※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

絵とき植物生理学入門 3.2 細胞培養と遺伝子改変植物

細胞培養の歴史

「挿し木=枝から植物個体の再生が可能であること」は古くから知られていた。

1939年、フランスのR. J. GautheretとP. Nobécourtがそれぞれ独立に人参根の細胞を人工培地上で連続的に分裂させることに成功。

細胞塊は未分化で不定形の細胞の塊であり、「カルス」と呼ばれた。

分化している細胞がカルス化することを「脱分化」と呼ぶ。

F. Skoogはサケ精子から採取したDNA標品を高温処理した部分分解物にカルス増殖を促進する作用があることを見出し、「カイネチン」と命名。最初のサイトカイニン。

カルスは培地中のサイトカイニンとオーキシンのバランスにより再分化(カルスからの茎葉、根などの分化)が起こることが後に明らかとなる。

これらの発見は、1個の細胞から完全な植物体を再生させる技術の発展に結びつく。「1個の細胞から完全な個体を再生出来る能力」のことを全能性(あるいは分化全能性、Totipotency)と呼ぶ。植物ではあらゆる細胞が全能性を持つが、動物では分化後の細胞は基本的に全能性を持たない。

胚と不定胚

種子は「胚」と呼ばれる組織を持つ。胚は小さな葉、根を含み、成長すると1つの植物個体となる。

培養細胞の場合、オーキシン、サイトカイニンが適当な比率で与えられると、不定胚という細胞群を形成する。

プロトプラスト

細胞壁のない状態の植物細胞をプロトプラストと呼ぶ。

プロトプラストは培養細胞を細胞壁分解酵素(ペクチナーゼなど)で処理することで作成する。

カルス

植物体の傷口には不定形の細胞の塊からなる癒傷組織、カルスが形成される。

カルスは適当な条件を与えれば試験管内で半永久的に増殖させることができる。

条件としては無機成分(多量成分、微量成分)、有機成分(ビタミンB群等)、炭素源(スクロース等)、植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン)を含む人工培地が使用されることが多い。

葯培養

Aという品種にBという品種の優れた形質のみを導入したいとしよう。

AとBを交配し、Bの優れた形質(以下bとする)のみを受け継いだF1が生じたとして、そのF1はAにBの優れた形質を導入したものであると言えるだろうか。

勿論答えはNoである。なぜなら、F1にはb以外にもBの形質が多く導入されてしまっており、加えて多くの遺伝子はヘテロになっているはずである。

そこで、通常は戻し交配という手法が行われる。形質bを示すF1を、Aに再び掛け合わせる。その中からbを示すものを選抜すると、それはbを持ちながらほかの点ではAにより近い個体となっているはずである。さらに再びこれをAに掛け合わせ、選抜する。この作業を一般的には7回行う(品種、植物等により異なる)。その後、自殖によりbをホモにすればAにbを導入した個体が完成する。

当然、戻し交配法は長い年月を要する。

問題は、F1個体の遺伝子型の多くがヘテロになっている点であり、これらをすばやくホモにできれば品種改良が高速化される。

これを解決する手法が葯培養である。葯は花粉を含むが、花粉は半数体である。植物細胞は全能性を持つので、葯を培養することで半数体の植物体を得ることが出来る。これをコルヒチンで処理する(カルスの時点で処理する)。コルヒチンはDNAの増幅が完了している細胞分裂中期で分裂を阻害する作用がある。そのため、コルヒチン処理した植物体はDNAが2倍になる(倍加と呼ぶ)する。

半数体をコルヒチン処理により倍加したものを倍加半数体と呼ぶが、倍加半数体はすべての遺伝子型がホモになっているため、形質固定のための戻し交雑は自殖を行う必要性がない(目的の形質を持つかどうかの選抜は必要である)。

植物への遺伝子導入

パーティクルガン法

目的のDNAを含む液に金粒子を浸し、これを空気中で植物細胞に打ち込む。

効率は悪いがどの組織にも遺伝子導入が可能である。

プロトプラスト法

ポリエチレングリコール(PEG)溶液中ではプロトプラストにDNAが取りこまれやすくなる。

アグロバクテリウム法

Agrobacterium tumefaciensは根頭がんしゅ病と呼ばれる病気を引き起こす病原菌である。

根頭がんしゅ病に感染した植物はクラウンゴール(crown gall)と呼ばれる腫瘍組織を作る。クラウンゴール中では通常植物が合成しないオパイン(opine)と総称されるアミノ酸が合成されており、A. tumefaciensはこれを利用していると考えられる。

A. tumefaciensはTiプラスミドと呼ばれる比較的大型(200kbp程度)のプラスミドを持ち、その10%に当たるT-DNAと呼ばれる領域が宿主植物ゲノムに組み込まれる。

T-DNAはオパイン合成酵素遺伝子のほか、オーキシンとサイトカイニンを合成させる酵素遺伝子も含まれている。つまり、A. tumefacienceは宿主組織にオーキシンとサイトカイニンを合成させてカルス化し、オパインを合成させる工場として利用していると考えられる。

アグロバクテリウム法はTiプラスミドのT-DNA部分を目的の遺伝子に置換したA. tumefaciensを植物に感染させることで、Tiプラスミドの機能を利用して目的遺伝子を導入する手法である。

ほかにもAgrobacterium rhizogenesと呼ばれるアグロバクテリウムもT-DNA領域を持つプラスミドを持つ。これはRiプラスミドと呼ばれる。A. rhizogenesは多数の不定根を発生させる毛根病の原因菌である。

遺伝子改変農作物

書籍では1993年とされているが、一般には米カルジーン社が「フレーバーセーバー」を発売したのは1994年5月とされている。

また、確かに軟化に関しては通常の品種と差がないということが当初から明らかとなっていたが、裂果、機械的損傷、カビなどには強かったようである。

また、1993年の夏だけの販売と記述されているが、販売開始が1994年5月とすればこれは誤りである。ただし、発売当初を除き市場的な成功を収めなかったのは事実で、1997年には撤退しており、カルジーン社もモンサント社に買収されてしまっている。慣行品種の約2倍という効果な価格設定が原因であったとも言われる。

以下参考文献。