作物の病気が発生するまで

日本における作物の病気の数(スライドp.4)

作物の病害では、作物の種類によらず糸状菌による病害が圧倒的に多く、日本の場合では病原の種類のうち3/4を糸状菌が占めている。
ウイルス病や細菌病にも、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV: Tomato Yellow Leaf Curl Virus)やナス科植物青枯病(細菌のRalstonia solanacearumが病原)など重要病害が多くあるが、日常的に戦うことになるのは糸状菌病害だろう。
それもあり、殺菌剤の英訳にはfungicide(fungi:カビ)が充てられる事が多い。

発病までの3(4)段階(スライドp.5)

  • 1. 病原と宿主の遭遇
    • 移動しにくい病原…土壌病害の原因菌には厚膜胞子など耐久性に優れた状態の分生子を作り、土中に長くとどまるものがある。こうした病原菌は移動速度が遅い事が多いが、徐々に蓄積していき、作ごとに植物と遭遇することになる。
    • 移動しやすい病原…風(糸状菌の分生子など)、水(卵菌類の遊走子など)、虫(各種ウイルス病害)などにより伝播する病原は拡散速度が早いが耐久性はそれほどでもない場合が多いので、伝染源を絶つ事が重要。
    • いずれの病原も接触=感染ではない。感染成立のためには下記のステップを経る必要がある。
  • 2. 侵入(invasion)
    • エネルギーを使ってクチクラを破り、侵入する糸状菌がある(稲熱[いもち]病など)。これを角皮侵入と呼ぶ。糸状菌病害を防ぐには角皮侵入のための付着器形成前、あるいは間にいかに叩くかが大切なポイント。侵入は湿度があると高速に進む。
    • 芽かき時の傷口などから日和見的に感染する糸状菌、細菌も多い。芽かき、葉かきなどの作業は晴天日の午前中に済ませること。
  • 3. 感染(infection)
    • 侵入後、定着し、増殖が可能になって初めて感染が完了する。
    • 侵入しただけでは過敏感反応(HR:Hypersensitive Reaction)による過敏感死から病原菌が封じ込められることもある。
スライドp.6はp.5を図解したもの。植物の表面で進行するフェーズと、植物の内部で進行するフェーズがあるということ、場所が違えば対策=農薬の使い方も違うということがポイント。

予防剤と治療剤

殺菌剤選びの着眼点(スライドp.8)

殺菌剤は2種に大別できる
  • 予防剤
    • 発病前に使うもの。安価で作用スペクトルが広いものが多い。
  • 治療剤
    • 発病(というより侵入)後に使うもの。高価で作用が限定的なものが多い。
治療剤は高価であるのみならず耐性もつきやすい(作用点が限定的なので対策しやすい)。
予防薬を主体に、治療薬はなるべく少ない回数を、が基本。

予防剤と治療剤の違い(スライドp.9)

内容はp.8とほぼ同じ。
細菌に対する予防剤としては銅剤程度しか選択肢がないことを抑えておく。細菌に糸状菌の薬をかけても効かないので、両者を見分ける必要がある。
菌糸が伸びておらず、病徴部が光を反射するような場合は細菌病の場合が多い(と思う)。細菌病の場合は病徴部の組織片を光学顕微鏡で観察すると、菌糸がなく、うごめく細菌たち(ごく小さく構造までは見えない)が見えるのですぐに見分けがつく。
治療剤には浸透性が高いものが多いが(内部に侵入した菌に対抗するには当然浸透する必要がある)、その分薬害の危険もある。薬害については農薬の袋に書いてあったりその他の方法で情報が公開されていたりするので情報収集に務めること。

予防散布は雨前をねらって(スライドp.10)

  • 基本的には予防剤を主体に薬剤散布をする。
  • しかし糸状菌は水分があるとすみやかに植物体内に侵入する。こうなると予防剤では効果がない。
  • 雨が降ってしまったら雨が降っている最中やちょっとした晴れ間でも治療剤を散布する。

薬剤耐性を防ぐ

薬剤耐性発生のしくみ(スライドp.12)

  • 作用点の多い薬
    • 複数の作用点に対し同時に変異して対応するのはほぼ無理なので耐性が獲得されにくい。
    • 作用点が多いのでいろいろな菌に効くことが多い。生物種をまたがって効くようなものもある。
    • 上記理由から予防剤に多い。
  • 作用点の少ない薬
    • 少しの変異で対応できてしまうので耐性が獲得されやすい(トップジンなど)
    • 特定の菌に対しシャープに効く場合が多いので、治療薬に多い

防除のローテーション(スライドp.13)

薬剤を3種に分類して考えると組み立て易い。
  • A. 予防薬。汎用的で安い。
  • B. 治療薬。ただし既に耐性が出てきていて効果は劣る。やや安い。
  • C. 治療薬。耐性がでてない新薬など。切札。

予防のローテーション(スライドp.14)

  • 基本はAの薬を雨前狙ってローテーション散布する。
  • ローテーション時には近接散布できない組み合わせに注意する。
  • これで防げればOK。

切札剤の使いどき(スライドpp.15-16)

  • 発病してしまった、雨前散布に失敗して激発しそう(多分すでに侵入しちゃってる)というようなときは迷わずCを使う
  • だらだらBを使うと耐性菌が残って逆に激発の原因になりかねない
  • ただし切札剤は耐性がつきやすいので一作一回を心がける
  • 浸透性を高める展着剤(アプローチBIなど)との組み合わせはCの薬の薬効を高めるので有効だが、薬害がひどくなる場合もあるので注意。

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最終更新:2011年11月08日 01:08