魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第六話

とある無人世界、空はどんよりと曇り、周囲には森や水源は一切無くゴツゴツとした岩しかない殺風景な景色。
そんな殺風景な場所に、明らかに場違いな建物があった。
巨大なコンクリートの様な素材で出来た建物、周囲にはその建物を守るため・・・否、中の者を逃さないために高圧電流を流した策で覆われている。
その施設は時空管理局の研究施設、だが何故このような場所にあるのか?答えは簡単、『違法』と言われている研究を行なっているからだ。
時空管理局も一枚岩ではない、中には地位によって手に入れた権力を駆使し、様々な悪行を起こなっている人物も少なからずいる。
管理外世界の住人の誘拐、違法な実験、質量兵器の密売など様々。無論、このような輩を野放しにするほど管理局も無能ではない。
だがそれなりの権力を持つ者が行えば、権力という見えない壁により中々動く事が出来なかった。
ここにある研究所もその権力を持つ者が命じて立てた施設だった。
建前では『観測基地』として建てられたこの施設、丁度良い事にこの施設が建っている次元世界は特有の鉱物が多数取れる事、
そしてデータを常に転送している事から、『観測基地』という建前は十分通用した。
だが実際行われているのは非人道的な実験の数々、動物は無論、管理外世界から誘拐した、人に酷似した生物などを使って行われていた。
『独自に開発した新薬の効果実験』『魔法による人体の抵抗力の変化』『新たな兵器の開発』など様々
常に聞こえてくる阿鼻叫喚の悲鳴、だがその悲鳴を聞いても此処で働く局員は何も感じなかった。
当然ではある、此処で働く者すべては望んでこの場に来ている、すべてが己の研究位欲を満たすために研究や実験を行っている。
だれも罪悪間などを感じない、むしろギャーギャー五月蝿いとすら思っていた。

            だが、今研究所で阿鼻叫喚の悲鳴をあげているのは研究者達の方だった。

一人の女性研究員が仲間の死体を踏みながらも必死に逃げていた。だが突然足の感覚がなくなったため転んでしまう。
「あ・・・ああああ・・・・」
感覚が無くなったのは気のせいでも痺れたからでもない、右足の膝から下が無くなっているからだ。
なぜか痛みは感じない、恐怖は痛みすら感じさせる余裕すら与えてくれない。そしてその恐怖をまき散らしている悪魔が目の前にいる。

本当に突然の出来事だった、突然現われた傀儡兵の様な物と仮面を被った成人女性は、有無を言わさず自分達を殺し始めた。
この施設にも実験体の暴走などを考慮し、金で雇った傭兵や、同じく金で縛った武装局員が数名いる、だが彼らはたいした抵抗など出来ずに全滅し、
此処にいた研究員も傀儡兵の手により次々と殺されていった。頭が吹き飛んだ者、上下分断された者、完全に吹き飛ばされた者、黒焦げになった者。
そして、仮面を被った成人女性の手に掛かった者は男女問わず、その女性と同じ姿になっていった。
女や年寄りなども平等に殺された。命乞いをしても聞き入れてもらえず、助けを呼ぼうにも全く応答が来ない。
正に此処は地獄だった・・・・否、此処は最初から地獄だった、ただ研究員達が実験体という立場に変っただけだ。

全てが絶望的な状況、そんな絶望の渦に飲まれている女性に『サタンガンダム』はゆっくりと手を翳す。
「た・・・たすけ・・・・・・」
女性は顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながらも助かりたい一心で許しを請う。
恐怖のためか失禁してしまっているか今の彼女にそんなことを気にする余裕など無い。
そんな彼女の願いを、サタンガンダムは鼻で笑う、そして
             
                 「汚い女だ」

という言葉と共に攻撃魔法『バズ』をプレゼントした。
女性の頭は粉々に吹き飛び、骨や肉片、脳の一部を壁や床に撒き散らす。その光景をつまらなそうに見つめるサタンガンダムの隣に、
仮面をつけた成人女性が、自身と同じ姿をした者達を連れ近付いて来た。
「主サタンガンダム、遺体の損壊が激しい、これではマリアージュが造れない」
「ふっ、脆すぎるカス共に文句を言え・・・・・」

偶然とは言えマリアージュを下僕にしたサタンガンダムは、早速この世界や時空管理局について調べる事を命じた。
そして分かったのが管理局の圧倒的戦力だった。サタンも自分の力には圧倒的な自信はあるが過信はしていない。
だがらこそ先ずは兵力を集める事『マリアージュの量産』に力を注ぐことにしたのだが、此処で問題が発生した。
マリアージュを量産するためには人間が必要だが、行動をおこせば騒ぎは免れない。
現状で管理局と事を構えるのは得策ではないが、人間を調達する時点でそれは避けられないだろう。
(現にマリアージュが最初に殺戮を起こした刑務所は、今では『行方不明事件』として大々的に取り上げられていた)
チマチマ1人2人を誘拐して造るという手もあるが、それでは時間がかかってしまう。
そんな時に、マリアージュが提案したのがこのような研究施設の存在である。
古代ベルカでもあったが、このような違法研究をする場所は外界から切り離されており、騒ぎが起きても
秘密を厳守するために施設は無論、中の人間諸共斬り捨てることが決まっている。
『時が経過しても人のやることに変わりない』そのマリアージュの考えは見事に的中していた。

「此処に残っている試験体はどうしたしましょう?・・・マリアージュには出来ませんので始末を?」
「面倒だ、この施設を出るときに管理局に通信でも入れておけ、奴らに任せればいい」
命令を下しながらもサタンガンダムは檻や培養液に満たされたポットに入る人間の様な生物を見つめる。

見た限りでは、この中には人間とさほど変らない知性を持つ者もいるようだ、
だが人間共は自身の欲望を満たすためにこの様な下劣な行為を行っている。
サタンガンダムも自身は外道ではあるが鬼畜ではないと思っている。一度は不要な人間を滅ぼそうと考えたが、素直に従う者、
戦えない者に関しては手を出した事は一度も無い。
だが今回は別だった。ここを訪れ、行われている光景を見た瞬間、ここの人間共は皆殺しにしようと決めていた。
「因果応報ということだな・・・・ゴミ共が(主サタンガンダム」
マリアージュに呼ばれた事によって、自分は物思いにふけっていた事に気付かされた。
普段はそんな事をしない自分に苛立ちながらも乱暴に返事をし、自分を呼んだ理由を尋ねる・・・すると
「まだ生き残りがいます・・・・この先です」


「なんだ・・・何なんだ?あれは?」
普段ロクに運動をしていないため、多少走っただけでも息があがる、だが命は助かった。
真っ先に逃げ出し、途中仲間を盾にし、どうにかこの『最重要研究室』へと辿り着く事ができた。
そこにあったのは2メートルほどのポットが3つ、だがそれぞれにカバーがかけられている為、中身を確認する事が出来ない。
「はっ・・ははははは・・・こいつらを目覚めさせれば・・・あの化物どもも!!」
震える手でコンソールを操作する、するとカバーが外され、ポットの中身がさらけ出された。
三つのポットに入っていたのはどれも裸体の少女、年齢から見れば9~10歳位だろう、どの少女も眠っているかの様に目を閉じ、カプセルのなかに満たされている培養液の中を漂っていた。
「ふふふふふ・・・・肉体的には問題ない・・・いけるぞ!!」
そんな少女達の裸体をいやらしい目で見つめながらも、彼女達を起こすためにコンソールを操作し、最終安全装置を解除。
その時、鉄を叩きつけるような爆音が男の後ろから鳴り響く、先ずは一回、そして二回目と同時に強化扉が粉々に吹き飛んだ。
男は飛び散る破片から身を守るために頭を抱えて蹲る。そして破片が飛ばなくなった事を確認するため、ゆっくりと顔をあげる、
此処に保管されてる『者達』は特別であるため、周囲の壁や入り口には特殊な合金を使用している、だが入り口は粉々に吹き飛び跡形も無い。
そして其処からゆっくりと、この研究所を地獄に変えた悪魔、サタンガンダムとマリアージュがその姿を現した。
だがその悪魔達の姿を見ても、男は逃げる事もせず命乞いもしない、だた余裕のある笑みを浮かべていた。
「やぁ、何処の誰だかは知らないが好き勝手やってくれたね・・・でもこれまでだ」
男の後ろでは着々と目覚めの作業が行われていた、体に刺さっていたチューブが抜け、培養液がすべて排出される、
そして彼女達を囲っていたカプセルの蓋が重い音を立て開かれた。
「・・・?この男、裸体の小娘で何をする気だ?」
「いえ、主サタンガンダム、彼女達はただの少女ではありません。此処のデータバンクをハッキングした時に情報を得ました。、
あれはマテリアル・・・・闇の書の残滓が生み出した構成素体です」
「闇の書・・・だと、だがあれはカスが・・・・ナイトガンダムが滅した筈だ」
「過去の記録からでは誰が倒したのか詳しい情報はありませんでしたが10年前、リンディ・ハラオウン提督の指揮の下、
第97管理外世界での闘いにおいて消滅したのは確かです。ですが主や守護騎士、管制人格は残っており、現在では管理局に所属しています。
彼女達は闇の書消滅から数ヵ月後に同じく第97管理外世界で起った事件で確認されています。ですがその事件も同じくリンディ・ハラオウン提督の指揮の下解決、
彼女達も消滅した筈です」
「律義に説明ありがとうお嬢さん、彼女の言う通り、この娘達は闇の書の残滓が生み出した構成素体さ。また彼女達を作るのは大変だったよ
リンディ・ハラオウン達が残滓を律義に、徹底的に消滅させたからね。それでもほんの僅かに残った残滓や闇の欠片使って生き返らせたってわけさ。
でも成長スピードが人間と変らなくてね、ようやく元の姿に戻ったというわけさ」
「ふっ、それでこいつらを手懐けて戦力とし、後々は闇の書の様な物を作り出そうというわけか」
「話しがわかるねぇ~、その通りさ。これほどの兵器をみすみす消滅させるなんてナンセンスさ。
本当なら主である八神はやての力を借りたかったのだけれども、話しを切り出した途端、顔面ストレートをお見舞いされたよ。
その上、前いた研究所も摘発されて・・・なぜわかんないんだろうね~」
本当にはやての気持ちを分からないのだろう、腕を組んで考え始めた男にサタンガンダムはゆっくりと杖の切っ先を向ける、戯言は終わりといわんばかり。
明らかに自分を殺そうとしているサタンガンダムに、男は慌てて後ろに下がり近くにいた栗色のショートヘアーの少女を盾にした。
「待ちたまえ、君達の相手はこの子達がするさぁ。お前達、あの(出来ません・・・」
命令を出す前にきっぱりと少女に断れた男は唖然とするもそれも一瞬、直ぐに怒りに満ちた表情で少女をにらみ付けた。
男にとっては作った物は製作者に絶対服従、逆らう事などありえない、だが目の前の作り物は自分に逆らった・・・お仕置きが必要だ
「今の私・・いえ、雷刃と王のリンカーコアがまだ安定していません、そしてデバイスもバリアジャケットも無いのでは戦えな・・・・(ウルセェ!!」
栗色の髪を乱暴に掴み、地面に叩きつける。そして加減などを一切せずに少女の体を蹴りだした。
その光景を見ていた二人の少女は男に向かって罵声を浴びせる、本当なら掴みかかりたいが目覚めたばかりの体では満足に動く事も出来なかった。
「お前らは俺の命令をきいていればいんだよ!!盾になればいいんだよ、奴隷になっていればい(パンッ!!」
何かが弾ける音が木霊した・・・・その音と共に男の暴挙は止まる。
痛みに顔を顰めながらも、少女『星光の殲滅者』は恐る恐る男を見る、そして直ぐに短い叫びをあげた。
そんな彼女の叫びに驚いたかの様に、首から上が無くなった男はゆっくりと、冷たい床の上に倒れた。

「・・・・・マリアージュ、生き残りは?」
「お待ちを・・・もう存在しません、残るは実験体とこのマテリアル達だけです」
自分達の事を言われたマテリアル達は、それぞれが違った表情をしていた。
「こ・・・こわくないぞ!」と強気を装いながらも、サタンガンダムの圧倒的な力と恐怖の前にただ震える事しか出来ない『雷刃の襲撃者』
恐怖など一切見せず、ただサタンガンダムを無言で睨みつける『闇統べる王』
そして痛む体を起こし、既に全てを諦めた表情で現実を受け入れようとしている『星光の殲滅者』
そんな彼女達の表情を品定めをするかのようにサタンガンダムは見つめる。
そして3人は無論、マリアージュでさえ予想しなかった言葉を口にした。
「貴様ら、生きたいか?」
その問いに3人の少女は唖然とした表情をする、サタンガンダム以外の誰もがこの後殺されるかと思っていたからだ。
雷刃と星光は互いを見つめ、どう答えるべきがと考える。その時
「ふざけるなよ・・・下郎!!」
王の明らかな怒りと殺意が篭った声が響き分かった。
だがサタンガンダムは特に怒りもせず、手を出そうともしない、ただ彼女の返答に興味が出てきた。
「我らを駒にするか・・・奴隷にするか・・・舐めるな!!我らは束縛などされぬ!!気に食わ無いのであれば殺せばいい!!
洗脳するのであれば舌を噛み切って自決する!!だがいいか、殺す前に憶えておけ!!我が名は闇統べる王!貴様に服従しなかった王だとな!!」
「・・・・・確かに王の言う通りですね、今の私達では貴方には勝てないので脱出は不可能、ですが慰み者になる気もありません・・・どうぞ殺してください」
「う・・・王も星光も・・・ああああもう!!殺さば殺せぇ!!!僕もいいなりにならないぞぉおおお!!!」
3人とも覚悟を決めた表情、これでは仮に脅しても命乞いなどせずに死を受け入れるであろう。
その覚悟、そしてプライド、サタンガンダムは心からこの3人が気に入った。
「勘違いをするな、我は貴様らを奴隷にも駒にもせん、無論慰み者にもだ・・・ガキには興味はないからな、ただ貴様は目的があるのだろう?
マリアージュから聞いたが、闇の書の残滓の意思を継いでいる以上、『砕け得ぬ闇』の復活が貴様らの目的の筈だ、そのために我を利用すればいい?」
「貴方を・・・利用ですか?」
「我も従わない者を部下にする気など無い、だが貴様らの力は消すには欲しい・・・だからこそ、我は必要な時に貴様らを駒として使う、
貴様らも我が必要な時に我を使えばいい」
その提案に雷刃はどうしていいものか分からず、、慌てながら二人の仲間に助けを求める、だが星光も王も彼女の助けを無視し考え込んでいた。
『がーん』と言いたげな表情で二人に「無視するな~」「僕も考えるから混ぜろ~」と騒ぐがやはり無視、だが雷刃は諦めずに騒ぐが
「静かにしろ」
というサタンガンダムのドスの聞いた声により、一瞬で静まり返った。
「・・・・・わかりました、私達の目的の為、その提案を受け入れたいと思います」
「まぁ、何時裏切るか分からんからな、精々寝首をかかれないように注意するといい」
考える必要など初めから無かったのかも知れない。この気を逃せば自分達は殺されるだろう、
あの悪魔も従わない相手をみすみす見逃すとは思えないからだ。
しかし、王のあの態度に発言、星光は正直どうにかして欲しいと思った。自分達ならまだしも目の前の様な相手にそのような態度では
殺されても文句はいえない、王の性格上仕方が無いのだが、そこは気を利かせて欲しい所だ。
「我の寝首をかくか・・・ふふっ・・・はっはははははは!!面白い!!楽しみにしていよう・・・いくぞ」
だが彼女の心配とは裏腹に、サタンガンダムはその態度を気に入っていた。
媚び諂わず、力の差があると分かりながらも、己が態度を崩さないプライドの高さ、そして誇り・・・実に面白い奴だと彼に思わせた。

勝手に結論がでた事、そして自分を徹底的に無視した事に、雷刃は不満を遠慮なくぶちまけるが、全員が無視しその場を去ろうとする。
だが目覚めて間もない体は未だ自由に動いてはくれない、それ所か星光に関しては男に痛めつけられたダメージも加わり苦痛が体を支配していた。
そんな彼女達の姿にサタンガンダムは一度舌打ちをし杖を掲げる、そして回復魔法『ミディアム』と唱え、彼女達の体のコンディション、そしてダメージを回復させた。
「あとは貴様らの服と杖か」
「それならこの施設の中にあると思います、私達を復活させ、使おうとしていたのですから造られている筈です。
それと・・・ありがとうございます、回復をしていただいて。とても楽になりました」
「足手まといでは困るからだ・・・行くぞ」


デバイスや衣類、その他に使えそうな機械類や金品を回収したサタンガンダム達は研究所を後にする。
そして、マリアージュは早速次の研究所に行くために次元転送を行おうとするが、その行為ををサタンガンダムは止める様に命令した。
「当面はやる事が出来た、暫くは適当な無人世界に駐留する。マリアージュ、お前も『製作』は我の用事が終るまで控えろ、それ以外の自由行動は許す」
「了解しました、主サタンガンダム・・・・・・・主は何を?」
「何、こいつらに戦い方を教えるだけだ・・・・資質はすばらしいが経験は浅いと見える・・・貴様らにとってもいい提案だと思うが?」
その提案のは正直嬉しいと星光は想った。確かに自分たちには力がある、だが経験が圧倒的に不足していた。
十年前の闘いもそれが勝敗を分けたのだと想っている。力があっても、その使い方が『頭にある』だけではどうしようもない。
あのサタンガンダムという魔道師に鍛えてもらえば、自分たちは更に強くなる。
さっそくお願いしようしたが、それより早く、王がサタンガンダムへと近付き、彼をにらみ付けた。
「ふっ、よかろう、貴様の技術、ありがたくもらってやる。まぁ期待などしてはいないがな、精々事故でくたばらん事を心配していろ」
「我も貴様らがついて来られるとは期待しておらん、まぁ死なぬ程度に加減はしてやる。精々地べたを這いずり回り反吐を吐きながらもついて来る事だな」
互いに一歩も引かない罵りあいに雷刃は
「あ~・・・・僕は控えめがいいな~・・・でも技名を考える事なら自身があるよ!!」
と張り切り、星光は溜息をついた後
「似たもの同士ですね」
と小さく呟いた。

後にマテリアルの少女達は再びなのは達と合間見えることになる、それ程時を得ずに。


新暦71年 4月29日ミッドチルダ臨海第八空港


その爆発は何の前触れも無く訪れた。火は瞬く間に燃え広がり、
つい先ほどまで賑わいを見せていた空港内部は悲鳴と怒号、子供の泣き声に支配された阿鼻叫喚地獄へと変化する。
だが幸い爆心地が無人で管理していた物置だった事、そして避難誘導を行った係員が優秀だった事もあり、
空港内にいた客の『殆ど』の避難はスムーズに完了した、だが炎に包まれた空港内には未だ取り残された客数十名が残されていた。
災害担当局員は火災の沈下、そして客の救出に戦力を注ぐが規模が大きいため対応しきれず
近隣の陸士部隊や航空隊にも緊急招集を掛け対応に全力で当るが、それでも炎の勢いは留まる事を知らず、救助活動も満足に行うことが出来なかった。

「・・・・うぅ・・・・・・おとうさん・・・おかあさん・・・おねえちゃん・・・・」
激しい炎に包まれた建物の中、一人の少女がさ迷っていた。
此処に来た時は初めてということもあり、物珍しい物や沢山のお店があったため、好奇心に負け自分勝手に行動し、一緒に来ていた姉とはぐれてしまった。
それでも周りを探検しながら探そうと思い、「はぐれたら係員にいいなさい」という姉の忠告を無視して少女『スバル・ナカジマ』は探検を楽しんでいた。
そんな時に起こった大爆発と火災、彼方此方から聞こえる怒号と悲鳴にスバルは何もする事が出来なかった。
我先に逃げる大人に突き飛ばされ、爆発が起こるたびに恐怖から耳を目を塞ぐ、それでもどうにか見覚えのある出口に辿り着きはしたものの、
運命の悪戯なのか、スバルの前にいた人が通った瞬間その出口は天上から崩れ落ちた瓦礫によってふさがれてしまった。

行き場をなくしてしまったスバルは、初めて感じる絶望という感覚に襲われ心が砕けそうになる。
だがそれでも再び家族に会いたいという感情だけが彼女を突き動かしていた。
涙を流し、家族の名前を呟きながら当ても無くさ迷い歩く、だがそんな彼女を助ける者は此処にはいない。
激しい炎が彼女を取り囲むように燃え盛り、突如起こった爆風がその小さな体を吹き飛ばす。
床に体を打ちつけらた痛みに、とうとうギリギリまで堪えていた心にヒビが入り始める。歩く事をやめ蹲り、ただ家族の名を呼びながら泣く事しか出来なくなった。
「もう・・・いやだ・・・・よ・・・・」
全てを諦め、目の前の現実に身を任せようとしたその時、自分の声ではない誰かの泣き声が聞こえた。
その声にスバルは閉じていた瞳を開き、顔をあげる。気のせいだと思ったが確かに聞こえる・・・・・・子供の泣き声が。
その姿は直ぐに見つかった。自分から約100メートルほど離れた所に子供がいる。何故今まで気付かなかったのだろうか、
おそらく自分の事で頭が一杯だったからだろう、そしてあの時全てを諦めたことにより、自分の中に無駄に余裕が出来た結果、目の前の少女を認識できたのだろうと思う。
見た感じ自分より子供だ、先ほどの自分の様に蹲り泣いている。耳を澄ますとお父さんお母さんと呟いているのが聞こえる。
同じ境遇の子が出来たからだろうか、それとも、年上として泣いている子をほって置けないからだろうか、スバルはゆっくりと立ち上がり
袖で涙を乱暴に拭く。そして目の前で泣いている子に声をかけようと一歩歩みだしたその時、爆発音が辺りに響き渡った。
突然の爆音にスバルは瞳と耳を塞ぎ、女の子は叫びながら蹲る。その直後、爆音とは違う音と共に天上が崩れだした。
先ず最初に気付いたのはスバルだった。天上から落ちてくる瓦礫に只呆然とする。だが彼女の場合、そのまま呆然としても被害は一切無い
崩れ落ちる瓦礫が向かう先は蹲る少女なのだから。
「あ・・・・ああ・・・・・」
声をかけようにも先ほどの爆発の恐怖からか口が上手く開かない、仮に『逃げて』と叫んでもあの恐怖に震えた少女が動けるとは思えない。
だからこそ、目の前の少女が助かる事は無い、無残に瓦礫に押しつぶされその生涯を終えるだけだ・・・・・スバルが普通の少女だったなら

もし自分が戦闘機人としての力を使えば、あの少女を助けることが出来る・・・だが怖い、力を使う事が
この力はいつかは人を傷つけてしまうのではないか?大切な者を奪ってしまうのでは無いか?それが怖い。
ならば使わないほうがいい、臆病と弱虫といわれても構わない、自分はおねえちゃんの様に強くはないのだから。

          『・・・確かに、ギンガやスバルは普通の女の子じゃない、それは認めなくちゃいけない事だ。
           だけど、それが原因で他者が不幸になることも、そして君達姉妹が不幸になることは決してない』

突然心に響き渡る声・・・・・その声にスバルはハッとし、諦めかけた現実を打ち消す。
そうだ、あの時お姉ちゃんも今の自分の様に悩み苦しんでいた、自分が普通の人じゃない事に・・・・そんな時あの人は言ってくれた。
優しく暖かな声で自分達の事を受けいれなければいけないと、だがそれに絶望してはいけないと。

      『それでも、君達の事を蔑む人はいるだろう、化物と言う人もいるだろう・・・・・・だけどね、気にする必要は無いんだ。
         君達は特別な力を持ってはいるけど、化物なんかでは決して無い。君達は、優しく、暖かな心を持った女の子だ。
  母であるクイント殿を慕い、皆に笑顔を振りまき、私との別れを惜しんで涙を流してくれる、それらの行為はね、優しく暖かな心を持っていないと出来ない事なんだ』

今なら分かる気がする、自分を化物と思うなと、あの人は言ってくれていたのだ。そして私達姉妹を化物を罵る相手と出会っても決して落ち込んではいけない、
折れてはいけないと言ってくれた・・・・・自分達に強さを与えてくれた。そして

    『いいかい、力というのは、確かに物を壊したり、相手を傷つけたりなどに使われる、だけどね、その力で大切な人を助ける事も出来る。  
                 瓦礫を破壊し道を作ってあげたり、悪人を懲らしめ皆の平和を守ったり。
        スバルやギンガなら、その持っている力を皆の平和と幸せに、そして大切な人を守るために使えると、私は信じている
                    だから恐れないで欲しい、その持つ力に、そして自分自身に』

持つ力を恐れるなと言ってくれた・・・・・そして、その力を私達なら間違った方向へと使う事は無いといってくれた。
今は自分の世界へと帰ってしまった優しい騎士、だが、彼は自分達に大切な事を与えてくれた、持つ力、そして自分達に勇気と自身を。
「ガンダムさん!!力を貸して!!」
瞳を金色に染め、スバルは駆け出す。自身の力を使い少女を助けるために。
力をセーブしていない為、あっという間にスバルは少女の近くへと辿り着く事が出来た。そしてそのまま彼女を抱え、その場を退避すればいいのだが
彼女の持ち前の性格からだろうか、それとも今から行う行動しか頭に無かったのだろうか。
ある程度距離をつめた後、地面を蹴り飛び上がり右手を振り被る、その直後、振り被った右腕が振動を始めた。
『振動破砕』スバルが持つ必殺技ともいえる攻撃方法、初めてこの力の存在を知り、面白半分に使った時の恐怖を今でも忘れない、だが、
その力が今は必要だ、目の前の命を助けるために
「おりぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
叫びと共に必殺の拳を瓦礫に叩き付けた、瓦礫は粉々なりながら吹き飛び、床や壁に叩きつけるように散らばる。
その破砕行為を自分が行なったかと思うと怖い気持ちになるが、今は少女が無事だったという安心感と
自分が少女を救ったという誇らしさがその気持ちを直ぐに打ち消した。
「ふぅ・・・・もう大丈夫だよ」
危険が去った事を教えようとするが、少女は依然、蹲り怯えていた。
そんな彼女の態度も仕方が無いと思う、自分ももしナイトガンダムと出会っていなかったら彼女の様に恐怖や目の前の現実に怯え、動く事すら出来なかった。
おそらく自分がどんなに励まそうとも、この子は聞いてはくれないだろう、自分自身を保つだけでそんな余裕は無い筈だから。
「・・・・そうだ・・・・」
とにかく今はこの子を安心させたい、その思いが自然とスバルを動かした。
自分が迷子で泣いていたあの時、ナイトガンダムがやってくれた様にスバルは少女の頭を優しく撫でる、優しく何度も。
最初は体を震わせいた少女も、あやされる様に撫でられる安心感からか、徐々に泣き声が小さくなる。そして完全に泣き止んだ後、ゆっくりと顔をあげた。
「もう・・・だいじょうぶだらね、直ぐに助けが来るから・・・・それまで・・・おねえちゃんが一緒にいてあげるから・・・」
自分を励ましてくれるスバルの笑みを見た少女は再び泣き出した、だが今度は恐怖からではなく、安心感から出た涙。
そんな少女をスバルは抱きしめ、落ち着かせるように、ゆっくりと背中を叩く

                             メリッ

何かがひび割れる音を聞いたスバルは一瞬で現実に戻される。そして自然と顔を音がした方向・・・真正面に向ける。その直後、
砕ける音と共に、ロビーのオブジェの一つとして飾ってあった十数メートルはある女神像がゆっくりと落下してきた。
スバルは咄嗟にあの時の瓦礫の様に破壊しようとするが、今になって体に力が殆ど入らないことに気が付いた。

後に分かる事だが、スバルが陥っている症状は自動人形に起こる『機動酔い』と似たような症状だった。
初期のイレインの様にメンテナンスをロクにおこなっていない自動人形に起こる症状なのだが、本来メンテナンスなどをきっちり行っているスバルにこの症状は起きない。
だが、全く使っていたなった振動破砕の動作シークエンスの緊急発動、そして未だ幼く、肉体的に鍛えていない状態で使ったための疲労、
さらに火災が起きてからの孤独感や恐怖感から来る心労、これらが重なった結果、スバルは攻撃も逃げることも出来無くなった。
スバルは残った力を振り絞り、少女を真横に突き飛ばす。
少女は突き飛ばされた事、そして地面を転がる痛みに何が起きたのか理解できなかったようだが、突き飛ばしたスバルを見た瞬間、何故自分を突き飛ばしたのか直ぐに理解できた。

「・・・よかった・・・」
力の加減など出来なかったため、怪我をしたのではないかと不安だったが、自分に向かって何か叫んでいる。
何を叫んでいるが上手く聞き取れない、だが叫ぶほどの元気があるのだ、このまま助けが来るまで頑張ってほしい。
だが自分は此処までだろう、何故だか恐怖も恐れも感じずに、冷静にそれを受け入れる事ができた。
せめて最後に家族に会いたかった、そして初めて自分の力を恐れずに使った事を、ガンダムに教えたかった・・・・自慢したかった。
「お父さん・・・お母さん・・・お姉ちゃん・・・・ガンダムさん・・・・私・・・がんばったよ・・・・」
女神像が崩れ落ちる、そしてその巨体がスバル目掛けて崩れ落ちる・・・・・だが

                       『Restrict Lock』

数本の桃色をしたバインドがその行動を強制的に停止させた。
自分目掛けて崩れ落ちる筈だった女神像、それが寸での所で停止している・・・否、バインドで拘束されている
その光景をスバルは只呆然と見つめていた、何が起こったのか中々理解できない・・・その時
「はぁ・・・はぁ・・・よかった・・間に合った・・・・・」
女神像にバインドを施した魔道師が、息を切らしながらも間に合ったことに安堵する。
そしてゆっくりとスバルの元へと下り、助けに来た事を伝えた。
「よくがんばったね・・・えらいよ・・・もう、大丈夫だからね」

         これが、スバル・ナカジマと高町なのはの最初の出会い、そして、スバルが己の力の使い道を決めた時の出来事。


新暦75年6月13日 起動六課部隊寮


「・・・ん・・・」
瞳をゆっくりと開け意識を徐々に覚醒させる。
そして上半身を起こし、意識と体を完全に覚醒させるために体を大きく伸ばした。
「ん~~~~~・・・・夢・・・・か・・・・・」
ブラインドの僅かな隙間からはまだ朝日の光が漏れてはいない、まだ夜かと思ったが時計を見ると早朝と言っていい時間だ
何時もより一時間ほど早く起きてしまった事を理解したスバルは、再び寝ようと考えるが直ぐにこの行動を取り消す。
「だめだ・・・絶対遅刻する」
今日の訓練教官はヴィータ副隊長だ、遅刻したら・・・・考えるだけでも恐ろしい。
だがこのままぼーっとしていても時間の無駄、ならば残された手段、自主トレをするのみだ。
「軽くランニングした後、シャワーを浴びで冷えた牛乳でクールダウン・・・よし、決まり!!」
早速着替えるため、下で寝ているティアナを起こさない様に二段ベットの上からゆっくりと下りる。
そして下りた後、着替える前に未だ眠りについているティアナの寝顔を見つめた。
「胸を揉んで起こしたかったんだけどな~」
セクハラ上等(スバルはスキンシップと考えている)な方法を躊躇無く行動に移そうと思ったが、
起床時間までまだ一時間はある、それなら寝かせてあげるのが優しさというものだ。
あの起こし方はまた今度にしようと諦めたスバルは、素早くランニングウェアに着替え、部屋を後にした。


六課周辺のランニングコースを二週ほど回った後、徐々に走る速度を落としていく。
そして歩みを止めた後、軽くストレッチをして体を念入りにほぐした。
「時間は・・・よし、丁度いいね」
汗を拭きながら時間を確認する、起床時間まで残り約30分、汗を流した後の冷えた牛乳を想像しながら、スバルは寮に向かって歩き出す。
早朝の涼しい風が火照った体を冷やし、心地よい気分にしてくれる。だからだろう、自然と鼻歌を歌ってしまうのも仕方が無い事だ。
「~♪~~♪~~~♪・・・・ん?」
遠くからから聞こえる音に、スバルは鼻歌をやめ立ち止まった。
耳を澄ますと、その音が金属と金属がぶつかる響きに似ていることが分かる。
「確か・・・あの先は芝生があるだけの広場の筈・・・なんだろ?」
こんな早朝に、しかも訓練所でない所から聞こえてくる音に不審感を感じたスバルは、
その音の正体を確かめる為、歩みを帰るべき寮から音が聞こえる広場の方へと変えた。

近付くにつれて音がはっきりと聞こえる、同時に誰かの声も聞こえてくる。
それは掛け声、此処からでもそのはっきりと、そして勇ましい声が聞こえてくる。
そして、目的地に着いたしたスバルが見たのは、剣を振るう二人の騎士の姿だった。
一人はシグナム、何時もの管理局の制服に身を包み、愛刀のレヴァンティンを振るう。
それなりの時間行っていたのだろう、上着は既に脱いでおり、額には汗がにじみ出ていた。
もう一人はバーサルナイトガンダム、常に装着している鎧は着ておらず、赤を主体とした貫頭衣を着ている。
そして、シグナム同様愛剣のバーサルソードを振るい、レヴァンンティンと激しくぶつけ合う。
鎧を着ていないガンダムを始めてみるスバルにとっては、その姿はとても新鮮に映る、だがそれ以上に二人の姿に自然と目をうばわれた。
魔力を一切使用していない、それぞれの獲物だけを使い訓練をしているだけ、だが二人ともとても楽しそうに行っている。
そして訓練ではなく剣舞と思えるほど、動きがとても軽やか、まるで踊りを踊っている様だ。
互いの技量が同じでないと出来ない芸当、それも相手があのシグナム副隊長だ、並みの相手ならすぐに熨されるか、ただのチャンバラで終ってしまうだろう。
だからこそ、この剣舞の相手を務めているガンダムがどれほどの実力者なのか、今のスバルには十分に理解する事ができた。
「(そういえば私、ガンダムさんの実力、まだ見たこと無いんだっけ・・・)」

幼い頃の自分なら、今の姿を見て『強くてカッコイイ』という感想しか抱かなかっただろう。
だが今は違う、一人の魔道師としてナイトガンダムの強さに興味がある。
今見ている剣舞は無論、隊長達の話からして彼の強さは部隊長・隊長クラスだ、もし今目の前で行われている剣舞が本気の戦いだったらどうなるのだろうか。

自分は無論、この戦いに興味が沸く人は沢山いるはずだ、そんな自分を含んだ沢山の人の願いが、今日実現される。
今日の正午頃、烈火の騎士シグナムとバーサルナイトガンダムの模擬戦(一部では決闘といわれている)が行なわれる事になっている。
互いが別れの時に交わした約束を果すため行われる真剣勝負、純粋な試合として、そして戦闘における接近戦の見本として、見る価値が十分にある戦いだ。
(一部では賭け試合として裏で色々行われていたらしいが、主犯の某ヘリパイロット共々なのは達の大岡裁きの餌食になった)
ガンダムの戦いが見られるのは無論だが、副隊長でもあり、フェイト隊長以上の戦闘力を持つといわれているシグナム副隊長の本気を見ることが出来る事にも興味がある。
まさに始まる前から興味が尽きないこの戦い、数時間後が今から楽しみで仕方が無い。

「ん?スバルじゃないか、どうしたんだい、こんな朝早く?」
声をかけられた瞬間、体を震わせ我に返る、自然と目の前の剣舞に見入っていたのだろう。
同時に体が思った以上に冷えていることにも気が付く、汗を拭かないまま見入っていたのだ、体が冷えても仕方が無い。
「少し早く起きちゃって時間があったからランニング、だけど寮に戻る途中で二人が訓練している所を見つけて、見入っちゃった」
「訓練ではない、軽い撃ち合いだ。だがスバル、見入る程の物でもないだろう」
ガンダムの後ろからシグナムが額の汗を拭きながら近付いてくる、程よい運動をした爽快感に満たされているのだろう、
いつも通りの口調からは機嫌のよさが伺える、表情も笑顔だ。
「そんな事無いですよ!もう録画して訓練用の映像資料にしたい位ですよ!あ~今から楽しみです今日の試合、ガンダムさん!がんばってね!」
目の前に上司であるシグナムがいるにも拘らず、ガンダムに向かってエールを送るスバル、
それに対しガンダムは笑顔でお礼をいい、シグナムは軽く溜息をついた。
「まったく、少しは上司も応援しろ、まぁ、お前のそんな真っ直ぐな所は好きだがな・・・・」
「えっ・・あ!・・・じゃあ・・・シグナム副隊長も頑張ってください!!」
「・・・いや、もういい・・・」
本気でうな垂れるシグナムをスバルは不思議そうに見つめる。その光景を、ガンダムはただ乾いた笑いで流す事しかできなかった。


時刻は午後12時頃、天候は晴天で雲は一つも無い、市街地からそれなりに離れている為、街などから聞こえる喧騒は聞こえず、
空を飛ぶ鳥の鳴き声、そして湾岸地区であるため、耳を澄ませば波の音もかすかに聞こえてくる。
それらの音に加わる様に聞こえてくる走行音、その音源である一台の車が、起動六課玄関前でゆっくりと止まった。
助手席が開き、中から出てきたのは管理局の制服に身を包んだ美しく、大人びた印象を持っ少女、紫のロングヘアーが風になびく。
街で見かけたら誰もが視線を向けるであろう。
その少女は一度六課を見つめた後、運転席へと顔を向けた。
「ありがとうございました。わざわざ送っていただいて」
「同僚の頼みだ、気にする事は無いさ。さぁ、中で妹さんが待っているんだろ」
「はい、ありがとうございます!!」
運転席にいる自身の上司『ラッド・カルタス』に頭を下げた少女『ギンガ・ナカジマ』は、顔を綻ばせながら駆け足で玄関へと向かった。
「だけど、あのギンガを夢中にするなんて・・・どんな人物なんだろうな、ガンダムという人は」
運転席から遠ざかるギンガの後姿を見つめながら、カルタスはふと呟く。
ギンガはその容姿、人の良さから人気があり、男性隊員からの誘いなどもよく受けることがある。
実際、仕事で共に行動をしている時に、自分が隣にいるにも拘らず彼女に声をかけてきた男性隊員はそれなりにいる。
(ちなみにカルタスはギンガを恋愛対象ではなく頼りになる同僚として見ている)
だがその気がないのか、それとも純粋に興味がないのか、彼女がそれらの誘いを受けたことを自分は見たことが無い。
そんな彼女があんな嬉しそうな表情をし、会う事を楽しみにしている人物、相手が彼女の家族ではない以上、興味がないといえば嘘になる。
それとなく車内で聞いては見たが、ガンダムという人は『ずっと帰りを待っていたとても大切な人』らしい。
「まぁ、いきなりだったから半休しか取れなかったが、せめて非情召集が来ないことを祈るよ・・・さて私は仕事だ」
地上本部で行われる会議、それが終っても書類整理などのデスクワークが待っている、自然と溜息が出るのは当然だと思う、だがこれも平和のため、生活のためだ。
『せめて仕事漬けの自分に変り、楽しんできてくれ』と内心でギンガに願ったカルタスは、周囲の安全を確認した後、車を発進させた。


「ギン姉~」
「スバル~!ごめん、」
六課内で待ち合わせをしていたスバルと合流したギンガは、挨拶もそこそこに訓練場へと向かう。
ナイトガンダムとシグナムの試合に関してはスバルから既に聞かされていた。本当なら試合が始まる前に到着したかったのだが、
途中渋滞に捕まってしまった結果、開始時刻を過ぎてしまった。
「スバル、試合はどうなってるの?」
「もう、すごいよ!開始早々もう・・・・・とにかく早く早く!!」
手をつかまれ、引っ張られながら試合会場でもある訓練場へと向かう。そして、訓練場についたギンガが見たのは、
「・・・・・すご・・・・い」
まさに激闘だった


「はぁあああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおお!!」
互いの剣がぶつかるたびに甲高い音と衝撃が周囲を襲う、時に唾競り合いの力比べ、時に何度も剣をぶつけあう。
どちらも相手に未だ決定打を与えていない、互いの技術、技、技量が自分自身を守っている証拠だ。
共に剣という武器である以上接近戦は必至、だが時には相手の出方を、そして隙を伺うために離れることもある。
だがこの二人にとっては距離を置いても出方や隙を伺うようなことは無い。そのような事、攻撃をしながらでも十分に出来るからだ
「穿空牙!!」
「ムービー・サーベ!!」
鍔競り合いを解き距離を空けると同時に双方が斬撃破を連続して放つ。
互いの斬撃破の威力は略互角、ぶつかると同時に打ち消しあい、飛び散った魔力の塊が周囲の建造物の壁を削る。その結果、
今までの戦闘でダメージを負っていた建造物の幾つかは、けたたましい音をたて倒壊を始めた。
爆煙があたりに立ち込め、互いの姿を隠す、だがそれにも構わずシグナムは直ぐに行動に出た。
「レヴァンティン!」『Schlangeform 』
カートリッジをロードし、レヴァンティンを蛇腹剣であるシュランゲフォルムに変化、そしてそれを爆煙の中にいるであろうナイトガンダムに向かって振るった。
魔力を纏った一匹の蛇の様に撓りながら、喰らいつく相手に向かって突き進む。途中瓦礫と化し落下するビルの一部が行く手を塞ぐが、
それをまるで砂の塊を崩すかの様に軽々と打ち砕く。
その光景を見るだけで、どんな人物にもナイトガンダムに襲い掛かろうとする必殺技『シュランゲバイセン・アングリフ』の威力が嫌でも理解できる。
不規則な起動は回避を難しくし、防御をしようにもこの技そのもに強力なバリア破壊効果があるため、無意味に等しい。
技の使用中には防御も移動も不可能という致命的とも言える欠点があるが、いざ動けないシグナムに対し接近戦を仕掛けようものなら
瞬く間に空間をのたうつレヴァンティンの餌食となる、逆に長距離砲を放とうものなら、チャージ中は無論、狙おうと動きを止めた瞬間、
同様にレヴァンティンの餌食となる(ちなみになのはは『抜き打ちの砲撃』という傍から見れば卑怯とも言える方法でこの技を破った)
ならば、受ける側となった相手に残された方法は何がるだろうか?
バリアやシールドを徹底的に強化し、少しでもバリア破壊の効果に耐え、使い手であるシグナムが疲れるのを待つ。
超スピードで避けきり、一気に懐に潜り込む。(フェイトは主にこの戦法を使っている)
なのはの様な例外を除いて、方法は主にこの2つに限られているが、ナイトガンダムは以前シグナムと戦った時に
『電磁スピアの突きで勢いを一時的に殺し、その隙に絡め取り電流を流す』という器用な方法で打破した事がある。
だが今回はその方法は出来ない、その行動に必要不可欠な電磁ランスは接近戦の時にシグナムに切り払われてしまい、瓦礫の中に埋もれてしまったからだ。
それでも『召喚』などの方法で回収することは出来た、だがナイトガンダムはそれをしなかった。

シグナムとの闘いで分かった事、それは剣とランスの二刀では負けてしまうということだ。
獲物が二つ、しかもそれぞれが別の物である場合、戦闘で使い分けながら戦うのは至難の業、それでもナイトガンダムの技量からすれば問題は無いのだが
今回の相手に関してはそうも言っていられない、接近戦が必須な相手、しかも剣術に関しては互角か自分以上、そんな相手に攻撃を防ぐ盾ならまだしも、
使用も特徴も違う武器を交互に駆使しながら戦うとなると状況は明らかに不利になる。
この経験はスダ・ドアカワールドで行った騎士アレックスと剣士ゼータとの試合で痛いほど実感させられた。
だがらこそ、ナイトガンダムは電磁ランスを弾かれた瞬間、回収することを辞め、バーサルソードのみで戦う事にした。

だがその選択肢は迫り来る脅威を打破する方法を無くしてしまった事になるのだが、攻撃を行なっているシグナムは余裕など一切見せない。
ナイトガンダムにはフェイトの様な速さもなければなのはの様に精密な砲撃が出来るわけではない。
以前防がれた方法も、電磁ランスを失っている今では出来はしないだろう。
普通なら直撃と考えていい・・・だがシグナムはそうは思えなかった。
「何かしてくるだろう」という不安と「ナイトガンダムなら切り抜けてくるだろう」という期待感がこの攻撃の失敗を感じさせる。
そして、その思いは現実の物となった・・・・・・とても簡単な方法で
迫り来る『シュランゲバイセン・アングリフ』、それに対しナイトガンダムは臆する事無く、ゆっくりと剣を両腕で構える・・・・そして
「はぁ!!」
その刃が自身に叩きつけられる瞬間、ナイトガンダムはバーサルソードでレヴァンティンを切り払った。
「なっ!!?」
何となくではあるが期待はしていた、だがその答えが余りにも単純だったため、一瞬唖然としてしまう。
無論『切り払う』という選択肢もあるがこれは一番難しい。不規則な高速移動をするレヴァンティンを捕らえるだけではなく、
切り払える距離まで誘わなければいけない、この時点で並みの使い手は脱落だろう、仮に上手く獲物をレヴァンティンに当てる事ができたとしても、『シュランゲバイセン・アングリフ』
状態のレヴァンティンは魔力で包まれているため、固さそのものも強化されている。
切り払おうとした獲物が逆に弾かれる・・・程度ならまだ幸運だ。最悪その獲物が砕けてしまう事すらある。

だが彼は易々をやり遂げた、そして目標を自分に定めて接近してくる。
唖然としたのも一瞬、直ぐに攻撃を再開する。それ程驚きが少なかったのは、内心で『防がれるかもしれない』と思っていたからだ。
それでも戦闘中唖然としてしまったのは仕方が無い事だと、誰にでもなく言い訳をしたい。

接近してくるガンダムに対し、シュランゲバイセン・アングリフで再度攻撃を再開する、だが
前方、後方、左右、上下、ありとあらゆる方向からの攻撃、しかも何度もフェイントをかけているにも拘らず、その全てが切り払われる。
おそらく僅かな空気の流れ、振動、周囲を未だに漂う微量の砂煙の動きなどから迫り来る方向を感じ取っているのだろう・・・そして
「詰めたぞ!」
何度目かになる攻撃を切り払ったナイトガンダムは、シグナムとの距離を接近戦が出来るほどにまで縮める、
そして素早く振り被り重い一撃を与えるために一気に振り下ろした。
だが、振り下ろした瞬間にナイトガンダムはシグナムの行動に疑問を感じた、彼女はレヴァンティンを戻さずに、左腕の手甲でその斬撃を防いだのだ。
この行動はあの砂漠での戦闘を思いださせる、この直後、自分は彼女の鉄拳を受け吹き飛ばされた。
だがなぜ『防御』という行動、しかも防御魔法も(手甲にフィールドが張ってあるとは言え)レヴァンティンも使わずに手甲を使用したのだろうか?
特に手甲にフィールド以外の細工をしてあるわけでもない、現に徐々にひび割れ、更なる力を加えれば手甲を砕き、シグナムに致命的な一撃を与える事が出来る。
それはシグナムも分かっている筈だ、むしろ彼女ほどの騎士が防がれると分かっている攻撃を何度も行うのは可笑しい。
レヴァンティンを戻し、自分の攻撃に対処する行動に出るのが普通だ、だがレヴァンティンは未だシュランゲフォルムのまま・・・・
「!?」
妙な不審感、それは手の隙間から伺えるシグナムの瞳を見た瞬間確信へと変った・・・その直後
シュランゲバイゼン・アングリフはナイトガンダムの背中に直撃、決定打ともいえるダメージを受けることとなった。

『避けられるのなら動きを止めてしまえばいい』
その考えにたどり着いたのはシュランゲバイセン・アングリフが3回切り払われた時だった。
おそらくこのまま何度やってもナイトガンダムに当る可能性は低い、ならば再び剣による斬撃戦に持ち込むしかない。
だが自身の技が破られたのだ、その代価としてせめて一撃は与えてやらなければ気がすまない。
「肉を切らせて骨を絶つ・・・・・やってみるか!」

左手の手甲に剣がめり込んでいる、同時に左手に激しい痛みが生じるが、おそらくガンダムのダメージはこれ以上だろう。
現に彼は俯き、手甲にかかる力も徐々に弱くなっていく。
「このまま・・・もう一撃うけてもらう!!」
再びレヴァンティンを操りもう一度シュランゲバイセン・アングリフを放とうとする。だが、手甲から・・・否、
バーサルソードから突如感じる魔力に、先ほどまで感じていた攻撃が直撃した事への嬉しさ、そして満足感が一気に消し飛んだ。
目を見開き正面を見据える。その瞬間、まるでタイミングを見計らったかの様にナイトガンダムがゆっくりと顔をあげた
「肉を切らせて骨を絶つ・・・・・・流石だ、烈火の将・・・・・ならば、私もそれに習おう!!」
「くっ!?レヴァンティ(ムービー・サーベ!!」
レヴァンティンを振るうより早くナイトガンダムはバーサルソードに魔力を込める。
周囲を漂い獲物であるガンダムを狙おうとするレヴァンティンに対し、バーサルソードはシグナムの手甲にめり込んでいる。
まさにゼロ距離、どちらが早いかは一目瞭然。
「零距離斬撃!!」
そのままナイトガンダムは斬撃魔法「ムービー・サーベ」を発動、同時に力任せに剣を振り下ろした。
ムービー・サーベの魔力刃に押し付けれるようにシグナムは落下、途中高層ビルを貫通しながら地面に叩きつけられた。
無茶な事をしたものだと反省する、だが自分と同じくらいのダメージは与えられた、先ずは良しとしよう。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・このままで終るとは思えないが・・・・・」
シグナムが落下した方向へと首を向けようとするが、背中に感じる痛みに顔を顰めてしまう。
だが落下地点から突如発生した強大な魔力が、ナイトガンダムから無理矢理痛みを引かせた。
「やはりな・・・・ならば、答えるだけだ!」
爆煙が一気に晴れる、其処には左腕の手甲は無論、バリアジャケットも彼方此方が破けており、男性から見れば目の保養になる事間違いなしの格好をした
シグナムが、鞘に入れたレヴァンティンを高々に構えていた。
その構え、彼女が何をするのは直ぐにわかった。だからこそ、此処から接近戦を仕掛けるなど自殺行為、あの時の様に自分も大技で対応する他道は無い。
剣を逆手に持ち、ゆっくりと目を閉じる。呟くように詠唱を開始すると同時に剣に魔力が集まり、白く輝きだした。
あの時とは違い、威力も射程も上がっている、だがそれは向こうも同じだろう。
威力に大差があるとは思えない、シグナムも今から放つ技で決着がつくとは思っていないだろう。
おそらくこの技を放った後、再び斬撃戦が始まるに違いない。だからこそ、これはある意味では闘いの合図の様な物だ。
そして、まるで打ち合わせをしたかの様に、二人の騎士は同時に再会のゴングともなる大技を放った。
「飛竜一閃!!」
「メガ・サーベ!!」

「あ~・・・・訓練所もつか?」
「ははは・・・どうだろ?あっスバルにギンガ、こっちこっち!!」
その声にスバルとギンガはハッとし、入り口で自分たちが見入っていた事に気が付いた。
見学スペースについた途端、目に入った二人の空中戦、まるで催眠術に掛かったかの様に見入ってしまった。
おそらくなのはが声をかけてくれなければ試合が終るまでそのままだったかもしれない
「あっ・・し、失礼しました!高町なのは一等空尉、ヴィータ三等空尉、ギンガ・ナカジマただ今到着いたしました!!」
「おう、ってお前今は半休扱いだろ?堅っ苦しい挨拶は無しだ無し、今はバトルマニアと勇者の試合を観戦しようぜ」
その言葉に素直に甘える事にしたギンガは、近くにいたティアナ達に軽く挨拶をした後、スバルの隣に座り観戦を再開した。
二人が大技を放った後、再び再開された斬撃戦、互いに一歩も引かないこの攻防は嫌でもシグナムの本気の強さ、そしてナイトガンダムの強さを思い知らされる。
おそらく此処に自分が介入しても直ぐにあしらわれてしまうだろう、この闘いを見れば嫌でも結論が出る。
「シグナム副隊長の本気もすごいけど、それに真っ向から戦えるガンダムさん・・・・・やっぱりすごいなぁ~」
「ああ、まったくだ。シグナムもうれしいだろうな、こうも互角の戦いが出来て、あいつに付き合える奴なんか今の所いないからな~」
その何気ない言葉にギンガとフォワード組が食いついた。皆何か言い足そうな表情でなのは達を見る。
だが我慢できなかったのだろう、エリオが皆を代表するかのように疑問を口にした。
「あの・・・シグナム副隊長と渡りあえる人って・・・・・・此処にはそれなりにいると思いますよ?八神部隊長や隊長・副隊長の皆さんとか」
「あ~、言葉が足んなかったな、そういう意味じゃねぇんだ、シグナムと接近戦が出来る奴が今の所いないって事だ」
その言葉に納得したのはギンガだけだった。自然と手を叩き理解をしたことを示す。だがフォワード組は未だ難しい顔をし答えを手探りで探していた。
そんな必至な生徒達を可愛いと思いながらも、なのははアイコンタクトでヴィータに許可を得た後、説明を始めた。
「そうだね・・・例えばエリオとキャロ、今『此処』で二人が戦った場合、どちらが勝つかな?」
突然質問されたエリオとキャロは互いを見据えながら考える・・・・答えは思ったより早く出た。
「・・・・・僕だと思います」
「それは何故かな?」
「僕は機動力生かした突撃型、スバルさんと同じ接近戦主体です。ですかキャロは補助系魔法が主体です、勿論召喚術やフリードによる攻撃など出来ますが
それは相手との距離が離れていて、詠唱時間が十分確保できるからこそ、もしくは誰かの援護があるからこそ出来る事だからです。
もし逆に距離が離れている場合でしたら僕の負けは確実だと思います。
キャロに近付く前にフリードや召喚魔法の攻撃でやられてしまいます、今の僕にはそれらを捌ききる能力はありませんから」
「うん、正解。よくできました」
なのはは褒めながらエリオの頭に手を載せ、優しく撫でる。
そのなのはの行為にエリオは恥ずかしさで一杯になるが、俯きながらもその行為に身を任せていた。
「まぁエリオの言うとおり、アタシらもタイマンでシグナムとはガチで戦える。だけどもし接近戦限定の場合、優位に立てる奴は
今戦っているガンダムが万能タイプのリインフォース・・・・あとギリギリでテスタロッサ位だろうな」
「ですがヴィータ副隊長?副隊長も接近戦主体ですよね?ならガンダムさんの様にいい勝負になる気がすると思いますが?」
ヴィータのデバイス『グラーフアイゼン』を想像しながらティアナは早速疑問をぶつける。
あのハンマーを模したデバイスなら接近戦でも無類の強さを発揮する筈だ。むしろ逆にそのパワーで吹き飛ばすことも出来るのではないか?
だがティアナの考えに反して、ヴィータは直ぐに首を横に振る。
「いんや、無理だな。元々アタシはデカイ奴や固い奴担当だ。人型の相手より、フリードとかの大物相手や固い外装を持った相手の方が相性がいい。無論出来なくはないが
アタシはパワーで押し切るタイプだからな、並みの相手ならまだしもシグナムやガンダムクラスの相手じゃ分が悪いな、軽く受け流されて痛い目を見るだけだ」
「えっ、それじゃあヴィータ副隊長はシグナム副隊長やガンダムさんに勝てないんですか?」
「違うわよ、スバル。それは接近戦限定の場合だけよ。闘いの場合、訓練でもない限りわざわざ相手に有利なリーチで攻撃を仕掛けることはしないわ。
さっきなのはさんがエリオ君に質問した内容と同じよ。スバルだってティアナさんと戦う場合、わざわざ距離を置いて戦ったりしないでしょ?」
「あ~・・・うん。距離を置いたらティアナの射撃でボコボコされる・・・・あっ!そう言う事か!!」
ようやくヴィータの言いたかった事を理解したスバルはギンガの時の様に手を叩き、嬉しそうに理解できたことへの喜びを表した。
「皆それぞれ戦い方を持っている。強さは勿論だけど、先ずは自分の戦い方を生かすことが必要だね。ヴィータちゃんがシグナムさんと戦う場合は」
「かく乱した後に重い一撃、これに尽きるな。はのはの場合はどうにかして距離を取るか動きを封じて砲撃で仕留める、あの戦術披露会はある意味じゃ壮絶な追いかけっこだったな。
距離を取ろうとするなのはに対して、喰らいつこうとするシグナム・・・ってなのは、お前途中でバリバリ接近戦やってなかったか?」
「非常手段だよ、うちの剣術を少しね」
「あれが非常手段かよ・・・・・『神速』だっけか?あれはもう・・・・・」
突然消えたと思ったら真後ろにいたのだ、一番驚いたのはシグナムだったに違いない、だがそのトンデモな技に直ぐに対応したシグナムも十分トンデモないと思う。
「テスタロッサはなのはに似た攻撃スタイルだな、違う所といえばなのはの『防ぐ』に対してテスタロッサは『避ける』だな」
「あとフェイトちゃんは持ち前のスピードによる『ヒット・アンド・アウェイ』がメインの戦い方だね、バルディッシュ・ザンバーによる斬撃戦もするけど
それがメインじゃないね、現にシグナムさんと模擬戦をする時は接近戦には縛られない様に注意してるね」
「シャマルとザフィーラは戦闘というよりキャロと同じサポート的な役割が多いな、そんではやては広域が専門だ。
一対一でも十分強いが、本当に力が発揮されるのは多数の敵を相手にした時だな。そんでリインフォースはそれらのいいとこ取りな感じだ、
だけどどれかが抜きに出て強いってわけじゃないからぶっちゃけ誰とでもいい勝負止まりだな・・・まぁそれでも無茶苦茶強いがな」

なのはとヴィータの説明に全員が耳を傾ける。そしてティアナは心の中で感じていた間違いに気付かされた。
確かになのはたちは強い、だが完璧な強さではないのだ。己が特徴を最大限に生かすことでこそ、その強さを発揮できる。
彼女達は強く、魔力が高いだけではない、戦い方を熟知しているのだ。どんな不利な状況、そしてどんな強い敵に対しても戦えるスキルを彼女達は身に着けている。
「(・・・そうか、だからなのはさん達は私達の訓練の時に長所を重点的に)」
今までなのは達の訓練に多少なりと疑問を抱いていたティアナは同時に自分が抱いていた疑問も解決した。
なのは達が自分たちの長所を伸ばす訓練を重点的に行っているのもそのためだろう、先ほどの話の様に勝利確率を高くするためだ。
無論、短所の強化も必要不可欠だ、だが今の自分たちではエリオの言った様に短所に対する対応は難しい・・・否、対応する以前にやられる可能性もある。
「(・・・そうか、そのためのチームでの戦闘!)」
今の自分達『単体』では精々ガジェットの相手が関の山だろう。もしそれ以上の相手が出てきた場合、勝利所か自分の戦闘スタイルに持って行く事すら出来ないかもしれない。
だが皆とならそれも可能だ。それぞれ得意とする戦闘スタイルは違う、だからこそ、それぞれが短所を補い、長所を生かすことが出来る。
時々行われてるチーム戦もそれを想定しての事だったのだろう。
対戦する相手がそれぞれ違っていたのは自分達個人の長所や短所を分からせ、素早く的確に行動させるため、
そうする事で自分たちはより強い敵に有利に戦うことが出来る。そして生き残る事、勝利を得られる可能性を高く出来る。
ようやく訓練の意味を理解出来た自分に嫌気が差してくる。多分エリオは質問の回答からして訓練の意味を理解していたに違いない。
否、おそらく自分も変な理屈や不審感を抱かなければ当の昔に気付いていただろう。余裕の無さ、素直じゃない自分に溜息が出てきた。
「ん?とうしたのティア?」
「・・・なんでもないわ、ただアンタの素直さを少しは見習わないといけないって思っただけよ・・・・・・あっ!?」
ティアナの発言に疑問が残るが、普段は聞かない彼女の驚きの声の前にはそんな疑問も直ぐに忘れてしまう。
どうしたの?と聞こうとしようとしたが、ティアナは無論、此処にいる全員が同じ方向へと顔を向けていた。
当然スバルもまた、皆の真似をするかのように首を向ける。
其処でスバルが見たのは、斬撃戦を終え再び離れた二人、その姿を確認した直後、今まで感じたことが無い強大な魔力が二人の騎士から発せられた。


「ふふっ・・・・楽しいなレヴァンティン」『Ja』
「こうも長く、真剣に剣を交わった事など・・・・無いな、初めてだ」『Ich merke mich damit es auch』
「出来ればまだ戦っていたい・・・ふっ、ヴィータが私に名付けたバトルマニアという称号、ぴったりかもしれん」『Es ist bestimmt Eignung』
「まったく傷つくな、もう磨いてやらんぞ」『Entschuldige mich』
自身のデバイスとの会話を楽しみながらも、距離にして数十メートル先にいるガンダムの姿には目を放さない。
この距離ならムービー・サーベなどの魔法も届く筈、牽制目的で撃っても可笑しくは無い、だが彼はそれをせずにジッと此方の様子を伺っている。
いや、恐らく体力と魔力の残量からして軽々しく撃てないのだろう。もしかしたらこれ以上の斬撃戦すら難しいのかもしれない。
だがそれは自分も同じだ。ダメージの蓄積、残りの体力に魔力量、そしてカートリッジの残り、もう長期戦は出来ない。
そうなると方法は一つだけ、恐らくナイトガンダムもおなじ結論に辿り着いている筈だ。
そう考えた瞬間、ナイトガンダムから突如膨大な魔力が噴出した、残りを一切気にせずに放出した魔力を、召喚魔法で呼び戻した電磁ランスに纏わせる。
「召喚で落とした武器を呼び戻したか・・・便利な事だな。その上お前のその行動・・・やはり私と同じか」

ナイトガンダムもシグナムと行き着く先は同じだった。これ以上の戦闘継続は難しい、早々に決着をつける必要がある。
ならば手段は一つ、残りの力を振り絞り、大技で一気に決着をつける事だ。
早速魔力を放出すると同時に召喚術で電磁ランスを呼び戻し、即座に残った魔力を纏わせる・・・・だがその直後、シグナムも行動に出た。
レヴァンティンとその鞘をぶつける様に繋げると同時にカートリッジロード、一つの弓に変換させる。そして矢を出現さ番え、ゆっくりと魔力で出来た弦を引く
「あれはシュツルムファルケンの構え・・・・・・彼女も勝負に出たか」

双方にとって今から放つ技は最大の威力を持つと同時に、最後の攻撃となる。
小細工など一切無い残りの力を振り絞った一撃、どちらに勝利の女神が降りても不思議ではない。
むしろ両者とも、初めから勝利や敗北などという考えは持っていなかった。
自身の実力を試したい、そして好敵手に見せてやりたい、ただそれだけだ。そしてこの技が好敵手に己の強さの見せる最後の演目となる。
どちらからの攻撃が勝れば、負けたほうは昏倒するだろう、仮に勝った方も全てを使い切るのだ、立っている事すら難しいかもしれない。
だが勝っても負けても双方に残るのは『全力を出した』という満足感だろう、だから後悔は無い、全力を持って放つことが出来る。
双方の魔力も極限にまで高まる、荒れ狂う魔力風を電磁ランスに纏わせ、切っ先をシグナムに向け、ゆっくりと引く 。
シグナムもまたギリギリまで弦を引き、矢に魔力を纏わせ、照準をガンダムへと向ける・・・・そして
「翔けよ、隼!!!」『Sturmfalken』
「トルネェエエエエエドスパアアアアアアアアアアアク!!!」
最大限まで集積した魔力を保持し飛翔する矢、そして雷光を纏った強大な竜巻
互いの必殺技が空を駆け、そしてぶつかり合う・・・・・その直後

                   「駄目!限界!!」

けたたましい警報音と共に、訓練場は大爆発を起こした。


「・・・・まさかな、私達より先にこの場が根を上げるとは・・・・」
「す・・すまない、この場を壊してしまった」
「気にするな、誰も予想していない事だし私にも非がる・・・・・むしろ訓練に耐えられない訓練場など聞いた事が無い。
シャマルが補助として結界を張っていなかったらもっと早く壊れていただろう・・・・・だが、楽しかったな」
「ああ、全力を出したよ、もうマトモに動けない・・・もし勝ち負けを決めるのなら、今動ける方が勝ちかな?ちなみに私は当分は起き上がれないな」
「ならば引き分けだろう、私も動けん。これは間違いなくシャマルの世話になるだろうな・・・・だが本当に満ちたりた闘いだった、正直このまま眠りたい気分だ」
「同感だよ。今の疲れた体にはそよ風が心地いい、それに空がこんなにも綺麗なんだ、眠りたいと思うのは誰でも同じさ」
二人は仰向けの状態で空を見ながら会話をしていた。
双方とも誰が見てもボロボロで地面に大の字で寝転がっている。だがその表情は苦しみや悔しさは感じられない。
何かを成し遂げた満足感・・・否、思いっきり遊び、満足した子供の様な笑顔だった。
二人とも、雲が漂う空を見ながら、会話などで時を費やす。
そして会話も切れ、ただ疲れを癒すだけの二人に、徐々に睡魔が忍び寄ってきた。
「・・・・・ガンダム・・・一つ・・・提案があるのだが・・・」
「『先に眠った方が負け』かい?・・・・はは、自信が・・・・無い・・・・な・・・」
「私もだ・・・いかん・・・な・・・もしか・・・した・・・ら・・・先ほどの・・・戦い・・・よ・・り・・・そう・・ぜ・・・・つ・・・」
「こ・・・の状・・況・・で・・・眠る・・・な・・・と言う・・・・方が・・・・こ・・・くな・・・・・」
会話が途切れ途切れになり、徐々に声も聞こえなくなる。
心配したなのは達が駆けつけた時には、二人は見事に睡魔に敗北し、寝息を立てていた。


「なのはさんからの報告です、二人とも疲れて眠ってしまった様です。大きな怪我は無いようですが一応医務室に運ぶそうです」
「了解や。シャマル、一応メディカルチェック、御願いな」
『わかりまして、でもごめんなさい、結界だめでした』
「そんなことない、シャマルの結界やからあの程度ですんだんや。でもこれは訓練所の強化が必須やな・・・こなんじゃうちらも本気で訓練できへん」
『ははは・・・・・私も自分を鍛えないといけませんね、結界の質をあげないと。では、今から医務室ヘ向かいます』
通信を切り、軽く息を吐いた後、はやてはゆっくりと背もたれにもたれた。
二人の戦いをこの場で見ていたが、正直興奮しっぱなしだった。この興奮はなのはとシグナムの戦術披露会以来だろう。
純粋な騎士同士の決闘、シャーリーやアルト、ルキノは無論、生真面目で礼儀正しいグリフィスでさえ声を出し観戦していたのだ
興奮しなかった者、楽しめなかった者などいなかっただろう。
「シャーリー、この試合の録画パッチリやろな~」
「もう万全ですよ!ですけど本当に凄い試合でした!楽しめるだけでなく訓練用の教材にもばっちりですよ!!」
「それにガンダムさん、本当に見かけで判断していた自分が馬鹿でした、あのリミッターを解除したシグナムさんと互角に戦えるなんて、ルキノさんもそう思うでしょ?」
「ええ、シグナム副隊長相手に一歩も引かない闘いだった。純粋な戦闘ランクならガンダムさんはSクラスは固いですね」
「せやから言ったろ皆、ガンダムさんはむっちゃすごいんやって」
信頼している相手が褒めれるのはとても気分がいいものだ、ついニヤニヤしながらもシャーリーが流してる記録映像に目をやる。
「あ~・・・接近戦やったら私瞬殺かもしれへんな・・・・で、シグナムのライバルその2のフェイトさん、感想はいかがでしょうか?」
急にレポーターの様な態度で隣で試合を観戦していたフェイトに質問をぶつける。
突然質問を投げかけられたフェイトは、驚きながらも、素直に自分の感想を述べた。
「うん、本当に強いよ・・・・仮に戦う場合ならシグナムと戦う時の様な戦法で行かないと危ないね。見た感じ最大リーチが中距離に絞られてるし
長距離攻撃は少ない、尚且つ発動に時間がかかるだろうから、長距離砲撃による牽制、其処から攻めるかな。スピードによるかく乱も考えたけど
『シュランゲバイセン・アングリフ』を見事に切り払った胴体視力に反射神経の良さ、スピードに自信が無いわけじゃないけど捕らえられる可能性があるかもしれない。
兎に角、長時間の接近戦は絶対避けるね」
はやての質問に即答している事から、おそらく試合を見ながらも頭の中で『自分ならどう戦うだろうか』と考えていたのだろう。
むしろ握りこぶしを作りながら説明している時点で、直ぐにでも試合を申し込みに行きそうな感じがする。
「あ~フェイトちゃん、今のフェイトちゃん「次の相手は私だ!!」って言いたげな表情やよ。止めはせんけどすこ~し間を空けような」
おそらく・・・否、完璧に図星だったのだろう、言葉を詰まらせると同時に顔が一気に赤くなる。
そんな素直すぎる親友を可愛いと思いながらも、はやては次に隣で同じく観戦をしていたリインフォースに質問を投げかけた。
「ではでは、最近行われた戦術披露会でシグナムを負かしたリインフォースさん、貴方はどちらを応援していましたかぁ~」
フェイトと同じ質問をされると思っていたリインフォースからしてみれば、この以外は質問は彼女を混乱させるには十分だった。
「えっ・・・主はや(さぁ~どっちやぁ~!?」
否定をする事を許してはくれない、むしろこの『人をからかう事を楽しんでいる表情』をしている主から逃げる事は出来ない。
ならば正直答えよう・・・・だが、
「(・・・言えない・・・烈火の将を『一切』応援していなかった事など)」
無論、『双方応援していましたよ』といえば丸く収まる。
だが自分は嘘を付くのが苦手だ、それ以前に愛する主に嘘をつく事などできない。
それを分かった上で質問をしているのだろう・・・・・タチの悪い事この上ない。
「(予想はしとったよ・・・・ていうか、もうバレバレやって)」
リインフォースのあたふたした表情を見れば答えなど聞かなくても分かる、現に此処にいる全員が笑いを堪えるのに必至だ。
面白いから暫くはそのままにして置こうと結論付けたはやては、再び記録映像に目を向ける。
そして、フェイトと同じく『自分ならどう戦おうか』と考え始めていた。

 

「・・・ん・・・・あ・・・・」
先ほどまで安らかな寝息を立てていたナイトガンダムはゆっくりと目をあけ上半身を起こし周囲を見渡す。
今自分がいる部屋には見覚えがあった。此処にきた時リインフォースに案内された部屋だ、確か医務室の筈。
シャマルがこと細かく機械や設備の説明(途中から自慢全開)をしてくれたからよく憶えている。
ふと、頭が完全に覚醒したためか、今になって自分の隣のベッドからも寝息が聞こえている事に気が付いた。
「・・・シグナムか、となると、あの後自分たちは寝てしまった事になる。誰が運んでくれたんだろうか?」
規則正しい寝息を経てるシグナムを何気なく見つめる。先ほどまでの激闘が嘘だったかのような寝顔だ。
今此処にいるのは勇ましく強い烈火の将ではない、ぐっすりと眠っている一人の美しい女性だ。
「・・・・起こすのは酷だな・・・とりあえず此処から出よう」
そっとベッドから抜け出す、周囲に鎧や武器が見当たらないとなると何処かで保管されているのだろう。
その場所を聞くためにも先ず誰かに合う必要がある、だがナイトガンダムが出口に向かおうと一歩歩みだしたのと同時に医務室の扉が開き、シャマルが入ってきた。

「・・・・うん、大丈夫ね、体に異常話し、多少疲労が残ってるけど問題は無いわ。でもMS族って内臓器官関係は人間とさほど変らないから助かるわ」
「そうですか・・・ありがとう、シャマル」
深々と頭を下げお礼を言うナイトガンダムに、シャマルは笑顔で答える。
そしてガンダムの体を調べていたライトの様な機械の電源を切ると専用のケースにしまい、展開していた空間モニターをすべて閉じる。
突然機材の後片付けを始めたシャマルをガンダムは慌てて止めに入った。
「あの、シグナムの方は大丈夫なのですか?一応起こしたほうが」
「ん?ええ、大丈夫大丈夫、シグナムの方はガンダムさんが寝ている時にぱぱっとやっちゃったから。
ガンダムさんは一応MS族って事もあるから起きるまで待っていただけ・・・・・だけどシグナムったらね、可笑しいのよ」
あの時の光景を思い出したのだろう、堪えきれずにシャマルは笑ってしまう。
そんな彼女を困惑した表情で見ているナイトガンダムの視線に気がついたのだろう、軽く謝罪した後、『あの時の光景』について話した。
「あのね、二人が此処に運ばれて寝ていた時なんだけどね、直ぐにシグナムは起きたの。
それで隣で寝ている貴方を見た途端嬉しそうに『ふっ、勝った!!』って叫んだ後、また寝ちゃったのよね。
恐らく無意識に行った事みたいだけど・・・・全く、妙な所で子供っぽいんだから」
「そんな事か・・・・私は凛々しく、忠義を重んじる誇り高き騎士のシグナムしか知りませんでしたから新鮮です」
「そんな設定初期よ初期設定、今じゃ弄られキャラがやお色気担当が板についてるわ・・・っと、これ以上の失言は前回の様な悪夢を呼びそうだから止めましょう」
あの地球での惨事・・・今でも『自分はよく生きてたな~』と心から思う。本当に手加減がなった・・・マジで死ぬかと思った。
今思い出しても震えが止まらない、だからこそ忘れようと思う・・・いっそ自分の頭を弄ってみようかと本気で考えもした。
「あの・・・シャマル、大丈夫ですか?凄く顔色が悪いのですか」
「ええ・・・・・ちょっとね、トラウマを思い出したのよ。ふっ、ハーブティーでも飲んで心を癒してこないと、昔の様に暗黒面に・・・・・ってネガティブは駄目ね!!
さて、一人で問答してごめんなさいね、私は行くわ。一様疲労は残ってるからまだ横になっている事をお勧めするわ」
ゆっくりとパイプ椅子から立ち上がり、医務室の出口に向かう。
途中『ケーキもつけよっと!』と呟きながら部屋を出ようとするが、ふと扉の前で立ち止まり振り返る。
表情は笑顔だったが、なぜかナイトガンダムには『何かを企んでいる』笑顔に見えた。
「そうだ、ガンダムさん。貴方に会いたいって人が来てるのよ。一応部屋の外で待たせているけどどうする?今日は疲労も残っているだろうし、断っておく?」
「私にですか・・・いえ、大丈夫ですよ。何方ですか?」
その問いにシャマルは答えない、ただナイトガンダムを見据え微笑んだだけだった。
その意味が理解できないガンダムはどうしていいのか分からす、おなじ質問を繰り返そうとしたが、それより早くシャマルは医務室から出て行ってしまった。
質問する相手がいなくなってしまったため、どうしようかと考えようとするが、それよりも早く再び医務室の扉が開き、
新たな訪問者・・・シャマルが言っていたナイトガンダムに会いたい人物が入ってきた。

入ってきたのは管理局の制服の身を包んだ一人の少女だった。歳はスバルと同じ位だろう、長い紫の髪を持った少女が瞳に涙を浮かべながらこちらを見ている。
普段だったら何故泣いているのか?何があったのかと聞く所だが、ナイトガンダムは問いを投げかける事はしなかった。
その顔を見た瞬間思い出す、いつも自分と会う時は妹であるスバルを姉として嗜めていたしっかりした少女。
だが自分の姿に、備わっている力に妹以上に恐怖していた、だからこそあの時、自分は彼女達に力の使い方、そしてその持てる力を恐れないでほしいと伝えた。
その答えが今の彼女の姿・・・スバルと同じ時空管理局なのだろう。

「ギンガ・・・・ギンガ・ナカジマ、本当にひさしっ!?」
再会の挨拶をしようとしたが、無言で抱きついてきたギンガによって無理矢理中断させられてしまう。
流石にこのような展開は短い期間で何度も体験してしまったため慣れてしまった。
だが、自分が原因で泣かせてしまっているという罪悪感に慣れなど無い。
申し訳ない気持ちで一杯になりながらも、落ち着かせるために、優しく震える彼女の背中を叩いた。
「・・・・・ほん・・・とうに・・・・ほんとう・・に・・・また会えて・・・よかった・・・・」
肩を震わせ、てしゃくりあげながら喋るギンガだったが、ナイトガンダムの思いが通じたのだろう。体の震えも止まり、泣き声も聞こえなくなる。
そして震えも、泣き声も聞こえなくなった所で、ナイトガンダムはゆっくりと口を開いた
「ギンガ・・・・十年ぶりだね、大きく、そして美しく成長した」
「うん・・・・成長した姿、そして貴方に教えられた事・・・・自分の力を恐れず、人のために、正しく使う。
それが出来るようになった自分の姿を見てもらいたかった・・・・だから嬉しい、今の姿を貴方に見せられて・・・」
ゆっくりとガンダムから体を離す、瞳に溜まる涙を乱暴に擦った後、泣き顔を隠すかのように、正面から満面の笑みでガンダムを見据えた。
「でも、ガンダムさんに『美しい』って褒められると本当に照れます・・・・だけどそれ以上に一人の女性としてとても嬉しい。
色々話したい事は沢山あるけど、先ずは・・・・・おかえりなさい、ガンダムさん。私達に道を示してくれたナイト様」
ふたたびギンガはガンダムを抱きしめる。だが先ほどとは違い、温もりを感じるための抱擁。
その暖かさに、ナイトガンダムも自然と彼女を抱きしめていた。

積もる話は沢山あった、特にギンガは自分やスバルが進んだ道を詳しくナイトガンダムに話したかった。
だが医務室で長話は何だと思ったギンガは、ナイトガンダムの体調を聞いた後、皆もいるであろう食堂へと向かった。
途中起動六課で働いている隊員と出くわすが、その誰もがナイトガンダムに先ほど行った試合の感想を口にする。
単純に『凄かった』『かっこよかった』などの褒め言葉や『今度一緒に食事でもどうですか?』などの誘い、そして『奇妙な目で見て申し訳なかった』などの謝罪など様々。
それらをナイトガンダムは聞き流さずに足を止め、感謝の言葉や誘いの返答、『自分は珍しい存在だから気にしないでほしい』など、一人ひとりに律義に対応をしていった。
その結果、医務室から歩いて数分でつく食堂への道のりに数十分という時間を要してしまう結果となったが、
付き添っていたギンガは『やっぱりガンダムさんね』と内心で納得しており、待たされた事への苛立ちや不快感などは一切感じておらず
ナイトガンダムと話した人物やその光景を見ていた人達は彼の人柄や律義に対応する真面目さに、全員が好印象を持つこととなった。
「まさかこれほどの人が、私とシグナムの戦いを見ていたとは思っても見なかったよ。観戦者はなのは達だけだと言っていたから」
「私も見学していましたけど、あの闘いは沢山の人が見るべきだと思いますよ。純粋な観戦としても、訓練の教材用としても素晴しかったですから。
あとはやてさんが何も言わなかったのは、事前に『沢山の人が見る事になっている』って聞かされていたら、ガンダムさんが落ち着いて戦えないと思ったからだと思います」
「確かに、大勢の観衆の前で戦うのはどうにも苦手だな。気を使ってくれたはやてには感謝しないと」
「ふふっ、でも約束は破っているんですから、少しは怒ってもバチは当たりませんよ・・・さて到着です。みんなガンダムさんを待って」

                  ALERT ALERT ALERT ALERT ALERT

突如、けたたましいサイレンが鳴り響き、『ALERT』という文字が周囲に表示される。
それは非常事態が起きたことを意味し、ナイトガンダムとギンガの休息の終わりも意味していた。

・起動六課司令室

「東部海上に、ガジェットドローンⅡ型が出現しました!」
「機体数、現在12機、特に市外に向かう様子はなく、海上で先回飛行を続けています」
オペレーターのルキノとアルトが報告をし、詳細なデーターをグリフィスとはやてが展開していている空間モニターにリアルタイムで最新の情報と一緒に送信する。
二人ともガジェットの動きを監視しながらも周囲を検索し、怪しい者が無いか探し出すが、今の所漂流物の一つも見つかっていない。
「レリックの反応は?」
「・・・現状では付近に反応はありません・・・・・・船もありませんし・・・・漂流物も浮いていません」
「海上を旋回しているだけで、街や付近の施設に向かう気配も無いのですが・・・・このガジェットⅡ型、今までのデーターと検証しても機体速度がだいぶ・・・いえ、かなり早くなっています!」
己の存在意義を示すためか、新たな性能を実感したいのか、それとも自分達を監視している相手を挑発しているのか、
ガジェットはまるで自慢するかの様に海上をすれすれに飛んだり、直角飛行を繰り返していた。

 

「どうですウーノ姉様、ちょこっと玩具のエンジンを弄ってみましたの」
はやて達と同じ映像を見ている人物は他にもいた。
戦闘機人No.4クアットロと戦闘機人No.1ウーノ。今映し出されているガジェットを解き放った張本人達である。
鼻歌を歌いながら嬉しそうにキーボードを叩いているクアットロに対し、ウーノは冷静な視点でガジェットを観察する。
確かにクアットロの言うとおり、今海上を飛んでいるⅡ型の性能は上がっている。特に飛行速度は並みの航空魔道師を軽々追い抜くほどの速さだ。
だがレリックの反応はおろか、周囲に特別攻撃を行なう施設など無い・・・否、同じ空域で先回飛行を続けている時点で襲撃や回収などの目的は最初から無いのだろう。
だとすると目的はおそらく
「Ⅱ型の動作テスト・・・はオマケかしらね。メインは六課の魔道師の戦闘データー収集が目的かしら?海上、しかもこの性能なら隊長クラスが出てくる可能性が高い、確かによいデーターは取れるわ」
「ふっふ~ん、お姉さま40点。確かにお姉さまの言うとおりですが、それは今回の目的の一つに過ぎません・・・・メインは、これです!」
ウーノが展開していた空間モニターにデーターを転送する。そこに移されたのは見る限りでは最もポピュラーなガジェットⅠ型だった。
だがクアットロのあの表情、間違いなく何かがあるに違いない。
「この子は空の玩具とは別に海中を進んでいます、今回のメインはこの子ですからね、気付かれないように慎重に行かないと」
「随分慎重ね?このⅠ型にどんな隠し玉があるのかしか?」
「それは見てからのお楽しみですわ・・・・ただ言えることは2つ、1つは今飛んでるⅡ型はこの子から目を逸らさせるためのデコイにしか過ぎませんわ。
そしてもう1つは、今回の目的はデーターの改修ではなく『捕獲』を目的としている事ですわ」

 

「航空Ⅱ型、4機編隊が3体、12機編隊が1体、以前先回飛行を続けています!」
相変らず先回飛行を続けているガジェットの編隊、だが一向に目立った行動は起こさないでいた。
部隊長であるはやては補佐であるグリフィスと二言三言軽い意見の出し合いをした後、ルキノ達が送ってくるリアルタイム更新のデーターに目をやる。
結論から言えば、このガジェットの編隊は自分達を誘っている事にほぼ間違いない。
海上で、しかもスピードを強化されたガジェットを使っているのは、飛行でき、あのスピードに対抗できる隊長クラスの人間を引っ張るためだろう。
確かに今のフォワード組では空中戦は難しいし、他の武装局員ではAMF戦のスキルでもない限り、ガジェットの相手という時点で難しいだろう。
「さて・・・テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」
彼女がフェイトをこう呼ぶ時は、友という関係から上司と部下という関係に変更になった時である。
今は一人の優秀な執務官として、そして危険な現場で常に最前線で戦ってきている彼女の意見をはやては聞きかかった。
「犯人がスカリエッティなら、間違いなくここの動きや航空戦力・・・私達の戦闘データーを探りたいのだと思う。
この状況なら高町教導間の超長距離砲撃か八神部隊長かリインフォース一等空尉の広域魔法で一気に殲滅、という手段がベストなんだろうけど・・・・お勧めは出来ないね」
「正直どれも未だにリアルタイムでは披露していない物ばかり、見す見す新鮮で新しいデーターを披露するのはサービスよすぎやな。
正直、この程度で隊長達のリミッターを解除できいるとは向こうさんも思っとらんやろ・・・・高町教導間はどう思う?」
次にこの任務に最適であるなのはに意見を求める、だが長い付き合いだ、恐らく考えている事は同じだと思う。だがはやては『戦術教導間』であるなのはの意見を聞きたかった。
「此方の戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに片付ける・・・・・かな?一応ガジェット・・・スカリエッティにある程度
情報を出した人が適任だと思う・・・私とテスタロッサ・ハラオウン執務官・・・それに」

                             「私も同行させてください」

司令室の扉が開き二人の人物が入ってくる、一人は此処へ半休を使い遊びに来ていたギンガ・ナカジマ。
そしてもう一人は此処では客人としての扱いになっている騎士、バーサルナイトガンダム、彼は司令室に入って早々、自分も同行させてほしいと申し出た。
「・・・すみません、聞き耳を立てる気は無かったのですか、どうにも入るタイミングをつかめずに・・・・つい外から内容を・・・」
はやてが何故作戦内容を知っているのだろうかと聞くより早く、ギンガが申し訳ない表情をしながら理由を話す。
確かにギンガなら扉の向こうからでも自分たちの話は聞こえる、それを隣にいるガンダムに詳しく話したのだろう。


「ガンダムさん」
「私の戦闘スタイルはシグナムと同じ剣術、皆の様に凄い技を出すわけではないから相手も満足な情報を得られないと思う。
それに私がここにきた時に行ったスプールスでの戦闘、この時にある程度の技を出してしまったらね、私から得られる情報は殆ど無い筈だよ」
はやては無論、なのは達からしても彼のこの申し出は是非受け入れたかった。
シグナムとの模擬戦を見ていたグリフィス達も、ナイトガンダムの実力を知った今でははやて達と同じ気持ちだった。
皆が期待した表情でナイトガンダムを、そして決定権がある八神はやてを見つめる。
「(・・・・せやけど・・・・駄目や)」
もし彼がこの任務に加わってくれたらどれだけ助かることだろう、だがはやては首を縦には振らなかった。
その回答になのはとフェイトは『やっぱり』と言いたそうな表情をし、シャーリー達は『何故?』といいたげな表情ではやてを見つめる。
そしてその理由を凛とした声ではっきりと答えた。
「理由はガンダムさん、貴方が此処の部隊員で無いこと、それで十分や。確かに戦力としては魅力的ではある、せやけどお客さんに戦ってきてもらうわけにはいかへん」
これはは部隊長『八神はやて』としての理由。だが一人の少女『八神はやて』としての理由は別にあった。
全てを終らせ、再び此処へと帰ってきたのだ。もう彼には安息だけでいいのではないかと思う。
このままこの場所で地球での永住が受理されるまでゆっくりしていてもらいたい。
それに彼を任務やレリック、スカリエッテイ関係の事件には巻き込みたくは無い。
ナイトガンダムは闘いに此処へと来たのではないのだ、地球にいるアリサやすずかの思いを裏切りたくは無かった。
なのはとフェイトもおなじ気持ちなのだろう。はやての意見に口を出す事はしなかった。
だが、ナイトガンダムははやての言葉を受け止めた後、彼女の瞳を見つめ跪き、頭を垂れた。
「はやて、確かに君の言う通りだ、部外者である私が出るのは図々しい事だ、だが私も一人の騎士としてみんなの力になりたい。
私の力はそのためにあるのだと思うから。それに、これはアリサとすずかの願い出もあるんだ」
「アリサちゃんと・・・・すずかちゃんの・・・願い・・・」
「『もしはやてや皆が困っている時には力を貸してあげて』と言われたよ。だから・・・・部隊長八神はやて、もし私の力が不要だったら直ぐにこの場を去ろう。
だが少しでも私の力が必要だったら是非使っていただきたい」
ナイトガンダムの決意と思いを受け止めたはやては席を立ち、跪くナイトガンダムの正面に立つ。
一度左右にいる親友へと顔を向けるが二人ともおなじ表情をしていた・・・恐らく自分も同じ、『嬉しさから出る笑み』で彼を見ているに違いない。
「バーサルナイトガンダム、面をあげて」
「はっ!」
「起動六課部隊長、八神はやての名において、貴方に強力を求めます。これから現場に向かい、起動六課隊員と共に敵の迎撃、
そして、何より無事に帰還する事を必ず守ってください」
ゆっくりとしゃがみ、跪いているナイトガンダムの両肩にそっと両手を置く、そして正面から彼を見据え、言葉を続けた。
「これは部隊長八神はやてからの命令と同時に、月村すずか・アリサ・バニングスの友である八神はやての願いです・・・・聞き入れてくれますか?」
「御意!八神はやて、我が力、存分にお使いください」
「(ほんまカッコええな・・・・)それととても大事な事があります、けっして聞き逃さないでください」
そう言い、突如、笑みから否定を許さない表情になったはやてに、ナイトガンダムも自然と身構えてしまう・・・そして

            「お給料は出ないから、ボランティア精神全開で頑張ってきてぇな~!」

ナイトガンダムはこのとき確信した『どんなに地位が高くなろうとも、彼女はやはり皆の親友の八神はやて』なのだと。

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最終更新:2010年06月22日 19:12