ゼロとゼストが戦闘を開始した頃、ギンガが残る機動六課では更なる事件が
起こっていた。
「ガ、ガジェットの反応を確認、凄い数です!」
 悲鳴のようなシャーリーの声に、ギンガは顔色を変えた。
「まさか、ここにもガジェットを送り込むなんて」
 あるいは、六課の各部隊に対する牽制のつもりか? 普段の六課ならば、隊
長達をはじめとした豊富な戦力を有している。だが、今はそのほとんどが出払
っており、ギンガぐらいしか戦闘要員はいない。
「地上本部への増援は期待できない、なら、隊長達が戻ってくるまで持ちこた
えるしかない……魔力防壁展開、絶対防御態勢!」
 打って出る、迎え撃つ、などという選択肢は存在しない。自分はゼロや隊長
達とは違う。
 一騎当千の実力なんて持ち合わせていないし、守りに徹する以外に道はない。
「我ながら、かっこ悪いけど」
 問題は、持ちこたえられるかと言うことだ。ゼロが異変に気付き、引き返し
てくれる可能性は?
 低くはないと思うが、高いとも言えない。六課の防御システムは、悪いもの
ではないが地上本部とは比較にならないほど貧弱だ。
 そもそもここは、拠点防衛戦に対応して作られてなどいないのだ。
 必死で対策を練るギンガであったが、敵は彼女の一枚も二枚も上手をいった。
「地下に敵の反応が!」
「まさか、ガジェットが地下にも?」
「違います、これは……この反応は」
 驚愕に等しい表情を向けられたことで、相手の言わんとすることがギンガに
は理解できた。
 そして、彼女は司令室に駆けつけたシャマルに向き直った。
「ここを、防衛指揮をお願いできますか?」
「……どうするつもりなの?」
「地下に降りて、迎撃します」
 それしかなかった。敵がナンバーズであり、戦闘機人だというならば、戦え
るのは自分しかいない。
 シャマルもまた、自分が戦闘要員としては適していないことぐらい理解して
いる。
 ギンガのサポートをしたいと思っても、指揮官が司令室からいなくなるわけ
にはいかないのだ。
「でも、敵の反応は一つじゃない」
 モニターには、敵の反応を知らせる二つの光点が光っている。一対一ならま
だしも、分が悪すぎる。
 しかし、それでもギンガは決意を変えはしなかった。シャマルに背を向け、
一瞬でバリアジャケットを纏う。
「大丈夫です、私も……」
 顔だけ振り向けたその瞳は、強い光を宿している。リボルバーナックルが装
着された左の拳を握りしめ、ギンガは言う。
「私も、戦闘機人だから」


「ウォォォォォォォォッ!」
 雄叫びのような声と共に振り下ろされる槍の一撃を、セイバーの斬撃で弾き
返すゼロ。
 飛び散る火花と、舞い散る火の粉。
「どうしたゼロ、お前の力はその程度か」
 豪槍を片手で振り回す怪力もさることながら、一撃ごとの技のキレが凄まじい。
 いずれも一撃必殺の威力があり、ゼロは彼にしては珍しく守勢に回っている。
 広い空間においては、剣よりも槍のほうが武器としては真価を発揮する。
 速さで翻弄し、懐に入り込むという手もあるが……
「ぬぅんっ!」
 重い斬撃に、防御したにもかかわらずゼロは数歩後退した。
 強い、と素直に感じられる相手だ。騎士と言うより、武人や武将と言った風
格や佇まいを思わせる。
『旦那、さっさと倒さないとやばいって! 時間が』
 ゼストだってそうしたいところだが、ゼロは武器の不利を補うほどの実力を
発揮し、彼と渡り合っている。
「わかっている……わかっているさ」
 ゼロの背後に見える、管理局地上本部の巨大な建物。あそこに、あの場所に
ゼストの会わなければならない相手が、彼が残り少ない命を賭けてまでも知り
たい真実があるのだ。
 だが、ゼストは……
「アギト、衝撃加速だ!」
 瞬間、ゼストの槍に纏われていた炎が消し飛び、衝撃が振動を始める。ゼロ
は咄嗟にセイバーを収納し、バスターを構えた。

『ダァッ!!!』

 衝撃波と、チャージバスターが衝突した。互いのエネルギーが周囲に撒き散
らされ、圧迫感が双方の身体に伝わる。
『なっ、衝撃波が打ち消された!?』
 驚くアギトだが、ゼロもまた魔力衝撃波程度にチャージバスターを弾き飛ば
されるとは思っても見なかった。
 ゼストだけは、このような結果がわかっていたのか、すぐさま槍を構え直し
た。ゼロも再びセイバーを抜くが――
「……何を迷っている、ゼスト」
 言葉に、ゼストの身体が固まった。
「お前の攻撃には、迷いが見られる。本気でオレを倒すつもりがあるなら、も
っと強力な攻撃も出せるはずだ。お前はオレとの戦いを行う中で、何かから逃
げている」
「馬鹿げたことを、なにを……そんな」
 ゼストが、明らかな狼狽を見せていた。図星を付かれたのか、武器を持つ手
に震えが見える。
 ゼロの言ったようにゼストには彼と戦う以外の目的が確かにある。
『旦那の事も知らずに本気を出せだと!? 野郎、好き放題言いやがって!』
 ゼストの狼狽と動揺が、出したくても本気を出すことの出来ない身体である
が故だと判断したアギトは憤り、ゼロに敵意を剥き出しにする。
 しかし、ゼストはゼロに見透かされたくないものを、見透かされてしまった。
「アギト、ユニゾンを解除しろ」
『はぁ?』
「奴の望通り、本気を出してやる。フルドライブで、叩き潰す!」
『じょ、冗談よしてくれ! なにムキになってんだよ』
 フルドライブは、ゼストの身体に多大な負担を掛ける。これ以上身体を酷使
すれば、ゼストはどうなるかわからないのだ。
「ちっくしょーっ!」
 突然、アギトが強制的にゼストのユニゾンを解除した。けれど、それはゼス
トにフルドライブを使わせるためではなく、使わせないため。
 アギトは片手を上げると、巨大な火球を作り上げていく。
「旦那の事を守るのはアタシだ。旦那の前に壁があるならアタシが砕き、旦那
の前に敵が立ち塞がるなら、アタシが燃やし尽くす!」
 極大火球とも言うべき炎の塊に、さすがのゼロもたじろいだ。放たれる前に、
撃ち落とすしかない。
 そう考えるゼロに対して、アギトは彼の動揺を誘うためにある言葉を投げか
けた。
「お前がどんなに強かろうと、今頃お前の帰る場所はなくなってるぜ!」
「――! どういう意味だ?」
「そのままの意味、機動六課はナンバーズ部隊が襲撃してるのさ」
 言われて、ゼロは愕然とした。
 そして、思い出されるのはつい先ほどセインと交わした会話。

――大規模テロによる陽動、一部のナンバーズやガジェットが都市の重要施設
で暴動を起こし、管理局が対応に追われている間に本命を落とす……テロリズ
ムにおける常套手段だよ

 まさか、市街地及び地上本部への攻撃は陽動なのか!?
「しまった――!」
 ゼロは機動六課の隊舎がある方角を見た。

 遠く離れていても見えるもの、それは炎と煙の色だった。




 地下へと降り立ったギンガは、ブリッツキャリバーを走らせ積極的に進撃した。
 元々、彼女はスバルと同様に守勢に回った戦い方を好まない。しかも、今回
は敵の数が二体、速攻による先制攻撃で一体を撃破するぐらいの気構えでないと、
まともな勝負にならない。
「前方に光り……? は、速い!?」
 二条の閃光が輝き、ギンガに迫ってくる。咄嗟に防御魔法を展開して、体当た
りともいうべき衝突を弾き返した。
 衝撃に、ギンガは大きく後ろに下がった。
「今のを防ぎきるとは、なかなかやるな」
 背が高く、力強い声。紫色の短髪をした女がギンガに声を掛けた。
「さすがはタイプゼロ、といったところでしょうか」
 簡潔に、事実だけを言うような口調で女の傍らに立つ少女が呟いた。こちらは
長い薄桃色の髪を持ち、感情に乏しい視線をギンガに向けている。挑発的な物言
いでなかったのに、少女の呟いた単語がギンガの感情を刺激した。
「その名で、私を呼ぶな……!」
 戦意を剥き出しにし、構えを取るギンガ。
「失礼、私はジェイル・スカリエッティによって造られた戦闘機人、ナンバーズ
3番トーレ」
「……7番セッテ」
 トーレと名乗った女は、武器らしい武器を持っていない。恐らく、ギンガと同
じく接近戦主体の戦闘機人。
 対するセッテという少女は、二本の巨大な剣のようなものを持っている。形状
からして、投擲が出来るかも知れない。
「目的は、六課の壊滅?」
「さぁ、どうだろうな」
 不敵に笑うトーレの手足に、幾つものエネルギー翼が発生する。それを見たセ
ッテも、両手に持つ武器を構える。
「知りたければ、我々を倒してみることだ……ライドインパルス!」
「IS、スローターアームズ」
 二人の姿が、再び閃光となってギンガに迫った。

「シューティングアーツ!」

 二対一の戦闘が始まった。



「くらえ、轟炎!」
 アギトの手から放たれた極大火球が、ゼロへ落ちていく。バスターショットで
迎撃出来る大きさではない。
 ゼロは、セイバーを構えた。
「ハァァァァァァァァァァッ!!!」
 チャージ斬りで、その火球を斬り裂いた。斬り裂かれた炎が左右に飛び散り、
爆発を起こす。
「な、そんな!?」
 ゼロはアギトに斬り掛かるべく、地面を蹴った。すぐにでも敵を倒し、六課に
戻らねばならない!
 だが、しかし、
「――フルドライブ!!!」
 ゼストが、その行く手を遮った。フルドライブを発動させたゼストは、そこか
ら繰り出される超絶なる力を、ゼロへと叩き込んだ。
「なっ!?」
 ゼロはゼットセイバーで防いだ。攻撃を受け止めた。

 それがどうした。

 受け止めた衝撃ごと、ゼロはビルの屋上に叩き付けられた。
 それだけでは終わらず、屋上を突き抜け、階下まで叩き落とされる。
 屋上を中心に、ビルに亀裂が走っていく。倒壊、いや、崩壊だ。ゼストの一撃
はゼロを倒しただけではなく、高層ビル一つを崩してしまった。
 例えゼロが今の一撃を食らっても尚、生きていたとして、崩れるビルの瓦礫に
埋もれては、文字通り手も足も出ないはずだ。
「だ、旦那……」
 心配そうな声をアギトはだすが、ゼストはさして気にせずに自分が破壊したビ
ルを見ていた。
「今ほどの力は、もう出せないだろうな」
 自嘲気味に、ゼストは笑った。
 ゼロは正しかった。自分の目的、自分が知りたい真実。求めてはいるが、手に
入れる事への迷いが、ゼストには確かにあった。
 もし、彼と自分の正義が違っていたら? 彼が、俺の言葉を利かなかったら?
 俺は、彼を殺すのか――そんな、迷いがあった。
「アギト、ルーテシアと合流するぞ」
「ルールーと? でも……」
「そろそろ、行動を起こしているはずだ。お前も心配していただろう?」
「う、うん」
 らしくないゼストの姿に戸惑いを憶えながら、アギトは頷いた。




 ギンガと、ナンバーズ二人の戦闘は激化の一途を辿っていた。
 格闘技法シューティングアーツを駆使して戦うギンガに、トーレとセッテは意
外な苦戦をしていた。
 無論、圧倒的な優位は保っているのだが、ギンガはよく粘っている。
「インパルスブレードッ」
 トーレのエネルギー翼と、ギンガのリボルバーナックルがぶつかり合う。
 二人とも格闘タイプというだけあって、激しい接近戦を繰り広げている。
「ブーメランブレード」
 セッテが投げ放った二刀の刃を、ギンガはトライシールドを展開して弾き飛ば
した。
 だが、ブーメランブレードは軌道を変え、さらに連撃を加えて防御を破った。
「そこだっ!」
 防御が破られた瞬間に、トーレの拳が飛び込んできた。ギンガは避ける間もな
く吹っ飛ばされた。
「かはっ――」
 血塊を吐き出しながら、ギンガは何とか体勢を立て直す。戦闘機人だろうと、
血の色は赤い。
「血を見ると、いつも安心する。あぁ、私も人間なんだって思えるから」
 だから……私は、
「終わりです」
 近接戦闘による斬撃を加えようとしたセッテの一撃を、ギンガの拳が受け止めた。
 ブーメランブレードが、ピクリとも動かない。
 セッテは僅かに表情を変えるが、彼女には武器から手を離すという機転が利か
なかった。
「ナックルバンカーッ!」
 ブーメランブレードごと、セッテに打撃が撃ち込まれた。武器破壊及び、衝撃
でセッテが大きく後退する。
「セッテ、お前は初戦闘なのだからあまり前に出るな」
 その事実に、ギンガの顔が驚愕に包まれた。初戦闘で、連係攻撃とはいえ、こ
れほどまで強いのか。
「ご安心を、さしたるダメージは受けていません」
 破損したブーメランを投げ捨てると、セッテはすぐさま新たなブーメランを取
り出した。武器破壊など無駄なこと、とでも言いたげな仕草だった。
 ギンガは足を踏みしめ、戦う姿勢を崩さない。勝ち目がないことなどわかって
いるが、諦めるわけにはいかないのだ。
「ゼロさんが……ゼロが戻ってくるまで、私は負けられない!」
 意外なほど、ギンガはゼロを信頼していた。
 ギンガもスバルも、今でこそ明るい性格をしているが幼少時はそうでもなかった。
 特にギンガは生い立ちと境遇から、ある意味ではエリオ以上に周囲の人間に対
して否定的だった。
 それが今は、会って間もないといっていい男を信頼し、希望を託している?
 理由は判らないが、ゼロは、あの人だけは信じることが出来る。私は、あの人
にならこの背中を預けられる!
「まだまだ、これからよ!」
 みなぎる闘気の威圧感を、トーレとセッテは受け止めた。互いに構え、ギンガ
との戦いを再開しようとするが……

 突然、地面が、天井が、いや、空間その物が揺れ動いた。


「防壁の内側、何かが来ます!」
 巨大な反応、魔力ではない。質量その物が、巨大だった。
 地面を突き破るように、何匹もの虫が、巨体をその身に持つ虫が現れた。
「地中から防壁の内側に回り込まれた……」
 唖然として、シャマルが呟いた。隊舎の結界防壁は強固であり、ちょっとやそ
っとの攻撃では陥落しない。
 それは防御魔法を得意とするシャマルが一番よく知っている。
 だが、そもそも防衛基地として建設されているわけではない隊舎の防壁は、地
中まで伸びていないのだ。
「やられたっ! 非戦闘員の避難と脱出を――」
 叫んだときは、何もかもが遅かった。止まらぬ揺れはその大きさを増し続け、
遂には司令室の天井が崩れ落ちたのだから。

「なんて、ことをっ!!!」
 怒りにまかせて、ギンガはトーレに向かって突撃した。リボルバーナックルの
一撃を、しかしトーレは片手で受け止めてしまった。凄まじい衝撃が浸透するも、
打ち抜けそうにない。
「先ほど、お前は訊いたな。私たちの目的を」
 攻撃を受け止めながら、やや余裕のある声でトーレが言った。
「お前は六課の壊滅が目的と推測したようだが、私たち二人に限って言うなら、
それは違う」
「じゃあ、何が!」
 それはな、とトーレはリボルバーナックルを弾き返しながら呟いた。
「私たちの狙いは、お前だ」
「――えっ?」
 意外な、考えもしなかった答えに、ギンガは動揺と混乱による隙を見せた。
そして、彼女はそれ故に後方中空に回り込んだセッテの存在に気づけなかった。
「今度こそ、終わりです!」
 セッテはブーメランブレードの二刀を重なり合わせると、勢いを付けて投げ放った。
 二刀の重なり合った両刃が回転しながらギンガを襲い、 その左腕を切断した。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 耳を突き破るかと思うほどの甲高い悲鳴が、地下にこだました。
 切断部分から戦闘機人としての生体部品が剥き出しとなり、セッテは痛みに叫
び倒れるギンガを不快そうに眺め、右手を突き出した。
「黙れ」
 エネルギー砲が放たれ、ギンガに直撃した。爆発が起こり、煙が晴れた先には、
機能停止し、地面へと倒れ伏したギンガの姿があった。
「セッテ、やり過ぎだぞ?」
 切断された左腕を拾いながら、窘めるようにトーレが言った。相手が旧式であ
る以上、分かり切っていた結果だが、ドクターからは殺さずに回収しろという命
令を受けているのだ。
「大丈夫、死んではいません」
 瀕死のギンガを担ぎながら、セッテは事も無げに言いきった。




 燃え上がり、崩れゆく機動六課の隊舎内を、ルーテシアは歩いていた。
 傍らに歩くガリューは、突入時に回収したレリックケースをその手に持っている。
 ナンバーズの移送を優先したことで、聖王教会へ運ぶのが遅れていたのだ。
 これまで六課が回収したレリック、全てがルーテシアの手元にある。
「この中に、あるのかな」
 すぐにでも開けたい衝動に駆られるが、我慢しなくてはいけない。ドクターか
らのお願いは、まだ終わっていないのだ。
 魔力で炎を蹴散らしながら進むルーテシアとガリューの眼前に、影が蠢いた。
 この先は確か、簡易シェルターがあるとクアットロの調査でわかっている。
「……犬?」
 訝しがるルーテシアの前に、一匹の青い毛並みをした犬が立ちはだかっていた。
 どこからどう見ても犬であるが、ここにいるということは使い魔の類か。
「ここから先は――」
 低い声を出しながら、犬が光りに包まれていく。ルーテシアが眼を細める先で、
犬が人へと姿を変える。
 やはり、獣人型使い魔か。
「一歩も通さんっ!」
 久方ぶりに獣人の姿へと変わったザフィーラが、ルーテシアたちに向けて構え
を取った。
 それを見たガリューが、レリックケースをルーテシアに預け、前に進み出た。
「ガリュー」
 その背に、ルーテシアが声を掛ける。彼を心配しての、言葉ではない。
 それがわかっているガリューも、敵を前に振り返ったりはしない。
「ドクターは女の子を連れてこいって言ってた。だから、そいつは」
 冷ややかな目でザフィーラを身ながら、ルーテシアは呟いた。
「そいつは別に、殺して良いよ」

 ガリューとザフィーラが、目にも止まらぬ速さで交錯した。

 ザフィーラの拳が、ガリューの腹にめり込んでいる。力強い一撃であったが、
ガリューは声一つ上げなかった。
「が…ぁっ!?」
 声を上げたのは、ザフィーラのほうであった。打ち込まれたガリューの拳、
その先端から生えた鋭い刃に腹を貫かれていた。
 血反吐が、ザフィーラの口から溢れだし、ガリューの身体に飛び散った。
 ザフィーラは確かに強かったが、如何に守護獣といえど使い魔の一種、外見
上はともかく、彼もまた肉体的な衰えに勝てなかったのだ。
 事実、ガリューに繰り出された拳は彼の身体をめり込むだけで、突き破るこ
とが出来なかった。
 ガリューは貫通させた刃を抜き取った。肉の生々しい感触と、そして他者に
も聞こえる耳障りな音にルーテシアが眉を顰めた。
「馬鹿な奴。ガリューに勝てるわけないのに」
 さぁ、早く少女を、ヴィヴィオという名の少女を連れて帰ろう。

 ここはもう、終わってしまった場所だから。

                                つづく

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最終更新:2009年01月16日 14:32