聖王のゆりかごとは、遥かな昔、古代ベルカ王朝に存在したといわれる伝説
の戦船である。歴代のベルカの王、つまり聖王が所有されたとする史上最強の
質量兵器、一説では聖王とその一族はこの船の中で生まれ育ち、そして死んで
いったとされる。故に、ゆりかごの名がついたのだと。

 神学者からは伝説の遺物として、考古学者は旧暦の遺産として、歴史学者に
至っては空想の産物として探し続けられてきた夢幻の存在……それが今、ミッ
ドチルダはベルカ自治領の空高く、飛翔している。
 移動する玉座、世界を幾度も破滅に導いた兵器、異名など探せばいくらもあ
るが、そんなものは今となってはどうでもいい。
「どうでもいいことなんだよ、伝説が現実として姿を見せた今となっては」
 ジェイル・スカリエッティ、数多くの学者や権力者たち、国家が追い求めな
がらも成し遂げられなかった夢を、自らの実力と才覚を持って、その手で成し
遂げた唯一の存在。
「クアットロ、管理局が管理している全ての次元世界に向かって放送を、いや、
演説を行う。ゆりかごなら、それが出来るはずだ」
 鍵となる聖王を遺伝子を、時の彼方から復活させて作り上げ、扉を開くこと
に成功した最初で最後の天才。

 その名は……

「全次元世界の諸君、まずは記憶して貰おうか。ジェイル・スカリエッティ、
夢想を現実にし、伝説を真実に変え、歴史を証明した、唯一の男の名前を、刻
み込んで貰おうか!」

 絶対なる言葉は、確かな事実。

「無知蒙昧にして、管理されることに慣れ切った諸君……今日は君たちに朗報
だ。今日、この日、この時間、この時を持って世界の歴史は変わる。新たなる
未来が、私の手によって作られるのだ」

 抗いようのない、歪んだ事象。

「愚かな無学者たちは、いつだって良識と識見を持つ、才能ある天才を迫害し
てきた。一方的に嫌い、不快がっては、その言葉に耳を貸そうともしない。否
定されることに怒り、批判されることに反発し、不愉快だという気持ちだけで
切り捨て、相手を認めようとしない!」

 訴えたいのは、心の底からの叫びか。

「何という視野の狭さ、何という精神的未熟。脳ある者の言葉から逃げ、脳な
し同士徒党を組んで、暴言、暴論、そして暴力で迫害し続ける! 嫌うなら嫌
うがいい、憎悪をするならすればいい。だがな……」

 最後の言葉、誰に伝えるべきなのか。

「私は、逃げない。何故なら、私は壊すことを恐れない。自らを否定され、批
判の声を浴びることに怯えない! 何かを創造するということは、同時に何か
を壊すことだ。創造者は破壊者でもある。にもかかわらず、満足に壊し切るこ
ともせず、常に自分を守る逃げ道を作っていく情けない輩、それこそ軽蔑に値
する俗物だ」

 つまり、それがこの男の信念。

「さぁ、刻め。創造にして破壊の天才、ジェイル・スカリエッティの名を!」



           第19話「聖王のゆりかご」


 全次元世界に向けられたジェイル・スカリエッティの演説は、恐怖を覚える
間もない衝撃によって迎えられた。
 特に聖王教会が受けた打撃は計り知れないものがあり、教会本部は騒然とし
た混乱と動揺に叩き落ちたのである。
「伝説は歴史に埋もれ、空想の産物として存在するから意味と価値があるもの
を……」
 教会騎士カリムは、空に飛び立つ聖王のゆりかごの映像を見ながら、ため息
交じりに呟いた。いち早く動揺から立ち直り、混乱する思考を正常に戻した彼
女であるが、表情は険しさを増している。
「騎士カリム、聖王のゆりかごを称する兵器は、ミッドチルダ首都クラナガン
へ向かう進路を取っています」
 認めることが出来ないのか、それともゆりかごたる確たる証拠がないからな
のか、シャッハは敢えて曖昧な表現を使った。
「スカリエッティに首都攻撃の意思があるなら、教会としては教会騎士団を動
員してこれに対処するべきだと思われますが?」
 教会騎士団とは、カリムやシャッハが所属する聖王教会固有の戦力のことで
ある。宗教組織が固有の武力を持っているのは、この世界で如何に宗教権力の
力が強いかを象徴するようなものだが、別に悪なる集団いうわけではない。教
会に関わる事件以外に動くことは稀だが、管理局とは時に協力することもあり、
関係は良好といっていい。
「本気で言っているのですか、シャッハ?」
「……と、いいますと?」
「あれは、聖王のゆりかごなのですよ。我ら聖王教会が崇拝し、信仰する聖王
の玉座。それを神聖なる信徒である騎士団が攻撃をすると? 出来るわけがな
いではありませんか」
 その言葉に、シャッハは絶句した。
 確かに、理屈としてはカリムの言っていることは正しい。自分たちは聖王を
信仰対象とする聖王教の、その集まりである聖王教会の人間なのだ。教会に属
する騎士団が持つ剣は、聖王を敬うために掲げられ、聖王の敵を排除するため
に振るわれる。少なくとも、教義と理念にはそのように書かれている。
「伝説が本当ならば、聖王のゆりかごには聖王が乗っているはずです。我々に
は、聖王にひざまずくことは出来ても、剣を向けることなど……不可能なので
すよ」
 騎士団がその剣の切っ先を聖王に向けることなどあってはいけない、あり得
ないことなのだ。
「しかし、それではスカリエッティが聖王のゆりかごを操りクラナガンを攻撃、
壊滅させるのを黙って見ていろと仰るのですか!」
 強い憤りを覚えてシャッハは叫ぶが、対するカリムの声は冷たかった。
「どうせ、私たちが行動を起こそうとしても、すぐに教皇たちが止めますよ。
そうすれば我々は内部抗争に突入し、悪くすれば教会は空中分解です」
 自虐的なカリムの言葉は、時を置かずして現実のものとなった。教皇の署名
が入った文書を枢機卿が読み上げ、大司教が発布する。聖王のゆりかごへの手
出しを禁じ、教会内にてこの問題への干渉と言及を不可とする。対応、対処は
全て時空管理局に任せるのだ、と。
「そんな……」
 失望に打ちのめされる、シャッハの若い横顔を、カリムは見つめた。
「これが、聖王教会というものですよ」
 悔しさを忘れた人間にできるのは、諦めることだけ。自嘲するカリムである
が、そんな彼女の元に、一通の通信が届いた。
「はい?」
 音声のみの通信、しかし、カリムはその声に顔色を変えた。
「あなた、どうして……なんで!?」
 シャッハが、その光景を不思議そうに見つめている。通信は、僅か数分だっ
た。困惑した表情を始終浮かべるカリムであったが、何事かに納得したように
頷くと、
「わかりました。管理局へは私が話を通します。その後は、全てあなたに任せ
ます」
 そう言って、通信を切った。
「騎士カリム……今のは、誰から?」
 尋ねるシャッハに、カリムは無言で窓辺へと視線を向けた。
 それは、とても遠い場所を眺めているような目だった。
「ねぇ、シャッハ。宗教とは、なんなのでしょうね」
「はい?」
「本来なら、聖王教会が責任を取らねばならないことを他者に委ね、他者が傷
つくことを傍観している私たちに、正しさは存在するのかしら」
 しかし、それが宗教に身を置く、依存する人間たちの定めなのだろう。

「後は、信じるしかありません。あの子を、あの人たちを――」


 聖王のゆりかご、その最初の砲火が降り注いだのは、ベルカ自治領でもなけ
ればミッドチルダ首都クラナガンでもない。
 臨海第8空港、スカリエッティの送り込んだガジェット部隊と、管理局の武
装隊が戦う戦場である。
 突然の砲火に、一体何人が反応できたのだろか? 空戦を繰り広げていたな
のはやフェイト、キャロの力を借り得て現場を離脱しようとしていたティアナ
とスバルはまだしも、地上にて激戦を繰り広げていた多くの隊員が、たった一
発の砲火で吹き飛んだ。

 ガジェットともに、跡形もなく。

「酷すぎる……なんてことを!」
 空港を消滅させた砲火に、フェイトは震える声で言葉を発した。スカリエッ
ティの演説は、彼女も映像付きで見ることが出来た。
「創造者であり破壊者か、大きく出たね」
 圧倒的な破壊力に僅かな冷や汗を感じながらも、なのはは何とか精神の均衡
を保っていた。
 古代から、革命家は今ある歴史を壊し、そこに新たな歴史を創造するもので
ある。スカリエッティは、革命を行いたいのだろうか? 現在のミッドチルダ
を壊し、自分の楽園でも作り上げるというのか。
「夢が現実に……か。昔さ、どっかの作家がこんなことを言ってよ。『現実を
夢で済ませるという終わり方は、現実に目を向けられない、現実から逃げ続け
る者の取る選択肢である。どんな凄惨な話も、夢であるとした途端に笑い話と
なってしまう。その馬鹿げた結末に笑えるならまだいいが、真面目に読んでき
た人間は馬鹿にされたと思うだろう』って。要約すると、夢とか嘘で話を終わ
らせるのは才能のない奴だって言いたいんだろうけど」
 嘘をつくのは簡単だ。どんなに長ったらしい文章も、口上も、その全容がい
かに優れており、説得力があろうと、最後に「これは嘘である」と付け加えれ
ば嘘になってしまう。嘘をつくことに必要なのは、勇気ではない。平然とそれ
を行える羞恥心の欠如だ。勇気はむしろ、最後まで成し遂げるのに必要なのだ。
「自分は恥知らずにはならない、とでも言いたいのかな」
 あるいは、創造者たる資格を持つ者は、破壊者としての汚名を甘受出来る存
在なのだと、スカリエッティは自らの行いを持って証明しようとしているので
はないだろうか?
「でも、夢や嘘で終わって欲しいこともあるよ」
「それがないから、現実なんだよ」
 フェイトの言葉を軽く流し、なのはは遥か遠くの空を見つめている。
「ま、黙ってスカリエッティが征服者になるのを見過ごすわけにもいかないけ
どね」
 創造も破壊も、それが嫌だから人々は否定し、批判するのだ。どんな巧言を
吐こうと、スカリエッティはこの世界にとっては征服者で、他の世界にとって
は侵略者にしかならないのだ。

 戦いに勝利し、全てを従わせでもしない限り。

「さて、偉大な天才が創造物を完成させるのが先か、私たちが潰えさせるのが
先か……下も無事みたいだし、反逆の準備と行こうか」
「あ、そうだ、ゼロは!?」


 地上にいたゼロとナンバーズの姉妹らは、ゆりかごから放たれた砲火に直撃
した。元々、彼らを狙って撃たれたものであるから当然なのだが、それを防ぎ
切ることが出来たのは、奇跡なのだろうか?

 いや、奇跡などではない。

「生きてる、の……?」
 セインの呟きとともに、全員が目を開けた。
 緑色の結界が、ゼロたちを包んでいる。閃光の術師、オットーが張ったもの
である。レイストームによる小規模だが最硬度を誇る結界は、ゆりかごの砲火
からゼロを含め、ナンバーズ全員を守った。

 しかし、その代償は決して小さいものではなかった。

「オットー!」
 ふいに結界が消え、崩れ落ちるオットーの身体をディードが支えた。
「さすがに、これは……きついものがあるね」
 青ざめきった顔で、オットーが呟いた。艦砲射撃を防御するなど、並大抵の
業ではない。機能回復をしたばかりの、病み上がりの体を無理やり動かしたも
のの、ろくな体力や気力を持ち合わせていなかったオットーは、自身の生命力
を使う以外に防ぐ手立てを持ち合わせていなかった。
 そして、それを使い果たした時、オットーに出来ることはもう、何もなかっ
た。
「ドクターはさっき、創造者がどうとか言ってたね。破壊の先にこそ、新たな
創造が出来ると。ディード、これでわかったろう。僕たちは所詮、あの人にと
って物なんだよ。壊しても、新しいのを作ることができる、その程度に過ぎな
いんだ」
 撃たれて、はじめて理解できるものもある。自分はいらないものだと判断さ
れた苦痛、かつてセインが味わい、今なお心にわだかまりとして残るそれを、
ディードも実感することになった。
「私は、私はどうすれば……どうすればいいんだ!」
 震える妹の頬を、オットーはそっと撫でた。
「戻るのも、逃げるのも、君の自由だよディード。君自身のことなのだから」
 今日まで戦闘機人として、スカリエッティの命令だけを訊いてきた彼女にと
ってそれがどれほど難しいことなのか、同じく後期完成型のオットーには良く
分かることだ。セッテなどもそうだが、後期型のナンバーズは余計な感情を排
除し、従順な、従順すぎる娘にするというコンセプトの元に作られているのだ。
発案はクアットロという話だが、これは一種の枷だろう。
「僕は、抗おうと思った……戦おうと思った。それでこの様じゃ、正しい選択
だったのかは判らない。だけど」
 あぁ、視界が薄暗くなってきた。もう、ディードの顔すら満足に見ることが
出来ないではないか。
「後悔は、していないよ。最後の最後で、僕はただの戦闘機人として終わらず
に済んだから」
「最後……?」
 身体が、重い。この選択が、例え間違ったものであったのだとしても、

「僕は、満足だ」

 オットーの身体から、全ての力が抜けた。

「……オットー? オットーッ!」
 ディードは叫ぶが、それに答える声は、どこからも発せられなかった。静か
に、しかし固く閉ざされた瞼は、開くこと辞めていた。
「ずるいよ、自分だけ……自分だけ満足して、それで!」
 オットーの身体を抱きしめながら、ディードは泣き叫んだ。セインが、どう
声を掛けるべきなのか迷いながらも近づくが、ゼロがそれを止めた。

 やがて、一頻り泣いた後、ディードはオットーを静かに地面へと横たえ、起
ち上がった。
 泣きはらした眼には、強い光が宿っている。強烈な怒りが力となり、ディー
ドを突き動かしているかのようだった。
「私は、今日までナンバーズとして、戦闘機人としてドクターに仕え、命令を
利くことに疑問を持っていなかった……持とうとしてこなかった」
 セインやウェンディなど感受性豊かな姉妹と違い、ディードにとって行動と
は受け入れることが、もっとも単純で簡単だったから。
「それも、もう終わりにしよう」
 双剣ツインブレイズに、光り輝く刀身が現れる。二刀の剣は、真っ直ぐと天
に向かって突き上げられた。
「行こう、ゆりかごに。私は、どこまでも抗ってみせる!」

 スカリエッティが作り上げ、育て上げたナンバーズが、分裂した瞬間だった。


 一方、ミッドチルダ首都クラナガンでは、突然ベルカ自治領に出現した『聖
王のゆりかご』を名乗る兵器への対応に追われていた。聖王教会からの連絡で、
それが伝説上のみに存在する、古代ベルカ王朝の最強最悪の質量兵器であるこ
と、スカリエッティの演説で彼が時空管理局及び多次元世界に宣戦布告をした
こと、両方を時空管理局地上本部は知ることになった。
「敵船は、進路をクラナガンに向けています。速度から考えて、三十分かから
ず到達するとのことです」
 副官オーリスの報告に、剛胆で知られるレジアス中将もさすがに動揺が隠せ
なかった。だが、彼は取り乱すような愚を見せず、地上本部にあって事実上の
最高司令官にして指揮官である我が身を思い出したかのように、精力的な指示
を飛ばした。
「アインへリアルを起動し、迎撃に当たらせろ。全陸士隊及び空戦部隊を市街
に結集させ、防衛線を作る。出撃可能な戦車部隊及び、ヘリ部隊も前線に投入
だ」
「市街戦を、行うつもりなのですか!?」
「市民への避難命令は、もう出しているのだろう?」
 その通りであるが、三十分足らずで終わるものではないし、第一全ての市民
を収容できるシェルターなど、クラナガンには存在しない。
「次元航行艦を一隻作る予算で、シェルターが幾つ作れるか……まあ、今更言
ってもしかたないことだな」
 今から市街の外に陣を構築したところで、間に合うわけがない。間に合った
としても、敵はあの巨大質量だ。市街への侵入を阻むことなど、地上本部の力
では不可能だ。
「海の連中に増援要請を行え」
 その言葉に、オーリスではなくレジアスの若い秘書官が驚きの反応を示した。
淡い桃色の髪をした彼女は、常日頃から彼が海を嫌い、愚痴を言っていること
を知っていたからだ。
「閣下、よろしいのですか?」
 思わず聞いてしまったが、レジアスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「仕方あるまい、地上の危機だ。対面や面子など、気にしていられるか!」
 レジアス・ゲイズという男に美徳があるのだとすれば、彼の行動理念が地上
の正義と平和、安定にのみ注がれていたことだろう。多少汚い言動や、乱暴な
やり方、裏取引などが非難の対象となる彼だが、それでも地上を守ることに余
念はないという彼の姿勢を、市民は買ったのだ。だから英雄として認め、誇り、
称えた。

 しかし、そんなレジアスの英雄としての道は……今日、終結する。


 その頃、聖王のゆりかごは、地上本部の予想を遙かに超えるスピードでミッ
ドチルダ首都クラナガンへと迫っていた。次元航行艦よりも遥に大きな質量を
有していながら、途方もない速度である。
 だが、スカリエッティは少々不満げだった。
「飛行速度は良い、砲門の威力も完璧だ。なのに、どうして上昇速度が上がら
ない!」
 聖王のゆりかごは、その恐るべき機能の一つとして、衛星軌道上まで上昇す
ることで二つの月の魔力を得られるというものがある。これによって尽きるこ
とのない膨大な魔力をゆりかごは有し、鉄壁、いや、絶壁の守りと、最強の攻
撃力を手に入れるのだ。
「この質量で次元航行、さらに次元間攻撃を行える事実が、かつて聖王が幾度
となくあらゆる世界を破滅に導いてきた証拠だというのに……それが出来ない
とは」
 さすがに、ついさっきまで遥か地中の奥深くに埋まっていた古代兵器、用意
した聖王の鍵との相性は良かったのだが、思うように出力が上がらないのだ。
こうしている間に、敵に反撃の一手を取られたら元も子もない。
「次元航行艦隊に関しては手を打ってあるが、地上部隊の展開は早い。レジア
ス中将は、噂に違わぬ勇将らしい」
 彼も、まさか自身と取引のあったスカリエッティが宣戦布告を行うなど、思
っても見なかっただろう。彼だけではない、彼の後ろに存在し、あらゆるもの
を管理し、操れると思い込んでいる連中もまた……
『ドクター、出力調整までまだしばらく時間が掛かりますけど、どうします?』
 制御室にいるクアットロが、集結しつつある地上部隊の大軍を目にしながら
問いかけてきた。
「そうだな、ゆりかごの力がどれほどのものか、彼らにはその身で味わって貰
おうか。抵抗はするだけ無駄だという絶望を、すぐに憶えるさ」
 言うと、スカリエッティはゆりかごの外で待機をしているルーテシアにも回
線を繋いだ。
「ルーテシア? 君にも頼めるかな。怖いお兄さん、おじさんたちを君の力で
懲らしめてやってくれ」
『……ドクターより怖い人なんて、いるの?』
「おやおや、私は怖いかな? これでも、君には優しくしてるつもりなんだが」
 スカリエッティの言葉に、ルーテシアは少しだけ考えるような仕草をしたが、
『そうだね、ドクターは私には優しいね。わかった、手伝ってあげる』
 ルーテシアなりの、皮肉だった。彼女は、スカリエッティが次々にナンバー
ズを切り捨てていることに苦言を呈しているのだ。思わず苦笑するスカリエッ
ティが、それを改めるかどうかは、本人にすら判らなかった。彼は、近くに立
って事態を静観をしているギンガとゼストに振り返った。
「君たちも、手が空いていて動けるようなら、ルーテシアに協力してやってく
れ」
「地上への破壊行為に、手を貸せというのか?」
「計画の一旦は、君にも話していたはずだ。それを承知の上で、今日まで付き
合ってくれたのと思っていたのだが? 協力者の騎士ゼスト」
 不快感を示すゼストに、スカリエッティは平然と言い放った。事実であるか
ら言い返せないし、自分の目的の為に彼を利用してきた一面もあるため、ゼス
トはかなり複雑そうであった。
「ねぇ、ドクター、質問があるんだけど」
「何かな、ギンガ?」
 片手を上げて質問するギンガに、スカリエッティは薄い笑みを向ける。今度
は、一体どんな面白いことをしでかしてくれるのか。スカリエッティにとって、
ギンガは予測不能な刺激物のようなものだった。
「大将首を取ってきたら、何かご褒美でもくれる?」



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最終更新:2008年10月01日 20:42