「バクラさん……私、凄い発見をしました」

「あん?」

「外の世界で生きていくにはお金が必要なんです」

「そうだな」

「お金がないとご飯も食べられません」

「知ってる」

「そしてお金はお仕事をしないと手に入らないんです」

「だから?」

「お仕事を探したいと思います」


と言う事で……


『キャロとバクラが就職活動をするそうです』


『とりあえず『盗み』だな』

「……何がですか?」

『仕事に決まってるだろうが?』

「却下」

山奥のアルザスの村から三日ほど歩くと辿り着ける街がある。
田舎の地方都市なのだが山奥の村に篭っていた少数民族の少女からすれば未知の領域。
街では目立つ民族衣装と、首から提げた大きな一つ目が彫られた金色のペンダント。
それに不安げに辺りを見回す様子からキャロ・ル・ルシエは立派な御上りさんである。

『あんまりキョロキョロするんじゃねえよ! ただでさえ無駄に目立ってんだから』

「えっ!? 目立ってましたか?」

カッと彼女の首から下げた超級オカルトグッズ 千年リングが光を放つ。
キャロの背後に影のように立つのは白髪をツンツンヘアにした目付きのヤヴァい少年。

『自覚無しか……周りを見てみな! テメエの派手なマント着てる奴がいるかよ?』

その姿はキャロ以外には見えず、その声はキャロ以外には聴こえない。
彼の名はバクラ。千年リングに宿る三千年前の闇の意思にして、盗賊。

「……居ませんね」

『ちったぁ、自重しろ。服も代えた方が良いかもな…「キュウ~」…チビ竜!
テメエも顔を出すんじゃねえ「ギャウン!」まったく……』

昔居た世界ではソレこそ悪逆非道の限りを尽くしたバクラだが、この世界 キャロの胸(エロい意味ではない)に収まってからは大人しい。
大人しい理由としてはキャロの竜使いとして白竜をも従える力に、完全に体の主導権を手に入れられないと言う事もある。

だが同時に盛大に気が抜けたと言う事も可能性としてある。
もはや三千年の闇の運命に縛られる必要も無く、自分を身につけたのは世間知らずで村から追い出された薄幸の竜使い。
極悪な盗賊を持ってしても……お節介を焼きたくなる。


「これで五店目……」

『連敗記録更新中だな』

「ダッ、ダマレです!」

「キャウウ」

ションボリと肩を落としてベンチに腰掛けていたかと思えば、急に虚空に向かって怒鳴る。
そんな彼女の横に置かれたバックからはトカゲチックな顔が覗いていた。
現時刻、既に日は沈み闇が深い時間をもってキャロは物凄くイタイ子です。

「お仕事をするのがこんなに大変だったなんて……」

『この程度の片田舎で毎日求人してる場所なんてそうねえわな?』

バクラの言った求人云々も含め、田舎の堅物たちが着る服を身につけた小娘をワザワザ雇おうなんて考える者はそう居ない。
相棒の指摘通りに無いお金を崩して服を代えるべきか?とキャロはタメ息。

「村ではすぐにお仕事できたのに……この街の人は冷たいんです!」

ヤケ食いだ!と残り少ないビスケットを口に放り込み、むせ返る宿主にバクラは問う。

『例えば?』

「お隣さんの洗濯とか子守り、おイモの皮剥きとか……」

『それはお手伝いって言うんだ』

「っ!?」

『マジで!?』と驚愕の表情を虚空に向けるキャロはやっぱりイタ(以下略!
そんな二人と一匹(見た目は一人と一匹)に歩み寄ってくる人影。
どこにでもいる中年の男性、一つ付け足せば人の良い笑みを浮かべている。

「はじめまして、お嬢さん」

「はっはいっ!?」

「見たところアルザスの生まれかな? 色々と苦労してるようだね」

「そうなんです……実は」

話しかけられた時こそ驚きはしたが、キャロはすぐに警戒を解いた。
今まで仕事の件を掛け合った人全てに邪険にされ、話し相手は二言めに『盗み』だ『盗掘』だと言う。
信頼できるはずの使い竜は未だに赤ん坊。この状態で見ず知らずの人間に優しくされたら口も心も軽くなる。

「なるほど……大変だった。それで仕事を探しているのか……どうだろう? ウチの店で働いてみないかね?」

「えっ!? 良いんですか!?」

「ウチは主に食べ物を出す飲食店なんだけど、ウェイトレスを探していたんだ。
アルザスの話なんかをしてくれればお客様も喜ぶと思うんだけど……もちろん無理にとは言わないけど……」

パァッ!とキャロの顔が明るくなり……

「嘘はその辺にしとけよ、オッサン」

胸の千年リングが光を放ち……一変する。感動と喜びに緩んでいた頬は皮肉った笑みを刻み、感動で溢れそうだった涙の目元は鋭さを増す。
前髪が二房ほどピンッ!と立ち上がり……キャロはバクラに変わる。

「なっ何を……」

『止めてください、バクラさん!』

状況を飲み込めず驚く男は呆然と、仕事を得る機会を逃すものか!と焦るキャロは憤然と。
だがバクラは体の主導権を離さない。

「料理を出す店? はっ! お前からするのは料理の匂いじゃねえ……金と……偽りの天国にいける薬の臭いだ」

「っ! 何をバカな……」

『えっ……嘘』

確かに男からは甘い匂いがしていたのはキャロも理解している。だがそれがイコールで……

「盗賊はな……そういう同属の匂いに敏感なんだぜ。幾らで売るつもりだったんだ?
 今での女共みたいに麻薬で抵抗する気なんて無くさせて……」

「……」

「歌い文句は……『滅多にお目にかかれないアルザスの少女! 何も知らない処女を貴方のお気の召すままに』ってか?
 金貨一袋! イヤ……二袋はいくかな? 相棒の体はよ~!!」

バクラが撫でたはずの体の感触を思わず言葉の中身と重ね、キャロはその顔を真っ青に染める。
否定せず、憎々しげにこちらを見ている男の反応が、彼の言ったことが真実だと示していた。
もしバクラが止めてくれなかったら……

「おのれぇ!!」

「チビ竜!」

「ギャワウ!!」

男が懐から引き抜いたのは帯電する棒状の物体、護身用のスタンガンか何かだろう。
中身がバクラのものとは言え、主の危機である。何時もより迫力がある主の声にフリードはカバンを飛び出し、男の顔に飛び掛った。

「グフォッ!」

そのスキをバクラは見逃さない。キャロの非力な体とは言え、盗賊の実戦経験で動かせば鳩尾にキツイ一撃を加えることも可能だ。
のた打ち回る男を捨て置き、フリードを連れてバクラは歩き出す。

「このアマ! ただで済むと思うなよ!?」

起き上がった男を首だけで一瞥し、詰まらなそうに盗賊は呟く。

「その言葉……ソックリ返すぜ。テメエはもう摘んでんだよ!」


男の背後には首が無く空っぽの中身を覗かせた西洋の鎧騎士が三体。
感情の欠片も見せず、虚ろな動きで剣を振り上げて……『GAME OVER!』

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最終更新:2008年01月30日 09:07