魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第九話

・本局内食堂

時刻は昼をかなり過ぎた午後3時、月村家では忍が午後のティータイムを、翠屋では近所の奥様方がお茶とシュークリームを味わっている頃、
時空管理局本局にある食堂では、母と二人の娘の親子と、一人のMS族の騎士がかなり遅めの昼食をとっていた。

「どうもありがとう、スバルを見つけてくれて。この子ったら、大人しいのに好奇心は旺盛なのよ」
「いえ、色々な事に興味を持つのは良い事です。それに申し訳ありません。私の分までいただいて」
「いいのよ、ほんのお礼。だけど、見事なテーブルマナーね・・・・・・まるでマナー教室の先生みたい」

フォークとナイフを器用に使いながら『料理長気まぐれハンバーグ定食』を食べるナイトガンダムに、
スバルの母、『クイント・ナカジマ』は素直に関心する。
ナイトガンダムとしても、当然のことをしているつもりだったが、感心されたことに悪い気はせず、自然と表情を綻ばす。
「できれば今度、器用にフォークだけでお子様ランチを食べる家の子達にも教えて欲しいわ」
自慢の娘を紹介する様に、彼女の隣でお子様ランチをおいしそうに食べるスバルとギンガの頭に手優しく手を乗せ、優しく撫でる。
突然母親に撫でられた事に二人はビックリするも、直にくすぐったそうに目を細め、身を任せた。


互いに自己紹介をした後、ナイトガンダムはスバルの母親を探すため、彼女の手を取り早速行動に移った。だが、
「(手掛りが無いのは・・・・・痛いな・・・・)」
とにかく本局の中は広い。以前リンディに案内はされたが、それもほんの一部。
正直、彼も転送ポットと資料室、戦艦のドックしか場所を把握してなかった。
それに、スバルから聞くことが出来たのは母親の特徴(彼女曰く、お姉ちゃんみたいに髪の毛が長い)のみで、
どうやって此処まで来たのか、どの部屋から出て来たのかなど、重要な部分は全く憶えていなかった。
「(とりあえず、周りの人達にこの子のことを聞いてみるか、此処へ来るのは初めてでは無いと言っていた。
だれか顔に見覚えがある人がいれば・・・・)」
リンディ達アースラの乗組員に頼ろうとしたが、端末を借りた時、彼女が『これからアースラの武装追加が終ったので試験航行に行く』
と言っていた事を思い出したため、その考えを捨てる。
「(そうなると・・・乗組員の皆・・・クロノも一緒か・・・・・・。いや、エイミィ殿は確か地球にいる筈、
いざとなれば、頼りにさせてもらおう)」 
とにかく、考えるより行動に移さねば始まらないと結論付けたナイトガンダムは、安心させる様にスバルの手を優しく握り締め、早速行動を開始した。

結論から言って、彼女の母親である『クイント・ナカジマ』と、姉である『ギンガ・ナカジマ』は直に見つかった。
いや、正確には『見つけてもらった』
ナイトガンダムの行動も空しく、近くを通る局員達に聞いてもスバルの事を知る人は一人もいなかった。
だが、彼が行動を移して数分経った時、クイントが彼らを見つけた事により、事態は簡単に解決した。

「さすがにあの子が一人で出歩いた時は正直慌てたわ。ギンガなんて泣いちゃったし・・・でもね、
『噂の異世界の騎士が迷子の女の子を連れている』って噂を聞いてね・・・・間違いないと思って行ってみたら大当たりってこと」
クイントの話しから、自分という存在がどれほど噂になっていたのか改めて実感したナイトガンダムは、
何とも恥ずかしい気持ちになる。
それを証明するかのように、人数が少ないとは言え食堂で休憩をしてる局員の殆どが、
自分達を・・・いや、自分をこそこそを興味丸出しの瞳で見つめていた。
「(・・・・・・どうも居心地が・・・・・・)」
彼らの気持ちも理解できる。原にラクロアでも自分という存在はMS族の中でもかなり浮いていた。
それゆえ、旅する時に訪れた村や町などでも、興味本位な目線にさらされた事もあった。
「(だが・・・・ここにはMS族はいない・・・・余計に目立つのは仕方の無い事か・・・・・)」
内心で覚悟を決めたナイトガンダムは、自然と声を出して溜息をついた。
そんなナイトガンダムを不思議そうに見つめるスバルとギンガ、
「ふふっ、心中、お察しするわ・・・・」
労いながらも、面白そうに微笑むクイント。それぞれ思いは違えど、親子と騎士の昼食はほのぼのと続けられた。

「そういえば、貴方はどうして此処に・・・・あっ、もしかして急いでた?」
食後のコーヒーを飲みながら、ふとナイトガンダムがここにいる理由を尋ねるクイントだが、
今になって自分が彼を殆ど無理矢理誘った事に気付き、気まずそうな顔をする。
そんな母親の気持ちに全く気が付かないスバルとギンガは、ただ純粋にナイトガンダムが此処にいる理由に興味があるのか、
オレンジジュースを両手に持ちながら彼の顔を覗き込む。
「いえ、だた調べ物をしていただです。」
気まずそうな顔をするクイントの事を察したナイトガンダムは、安心させるように微笑みながら端末を取り出し、
自分が調べ物をしていた事を話そうとする。だが、彼は途中で言葉を詰まらせ、数秒沈黙をした後、
情けないとは理解している物の、縋る様な瞳で自分を不思議そうに見つめているクイントを見据える。そして
「・・・・クイント殿・・・・・映像の出し方・・・・分かりますか?」
深々と頭を下げ、端末をクイントに差し出した。

「申し訳ありません・・・・・・資料を入力する方法は教わったのですが・・・・・取り出す方法を・・・・・」
俯き、か細い声で自分の失態を恥ずかそうに呟く姿に、クイントは生徒の失敗を優しくたしなめる先生の様に微笑みながら
ナイトガンダムから端末を受取り、彼が入力した資料の抽出作業を開始した。

彼女にしてみれば、第一印象とは言え真面目で丁寧な彼がこんなミスをする事、そしてそれを隠す事無く恥じる姿は可笑しくて仕方が無く、つい小さく笑ってしまう。。
(幸い、ギンガとスバルから質問攻めにあっている彼には、彼女の笑いはとどかなかったが)
「(だけどこれ、一部の部署にしか配置されていない最新型じゃない・・・・・純粋に羨ましいわ・・・・・)」
ナイトガンダムが持っていた端末は、一部の部署にしか配置されていない最新型、使ってみて分かったが、
自分が今使っている物とは機能や性能、使いやすさが全くちがう。
「(やはり海はすごいわね。地上でも一部の・・・それも隊長クラスしか持てない物をおいそれと貸すなんて・・・・・)はい、これ・・・・・・ね」
時間にして数十秒、ナイトガンダムに頼まれた通り、彼が調べ、端末に記録した資料を表示する。
それを見た瞬間、彼女は言葉を詰まらせると同時に、先程までは一切しなかったナイトガンダムへの警戒心を一気に強めた。
資料に書かれた『戦闘機人』という文字・・・・・彼女には無視する事が出来なかった。

「あっ、ありがとうございます・・・・・・・どうしました?」
突然、自分を見るクイントの目が、先程の親しげな物とは違い、明らかに自分を警戒している事に、
ナイトガンダムは不審感を抱くより、純粋に疑問に思う。
「(・・・何か失礼な事でもしてしまったのだろうか・・・・・・いや、もしかして)これらの資料の持ち出しに関してなら、
許可をとってあります。内容も、それ程重要な物ではないと確認は取ってありますから、問題はないと思うのですが」

確かに問題は無い。ここに入っている戦闘機人などの情報は、一種の報告書のような物。
重要性はほとんど無く、許可を取れば誰でも手に入り、持ち出すことも出来る。
だが、スバル達を保護したばかりの彼女にとって、数ある違法研究の中で、ピンポイントに戦闘機人関係の資料を集めた
ナイトガンダムの行動には自然と警戒心を強めてしまう。

「・・・あっ・・・ああ・・・ごめんなさい。変な目で見てしまって。最近資料の持ち出しが厳しくなってね。
私、それらの管理もやってるから・・・・・つい、癖が出て・・・・・」
即座に考えた嘘をつき、自分の警戒心の理由をどうにか誤魔化す。
だが、彼女のナイトガンダムへの不審感は未だに続いていた。
「(・・・・・・この戦闘機人の資料、私が担当した事件のレポートだわ。確かに重要なことは書かれていない。けど、
なぜこれを?・・・・・・興味本位にしては・・・・・まさか、あの研究所の回し者!!?)」
今度は敵意をむき出しにして睨みつけようとするが、直にその行動をやめる。
「(・・・・はぁ、落ち着け、クイント・ナカジマ・・・・・元々彼は異世界の住人、そんなわけ無いじゃない。
それに、仮にこの子達を狙ったいたのなら、自分達を探さずにスバルを攫う筈・・・・何考えてるのよ・・・私は)」
大きく息を吐き、無駄に高ぶった自分の感情を落ち着かせる。
正直自分らしくないと思う。戦闘機人関係とは言え、重要性が無い何処にでも手に入る資料を持ち、
スバルと歩いてただけで、見ず知らずの相手を疑うなんて。
「(でも・・・・・・必至になってたな・・・・・私。こんなにこの子達のこと・・・思えるんだ・・・・)」
正直な所、自分はこの子達の親になれたのか、自信が無かった。
『私はこの子達の親だ』そう言いきるのはとても簡単である。だが、自分が心からそう思えているのか、
『ただ可哀想だから』とう同情心で済ませていないか・・・・・・不安だった。
だが、今なら確信できる。自分は心からこの子達を『娘』と思っている。
直に感情に出してしまったが、その心に偽りが無い事、それは間違いないと今ならはっきりと言える。
「・・・・・ありがとうね・・・・ガンダムさん」
突然お礼を言われたナイトガンダムは、どう対処して言いのかわからず、ポカンとしてしまう。
その姿にクイントは微笑みながら、ふと気になったことを尋ねてみた。
「ねぇ・・・・ガンダムさん、一つ、質問いいかしら?」
「はい、私に答えられる事でしたら」
「ありがとう。この・・・・・戦闘機人のことなんだけどね、彼女・・・彼らは戦うために作られたと書かれてる・・・・・
これについて、貴方の意見を聞かせてもらいたいの」
無論、自分や夫であるゲンヤはそんな風には思っていない。体の一部に機械部品を使われ、戦闘用として作られていても、
この子達は人間であり、自分達の娘。その考えには間違いは無い。
だからこそ聞いてみたい。この資料を持ち出した彼に。自分の気持ちを・・・思いを再確認させてくれた彼に。
「・・・・先ず、『戦うために作られた』これは間違っていると思います。これは彼女達にその生き方しか出来ないと決め付けてる。
彼女達にも物事を考えることが出来る。心がある。自分自身で生き方を見つける事は出来る筈です。
それを『戦うために作られた』と勝手に決め付けているこの文章は・・・・・間違っていると・・・いえ、間違っています」

自分が居候させてもらっている月村家にも、本来戦闘用として作られた女性が3人いる。
だが、その内の二人は戦闘などせず、メイドとして若い主人へと仕えている。
無論、彼女達も戦う事は出来る。だが、それは他人に命令されてではない。自分の意思て戦った。
残りの一人も、自分の自由を勝ち取るために戦った。決して好き好んで戦ったわけではない。

ナイトガンダムの意見を、彼の瞳を正面から見据えながら聞いたクイントは、
満足した表情で大きく頷いた。そして心から思う、彼に聞いてよかったと。

「ねぇねぇガンダムさん!一緒に家であそぼ!!ねぇいいでしょ?」
ナイトガンダムと母親であるクイントの話しの区切りがついたと感じたスバルは、
席を立ち彼の横へと駆け足て駆け寄り、期待で満ち溢れた瞳で椅子に座っている彼を上目遣いで見据える。
ギンガもまた、妹と同じ気持ちなのか、席には座ってはいるが、同じく期待に満ち溢れた瞳でナイトガンダムを見据えていた。
彼も、決して彼女達と遊ぶ事が嫌いなわけではない。だが、あの戦いの後から、全く会っていないイレインのことが彼には気がかりだった。
おそらくは、もう目覚めている筈。だからこそナイトガンダムはその誘いを断ろうとした、その時
クイントにあずけっぱなしだった端末から、携帯電話の着信音に似たアラームがなり、画面にエイミィの顔が映し出された。
「ガンダム君たいへ・・・・・・・・え~っと・・・どちら様・・・・・ですが?」
本来の持ち主であるナイトガンダムではなく、美人と言っても過言ではない女性の顔が映し出された事に、
エイミィはどうしたら良いのか言葉を詰まらせる。
だが、クイントは直に状況を理解、未だにどうしたら良いのか困惑しているエイミィに軽く断りを入れた後、
ナイトガンダムに端末を渡した。
「あっ、移った移った!!まったくガンダム君、そのマスコット的な体系と紳士的な態度でもう美人をナンパ?」
先程の慌てた表情から一変、見ず知らずの美人と一緒にいたことに関し、エイミィはいつもの癖で早速チョッカイを出す。
「・・・・『なんぱ』の意味が理解できないのですが・・・・・。わけあって知り合い、昼食をご馳走になっていました。
それで、どうしたのですか・・・・・・・まさか・・・・」
「そう、そのまさか・・・・・・現われたの・・・・・」
先程の明るさに満ち溢れた表情から一転、深刻さを含んだ表情に変わったエイミィは、簡潔に現状の報告をする。


エイミィの話しでは、文化レベルが0の次元世界に、突如二人の守護騎士が現われたこと。
結界を張れる局員の到着まで最速で45分掛かり、どうしても足止めが必要な事。
その次元世界は本局からの方が近く、丁度いるナイトガンダムに行ってもらいたい事。


「本局にも、結界を張れる局員はいるんだけどね・・・・・出払っていて数人しかいない、人数が揃っていない以上、彼女達の実力じゃ簡単に突破される。
武装局員も、今出られる人員じゃ返り討ちにあうのがオチ・・・・・・フェイトちゃんとアルフが向かっているけど、時間的に
数十分掛かる・・・・・・逃げらえるかもしれない・・・・」
「分かりました、私が向かいます。詳しい場所を教えてください」
彼の答えを予測していたのだろう。エイミィは即座に詳しい場所の転移情報を、彼が持っている端末へと転送した。
「これで、転送ポットに入っただけで到着できる・・・・・・気をつけてね・・・・・・」
「御意」
エイミィに不安を打ち消すようにしっかりと頷き、通信をきった。


・次元世界


文化レベル0・・・・それを証明するかの様な世界。
辺りには建物は勿論、緑や水源すらない。ただ砂漠のみが地平線の彼方まで広がっている世界。
太陽の光が容赦なく照り付き、乾いた大地を更に乾かせる。
正に生命が生存するには絶望的ともいえる世界。だが、そんな不毛な大地にも生物は存在した。
赤竜と呼ばれている竜に分類される生物が。
体長は数十メートルにも及ぶ大型の巨大生物であり、外見はミミズに酷似し、空を飛ばずに砂の中を移動する。
体は硬い鱗に覆われ、物を使む腕や爪の変わりに、多数の触手を使用する。
下手な魔道師なら、数分と立たずに彼の餌となるほど戦闘力も高く、本来なら好き好んで関わる事などしない。
だが今、その赤竜に正面から戦いを挑んでいる一人の騎士がいた。

体中から独特の緑色の血液を流し、苦しさを周囲に表現するように吼える赤竜。だが、その瞳は
自身にこれほどの仕打ちをした騎士を正面から見つめていた。

「はぁ・・・はぁ・・・・」
対して、赤竜と戦っている騎士『烈火の将・シグナム』も、息を荒げならも収集対象である赤竜を正面から見据える。
赤竜とは違い、彼女の体には怪我どころか、騎士甲冑の綻びすらない。だが、
「はぁ・・・はぁ・・・・ヴィータが・・・手こずるわけだ・・・・・」
自分の戦闘スタイルは正に対人戦闘向け。このような十数メートル級の相手との戦いはあまり向かない。
それでも、ヴォルケンリッターのリーダーでもあり、誇り高いベルカの騎士である彼女なら問題なく倒す事は出来る。だが、
目的は赤竜の始末ではなく内にあるリンカーコアの収集。殺す事は出来ない。
ある程度ダメージを負わせ、弱らせなければいけない。戦い難い上に手加減をしなければならない。彼女にしてみれば分の悪い戦いである。
だが、この竜の魔力量は無視できない。収集は必至、収集活動が制限されている今、見逃す事は出来ない。
「ヴィータのような巨大な獲物があればな・・・・・・・ふっ、贅沢は言ってられんか・・・・・」
無論、自分のデバイスを非難しているわけではない。だが、巨大な上に殺す事ができない以上、斬るのではなく叩き伏せることが出来る
ヴィータのアイゼンの形態の一つ『ギガントフォルム』の方がこの様な相手には向いているため、自然と口に出してしまう。

「・・・・・・厄介な相手ではあるが・・・そろそろか・・・・」
見た所、相手のダメージもかなりの物、あと一撃与えれば収集が可能の筈。なら直に実行に移すのみ。
相手の動きに注意しながら、カートリッジが無くなったレヴァンティンに補充しようとしたその時、
赤竜の雄叫びと共に、シグナムの後ろの地面が盛り上がり、赤竜の巨大な尻尾が飛び出した。
「ちっ!!潜れるんだったな!!!」
後ろからの奇襲に驚きながらも、シグナムは距離をあけるため即座に上空へと逃げようとする。だが
赤竜は即座に無数の触手を上空へと逃げようとするシグナム目掛けて伸ばし、彼女の体を絡め取った。
「くっ・・・・・・しまった・・・・」
縛り付けるのではなく、体を容赦なく締め付ける触手に、シグナムは顔を顰め、痛みを堪えるために歯を食いしばる。
そんな彼女の表情を楽しむかのように、赤竜は締め付けられる姿を覗き込むように見つめながら徐々に近づく、そして
「くっ・あ・あああああっ!!!」
触手の締め付けが一段と強くなり、シグナムの胸に、太股に、体に容赦なく食い込む、体が弓の様に反り
口からありったけの空気を吐き出す。
そして、赤竜はトドメを刺すため、自身の尻尾をシグナム目掛けて振り下ろした。
尻尾の先端は巨大な針となっており、大きさも合間って、直撃をすれば串刺し所ではない。
シグナムは引きちぎらん勢いで締め付けられる激痛に耐えながも、どうにかフィールド魔法『パンツァー・ガイスト』を張ろうとする。
だが、既に尻尾の先端は彼女の目の前まで迫っていた。
「(・・・・・っ主!!)」
目を瞑り、来るであろう激痛に絶える。いや、そんな物を感じる事すら出来ないかもしれない・・・・・・そして


                       ガキッ!!

聞こえたのは肉を引き裂く生々しい音ではなく、甲高い金属音。
全く痛みが感じられない事、そして耳に劈くように聞こえた金属音に、シグナムは閉じていた瞳をゆっくりと開ける。
「・・・・お前は・・・・」
其処には一人の騎士がいた、甲冑を身にまとい、ヴィータと互角に戦った異世界の騎士。
「・・・・騎士・・・・ガンダム・・・・・」
「くっ・・・・おぁおおおおお!!!」
シグナムに振り下ろされる筈だった攻撃を、正面から盾で防いたナイトガンダムは、
未だに盾に叩きつけられてる尻尾の先端を、力づくで横へと払う。

突然現われ、狩りの邪魔をされたことに赤竜は自身の怒りを訴える様に吼え、シグナムを絡めとったものと同じ触手を放つ。
ナイトガンダムを絡め取るために迫り来る無数の触手。だが、彼は逃げようとはせずに剣を横に構える。そして
『ムービー・サーベ!!!』
構えた剣を横になぎ払うように振るい、斬撃魔法『ムービー・サーベ』を迫り来る触手に向かって放った。
『サーベ』以上の斬撃力持つ攻撃魔法に、ナイトガンダムを絡め取る筈だった触手は次々と斬られる。
だがそれだけでは留まらず、彼が放った斬撃魔法は切れ味を変える事無く赤竜に直撃、巨大な体に大きな傷を残した。
致命傷ともいえる傷を作り、其処から大量の血液を流しても尚、赤竜は倒れる事無く雄叫びを上げ、今度はナイトガンダムを飲み込まんと
巨大な口を開け、襲い掛かる。
「・・・やはり、巨大すぎる・・・・・なら!!」
右手に持っていた剣を盾に仕舞、代わりに背中に背負っていた電磁スピアを構えると、赤竜に対抗するかのように正面から突撃、
正面から響き渡る雄たけび、自分を簡単に丸呑みできてしまうほどの大きく其処が見えない大きな口、
相手を怯ませるには十分な脅威。だが、ナイトガンダムは迫り来る触手を交わしながら臆する事無く突き進むそして、
「・・・・・すまない・・・・・」
小さな顔で短く謝罪した直後、ナイトガンダムは電磁スピアの切っ先を赤竜の眉間に突刺す、そして
『ファンネル!!!』
電撃魔法『ファンネル』を、電磁スピアを媒体にし、赤竜の中へと流し込んだ。
その電撃は瞬く間に全身に行き渡り、赤竜の体を発光させる。そして、断末魔ともいえる唸り声を上げた直後、
赤竜はその巨体を砂漠の大地に叩きつけるように倒し、数回痙攣した後、動かなくなった。

だらしなく開いた口から血を垂れ流し、体から煙を立ち昇らせる赤竜の前に降り立ったナイトガンダムは、
握り締めた右腕を胸の前にもって行き、黙祷をする。そして、
盾に絞まった剣を再び右手に持ち、ゆっくりと後ろを振り返った。

「・・・・何故助けた・・・・・」
締め付けられていた体を軽く解しながらも、油断無くナイトガンダムを見据えながらシグナムは尋ねる。
「・・・私は貴方を倒すのが目的ではない・・・・・それに、騎士として危機に陥った女性を助けるのは当然です」
真っ直ぐに自分を見据えながら答えるナイトガンダムに、シグナムは小さく笑みを漏らす。
「(この瞳・・・・・嘘偽りは無し・・・・か)・・・・『助けた』事に関しては一応礼はいっておく。ありがとう。だが、
収集対象である赤竜を潰されてしまった事には・・・・・・感謝は出来んな・・・・・」
空になったレヴァンティンにカートリッジをつめながら、シグナムは様子を伺いながらも、次の行動を考える。
「(・・・・・本当なら撤退するのが一番・・・・だが、奴の魔力は無視できない。一人である今の状況がチャンスか・・・・)」
おそらく別の場所で収集作業をしているザフィーラも、この現状には気づいている筈。
もし2対1になれば、高確率で奴を倒し、上質の魔力を手に入れることが出来る。
だが、それは向こうも同じ事、先にガンダムの仲間・・・テスタロッサ達が来てしまえば自分達の身が危なくなる。
「(正に博打だな・・・・・・だが、このようなチャンスはあるまい・・・・それに)」
これは私情とシグナム自身も理解はしてる。本当なら愚かな行為。だが、一人の騎士としての彼女が心から望んでいた。

               「ガンダムと、一対一で剣を交えたい」

腹は決まった、ならば、実行に移すのみ。

「(・・・・・戦うしか・・・・ないのか・・・・・)」
シグナムの瞳を見たガンダムもまた、彼女が何を望んでいるのか理解できた。
おそらく、言葉を投げかけても依然戦ったヴィータという少女同様、理由を話してくれるとは思えない。
だが、逃がすわけにも行かない。彼女からは聞きたいことがいくつもあるからだ。

「(言葉を投げかける事は出来る。だが、力を使わない言葉のみの話し合いでは、解決はできない時もある・・・・・か・・・・・」)」
覚悟は決まった。ならば、自分も彼女の思いに答えるのみ。

互いが剣を構えたのは同時だった。赤竜がいない今、聞こえるのは風の音のみ。
太陽の光りが二人の体を容赦なく照りつけ、空を漂う雲がそんな二人を守るように影を作ろうとした・・・・・・その時、

「っ!!」
「はぁ!!」

二人は一斉に地面を蹴り、剣を交えるべき相手へと突撃、ナイトガンダムは振り被った剣を振り下ろし、
シグナムは横に構えたレヴァンティンを力任せになぎ払うように振るう。
空中で互いの愛剣が甲高い音を立てぶつかり合い、周囲の砂が衝撃で吹き飛ぶ。
互いにそのまま鍔競り合いなどせす、二人は直に剣を離す。そして着地した瞬間、再び地面を蹴り突撃、
今度はヒット&アウェイの戦法で二人は相手に一撃を与えた後、すれ違う。
だが、ナイトガンダムの斬撃はシグナムの『パンツァー・ガイスト』に防がれ、シグナムの斬撃はナイトガンダムの盾に防がれてしまい
双方ダメージを与えずに終ってしまう。
互いに再び地面に着地。だが、今度は互いに背を向けているため、瞬時に様子をうかがう事ができない。
シグナムは直に体をナイトガンダムの方に向ける。だが、
先に行動したのはナイトガンダムの方だった。
『ホバー!!』
着地した瞬間、自身のスピードを上げるブースト系魔法をかけ、一瞬でその場から移動。
シグナムが振り向いた時には、彼の姿は其処には無く、既に彼女の後ろへと回っていた。
「(もらった!!)」
直に飛び上がり、後ろを向いてるシグナムの頭目掛けて剣を振り下ろす。だが、
僅かな空気の揺れ、後ろから感じられる気配、それらを瞬時に感じ取ったシグナムは、振り向いた瞬間
左手に持っていた鞘で彼の斬劇を受け止めた。
凄まじい力が左手に加わり、両足が砂にめり込む。だが、耐えることは出来た。そして隙も出来た。
振り下ろした時の一番重みのある斬撃を防いだのだ。これ以上強い力が加わる事はない筈。シグナムはそう思い、
右手に持つレヴァンティンでナイトガンダムを叩き伏せようとする。だが、
『ゼータ!!』
自身の剣がレヴァンティンの鞘に防がれた瞬間、ナイトガンダムは自己ブースト魔法で力を増幅させ、
レヴァンティンの鞘を叩き斬る勢いで剣を押し付けた。
突然の力に、シグナムは震える左腕に力を入れ、弾き飛ばされないようにしっかりとレヴァンティンの鞘を握り締める。
だが、上からかかる圧力に、彼女の両足はゆっくりと砂に埋もれていく。
「(自己ブースト魔法!?こしゃくな!!)」
レヴァンティンの鞘から聞こえる金属が軋む様な音に、シグナムは隠す事無く顔を顰める。
だが、彼女もこのまま鞘が砕けるまで踏ん張るつもりは無い。
即座に右手に持つレヴァンティンのカートリッジをロード、剣身に炎を纏わせた魔剣を横薙ぎに振るい、ナイトガンダムに叩きつける。
横から来る魔剣の洗礼を、ナイトガンダムは咄嗟に左腕のシールドで防御する。だが、身体への直撃は免れても、
直撃による衝撃までは防ぐ事が出来ず、真横に豪快に吹き飛ぶ。
「くっ・・・・だが!!」
吹き飛ばされながらも、飛行魔法を駆使し、勢いを殺しながら大地に着地、踵で砂を削りながら勢いを殺す。

その隙にシグナムはレヴァンティンのカートリッジを再びロード、シュベルトフォルムからシュランゲフォルムへと変形させる。
そして、蛇腹剣『鞭状連結刃』となったレヴァンティンを、ナイトガンダム目掛けて振るった。
鞭の様に撓るレヴァンティンは、砂の大地を削りながら獲物を狙う蛇の様にナイトガンダムに迫る。

「くっ!?まさか変形するとは!」
呟きながらも後ろへと飛び、最初の攻撃を防ぐ。だが、シュランゲフォルムと化したレヴァンティンは
獲物であるナイトガンダムを逃がさまいと、彼に喰らいつく。
「・・・・だめだ・・・・避けるのに精一杯だ・・・・」
正にナイトガンダムは彼女が操るレヴァンティンに翻弄されていた。
どうにか直撃は避けてはいるが、避けるたびに直に自分を絡め取らんと迫り来る。
操るシグナムに攻撃をする今さえ与えてくれない。
一度、即座に撃てる『サーベ』でレヴァンティンの破壊をもくろんだがビクともせず、
逆に撃った瞬簡に隙を作ってしまい、蛇腹剣の洗礼を浴びる事となった。
正直な所、このままではジリ貧・・・いや、自分の体力が持つかどうかも怪しい。
ならば打開策は一つ・・・・・・攻めるしかない。
「とにかく、この鞭の様な剣を・・・・・・・っ!!」
『鞭』という単語を呟いた瞬間、ナイトガンダムの脳裏にあの時の戦闘がフラッシュバックする。
あの時も同じ様な状況だった。高圧電流を帯びた鞭『静かなる蛇』に振りまわされた、イレインとの戦いを。
「・・・・・なら、同じ方法で!!」
数十回目となるシュランゲフォルムの攻撃を避けたナイトガンダムは着地した直後、剣を盾に仕舞い、代わりに後ろに背負っている電磁スピアを取り出す。
突然武装を変えたことにシグナムは眉を潜めるが、攻撃の手は緩めず、レヴァンティンをナイトガンダムに向けて振るう。
だが、彼の行動は今までとは違った、避けようとはせず、じっと蛇腹剣が自身に迫り来るのを待つ。そして
「・・・そこ!!」
迫り来る蛇腹剣の切っ先目掛けて、電磁スピアを突く。甲高い金属音と共に蛇腹剣はその勢いを一気に失うが、破壊するまでには至らず、
多少傷を作っただけ。だが、ナイトガンダムの目的は達成された。
シグナムが再びレヴァンティンに勢いをつけるより早く、ナイトガンダムは電磁スピアを器用に動かし、蛇腹剣を絡め取る。そして
『ファンネル!!!』
先程赤竜を倒した電撃魔法『ファンネル』を放つ。ナイトガンダムから放たれた強力な電流は、先程赤竜を倒したときの様に
電磁スピアを媒体とし、絡まっているレヴァンティンをに流れ込む、そしてその電流はレヴァンティンを通じ、所有者であるシグナムにも容赦なく流れ込んだ。
「くぁあああああああああああああああ!!」
突然体に流れ込む電流に、シグナムは体を弓の様に反りながら苦しみの声をあげる。
女性が苦しむ姿に罪悪感を感じながらも、ナイトガンダムはレヴァンティンが絡まった電磁スピアを近くの岩場目掛けて投げ突刺し固定、
空いた右腕に三度剣を持ち、地面を蹴る。
体から白い煙を立ち上らせながらも、倒れまいとどうにか体を踏ん張るシグナムに斬りかかるために。

「くっ・・・・やって・・・・・・くれたな・・・・・」
唇をかみ締め、飛びそうになる意識をどうにか抑えながらも、どうにか体制を立て直す。
「(・・・・・まだ、戦う事は出来る・・・・レヴァンティン!!いけるな!!?)」
長い付き合いだ。自身の相棒の丈夫さは十分理解できているが、相棒からのやる気のある声を、
『無論!!』という声を聞き、自身に活を入れたいため、シグナムはあえて尋ねる。だが、レヴァンティンから聞こえたのは
自身の状態を報告する声でもなければ、主であるシグナムを激励する声でもなく
『対象が急速接近!!!!』
ナイトガンダムの接近を警告する声だった。

いかに相手との距離が離れていても、相手や周囲の警戒は当然行う必要がある。
だが、『ファンネル』の直撃を受けたシグナムは自身の体制維持で精一杯だった。正直、周囲の警戒などする暇など無かった。

彼女がようやく接近するナイトガンダムの存在に気づいた時には、既に彼が飛び上がり、剣を振り被ろそうとしてる瞬間、
すぐにでもレヴァンティンで受け止めるべきだが、今は蛇腹剣であるシュランゲフォルム、元に戻す時間が無い。
いや、それ以前に切っ先がナイトガンダムの槍に絡め捕らえているため、元に戻す事も出来ない・・・・なら
「レヴァンティン!!」『パンツァー・ガイスト』
長い付き合いである。レヴァンティンはこのような状態で彼女が何をしたいのか、直に理解出来た。

「っ?!」
剣を振り被り、あとは力の限り叩きつけるように振り下ろすのみ。
相手は剣を構える余裕はないし、『フィールド』といった防御魔法も、この状態では満足には張れない筈。
後は『非殺傷設定』という魔法を施してある自分の愛剣を、目の前の騎士目掛けて振り下ろせば・・・・・・終る。
直撃まで後数秒・・・・・・本当なら一瞬の内に過ぎるこの時間も、激闘を繰り広げている二人にはとても長く感じ取られる。
ナイトガンダムは願った、『早く時が過ぎれ』と『これで決着がついてくれ』と・・・・・・だが、
シグナムの左腕が急に淡い光りに包まれると同時に、自分を敗北など感じさせない、自信に満ち溢れた瞳で見つめられた瞬間、
彼は確信した。『この戦いがまだ続く事』そして『この攻撃が防がれる事』を。

シグナムは左腕にのみパンツァー・ガイストを張り、左腕に装着されてる手甲の強度を上げる。
そして強化された手甲を、振り下ろされるナイトガンダムの剣に向かって叩きつけることで、斬撃を防いだ。
だが、ナイトガンダムは即座に『ゼータ』を使い振り下ろす力を強化、その結果パンツァー・ガイストで強化された手甲にヒビが入る。

パンツァー・ガイストで強化された手甲にヒビが入っても尚、シグナムは慌てる様な事はしなかった。
いや、むしろ喜びたい位だった。『この程度』で済んだことに、『時間が稼げた事』に。
おそらく、目の前の騎士はこのまま押し切るつもりだろう。今、自分の右腕にはレヴァンティンは無い。
先ほどの様に横からの斬撃は来る事が無い筈だからだ。だが、その考えは間違っている。
確かに『騎士』である以上、武器を持たない丸腰なら攻撃は無いと思っても仕方が無い。だが、ベルカの騎士は違う。
「・・・その事を・・・・・分からせてやる!!」
右手を握り締め後ろに引く、その直後、剣を防いでいた手甲が砕かれる。だが、
それより先に、後ろに引いていた彼女の右腕は激しく燃え上がる。そしてガンダムの剣が彼女に切りかかろうとしたその時、
『紫電一閃!!!』
燃え上がる彼女の拳は、ナイトガンダムの体に吸い込まれるように叩きつけられた。
拳が叩きつけられる瞬間、手首を内側に捻り込むことにより破壊力を増した拳(俗に言うコークスクリュー)は、
何の防御もしていなかったナイトガンダムを豪快に吹き飛ばした。
数回砂漠の大地に叩きつけられながらも、その勢いは止まらず、バウンドを数回した後、激しく転がりようやく止まる。
「っ、ゲホッ!!!ゲホッ!!」
人間で言う所の鳩尾に直撃したため、激しく咳き込みながらも、即座に体を起こす。
「ゲホッ!・・・・鎧が無かったら・・・・・まずかった・・・・な・・・・」
正に油断だった。『愛用の武器がない彼女にはまともな攻撃手段が無い』そう思い込んだ自分の完全な油断。
もし致命傷を与えるような攻撃だったら、自分はあの時に敗北していた。
正に今回の攻撃は、純粋に身に着けている鎧の強度に助けられた・・・・・・『運が良かった』だけに過ぎない。

「(っ!!後悔は後だ!!今は戦いに集中しなければ)」
軽く頭を振り、迷いを断ち切る。そして、吹き飛ばれても尚、離さずに右手に持っていた剣を握りなおし、
再び接近戦に持ち込もうとした。だが、距離にして数十メートル先にいるシグナムの姿を確認した彼は
行おうとした行動を自主する。
「何だ?何をする気だ?!」
ナイトガンダムがシグナムの姿を確認した時、彼女は、既に元に戻したレヴァンティンを鞘に収めていた。
これだけなら彼も行動を自主するような事をしない。だが、彼女の周りを取り囲む魔力の波が、彼の行動を自主させた。
「(・・・接近をせずに、魔力を・・・蓄えてる?砲撃か何かか!?)」
あり得る可能性である。自身の剣を使わなくても、あのような攻撃が出来たのだ。
射撃や砲撃のような攻撃が出来てもおかしくはない。
「(・・・・・距離からして数十メートル・・・もし、近づいている最中に放たれたらマズイ・・・・・なら、対抗するのみ!!)」
ゆっくりと目を閉じた後、剣を逆手に持ち、呟くように詠唱を開始する。徐々にナイトガンダムの剣に魔力が集まり、白く輝きだす。
彼女の魔力量から効力を計算した結果、自身が覚えていて対抗でき、尚且つ短時間で放てる魔法はこれしかないと結論付けたナイトガンダムは、
自身が使える上級魔法の内の一つを放つため、焦る気持ちを抑えながらも詠唱を続ける。そして
「飛竜・・・・・・一閃!!!!」
レヴァンティンをシュランゲフォルムにし、鞘から勢いよく抜き出す。軽く振り回しながら、独特の鞭状連結刃に
辺りに圧縮放出させた魔力を纏わせた後、倒すべき敵、ナイトガンダムに向かって撃ち出した。

シグナムが技を撃ち出した直後、ナイトガンダムも詠唱を終える。
目を開けられないほど眩しく輝く剣を強く握り締め、迫り来る破壊の嵐を正面から見据えた後、放った。
『メガ・サーベ!!!』
腰を大きく振り、逆手に持った剣を横薙ぎに振るう。
振るわれた剣から、光りのみが飛び出し、それは徐々に巨大なブーメラン上の斬撃刃となって目標へと迫る。
そして、互いの魔法が重なり合った時、文化レベル0の砂漠の世界に、今まで以上の巨大な爆発音が響き渡った。


・同次元世界

ナイトガンダムが到着して数十分後、フェイト・テスタロッサは現場へと到着した。
途中でアルフと別れた彼女は、早速ナイトガンダムの応援に向かう。

本当なら直にでも念話で彼の居場所を把握したかったのだが、この辺一体に通信妨害のような者が施され、
念話を使う事が出来なかった。
そして転送位置も、本来予定した所とはかけ離れており、ほぼ間違いなく誰かの邪魔が入っていることを確信させる。
守護騎士の中には、結界を張るなどのサポートに特化した人物がいることは確認できた。おそらくその騎士に仕業だろう。
そうなると、近くにもう一人いる・・・いや、下手をすれば2対1でガンダムと戦っているかもしれない。
「(でも、エイミィからは場所を聞いている・・・・急がないと)」
スピードには自身がある。数分でナイトガンダムの元につくことが出来る筈。
あの『守護獣』の相手をすると言い、分かれたアルフとも連絡がつかないことに不安を感じながらも、
フェイトは黄金色の光となって空をかける。

            「フェ・・・・・フェイト・・・・・」

順調にナイトガンダムとの距離を縮めている彼女の頭に、苦しそうな声が響く。
もし、普段のフェイトだったら、落ち着いて対処していただろう。
いや、『なぜ念話が使えない中で他人の念話を聞き取る事が出来るのか?』その不審点に気付き、警戒すらしていただろう。
だが、自分の頭の仲に響く苦しそうな声、彼女には聞き覚えがあった。いや、聞き間違える筈がなかった・・・なぜなら


                     「ア・・・アルフ!!!?」

姉妹の様に接してきた、自分の使い魔なのだから。

程なくして、フェイトはアルフを見つける事が得来た。だが、体は血まみれ、バリアジャケットはボロボロ、誰が見ても無事とは思えなかった。
その悲惨な姿に、フェイトは一瞬我を忘れそうになるが、『アルフを助けたい』という思いが彼女を突き動かした。
仰向けに倒れている彼女の背中に手を回し、ゆっくりと抱き起こす。
すると、アルフは苦しそうに唸った後、瞳を開け、フェイトを見据えた。
「・・・ごめん・・・・ごめんね・・・・フェイト・・・・・」
「いいよ!!アルフが無事でよかった・・・・・まってて、今回復魔法を」
アルフの胸に優しく手を置き、回復魔法を掛ける。その間、アルフはずっと謝っていた。
「いいんだよアルフ・・・・・アルフのせいじゃない・・・・・・だから謝らないで・・・・・」
フェイトはアルフを安心させるように笑顔で答えるが、アルフは彼女の顔を見ずに俯く。そして
「・・・ううん・・・謝らないと・・・・・」

小さい声なのにはっきりと聞こえるアルフの声、その直後

                     ザシュ

アルフの腕が、フェイトの胸に突き刺さった。
「えっ?」
フェイトは何が起きたのか理解できなかった。

なぜアルフの腕が突き刺さっているのか?

なぜ痛みが無いのか?

なぜアルフは面白そうに笑っているのか?

その答えを聞く間も無く、フェイトは意識を失った。
「だからさぁ・・・言ったじゃん、『謝らないと』って・・・・」
フェイトの胸から腕を引き抜いた後、先程の痛がり様が嘘の様に、軽々と立ち上がったアルフは、邪悪に微笑みながら、
気を失ってるフェイトの顔を面白そうに見つめる。
「でも、ちゃんと謝ったよ・・・だから、これは貰っとくね」
先程までフェイトを貫いていた掌には、彼女のリンカーコアが、眩しく輝いていた。

 

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最終更新:2009年01月16日 15:20