私 遺失物管理部・機動六課のスターズ分隊の分隊長、高町なのはは大きくため息をついた。
今まで教導隊と呼ばれるエース育成の仕事をして来た私は、この新しい職場でも新人フォワードの訓練も任されている。
タメ息の原因、悩みの種はそのフォワード達だ。出来が悪い? 使えない? そんな事は無い。
どの子も魔道師としては優秀だし、各分隊のフォワードの一人ずつは優秀な指揮官としての才能もある。
でも……その指揮官としても優れた二人のフォワードの関係が最悪なの。

「ミッションコンプリート……だけど私の言いたい事が解るかしら? 泥棒トラ」

私の分隊の指揮官候補、オレンジの髪をツインテールにした銃型デバイスの使い手 ティアナ・ランスターが睨みつける先……

「えっとですね? まずは落ち着いて話し合いを……」

困った表情を浮かべる桃色の髪の少女は、ティアナよりも年下で小柄。
ドラゴンを従える竜召喚士 キャロ・ル・ルシエ。だけど彼女の本質はそこではない。

「話し合い? んなモンは必要ねえ」

彼女の胸で金のリング、その中心でデフォルトされた一つ目が輝く時、彼女の口調・雰囲気は一変する。
目に見えた変化としては表情。釣りあがった目には交戦的な光、歪んだ口元には嘲り。
私の今までの人生経験からすれば、こういった人は基本的に『悪』であり『敵』だった。
だけど彼 バクラはキャロの特殊なユニゾンデバイスに宿る管制人格で味方……のはず?

「どうして必要ないのか教えてもらえる?」

「エリオの突入のタイミングはアレで良いんだ」

ぶつけ合うのは言葉だけじゃない。視線と闘志をぶつけ合うティアナとキャロ……じゃなくてバクラ。
議論されているのは今の訓練 突入訓練の過程。どんなに仲が悪そうでも結果だけは出すのがこの子達一番の特徴かな?

「はぁ? スバルとの合流に時間が掛かってるじゃない。エリオだけ中に放置するのは危険、つまり早すぎよ」

「あん? エリオの制圧が迅速だったからこそ、スバルの突入と二階部のクリアーが迅速に進んだんだろうが!?」

「それは結果論だわ!」

「おう、結果論で悪いか? 結果は何よりも優先されるだんよぉ! エリオの能力なら問題ないと判断したぁ」

「エリオ! アンタはそれで良いわけ!?」

いきなり議論の矛先が飛んできて、スバルと一緒に傍観していた赤髪の少年 エリオ・モンディアルの肩がビクリと跳ねる。
でもティアナ、その質問は墓穴を掘ったとしか言えないな。
だってエリオはキャロ(とバクラ)の分隊メンバーであり……その舎弟?

「えっと……バクラさんが信頼してくれてるなら、嬉しいです!」

「よく言ったぜ、エリオ。あとで相棒に撫でて貰え」

「何をそんな目をキラキラさせてんのよ!? スバル!!」

全くだね~うんうん、その気持ちよく解るよ? ティアナ。エリオの将来が心配だな~あとでフェイトちゃんに相談しよう。

「えっ!? 私? 私もティアナの事を愛してるから……」

「そんな事を聞きたいんじゃない!!」

スバルもスバルで状況についていけないというか、流れを読みすぎるというか……困ったな~
もし訓練の結果が芳しくなければ、『チームワークがダメだ!』と怒る事ができるんだけど……結果が良い。
だから困るのだ。まるでスターズとライトニング、二つの分隊がぶつかり合うように成果を出す。
競い合うと言うには余りにも苛烈で、激しい言葉が交差する本当のケンカみたいなのに。


「さて! 身の程知らずも躾け終えたし……引き上げるか、エリオ。それにチビ竜」

「あっはい!」

「キュックル~」

私まだ解散の指示を出して無いんだけどな~まぁ終わりなのは事実だからしょうがないか。
まるで教官と言う存在を忘れているような四人に咳払いを一つしてから声を上げる。

「は~い! じゃあ今日は解散。しっかり食べてしっかり寝て、チャンと疲れをとってね~」

「「「は~い!」」」

「ちょっとバクラ! こいつ等を退かしなさいよ!!」

あれ? 元気が良い返事の他に何やら不満の声が聴こえた。
ふと見ればティアナが触りたくも無さそうな気味の悪い怪物達の下敷きに成っている。
一度夢にさえ出てきたキャロとバクラが使用する死霊召喚により生み出された姿ある幽霊。
ティアナが死霊に押しつぶされているという光景は、訓練の結果についての討論が『ケンカ』に移行するのならば、定期的に見かけた。

「も~ティアナもケンカしなきゃこんな目に会わないのに~」

「ウッサイ! 人にはどうしても譲れないモノがあんのよ!!」

スバルが呆れたようにティアナの上で山済みになっている怪物達を引っぺがしていく。
訓練学校以来の友人に救助されながらも、犠牲者はちょっと違う事を考えているみたい。

「そうよ! 反応は出来てた。でも攻撃の手が追いついていない。つまり……デバイスが二つ在れば……」

「わ~ティアナ! 二丁拳銃だね!? 『はりうっど』だよ~」

……ケンカの勝敗の為に新しい戦闘スタイルを考えないで欲しい。できれば私に相談をしてさ。
と言うかソレが普通だよね、うん。やっぱり変わった子が多いな~教導隊のときは大違いだ。
うん? 隊舎の屋上からこっちを見てニヤニヤしているのはフェイトちゃん。人の苦労も知らないで……これはお仕置きが必要なの。


私 シャリオ・フィニーノはこの遺失物管理部機動六課と言う新しい仕事場を気に入っていた。
新しい実験的な部隊と言う点で安定性に欠けるが、ソレを補って余りある魅力がある。
若いけれど将来有望なフォワード陣や優秀なバックアップが揃い、トップには管理局のホープ三人が名を連ねる。
その後ろ盾も聖王教会や本局の提督クラスまで選り取り見取り。そして何より……

「潤沢な資金と設備でデバイスを作ったり、調整できるのが良いわ~」

特に新人フォワードたちのデバイスは、訓練の内容にリンクする形でリミッターを解除したり、調整を加えて完成形を目指す。
デバイスマスターの独り善がりではなく、使い手と二人三脚で完璧を作り出すというのは、こう言った部隊でなければ出来ない。
お堅いエリートでもなく、完成しきったエースでもない。未完成こそが職人のもっとも嫌う物であり、同時に愛すべき物なのだ。

「……な~んてね!」

如何した事か仕事中だと言うのにテンションが高いな、私。まぁ、それだけこの職場が気に入っていると理解してくれれば良い。
おっと早速、私の最高の時間をプレゼントしてくれる人が来たようだ。

「あっシャーリーさん、ちょっと良いですか?」

「もちろん!」

尋ねてきたのは桃色の髪の幼い少女とそれにつき従う白い小さな竜種。
怒られもせず、かといって大人し過ぎもしない風に管理局の制服を着崩し、胸元には金色のペンダントが揺れている。
少女の名前はキャロ・ル・ルシエ。制服を着崩すのとアクセのチョイスは宜しくないけど、基本的にはとても良い娘だ。

「実はケリュケイオンの事で相談したい事があって……」

「うんうん! 何々!?」

そう! こういうのを待っていた。キャロの手には待機状態のケリュケイオン。みんなのデバイスとかの相談に乗るのが私の仕事だからね?
だけど続けられた言葉は私の期待を叶えつつ、良く解らない方向に裏切った。

「役に立たないんです、コレ」

「……え?」

キャロは変わらない笑顔を浮かべている。だけど無言で放り投げられる私の自信作。
確かにブーストデバイスは初めて作ったから、不安が無いといえば嘘になるかもしれない。
だけど色々と資料を調べたり、現物を取り寄せたりして、試行錯誤を重ねたのだ。

それがまるでゴミ箱へ投げ込まれる紙屑のように私のほうへと飛んで来る。

「死霊召喚との相性が最悪なんです。たぶん魔術的な要素を排除しすぎた科学として魔法を捕らえた設計が原因じゃないかな~って」

「えっと……つまりその……」

上手く言葉が出ない。ここまで自分の作品を否定され、拒否されたのは初めてのことだったから。

「それにリミッターが掛かっていますよね? それにブーストも調子が出なくて……
 最初の模擬戦でフリードにブーストをした時も、あまりに低威力で笑っちゃった」

「でも! リミッターはみんなの成長に合わせて解除して行こうって、なのはさんが……」

そうだ! 何も私が一人で勝手にやっているわけではないのだ。これは教官としてなのはさんの意思でもある。
デバイスに振り回される事が無いように、一緒に成長していけるように。

「成長に合わせる? シャーリーさん、ディアディアンクみました?」

「もちろん! でもアレは……」

キャロが六課に所属するずっと前、マフィアから与えられたと言うブーストデバイス。
構造には勿論目を通しているが高性能と同時に、『トンでもない仕様』と言う事だけが際立つ。
中核には「魔術的」と形容される不確定な魔法の定義に用いられる「霊獣の鮮血」が据えられている。
ソレを囲む他の部品も含め全てが規格外の性能を示すご禁制のパーツたちだ。
とてもでは無いが仮雇いとは言え法を守る管理局員が使って良い代物では無い。
その代わりとしてケリュケイオンを作った訳なんだけど……

「所詮デバイスは魔法を円滑に使用する為の道具です。戦う為の剣に『鋭い切れ味はダメ』って文句を言うようなもの。
もしケリュケイオンがディアディアンクを凌ぐ性能だって言うなら、文句は無いんですけど……シャーリーさん?」

「なっなに?」

キャロの笑みは変わらない。「作りものだ!」なんて野暮な事は感じられない。
だからこそ……続いて変わった表情、残念そうな憂いが本当の感情であり、どれだけ強いモノなのかが痛いほど理解できた。

「私はデバイスには合わせません。私が、私たちが優先するのは自分達の作る結果です。
 だからシャーリーさん、貴方が私達に追いつくようなデバイスにしてください」

「わかった。やってみるよ」

私はどこか使用者よりもデバイスや管理局のルール、常識を優先していたのかもしれない。
今まではそれで大丈夫だったけど、けど目の前にいま居るのはそれでは満足できない人。
使用者としての紆余曲折、特殊な案件での使用について考慮に入れるべき存在。
普通ならば「難しい」と感じる所なのかもしれないけど、私はこう感じてしまった。
『面白い』って

「で! オレ様にテメエのポンコツの使い道について良案があるんだが、メガネ」

「メガネって……」

不意に変わる口調。噂では聞いていたけど、凄い変化だ。未知のユニゾンデバイスに宿る管制人格 バクラ。
あ~健気で可愛いキャロを返して~


こんな感じで……『キャロとバクラが粛々と仕事をこなしているようです』


機動六課の初任務は結果だけを見れば大成功だった。ピンチと呼ばれる状況になることも無く、任務内容を達成したといえよう。
揉めた事といえば……キャロのバリアジャケットのデザインくらいなものだ。

「姉御のバリアジャケットと言えばコレに決まっている」

初出動中のヘリの中、キャロの右の掌で金色の腕輪 待機状態のディアディアンクがウィンドウを展開。
ソコに提示されているのはバリアジャケット。初めて使用したデザインのモノ。
真っ赤でゆったりとしたコートにヘソだしチューブトップ、タイトなミニスカートと言う取り合わせ。

「イヤ、管理局の局員として余りにも破廉恥な格好だ。こちらの案を採用すべきです」

だが同じくキャロの左手の掌で翼がデザインされた宝玉 同じく待機状態のケリュケイオンが異を唱える。
またもや開かれたウィンドウには対照的と言って良い、白をメインとした可愛らしいデザインのバリアジャケット。
体をキッチリ覆う桃色のジャケット。白いマントとピンクのリボン、帽子まで付いている。

「ダサいんだよ、低機能」

「卑猥です、不良品」

デバイス同士の会話と言うのがどういった物なのか? 普通の人間では理解できないものだと言う事は確かだ。
ココから先は超高速の情報戦のような様相を呈した言葉のぶつけ合い、殴り合い。
本人達からすればかなり長い間議論を戦わせていたのだが、外の面子からすれば一瞬。

「う~ん……私はケリュケイオンのデザインも良いと思うけどな~」

まるで余所行きの服を選ぶような気分、軽い気持ちでキャロは二つのバリアジャケットを見比べながら呟く。
その一言に人間の世界に復帰したデバイスたちが叫んだ。

「そうでしょう!? さすがはマスター、解ってらっしゃる!!」

「姉御~いまさら裏切るのは勘弁してくれ~」

ケリュケイオンは歓喜の声、ディアディアンクが失意の声を上げるが、ソレを受けたキャロの反応により、争いは決着。

「うっせえよ!? ガラクタ共が!!」

「「スイマセン」」

胸元で千年リングが光を放ち、キャロの顔が浮かべるのは憤怒の表情。掌には力が入り、二つのデバイスがミシリと鳴った。
バクラにしてみれば唯の道具が自分のキャロのバリアジャケットについて議論している事自体がとても腹立たしい。
相棒の体は自分の体、ソレを守る防具であり飾る装飾品でもあるモノを決めるには、自分とキャロの意思がもっとも優先されるのだ。

「まぁ、相棒が良いならこっちでも良いんだが……オレ様としては紅のコートは捨て難い。 リボンは千年リングの邪魔になるから無し。それとロングはダメだぁ~」

『バクラさん、私も大きくなったので色気は充分…「寝言は寝ていえよ、相棒」…ヒドイです』

そんな感じの討論を発案者たるデバイスを放置してキャロとバクラが行った結果……


「逝きます、バクラさん。それにフリード」

『おう、チャッチャと片付けるぜ? 相棒』

「キュックル~」

開かれたヘリの後部ハッチから外を覗き、風に髪を揺らしながらキャロ・ル・ルシエは静かに言う。
初めての実戦などと言った気負いはそこには無い。ただ何時も通り、彼女の日常が横たわっているだけ。

「あの……キャロ?」

しかし彼女の背後に居るエリオ・モンディアルにとってはそうではない。
いかに魔道師ランクに幼いながらも恵まれているとは言え、実戦とはやはり程遠い存在だ。
だからこそ不安にもなるし、おっかなびっくり戦友に声を掛けたくもなる。

「ほら! 行くよ、エリオ君」

「あっ……」

けれどエリオはそれが無駄なものだと直ぐに気がつく事になる。ギュッと握られた手の感触。
温かくて自信に満ち溢れた小さな手。朗らかな微笑からは強者の余裕が満ち溢れ、軽い足取りは自信の現れ。
『付いて来い!』と公言して憚らない後姿。引っ張られる感覚はいつの間にか安心を生み、エリオも表情を崩した。

「うんっ!!」

手を取り合い、二人と一匹(と見えない一人)は大空へとその身を投げ出した。
魔法の恩恵に預かる事を知らなければ、それは投身自殺に見えないことも無い。
だが彼女達からは魔法以外にも感じられた絶対の自信。身投げ? 冗談じゃない!!

『覇軍の行進だ』

「セット・アップ! ディアディアンク、ケリュケイオン!!」

「「YES」」

キャロの命令に先程の諍いは何処へやら、二つのブーストデバイスは同時に答えた。
光が彼女の幼い体を包み、今回の仕事場 リニアレールの上に着地すれば光が弾ける。

「う~ん、中々良い感じです」

まず直接身を包むのは桃色に黒のアクセントが映える半袖のジャケット。
下は中央からキレイに分かれて左が足首、右が膝上までの丈が非対称という特徴的な白のスカート。
足にはクシャクシャとした質感のブーツ。腰にはベルト代わりにフックがついたチェーンが二重に巻かれている。
その上にはバクラのお気に入り、真紅に砂色の裏地のロングコート。その右肩にだけ白いマントが掛かっていた。
大きなベレー風の白い帽子にはデフォルトされた『豪華な王冠を齧るゴースト』のバッジが輝く。

右の手には桃色の宝玉を中心に置いた手袋型ブーストデバイス ケリュケイオン。
左の手には金のラインが輝いて走る手袋型ブーストデバイス ディアディアンク。
胸元には黄金で作られた錘が複数垂れる円、その中央には一つ目が刻まれた三角形が光る千年リング。

これが新たなキャロ・ル・ルシエの戦装束。

「呼び覚ませ、ディアディアンク!」

リニアレールが高速で運動する事によって発生する暴風に臆する事無く、キャロは左手を一振り。
ふっと彼女の姿に被るのはバクラの印象。重ねて彼らは自分達だけが使える魔法の呪文を唱える。

『「哀れな怨霊達よ! シモベとなりて我らが敵を討ち滅ぼせ! 死霊召喚!!」

魔法の完成により打ち付ける強風に違った冷たさが宿る。周囲に展開される闇色の魔法陣から這い出てくる異形。
虚ろな空洞を晒す頭部の無い板金鎧 首なし騎士達が手に持った剣をガシャリと構え、キャロへと作る礼の姿勢。

「導け、ケリュケイオン!」

「Boost Up  Acceleration」

続いて唱えられるのは高速機動補助のブースト魔法。光を放つのは反対の手につけられたケリュケイオン。
首なし騎士たちをチームメイトであるエリオの速度に追いつかせ、難しいが成果も大きい集団高速戦に持ち込むため。
これがケリュケイオンの有効な活用法。
死霊召喚との相性が悪いのならば、その補助は全てディアディアンクに任せて、ブーストにのみ特化した仕様にしてしまえば良い。

「しっかり付いて行かせるから! 安心して、頑張ってね? エリオ君」

「うん!」

「しっかりしろよ、騎士団長。テメエの動き次第なんだぜ?」

「……はい」

「キュルル~」

「そうだね、ボク頑張るよ」

キャロの優しい言葉に喜び、バクラの圧力に屈しかけ、フリードの鳴き声に頑張ろうと誓い、君の悪い戦友と肩を並べて、エリオは駆け出す。
その後ろをゆったりと付いていくキャロとバクラ。これ以上は割愛するが、彼らの進む先には安定な勝利があった。


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最終更新:2008年06月19日 22:19