一方、別ルートから突入したゼロたちは、侵入者の存在を探知して現れたガジェットた
ちと戦っていた。三人といっても、セインは戦力に入らないので、戦っているのは実質ゼ
ロとディードだけだ。しかも、ディードはスカリエッティに反旗こそ翻したが、ゼロと協
力し合うつもりはまるでないらしい。
「とりあえず、これからどうするの?」
 壁に隠れてガジェットの攻撃をやり過ごすセインが、ゼロに尋ねた。
「やることは、大きく分けて三つだ」
 ゼットセイバーでガジェットの一機を斬り裂きながら、ゼロは口を開いた。
「一つは、スカリエッティを見つけ出すこと」
 首謀者である彼を、倒すか殺すか、拘束するかは絶対条件だ。彼がギンガを使ってレジ
アスという大将首を奪ったように、こちらも司令塔であるスカリエッティを倒す。そうす
れば、少なくともナンバーズは指示と命令を出す相手を失うことになる。
「私たちは、ドクターの言うことしか聞いてこなかったからね。他に何をして良いのか、
あの人がいないと判らなくなっちゃうんだ」
 あるいは、自分たちはそのように作られているのだろうか? 無意識に、スカリエッテ
ィを求め、彼の命令を利くように、最初からシステムとして組み込まれていたのか? い
や、だとすれば自分やディードが反旗を翻すことなど、端から出来ないはずだ。
「二つめは、この戦艦の機関部か、もしくは制御室を制圧し、艦のコントロールを奪うこ
とだ」
 スカリエッティを捕らえてやらせるという手もあるが、奴が素直に言うことを聞くとは
思えない。
「……なるほど、なら、その役目は私が引き受けよう」
 これまで協力姿勢を見せなかったディードが、ポツリと一言だけ呟いて、その役目を買
って出た。
「いいのか?」
 オットーの一件から、彼女がスカリエッティと戦いたがっていることは明白であった。
譲る気はなかったが、着いてくるというのならゼロは止める気はなかった。
「機関部の破壊はともかく、制御室の制圧が出来るの私だけだ。制圧したところで、古代
ベルカの戦船をお前が動かせるとも思えないが?」
 その通りだった。所詮は異世界の住人であるゼロにとって、車の運転ぐらいならまだし
も、巨大な戦艦を動かすことなど不可能に近かった。出来たとしても、時間が掛かること
に違いはない。
「判った、任せよう」
 ゼロは短く、ディードに感謝した。
「ね、私は? 後一つ残ってるんでしょ?」
 セインが何故か心を躍らせながら尋ねてくる。確かに、やらなければ行けないことは三
つあって、ここには丁度三人居る。
「玉座とやらに向かい、スカリエッティが鍵の聖王と呼んでいるのを回収することだ」
 ヴィヴィオ、あの少女が聖王なのだと言われても、ゼロにはイマイチピンと来ない。古
代王家の末裔なのかもしれないが、それが何だというのだ。ゼロにとって、ヴィヴィオは
ヴィヴィオだ。自分を慕い、なのはをママと呼んでいた幼女でしかない。
「あの女の子か……判った、あの子は私が助け出すよ!」
 戦闘を行うとか、制圧するとかに比べれば、セイン向きと言える内容だった。ただ、聖
王の玉座がどこにあるかわからない以上、探すだけでも一手間も二手間も掛かるだろう。
「あまり時間はない。地上が壊滅するのが先か、スカリエッティを倒して、この戦艦を止
めるのが先か……時間制限、という奴か」

 まるで、ゲームのようではないか。

 ゼロは複雑な表情を浮かべると、それぞれの役目を果たすため、三手に別れて行動を開
始した。


「彼らも分散して行動を開始したか」
 かつての聖王や、その一族が毎夜の如く晩餐を楽しんだと言われる巨大な大広間。そこ
に張り巡らせたモニターで状況をチェックしていたスカリエッティは、実に面白そうにゼ
ロたちの行動を見ている。ゼロとセインはともかく、ディードがいたこと、ディードが生
きていたことが、少しだけ意外だったのかも知れない。
「ディードの裏切りもまた、ドクターの予想範囲内でしたか?」
 ウーノが、躊躇いながらも尋ねてきた。彼女はディードが裏切ったこと肯定しないが、
全否定も出来なかった。セインもそうだが、スカリエッティは自分の部下を、あっさりと
切り捨てすぎている。裏切ったのは彼女たちであるが、彼女たちの方でも、スカリエッテ
ィに対して「裏切られた」と思う感情が存在しているのではないだろうか?
「実を言うとね、ウーノ。私はナンバーズの娘たち、ただ一人を除いて全員が裏切る可能
性はあると、常日頃から思っているんだ」
「えっ?」
 それはなかなかに、衝撃的な告白だった。ウーノだけではない、居合わせたトーレやセ
ッテ、セッテは無表情であるが、彼女らもまた少なからず驚いたようだ。
「君たちの全員か、それとも幾人かは知らないが、確かに私を信頼してくれているのだろ
う。だけど、私の方にそれを求められてもね。私は、誰かを信頼することが出来ない……
というより、それがどういうものなのか判らないんだよ」
 判らないから、出来ない。偉大な天才であるはずのスカリエッティ、その彼が持ってい
る意外な欠点だった。
「ただ、信用という意味では少し異なるがね。先ほども言ったとおり、一人だけは私を裏
切りはしないと、信用はしている」
 12人もいるのに、たった一人なのか。だが、現にナンバーズが分裂しはじめている今の
状況から考えると、そう不思議ではないのかも知れない。
「私以外は全員危険と言うことですか」
 ウーノは深刻そうな顔を、そしてトーレが少しだけ不満げな表情をしていう。確かに自
分はウーノのように公私ともにドクターのサポートが出来るわけではないが、忠誠心で劣
っているとは思えないのに、と。
「まあ、そんな話は今はまだどうでも良い。ウーノ、クアットロに言ってゆりかご内の警
戒レベルを上げさせてくれ」
「わかりました」
 了解すると、ウーノは足早にその場を離れた。
 それを確認した後で、スカリエッティはトーレとセッテの二人に向き直る。
「君たち二人は、侵入者の迎撃を。一番近いのから、二人がかりでも構わない」
 ここに来て、一騎打ちに拘る必要もないだろうとスカリエッティは言っているのだろう
か? トーレは疑問を憶えたが、自分たちに不利な命令ではないのだから、別に問題はな
い。
「了解しました。ただちに迎撃に向かいます」
 トーレは即断即決で、すぐさま大広間を飛び出していった。本来ならすぐにセッテも付
き従うはずが、彼女はスカリエッティに背を向けて、何故か立ち止まってしまった。
「どうした、セッテ?」
 無感情と言い切っても差し支えがないほど機械的な少女の見せた、意外といえば意外な
行動に、スカリエッティは思わず声を掛けた。
 声を掛けられたセッテは、ゆっくりとスカリエッティに向き直り、これまた珍しく何かを
言おうとしては、言えないでいるようだった。
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いたまえ」
 例えそれが非難や批判、否定であったとしてもスカリエッティは受け入れる。傷つく傷
つかないは、ともかくとして。
 セッテは、表情だけは変わらず無表情を貫きながら、口を開いた。
「他の姉妹がどうであっても、私はドクターを裏切るつもりはありません。私は、ドクタ
ーに忠誠を誓っています」
 一瞬、虚をつかれたのは言うまでもなかった。無口で無表情な少女が、初めてに近い形
で行った自己主張。セッテは、強い瞳でスカリエッティを見つめていた。
「――セッテ、君は私の夢を知っているかい?」
 思わず、スカリエッティはセッテにはまだ行っていなかった問いを、投げかけた。

「知りません」
 その問いに対し、セッテは即答をした。スカリエッティの表情に張り付いていた笑みが、
少しだけ歪む。
「ですが……」
 セッテはスカリエッティを見つめながら、言葉を続けた。淀みも何も存在しない、明快
な答えを出すために。

「判るようになりたいと、思っています」

 今はまだ知らなくても、いつかわかることの出来る日が来れば良い。

 そんなセッテの出した答えに対して、スカリエッティは小さく息を吐いた。顔を上げ、
満足そうな笑みを彼女に向けた。
「悪くない答えだ」
 スカリエッティの言葉を聞き、セッテは一礼するとトーレに追いつくために駆けだして
いった。
 その後ろ姿を見つめながら、スカリエッティは呟いた。
「あるいは君の完成がもう少し早ければ、君も私の夢を、私という出来損ないの人間を知
ることが出来たのかも知れないな」
 時間さえあれば、か。時間その物は無限に存在し、流れ続けていくものだ。しかし、与
えられる時間という物には、永遠はない。生命だろうと、機械だろうと、内に秘めた時計
の針は、ある日突然止まる物だ。
 昨日まで動いてた時計が、今日も動くとは、限らないのだから。

『ドクター、大変ですぅ』
 クアットロが、スカリエッティに回線を繋いできた。大変という割りに、少しも焦りの
感じられない声だった。
「何か、事件かね?」
『ディエチちゃんが、命令無視してまーす』
「……ディエチが? 彼女も裏切ったのか?」
 そういうわけでもないらしい。クアットロの話では、ディエチはなのは迎撃を命じられ
たはずなのに、別の敵の迎撃に向かったというのだ。命令の聞き間違いや、勘違いではな
い。端末に地図があるから、道を間違えているわけでもないだろう。
「ささやかだな、ディエチは」
 彼女が見せた小さな抵抗に、スカリエッティは思わず笑ってしまった。
『どうします? 今からだとエース・オブ・エースの迎撃には間に合わないと思いますけど』
「玉座の聖王は、まだ掛かりそうかな?」
『んー、それを最優先にやれ、というならすぐにでも。ただ、相手が相手だからガジェッ
ト百体送り込んでもあっという間に蹴散らしちゃいそうで』
 なのはなら、それぐらい造作もないだろう。故に同じく圧倒的な砲火を誇るディエチを
向かわせたのだが……
「なら、最優先にやってくれ。聖王あっての、ゆりかごだ」
 回線を閉じると、スカリエッティは大きく伸びをした。外でも中でも、戦闘は絶え間な
く起こっている。となれば、誰か一人ぐらいは、この大広間にも辿り着くかも知れない。
「面白くなってきたな。やはり、ゲームはこうでなくてはいけない」
 白い手袋を嵌めた右手を、こちらは何も嵌めていない左手で触りながら、スカリエッテ
ィは高笑いをはじめた。
 それは、紛れもなく狂気の張り付いた笑みだった。
「そういえば、ディエチは誰の元に向かったんだろうな?」


 ゼットセイバー片手にゆりかご内を突き進むゼロであるが、スカリエッティへと続く道
に当てがあるわけでもない。地図など持っていなければ、艦内にそれらしい物も見あたら
ない。情報管制室のような場所ならそれも出来るのだろうが、それはどこにあるのだ、と
いう状況なのだ。
「敵が湧き出てくる場所が、行きたい場所というわけでもないらしい」
 ガジェットたちに関していえば、そこかしこから現れては攻撃を仕掛けてくる。ほとん
ど一撃で破壊しているが、恐らくそこら中にいるのだろう。ガジェットを辿れば辿り着く、
というわけでもない。
 故に、一般的な戦艦の内部構造を思い出しながら、自分で当たりを付けて動かざるを得
ない状況なのだ。ただ、それにしたって異世界の、遥か古代の兵器だから通用するかどう
かも判らない。
「誰か一人でも、目的を果たせれば……」
 もしくは、フェイトやなのはと合流するという手もある。ゼロは魔力を感じることなど
出来はしないが、雰囲気というか、空間の流れを読むことは出来る。フェイトは、必ずゆ
りかご内にいる。
「非科学的だな、これは」
 少し、あいつに似てきたかも知れない。科学者のくせに、非科学的なことばかり言って
は自分に微笑んできた、彼女に。

「――――ッ!?」

 薄い笑みを浮かべようとしたゼロだが、その表情は一瞬で引き締まった。

 咄嗟に横に倒れ込むように飛んで、受け身を取る。
 すると、ゼロが今まで立っていた場所に何かが着弾し、爆発を起こした。
「砲弾……砲手か!」
 砲撃のあった方を見据えるゼロ、その視線の先には彼の身の丈よりも巨大な砲身を持ち、
砲口をこちらに向ける少女がいた。
「避けたか、さすがにやるね」
 狙撃砲イノーメスカノンを構えた、ディエチだった。スカリエッティの命令に反し、彼
女はなのはではなくゼロの迎撃を優先した。それは、スカリエッティへの不信感からとい
うよりも、一時の間でも世話をした、ヴィヴィオという幼女に対する罪悪感がそうさせた
のかもしれなかった。
「あの子は、母親に会いたがってる。あたしは、それを邪魔できない」
 長距離砲撃を警戒して、積極的に動こうとしないゼロに目をやる。ゼロに対して恨みが
ないといえば嘘になる。奴がこの世界に現れてから、ドクターがアイツに興味を持ち始め
てから、あたしたちの中で何かが変わってしまった。それまで大切にしていた物が壊れは
じめ、姉妹たちは次々に倒れていった。
 奇しくも、それは機動六課の一部局員たちが抱いていた感情と同じ物だった。だから、
ゼロにしたところで否定はしなかっただろう。

「ナンバーズ10番、ディエチ。狙撃する砲手……IS、ヘヴィバレル!」

 先ほど撃った爆発性の実体弾とは違う、エネルギー直射砲が発射された。


 同じ頃、ディードもまたゆりかご内を飛び回っていた。彼女にしたところで何かしらの
当てがあるわけではないのだが、一つの可能性があるとは感じていた。それは、こちらが
敵を見つけるのではなく、
「戦闘機人反応、前方500メートル……来たか!」
 その場に制止し、双剣ツインブレイズを抜き放つディード。あの二人相手に正面からの
突撃を敢行するほど、自分は馬鹿ではない。
 距離があったにもかかわらず、二人はほとんど一瞬でディードの前に現れた。
「やはり、あなた方二人ですか」
 双剣を構えながら、目の前に立ち塞がる姉妹に声を掛けた。
 トーレとセッテ、ナンバーズの戦闘機人の中でも、特に戦闘に優れているとされる二人
である。
「悲しいぞ、ディード。セインに続き、お前も裏切ったとはな」
 低く静かな声で、しかし、表情だけは悲しく、残念そうにトーレは言った。
「悲しい? トーレ姉様は、ドクターが私に、私やセインに何をしたかご存じないのですか?」
 セインも自分も、それにオットーも、スカリエッティに切り捨てられた。セインは反抗
的な態度を取っていたから、という理由も付けられなくはないが、では自分はどうなる?
 スカリエッティの命令で前線に赴き、命令通りゼロと死闘を繰り広げていた自分は。
「オットーは言いました。ドクターは、私たちを物としてしか見ることの出来ない人だと」
 物を持つ人が、それを捨てるのは実に簡単だ。いらないと思えば、その時点でいつでも
捨てられる。
「けど、捨てられる方は堪ったもんじゃないんですよ」
 自分を守るために、オットーは倒れた。ノーヴェは姉妹らに対する想いを利用され、セ
インは姉妹の手によって殺されかけた。
「あなた方だって、もう気付いているはずです。それなのに、まだドクターのために戦わ
れるのですか?」
 それこそ、次はトーレやセッテが切り捨てられる番かも知れないのだ。スカリエッティ
なら彼女らを切り捨てることにさえ、何の躊躇いも憶えないだろう。
 ディードの問いに対し、トーレは軽く鼻で笑った。
「な、何がおかしい!」
「おかしいさ。ディード、お前は忠誠の見返りを求めるのか?」
 トーレは、ゆっくりと攻撃の構えを取り、セッテもそれに習う。
「忠義というのはな、何か見返りが欲しいからするんじゃないんだよ。例えその人の本質
がどんなに愚劣だったとしても、それはそうと知りながらも忠誠を誓った、本人の責任な
のだ」
 全てを判った上で、トーレはスカリエッティに付き従っているというのか?
 事実に、ディードは言葉を失った。
「相手の全てを受け入れ、その上で忠誠を誓うことが出来る、それが真の忠義というもの
だ。ディード、貴様に何か言いたいことがあるのなら、戯言などではなく戦闘機人らしく
力で示し、私たちを納得させて見せろ!」
 エネルギーの放出に、何とか足を踏みとどまる。ナンバーズ最強の戦闘機人であるトー
レ、これほどの威圧感なのか。
「いいでしょう、全力で戦わせて貰う!」
 それでも、ディードは戦った。双剣を構え、トーレとセッテの二人に、姉である二人対
し、斬り掛かった。


 次々に行われる戦闘を眺めながら、スカリエッティはまだ高笑いを続けていた。何がそ
んなにおかしいのか、それとも嬉しいのか、圧倒し続けている地上での戦闘に、これから
圧倒するであろうゆりかご内での戦闘が。
 どちらにしたところで、もう聖王のゆりかごは動いているのだ。今更止めることなど出
来ないし、誰にも止められはしない。
「後二時間も戦えば、地上部隊は壊滅する。クラナガンを焼き払い、二つの月の魔力下に
入れば、私の勝利は確実だろう」
 野望を完遂しつつあるスカリエッティの姿に、ウーノが暖かい笑みを向けている。彼女
は姉妹間での争いには流石に否定的であるが、他のこと、例えば地上が壊滅するとか、地
上部隊が全滅するとか、そういったことに対しては何の感傷も持っていなかった。クアッ
トロとはまた違うが、今回の一件で軽く数千人、それこそ数万人死んだところで、ウーノ
にも関係はないのだ。彼女はただ、スカリエッティが満足しているのなら、それでいいの
だから。
「世界は終わる、私の手によって終焉を迎える。そして、終焉を迎えた世界は、同じく創
造主たる私の手によって、新たなはじまりを迎えるのだ!」
 それは決して、夢物語などではない。聖王のゆりかごには、それを現実に変えてしまう
だけの、力があるのだ。既にスカリエッティは名実共に、破壊者と創造者として君臨しよ
うとしていた。

 だが、それを阻む者は、まだ存在する。

「いや、終わるのはお前だ、スカリエッティ。そして、その終わりの後に、新たな始まり
は存在しない」

 ゼストが、ゆっくりとした足取りで大広間へと入ってきた。

「ゼスト? 君には帰還命令は出していないが」
 唐突に現れた騎士の姿に、スカリエッティが不思議そうな声を出す。
「何度も言わせるな、俺はお前の部下でも配下でもない」
 傍らに飛ぶアギトが、心配そうにゼストの顔を見つめている。
 その手に持った黒色の槍、その切っ先を、ゼストはスカリエッティへと突き付けた。
「……何の真似だね、騎士ゼスト」
 行動に焦るウーノを手で制止ながら、スカリエッティは尋ねた。隙のない構えと、放出
されはじめる魔力の波動。
 そこにいるのは、人造魔導師として復活し、スカリエッティの協力者であったゼストで
はない。管理局の部隊長として、親友と夢を語り合い、誓い合った騎士が存在していた。
「俺は、お前を殺す」
「ほぅ、そんなこと出来るかどうかはともかく、訳を聞かせて貰いたいね?」
「俺は死んだ親友の亡骸に誓ってきた。地上を、守ると。だが、俺の残された命では、そ
れを果たせそうもない」
 人造魔導師として、ゼストは必ずしも成功した作品ではなかった。元々、最高評議会の
命令で復活させることとなった男で、適合率が高かったわけでもない。故に、ゼストは人
造魔導師として復活した時から、自分の再び得た生が、長く持つ物ではないと悟っていた。
「ならば、せめてお前だけでも……巨悪の根源であるお前だけでも殺し、地上の汚れを取
り払うまでだ!」
 限られた、残された命と時間を、ゼストはこのように使うことで、親友の想いに報いる
ことにしたようだ。
 断言されたその言葉に、スカリエッティは苦笑した。
「君の身体は、無理をしなければまだ十分生きられるはずだ。適切な処置を施せば、人並
み程度の寿命には伸ばせるし、私にはそれが出来る。にもかかわらず、残された命を私な
どに使おうというのかい?」
 呆れたように肩をすくめるスカリエッティだが、その相手をするゼストではなかった。
彼はアギトに下がるよう命じると、黒色の槍を構え直した。
 生涯最後に殺すのが、武器も持たぬ相手になるとは思わなかった。出来ればもう一度あ
の男と、ゼロと戦って、死にたかった。
 だが、これはもう決めたことなのだ。後戻りは、出来ない。

「俺の命と、最後の力……この一撃に込める!」

 ゼストが、飛んだ。

「フルドライブ!!!」

 残された最後の力を振り絞って、黒色の槍を振り上げた。あのゼロをも一撃で叩き伏せ
た、フルドライブ。戦闘機人ですらないスカリエッティなら、絶対に殺すことが出来る!

 激しい音が、大広間に響いた。ウーノと、そしてアギトの悲鳴。ゼストの雄叫びと、繰り
出された斬撃による金属音。 
 全ての戦闘は一瞬であり、そして――

 決着もまた、一瞬で付いた。

「馬鹿、な」
 声すら、出せないかと思った。ゼストが何とか絞り出したその声、その言葉は、目の前に
映し出された光景に対する驚愕。ウーノやアギトでさえ、何が起きたのか理解できず、愕然
としていた。

 スカリエッティが、手袋を嵌めた白い手で、ゼストの槍を掴んでいた。右手で鋭い刃を掴み、
左手で柄の部分を押さえ込む。まさか、受け止めたというのか、ゼストが全身全霊を込めた、
フルドライブの一撃を!?
 絶望を感じ始めるゼストに対し、スカリエッティはこう言い放った。
「愚か者が」
 スカリエッティの右手が、黒色の槍の刃を――砕いた。

                                つづく



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最終更新:2008年10月06日 00:00