ナンバーズ8番、オットーの敗北はすぐにウーノの口から他のナンバーズ達
の知るところとなった。
スカリエッティがこれといった情報規制を行わなかったからだが、姉妹らの
動揺は隠せなかった。
「ディードはこのことを?」
 ナンバーズ10番、ディエチは比較的仲の良い姉妹であるクアットロに詳細
を尋ねる。
「あの子はまだ調整層よ……だから知らないわねぇ」
 オットーとディードは、同じ素材から生まれた双子のようなもの。当人た
ちもそれを意識してか、とても仲が良かった。
「オットーが後衛を、そしてディードが前衛を行う戦法なら負けなかったはず。
ドクターはどうして一対一に拘って……」
 ディエチの指摘はもっともである。オットーとて戦闘機人であるからして
相当な実力者だが、その能力は自分と同じ後方支援向きだ。
 単一の戦闘で真価を発揮するものではなく、一騎打ちなど以ての外。
 大体、数で勝るこちらが何故ちまちま一対一の戦闘など強いられねばなら
ないのか。
 言ってしまえば、接近戦主体のナンバーズを数人ぶつけて弱らせた後、自
分がトドメを撃ってもいいはずだ。
「さぁ? ドクターの考えてることなんてわかるわけないわ……けど」
 クアットロは興味がないのか、この件に関しては口数が少なかった。
 ただ、一言だけ付け加えるのを忘れずに。
「他の子も、もしかしたら危ないかもね」

 自身の戦闘機人が敗れたことに対して、スカリエッティは微塵も動揺して
いなかった。
 むしろ、こうなることが分かっていたかのように、彼は冷静にウーノの報
告に耳を傾けていた。
「そうか、オットーは管理局に捕獲されたか」
 正確には地上本部に属する機動六課に収容されているのだが、スカリエッ
ティにとって地上部隊などどれも似たようなものだ。
「大破こそされませんでしたが、機能停止状態にあるようです」
 戦闘機人とて部分的には人間であるから、不死身ではない。強い衝撃を受
ければ気絶するし、肉体許容範囲の攻撃を食らえば死ぬことだってある。
 オットーの場合、起動を維持できないほどダメージが蓄積されたか、シス
テムそのものが壊れたかのどちらかであろう。
「いかがなさいますか? 奪還、回収作戦を立案しますか?」
『妹』の安否を気遣ったのか、ウーノはオットーを救出するべきだとの意見
を出した。
 この場に他の姉妹がいれば、大半は賛同してくれたかも知れない。
 だが…………
「奪還? 何故、そんなことしなくてはいけないんだ」
 スカリエッティは、ウーノの言っていることが理解できていないようだった。
いや、理解はしているのだろうが、どうしてそんなことを言っているのかが
判らないのだ。
「オットーはゲームの敗者だ。負けた奴に、用などない……それに、どうせ
助けるならまとめて助けた方が良いだろう」
「まとめて、ですか?」
 言葉の意図が読めず、ウーノが困惑した表情を作る。
 スカリエッティは、そんな彼女に少しだけ残念そうな素振りを見せた。
「君はまさか、オットーだけで済むと思っているかい? 最低でも後二人、
ナンバーズはやられるよ。これは、確定事項だ」



         第9話「壊れていた心」


 ミッドチルダ天候制御システム。管理世界であるミッドチルダは、その力
によってあらゆる物を管理下に置いている。
 天候もその一つで、魔法技術の発達は何者にも左右されなかったはずの自
然の力すら凌駕してしまっている。
 天候を制御することは一見するとメリットばかりが多く見える。
 だが、そう思われていたのは初期段階だけで、今では一般市民には多大な
不利益になるとまで言われていた。
 何故かというと、天候を操れると言うことは自由に青空や雨雲を作り出す
ことが可能であり、その気になれば1年間365日、市民は毎日の天気を知るこ
とが出来る。するとどうなるか?
 この日は雨だから外には出たくない、この日は晴れているので外に出よう、
週の半ばはとても風が強いから、歩きではなくモーターモービルを使おう……
 天候を管理下に置いたことで、管理局も予想だにしなかった市民の生活管
理が行われたのだ。
 一部の人間を除けば、雨風の強い日に出掛けたいと思う奴もいないだろう。
 企業や学校、人という人の生活が制御された天候に順応され、管理されて
いく。
 さすがにこれは不味いと感じたのか、管理局は天候制御の廃止こそ行わな
かったものの、一般市民にその内容を明示しなくなった。
 情報規制ではないかという批判の声も上がったが、管理局はその声を一切
無視して今日に至る。
 余談になるが、この件で一番助かったのは映像メディアだと言われている。
 彼らは天候が管理され、市民にその情報が開示されたことで、従来の『天
気予報』という番組を作れなくなっていたのだ。
 情報が規制されたことで再開することが出来るようになったのだが、管理
局はメディアにも全く情報を開示しなかったため、天気予報は明日の天気を
『予測、推測』する番組へと変化していった。
 天候制御システムを管理する職員の心理を占って明日の天気を予想しよう
などと言う番組もあるぐらいで、また向こう一週間の天気を当てて賞金を手
に入れるくじが出来るなど、高度に発達しすぎた社会故の珍事とも言えた。

 その天候制御システムが、ジェイル・スカリエッティの手に落ちた。管理
局はシステムを利用した攻撃があるに違いないと青ざめたが、今のところ何
が起こったわけでもない。
 その気になれば雷雨と吹雪を同時に起こすことも出来るというのに。
「ドクターも、制圧するだけ制圧して後は待機しろなんて、何考えてるっス
かねぇ」
 施設の制圧を担当したのは、ナンバーズ11番ウェンディである。開発時期
が最も遅い彼女であるが、上の姉妹達にも気負いせず、誰とでも気兼ねなく
話せる気さくな性格をしており、姉妹全員と対等に仲が良いという変わり種
である。
 中でも6番のセインとは、彼女がウェンディの教育係だったこともあり非
常に仲良く付き合っているらしい。
「次に狙われるのがどこかはわからないけど、ここに来るなら……絶対に
倒して見せるっス」
 先に倒されたオットーは、誰とでも仲良く接することが出来るウェンデ
ィが、ディードともに苦手としていた相手だ。
 ノリが悪い、というのが主な理由だが、苦手だからと言って嫌いだった
分けじゃない。
 ドクターは今のところ、オットーを奪還するつもりはないようだが、あく
まで先の驚異を取り払ってからと言うことだろう。 ならば自分が件のゼロ
とやらに勝てば、その時点でこのゲームは終了、オットーの救出作戦に移れる。
「待ってるっスよ。私が必ず……」
 言いかけたところで、施設内の警報装置が作動した。けたたましい音とと
もに、侵入者の存在を知らせる。
 ウェンディの表情が、一変して強ばったもになる。まさか、本当にここに
来たか!?
「ガジェット空戦隊出撃、Ⅰ型は地対地戦を用意。私も打って出るっス!」


 凄まじい数の熱光線がゼロへ降り注ぐ。ガジェットは数に任せた物量の陣
形を展開しており、光学兵器は連射と言うより乱射に近い状態で発射され続
けている。
「トライシールド!」
 ゼロの前に人影が回り込み、魔法陣による防御を展開してこれを防ぐ。
 ギンガ・ナカジマ、今回ゼロに同行してきた魔導師である。
「無理をするな」
 怒濤の砲火を受けきった彼女であるが、流石に消耗が大きいらしい。ゼロ
がそんな彼女を心配してか声を掛けるが、
「大丈夫ですよ、これぐらいなら……つかまってください、ウイングロード
で敵を突き抜けます!」
 地面に拳を突き付け、光りの道を発生させるギンガ。帯状の魔力が道を造
り、ガジェットたちの間を通っていく。
 ギンガとゼロが、その上を駆け抜けた!
「こう言うとき、広域魔法や砲撃魔法に憧れますよ」
 魔力弾を精製しながら、ガジェットに向けて叩き込む。ゼロもバスターシ
ョットを連射しながら、空中のガジェットを撃ち落としていく。

 ゼロが今回、ギンガと共にこの施設の攻略に乗り出したのはいくつかの理
由がある。
 一つはやはり、ギンガが自ら名乗りを上げたことがあるが、施設自体の早
期解放も重要だった。
 後回しにすることで、せっぱ詰まった敵が暴走する恐れもあったのだ。
 加えて、この施設には空戦能力の高いガジェットⅡ型が多数配備されてい
ることがわかった。
 空を飛べないゼロとしては、ウイングロードによるサポートが必要だった
のだ。

「AMFが強すぎるから、長くは維持できません。何とか制御タワーに届けば
良いんですが」
 天候制御システムは、その性質から空にそびえる巨大なタワーが中心と
なっている。
 雲に、そして天まで届くなどと称されるタワーから発生する天候干渉型
の魔法が自在にこれを操るのだ。
「届くところまでで良い。とにかく伸ばせ」
「ですが、ゼロさんも私も空は……」
「時間がない、早くしてくれ」
 ウイングロードと言っても、所詮は狭い足場である。あらゆる方向から
飛来しては攻撃を加えてくるガジェット相手に、必ずしも有利とはいえない。
 ギンガはウイングロードをタワーの天辺まで伸ばすが、やはり距離が足
りない。
「行くぞ!」
 しかし、ゼロはそんなギンガの反応に構わずタワーへと駆けていった。
ギンガも続く。
 ガジェットが後方から追いすがるが、ゼロもギンガも駆け足だけは早か
った。
 やがてタワー近くまで辿り着くゼロであるが、天辺に届かなかったのでタ
ワーの外壁止まりとなってしまう。
「この上が展望室で、その更に上の上の上が制御区画です。展望施設まで
届けば、外壁を破壊して侵入できるんですが」
 何故、正面突破して下から上へと上がらないのかという疑問があるだろう。
 事実、ここに来る前まではゼロもそうするつもりだった。
 だが、到着してみると内部のエレベーターは破壊され、非常階段の類も
崩されていたのだ。となれば、外から登るしかない。
「なら、その展望室に行けばいい」
「だから! 私のウイングロードじゃあそこまでは」
 その時、ゼロは物も言わずギンガを抱きかかえた。
「へっ!?」
 突然のことに、分けが分からなくなるギンガ。
「暴れるな、落ちるぞ」
 バタバタとしてる彼女に忠告し、ゼロはそのまま壁を蹴った。
 所謂、『壁蹴り』と呼ばれる芸当で、ゼロは壁を蹴り上げて垂直上りを
することが可能なのだ。
「す、凄い! レプリロイドってこんなことも出来るんですか!?」
「さあな」
 驚くギンガに対し、素っ気ないゼロ。実際、出来る奴と出来ない奴はい
るし、曖昧な記憶を掘り起こせば『三角蹴り』なるもっと凄い芸当もあっ
た気がする。
 確か、これは限られた戦士しか使えなかったはずだ。
 ゼロがウイングロードでギリギリまで上に登ったのは、地上から壁蹴り
で登るとその途中で空戦部隊の猛攻に合うと判断したからで、その判断は
正しかった。
「外壁を砕けるか?」
 ギンガを抱えているため攻撃が出来ないゼロは、外壁の破壊をギンガに
任せる。
「任せてください……ハァァァァァァァッ!」
 左腕に装着されたリボルバーナックルを回転させ、強烈な一撃を外壁へ
と叩き込むギンガ。
 亀裂が走り、人一人が通れるほどの穴が空く。
 ゼロはギンガを抱えたまま、その穴からタワー展望室へと降り立った。
「上出来だ」
 ギンガを降ろすと、後方に振り返りチャージしていたバスターを穴へと
向かって迫り来るガジェットへと撃ち放った。
「ゼロさんと一緒に戦闘を行うのは初めてですけど、さすがですね。私が
見込んだだけのことはあります」
 いつギンガに見込まれたのか、そんな記憶はないゼロであるが、ギンガ
はどうやら自分の実力を高く評価してくれているらしい。
「はやて総隊長は不満そうですけど、やっぱりあなたの存在は周囲に良い
影響を及ぼしてるんですよ。この前の戦闘もそうです」
 ギンガの言うこの前の戦闘とは、ゼロがティアナと共に出撃したあれの
ことである。
 ティアナはあれ以来、何かが吹っ切れたらしく、前のように思い悩むよ
うな素振りを見せなくなった。
 自主的に訓練メニューに朝練などを追加し、スキルアップに励んでいる。
 友人の急な頑張りようにスバルは心配したが、ティアナは「すぐ慣れる。
見てなさいよスバル、私はアンタに置いてかれない、むしろ追い抜いてや
るわ!」と笑顔で語ったという。
「別に、オレは……」
「何もしていない、ですか? きっと、あなたが気付いてないだけですよ」
 笑いながら、ギンガはゼロに語りかけている。
 ゼロがティアナを連れ立って無事に帰還したとき、六課は歓呼の嵐だった。
 ティアナが負傷こそしていたが大事にはならず、フェイトなどは思わず
ゼロに抱きついてしまったほどだ。
 まあ、赤面しながら一瞬で離れていたし、その光景を目の当たりにした
エリオなどがふてくされていたが。
 あのはやてにしてから、功績を認めないわけにもいかず、苦々しそうな
顔でゼロに握手など求めたほどだ。
 あくまで形式、感情など籠もっていなかったが……
「あの後、大変だったんですよ? はやて総隊長は怒って暴れかけるし」
 差し出された手を、ゼロは完全に無視して通り過ぎた。
 さすがにこれでは、はやてが怒ってもしかたがないだろう。フェイトな
どは「今までが今までだからしょうがないよ」と呆れていたが、はやてと
しては納得がいかないのか、しばらく不平不満を守護騎士にぶつけていた。
「……そんなことより、そろそろ上に付くぞ」
 はやてとの問題をそんなことで片付けると、ゼロは最上階のドアの前に
立つ。
情報ではこの先は屋上、屋根のない場所に直接制御装置を設置していると
かで戦闘の際は十分注意するようにいわれていた。
 ゼロはゆっくりと、扉に手を乗せる。ロックは、掛けられていなかった。

「――――!?」

 そこには、制御装置など無かった。あるのは『制御装置だった物』の残
骸と、空に展開する無数のガジェット軍団、そして……
「奪還されるぐらいなら破壊する、これ常識っスよ」
 屋上に、戦闘機人が一人立っていた。
 巨大な盾のようなプレートを片手で支えながら、好戦的な視線をこちら
に向けている。
「卑怯な、ガジェットを使うなんて!」
 物量作戦に出た相手を、ギンガが非難する。後方からの追撃がないので
どうもおかしいと思っていたが、この場所に集結させていたのか。
「卑怯で結構! ナンバーズ11番、ウェンディ。オットーの仇取らせて貰
うっス!」

 ウェンディは人一人隠せるサイズの大型プレートを横倒しにすると、そ
の上に飛び乗った。
「エリアルレイブ!」
 大型プレート、『ライディングボード』がウェンディの先天固有技能に
反応し浮遊する。そしてそのまま、彼女を空へと飛ばしていく。
 ゼロはバスターショットを構えるが、高速機動による飛行のため捕らえ
ることが出来ない。狙いを付ける間もないのだ。
「でも、飛んでいるだけなら向こうからの攻撃だって……」
 ギンガが敵の行動に疑問を呈するが、無論ウェンディとてただ飛んでい
るわけではない。
 飛行するウェンディの周囲に、桜色のスフィアが幾つも展開されていく。
「フローターマインッ!」
 スフィアから次々に発射される反応弾。空間爆撃型のそれは、掠っただ
けでも爆発される敏感なもの。
「下がれっ」
 ギンガに向かって声を上げると、ゼロはバスターショットを撃って迎撃
にはいる。だが、数が多すぎる!
 地面に着弾し、爆発し始める。
 拾い屋上が爆炎に包まれていく。威力は、思った以上に高い。
 ウェンディは煙に包まれた屋上を、眼球に備わる索敵センサーで見つめる。
 熱反応は二つ、まだどちらも生きている。
「――来たなっ!」
 突如、煙のなから帯状の魔力が突き抜けてきた。これは先ほどまでの戦
闘を観察していた際に見た、ウイングロード!
「ダァァァァァァァァァッ!」
 ブリッツキャリバーの速度を最大限に、ウェンディへと突撃を敢行する
ギンガ。
 左腕のリボルバーナックルを構え、敵を捕らえたかに見える。
「ガジェット隊、迎撃っスよ」
 ウェンディは冷静に指示をだし、ガジェットの砲火による迎撃を行った。
 彼女を守る壁のように集結したガジェットの攻撃に、ギンガはウイング
ロードから叩き落とされた。
「このっ!」
 傷つきながら上手く着地することの出来た彼女だが、相手はなかなか考
えて戦闘を行っている。
 これでは近づくことさえままならない。
 ギンガの攻撃は失敗に終わったが、それはゼロに対して有利に働いた。
 彼はバスターショットをチャージすると、ギンガへの対応で動きを止め
たウェンディに向けて発射したのだ。
「おっと、危ないっ」
 しかし、ウェンディはランディングボードを盾にチャージショットを弾
き飛ばすと、手近なガジェットⅡ型に飛び乗った。
 まったく、器用な奴である。
「エリアルショット!」
 ライディングボートを銃器のように構えたウェンディは、その前部にエ
ネルギーを集中させると、素早い射撃行った。
 ゼロはセイバーを引き抜いて攻撃を弾くも、連続斉射されるエネルギー
弾に追いつめられていく。
 敵の速攻を前に、ゼロは完全に攻撃を封じられた。エリアルショットに
被弾し、吹っ飛ばされる。
「ゼロさん!」
 ギンガが駆け寄ろうとするも、他のがジェットの攻撃がこれを阻んだ。
 体勢を立て直そうとするとゼロであるが、ウェンディの行動はどこまで
素早い物だった。
「トドメだ……!」
 エリアルショットとは比べものにならないほどのエネルギーがライディ
ングボートに集まっていく。
 ウェンディが持つ、必殺にして最大威力の攻撃――

「エリアルキャノン!!!」

 魔力砲撃に相当するだけの勢いと威力を持ったエネルギー砲火が、ゼロ
とギンガのいる屋上に直撃した。
 この砲撃は命中地点に爆発衝撃を巻き起こすものであるから、必ずしも
対象に命中させる必要はない。
「やった! やったっス!」
 倒した。倒すことが出来た。
 この強い敵に、自分は勝つことが出来たのだ。
 すぐにドクターにこの事を報告して、オットー救出作戦を立案して貰おう。
 いや、その前に死んでしまったかも知れないが一応眼下の二人を回収して……
「――えっ?」
 索敵センサーに、異様な反応があった。
 生存を示す熱反応ではない、センサーが屋上を視認できない。
 ウェンディは目を見開いた。爆発によって生じた煙の中が、薄くだが光
っているようにも見える。
「まさか、広域結界!?」
 けど、誰が――――
 考えて、考え終わる前にウエンディは更なる驚愕を覚えることとなる。
 煙の晴れた先、屋上を包んでいる結界の色は『緑色』だった。
 これは、この色は、
「オットーの……?」
 結界の中に、ゼロが立っていた。完全に体勢を立て直した彼は、空中に
いるウエンディを見据えている。
「ひ、左手が」
 目ざとく、というべきか。ウェンディはゼロの左手から緑色の光が発せ
られていることに気付いた。
 ゼロが左腕を一振りすると、結界が消えた。
「――レイストーム」
 短く、だがハッキリとゼロはオットーが持っていたはずの先天固有技能
名を呟いた。
 ゼロの左手から幾条ものエネルギー光線が発射され、空にあるガジェッ
ト部隊を撃ち落としていく。
「ど、どうしてオットーの技を使えるっスか!?」
 乗っていたガジェットも破壊され、ウェンディは一転して窮地に立たさ
れた。
馬鹿な、こんなことがあって堪るか。ナンバーズ、しいては戦闘機人のみ
に許された先天固有技能が、まさか……

「ウェポン・シージング・システム、互換性があって助かった」
 ゼロはその身に持つ第三の武装、ゼロナックルを起動させたのだ。
 これは彼が属した集団の技術者が開発した物で、相手の武器・武装を奪
うことが出来るという物だ。
 先に倒したナンバーズ、オットーの攻撃が特殊技能による物だと見抜い
てたゼロは、ゼロナックルの機能を応用してコピーしたのだ。
「なかなか使えるな」
 空戦は確かに自分の弱点だろう。高速機動による接近戦を使ってくる相
手ならまだ戦いようもあるが、ひたすら空中からの射撃と爆撃に徹せられ
ては手も足も出ない。
 だからこそ、レイストームは有効なのだ。
「こんな程度で!」
 ライディングボードを飛ばしてレイストームの攻撃を避けるウェンディ
だが、レイストームは射程の長い広域攻撃に分類される。避けても逃げて
も、ウェンディ目がけて追いかけてくる。
 咄嗟に体勢を変えて、ライディングボードを盾とするウェンディ。
 レイストームの光線が着弾するが、これで壊れるほど柔な作りではない。
「体勢を立て直して……」
 だが、無理な姿勢で防御を行ったことは、彼女の視野を狭めることとな
った。
ゼロはレイストームを操作し、ウェンディの死角に光線を回り込ませたのだ。
「落ちろ!」
 ウェンディが後方のエネルギー反応に気付いたときは、レイストームに直
撃する瞬間だった。
 彼女は悲鳴を上げ、ランディングボードから撃ち落とされた。
 そのまま地面へと落下、不運なことに頭から大きくぶつかっていった。

 衝撃音が響いた後、ギンガが恐る恐るウェンディに近づく。
 ウェンディの目の色は、完全に消えていた。
「機能停止したみたいですね……派手に落ちたから頭部が破壊されたかと思
いましたけど、大した石頭です」
 実際は衝撃吸収機能が優れているのだろうが、ウェンディは頭が割れるよ
うな損傷は受けていなかった。
 吸収しきれなかった衝撃で脳震盪を起こし、機能停止したと言うところだ
ろう。
「そいつを連れて帰還するぞ」
 操縦者がいなくなってこちらも落下していたランディングボードを回収し
ながら、ゼロはギンガを諭した。
 ギンガも頷き、ウェンディを抱えて起ち上がる。
 システムこそ守れなかったが、ゼロはナンバーズに対し二連勝を決めて見
せた。確実にゼロは、ゲームの勝者になろうとしていた。


 捕らえたウェンディを、オットーと同じく六課に引き渡したゼロ。先日の
一件で懲りたのか、彼とギンガが帰還してもはやてなどは出迎えに来なかった。
いや、それどころか六課内全体が何やら騒がしい。
「どうしたんですかね?」
 医務室にも人が居らず、怪訝そうな顔をするギンガ。
 何事かあったようだが、ゼロが興味を示さないので、ギンガが適当な職員
を捕まえて事情を問いただす。
 そしてその顔が、見る見る変化していく。
「た、大変ですゼロさん! すぐ訓練場に!」
 叫んで、ギンガが走り出した。つられてゼロも走るが、彼にはまだ状況が
飲み込めていない。
「何があった、敵襲か?」
 だとしたら警報の一つでも鳴っているはずだが、そのようには見受けられ
ない。
「喧嘩です!」
「……喧嘩、だと?」
 言い慣れぬ言葉に、ゼロが困惑を隠せないでいる。
 そりゃまあ、人間が多数に共同で生活している空間だから、喧嘩の一つや
二つあっても不思議はないだろう。
 だが、例え殴り合いの喧嘩が起こっていたとしてもここまで慌ただしい理
由には……
「それが、なのは隊長とティアナ隊員が訓練場で喧嘩してて、これから実践
に近い模擬戦をやるそうなんです!」

 ――――どうやら、喧嘩をしている人間に問題があったらしい。

 ギンガとゼロが訓練場のある森の中へ到着したとき、そこには緊迫した空
気と、それを見つめるギャラリーだらけになっていた。
「あっ、ギン姉!」
 心配そうな顔を隠せずにいたスバルが、姉の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「スバル、これはどういうことなの?」
「それが、私にもよく……ギン姉からも、ティアを止めてよ!」
 話し込む姉妹の脇を抜け、ゼロはフェイトを探した。
 彼女は当事者たるなのはと話しており、何やらしきりに説得しているよう
に見えた。
「なのは、こんなのは間違ってる。今すぐ中止して!」
 既にバリアジャケットに着替え、デバイスの用意までしている親友を、フ
ェイトは必死で宥めていた。
 だが、なのははそれを完全に無視している。
 ゼロは二人へと近づいていった。
「あ、ゼロ。帰ってたんだ」
 なのはがそれを見つけ、ゼロに声を掛けてきた。
「ゼロ、貴方からもなのはを!」
 説得して欲しいという意味なのだろうが、ゼロとしては何が起こっている
のかも良く分からない。
 見れば、ティアナも遠くでデバイスの手入れをしており、どうやら二人が
戦うというのは本当らしい。
「説明して貰おうか」
 フェイトではなく、ゼロはなのはの方を見た。必死に説得するフェイトに
比べ、彼女はかなり冷静に見えた。
「別に、ちょっと話してわからない子にお灸を据えるだけだよ」


 なのはの説明とフェイトによる補足、ギンガが妹のスバルと当のティアナ
から仕入れてきた情報を整合するに、事の発端はこうである。
 ゼロとの出撃以降、ティアナは毎日自主練習を行うようになった。
 具体的には訓練前の朝練や、訓練後も残って予習復習。スバルなどは、
「ティアも頑張ってるなぁ。私も負けないようにしないと!」などと、友人
の気合いの入れように刺激を受けていたが、なのははそうは感じなかった。
「毎日の訓練をやっていれば、ティアナだって強くなれる。無理なんかする
必要ないよ」
 事実、こうした自主練習をすることでティアナは疲れを見せるようになった。
 なのははそれが良くないというのだ。
 だが、生活習慣を変えたのだから慣れるまでは多少の疲れは堪るものである。
 慣れる前から無理とか無茶などと断定するのは如何なものか? フェイト
はそう指摘してなのはを宥めたが、彼女には最早ティアナの行いが度を過ぎた
暴走に見えていた。
 無論、なのはがティアナの行いを危惧するのも無理からぬ事だとフェイトは
わかっている。
 新人達への訓練メニューは、隊長のなのはと副隊長のヴィータ、フェイトな
どが度重なる話し合いと計算の元、自身らの経験を踏まえた上で作成した物だ。
 なのはは隊長として、教導を行う者として隊員に無理はさせられないと考えた。
 そして、それをティアナに口頭で伝えたのだが……彼女は反発した。
「私は決めたんです。自分に出来ることを精一杯やって、周りに追いついて、
追い抜いていこうって」
 笑顔で答えるティアナには、一切の迷いがなかった。それでも引くわけには
いかず、なのはは説得をしてみたが拗れるどころか交わることのない平行線だ
った。
 はじめは穏やかだった会話も、段々とキツイものへと変化していき、遂には
爆発した。
「どうして、判ってくれないのかな。私の言ってること、何か間違ってる?」
 なのはは、時には厳しく辛いことも言う人物であったが、基本的に新人に対
しては優しい上官だった。
 隊長として、人間として尊敬できる人格者であるはずだったが、この時のな
のはは不快感による怒りを露わにしていたように、後のティアナは振り返って
いる。
「いいよ、そんなに訓練がしたいなら。私がしてあげる」
 こうして、分からず屋同士による実践的な模擬戦が行われることとなった。

「一応、ティアナの教導無視、上官への反発って事になるんだけど……」
 フェイトが言い淀むのは、必ずしもティアナの行いが悪いこととは思えない
からである。
 他者と比べて自分には才能がないと卑下していた少女が、それを吹っ切って
自分で自分の道を探し始めている。
 むしろ、いい傾向ではないのだろうか?
 初めのうちは無理をしているように見えるかも知れないが、しばらくは見守
ってやったらどうだとフェイトは提案したが、なのはは首を横に振った。
「フェイトちゃん、壊れてからじゃ遅いんだよ?」
 何を言ってるんだと言わんばかりの口調だった。彼女の経験から来る言葉で
あることは、フェイトも重々承知していた。
「大丈夫だって。間違った頑張り屋さんの頭を、ちょっと冷やすだけだから」
 対するティアナは、この模擬戦に受けて立つという姿勢を崩さなかった。
 スバルが止めるも、こんな機会、隊長と一対一で戦えることなど滅多にない
からと準備に勤しんでいた。


「私は絶対に勝てないけど、これもいい経験になる。胸を借りるつもりで、頑
張ってみる」
 どこまでも前向きになったティアナであるが、それ故に危険性に気付いてい
なかった。
 なのはが割りと、本気だと言うことに。
 今回の模擬戦、いくつかのルールというかハンデが儲けられている。まず、
物理的にしろ魔力的にしろ殺傷攻撃を行わないこと。実践に近いと言っても、
あくまで訓練などでそれは当然だ。
 次に、これはなのは限定であるが浮遊及び飛行を使わず、砲撃魔法など大威
力の攻撃を禁止とする。
 双方、地に足を着けた戦闘を行うのだ。
「まあ、私は基本攻撃はしないでおくよ。非殺傷設定でも心配だからね」
 隊長としての余裕を見せるなのはと、何も持ち合わせていないティアナ。
 止めることも出来ず、フェイトやスバルはギャラリーとして周囲にいること
しかできなかった。
「よろしくお願いします!」
 せめて、一発ぐらいは攻撃を当てたい。
 ティアナは、ギャラリーの中にゼロを見つけた。
 思えば、こんな機会も彼と共に出撃していなければなかったのだ。感謝しな
くてはいけない。
「…………」
 ゼロはそんなティアナの視線に無言であり、表情一つ変えなかった。
 ただ黙って、彼は右手で自身の左腕を押さえた。
「――左腕? それって」
 ティアナがなにか言いかけたとき、なのはが自身の魔力を解放させた。
「そろそろ、始めようか?」
 隊長と新人、歴然とした力の差がある二人の戦いが始まった。


 積極的に仕掛けたのは、やはりティアナだった。
「まずは、これで!」
 彼女は初撃を地面に放った。魔力弾が爆発し、周囲に噴煙が立ちこめる。
 煙で視界を乱そうというのか、確かに肉眼による視認は封じられた。
「なるほど、小細工とはいえ考えてるね」
 だが、所詮は小細工以外の何物でもない。魔力を探知してしまえば、相手の
一など容易に掴めるし、第一この程度の煙はすぐ晴れるし、晴らすことも出来る。
「ハッ!!!」
 魔力を解放させ、その波立つ衝撃によって煙を吹き飛ばすなのは。さすがに
経験の差は大きい。
「……へぇ、そうきたか」
 煙が晴れた先には、幾人ものティアナが立っていた。
 ギャラリーの一人であるゼロは、彼にしては珍しく目を見開いて驚いていた。
 そんな彼の反応に逆に驚きながら、自分たちにとって常識的なことが彼にと
っては非常識だったと気付く。
「あれは幻術だね」
「ゲンジュツ?」
「相手に幻を見せる魔法で、肉眼やセンサーの類では見分けが付かない、攪乱
とかに使われるの…………だけど」
 以前見たときより、遥に数が多い。あれだけの数を動かすには、相当な労力
を要するように思えるが、見たところティアナは平気そうである。

「強くなってるんだね、ティアナも」
 幻術によって現れた幾人ものティアナは、なのはの目を惑わしながら縦横無
尽に動き回る。
「幻術それ自体に攻撃能力はないけど、偽物に混じって本物の攻撃が来る。幻
術の厄介なところは、そうした不意を突いた攻撃にもある」
 言われて、ゼロはかつて自分も似たような技を持ったレプリロイドと戦った
ことを思い出していた。原理は違うだろうが、戦法は同じだろう。

 なのはの後方に回り込んだティアナの一人が、デバイスを構えた。死角に回
り込んだのが、本物というわけだ。
「これなら!」
 魔力弾が発射された。動かぬなのはの背中に向かって放たれた攻撃は、彼女
に直撃するかに見えた。
「甘いよ、こんなの」
 なのはは右手を後ろに向けると、防御魔法でそれを難なく弾き飛ばした。
 余裕を持った笑みを浮かべながら、首だけティアナに振り返る。
「発射時の魔力精製を感知すれば、防ぐことは簡単だよ。憶えておくように」
 あくまで教導官としてティアナに接するなのはだが、ティアナはそれが不服
なようで、真面目に戦ってくれてないと思ったらしい。幻術を駆使しては、四
方八方からの攻撃を行う。
 対するなのはは戦闘開始から、一歩もその場を動いていない。撃たれる魔力
弾を片手で弾き飛ばしながら、実力の差を見せつけていく。
「無理しちゃって……ほんとに」
 まるで子供をあやすようである。
 敵わないことなど戦う前から判っていたことだが、ティアナはそれでも何か
手はないかと模索する。
「そういえば、確か」
 戦う前、ゼロがティアナの見せた仕草。あの時は意味がわからなかったが、
あれはもしかしたら……
 試してみる価値は、ある。
 ティアナは幻術を駆使しながら移動を続け、クロスミラージュを握る手に
力を込める。
 魔力が銃口へと集中し、高まっていく。
「この位置で!」
 狙うは、なのはの左側面、左腕!
「ファントムブレイザー!」
 大威力の砲撃が、なのはへと迫る。
「……ッ!」
 なのはは軽く舌打ちすると、今まで一歩も動かなかったその身体を動かした。
 右手でシールドを張って、砲火を完全に防御する。
 左手ではなく、右手で。

「まさか」
 フェイトが口元に手をやり、驚愕の表情を作る。遠くで事を見物している
ヴィータの顔色も、大きく変化する。
 ティアナは左側面からの連続攻撃を行い、対するなのはは右手で防御しなが
ら位置を入れ替えようと、半ば本気になって動いている。

「これは、ちょっと」
 なのははが、汗を流している。
 攻撃せず、相手が疲れるまであしらってやろうと思っていた彼女だが、今や
回避行動に関しては真剣その物だ。
「また左、違う右!?」
 焦る余り、幻術にさえ惑わされ始める。
 ゼロはそんな彼女の状態に、自分の推測が当たったことを察した。
 なのはは訓練から日常生活まで、何かと左腕を気にする仕草があった。
 初めて気付いたのは、訓練を見物したとき。なのはは何気なくではあるが、
自身の左側面に対する防御が弱かった。
 それからも注意してみていたが、確信を持ったのはこの前ティアナと共に出
撃する際のことだ。
 ブリーフィングルームで、起ち上がった彼女はゼロの右肩を叩いた。
 わざわざ正面からずれて、右腕を使って。あれは、左腕を使いたくないとい
う無意識の現れだったのではないか?
「しかし、さすがにその程度では無理か」
 弱点と呼べなくもないのだろうが、さすがはエース・オブ・エースなる異名
を持つだけはある。
 なのはは既に体勢を立て直しつつあった。ティアナが一撃当てるにしても、
もう時間がない。
 ティアナは通用しなくなりつつあるのに気付かないのか、再び左側面からの
砲撃を行おうとデバイスを構えた。
「いい加減、しつこいよ!」
 なのはが牽制の意味を込めて、初めて攻撃を行った。魔力の誘導弾がティア
ナへと迫り…………
 その身体を打ち消した。
「えっ――」
 完全な発射態勢にあった、まさかあれが幻術だというのか。
「もらったぁっ!!!」
 本物は、正面。デバイスをダガーモードへと変形させたティアナは、懐に入
り込んでの一撃を狙った。
 左側面に攻撃を集中させたのも、なのはに攻撃はそこから行われると錯覚さ
せるため。
 ティアナはフォワード陣のリーダーとして、戦術・戦略の才覚をここで発揮
したのだ。
「覚悟ッ!」
 斬撃が、当たる――

 それは果たして、無意識化の行動だったのか?
 斬撃が直撃する瞬間、なのはは瞬間的に空中へと逃げた。ティアナの攻撃は
空振りへと終わった。
 なのはの反則負け、誰もが驚く中で、なのはは更なる驚くべき行動に出た。
「………………」
 彼女が持つデバイス、レイジングハートの形状が変化する。
 同じく事前に禁止とされていたはずの、砲戦使用に。
「――なのは?」
 何かがおかしいことに、フェイトが気付いた。危険を知らせる鐘が、鳴り響
いたかのようにも思える。

「いけない!」
 フェイトが声を上げたとき、なのはは地上のティアナに向けて、凍えるよう
な冷たい視線を向けていた。
「ディバイン……」
 ティアナは、信じられない物を見るかのようにその場に立ち尽くしている。
 一瞬のこと、混乱して状況が掴めていないのだ。
「バスタァァァァァァァァッ!!!」
 砲撃が、本当に発射された。発射される寸前に動けたのは、たった二名。
フェイトと、ゼロだけだった。
 だが、なのはの元に向かったフェイトは一歩遅れた。
 彼女がなのはを押さえつける前に、砲撃は発射されてしまった。
「ティアナ!」
 逃げろという意味で叫んだフェイトだが、ティアナは逃げなかった。逃げ
ることが、出来なかった。
 そんなティアナの前に、ゼロが現れた。彼女を抱えて逃げる時間は、ない。
 ゼロはセイバーを引き抜くと、構えを取った。最早、チャージ斬りで迎え
撃つしかない。

 弾き飛ばす!

 ゼロの斬撃と、なのはの砲撃がぶつかり合った。激しい光が爆発し、ギャ
ラリーが衝撃に吹き飛ばされそうになる。
「フェイトちゃん離して! 離してよ!」
 空中で、なのははフェイトに羽交い締めにされていた。
 何が起こったのか、なのはが何をしたのか、周囲が気付き始めたのはこの
時になってからだった。
「私は負けない、負けられないの!」
 暴れるなのはに対して、フェイトは悲痛な表情をしながら魔法を使った。
 バリアジャケット越しにも効果のある電撃を発生させ、なのはの意識を奪う。
「ティアナは!?」
 地上を見るが、ティアナは無事だった。セイバーを構えたゼロが、彼女の前
に立っていた。
 どうやら、なのはの砲火を斬り飛ばしたらしい。
「あれを斬り飛ばすなんて……もう掛ける言葉すら見あたらない」
 ギンガが感嘆の声を出しながら、スバルと共に二人の下へと走る。
 当のティアナは、爆発の余波で腰を抜かしながらも自分を助けてくれたゼロ
に声を掛ける。
「あ、ありがとうございます……」
 しかし、ゼロはその声に応えない。
 身体から幾つも煙を出していた彼は、
「ゼロさん!?」
 セイバーを支えに、その場に膝を突いた。どうやら、斬り飛ばすには砲火が
強すぎたらしい。
 ゼロは、膝を突きながらも空中でフェイトに押さえ込まれたなのはを見た。
「似ているな、あいつに――」
 薄く笑うと、ゼロはその場に気絶した。

                                つづく


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最終更新:2009年01月16日 13:33