小話メドレーその13『シグナムとヴィータをロード・オブ・ザ・リング風に掛け合わせてみた、の図』

 降り注ぐ日光、だが大空にはそれを遮るものがある。
 雲か? それも確かにある。実際“それ”は雲に見えた。だが実際は全く異なっている。
 雲霞にも似たそれは――膨大なガジェットの大群だ。
 あまりの量、あまりの密度に入道雲とも見間違いかねない、それ程の大群が時空管理局を目指して進む。
 その行く手を遮るのは、たった二人の騎士だ。
 片や紫紺の装束に大弓を構えた、烈火の騎士シグナム。
 片や深紅の衣装に鈍色の鎚を担ぐ、鉄槌の騎士ヴィータ。
 ヴォルケンリッターに名を連ねる歴戦の勇士、だがこの大群を前にして勝利を得る事が出来るのか。そう聞かれて肯定出来るのは、一体何人だろうか? 
 単刀直入に言って、これは火を見るよりも明らかな“負け戦”であった。
 だが二人は退かない。背後の仲間達を、同胞達を、そして主を護る為に。
「……あ~ぁ。よりにもよって、おっぱい魔人の隣で最後の戦いをする事になるなんてな」
 ヴィータは、かつてシグナムに当てたあだ名を口にする。
 それは軽口であった。絶望的な状況、それを前にして心が挫けぬ様にする為の、一種のごまかし。
 シグナムもそれを理解しているだろう。そしてヴィータは軽口が返されると思っていた。
 だが返されたのは、
「――親友の隣でなら、どうだ?」
 返された言葉にヴィータは目を丸くして、だが直ぐにそれを崩した。満足した様な、楽しんだ様な、静かな笑みへと。
「――ああ、それなら悪くない」

小話メドレーその14『なのはA'sの最後をAIR風にしてみた、の図』

 12月25日、その日の海鳴市には雪が降っていた。
 深々と降り積もるのは市立病院の裏手だ。小さな丘にも似たそこを一つの影が進む。否、それは“一つの”影ではない。“二つで一つの”影だった。
 一つは銀髪に赤い瞳の女性、もう一つは女性に押される車椅子の少女だ。
「……ごっつ気持ちえぇなぁ」
「はい、ごっつ気持ちええですね」
 車椅子の少女は微笑んで背後の女性を見上げ、女性もまた微笑みをもって答えた。
「冬の匂いがすんな」
「どのような匂いですか?」
 女性の問い返しに少女は、う~ん、と小首を傾げてから、
「……雪の匂い」
「そうですね、しますね」
「……ほわっとした空気の匂い」
「ですね、それもしますね」
 そして、
「――リインフォースの匂い」
 少女の言葉に赤い瞳の女性、リインフォースは小さく言葉を詰めた。
「じ、自分の匂いがそんなにしてたら私は嫌ですよ? 主はやて」
「するよ、リインフォースの匂い」
「…本当ですか?」
 リインフォースが進める車椅子の上で少女、はやては頷く。
「――この冬はリインフォースの匂いがいっぱいした。……大好きな、リインフォースの匂い」
「それ、臭かったら堪りませんね」
 頬を赤くしたリインフォースは呟き、はやてもまた、堪らんね、と茶化した様に答え、
「でも、ええ匂いやった」
「――そうですか。それは…良かったです」
 それからどれ程の時間か、丘を一周した二人は病棟の側まで戻ってきていた。雪が退けられた煉瓦の歩道を車椅子が進む。
「…クリスマス、終わってしまいましたね」
 車椅子を止めて呟くリインフォース。それは聖夜に暴走した自分の行動を悔やんでいるのか。はやては、せやな、と肯定し、だがそこで終わらせない。
「でもええやんか、もう闇の書は終わりや。これからは私達と一緒に暮らすもんなぁ?」
 はやては微笑みを向け、リインフォースも笑みをもって返した。
 だがはやては気付いただろうか。それが今までの笑みとは種が異なるという事に。
「主はやて、ここで待っててもらえますか?」
 リインフォースの唐突な願いにはやてはきょとんとした顔をする。
「何や? 何かあるんか?」
「はい。――何があっても、来てはなりませんよ?」
 そう言ってリインフォースは車椅子から手を離し、右手から回り込んで進んでいく。
「リインフォース、どこに行くんや?」
 進んでいくリインフォースの背にはやては背を伸ばすが、一寸の差で指は届かない。その様子を悟ったのかリインフォースは背を向けたまま、
「主はやてはそこにいて下さい。……主はやてはゴールなのですから。私はもう、ゴールに辿り着いたのだから」
「…そか、私、ゴールか」
 はやては釈然としない表情を作り、尚も進んでいくリインフォースの後ろ姿を見る。
 そして10メートルも離れた頃だろうか。無言であったリインフォースに届けるかのような声を作った。
「もういいですよ? 私は、頑張りましたよね?」
「……リインフォース?」
「――もう、ゴールの先に辿り着きましたよね」
「なんや、先に行きたかったんか? すぐに追い付くから待っとれ、んで一緒に家に……」
「いいえ。私の望んだもの、目指してきたもの……ゴールを抜けて、そこに辿り着いた」
 タイヤを回そうとして、それが動かぬ事にはやては気付いた。タイヤがバインドによって固定されている事を。
「頑張ったから、もう良いですよね?」
「――っ!!」
 はやてが息を飲んで見る先、リインフォースは天を仰いでいる。
「もう、休んでも、良いですよね?」
 その後ろ姿が、否、その輪郭が歪んでいく。滲み、光の粒子へと崩れていく。
「まさか…消えそうなんか? リインフォース、ホンマは消えそうだったんか……っ?」
 はやては両腕を車椅子の肘掛けに立てて身を起こそうとし、だがそれへ、動いてはいけません、という叫びが届いた。
「……嘘や、嘘やゆうてや。これからはホンマは元気になっていくんやろ…? 悪い夢は終わった筈やろっ!?」
「すみません主はやて。…ですが私は、全てをやり終える事が出来ました。だから、もう良いのです」
「あかんリインフォースっ…………行ったらあかん!!」
 それがどれ程の意思を示すものだったのだろうか。
 未だ完治に至らぬ不随な両足、しかしはやてはそれをもって立ち上がっていた。
「始まったばっかりやんか、昨日やっとスタート切れたんやないか!!」
 ゆっくりと、
「――取り戻していくんや」
 覚束ない足取りで、
「……何千年も前に奪われた幸せを、去年から始められた筈の幸せな暮らしを、ヴィータ達と一緒に取り戻していくんや!!」
 しかし確かに、
「――私らの幸せは、始まったばっかりやんかぁっ!!」
 はやてはリインフォースへと歩んでいく。だがリインフォースは振り向かない。
「……いいえ、全て出来ました。もう十分な位に。この1年に、闇の書となってからの年月を消化出来る程の幸せが詰まっていました」
「あかん、違う! 私、沢山したい事があるんや!! 大好きなリインフォースとしたい事が沢山あるんや!! ――全部、これからなんやぁっ!!!」
 歩むはやて、しかし遅々とした速度はリインフォースが崩れる早さに及ばない。
「このままずっと続くと思っていた闇。
 主はやてと出会った冬から始まった1年間。辛かったり、苦しかったりもしました。
 ですが私は――頑張って良かった!! ――私のゴールは、幸せと一緒だったから。独りきりじゃなかっ
たから。
 ですから、ですから――もう、ゴールの先へと行かねばなりません」
「あかんコレからや!! ――これからや、言うとるやろぉっ!!!」
 叫びと共にはやての指先がリインフォースにかかり、……そしてすり抜けた。
「……やっと辿り着きました。ずっと探していた、場所。探していた場所、ずっと、探していた、場所」
「いややぁ、そんなん、いややぁっ」
 身の向こうを透けさせるリインフォース。
 空へと散っていく光の粒子をはやては掴み、しかし光は零れていく。
 そして、完全に失われる直前、リインフォースははやてへと視線を下げ、
『――主はやて、ありがとうございます』
「リインフォース――――――――――――――ッ!!!」
 その笑みを最後に、リインフォースは完全に消失した。
「リインフォースに何もかも教えてもらったんやないか、独りっきりやない生き方。
 ……置いていかんといて、私達を遺していかないで。
 リインフォースとヴィータ達がいれば何も要らん。
 新しい服も、贅沢も何も要らん!
 リインフォース達と一緒に居れたら良かったんや。ずっと私の家で暮らそう? リインフォース、リインフォースうぅ……ッ!!!」
 鳴き声は雪空に響き、しかし彼女には届かない。

小話メドレーその15『嘘予告をやってみた~デバイスだけで頑張るのはPLUTO編』

 その日ゲジヒトを目覚めさせたのは、時計のアラームでもなく妻の呼びかけでもなく、呼び鈴による電子音だった。
「……なんだ?」
 ベットの上で身を起こすゲジヒト、そんな寝室へと妻が入ってきた。
「貴方、バルディッシュさんがお見えよ」
「…バルデッシュが?」
 どういう事だろうか、とゲジヒトは思う。相棒として彼とは長年付き合ってきたが、バルデッシュは律儀でこそあれ強引ではない。つまり、こんな時間に来るには相応の理由がある、という事だ。
 思い至ったゲジヒトは寝間着の上にガウンを羽織り、妻の横を抜けて玄関を目指す。
 そして開け放たれた扉の向こう、そこに立っていたのは――黒い肌に金の髪と瞳をした男だった。
「何事だ、バルデッシュ」
「……デュランダルが殺された」
 バルデッシュの告げた言葉にゲジヒトは息を飲む。
「モンブランに続いて2人目、全次元最高峰デバイスがこれで2人消えた。……お茶の水博士が私達を呼んでいる」
「――解った、すぐに行こう」
 頷くバルデッシュに背を向け、ゲジヒトは身支度を整えるべく室内に戻った。



 時に新暦170年、この時代には大きく分けて二つの人型があった。――人間と、デバイスである。
 詳細に人間を真似た機体、その開発によってデバイス達は、最早人間達とほぼ相違無くなっていた。

 ――新暦170年。この時代は、人間とデバイスの境目が最も薄くなった時代。



 100年近く前に開発された年代物の車、かつてフェイトが乗り回してた黒塗りのそれが科学省の門前に止められた。それから下りるのはバルデッシュとゲジヒト、そしてそれを迎えるのは二人の女性だ。
「……レイジングハート、リインフォース」
「待っていたわ。バルデッシュ、ゲジヒト」
「お茶の水博士のお部屋まで案内するです」
 桜色と銀色の長髪をした二人は、バルデッシュ達を科学省の中へと導く。
 ホールを抜け、エレベータに乗り、扉の先の通路を抜ければ“科学省長官室”と銘打たれた扉があった。
「失礼します」
 リインフォースはノックと共に声を放ち、入りたまえ、という返事の後に扉を開けた。
 4人は室内へと歩を進め、中で待っていたのは老人と少年だ。
「アトム、君もいたのか」
 ゲジヒトの言葉に少年は頷く。
「はい。…今回の事件、僕達が狙われているようなので」



 あらゆる次元世界の技術の粋を集めて造られたアトム達7人の新世代。
 そして100年以上前の生まれでありながら彼等にも拮抗するバルデッシュ達5人の旧世代。
 これらを合わせた12人は“次元最高峰のデバイス”と総称され、尊敬と畏怖の眼差しを集めていた。



「アトムの言う通り、モンブランとデュランダルの殺害は同一犯だ。……これがその証拠だ」
 重々しく老人、お茶の水博士はデスク上に写真を乗せた。デスクを囲むバルデッシュ達、4対の瞳が見る2枚の写真は、残骸となった2人のデバイスの頭部だ。だが、写真にあるのはそれだけではない。
「……角?」
 正確には枝か、パイプだ。それぞれ1対のそれらが、頭部の左右すぐ側に突き立てられている。まるで長い角を象る様に。
「これが何を意味するのか、それは全く解らない。解るのは……犯人がこれを残した事、そして他の次元最高峰のデバイス達も狙われるだろう、という事だ」
 お茶の水博士は厳しい表情を作り、そしてゲジヒトとバルデッシュを見据える。
「君達を呼んだのは――この事件の追求、そして他のデバイス達にもこの事を報せてもらう為だ」
 お茶の水博士は告げる。
「この場にいない最高峰デバイス……ノース2号、ブランド、ヘラクレス、エプシロン、そしてアギト。彼等に報せてくれ。――迫りつつある、この危機を」



 迫る危機、それは地獄からの王者。
 二本の長き角を讃えた、全てを砕く悪魔。
 『PLUTO~次元最大のデバイス~』
 我等の前にあるのは憎悪か、苦しみか、それとも別の何かなのか。

小話メドレーその16『ティアナさんはされど罪人は竜と踊る罰ゲームを実行しました~なのは編~』

「もう一回お願いします」
 私の横に立つティアが眼下の道路へと声を投げた。それを聞くのは私が憧れて止まぬ高町なのはさん、彼女は全身をローブで隠し、歩道に置かれた木箱の上で大きく身を震わせている。
「早くして下さい、なのはさん」
 ティアの目と声は氷点下、赤子は泣き出し老人は速攻でポックリ逝きそうな冷たさだ。それを向けられたなのはさんは何事か言葉を漏らすが聞き取れない。
「聞こえませんよ、なのはさん。もっと大声でないと商売になりませんよ? 一つでも間違えたら、また最初からやり直しですかね?」
 ああ人間関係って簡単に壊れちゃうものなんだね、と私は思う。
 何事か、と通行人達が囲む中、やがてなのはさんは長い溜め息をつき、何かを大事な物を失った様な笑みを作った。そしてローブを勢い良くはぎ取って、
「――年齢的にかなり無理がある、魔法少女リリカルなのは参上!!」
 露になったのはドピンクのフリフリドレスを身にまとったなのはさんの異様だった。杖型となったレイジングハートを掲げてウィンク、勿論口からは照れた様に舌が出ている。
 その瞬間、周囲の通行人達が一斉に退いた。男は顔を引き攣らせ、女は息を飲み、子供達はひきつけを起こした様に泣き出す。
「リリカル・マジカル・テクニカル! あなたのくだらない夢とゲスい欲望を、愛と勇気のプリティ魔法で叶えちゃうゾ、ただしバッチリ有料で(はぁと)」
 更にレイジングハートを振りつつ踊り出したなのはさん。あまりの恐怖に子供達は梅図か○お的な描写となり、親達はパニックサスペンスの主人公の如く我が子を抱いて逃げ出した。

 現在のなのはさんの行動は、ぶっちゃけ超弩級の変質者だった。後に残されたのは年増の魔法少女ただ一人。
 時空管理局のエースオブエースことなのはさんは、耳まで真っ赤にして涙混じりの両眼でティアを見上げた。
「こんな商売成立しないよ!! 何、このカワイさ目指して痛い呪文はっ!!?」
「何を仰るんですか、かつては自分が声高々に叫んでいた呪文なのに。ていうか私に話しかけないでくれます? 変質者の知り合いだと思われるじゃないですか」
 ティアは手の甲を口元にあてて高笑い。
「さぁもう一回。頑張って下さいね、時空管理局機動六課スターズ分隊隊長の高町なのはさん?」
「ティ、ティアナ、お願いだからフルネームと勤め先を言わないで! 外に出られなくなる!!」
「では急いで下さいな、時空管理局機動六課スターズ分隊隊長の高町なのは三」
「ス、スバル! ティアナどうしちゃったの!? 性格変わってない!?」
 いえ私に言われても。
「私だけじゃなくスバルにも文句を言うんですか? 時空管理局機動六課スターズ分隊隊長の高町な……」
「わ、解ったから、お願いだからもうやめてぇっ!!」
「何が解ったんですか? 時空管理局機動六……」
「全力全開で魔法少女を喜んでやらせて頂きますっ!!!」
 そう言ってなのはさんは大きく息を吸い、
「漢の生き様をみさらせっ!!!」
 集まってきた通行人達を前に、再び踊りと呪文を繰り返していた。周囲の人々がどの様な反応をしたのか、最早見ているのも辛い。
「脇が甘い! 呪文が腹の底から出ていない!! なのはさんは不況を嘗めてるんですか!?」
「もっと真心を込めて踊って下さい! 誇りだとか自尊心だとか、人間としての大事なものなんて貴女にはもうないんですよ!!?」
「魔法で株価を上げ、魔法で世界中の戦争を止めなさい!! さもなければ終わりませんよ!」
「もっと憐れみを誘え!! 憐れみと施しこそが、魔法少女の喜びで主収入なのだ!!!」
 ティアナのダメ出しは以降30分以上続き、何時しか通行人もいなくなった所で終わった。なのはさんは膝を抱えて踞り、何事か延々と呟いている。耳を澄ませば何を言っているのかが……
「……私の生まれてきた意味って何? これが私の目指した局員の高み? 否、断じて否! でもでも……」
 訂正、耳を澄ませても何一つ聞こえませんでした。人として言ってはならない事なんて何も言ってませんでした。
「――もういいですよなのはさん、これまでにしましょうか」
 そしてティアが廃人寸前のなのはさんに呼びかけた。
「ティ、ティアナ……貴女を頭冷やそうとして吹っ飛ばした私でも許してくれるの……?」
「勿論――あの痛みと屈辱は、この程度の罰では晴れません。休憩はここまでにしましょうか」
 その瞬間、なのはさんの顔が絶望に彩れる。
「次はクラナガンの大通りに行きましょう!! 大観衆が魔法少女を必要としていますよ!!!」
「い、いや、それだけはいやぁっ!! もうミッドチルダで生きていけなくなる―――――ッ!!!」

小話メドレーその17『ティアナさんはされど罪人は竜と踊る罰ゲームを実行しました~シグナム編~』

 星空の下に建つ機動六課隊舎を僕、エリオ・モンディアルはキャロと一緒に目指していました。今日はスターズとライトニングに分かれての訓練だったので、二人だけです。
 それでふと隊舎を見上げると、二階にティアナさんとスバルさんが見えました。おーい、って手を振ったらティアナさんは優雅に返して、それから出入り口前を指差しました。
 そこを見てみて、そういうジェスチャーだと思った僕は視線を向け、そこで不思議なものを見ました。

 それは爪先立ちをしつつ大空に右手を伸ばす、シグナム副隊長の姿でした。

「しぐ、なむ副隊長? な、何をしてるん、ですか?」
 隣でキャロが一歩後ずさる音を僕は聞きました。やがてシグナム副隊長は強ばった笑みを僕達に向けてこういいました。
「――私、わ、私は、そ、の、お星様と握手を、しようとしていた、のだ」
 その瞬間、僕には解ってしまいました。ああ、シグナム副隊長は疲れているですね? 僕達が未熟で不甲斐ないばかりにストレスが溜って、お星様と一緒に遊びたくなったんですね?
「よ~し、自分で自分を持ち上げてお月さまの所までいっくぞ~。そこでお月さまに腰掛けて、お星さまたちの海でひと泳ぎ。そしてお星さまとお月さまに、私の大好きな主はやての事を聞いてもらうんだぁ☆」
 ……ああ、なんて壮絶な表情をするんだろうシグナム副隊長は。こんな哀れな姿をさせてしまうなんて、僕達はなんて不甲斐ないんだろう。
「――シグナム副隊長。人生辛い事は多いだろうけど、くじけないでまっとうな道を進んで下さいね?」
「ち、違っ、これは違うんだエリオっ! 私をそんな汚れない瞳で見ないでくれ……っ!!」
「解ってます、解ってますから」
 そして僕はキャロの手を取り、全速力で隊舎に走り込みました。背後で、
「シグナム副隊長、早くお星さまに触ってくれないと終わりませんよ? ほら、並木に登ればギリギリ届くんじゃありませんか?」
 という愉悦に満ちたティアナさんの声と、何かが崩れ落ちるような音を聞きました。

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最終更新:2008年01月07日 22:26