フェイト・T・ハラオウンは本局で与えられた仕事部屋にて悩んでいた。
別に執務官の仕事として処理しなければならない書類の山は何時もの事。
『大変だ』と思うことは有れど、悩まなければならないような事柄ではない。
問題があるとすれば書類の山を書き分け、中央にワザワザ置かれた冊子。そしてソレに付随する内容だろう。

『遺失物管理部機動六課、成立の経緯と準備内容』

紅いマジックでデカデカと『超重要や~』と書かれており、何故かタヌキにデフォルメされた十年来の友のイラストが添えられていた。
そう言えば前に会った時、「あんまりタヌキって言われるから、いっその事マスコットキャラでもつくろか?」と言っていたが、冗談ではなかったらしい。
夢だった自分の部隊を持つと言う事を叶えつつ、一体なにをしているのだろうか? 八神はやては。

「誰にしようかな……フォワード」

フェイトに与えられた役職はフォワードの分隊、ライトニング分隊の隊長 ライトニング1。細かい仕事は捜査や法律関係など。
そのライトニング分隊の予定人数まで二人の空きがあり、その二人を選ぶ権利を我らがタヌキ隊長からフェイトは与えられていた。

「エリオ、元気かな?」

一人は決まっている彼女が保護した子供のうちでもっとも勇敢で、もっとも魔法の才能に恵まれて……もっともフェイトに近い存在。
色々とフェイトとしては悩む所があったのだが、本人は至ってやる気なのだから仕方がない。
あの輝きを妨げるのは余りにも気は退ける。空きの一つ、ライトニング3は彼に決定だろう。問題はあと一人……

「どうしてるかな……キャロ」

次にフェイトの脳裏を過ぎったのは決して忘れる事がないだろう少女の名前。
彼女が否定する闇の中で掴んだ幸せを、彼女によって壊されて、差し出された彼女の手を振り払った。
悪辣な恩人への恩義と愛情を貫く為に、フェイトを撃退した少女。
その存在は彼女にとって全く未知の存在となった。守るべき存在だと思っていた。しかし道を違えば打ち倒すべき敵になるのだろうか?
疑問を多々に残し、フェイトの心の一角をいつも占めている。

「もう一度会いたいな」

検査入院していた病院で最初に呟いたその言葉は何度呟かれたかも分からない。
キチンと話をして、可能ならばお互いをもっと理解したかった。しかし捜査網を使って探すわけにも行かない。
叶わぬ願いにため息を零す様子は『離れ離れになった恋人の心配をしている』ようにすら見える。

「さて! 仕事仕事」

だがフェイトは管理局の執務官である。何時までも恋人の心配をしている訳にも行かない。
手に取るのはタヌキの描かれた冊子ではなく、山積みにされた執務官関係。
機動六課の成立は勿論大事だが、ソレに向けて雑務を終えておく必要があった。数分間、書類を処理して……

「そう言えばここの資料を無限書庫にお願いしてたんだ」

一つの書類で作業の手が止まる。そこには『別途資料利用』の文字。自分で書いておいたのだが、六課のゴタゴタですっかり忘れていたらしい。
フェイトはデスクから立ち上がり、部屋を後にした。向かう先はこれまた十年の共にして、フェレットの巣穴へ。


「ユーノ、久し振り」

無限書庫は『容量』という感覚を著しく欠乏し、無限の暗闇と無数の情報によって出来ている。
闇の中でフワフワと浮きながら、無数の本を従える見知った後姿に、フェイトは自身も闇の中へと身を投げ出して言う。

「あぁ、フェイト。いつ来るかと思って待ってたよ」

「ゴメン、すっかり依頼していたのを忘れてたの」

答えるのは眼鏡をかけたフェイトと同年齢の好青年 ユーノ・スクライア。
遺跡発掘で有名なスクライア一族にして、管理局の頭脳 無限書庫の司書長である。
彼が手を一振りすれば、何処からとも無く飛んでくる紙の束。手渡されたソレを一通り確認して、フェイトは頷く。
合いも変わらずパーフェクトな仕事ぶりが確かに羅列されていたからだ。

「相変わらずの仕事ぶりだね。少しは休みを取った方が良い。考古学の方とか専念したらどうかな?」

「実は趣味の考古学の方もこの頃充実しててさ」

「え? そうなの」

てっきり本部から外にも出ていないような生活をしていると思っていたフェイトは、嬉しそうなユーノの様子を見てフェイトは首を傾げる。
いつの間にこの仕事の虫二号(一号はクロノ)はそんな暇を作ったのだろうか?

「イヤ、僕は本部から出ていないんだ」

「じゃあどうやって?」

「頼れる協力者を久し振りに捉まえられてね。現地での発掘は、その人達に任せてるんだ」

二人の会話を中断するように響いたのは通信を知らせるお約束の電子音。発生源はユーノの個人端末のようだ。

「噂をすればその協力者達から……やぁ、もう例の遺跡には着いたんだよね?
調子はどうだい、当たりっぽいかな?」

『当たりみたいです。ただ防御システムがまだ生きていて……』

ユーノの一方にのみ開かれる通信のウィンドウ。フェイトから勿論その相手の画像を確認する事は出来ない。
だがふと……どこかで聞いたことのある声だな?とフェイトは感じた。
そう、小さな女の子の声。優しげで朗らかな……一体誰だったろう?

「じゃあ無茶はしなくても良いよ。調査隊を送るから一緒に……」

『おいおい、つまらない事言うなよ』

「っ!?」

だが不意に声が変わる。声の音質自体は変わっていないのだが、ソレが乗せる言葉の意味が変わる。
もし画像を声から想像するならば、ウィンドウに映されていた聖女が一瞬で悪魔に化けたような衝撃を伴う変化。
皮肉り、嘲笑い、踏み潰す。そんな事を疑問に思いもしないような……まさか!

『さっきは準備が無かったから退いたが、今度は全部ぶち殺して奥まで突っ走る。
 もし最深部まで辿り着いたら、報酬を上乗せで頼むぜ? 先生様よ~』

そこまで静観していられたことが、フェイトの中では奇跡だった。
もう我慢ならない! お得意の高速移動でユーノの後ろに回りこみ、通信のウィンドウを覗き込む。
見えたのは……老獪な犯罪者の様な奇妙な笑みを浮かべる桃色の髪の少女。
首から下げられているのは金色の輪、肩に止まるは白亜の幼竜、背後に居並ぶ首のない板金鎧。

「あのっ!!」

間違えようがない。ハッと目が合い、相手もフェイトを認識しただろう。正に生き別れの恋人に向けるような想いの奔流。

『ブツン』

そんな分かり易い擬音と共にブラックアウトする通信ウィンドウ。
思いの行き先を失ったフェイトは状況が把握できていないユーノに……

「ユ~ノ~!! これは一体どう言う事!?」

「ちょっ! ソレはこっちの台詞だけど(ry」

『何故自分が数年来探していた相手と軽々しく連絡をとっているんだ!』
そんな思いを多大に込めて……八つ当たりをしてみた。プラズマザンバー的に。


一方同じ頃、とある管理世界の山間に覗く遺跡にて……

「なぁ、相棒」

『なんですか、バクラさん』

「ビルの下敷きにしてやった金髪の露出狂死神が見えたのはオレ様だけか?」

チューブトップにタイトナミニスカート、真紅のコートを羽織り、片手を覆う手袋型デバイスを光らせながら少女は問う。
否、少女の体を借りた邪神の欠片にして盗賊王バクラは、体の本来の持ち主である竜召喚師キャロ・ル・ルシエに問う。
墓荒らし(発掘)の長期契約相手と通信をしていた筈なのだが……『今見えたのは幻か?』

『私もしっかり見えました。フリードは?』

「キュクルゥ~」

『見えたって』

辺りは人の気配がない山脈、眼前には石造りの洞穴、背後には居並ぶ異形。
ブラックアウトしたウィンドウを、苦虫を噛み潰したように見つめるセンスがアレな少女。
かなりシュールな構図だが本人たちにしてみれば大した問題ではない。

「えっと……お話を聞かせて! そしてお話を聞いて!!」

大きな問題 フェイト・T・ハラオウンが再び繋がった通信で必死に何かを騒いでいる。
その様子が余りにも必死で、思わず耳を傾けてしまった。そしていつの間にか会う約束なども。
このとき自由奔放な二人と一匹は珍しく同時にため息をつく。


『キャロとバクラが奇妙な縁で捕捉されたようです』

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最終更新:2008年03月16日 11:07