1.1 黒体輻射は古典物理学では説明出来なかった

  • 物体を加熱していくと、物体は赤→白→青と色を変えながら可視光線を輻射する
  • 低温では低振動数、高温では高振動数の輻射が出ている
  • ある温度、ある振動数における黒体放射の強度を示したい!

→19世紀の物理学が導きだした答えは…

上記の式をレイリー・ジーンズの法則と呼ぶ。

レイリー・ジーンズの法則は低周波数領域では実験データを再現するが、高周波数領域では値が発散しデータを再現できない。

紫外破綻

レイリーとジーンズが誤っていたわけではない。紫外破綻は、輻射という現象が古典物理学のみでは説明できないことを表している。

1.2 プランクは黒体輻射の法則を導くのに量子仮説を使った

1900年、ドイツの物理学者マックスプランクが黒体輻射の説明に成功する。

プランクの仮定は以下のようなものである。

  • 輻射は粒子中の電子の振動により生ずる(レイリー、ジーンズと同様)
  • 電子振動子のエネルギーは離散的である

古典物理学では振動子のエネルギーは連続的な値を取りうると暗黙のうちに仮定していた。プランクはこの仮定を打ち破らねばならないとの直感の下に、振動子のエネルギー状態について次の制約を課した。

この制約の下に、プランクは次の黒体輻射に対するプランクの分布則として知られる式を導いた。

ここで比例定数として導入された定数はプランク定数と呼ばれ、物理学の基本定数の中でももっとも重要なものの一つとなっている。

の関係を用いると、プランクの分布則を振動数()の代わりに波長()で表現できる。

この式をについて微分し、が極大となる波長を求めると、

が得られるが、これはウィーンの変位則と呼ばれる経験則(次式)と一致する。

ウィーンの変位則は、黒体輻射スペクトルのピーク波長が温度に反比例して短くなることを示している。これにより、赤く光る太陽の表面温度は約6000Kであることや、青色に光るシリウスの表面温度は約11000Kであることなどが分かる。

1.3 アインシュタインは量子仮説を使って光電効果を説明した

ドイツの物理学者のヘルツは、紫外線を金属表面に照射すると電子が飛び出してくる現象を発見した。

光電効果と呼ばれるこの現象は、次の点で古典物理学の常識と反していた。

  • 放出された電子の運動エネルギーが、入射する輻射線の強度(振幅)と無関係である
    • 古典的な考え方では、強度(振幅)のつよい(大きい)輻射が照射されれば、電子がより激しく振動するようになり、より大きなエネルギーで飛び出す
  • 金属特有のしきい振動数()が存在しており、それ以下の振動数の輻射ではどんな強度でも電子は飛び出てこない
  • 電子の運動エネルギーは振動数に比例する

アインシュタインはこの矛盾点を解決するため、エネルギー量子化の考えを取り入れた。

プランクと異なるのは、プランクは放出された光のエネルギーは古典的な波動として振る舞うものだと考えていたのに対し、アインシュタインは電磁輻射それ自体がエネルギーの小さな束、の集まりとして存在すると考えた点にある。

すなわち、光は粒子からなり、一つ一つの粒子が波長に比例したエネルギーを持つと考えたのである。

現在、輻射を粒子として考えるとき、これは光子(photon)と呼ばれる。アインシュタインは光量子(light quantum)という呼び名を使った。

なお、アインシュタインのノーベル物理学賞受賞は一般に知られる相対性理論によるものではなく光量子仮説と光電効果に関する業績による。

放出された電子の運動エネルギー()は、入射してきた光子のエネルギーから金属ごとに定まるある定数、仕事関数()を差し引いたものに等しいことをアインシュタインは示した。

また、でなければ電子は放出されないことも分かる。

を満たすような振動数しきい振動数と呼ぶ。

アインシュタインの求めたの値とプランクの求めたの値はよく一致した。

1.4 水素原子のスペクトルは数個の輝線系列から構成される

どんな原子も高温や放電のもとでは固有の振動数、スペクトルの輻射を放出する。

原子発光のスペクトルは連続的ではなく、離散的な振動数から構成されるので、これを線スペクトルと呼ぶ。

線スペクトルからなる可視光線をプリズムで分光すると幾つかの光の線に分かれるため、各々の線を輝線とよぶ。

もっとも簡単な原子である水素では、可視光領域のうち656.28nm、486.13nm、434.05nm、410.17nmに輝線が現れることがわかっていた。

1885年、スイスのバルマーはこのスペクトルが次の式で記述できることを明らかにした。

実際にn = 3, 4, 5, 6について計算すると、656.46nm、486.27nm、434.17nm、410.29nmという値が得られ、実測値によく一致する。

また、振動数の代わりに波長の逆数である波数を用いた次の表現が慣習的に用いられている。

周波数が単位時間あたりの波の数なのに対し、波数は単位長さあたりの波の数であると考えると理解しやすい。

なお、波数はSI単位系では毎メートルであるが、分光学の分野では毎センチメートルを使う場合が多い。ここではテキストに従い毎センチメートルを用いているので注意する。また、毎センチメートルについてはカイザーという名称も用いられる場合があるが、記号がKであり絶対温度と紛らわしいため使用しない。

上記の式をバルマーの式と呼ぶ。バルマーの式により予測される輝線の系列をバルマー系列と呼ぶ。

バルマーの式においてとした場合の極限値として、が得られる。これを系列限界と呼ぶ。

バルマー系列は可視光〜近紫外線の領域に現れるが、可視光以外の領域にも輝線の系列は現れる。

1.5 リュードベリの式は水素原子スペクトルのすべての輝線を説明する

スウェーデンのリュードベリはバルマーの式を一般化した。

リュードベリの式はバルマー系列以外の輝線系列も説明できる。

ここで109680とした値は通常と書かれ、リュードベリ定数と呼ばれる。なお、最新(テキスト発行時)の値は109677.57cm-1である。

水素原子以外の原子スペクトルも輝線系列から構成されており、これらについてリュードベリは1890年代に多くの経験則を発見していたが、理論的な説明はまだ先のことであった。

1.6 ド・ブローイは物質が波動性を持つと仮定した

1924年、フランスのド・ブローイは光の波動と粒子の二重性にヒントを得て、波のように見えている光が粒子に見えることがあるのなら、粒子のように見えている物質が波に見えてもよいのではないかと推察した。

相対性理論においてはエネルギーは次式で表現される。

ここで、光子の場合は質量が0なので、

振動子のエネルギーがで表せたことを思い出すと、

が相対性理論の示すところの光子の運動量と波長の関係である。

ド・ブロイはここから、一般の物質もこの式に従うと類推した(おそらく、光子の運動量と波長の関係を導出した際の仮定である質量0を無視して?)。すなわち、速度で移動する質量の粒子は、

ド・ブロイ波長を持つ。

ド・ブロイ波長はある程度大きな物質では全く検出が不可能なレベルである。

例えば、重さ140グラム、速度145キロで移動する野球のボールを考えると、そのド・ブロイ波長は1.2×10-34mである。

一方、光速度の1%で移動する電子(質量9.109×10-31kg)を考えると、ド・ブロイ波長は243pm程度となり、原子半径程度のオーダーである。

1.7 ド・ブロイ波は実験的に観測できる

X線は結晶格子において回折を示すが、加速された電子も同様に結晶内で回折を示す(電子回折)。

電子回折は加速された電子の波動性が示される例である。

電子の波動性を利用したのが電子顕微鏡である。

光学顕微鏡では、解像度がその波長に制限される。波長が短いほど高解像度が得られるが、可視光の波長は400nm程度が限界である。

一方、加速された電子では非常に短いド・ブロイ波長が達成できるうえ、電場と磁場によるビームの絞り込みもできるので、より鮮明で解像度の高い像を得ることが出来る。

水素原子のボーア理論を使ってリュードベリの式が導ける

原子の核モデルでは、水素原子は質量の大きなプロトンの周りを1個の電子が飛び回るように描かれる。

核の質量>>電子の質量であるので、核は移動しないものと考える。

このとき、電子が核に引きつけられる力は、クーロンの法則に基づき次のように表現できる。

クーロンの法則は異なる符号の間の電荷の間の引力を表すもので、q1、q2を2つの電荷の大きさとして、

で引力(クーロン引力)が表される。

電子とプロトンの間のクーロン引力において比例定数が

となっているのはSI単位系を使用して記述したことに起因している。は真空の誘電率である。

電子とプロトン間のクーロン引力が、電子が周回することに起因する遠心力

と釣り合うのだから、

ただし、古典物理学(電磁気学)では、加速する電子(この場合遠心力による加速を受けている)は放射を出してエネルギーを失うため、電子の安定的な軌道は禁止される。

ボーアはこれを解決するために2つの仮定を持ち込んだ。

  1. 定常的な電子軌道の存在
  2. 電子のド・ブロイ波長は軌道を1周したときに"整合"しなければならない

2つめの仮定は、電子の周回軌道長がド・ブロイ波長の整数倍になるということを要請している。すなわち、次の量子条件

を満たす。

ド・ブロイ波長の式を代入し整理すると

ここでである。この値は量子力学などで多く使用されるため、これをプランク定数と呼んだり、換算プランク定数やディラック定数などと呼ばれることがある。

また、式の左辺は電子の角運動量であり、プロトンの周りを回る電子の角運動量は量子化されなければならないという条件の方が一般にはボーアの業績として知られている。

遠心力とクーロン引力の釣り合いの式に量子条件を代入し、半径について解くと、

これは電子の軌道(ボーア軌道)半径も量子化されていなければならないということも示している。n=1の場合について計算するとその値は52.92pmとなり、a0と表される。

原子内における電子の全エネルギーはポテンシャル(位置)エネルギーと運動エネルギーの和である。

ポテンシャルエネルギーは

で表される。よって全エネルギーは

ここでクーロン引力と遠心力の釣り合いの式を用いての項を除去し、半径の量子化についての式を代入すると、

となる。

式から明らかなように、軌道の半径が小さい(nが小さい)ほどエネルギー状態は低い。

n=1の場合のエネルギーを基底状態エネルギーと呼ぶ。常温では水素およびほかの多くの原子、分子のほとんどは基底状態にある。

一方、基底状態より高いエネルギー準位にあるとき、励起状態と呼ぶ。

励起状態は一般に不安定であり、基底状態に戻る。その際、差分のエネルギーを電磁輻射として放出する。

この際放出されるエネルギーは、

に従うとボーアは予測した。これをボーアの振動数条件と呼ぶ。

ここで、とおき、について整理すると、

となるが、この形はリュードベリの式と一致する。また、ここでの係数

はリュードベリ定数に一致する。

イオン化エネルギー

リュードベリの式におけるを1、を∞とおくと、電子を基底状態から非束縛状態へもっていくのに必要なエネルギーが求められる。

水素原子の場合、これはイオン化に必要なエネルギーに他ならない。

水素の場合はイオン化エネルギーは1312kJ/molである。

1.9 ハイゼンベルクの不確定性原理によると、粒子の位置と運動量を同時に厳密に決めることは不可能である

電子を光子によって観測しようとすれば、電子と光子がなんらかの相互作用をし、光子の運動量の一部が電子に移動する。

ドイツのハイゼンベルクは、この仮定において電子に移動する運動量を正確に決めることは不可能であることを示した。

すなわち、電子の位置を内に見つけようとするとき、その運動量にの不確かさが生ずる(逆もしかり)。

ハイゼンベルクの不確定性原理は次の式で表現される。

この不確かさは測定における方法や技術の未熟さが原因ではないということに注意しよう。

ハイゼンベルクの不確定性原理は巨視的な物体に対してはほとんど問題にならない。

例えば、145km/hで飛ぶ野球のボールについて位置の測定を行ったとき、測定により運動量が1/10^8だけ変化したとしよう。このときの位置の不確かさは1.2×10^-26m程度であり全く問題にならない。

一方、電子や原子と言ったレベルの物体を扱う場合、不確定性原理は大きな問題となる。

1つの電子の位置を1つの原子内(50pm程度内)にあることを決めたいとしよう。このときの速さの不確かさは1.4×10^7m/sと極めて大きい。

演習問題

略。

なお、このテキストは演習問題にかなりのウエイトが置かれています。

「最後に一言注意しておきたいのは、本文中で説明すべきものが多数演習問題にまわされていることである。本文の流れが切れることを避けて演習へまわっているので、本文と同じ重要さで演習を扱って頂きたいと思う。(訳者序より)」

各自テキストをご用意の上挑戦してみてください。

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最終更新:2011年12月30日 19:38