町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。
王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。
王子は皆の自慢でした。
「どうしてあの幸福の王子みたいにちゃんとできないの」
月が欲しいと泣いている幼い男の子に、賢明なお母さんが聞きました。
「幸福の王子は決して何かを欲しがって泣いたりしないのよ」
by Oscar Wilde -The Happy Prince-
「人間って何でできているの?」
君はそう私に聞いたことがあったよね。
私は難しい医学書から目をそらさずに、
「水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg・・・・・・」「いやそういうのじゃなくてさ」
君は苦笑しながらそういうのじゃなくてさ、ともう一回言った。
「人間なんて所詮、肉の塊だろ?だから誰が誰だか本当は判別つかないはずなんだよ。ということはさ」
そういって君は自分の胸をとんとんと叩いて、
「此処の構造の違いでみんな判別してんじゃないかって思ってさ」
そういって君はにやりと笑った。
私は君のその笑い方が好きだった。
何にもしばられず、とらわれず、寧ろ囚われて足掻いている人々を嘲るような笑い方が。
「魂で判別するって事?じゃあ身体は要らないってわけ?」
それでも私は反論する。君がどう切り返してくるかが見たいから。
「そうだよ。身体は結局重荷にしかならないってこと。実際そうだろ。でもさ」
君は突然私に抱きついてきた。
「・・・なに」
「魂だけだと美樹がどこにいるかわからないだろ?だからこうやって、」
ぎゅっと私をまた抱きしめる。
「こうやって触れ合ったときの感覚とか、伝わってくる暖かさとかで、あぁこの人は此処にいるんだなあって人間は安心するわけ。ほら人間って疑り深いからさ」
「ねぇ」
「ん?」
「私はそうやって屁理屈ばっかり言う君は嫌いだけど、」
「ひどいなぁ」
「このいま感じている暖かさは好きだ」
「そっか」
君はくすっと笑った。
お互い誰にも与えられた事のない暖かさを、傷だらけの私たちは不器用に貪りあった。
それは、まるではげたかのようで、でもどこか幸せに満ちていて。
ここは隔絶した孤児院の中
確かに私たちは幸せだった。
to be continued...