。アギトが認められないだけで、ゼストには前か
ら分かり切っていたことだった。
 ゼロが、ゼストの前にしゃがみ込んだ。
「他に、言い残すことはないか?」
 冷酷だったかも知れない。しかし、一人の騎士が、戦士が息絶えようとしているのだ。同
じ戦士として、聞いておくべきだろう。
「……そうだな、出来れば最後に俺は、俺はお前ともう一度」
 そのお前が誰だったのか、ゼロにはわからなかった。答えを言う前に、ゼストの口の動き
が止まった。閉じられた瞼は、二度と開くことがなかった。

 ゼスト・グランガイツ、かつて管理局の騎士として勇名を轟かせ、人造魔導師として復活
し、ゼロとも戦ったことのある戦士が、死んだ。

「どうして、どうしてだよ旦那! なんでアタシを残して死んじまうんだよ!」
 縋り付き、泣くじゃくるアギト。しかし、泣こうが叫こうが、ゼストは復活しないのだ。
二度の生に、三度目はないのだから。
「実に愚かな男だったよ。残り僅かな命と、絞りかすの魔力を総動員して、私に傷一つ付け
られないのだから」
 耳障りな声が、ゼロに向かって響いてきた。
 ゼロは起ち上がると、その声を発する主に向き直る。
「最初の一撃、あれは確かにフルドライブだった。君を一度は敗北させた技だが、それを持
ってしても勝てないのだから、騎士というのも落ちぶれてしまえば存外大したことは」
「――黙れ」
 怒りに満ちた声だった。ゼロが明確な怒気を、スカリエッティに見せた。
「スカリエッティ、お前はオレが倒す」
 ゼットセイバーを構える姿には、強烈な圧倒感があった。事実、ゼストの死に錯乱してい
たアギトが、衝撃波とも言うべき威圧感に正気を取り戻したほどだ。
「私を、倒す?」
 スカリエッティが、突然高笑いをはじめた。耳障りな、下卑た笑いである。彼は口で右手
の手袋を加えると、一気に抜きはなった。
「それはちょっと、無理だと思うがねぇ!?」
 高笑いと共に、スカリエッティの身体が光りに包まれる。眩い光りに、目が眩みそうにな
るほどだ。

 そして、光りが消えたその先には、

「スカリエッティの腕が……!」
 震えた声で、アギトが呟いた。スカリエッティの右腕が、先ほどまで人間の腕をしていた
はずなのに、光りと共に別のものとなってしまった。
 肩口から生えているそれは、怪物の腕というのがまさに相応しい表現だった。これが、ゼ
ストの一撃を打ち破ったスカリエッティの真の力なのか。

「我が名はジェイル・スカリエッティ、無限の欲望――アンリミテッドデザイア!」

                                つづく


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最終更新:2008年10月10日 01:39