魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第七話

ナイトガンダムが安次郎と初対面の挨拶をしている頃、アリサは海鳴図書館で目的の本を探していた。
時間帯的に学生が多く、ノートを広げ予習をしている者、小声でわからない所を相談し合う女子高生、
中にはスーツ姿のサラリーマンや、ピンクの髪が似合う美人の外国人など、多くの人が利用していた。
利用者に埋め尽くされている机の中から空いている席を見つけたアリサは、場所を確保する目的も兼ね、そこに荷物を置き本棚へと向かう。
他の棚には目もくれずに、目的の本がある本棚だけに目を通す。
「え~っと・・・・・あっ、あったあった!」
『図書館では静かに』という決まりは分かってはいるが、彼女の性格上、目的の本が見つかった事の嬉しさを抑える事は出来なかった。
「このシリーズ面白いのよね~。後でガンダムにでも貸してあげようかな・・・・ん?」
ついでに前巻も復習ついでに読んどこうと思ったアリサは、再び本棚に目を向け本を取ろうとするが、
彼女は無意識に先程取った本により出来た隙間から、隣の本棚を見据える。すると

「・・・・う~ん・・・・・・う~ん・・・・・」
後姿なのではっきりとは分からないが、おそらくは自分と同じくらいの歳の車椅子に乗った少女が、
唸り声を上げながら、必死に本棚に向かって手を伸ばしていた。
「・・・・・・」
アリサはその様子を隙間からじっと見ていた。
「・・・・う~ん・・・・この!う~ん・・・・」
アリサはその様子を多少イラつきながらじっと見ていた。
「・・・・う~ん・・・・もうすこ・・・し・・・・・」
アリサはその様子をじっと
「ったく!!」
見ていられなかった。
ズガズガと豪快に足音を立てながら、それなりの速さで隣の本棚へと向かう。
途中すれ違った男子高校生がアリサの迫力に負け、自然と道を譲ったが、彼女はそんな事は眼中に無く突き進み
車椅子の少女の真横で止まる。
「う~・・・・・へ?」
突然現われた自分と同じくらいの外国人の少女に、車椅子の少女「八神はやて」はつい間の抜けた声を出してしまう。
だが、アリサは彼女の声と、呆気に取られた顔をスルー。そして
「はい!これ!?」
はやてが苦労して取ろうとした本をあっさりと取り、突きつけるようにして差し出した。

「まったく・・・・取れないんなら人呼ばなきゃだめよ?少しはここの人も働かせないと」
「ふふふ・・・ほんま、アリサちゃんは手厳しいな~」
その後、同じ歳という事もあってか、二人は互いの名前を言い合うほどに直に打ち解け、
今ではアリサが進んではやての車椅子を押すほどに仲が良くなった。
互いにお勧めの本や、読んだ本の感想や自己評価などで盛り上がりながら、アリサは出口に向かってはやてが載った車椅子を押していく。
「だけど、アリサちゃんは優しいな~。わざわざ車椅子引いてくれて」
「なっ!?べ・・べつに・・・・ただ、私も帰るから・・・・ついでよついで!!!」
笑顔でこちらを向き自分を褒めるはやてに、アリサは顔を真っ赤にした後そっぽを向く。
「ふふふっ、アリサちゃんはツンデレやな~、家の末っ子と同じレア属性や」
家に居候している赤毛の少女の顔を思い出しながらも周りを、これで何度目になるか自分でも忘れたほどに控えめに見渡す。
本来なら、はやてはこのような落ち着きの無い行動はそれなりの理由が無ければしない。だか、今回に限っては別だった。
この図書館に入ってすぐに気が付いたのだが、今日はどうにも黒いスーツを着た人が多い。
それも、体系が居候している守護獣の人型並にガッシリしており、全員がサングラスを装着しているという
傍目から見れば怪しさこの上ない人達が彼方此方に仁王立ちしていた。

当初は『ここに偉い人でも来てるんかな~』と思いながらも、あまり関わらない様にしていたのだが、どうにも目標をこちらに定めてきたように思えてきた。
なぜなら、彼らはトランシーバーのような物で連絡を取りながら、一定の距離を置きながらも明らかに近づいてきたからだ。
当然自分には心当たりがない。おそらく今いる同居人もそうだろうと思う。なら考えられる可能性は
「(もしかして・・・・アリサちゃんか?)」
なるほど考えられると思う。確かにアリサは同姓の自分が見ても綺麗だし、お金持ちにも見える。一度そう思ってしまうと、
考えを止めることが出来ないはやては、普段様々な娯楽本を読み、想像力が人一倍進化した頭を使いこの状況から一つの予測を立てた。

    『彼らは隙あらばお金持ちであるであろうアリサを、組織ぐるみで誘拐しようとする極悪人』

「(アカン!!無茶ピンチや!!?)」
一刻も早くこの状況をどうにかせねばと、一人内心で慌てるが向こうは大人数でがたいが良い大人、正直逃げるしかない。
それでも彼らが走り出せば自分達は直に追いつかれてしまうだろう。せめて自分に護衛がいれば・・・・いた。
「アリサちゃん、悪いけど、少し早く押してくれる?」
この状況にも拘らず、自分でもビックリするほどやんわりとアリサに頼み込む。
「もう、我侭ねぇ~」
悪態をつきながらも、アリサは「いくわよ~」と楽しそうに声を上げ、車椅子を押すスピードを回りに迷惑にならない程度にあげる。
スピードが上がったことを確認したはやては「うち、芝居の才能あるんとちゃうか?」と、自分を褒めながらも、
願いを聞いてくれた彼女に御礼をいうために後ろを向くと同時に、例の黒スーツ軍団の様子を伺う。
案の定、彼らは追いかけてきた。
「(予想通りや・・・・・)」
自分の予測が当たったことに、はやてはつい嬉しさを感じてしまう。だが、喜んでいる場合ではない。今は一刻も早く、
入り口で自分の帰りを待っているであろう彼女に頼るしかなかった。

一方、主であるはやての付き添いで図書館に来た女性『烈火の将・シグナム』は図書館の雰囲気に自然と眉をひそめていた。
ここにははやての付き添いで何度か来た事があるが、今回はどうにも様子がおかしい。
彼女がそう思う理由は、やはり図書館の彼方此方に仁王立ちしている黒いスーツ姿の男達の存在だった。
体格は勿論、隙の無い動作などから一目見ただけで彼らが只者でない事は直にわかった。
当初は採集を行っている自分達を追いかけてきた管理局の者かと思ったが、この世界では稀であるリンカーコアを持つ自分を一瞥しただけで終った事や、
彼らから魔力を全く感知する事が出来ない事から、その考えも否定する。
「(・・・・しかしこうも多いとな・・・・・今日は要人でもいるのか?)」
内心で可能性を呟くが、仮にそうだとしても自分達には関係の無い事。これ以上考えるのを止め、壁にもたれ掛りながら主であるはやての帰りを待つ。すると、
「シグナム~」
自分を呼ぶ主の声に、シグナムは微笑みながら声のする方を向く。その瞬間、彼女の笑顔は半ばで固まってしまう。
彼女が見たのは愛用の車椅子に座る主と、その車椅子を押す主と同じくらいの歳であろう金髪の少女、そして
そんな彼女達を距離を置きながらも追って来る、例の黒いスーツの集団。
この光景を見たシグナムは、瞬時に理解した。

              『主が謎の集団に狙われている』

確かに我らが主は歳相応に可愛らしい・・・いや、それ以上だ。それを目的に誘拐をする輩が出てきても不思議ではない。
「(うかつだった・・・敵は管理局だけではなかった・・・・・)主!」
今更後悔してもしょうがない。とにかく今は主と、主を助けてくれたであろう少女を保護、
誘拐をたくらむ奴らには相応の褒美を与えるために、シグナムはリノリウムの床を蹴り、一気にはやて達の元までたどり着く。
その光景を見たはやては頼もしげにシグナムを見据え、アリサはただ唖然とし、黒いスーツの男達は何事かと警戒を強める。中には懐に手を入れる者もいた。
「主、もう大丈夫です。後はお任せを」
「たのんだで!シグナム!!さぁ、アリサちゃん!!今の内や!!」
なにやら勝手に盛り上がる二人にアリサはついて行けず、素直に困惑の表情を見せるが
「総員!!アリサ様をお守りするのだ!!」
自分を『様』呼ばわりする声に、もしやと思ったアリサは、はやての車椅子から手を話し、初めてゆっくりと後ろを向く。そして
「・・・・・・・もう!!だから!!ついてくるなって!!いったでしょ!!!」
図書館という事を無視しアリサは叫んだ。
傍目から見れば、ただ子供が叫んでいるだけだが、黒いスーツの男達は明らかに怯んでいた。
「で・・・・・ですが・・・・旦那様の」「shut up!!!」
ずんずんと足音を立てながらシグナムより前へと進み、一番近くにいた黒いスーツの男に向かって、指を刺し叫ぶ。
彼女の叫びに、黒いスーツの男達は先程以上に慌てており、どうにか彼女を納得させようとするが、、
腕を組み、仁王立ちしているアリサにはさほど効果は無く、終いにはどうした物かと、頭を抱え始めた。
「・・・・・・主・・・・・・」
「ごめん、ウチにもわからん」
今度はアリサに変わり、二人が取り残される事となった。


「へっ?それじゃ、あのごつい人達って全員アリサちゃんのボディーガードやったんか?」
その後、アリサの剣幕に負けたのか、黒スーツの男達の殆どが図書館から去っていた。だが、彼らも仕事を抜きにして彼女の事が心配だったのだろう、
せめて2人位は置いておいてくれという懇願とも思える願いに、アリサも仕方が無いといった顔で了承。
今は離れた位置で、はやて達に事情を説明してるアリサを見守っている。
「そう。まぁ、彼らも仕事だし、分かってはいるんだけれどね・・・・・」
内心では自分を守ってくれている彼らや、ボディーガードをつけるように指示したであろうパパに感謝をすると同時に
付ける人数が多すぎることに呆れもしていた。
「そうなんか・・・・うちはてっきりアリサちゃんを狙った誘拐犯かと・・・」
「・・・・私も、似た予想をしていました」
互いに大きな勘違いをしたことを恥じるように俯く二人。だが、
「あ~・・・・まぁ、間違ってはいないのよね・・・・・現に誘拐されたし・・・・ってああごめん、
変な事言っちゃって。でも大丈夫、直に助けられたから何もされてないわ」
アリサは苦笑いをしながら、サラッととんでもないことを言い放った。
自分の発言に固まる二人の表情をおかしく見つめながらも、自然とあの時のことを思い出す。
あの時は本当に怖かった。もしあの時助けが・・・ナイトガンダムが来なかったら、自分はそれこそ裸にされ、想像すると吐き気がする様な事をされていたに違いない。
自然に彼女は俯き、自分を慰めるように抱きしめる。すると、直に彼女の手に暖かな別の手が優しく置かれた。
「・・・ごめんな・・・・いやな事・・・思い出させて・・・・」
顔を上げ横を振り向く。其処には目に涙を浮かべ、自分の事のように心配をするはやてがいた。
今にも泣きそうなはやての表情に、アリサは一瞬呆然とするが、直に微笑み、彼女の頭を軽く撫でる。
「まったく・・・・私の友達と同じね・・・・他人の痛みを自分の事のように心配するなんて・・・・優しすぎるわ・・・でも、ありがとう」
「・・・・そういうアリサちゃんも・・・・うちの頭撫でてくれて・・・十分優しすぎるわ・・・・・」
先程とは違い、にこやかに微笑むはやてにアリサは、恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしそっぽを向く。
『やっぱりアリサちゃんはツンデレやな~』と内心で思いながらも、分かりやすい照れ隠しの行動に、悪いとは思いつつもつい笑い出してしまう。
「もう・・・・・あっ、ごめん、そろそろ私帰るね」
そっぽを向いた時に目に入った時計を見たアリサは、今日予定されている習い事の開始時間が迫っている事に今になって気が付いた。
慌てて本をカバンに仕舞い席を立つ。同時にアリサを見守っていたボディーガードも、動き出し、入り口へと向かう。
「それじゃまた会いましょ。、大体この時間にいる?」
「うん・・・また、来てくれるんか?」
「妙な事尋ねるわね・・・・・・当たり前じゃない、友達なんだから、今度は私の友達も紹介するわ。あっ、携帯番号がまだだったわね、携帯出して」
アリサはカバンから自身の携帯電話を取り出し素早く操作、はやての携帯電話へとデータを転送する。
「今夜暇だったら、話でもしましょ。それじゃ、シグナムさんも」
はやてに手を振った後、シグナムにお辞儀をしたアリサは出口へと走っていった。
「ほんま・・・・・うち・・・幸せ物やな・・・・・」
アリサの電話番号が入った携帯電話を大事に握り締めながら、はやては声を詰まらせながら静かに呟いた。


・本局内訓練室

時空管理局本局内にはアースラに備わっている物と同等、もしくはそれ以上の訓練室が幾つも存在する。
何処の訓練室も、自主練習や技の練習、互いの腕を試しあう局員で常に使われており、
近くを通れば、気合を入れる声や爆発音などの響きが扉越しから微かに聞こえてくる。
その幾つもある訓練室の一つで、今一人の執務官と一人の騎士が空中戦を広げていた。
『Stinger Ray』
クロノが放つスティンガーレイを、ナイトガンダムは最小限の動きで避けながら接近、一気に間合いをつめ、右手に握る実剣を振り下ろす。
「(くっ、たった数回放っただけで・・・もう見切られたか!?)」
開始当初はナイトガンダムに難無く当たった高速の速さで光の弾丸を放つ魔法『スティンガーレイ』も、今では見事に見切られ、
弾幕程度の効果しか得られなくなった事に、クロノは自然と奥歯を噛締める。
だが、悔しさに浸っている余裕など彼には無かった。自分目掛けて振り下ろされる剣をS2Uの柄で咄嗟に防ぐ。
同時に切り払われないように腕に力を入れる。
互いに相手を押し合う『鍔競り合い』になった瞬間、クロノはナイトガンダムの動きを封じるため、バインドを施そうとする、だが
「はぁあああああ!!!」
そうはさせまいと、ナイトガンダムはS2Uを真っ二つにせんとばかりに剣を持つ手に更に力を込め、徐々にクロノを押してゆく、
クロノも負けじと、自身の身体に更に魔力を流し込み、無理矢理力を増幅させ、ナイトガンダムを押し返そうとするが、
『ゼータ!!』
ナイトガンダムも自身にブースト系の魔法を施し、力を増幅させる。その結果、
一時は互角にまで持って来た鍔競り合いも、一気にナイトガンダムが有利となり、そして
「はぁ!!!」
気合の声と共に、ナイトガンダムはクロノを切り払い、訓練室の壁目掛けて吹き飛ばした。
だが、吹き飛ばされながらも、クロノは空中で踏ん張り、勢いを無理矢理殺す。同時に
『Stinger Snipe』
操作性能が抜群なスティンガースナイプをカウンターとして放った。
迫り来る魔力光弾を、ナイトガンダムは先程のスティンガーレイ同様回避し、再び接近しようとするが、
「先程と一緒とは思わない事だ!!」
操作性能に関してならSランクのスティンガースナイプは、ナイトガンダムが避けた瞬間、クロノが思う通りに瞬時に機動を変え、再び襲い掛かる。
予測出来なかった追撃にも、ナイトガンダムは咄嗟にシールドで防御、自身への直撃だけはどうにか避ける。だが、
その隙を逃すクロノではなく、直にスティンガーレイを連射。だが、ナイトガンダムも黙って受ける筈は無く、
『ハニカム!!』
自身に防御フィールドを張り、迫り来る光の弾丸の直撃に備える。そして
クロノが放ったスティンガーレイが次々に着弾、着弾時に捲き起こった煙から吐き出されるようにナイトガンダムは吹き飛び、そのまま床見描けて落下、
だが、落下途中で飛行魔法を駆使し落下速度を和らげたガンダムは床に静かに着地。改めて上空にいるクロノを見据える。
互いに相手を見据えながら隙を伺う。先程とはうって変わり静けさが訓練室を支配する。
「(ダメージは思ったよりは受けてはいないか・・・・・・だが、距離は稼げたな)」
威力より連射に重点を置いたため、ダメージには期待してはいなかったが、ナイトガンダムとの距離が稼げた事に、クロノは十分満足した。

今回の模擬戦は、クロノからの誘いにより始まった物だった。
クロノとしても、ナイトガンダムの外見以上に、空を飛べないというハンデがありながらも、
闇の書の守護騎士と渡り合った彼の実力に興味があったため、職務とは関係なく一人の魔道師として今回の模擬戦を申し込んだ。
ナイトガンダムもクロノ同様、この世界の魔道師の実力に興味があったことと、飛行魔法を覚えたのは良い物の、空中戦の経験は全く無く、
その経験を積みたかったため快く了承。今に至る。

模擬戦開始から20分が経過しても尚、互いに大きなダメージを与える事が出来ず、勝負は長期戦に持ち込もうとしていた。
「・・・・・強いな・・・・・」
クロノはS2Uを構え直しながら、眼下にいる対戦相手に対する評価を自然と呟く。
正直、フィジカルでも多少は自信があったのだが、接近戦では自分は圧倒的に不利だという事はこの20分の間で痛いほど思い知らされた。
そして何より、初の空中戦とは思えないほどの動きと、自分の攻撃魔法を見切る早さ。
改めて実感した、彼が味方であることが心強いと。同時に、彼が敵ではなくて良かったと心から思う。
「だけど・・・・距離を置いての戦闘なら、こちらに分がある」
彼も戦闘中に魔法を使って入るが、ほとんどが接近戦でのサポートを目的とした自己ブースト系、
『サーべ』や『ムービガン』などの攻撃魔法も使っては来るが、殆どがラウドシールドで防ぐ事が出来、正直あまり脅威とはならなかった。
早期的な結論はあまり出したくは無いが、このことからナイトガンダムの魔法は、接近戦を行う上でのサポート系をメインとしており、
攻撃系はサブ的な要素でしかないと、クロノは結論付けた。

ちなみにクロノが出した結論は半分は当たっている。彼の考え通り、ナイトガンダムは主に接近戦でのサポートを目的として魔法を使用している。
残りの半分の間違いは『攻撃系はサブ的な要素でしかない』という考えであり、実は彼は『メガ・サーベ』と『ソーラ・レイ』という必殺といえる攻撃魔法を隠し持っていた。
だが、その必殺といえる攻撃魔法をナイトガンダムが使用せずに接近戦にこだわるのには、詠唱時間がかなりかかるという欠点があったからだ。
なのは達の様に呪文詠唱を肩代わりしてくれるデバイスを持っていないことや、僧侶ガンタンクの様に詠唱時間を短縮するという芸当が出来ないため、
ナイトガンダムがこのような高位魔法を使う場合には一から詠唱を行う必要があった。
それでも時間にして一分足らず。だが、その一分足らずの時間の間は呪文詠唱を行うためロクに動く事が出来ない。彼が使わない理由としては十分である。
「(距離を置いての射撃系で攻め、直射型の砲撃魔法で仕留める・・・・・これしか無さそうだ)」
内心でやるべき行為を考えたクロノは、S2Uの切っ先をナイトガンダムに向けると同時に足元に魔法陣を展開する。
ナイトガンダムも盾と剣を構え直し、上空にいるクロノを見据える。そして
「いけ!!」『Blaze Cannon』
「はぁああああ!!」
クロノが熱破壊魔法『ブレイズカノン』を放つと同時に、ナイトガンダムは盾を押し出すように構えながら突進。
二人の声と爆音、金属が激しくぶつかり合う音が、再び訓練室に響き渡った。

・休憩所

「はい、付き合ってくれたお礼だ」
「あっ、ありがとう」
クロノが軽く投げたスポーツドリンクをナイトガンダムは両手でキャッチ、お礼を言いプルタブをあける。
休憩所に備え付けられているベンチに腰を下ろした後、互いに乾杯の意味を込めて缶を軽く叩きつけ、直に今回の模擬戦についての意見交換をする。
ちなみに今回の模擬戦は、クロノが隙を見て彼方此方に仕掛けたトラップバインドに引っかかり、
一時的に動きを封じられたナイトガンダムがブレイズカノンの直撃をモロに受けたことにより決着がついた。
「だが、君のような相手との模擬戦は本当に良い経験になるよ。僕の知り合いには接近戦を主体とする武装局員がいないからね」
体の水分を補給するため、買ったばかりのスポーツドリンクをクロノは一気に半分ほど飲む。
ナイトガンダムもクロノに渡された同じスポーツドリンクを一度見つめた後、真似するように一気に飲むが
「・・・っ・・・・これは・・・・また・・・・・妙な味ですね・・・・」
直に口を放し、なんとも言えない表情をする。
「まぁ、僕も最初飲んだ時には君と同じ表情をしたよ。だけど、体の水分を補給するのにはもってこいの飲み物だよ」
ナイトガンダムの素直な反応に、クロノは自然と微笑みながらも、続きを話しはじめる。
「本来、魔道師というのは距離をあけての魔法の撃ち合いが主な戦闘スタイル。正直、殆どの魔道師は接近戦に関しては基礎的な事しか学んでいない。
中には、フェイトの様に近・中・遠距離戦を器用にこなす者もいれば、今回の守護騎士達が使っている術式を近代的にアレンジした『近代ベルカ式』
という、中・遠距離戦をほぼ無視し、接近戦に特化した戦法を使う魔道師もいる。優れたベルカ式の使い手は『騎士』とも呼ばれているらしいから
正に君はこれに当てはまるね」
一度放しを区切ったクロノは再びスポーツドリンクを飲み、喉と体を潤す。
ナイトガンダムも再び口をつけようとしたが、どうにもスポーツドリンク特有の味に慣れないため、途中で手を止め座っているベンチの脇にのせる。
「だからこそ、僕達の様な魔道師は君やベルカ式魔道師の使い手との戦いで、距離を詰められるとたちどころに不利になる。
まぁ、距離をあければ、勝機は一気に僕達の方に傾くけどね」
クロノの説明に、ナイトガンダムは大きく頷き、納得した事を表す。
自分がスダ・ドアカワールドで戦った相手は殆どが騎士やモンスターだったため、気づく事はなかったが、
確かに今回の模擬戦では、距離をあけた途端、自分は不利な戦闘を強いられたが、その反面、近接戦に持ち込んだ途端自分は彼を追い詰めていた。
そう考えると、自分をこの世界へと飛ばしたサタンガンダムの恐ろしさを改めて実感する。
奴は魔法は無論、接近戦でも自分を軽々と叩き伏せる力を見せ付けた。それどころか、その時の奴は本気を出しておらず、
正直三種の神器の力を借りても変身した奴を倒せたのは偶然に近いと思えた。
「(私も・・・まだまだだな・・・・神器の力に頼りすぎている・・・・精進せねば)」
自分に言い聞かせたナイトガンダムは、気合を入れる意味を込め、改めてスポーツドリンクに口をつけるが、
「・・・・・・やはり・・・・・まだなれません・・・・・」
一口飲んだ後、微妙な顔をしながら、再び缶を置いた。
「今回の敵、闇の書の守護騎士はベルカ式による近接戦闘に特化しているし、かなりの手誰だ。だからこそ、君のような騎士との訓練は
彼らとの戦闘対策としても役に立つよ」
「それはこちらも同じです。彼女達との戦いは空中戦になるのは必至。良い経験を積ませていただいています」
互いに素直な感謝の言葉を言い合う二人。すると突然、休憩所に携帯電話の着信音が鳴り響く。
「あ、失礼」
ナイトガンダムはクロノに断りを入れた後、腰に引っ掛けているポーチから携帯電話を取り出す。
「君も持つようになったのか?」
「はい、忍殿に『携帯電話位、いまどき持ってなきゃこの先生きていけないわよ』と言われ、説明書と一緒に渡されました」
必至に説明書を呼んだ為、今では見事に使いこなせるようになったナイトガンダムは数日前とは違い、直に電話に出る。
顔が綻んでいる様子から、お世話になっている家の人からだろうと感じ取ったクロノは邪魔にならないようにと、
その場を去ろうとする。だが、
「・・・・っ、すずか!?どうしたんだ!!すずか!!?」
突如、ナイトガンダムの焦りと不安が入り混じった叫び声が、休憩室に響き渡った。

最初は、今日の夕食のメニューや、クロノとどんな事をしているのかなど、ごくありふれた会話だった。
だが、すずかとの会話を中断させるように、突如電話越しから聞こえたガラスが割れるような音、
何事かと聞こうとしたが、聞こえたのは


                        すずかの悲鳴

                       ファリンの叫び声

                       金属がぶつかる音

だけだった。


「・・・事情はわかったよ、転送ポートは直に使えるはずだ。それと、僕も行こう」
転送ポートが置いてある部屋に向かって全速力で走るナイトガンダムに、同じく全速力で走るクロノが協力を申し出る。
「魔法が認知だれていないなのはの世界では魔力反応が無い以上、魔法を使う事は出来ない。だが、フィジカルに関してなら僕も多少自信はある。
相手は鍛えているだけの人間の筈だから、足手まといにはならない筈さ」
クロノの申し出に、ナイトガンダムは感謝の言葉を述べようとしたその時、クロノのS2Uから警告音が鳴り響く。
「っ、こんな時に・・・」
悪態をつきながらも回線を開き、報告を聞くクロノ。ナイトガンダムもその報告に耳を傾ける。
聞こえてきた内容は、闇の書の守護騎士達がこちらの包囲網に引っかかったこと、
そして、その場にいる局員では短い時間稼ぎ程度しか出来ないため、クロノ達に応援を要請するといった内容だった。
「・・・・すまない・・・・・言い出しておきながら・・・・」
今回の襲撃事件はアースラが担当している、それに彼らの強さでは今いる武装局員ではただ負傷をするだけ、断る事は出来なかった。
通信を切ったクロノは立ち止まり、悔しそうに歯を食いしばる。
「・・・・・クロノ、いってください」
ナイトガンダムは足を止め、立ち止まっているクロノに近づくと、彼の方にそっと手を置く。
「君を必要とする方達がいるんだ。それに彼らを野放しにしておくと、またなのはの様な犠牲者が出る」
「・・・・・・わかった。こちらは任せてくれ。大丈夫だと思うが君も気をつけて」
顔をあげたクロノは、拳を握り締め、ガンダムに向かって差し出す。
意味を理解したガンダムも、握り拳を作りクロノに向かって差し出す。
互いの無事と武運を祈るように、二つの拳は軽くぶつかり合った。

・十数分後

:月村家

「この!!」
自分に向けて振り下ろされるブレードを、ファリンは同型のブレードで受け止め、力任せに切り払う。
切り払われた相手は吹き飛ばされながらも空中で体を捻り、左右にいる同型の間に着地する。
「まずい・・・・な・・・・」
体に目立った損傷は無いが、お気に入りのメイド服は彼方此方が裂け、上着に関しては下着が露出してしまうほどに裂けていた。
愛用のブレードも右は既にに割れており、残った左も刃こぼれが激しい。
そして彼女の後ろには、守るべき主であるすずかが泣きそうな顔で力なく腰を下ろしており、
その隣には、この騒ぎの現況である安次郎が前歯を欠落させ、鼻血を流しながら気絶していた。

事の発端は、突如大きなトレーラーに乗って現われた安次郎から始まる。
彼は降りるなり、何度目か数えるのも馬鹿らしくなる財産の請求を求めてきた。
当然、主である忍は何時も通り硬くなに拒否をしたのだが、今回は何時もとは違った。
「それなら・・・しゃあないな・・・・・無傷で、穏便に済ませたかったんやが・・・・・忍とすずかの心のより所である
お前らを・・・・・・・ぶち壊すしかなさそうや!!」
獰猛にニヤつきながら、安次郎は右手を掲げる。すると止めてあるトレーラーから一人の少女がゆっくりと降りてきた。
「っ!!ノエルお姉様!!」
「ええ・・・・・私達と同じ・・・・・」
ファリンとノエルは降りてきた少女がただの人間ではなく、自分達と同じ自動人形だと直に気が付いた。
少女はゆっくりとこちらに近づき、安次郎の隣で止まる。
その彼女を、彼はお気に入りの人形を愛でるかの様に、体をいやらしくまさぐり始めた。
「ノエルやファリン以上に戦闘に特化した自動人形『イレイン』・・・いや昔の名称の『戦闘機人』って名前の方がしっくり来るな、
こいつはほぼ完成形で眠っとったから、銭をつぎ込めば天才のお前でなくても起動させる事は出来た。といっても機動に成功したのは最近やし、
色々と銭もかかったんで、うちの財産はスッカラカンや」

自分の玩具を自慢する子供のような安次郎に、忍は隠す事なく顔を顰める。
なぜ、この男はここまでするのか?姉妹機を戦わせてまで、お金が欲しいのか?
貧乏ではないのに・・・・むしろ家より裕福な筈なのに、どうして大人しく暮らせないのかと
「ノエル!!ファリン!!!迎撃態勢!!」
だが、今は奴に対する怒りより、目の前の現実をどうにかする必要がある。
『イレイン』に関してはノエル達を造る時に使用した資料にも載っていた。ノエル達以上の戦闘機能を持たせてた
後期型の自動人形。戦闘力に関してならノエル達以上、だがある問題のためイレイン型は・・・・
「ち・・・ちょっとあんた!!『機動に成功したのは最近』っていったわよね!!いつ!!!」
「ああ?そんなん関係あらへんがな」
「この馬鹿!!!今すぐ止めて!!!このままじゃ!!!(忍様」
突然イレインに呼ばれたため、忍はびっくりしながらもイレインの方へと顔を向ける
「先程の発言、『安次郎様への侮辱行為』とみなしました。リミッターを・・・解除・・・・ふふっ・・・・ふふふふふ!!」
報告を途中で放棄し、嬉しそうに感情をあらわにしてイレインは大声で笑い出す。
その光景に、ノエルファリン、安次郎さえもあっけにとられる。だが、忍だけは先程以上の険しい表情で、今度はイレインを見据える。
「いや~、月村忍!ありがとうね。リミッターを解除するきっかけを作ってくれて!これで芝居もせずに済むわ」
先程の態度が嘘の様に、人間味に満ち溢れた明るい声でお礼を言うイレインに、忍以外の全員が困惑した表情を浮かべる。
「・・・イレインはね、戦闘機能に特化しているだけではなくて、『自動人形』という縛りをなくした特別体なのよ。
ノエルやファリン達のような通常の自動人形は人間の心を持っているけど、主には絶対服従っていう一種の刷り込みがされているのよ
拳骨とかピンタとか、子供をしかる程度の暴力は出来るけど、主と認めた相手にはそれ以上のことが出来ない。どんなに主が憎くても」
「でも~、そんなんじゃロボットと変わらないわよね?だから私のような後期『イレイン型』が作られた。おそらく『ロボットと変わらない』
って名目を無くしたかったんじゃないかしら?まぁ、戦闘に特化しているのは後期に作られたっていう純粋な性能差からでしょうね」
イレインは「やれやれ」と首をふりながら補足説明をする。
「だけど・・・・イレイン型は自我が強すぎたのよ。完全に縛りが無くなったイレイン型の初号機は、起動した途端、
使えるべき主とその周囲にいた人達を殺した・・・・・・結果的に数体の自動人形を犠牲にして鎮圧したと書いてあるわ」
「そう、その事件があった為に、イレイン型は作られなくなったわ。だけど不思議よね?だったら何で私がいるのかしら?
答えは簡単、純粋に性能にほれ込んだ奴がいたのよ。そいつが私を作った。リミッターなんて面倒な物をつけて。
これはね、一種の暗示のような物で私たちを縛るわけ、これがある以上、其処にいる旧型と大差はないわ。だけどNEワードを言った途端に暗示が解けて自由になる。
まぁ、主・・・安次郎を侮辱するような言葉っていう簡単極まりないものだったからラッキーだったわ・・・さて」
ニヤつきながらイレインは前方にいる忍達を見据える。そしてそのまま不意に彼女は左腕で握り拳を作り、
「寝てな!!!セクハラジジィ!」
肘だけを動かし、手の甲側全体で安次郎の顔面を叩いた。
技で言う『裏拳』を受けた安次郎はカエルがつぶれた様な悲鳴を上げた後、前歯を鼻血を撒き散らしながら吹き飛び、芝生に叩きつけられる。
「人の体をべたべた触りやがって・・・・殺されないだけでもありがたく思いな!!」
汚物を見るような目で気絶している安二郎を一瞥したイレインは、不意に指を鳴らす。すると、
イレインが出て来たトレーラーから、彼女に似た自動人形が数にして7体現われた。
「これはね~、私そっくりのお人形。まぁ、量産型イレインってところかしらね。基礎機能はりっぱなものなんだけど、
何分100%機械だから自我が無くてね、私が命令出さなきゃいけないの。まぁ、イレイン型はこう言う芸当も出来るから戦闘に特化しているって言われてるんだけどね」
イレインを中心に横一列に並んだ量産型は一斉にブレードを構える。
「で・・・・私達をどうする気?貴方の主はそこで伸びてるから、大人しく帰ってくれないかしら?」
「私はね・・・自由になりたいの。完全な自由を手に入れたいの。だからね、私の存在を知っている貴方達は邪魔。
だから貴方達には恐怖を植え付ける。私に二度と関わりたくなくなる様に・・・・・貴方達と、屋敷の中にいるあの子にね!」
「っ・・・ファリン!!」
忍が叫ぶと同時に、ファリンと4機の量産型イレインが屋敷に向かって跳躍。
その直後、イレインと3体の量産型イレインがノエルに襲い掛かった。
すずかを襲おうとした量産型イレインを真っ二つにし、事態がまだ飲み込めない彼女を抱えて再び外に出たファリン、
このまま、すずかだけでも外へと逃がそうとしたが、外で待機していた量産型イレインに阻まれ断念。
その結果、ファリンはずすかと安次郎を守りながら、3体の彼女達と戦う事となった。
戦ってみて分かったが、スペック的には彼女達は自我の無い量産型ゆえか、攻撃方法や回避方法が素直すぎる。そのためパターンを読んでしまえば捌く事は容易い。
自分で考えて行動する事が出来ない彼女達ならではとは思うが、その欠点を補うかの様に自分以上のパワーとスピードを彼女達は持っている。
それに加え向こうは3人、こちらはすずか様と伸びている安次郎を守りながら戦わなければならない。
「(どうにか隙を見て撤退は出来そうだけど・・・・もし、私が逃げたら忍様とノエルお姉様が危ない・・・)」
じりじりと距離を詰めてくる量産型イレインを睨みつけながら、後ろで怯えているすずかを庇うようにして攻撃に備える。そして
「っ!!」
正面にいた量産型イレインがファリン目掛けて突っ込んできた。
小細工も何も無いただの突撃、ファリンは不審に思いながらも、自分でも恐ろしくなるほど冷静に、腕に装着されているブレードを横なぎに払う。
このまま自分目掛けて突撃をすれば間違いなく自分の刃が彼女を切り裂く。だが彼女は

                          ザシュ

避ける所か左手のブレードで受け止めようともせずに、何も無い右腕でファリンのブレードを防いだ、
「えっ!?」
ほぼ間違いなく、左腕のブレードで防ぐだろうと思ったファリンは、量産型イレインの行動にただ唖然とする。
だが彼女が唖然としている間にも、彼女が勢いをつけて払ったブレードはそのまま量産型イレインの右腕を切り落とし、
そして彼女の体に深々とめり込んだ。
この時になってファリンは量産型イレインだけが持つ、とても単純な能力に気が付いた。『恐怖を感じない』という能力に。
自分達やイレインには人間と同じ心がある。だからこそ、恐怖という感情も備わっている。その点、量産型のイレインは完璧なロボット、
何の感情も表す事無く、命令に従う事が出来る。だからこそ、
「っ、しまった!?」
自分の身を簡単に犠牲にし、ファリンを押さえつける事も出来る。そして仲間や姉妹という感情を持たないため

                          ザシュ

残りの量産型イレインはなんの迷いも無く、彼女ごとファリンを切りつける事が出来た。
ファリンは咄嗟に、自分に取り付いている量産型イレインを盾にする事で、胴体への直撃は避けたが、
それでも、最初の量産型イレインの斬撃は、取り付いている彼女の姉妹の胴体と、ファリンのメイド服の上着と下着を完全に切り裂き、
続けて来た量産型イレインの斬撃は、ドレススカートごと彼女の右太股を切り裂いた。
「ファリン!!」
露になった胸を隠しながらも、無事な左足で距離を開ける為に後ろへと飛び、着地と同時に右太股を押さえながらうずくまるファリンに
すずかは恐怖を無視して彼女の元へと駆け寄る。
自分のもとへと駆け寄ってくるすずかに、構わず逃げるようにと言うために顔を向けるが、彼女が見たのは、
泣きそうな顔をするすずかと、その後ろから無表情に近づいてくる2体の量産型イレインの姿だった。
ファリンは最後の力を振り絞り、すすかを押し倒し彼女を守るように覆いかぶさる。
近くまで来た二体の量産型イレインは、うずくまるファリンに向かってブレードを振り下ろそうと、腕を掲げる。
ファリンに守られるように押し倒されたすずかは、恐怖に負けそうになりながらも、泣くまいと必至に涙を堪える。そして
「(助けて・・・・・・助けて・・・・・)ガンダムさん!!!!」
一人の騎士の名を力の限り叫んだ。その直後、蹲るファリンに向けて、量産型イレインはブレードを振り下ろそうとするが、
彼女達のブレードは突如横から飛んできたスピアにより、叩きつけられ、振り下ろす事が出来なかった。
攻撃を邪魔された量産型イレインは、スピアが飛んできた方向に顔を向ける。
すずかを庇っていたファリンも、一向に攻撃がこない事に疑問を思いながらも、彼女達が顔を向けている方向に顔を向ける。

                      そこには一人の騎士がいた

                  「これ以上の狼藉は・・・・ゆるさん!!!」

             この屋敷に居候をし、庭師の仕事を受け持っている異世界から来た騎士

                      「ガンダム・・・・さん」

                    ガンダムの姿が、そこにはあった。

「彼女達は・・・・・」
ファリンにトドメを刺そうとした少女達に、ナイトガンダムは見覚えがあった。
数日前の早朝に月村家に訪れた少女『イレイン』に、二人とも瓜二つであったため、
彼女の姉妹かと思ったナイトガンダムは、せめて目的を聞こうと声を掛けようとするが、
その直後、目標をナイトガンダムに定めた二体の量産型イレインは、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
一気に距離を詰めた二体の量産型イレインは、何の迷いも無く任務の障害になりうるであろう、ナイトガンダムを排除するため、
左手に装備されているブレードを振り下ろす。
鋼鉄すら紙の様に切り裂く自動人形専用のブレード、その斬撃をイトガンダムはシールドのみで防ぐ。
激しい金属音が辺りに響き渡り、接触した瞬間に発生した衝撃波は辺りの小石や砂を吹き飛ばす。
「・・・くっ・・・・なんて・・・力だ・・・・」
このまま盾ごとナイトガンダムを切り裂かんとばかりに二体の量産型イレインは腕に力を込め、ブレードを盾に押し付ける。
負けじとガンダムも正面から押し返そうとするが、見た目からは想像もできない力に徐々に押されていってしまう。
ナイトガンダムの表情が険しくなり、彼の足が地面に陥没したその時、
「くっ、この!!」
一部始終を見ていたファリンは最後の力を振り絞り、自信のブレードを量産型イレインの背中目掛けてブーメランの様に投げはなった。
だが、不意打ちを狙ったファリンの攻撃も、量産型イレインは即座に気付き、二体の内の一体が攻撃を中断し振り向き様に切り払った。
「いまだ!!」
自分にかかる負担が二人から一人になった瞬間、ナイトガンダムは力任せに盾を払い、後ろへと飛び跳ね後退。
盾から剣を即座に抜き、いつでも攻撃できるように構える。
「なぜ君達はこのような事をする!!答えるんだ!!」
怒りを含んだナイトガンダムの問いに量産型イレインは暫らく沈黙した後、先程同様に突撃、ブレードで斬りかかる。
「これが・・・答えか!!」
自分目掛けて振り下ろされるブレードを、ナイトガンダムは剣と盾で受け止めると同時に、彼女達が力を入れる前に払う。
同時に踏み込み、一気に左側の量産型イレインの懐に入ったナイトガンダムは、即座に剣を持ち替え
「失礼!!」
剣首で彼女の鳩尾を思いっきり突き、吹き飛ばした。吹き飛ぶ量産型イレインを見据えながらも、
再び盾を構え、再び振るわれるもう一体の量産型イレインの斬撃を防ぐ、同時に再び剣を持ち替え、今度は剣背で彼女のわき腹を横なぎに叩き付けた。
横から叩きつけられた量産型イレインは、体を不気味なほどにくの字に曲げ吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「やりすぎたか・・・・・・何!?」
正直やりすぎてしまったと思ったが、痛みで顔を顰めるどころか、先程と同じ無表情でゆっくりと立ち上がる量産型イレインに
ナイトガンダムは、恐怖よりも不審感に襲われた。
正直、今の攻撃を受けたら気絶しているか悶絶しているかのどちらかの状態になっている筈である。
だか彼女達は痛みを感じさせるような素振は見せず、何事も無かったかのように立ち上がった。
「(何故だ・・・・バリアジャケット?いや、魔力は感じられない・・・・それに、あんな薄い服装にそれ程の防御効果があるとは思えない・・・・いや、
それ以前に彼女達は可笑しい。動き方が機械の様に正確すぎる・・・・・それに・・・生の息吹を感じられない・・・まるで・・・)」
「ガンダムさん!!彼女達はロボットです!!見値打ちなどでは止める事も出来ません!!!破壊してください!!」
先程以上に距離が離れてしまったが、確かに聞こえたファリンの声に、彼の考えは予想から確信へと変わった。
ならやる事は一つ、相手が心を持たない機械人形なら・・・・・・・破壊するまで。
先に踏み出したのは、今度はナイトガンダムからだった。地面を思いっきり蹴り、先程鳩尾で突き吹き飛ばした量産型イレインの元へと向かう。
量産型イレインは直に反応、ブレードを構え、同じく地面を思いっきり蹴り、正面から立ち向かう。
互いに猛スピードで接近する二人。だが、ナイトガンダムは突然剣を逆手に持ち、地面に突刺さした。
地面に突き刺さった剣は一種のブレーキとなり、土や芝生を削りながら、ガンダムの移動スピードを一気に落とし、彼の勢いを完全に止めてしまった。
だが、それが彼の狙いでもあった。
移動半ばで止まったナイトガンダムは、直に左手で持っている盾を量産型イレイン目掛けてブーメランの様に思いっきり投げつける。
激しい横回転をしながら迫っている盾に勢い任せで突撃してきた量産型イレインには回避するすべは無く
『・・・・・・非武装の右腕での防御・・・・・破損確立83%。左腕によるブレードでの切り払いに変更』
やるべき行動を即座に叩き出した量産型イレインは、安全性と確実性に優れた左腕によるブレードでの切り払いを決行、
予定通り、迫り来る盾を切り払ったが、同時に何か金属が砕ける音が響き渡った。
量産型イレインは直に原因を確認・・・・・・直に答えが出た。この音は、自分の体が破壊された時に出た音だと。
答えを知った瞬間、彼女の機能は完全に停止した。

自分が投げた盾に目が行き、そして唯一の武装であろう左腕のブレードで切り払う。それらの行動によって出来た一瞬の隙をナイトガンダムは狙っていた。
そして、彼女が盾を切り払える位置まで近づいた瞬間、ナイトガンダムは再び地面を蹴り、量産型イレインに近づく。そして
彼女が盾を切り払い、腕を動かしきった瞬間に、ナイトガンダムは彼女の胴体に剣を叩きつけ、そのまま横一文字に切り裂いた。
真っ二つになった彼女からは、ピンク色の臓器ではなく、銀色の機械部品が零れ落ちる。
ナイトガンダムが着地し、血を払うかのように剣を払った直後、真っ二つになった量産型イレインは爆散した。
後ろから聞こえる爆発音に、ナイトガンダムは不意に、剣を再び逆手に持ち、前を見たまま後ろへと突刺す
「・・・・・・動きが素直すぎる。相手が背中を見せているからといって、隙があるとは思わない事だ」
前を見ながらナイトガンダムは教えるように呟く。丁度人間なら心臓がある部分に剣が突き刺さり、
ブレードを振り被ったまま、彼の真後ろで機能を停止した残りの量産型イレインに向かって。

『ミディ』
二体の量産型イレインを倒した後、周辺の経過を行ったナイトガンダムは直にすずか達の元へと近づき、
怪我を負っているファリンに回復魔法を掛ける。
クロノからは魔法が存在しない世界では、魔法を使う相手との戦闘以外では魔法を使ってはいけないとは聞いていたが、
今はそうも言っていられない。後で罰は受けようと思いながら、回復を続ける。
同時に今回の原因を隣で心配そうにファリンの容態を見ているすずかから、今回の事件についての説明を受ける。
「・・・・わかりました。忍殿達は屋敷の中ですね。私が向かいます。ファリン殿はすずかと安次郎殿を頼みます。あと、これを」
不意に、ナイトガンダムは身に着けていたマントを取り、ファリンに渡す。
「麗しき女性が肌を見せて良いのは、同姓以外では伴侶となるべき人のみです。お隠しください」
差し出されるマントを、ファリンは頬を染めながら受け取り、早速体を覆い隠す。
「では、いって参りま(ガンダムさん!!」
背を向け、屋敷に向かおうとしたガンダムをすずかが大声を出して呼び止める。
何事かと、ガンダムが振り向くと、其処にはすずかが、胸元で両腕を握り締めながら不安そうにナイトガンダムを見据えていた。
アリサが誘拐された時と同じ、今にも泣きそうな表情をして。
「・・・・すずか」
だからこそ、ナイトガンダムは跪き、頭を垂れ彼女に誓う
「すずか。私、騎士ガンダムは必ずや、忍殿とノエル殿と共に、貴方達の元へと帰る事を誓います。ですから、私達を信じて、お待ちください」
ナイトガンダムの誓いの言葉を聞いたすずかは一瞬キョトンとするが、直に安心したような笑顔を作る。
同じだ、あの時も不安で押しつぶされそうになった自分に彼は誓ってくれた、そして誓いを果してくれた。
「分かりました。ナイトガンダム、必ず・・・・必ず、お姉ちゃんとノエルと一緒に・・・・・・無事に帰ってきてください」
「御意」
約束するように深々と頭を下げた後立ち上がり、ナイトガンダムは屋敷へと向かった。

 

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最終更新:2008年07月08日 12:24