魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第10話

次元世界

二人の騎士の技が激突し砂漠の大地に巨大なクレーターを作って尚、騎士達の剣舞は続いていた。
互いに魔力を大幅に使い切った今、残る攻撃手段は己の剣による剣術のみ。
砂を踏みしめる音、互いの剣がぶつかり合う音、バリアジャケットが切り裂かれる音、
甲冑が火花と共に削れる音、そして
「はぁああああ!!!」
「おぉおおおおおお!!!」
互いの叫び声が響き渡る。

「「っ!!」」
互いに一撃を見舞おうとした斬撃を、互いの剣で防いだ後、二人は後ろへと飛び、
剣を構えなおすと同時に、互いの様子を伺う。
先ほどまで響き渡っていた金属が激しく叩きつけられる音、互いの叫び声は聞こえなくなり、
変わりに吹き荒れる風の音、そして互いの荒い息遣いが聞こえる。

「(・・・・強いな・・・・・)」
レヴァンティンを構えなおすと同時に、荒くなった呼吸を整えながら、数メートル先で、
自分と同じ事をしているナイトガンダムを見据える。

あの騎士と剣を交えてから数十分が経過してる。だが、互いに決定打を与える事はできず、
ただ時間と体力と魔力を消費し、ダメージに関しても相手の鎧を傷つけるだけに終っている。
いや、ダメージなら自分の方がが大きい。
主であるはやてが戦う事を拒み、自分達が戦う必要が無いという事で与えてくれた甲冑とは違う戦闘服。
動きに関しては問題ないが、防御に関しては甲冑と比べるとすこぶる悪い。
それを証明するかのように、傷つけられた騎士服からは肌が露出しており、そこからは多少なりとも血が出ている。
正に主の優しさが仇となったと言っても間違いではない。だが、シグナムはその様な考えは微塵も持ち合わせてはいなかった。
むしろ申し訳なく思っている。主が与えてくれた騎士服を傷つけてしまった事に。

「(剣術はほぼ互角・・・・・だが、所々で使ってくる強化魔法が厄介だな・・・・その上向こうには盾があるから
防御に関しても分がある・・・・・どの道時間をかけ過ぎた、早めに決めないと・・・・まずいな)」

「(・・・・強い)」
剣を構えなおすと同時に、荒くなった呼吸を整えながら、数メートル先で、
自分と同じ事をしているシグナムを見据える。

あの騎士と剣を交えてから数十分が経過している。だが、互いに決定打を与える事はできず、
ただ時間と体力と魔力を消費し、ダメージに関しても相手の服を傷つけるだけに終っている。
だが、浅いとは言え、剣の直撃を受けた回数は自分の方が多い。
それに比べてダメージが少ないのは自身の鎧の耐久性と盾のおかげ。
戦闘に関しても、所々で使用している強化魔法でのゴリ押しで誤魔化しているに過ぎない。
「(剣の腕は互角・・・・・だが、スピードは多少なりと向こうに部がある・・いや、何よりリーチの差が一番の問題点か。
強化魔法での誤魔化しも魔力的にそろそろ限界・・・・・時間も思った以上にかけ過ぎた、早めに決めないと・・・まずいな)」
一瞬、脳裏に三種の神器が過ぎったが、その考えを直に捨てる。
サタンガンダムとの戦いで身を持って知った。あの武具は今の自分には過ぎた力だったと。
あの時は仲間を守るために、悪を倒すために我武者羅になって使った。
だが結果は有り余る力に自身の体が持たず、奴の最後の魔法を受けるという失態を晒してしまった。
「(修行不足という事か・・・・・まぁ、無いものねだりをしてる暇など無い)」

こちらの世界『地球』に飛ばされた時に、石版も再び二つに砕け、その内の一つが未だに見つからない。
だが、ナイトガンダムは石版の行方に関してはあまり関心は無かった。
確かに石版は強大な力を与えてくれるが、それは石版が選んだ者のみ。仮にその様は人物が現われても、
欠けた石版ではただの石の固まりと同じ、全く意味が無い。
だからこそ、彼は石版の捜索を率先して行わなかった。

「「(あの騎士、シグナム(ガンダム)も勝負を仕掛けてくるはず」」

「(ソーラ・レイ・・・・・時間が稼げれば・・・・・)」

「(シュツルムファルケン・・・・・・当てられるか・・・・・)」

互いに決め手を考えながらも、構えを変えずに互いを見据える。そして
二人の騎士は時間を稼ぐため、隙を作るため、再び剣舞を再開させる。だが、


                  「そこまでにしてもらおう」


互いが地面を蹴った直後に響き渡る声、二人は直に反応し、踏み込みを中断する。
「っ!誰だ!!」
直に辺りを見回したが、姿が見つからないため、シグナムは大声で声の主に向かって叫ぶ。
その声には剣舞を中断された事への怒りが含まれており、並みの相手ならそれだけで戦意が喪失するほど、だが
「ふっ・・・・・・そう大声を出すな・・・・・」
声の主は、微動だにせずに上空から、二人の間に降りたった。
「(・・・何者だ?)」
体系からして男、だが、仮面を被っているため正体は全く分からない。
一瞬シグナムの仲間かと思ったが、彼女の態度からして違う事は直に分かった。
無論自分も、このような男は知らない。
管理局の武装局員かと思ったが、仮にそうなら自分に何か言って来る筈。その可能背は低い。
「何者ですが・・・・・貴方は・・・・・」
正体が分からない以上、警戒をするに越した事は無い。
再び剣を構えなおしたナイトガンダムは、多少強い口調で目の前の男に尋ねる。
すると男は、ゆっくりとナイトガンダムの方へと体を向け、
「はじめまして・・・・・・異世界の騎士」
胸に手を当て、恭しく頭を垂れる。そして
「さっそくだが・・・・・・剣を収めてもらおう」
ナイトガンダムのみに、剣を収めるように言い放った。
「(っ!彼女達の仲間か?)・・・・・すまないが、それは出来ない・・・」

静かに否定の言葉を呟きながらも、内心では湧き出る焦りを隠すので精一杯だった。
仲間ではないにしろ、この男に見覚えがあるのだろうか、先ほどからシグナムは黙って行方を見守っている。
それだけなら、自分と同じく様子見をしているだけと考えられるが、仮面の男は自分にのみ剣を収めるように言った。
シグナムの様子から彼女の仲間ではない事は予測できた。だが、自分に敵意があることは予測ではなく確定と言っても言い。
そうなると、この疲弊している状態で二人の手誰と戦わなければならないことになる。
正に絶体絶命、だが剣を収め、投降する気など微塵もない。


「・・・成程。だが、これを見ても同じ事が言えるか?」
そんなナイトガンダムの様子を予期していたのか、仮面の男は不意に右腕を開け、指を鳴らす。
すると男の真上に転送魔法陣が出現する。そして

               「フェイト!(テスタロッサ!!)」

転送魔法陣からゆっくりと出現したのは、ガラスのような透明な正四角錐、『クリスタルゲージ』に閉じ込められたフェイトだった。
気絶しているのか、目を閉じグッタリとしており、こちらの呼びかけには全く反応も無い。
「っ、人質か!!」
「見ての通りだ・・・・もし断るのなら・・・・・こうだ」
仮面の男の言葉に反応したかのように、クリスタルゲージはゆっくりと縮まり、中にいるフェイトを押しつぶさんとする。
その光景に、ナイトガンダムは無論、様子をうかがっていたシグナムも、顔を険しくし、仮面の男に切りかかろうとする。だが、
「やめといたほうが良い・・・・・今の疲弊してるお前達では、私に刃を振り下ろす頃には、あの少女はただの潰れた肉片になっているのがオチだ」
かわらない静かな口調。だが二人には明らかな自信が現れている事がありありと理解できた。
「卑怯者が!!」
シグナムは大声で仮面の男を罵った後、隠す事無く顔を顰め剣を下ろす。
ナイトガンダムは一度仮面の男をにらみつけた後、剣を盾にしまい、砂の大地に放り投げた。
「・・・良い判断だ・・・・では」
今度は誰にでも分かるほどに満足げに呟いた仮面の男は、手品の様に高々と上げた右腕からナイトガンダムに見えるようにカードを出現させ、
直にまた消す。その直後、ナイトガンダムの回りに光りの輪が出現し、彼を縛り付けた。
「・・・・・・さて、次はお前だ」
ナイトガンダムが拘束されたのを確信した仮面の男は、ゆっくりと体をシグナムの方に向ける。
あの時はシャマルを助け、今は外道な手段ではあるが、宿敵である騎士ガンダムを取り押さえた相手。
無論、このような男など知らないが、行動からするに自分達に利を与えてくれている。だが、やり方が気に食わない。
「・・・貴様の目的は知らんが・・・・・やり方が気に食わんな・・・・・・」
「やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?」
何もかも知っているような口ぶりに、シグナムは歯を食いしばり仮面の男をにらみつける。
確かに、今の自分の台詞は事態を知っている者から見れば滑稽という言葉がお似合いだろう。
自分達は一刻も早く闇の書を完成させなければならない。それこそ手段を選んではいられないほど。
だからこそ『卑怯』『汚い』そう言われる行為も率先してやらなければならない。
だが、自分の中の騎士としての誇りが、それらの行動を自然と制限していた。

「ふっ、プログラム風情が騎士道精神に忠実とはな・・・・・・・・まぁいい。先ずは受取れ」
仮面の男は此処に現れてから握られたままの左腕をシグナムに向けて突き出す。
身構えるシグナムを無視し、ゆっくりと掌を開く。そこには黄金色に輝く魔力の光、フェイトから抜き取ったリンカーコアが光り輝いていた。
「さぁ・・・・・奪え・・・・・」

目の前には高魔力のリンカーコアがある。もし収集すれば20ページ以上は稼げるだろう。
まさに絶好のチャンス。だが、シグナムは迷った。これで良いのかと。このような手段で手に入れてもいいのかと

      『やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?』

否、今という時にその様な考えはあの男の言う通り滑稽だ。
自分達は主であるはやての願いを踏みにじり行動している。そんな自分達が己の誇りや騎士道精神にすがり付いているなど、自分勝手にも程がある。
俯き、拳を力の限り握り締める。あまりの強さに血が滴り落ちるが、今は痛みを感じる事など出来なかった。
そしてゆっくりと顔を上げ、仮面の男ではなく、拘束されているナイトガンダムを正面から見据える。迷いの無い瞳で。
「言い訳をする気は無い・・・・軽蔑をしても良い・・・・罵ってくれても言い・・・・すまない。闇の書」
シグナムの声に反応し、彼女の右肩の付近に闇の書が突如出現する。そして仮面の男が握っているフェイトのリンカーコアから、魔力を吸収し始めた。
瞬く間にページに文字が刻まれ、中身を埋めてゆく。そして23ページ目の途中で文字の刻みは終了し、闇の書も再び何処かへと消えていった。
「・・・・・なぜ、全て奪わない・・・・以前の貴様達なら顔色一つ買えずに実行していただろう?」
「確かに、貴様の言う通り、我々には時間が無い・・・・・迷う私を滑稽と罵ったのも間違いではない。
だが、これ以上主の願いを踏みにじる事は出来ん・・・・・・・」

今までは人に限ってはリンカーコアを丸ごと奪うのではなく、蓄積されている魔力を奪う事で闇の書のページを埋めていた。
それならば、ページも埋まり、リンカーコア消失によるショック死で相手も死ぬ事はない。
主であるはやての未来を人殺しという汚名で汚さずに済む。彼女の未来を血で汚さずに済む。

「だからだ、残ったリンカーコアはテスタロッサに返してくれ・・・・・・頼む」
「・・・・彼女なら仮にリンカーコアを抜かれても死ぬ事は無い。邪魔な芽は機会がある内に積んでおく方が得策だと(返せといった!!」
射殺さん勢いで睨みつけながら言い放つシグナムに、仮面の男は一度わざとらしく溜息を吐いた後、
小さくなったリンカーコアを上空で囚われているフェイト目掛けて放り投げる。
ボールの様に放り投げられたリンカーコアは、フェイトを閉じ込めているクリスタルゲージをすり抜け、彼女の体に収まった。
「・・・・さて、次はあの騎士だ。彼女ほどではないが、高い魔力を秘めている・・・・・ああ、そうだったな」
何かを思い出したかのように頷いた仮面の男は再び体を拘束されているナイトガンダムの方へと体を向ける。そして
既に下ろしていた右腕を再び肩の高さまであげ、掌を向けると同時に足元にミッド式の魔法陣を展開、魔力を収束させ、
「弱らせた方が・・・・収集はしやすいのだったな・・・・」
拘束されているナイトガンダム目掛けて収束砲を放った。
ナイトガンダムは仮面の男によって体を拘束されている。だが、体を縛られているだけであって地面に縛り付けられているわけではない。
そして体系からか、拘束されているのは腕のみであり、両足の自由は利く。だからこそ避ける事も出来る、だが

    『やめといたほうが良い・・・・・今の疲弊してるお前達では、私に刃を振り下ろす頃には、あの少女はただの潰れた肉片になっているのがオチだ』

今はフェイトが人質に取られている。もし、自分がおかしな行動をしたら、あの仮面の男はフェイトに何をするか分からない。
ならばやる事は一つ。奴が望んでいる事を行えば良い。

仮面の男が放った砲撃は何の抵抗もせず、ただじっと立ち尽くしていたナイトガンダムに直撃した。
着弾による爆発の後、立ち込める爆煙から吐き出されるようにナイトガンダムは吹き飛び、砂の大地に叩きつけられる。
「利口だな・・・人質の事をちゃんと理解している。これで十分だろう・・・・・さぁ、奪え・・・・・・」

あの砲撃を正面から受けて尚、あの騎士はゆっくりとではあるが立ち上がり、自分を睨みつけてる。
だが、そんな威嚇など問題ではない。奴のリンカーコアを奪えば闇の書のページは更に埋まり完成に近づく。
本当なら自分があの小さな魔道師の様にリンカーコアを抜き取っても良かったのだが、あの守護騎士の態度がどうにも気に入らない。
プログラム風情が騎士道精神や誇りなど、馬鹿馬鹿しいとしか思えない。
だからこそ奴にやらせる。武器も持たず拘束され、傷つき、人質まで取られている相手を攻撃するなど、
騎士道精神や誇りなどに酔いしれている奴には耐え難い屈辱だろう。
「(だが、そんな屈辱も・・・・・直に感じなくなる・・・・・・永遠にな)」
今は闇の書を完成させるために強力してやろう。だが、時期が来ればお前達も餌となる。そして貴様が慕っている主も・・・・・

                     「(そう、全ては父様のために)」


今仮面の男はナイトガンダムの方に体を向けている。だからこそ気が付かなかった、シグナムの表情が怒りを通り越して冷めている事に。
「・・・レヴァンティン・・・・」『Schlangeform 』
レヴァンティンに残ったカートリッジをロードし、レヴァンティンをシュランゲフォルムへと変形させ、拘束されたナイトガンダム目掛けて振るった。
鞭状連結刃となった刃は凄まじいスピードでナイトガンダムに迫る。
二人の間にいる仮面の男を通りすぎたレヴァンティンは、目を閉じ、立ち尽くしているナイトガンダムに容赦なく直撃した。
刃と鎧がぶつかり、激しい金属音が響き渡る。

「ふっ、所詮プログラム風情の誇りなど、目の前の餌には勝てぬほど薄っぺらいもの」
ナイトガンダムがレヴァンティンの餌食になる光景を仮面の男は満足げに見ていた。心の中でシグナムを貶しながら。
これであの騎士は完全に戦闘不能、奴から魔力を収集すれば今回の任務は完了する。
だが今回は、臨時ボーナスとしてあの騎士のプライドをズタズタにしてやることが出来た。対した実りではないが、満足感なら断然こちらの方が大きい。
後はこの少女を此処へ放置し撤退すればいいだけ。全ては上手くいった・・・・・・かに見えた。

仮面の男が異変に気が付いたのは、ナイトガンダムを攻撃した鞭状連結刃が、シグナムの元には戻らず、上空へと上がった事だった。
だが直に理解できた。おそらくあの守護騎士は上空で囚われているフェイト・テスタロッサを助けるつもりなのだろう。
「(まぁ、いいさ・・・・・好きにするが良い・・・)」
この少女の人質としての価値は無い。今更手元にいなくなろうがどうという事はない。もう作戦は成功したからだ。

ふと、仮面の男は後ろでレヴァンティンを振るっているシグナムの表情が見たくなった。
おそらく・・・いや、ほぼ確実に屈辱に打ちひしがれた顔をしているに違いない。自分自身で誇りを踏みにじったのだ、
悔し涙を流しているかもしれない。それを考えると愉快で仕方が無い。
早速確かめるために、仮面の男はシグナムの方へと顔を向ける。
だが、これらの作戦を計画通りに遂行していた仮面の男の推測は、此処に来てはじめて外れた。
シグナムの表情は、予想していたものとは違った。屈辱に打ちひしがれているわけでもなく、獰猛に微笑んでいたからだ。
同時に背中から突如発生した魔力反応。仮面の男は咄嗟に後ろを向く、そこには
「騎士・・・・・ガンダムだと!!?」
奴は確かにレヴァンティンの直撃を受け行動不能になった筈、だが、実際は行動不能にはなっておらずに
自分目掛けて突撃している。
「・・・・・奴め、バインドのみを斬り裂いたのか」
良く考えれば不審な点は幾つもあった。

なぜ、あの守護騎士は普通に斬りかからずに鞭状連結刃という面倒な武器を使ったのか。
ナイトガンダムは拘束され、ダメージも負っている。
そんな相手にカートリッジを無駄使いするほど、奴らは備蓄しているとは思えない。
普通に近づき、剣を叩きつける・・・・いや、ダメージを負っている以上ただ収集すれば良い。

そして鞭状連結刃が直撃した時に聞こえたのは金属音のみ、音からして奴の鎧に当たっただけにすぎない。
もし普段の自分だったらそんな事など気付いていただろう。だが、自分は少なからず作戦の成功に酔いしれていた。
完璧に事が運んだと信じきっていた。その油断が、今の状況を作り出してしまった。


「ホバー!!」
仮面の男がシグナムの方へと体を向けた瞬間、ナイトガンダムは体を起こすと同時に強化魔法で自身のスピードを上げ、
投げ捨てた盾の所へと向かう。
彼には確信があった。シグナムが自分を攻撃しないという確信が。確かに自分の魔力が目的だろう。そして自分が拘束されている今は正に絶好の機会。
だが、主に忠誠を誓っているとは言え彼女も騎士、拘束され、人質を取られ、ダメージを負っている自分を堂々と攻撃できるとは思えない。
フェイトの魔力を奪った時の彼女の表情から感じ取れた。彼女は苦しんでいる。自身の騎士道精神や誇りと主への忠誠心に。
ならば答えようと思う。フェイトを助けた後、再び一対一で剣を交える事で。
無論負けるつもりは無い、だが堂々と自分を打ちのめし手に入れた魔力なら彼女も満足はする筈。だからこそ
「だからこそ、先ずは貴様を倒す!!」
仮面の男はようやくナイトガンダムの存在に気付き、咄嗟に右腕を翳し直に撃てる魔力弾を連射、弾幕を張る。
だが、その魔力弾をナイトガンダムは高速移動しながらも全て避けきり、砂の大地に置かれている盾の元へと到着、収まっている剣の柄を掴み、
「はぁあああああ!!!」
力の限り横薙ぎに振るった。力の限り振るったたため、盾が遠心力により剣から離れ吹き飛ぶ。
剣から離れた盾は、振るったときの遠心力も加わり、一つの回転する鉄の固まりとなって仮面の男に迫る。
「ふっ、何かと思えば?」
ナイトガンダムが接近して来た時はさすがに焦ったが、その後の攻撃方法は正に幼稚、
自分にそんなあてずっぽうな攻撃が聞くと思っているのだろうか?
それを証明するかのように空いている左腕で、迫り来る盾を難無く払い落とす。その直後

              魔力刃が仮面の男に直撃し、豪快に吹き飛ばした。

ナイトガンダムは、盾が防がれる事は承知していた。いや、そもそも盾は攻撃手段ではなかった。
本当の攻撃手段は剣を振るうことで発生させる魔力刃『ムービーサーベ』、振り投げた盾はただの囮に過ぎない。
咄嗟に考えた戦法だが、見事に通用した。
「・・・・・貴様・・・・・」
仮面の男は怒りで声を震わせながらゆっくりと起き上がる。直にでもあの騎士に報いを与えてやりたい。
だが、不意打ちで受けた攻撃が思った以上のダメージを自分に与えている。
それが原因なのか、自身に施した強化魔法と変身魔法も維持するのが難しくなってきている。
あの騎士はクロノ達と顔見知りなのは調査で把握している。この一件が進むにつれ、否が応でも本来の姿である自分と顔を合わせる可能性が高い。
だからこそ、此処で自分の素顔を知られるのはマズイ。
「まぁ・・いいさ・・・・目的は・・・・・・達成された」
仮面の中でほくそ笑んだ男は、足元に転送魔法陣を展開、ナイトガンダムが斬りかかるより早く、その場から撤退した。


「撤退したか・・・・・」
周囲を念入りに確信はしたが、気配も魔力反応も自分を含め3つしか確認されない。
一度息を大きく吐いた後、正面にいるシグナムを見据える。
「安心しろ・・・・テスタロッサは気絶しているだけだ」
彼女は既に助け出したフェイトの症状を見ており、ナイトガンダムに命に別状が無い事を告げた後、彼女体を優しく砂漠の大地に横たえた。
「・・・・・・一つ聞かせて欲しい・・・・・」
フェイトの容態に心から安心した後、戦う事を放棄したかの様に剣を下ろしたナイトガンダムは、正面からシグナムを見据え尋ねる。
彼の話を聞くことにしたのだろう、黙ってはいるが、シグナムもまた、剣を構えるような事はしなかった。
「・・・・・君達が闇の書を完成させようとしている理由だ。君からは悪意が感じられない。
だが、己の誇りを汚してまで完成させようとする・・・・・何故だ?良かったら話して欲しい、協力できるかもしれない」
一時は傲慢な主に言いように使われているのではないかと思った。だが、資料で見せてもらった前回の事件とは違い、
人を殺さないで収集してる事が、その考えを否定している。そしてあの仮面の男の言葉

         『やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?』

これは完成を急いでいると考えてよい。だが、人から収集した場合はリンカーコアその物を残しておくという手間を取っている。
そう、まるで人殺しを避けているかのように・・・・否、
「・・・・・・主に・・・・殺人という汚名を着せたくないのか・・・・・・」
図星だったのだろう、シグナムの表情に明らかな驚きが現われた。
そして一度息を吐くと、観念したかの様に自嘲気味に笑いながら話しだす。
「ああ・・・・その通りだ。我々は主の未来を殺人という汚名で汚したくは無い。だが一つだけ言わせてくれ。
今回の収集は我々が勝手に行っている。主は全く関係ない・・・いや、主は私達が収集を行っていることすら知らない」
「なっ・・・・それは・・・・・・・、いや、ならば・・・・・」

シグナムの言葉をヒントとし、ナイトガンダムは咄嗟に考える。資料で見た限りでは闇の書は強大な力を主に与える。
それには他者から魔力を奪う必要があり、それらの行動をするために守護騎士達が存在する。
だが、シグナムは『主が収集のことを知らない』と確かに言った。
守護騎士である以上、彼女達が闇の書の効力を主に言わない筈がない。だからこそ主は知っている筈、強大な力が手に入ると。
それなのに、シグナム達は主に命令された所か、主に内密で収集を行っている。
これは主が闇の書の力を必要としてないと考えて良いだろう。そうすると彼女達は主の思いを無視して収集を行っていることになる。
彼女ほどの騎士だ、主の命に背いてまで行動するなど、耐え難い屈辱だろう。その屈辱を自分の意思で受け止めて尚行動するからには、
それ相応の理由がある筈・・・・・いや、考えられる可能性は殆ど無い。

「・・・・・・主に必要不可欠なのか・・・・・・闇の書の力が・・・・・・・」

それなら、今までの考えに辻褄が合う。
おそらく今回の闇の書の主は心優しい人物なのだろう。それならば、他者を犠牲にする事で手に入れる事が出来る強大な力を否定する筈、
彼女達守護騎士も戦う事などせずに、平穏に暮らしてれば良い。おそらく主もそれを望んでいた筈。
だが、その主の願いを破ってまで闇の書を完成させようとする理由、主にその力が必要不可欠だと言う事しか考えられない。
主に内密にしているのは、もし知られたら止められるから。もしそんな事になったら彼女達は本当に今度こそ行動する事が出来ないだろう。
だからこそ主に知られずに内密に行動している。

「・・・・ふっ、心を見透かされている様で・・・いい気分ではないな・・・・」
溜息を吐いた後、観念したかのようにシグナムは呟く。だが、構えを崩そうとはしなかった。
正直驚いている。僅かなヒントであの騎士は我々の目的を、思いを当てたのだから。
だが、戦う事を辞めるつもりは無い。仮に管理局に真実を話したところで、主が助かるとは思えない。
むしろ、『闇の書の主』という事でどんな扱いをされるのか、想像するだけで恐ろしくなる。
だからこそ我々は、守護騎士ヴォルケンリッターは、誰にも頼らずに収集を行う、誰にも頼らずに主を助ける。
『汚い』と罵られても、自身の誇りを踏みにじってでも。

「(・・・・・話は・・・聞いてくれそうには見えないな・・・・)」
今の彼女の瞳は、正に己の決意を再確認し、確固たる物とした力強い瞳。
己に覚悟が無い限り、このような瞳は決して出来ないだろう。
ならば、自分も受けて立つのみ、それが彼女への礼儀でもあり、思いを伝える唯一の方法。
ナイトガンダムもゆっくりと剣を構える。再び砂漠の大地に剣舞が開始されようとしたその時、
「(ガンダム!ガンダム!!)」
ナイトガンダムの頭の中に聞き覚えのある声が響き渡る。その声がアルフだということ気が付くにはそう時間は掛からなかった。
構えを崩さず、シグナムからを話す事無く念話に答える。
「(アルフか?)」
「(ああ、今そっちに向かう、あの犬っコロはバインドで何重にもふん縛っておいたから暫らくは動けない筈さ、そっちはどうだい!?)」
「(・・・・・・・・すまない、戦いの最中にフェイトを人質に取った未確認の敵と戦う事になり、その敵と守護騎士には逃げられてしまった。
フェイトは命に別状は無いがリンカーコアから魔力を奪われ体力の消耗も激しい、至急救援の手配を頼む)」
『フェイトを人質に取った』という言葉に目に見えてアルフは慌てたが、主人を救いたいという気持ちが彼女を突き動かした。
簡潔に今の場所を聞いた後、力強く返事をし念話を切る。
「救援か・・・・・どうやら運はお前に味方したようだな・・・・」
シグナムの言葉に、ナイトガンダムは目に見えて驚きを露にする。
一瞬会話内用を口に出してしまったのではないかと思ってしまう。
「どうやら思念通話・・・・念話が使えるようになったのは最近らしいな。素人が使う場合は盗聴されやすい、気をつけることだな。
だがどう言う事だ?私が逃げたというのは?」
念話を盗聴されたのは純粋な失敗だった。使い方のみを聞き、注意事項を聞かなかった自分を責めたい気分になる。
だが、今回に関しては説明の手間が省けたので良しとしようと思う。
「(このような場合・・・・確かアリサが言っていたな・・・『結果オーライ』と)聞こえていたのなら話しは早い。
どうか我々を見逃して欲しい」
戦闘の意思がない事を証明するため、持っていた剣を静かに地面に置く。
「・・・どういうことだ?貴様の仲間が来れば形勢は逆転する。なぜその様な事を言う?」
「私にはもう、戦闘を出来るほどの体力も魔力も残ってはいない。仮に戦っても数分と持たないだろう。
だがそれは君も同じ。仮に私が勝てなくても、足止めを、もしそれすら出来なくても更に体力を消費させる事が出来る。
そうなれば貴方も逃げ切れる事が難しくなる筈・・・・・違うか?」
彼の言い分は半分は当たっている。確かにこのまま戦えば、自分は逃げ切る事が難しくなる。
だが他は違う。先ずはナイトガンダムの状態、確かに体力も魔力も消費はしているが、数分と持たないという事はありえない。
足止めや時間稼ぎは無論、自分が負ける可能性もある。
なのになぜナイトガンダムは嘘をついたのか。同情?情け?いや違う。
「・・・・・テスタロッサを助けた礼か・・・・・」
「それもある。だがこの勝負、邪魔が入ったため互いが全力を出し切る事無く、未完で終ってしまった。
だからこそ再び剣を交えたい。全力で・・・死力を尽くして」
地面に置いた剣を再び広い、切っ先をシグナムに向ける。
「今回は重要な情報を引き出すことが出来たが、それは私の推測が正しかったにすぎない。だからこそ、
今度は勝負に勝ち、本当のことを、君の口から聞きたい」
目の前の騎士に、シグナムは純粋に好意を抱いた。同時に残念に思う。
もし、今の立場が味方同士だったら、自分達はよい友に、良い好敵手になっていたに違いないと。
「ああ、良かろう、騎士ガンダム!!再び剣を交えよう!正々堂々と!!力の限りに!!!」
シグナムもまた、レヴァンティンの切っ先をナイトガンダムに向ける。互いの剣が自然とぶつかり合い交差する。
騎士として、互いの再戦を誓い合うために。

シグナムが転移した事を確認したナイトガンダムは、フェイトの様子を見るため近づこうとするが、突然の立ち眩みに襲われ、
足をもつれさせ転倒してしまう。いや、これは立ち眩みなどではなかった。
「・・・・・・思った以上に・・・ダメージが・・・大きかったな・・・・・」
先ほどまでは、自然と気を張り詰めていたため普通に会話や行動をする事ができたのだろう。だが、
今はシグナムも、仮面の騎士も撤退し、救援ももう直到着する。そんな安心感が支配した瞬間、体は正直になった。
どうにか力を振り絞り顔を上げる。目もかすんでよく見えないがぼんやりと見える人影、
自分の名を必至に呼んでいる事から、おそらくはアルフだろう。
その救援が到着したという更なる安心感が彼を襲い、意識を奪っていった。


24時間後

アースラ内救護室

「・・・・・ん、ここ・・・・は・・・・・」
小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井ではなく、天上一面を覆う照明の光り。
特殊な光りなのだろうか、明るい割には目覚めたばかりの瞳が痛くなるような事は無かった。
「・・・・・ここは・・・・どこだ・・・・・」
ベッドから上半身を起こし辺りを見回す。隣には自分が寝かされているベッドと同じ物があり、
窓から見える景色は夜の様にほの暗い。
「あれは・・・・次元空間内の景色・・・・そうなると・・・・」
「此処は本局か次元航行艦の中か?」そう呟こうとした瞬間突然扉が開き、リンディが入ってきた。
「ガンダム君!!良かった・・・目が覚めたのね」
心から安心した笑みを浮かべたリンディが小走りでナイトガンダムの元へと近づき、彼の体を支える。
「ああ、すみません。リンディ殿・・・・ここは・・・・」
「ここはアースラの艦内、貴方は砂漠での戦闘でダメージを負って気絶していたのよ」
リンディの言葉を聞きながら、あの時の事を思い出す。
シグナムとの戦闘、謎の仮面の男、人質になったフェイト
「っ!フェイトは!!フェイトは無事ですか!?」
「安心して、そして落ち着いて。フェイトさんならリンカーコアを吸収された以外、怪我は無いわ。さっき目覚めたばかりよ。
むしろ貴方の方こそ大丈夫、回復魔法で傷は塞がったけど・・・・・疲れや痛みはない?」
身を乗り出しながら尋ねるナイトガンダムに、リンディは安心させるように微笑みながら彼の肩に優しく手を乗せる。
自信の落ち着きの無さを恥じると同時に、リンディの母親としての暖かさに、心が自然と癒されていく。
「・・・・いえ、大丈夫です。それに申し訳ありませんでした、取り乱してしまって」
「いいのよ、それよりお腹すいてない?何か軽い食べ物でも持ってくるわね」
笑顔で手を振り部屋空でていくリンディを、ナイトガンダムは笑顔で見送る。そして
「・・・・・大人しく待とう・・・・・話はそれからでも出来る」
再びベッドに体を横たえ、体を休める事にした。

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最終更新:2008年09月15日 22:13